ロシア軍は近く潰走か
2023.05.16


精鋭部隊も使い捨て、勝利を自ら捨てたロシア軍は近く潰走か

■ 1.兵器技術やバイブリッド戦でも敗北

 この間、ロシア軍の兵器は、米欧製のジャベリン対戦車兵器、HIMARS(長射程精密誘導ロケットシステム)、スイッチブレード自爆型無人機などの兵器によって、木っ端微塵に破壊されている。

 ロシア軍が、戦力で圧倒的に優勢だったにもかかわらず勝利できない大きな理由の一つは、報道にもあるように兵器の性能が劣っていることだ。

 また、脅威であると見られていたロシア軍の電子戦やサイバー攻撃などを含めたハイブリッド戦も、ことごとく見破られて、ウクライナ軍の防御的措置がとられた。

 ウクライナ軍に勝利できないもう一つの理由である。

 極超音速ミサイル次々撃墜(6発撃墜)

 ウクライナでは15日夜から16日未明にかけて、ロシア軍による多数のミサイル攻撃が確認された。

 現地メディアによると、ウクライナ空軍は極超音速ミサイル6発を撃墜したと説明。首都キーウ(キエフ)の当局者は「(ミサイル攻撃は)通常にはない激しさで、短時間で最大の数だった」と強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領が15日までの欧州歴訪で新たな軍事支援を得たことに対し、ロシアは警戒感を強めているもようだ。

 ウクライナ空軍によれば、16日未明に6発の極超音速ミサイル「キンジャル」を含む計18発のミサイルが北と南、東の各方面から撃ち込まれたが、「全て破壊した」という。キーウにはドローンや巡航ミサイルなどが飛来。市内では撃墜されたミサイルの破片などで建物や車が損傷し、負傷者が出たとの情報もある。

 一方、東部の激戦地バフムトの攻防を巡り、ウクライナ東部軍の報道官は15日、一部地域で「過去2日間で350メートル~2キロ前進した」と説明した。ただ、シルスキー陸軍司令官は「部分的な成功にすぎない」との見方を示している。

■ 2.戦争目的や目標を達成する覚悟なし

 米国の研究所などの情報をまとめると、ロシアの戦争戦略では、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政権を崩壊・屈服させウクライナをロシアの傀儡政権の国家にしたいという目的があった。

 そして、短期間にウクライナの全域あるいは首都を占領しようという戦争目標があったと考えられる。

 このための軍事作戦として、ベラルーシを含めたロシアとウクライナが接する国境の全域から攻撃を行った。

 作戦が上手くいくと想定した場合、ウクライナ全域を占領するというのであれば、両国の国境線約2000キロの全正面から同時攻撃するのは、当然採用される作戦だと考えてよいだろう。

 全域を占領する作戦が、上手くいかない可能性が高い場合の案としては、次の3つのうち、(1)~(3)の順に優先順位を決めて作戦することであったはずだ。

 (1)政権を転覆するためにキーウを占領する。

 (2)ロシア領内からクリミア半島までの回廊を確保する。

 (3)ドンバス地域を完全にロシア領にする。

 しかし、(2)と(3)だけでは、戦争目的・目標の達成とはならない。

 ロシアは、キーウ侵攻作戦が失敗に終わったため、早々に(1)を諦め、(2)クリミア半島までの回廊の確保と(3)ドンバスをロシア領にする作戦を採用した。

 これは、ロシア軍の現実的な戦力から判断すれば、やむを得ない判断だったのかもしれない。

 だが、この案を採用しても戦争目的・目標は達成されず、ウクライナの現在の政権が存続する間は、徹底的に抗戦される可能性は残ると考えたはずだ。

 ロシアは、キーウを占領することを諦め、ウクライナ政権の息の根を止めることに集中しなかったのだ。

 これが、ロシアが苦戦に至る遠因となった。

 今、振り返ってみると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は戦争目標であるキーウを早期に占領し、ゼレンスキー政権を潰して戦争を終結させるために、ロシア軍のすべての戦争手段を投入しなかった。

 その覚悟がなかったことが致命的であった。

■ 3.プーチンの誤算:軍の腐敗

 ロシアは、戦争目的・目標を重視して短期間に作戦を実行すべきであった。その理由を次に述べる。

 ミハイル・ゴルバチョフ氏が1985年、書記長に就任し、ペレストロイカ(ロシア政治体制の改革)の方針に基づき、ロシア軍の解体が始まった。

 ソ連邦崩壊後には、軍の解体に拍車がかかった。

 その後、ロシア兵に給与が払われなかったり遅配されたりが頻繁に起こるようになった。

 そのため、ロシアの兵器や弾薬は倉庫から盗み出され、海外に売られた。

 米国は当時、「ロシア軍は脅威ではなくなった」と発表した。また、「Soviet Military Power」(1981年発刊)というソ連軍の実態と脅威を紹介した米国国防情報局の報告書は廃刊にされた。

 約10年後に、プーチン氏が大統領に就いて、軍の健全化と即応態勢が部分的に回復したが、軍内に巣食った腐敗は残ったままだった。

 世界に恐れられた旧ソ連軍の軍隊には戻ってはいなかった。

 軍全体の軍紀が腐敗してしまい、10~20年かかっても回復できなかった。

 首都モスクワなどのウラル山脈の西側(欧州正面)では、回復が早かったのだが、中央から遠く離れた地方、例えばウラル山脈以東の旧極東軍管区や旧シベリア軍管区では回復させるのは難しかった。

 なぜなら、軍中央(総参謀部)の命令指示が行き渡らず、目が行き届かなかったからだ。

 プーチン氏は、中央の目が届くところや、近代化を進めていた戦略ロケット軍という近代化が進められた軍部隊を主に視察していた。

 また、モスクワで開かれる戦勝パレードで、精鋭の部隊や兵と装備を見ていただけなので、軍の腐敗した実態を把握できてはいなかった。

 ソ連邦崩壊前から始まったソ連軍解体と縮小、兵士への給与の未払い、兵器とその部品、弾薬の窃盗と横流しなどで、ロシア軍の規律・士気はどん底へと落ちて行った。

 2000年頃から少しずつ戻り始めたものの、ソ連軍解体前の強いロシア軍には戻ってはいなかった。

 特に、シベリア軍管区や極東軍管区では、兵器の墓場までできた。

 この軍の実態をプーチン氏が十分に掌握していれば、今の段階でウクライナを占領し、屈服させるという本格的な戦争を仕掛ける愚かなことはしなかったはずだ。

 これらのことは、防衛省・自衛隊の情報分析官として、旧ソ連軍やロシア軍、特に旧極東軍管区やシベリア軍管区を長年分析してきた筆者の知識に基づく結論である。

■ 4.精鋭部隊を早期に大量損失

 とはいえ、ロシア軍部隊の軍紀がすべて腐敗していたわけではない。

 空挺部隊、特殊部隊(スペツナズ)、海軍歩兵、モスクワなどの都市に所在するエリート部隊は、士気・規律とも優れていた。

 だが、これらエリート部隊や各部隊の百戦錬磨の兵士は侵攻当初から地上戦に投入された。

 現在までに、作戦の失敗と混乱で多くを失った。

 では、これらのエリート部隊は、どのように運用されたのか。

 通常、空挺部隊は敵の後方に降着し重要拠点の襲撃を行う空挺作戦を行い、特殊部隊(スペツナズ)は密かに潜入し重要施設や要人を襲撃する特殊作戦を行い、海軍歩兵は渡洋・渡河作戦時に戦闘をしつつ上陸作戦を行う。

 しかし、ロシア軍の侵攻作戦においては、陣地攻撃や陣地防御を担任する部隊として使われているのだ。

 つまり、これらの部隊の機能を生かさず、機械化部隊などと同様に地上戦闘に投入されているのだ。

 エリート部隊なので勇猛果敢ではあるが、地上戦闘には不向きな部隊であるために、損失は大きい。

 ロシア軍には、新たに徴収した兵員は十分にいる。

 だが、新兵たちは実際に戦理に合った戦い方ができるかというとそうではない。戦いでは、かえって足手まといになってしまう。

 ウクライナ軍とロシア軍は、約700キロという広大な接触線で対峙して戦っている。ロシア軍は、実際に戦える兵員が不足している。

 空挺作戦・上陸作戦・特殊作戦に使う予定がないのであれば、機甲部隊を主体とした攻撃や防御においては、予備の部隊として使われるのが、軍事作戦上からすれば戦理に合っている。

 やむを得ず空挺部隊などを機甲・機械化を主体とした攻撃・防御部隊として投入しているのだ。

 ロシア軍の部隊は、その役割に応じた運用がされず、エリート部隊の誇りもなく投入されている。結果、これらの多数が無駄死にさせられた。

■ 5.戦術なきロシア地上軍

 このような中、現在どのような戦い方を行っているのか。

 ルハンシク州やドネツク州で攻撃しているロシア軍部隊は、それぞれの地域において、ウクライナ軍部隊の陣地に対して、戦術もなくただ単に攻撃しているだけだ。

 そして、何度も何度も同じ攻撃を繰り返しては、撃退されている。

 プーチン氏に「ルハンシク州やドネツク州の境界まで占領せよ」と言われて攻撃しているのだから仕方がない。

 ロシア地上軍は、砲弾などから守られた陣地から出て、攻撃前進するような単純な攻撃を行っている。

 そのため、ウクライナ軍に発見されてまず砲撃を受け、対戦車ミサイルで攻撃され、接近すれば、手榴弾や機関銃などで殺傷される。

 次から次へと大量の犠牲を出しているだけだ。

■ 6.ワンパターンな二重包囲攻撃

 ロシア地上軍は、ドネツク北のバフムトやアウディウカの市街地で、どのような攻撃を行っているのか。

 この2か所では、市街地で守るウクライナ軍をロシア軍が歴史的に採用してきた左右からの挟撃(2重包囲作戦)と正面突破攻撃を何度も繰り返している。

 ロシア軍は、ルハンスク州からヘルソン州までの両軍の接触線の中で、最も兵力を集中させて攻撃しているが、多くの犠牲を払っている。

 ロシア地上軍の二重包囲攻撃イメージ

 (図が正しく表示されない場合にはオリジナルのJBpressサイトでお読みください)

 これらが成功しないとみると、左右からの挟撃している部隊を撤収し、正面攻撃に転用している。

 多くの犠牲を払っても、次から次へと攻撃を繰り返している。

 囚人を加入させた傭兵部隊なので、死傷しても構わないという考え方なのだろう。

 ここには戦術はない。大量の砲弾を撃ち込んで、そして傭兵に攻撃前進させているだけだ。

 もしも、この地を必成目標として占拠したいのであれば、他の正面を犠牲にしてこの地に戦力を集中すべきだろう。

 また、包囲攻撃するのであれば、2重包囲ではなく、ウクライナ軍が最も弱い部分を見つけ出し、兵站連絡線を止める地域の1か所に集中して攻撃する方が効果的だ。

 だが、いつも同じパターンで攻撃している。

 戦闘力を集中して行う包囲攻撃イメージ

■ 7.弾薬が枯渇して敗北へ

 戦術で敵を混乱させるのではなく、火砲弾薬を多く撃ち込んで破壊するというのが、ロシア軍の戦い方だ。

 戦術を考案するのではなく、力を信奉しているのだ。戦力、すなわち物量で勝利するというのがロシア軍の戦い方だ。

 これも一つの戦法ではあるが、その物量は無限ではない。

 ウクライナ軍砲兵に破壊され、枯渇してくれば、戦場で敗北の道をたどる。

 米国統合参謀本部議長が、「ロシア軍には戦略・戦術がない」と話したことがあるが、現在戦っている地域の戦い方には戦術がなく、参謀本部議長の発言通りだと思う。

 このように、戦術もなく隣接部隊との協力もなく、いつものワンパターンで攻撃すれば、いずれ砲弾や兵器も枯渇する。

 その時、ウクライナ軍が優れた兵器を保有し、態勢を整えて戦略・戦術を駆使して反撃を開始すればどうなるであろうか。

 ウクライナ軍は、ロシア領内の軍事工場、ロシアが不法に占拠している地域では、作戦全般に影響する兵站施設を破壊している。

 また、軍の戦闘に直接影響する砲兵や弾薬庫も破壊し続けている。

 したがって、防御ラインの前方に設定しているロシア軍の火力ポケットは、十分に機能しないかもしれない。

 5月に入ってからは、直接攻撃するロシア軍第一線防御陣地へ砲撃も開始した。

 ウクライナ軍はロシア軍を混乱させ、戦闘能力を十分に発揮させない戦術を採用し、反攻するだろう。

 いったん防御ラインを突破されれば、ロシア軍は防御の弱い部分から瓦解して行くだろう。

 その場合、突破されたところへ新兵主体の予備部隊を投入し、突進するウクライナ軍に対して反撃(逆襲)することは、極めて困難であろう。

 なぜなら、ロシア軍の予備部隊や予備の兵器は、ほとんどなくなっているからだ。
2023.05.16 18:46 | 固定リンク | 戦争

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