藤井の一手「王将戦」
2023.02.09


藤井の一手「人間には指せない」検討陣驚嘆 王将戦、1日目から激戦

 第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第4局(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社主催)は9日、挑戦者の羽生善治九段(52)が▲4五桂(51手目)と決断の一手で攻勢をかけ、1日目午前から激しい戦いに入った。羽生九段の▲7三角(61手目)に対し、藤井聡太王将(20)は57分の長考の末に△6一銀と守った。この手を見て、解説の佐々木大地七段は「人間には指せない一手」と驚嘆した。

 ▲7三角は▲6二歩成の攻めを狙った手で、通常であれば価値の高い銀を温存し、△6一歩と打つのが第一感だが、「▲2四歩△同歩▲同飛から攻める手順があり、羽生九段の攻めが続く」と佐々木七段。△6一銀は実はAI(人工知能)推奨の一手で、「先手に攻めさせて持ち駒を増やし、△6五歩などから反撃を狙っている。羽生九段もゆっくりできない」という油断ならない一手だという。

 立会の森内俊之九段は「先手が8八玉・7八金型なら、藤井王将に有効な攻め手がないので△6一銀は考えるが、7八玉・6八金型だと銀を使ってしまう手は浮かびづらい」と、“人間離れの一手”の見方に同調した。
2023.02.09 18:22 | 固定リンク | 囲碁将棋
藤井聡太王将が2勝目=2勝1敗に
2023.01.29


藤井聡太王将が2勝目 挑戦者・羽生善治九段との“金沢対局”を制する シリーズは2勝1敗に/将棋・王将戦七番勝負第3局

 将棋の囲碁将棋チャンネル 第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第3局が1月28・29日の両日、石川県金沢市の「金沢東急ホテル」で行われ、藤井聡太王将(竜王、王位、叡王、棋聖、20)が挑戦者の羽生善治九段に95手で勝利し、2勝1敗と白星を先行させた。将棋界のスーパースター同士が激突する大注目のシリーズ。次戦、第4局は2月9・10日、東京都立川市の「SORANO HOTEL」で指される。

 歴史的建造物や豊な食文化、伝統芸能が魅力の文化都市・金沢対決は、令和の天才・藤井王将に軍配が上がった。本局は第1局で先勝を飾った藤井王将の先手番。羽生九段は出だしで角道を止め、居飛車・振り飛車両方の可能性を示唆した。「相手の出方次第という感じでしたが、この作戦は両方見せながら駒組みを決めるということ」と出だしから絶対王者に揺さぶりをかけた。

 藤井王将は、「(居飛車・振り飛車の)どちらにも対応できる手を考えながら指していました」。細かな駆け引きののちに、羽生九段は「まだ未解決の部分もあるのかなと思って」と雁木模様に。藤井王将は急戦を仕掛けてねじり合いへと進行した。

 超難解な中盤戦に突入すると、藤井王将が長考を重ねて緊張感を漂わせた。羽生九段が前日に封じた50手の開封で対局が再開されると、盤上はより一層緊迫していく。羽生九段は、藤井王将の攻撃をかわすように中段へと玉を上げた。終局後には「自陣にいっぱい駒がいるので、入玉というよりはちょっと攻めを緩和するという意図で指していたんですけど、なかなかまとまりきらなかった気がします」と振り返った羽生九段。強く攻勢に出た藤井王将がペースを掴むと、幅広い選択肢の中から慎重に指し手を選び、リードを拡大させていった。

 じわじわと劣勢に追い込まれた羽生九段も、連勝を目指すべく簡単に折れる訳にはいかない。随所で工夫を見せ、終盤では先手の桂馬に狙いをつけ反撃を繰り出したが、藤井王将は揺るがず冷静。緩急自在の指し回しを見せた藤井王将が押し切り、2勝目を手にした。

 快勝を飾った藤井王将は、「角と金を交換したあたりがどういう構想で指すのかが非常に難しくて、わからないところの多い将棋だったなと感じています」と総括。敗れた羽生九段は、「封じ手が良い手ではなかったかもしれないです。ただ、代わりに何をやるというのは難しいので、あの辺のまとめ方に問題があったように感じます」と振り返った。

 シリーズは中盤戦へ。第4局の開催地、東京・立川は藤井王将が前年に王将位奪取を決めた思い出の地だ。次局で初防衛へ王手をかけたい藤井王将は、「第4局の前に何局か対局があるので、それらの対局も含めて状態を維持して第4局に臨めるようにしたいなと思います」、先手番で再び追きたい羽生九段は「気持ちを切り替えてまた次に臨みたいと思います」とそれぞれ次戦を見据えた。

 藤井王将は、中2日の2月1日には順位戦A級8回戦で永瀬拓矢王座(30)戦、さらに2月5日からは渡辺明棋王(名人、38)に挑戦する棋王戦五番勝負が開幕と重要対局が目白押しとなっている。ますます混戦が予想されるシリーズから目が離せない。

2023.01.29 18:16 | 固定リンク | 囲碁将棋
王将戦七番勝負「藤井聡太1勝」
2023.01.15

「なんなんだこの2人は…」藤井聡太-羽生善治、2日間にわたる“世紀の決戦”後にプロ棋士を驚かせたこと

 1月8日、藤井聡太王将-羽生善治九段の第72期ALSOK杯王将戦七番勝負が開幕した。

 会場となった静岡県掛川市の掛川城で観戦してきたので、現地の様子を交えて歴史的な一戦をレポートしたい。

ここぞというところで結果を残してきた戦法

 後手番となった羽生が選んだのは、王将リーグを全勝したときの原動力である横歩取りではなく、1手損角換わりだった。しかも本局の8手目角交換タイプは、2019年12月の三枚堂達也七段との朝日オープン戦以来、まる3年ぶりだ。藤井は局後に「想定はしていなかった」と語った。

 一方、羽生は「まだ可能性もあるのかなと思ったので。いろんなことを試みる中の一環で、やってみました」と語っている。羽生にとっては60局近くも採用し、タイトル戦の舞台だけでも19局も登板させている。ここぞというところで結果を残してきた戦法だ。経験の差で勝負しようとした。

 藤井は1手損対策で最有力とされている早繰り銀を採用。藤井といえば腰掛け銀だが、早繰り銀も永瀬拓矢王座との王位戦挑戦者決定戦と豊島将之九段との竜王戦七番勝負で採用しており、似た形の経験はある。

 だが、羽生は秘策を用意していた。38手目、前例の自陣角ではなく飛車取りに銀を打つという新手だ。さらに藤井の金をあえて玉側に移動させ、空いたスペースを垂れ歩で狙う。藤井は76分、70分と連続大長考に沈む。藤井の持ち時間を削り、後手番ながら中盤戦を互角に乗り切った。

「歩が下がり、歩が消える」

 2日目、藤井は再び時間を使い、敵陣に銀を打ち込み、飛車を金桂と交換して猛攻する。

 私は世紀の対決を生で見るべく掛川におもむき、立会の久保利明九段、副立会の神谷広志八段と検討する。「藤井の桂」が駒台に乗ったことで検討も弾む。飛車取りに桂を打たれては勝負は終わると、どう桂打を防ぐかを検討する。調べている内に、直感で浮かぶ手が思わしくなく、逆に人間には指しにくい手が正解となることが多いことがわかる。これは難しい将棋だねと皆がつぶやく。

 昼食休憩後、羽生はもっとも指しにくいとされていた手を指す。

 歩を交換して元いた場所の下に歩を打ち、桂を打つマス目を埋めたのだ。

 これは1994年6月米長邦雄名人との第52期名人戦第6局で披露し「歩が下がる」と呼ばれて話題になったテクニックだ。羽生はこの将棋を勝ち、23歳で名人位を獲得した。

 だが藤井も負けてはいない。自分の玉頭の歩を捨て、盤上から歩だけを消滅させ、空いたマス目に桂を打つ。

 囲碁・将棋チャンネルで解説していた森内俊之九段にも「見たことがない手筋ですね」と言わしめた妙手順だ。

羽生は“人間には指しにくい勝負手”を放つが…
 歩が下がり、歩が消える、なんと見事な技の掛け合いだろうか。そして、羽生が桂跳ねを防いで銀を引いたところがクライマックスだ。このまま藤井が先手先手で攻めると思いきや、自陣の左桂を跳ねて力をためたのだ。

 飛車を捨てて猛攻しながらここで手を渡すとは。だが指されてみると次の桂跳ねがとても厳しい。斜めに配置した2枚の桂が強烈な存在感を放っている。羽生は63分の大長考で、角を打って盤上の桂と交換し、取った桂を金取りに打つという、これまた人間には指しにくい勝負手を放つ。だが、藤井はわずか5分で桂を中央に跳ね、ここで勝負あった。

 羽生はあえて金を取らずに攻め合いに出たが、藤井の寄せは正確無比だった。角を立て続けに打ち、あの桂が天使の跳躍をして敵陣に成り込み、最後は角の王手に桂を温存して銀を犠打して終局。投了図の羽生玉には金を取って、桂を打ち、歩以外余らない詰みがある。藤井の寄せは、まるで詰将棋かと思うように美しい。

 新手の銀打ち、歩の垂らし、歩が下がる、角桂交換して手番を握る、羽生は持てる技を出して戦った。藤井の桂のマークも外さなかった。だが終盤に入ってから自陣の桂が三段跳びしてくるところまでは捕捉できなかった。

感想戦は1時間を超えても楽しそうに続く

 2人は大盤解説会場で挨拶した後感想戦に。羽生は盤面を鋭くにらみ、藤井は扇子をクルクルさせ、何度もまばたきをする。タイトル戦の初戦となれば、軽く流すのが普通だが、感想戦とは思えないほど真剣に読んでいる。31歳9ヶ月差という年齢の壁を超えて将棋の真理を追求しようとしている。

 藤井は一回まばたきするたびに、扇子を回転させるたびに、10手は読んでいるだろうか? 2日間脳をいじめにいじめ抜いたはずなのに、なんなんだこの2人は。

 特に羽生の姿を見て驚いた。2022年3月A級順位戦で広瀬章人八段に競り負け、感想戦で疲れ切った顔をしていたのとは別人のようにはつらつとしている。私たちの羽生善治が、2年ぶりにタイトル戦の舞台に戻ってきたのだ。

 感想戦が1時間を超えても楽しそうに続くのを見て、ふとサッカーワールドカップのスペイン戦でゴールを決めた田中碧さんがテレビの対談で語った言葉を思い出した。



「楽しいって、スポーツだけに限らず一番強いですね」

 できることならば2人の戦いをずっとずっと見ていたい。
2023.01.15 12:56 | 固定リンク | 囲碁将棋

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