猫の気持ち
2023.12.31
「猫も人間が好き。ただ犬より愛情表現が分かりにくい」最新科学が解き明かす猫の本当の気持ち

猫は社会性がなく冷淡なイメージだが、本当は飼い主のことをどう思っているのか?犬との比較研究や実験による新たな発見から、猫の真実と上手な付き合い方が見えてきた

動物行動学者のペーテル・ポングラッツは4匹の猫──クッキー、スシ、クランブルズにスティンキー──と暮らしているだけあって、猫のミステリアスな心を解き明かすための研究テーマには事欠かない。

ペットとして世界で人気第2位の猫は、人間に対してどんな感情を抱いているのか。飼い主のことをどう思っているのか。

とはいえ謎の解明を手伝ってくれる忍耐強く意欲的な大学院生は、そういない。

人間にいい子だと褒められ、ご褒美の骨をもらうためなら何だってする犬という研究対象がいるとなれば、なおさらだ。

ハンガリーのウトブス・ロラーンド大学で教鞭を執るポングラッツが研究の難しさを思い知ったのは、2005年のことだった。

猫を研究室に連れてきてもらったところ、たちまち空調設備のダクトから壁の後ろに潜り込んでしまったのだ。

飼い主の必死の呼びかけもむなしく猫は姿を表さず、研究チームは夕方までかかって壁を解体した。猫の研究に挑戦したがる大学院生を再び見つけるのに、ポングラッツは10年余りを要した。

「私はとにかく猫に夢中で、猫の研究ができると聞けば見境なく飛び付く」と、ポングラッツは言う。

「アイデアはいくらでもあるが、一緒に猫を研究してくれる学生はなかなかいない」

数年前、彼はためらいつつも「猫の認知研究」に復帰した。研究室の壁の裏に「被験者」が消える事態を防ぐため、猫のいる場所にこちらから出向くことにした。

まずは飼い主にアンケートを実施。

「あなたの猫はほかの猫の鳴き声をまねしますか?」「あなたの猫には共感能力やコミュニケーション能力があると思いますか?」「どの程度の理解力があると思いますか?」といった質問をした。

アンケートの集計が終わったところで、ポングラッツは学生たちを猫が住む家に派遣し、実際の行動を観察させた。

■犬より愛情表現は複雑だが

こうして18年に発表した論文は、人間と良好な関係を結ぶ猫の能力に新たな光を当てた。

研究結果によれば猫は驚くほど巧みに人間の視線を追い、人間の意図を推し量る。

室内飼いの猫と外飼いの猫では生活様式の違いから、認知に大きな違いが出ることも明らかになった。室内飼いの猫はボールなどの人工物を使った遊びに、外飼いの猫よりはるかに強い興味を示した。

ポングラッツの論文は、この5年間に相次いで発表された猫の認知をめぐる研究結果の1例だ。

猫は尊大で気まぐれだから研究対象としては手が焼ける。それでもここへきて、猫の研究は盛り上がりを見せている。

長いこと猫の研究は、ペット界のトップスターである犬の後回しにされてきた。昨今のブームには、1990年代~2000年代に行われた犬の認知研究に刺激された面もある。

90年代以来、犬の内面を調査する研究施設が世界各地で誕生した。

研究者たちは人間の感情やシグナルを読み、抽象概念や社会力学を理解する犬の能力を測定し、人間との関係の核となる「犬は本当に私たちを愛しているのか」といった問いに答えを求めた。

近年になって猫を愛する新世代の研究者が犬の実験手法を借用し、その成果をヒントに研究に着手。猫にまつわる誤解を解き、飼い主を悩ませてきた疑問に答えを出している。

孤独が好きで人間が嫌いというイメージとは裏腹に多くの猫が複雑な社会集団の中で生き、人に対して深い愛着を抱く能力を持っていることが分かったのも、こうした研究の成果だ。

また猫は一般に思われているよりずっと賢い。

多くの個体が自分の名前を理解し、飼い主の声を聞き分け、顔を認識する。家の規則やスケジュールを覚え、人間が発する複雑なシグナルや初歩的な指示を理解し、限られた情報から結論を導き出す。

何より猫と人間の絆は双方向で、人間の思い込みではなく本当に存在し、長続きすることを示す証拠が次々に出ている。

研究によれば、猫は人間に好意を持っている。それどころか、私たちを愛している。犬に比べて愛情表現が分かりにくいだけなのだ。

犬をかわいがるのは簡単だ。犬はあふれんばかりの愛で私たちを圧倒する。抱き付き、顔をなめ、尻尾を振り、無視されれば眉根を寄せたりクンクン鳴いたりして、私たちといるのがうれしいことを表現する。

一方で、人間と猫の関係はそう単純ではない。

なで回されたり耳の後ろをかかれたりしても、一部の猫はじっと我慢するだろう。だが猫というのは得てして偉そうで、私たちの愛情に無関心に見える。まるで自分たちのほうが飼い主で、少しでも関心を向けてもらえるならありがたく思えと言わんばかりだ。

しかも飼い主が旅行で留守をしたりすると、腹いせにソファに小便をする。腹がすけば、悪魔のような手口で寝ている飼い主を起こそうとする。コップを倒し、飼い主に水を浴びせる猫の動画を、YouTubeで見たことがあるかもしれない。

それでも猫は犬と同じように人間の家庭生活の奥の奥まで入り込み、家族の一員となることに成功した。この能力自体が大がかりな研究に値する。

22年の1年でアメリカ人はペットの飼育に1368億ドルを費やし、そのかなりの部分が猫に使われた。

現在ペットとして飼育される猫は世界におよそ2億2000万匹おり、そのうちの5880万匹がアメリカで暮らす(犬の飼育頭数は世界で4億7100万を超える)。

猫がそのカリスマ的な魅力で人の心をつかんだ証拠は、有史以来残っている。

04年にキプロス島で9500年ほど前の墓地を発掘したところ、生後8カ月の小猫と一緒に埋葬された成人の墓が見つかった。キプロスにもともと猫はいなかったから、船で連れてこられたのだろう。

■1万年以上前から人間と同居

古代エジプトでは、人間と猫の特徴を併せ持つ女神バステトが崇拝されていた。

バステトは太陽神ラーの娘で、その信仰の中心地だったナイル川デルタの都市ブバスティスの遺跡では、猫のミイラや猫の彫刻が多数発見されている。古代エジプトの建物には、猫の装飾が施された柱も多い。

猫は不思議な力を持つ生き物と考えられていた。

人間と猫が同居するようになったのは、少なくとも1万2000年前のことだと、米ミズーリ大学獣医学部のレズリー・ライオンズ教授は語る。

メソポタミア地方の氷河が解けて、チグリス川とユーフラテス川流域の肥沃な三日月地帯で農耕文明が生まれると、人々は定住するようになった。

やがて農作物やゴミの集積場所がネズミを引き寄せ、ネズミが猫を引き寄せた。

このプロセスは、猫と人間の関係が、犬と人間の関係とは異なるものになった理由を説明している。

初期の犬は、餌として人間の残飯をもらわなければならなかったから、人間の心をつかむ能力にたけた種が生き残った。

また、狩猟採集民は狩りを手伝ってくれる犬を重宝した。こうした環境が、現代に至る犬の進化や淘汰に影響を与えた。

これに対して初期の猫は、人間の生活圏の周縁で、人間の邪魔をしないように獲物を捕獲することで生き残った。

その一方で、犬よりも体が小さく、群れをつくらない性質から、オオカミやコヨーテ、ワシ、フクロウ、アライグマなどに捕食されやすかった。

だから猫は犬よりもずっと警戒心が強い動物に進化したのだ。好奇心が強いけれど、用心深く、不透明な状況ではひとまず身を隠す。

ポングラッツが研究しようとした猫が、空調設備のダクトに逃げ込み、出てこようとしなかったのもそのためだ。

こうした生来の臆病な性質は、人工的な交配により克服できる場合がある。それでも、人間が石器時代から犬を飼育して望ましい性質を伸ばしてきたのに対して、猫を訓練するようになったのはごく最近だ。

現在も猫は「半家畜化」されたというのがせいぜいだろう。

■人間の赤ん坊にそっくりの声

ではなぜ、猫はペットとしてこれほど好まれるようになったのか。

それは猫が、人間が生来的に持つ親としての愛情に訴えるからだと、米ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)の進化生物学者であるジョナサン・ロソス教授(生物学)は考えている。

その証拠として、ロソスはイギリスの研究チームが09年に行った実験結果を挙げる。

それによると、10匹の猫がさまざまな場面で発した鳴き声を録音して、50人の被験者に聞かせたところ、彼らは猫が食べ物を欲しがっているときの鳴き声と、それ以外のときの鳴き声を区別できたという。

詳しく調べてみると、食べ物が欲しいときの猫の鳴き声は、周波数が220~520ヘルツで、人間の赤ん坊の泣き声と同レベルだった。

「人間は遺伝子的に、赤ん坊の泣き声を聞くとそちらに注意を向けるようにプログラムされている」と、ロソスは解説する(関連記事)。

猫の顔は人間の赤ん坊のように、鼻が小さくて両目とも前方を向いている(これに対して、ほとんどの家畜の目は側面を向いている)。

また、大人の飼い猫は体重が平均4~4.5キロと、やはり生まれたばかりの人間の赤ん坊の体重3400グラムに近い。

もちろん、「私が猫を愛してやまないのは、人間の赤ん坊と似ているからじゃない!」と主張する人は多いだろう。

米ユニティ環境大学(メーン州)のクリスティン・ビターリ助教(動物衛生・行動学)は、猫はマイペースというイメージを抱かれがちだが、一般に思われている以上に人間の愛情を勝ち取るのがうまいと語る。

ビターリは長年、「猫は社会性が乏しく、しつけもできないし、頑固で、冷淡だ」という猫嫌いの人たちのコメントに驚いてきた。彼女自身の経験とは大きく異なるからだ。そしてこの10年ほど、猫は反社会的で犬ほど賢くないという誤解を正すための研究に励んできた。

ビターリはオハイオ州ケントに住んでいた7歳くらいの頃、ほぼ毎朝キッチンの床に座って、ゴールドベリーという名前のアメリカン・ショートヘアと一緒にフレンチトーストの朝食を取っていたという。

どこへ行くにもゴールドベリーは付いてきた。黒毛と灰色の三毛猫メイシーも、いつもビターリを探し、擦り寄り、なでてもらいたがった。

ビターリは14年、米オレゴン州立大学大学院で犬の認知研究で知られるモニーク・ユデル助教の研究室に参加した。

そして、猫が飼い主の傍らで過ごす時間を測定するというシンプルな方法によって、猫は犬よりも社会性が乏しいという誤解を打ち砕くことにした。

「犬と同じく個体差はあるが、猫も極めて社会的に振る舞うことが分かった」

■飼い主を見ると不安が軽減

さらにビターリは19年の研究で、猫も犬と同じように、飼い主との間に人間の親子のような愛着を形成する能力があることを示した。そのために使ったのは「安心基地テスト」と呼ばれる手法だ。

具体的には、猫と飼い主を実験室に入れた後、しばらくして飼い主だけ退室させ、2分たったら再び実験室に戻ってもらう。その間の猫の行動を観察するというものだ。

すると約66%の猫が、犬や人間の赤ん坊と同じように、飼い主に愛着があることを示す行動を取った。

まず、飼い主と一緒に実験室に入ったときは、部屋の中をあちこちを探りながら、時々、飼い主のほうに視線を送って安心を求めた。やがて飼い主が退室すると、急に緊張や動揺を示す。

ところが飼い主が戻ってくると、瞬く間に緊張は消えた。

つまり、飼い主に愛着を抱くようになった猫は乳幼児と同じように、自分の世話を主にしてくれる人の姿を見るだけで不安やストレスが軽減されるのだ。

愛着は、重要だが限られた発達段階に形成される。脳の発達に重要なこの時期に人間との接触を与えられなかった猫は、人間との交流に対する抵抗がはるかに強くなる。

猫と人間の絆にとって非常に重要な時期でもあり、家畜化が永続的な遺伝的変化をもたらした数少ない分野の1つだと、ポングラッツは言う。

その期間は野生種の猫で約2週間、家畜化された猫で約2カ月続く。

ポングラッツらが05年に行った実験の目的は、猫の飼い主の大半が日頃から思っている疑問に答えることだった──自分の猫は本当はどこまで理解しているのだろうか?

その答えを探るために研究者たちは、人間や霊長類の発達心理学の分野でよく知られている実験を利用した。

この実験は複数の容器の1つに食べ物を隠してから、動物を部屋に入れて、どの容器に食べ物があるかを当てさせる。その際、研究者は正解の容器を見つめたり、うなずいたり、指差したりなど、さまざまな合図を動物に送る。

合図に正しく反応するためには、動物は頭の中で複雑な計算をする必要がある。このとき、指を差す人が自分を助けようとしていることを理解していると考えられる。

人間の乳幼児がこのような合図に従う能力が発達するのは早くても生後4カ月、おそらく9カ月くらいからで、これは人間のコミュニケーションの発達の大きな節目でもある。

猿やチンパンジーの場合は、徹底した訓練なしにこの能力が発達することはほとんどない。

もっとも、答えを見つけるのは難しかった。研究チームのメンバーが飼い主の家に行くと、猫たちは見知らぬ人を前に椅子の下で固まったり、協力を拒んだりした。実験を数回やったら興味を失う猫もいた。

苦労して集めた結果は奥深いことを示唆していた。

猫は乳幼児のように、あるいは猫と同じく人間の家庭で生き延びることに成功した唯一のペットである犬のように、指差しの合図に反応して隠された食べ物を見つけることができたのだ。

ポングラッツらが18年に発表した研究結果によると、70%の猫が人間の視線を追って、隠された食べ物を見つけることができた(研究チームは85匹の飼い猫の家を訪問し、そのうち44匹は最初は協力を拒んだり、24回繰り返した実験の途中で飽きてしまい脱落した)。

「犬はより社会的で、猫はより独立性と自律性がある」と、ポングラッツは言う。

「しかし、犬も猫も人間と一緒に暮らす能力を身に付けた。正式な訓練を受けなくても、一緒に暮らしている特定の人間の家族やグループの主なルールをすぐに覚えることは、猫と犬の基本的な特徴だ。私たちは一緒に暮らしながら、常に言葉やジェスチャーでコミュニケーションを取っている。そして、彼ら動物は私たち人間にとても注意を払っている」

猫が社会的知性を持つという証拠は近年、着実に積み重ねられている。

京都大学の高木佐保(現・麻布大学獣医学研究科特別研究員)らのチームが21年に行った実験では、飼い主もしくは知らない人が名前を呼ぶ声を録音して猫に聞かせた後に、顔写真を見せた。

すると、飼い主の声の後に知らない人の写真、あるいは知らない人の声の後に飼い主の写真という一致しない組み合わせの場合、猫は写真をより長く見ていた。これは、猫の頭の中に飼い主の視覚イメージがあることを示唆している。

実験ではさらに、部屋の複数の場所に設置したスピーカーから飼い主の声を流したところ、声が予想以上に早く室内を移動すると、猫は周囲を見回したり、耳をピクピクさせて驚いたりした。

これは彼らが注意深く耳を傾け、飼い主がいるはずの場所をイメージできることを示唆している(これらの猫には嫉妬する能力もあり、「飼い主が以前になでていた柔らかいおもちゃの猫に、より強く反応した」という)。

■「子犬のような目」ができない

拒絶されるのはつらいものだ。猫が何かと物議を醸すのは、そのせいもあるのだろう。

私たちが仲良くしようとする誘いに、猫は無関心だったり、怯えたり、攻撃的に反応したりすることも少なくない。

多くの人が猫に何回も拒絶されて、自分は猫に好かれていない、わざわざ手をかけてやる価値がないと諦めている。

犬は私たちの関心を引こうと必死になるのに、わざわざこの気まぐれな毛玉の世話をしなくてもいいだろう、と。

猫がいわれのない非難を受ける理由の1つは、単純なコミュニケーションのすれ違いかもしれないと、ビターリら猫擁護派は主張する。

例えば猫には、犬のようにかわいい顔をして私たちの関心を引こうとするような表情筋がない。

数千年にわたる家畜化と繁殖の過程で進化した犬は、顔の速筋線維がオオカミの2~3倍になり、豊かな表情を獲得した。

なかでも目の上にある特殊な筋肉は「子犬のような目」を演出し、人間から赤ちゃんに向けるような甲高い声や表情を引き出す。

対照的に、猫は眉を上げたり悲しそうな顔をしたりできない。彼らの表情の欠如は人間を混乱させるシグナルになりかねないことが、研究で明らかになった。

これはカナダのゲルフ大学の研究チームが19年に行ったもので、85カ国6000人以上の参加者に猫の画像を見せて、ネガティブな反応をしたときの顔か、ポジティブな反応をしたときの顔かを判定させた。

正解率が75%を超えたのは参加者のわずか13%。最も成績がよかったのは獣医師など動物の専門家で、猫のそばにいることが多い人々だった。研究チームに加わらなかったビターリもテストに参加して、満点だった。

猫のシグナルが微妙なことには理由がある。

動物の思考と学習について研究している米オークランド大学のジェニファー・ボンク教授によると、野生の猫のほとんどは孤独を好む(ネコ科の中でも群れで生活するライオンは例外だ)。

犬が群れの仲間に危険や新たな獲物について知らせるのと違って、猫は過去数千年にわたって明らかなシグナルを発達させるような進化上の圧力にはあまりさらされなかった。

猫も飼い主のことを気にかけていることが最新の研究で分かってきた

だが、猫もシグナルを送る。

それに気付くには、気を付けるべきポイントさえ押さえていればいい。

研究者たちは猫のシグナルについて野良猫の社会的交流の研究から多くを学んできたと、動物行動学者で猫の社会的行動にも詳しいミケル・デルガドは言う。

野良猫のゆっくりとしたまばたきはリラックスしていて友好的だというシグナルだ。仲良しの猫同士はしょっちゅうお互いをなめたり毛繕いしたり、頬や額をこすり合ったりもする。

飼い猫が人間の腕に額をこすり付けるのは普通、猫の社会圏に受け入れているという意味だ。

猫が別の猫に近づくときに尻尾を上げていれば、それは普通「敵意はありませんよ」という意味だ。

目を合わせてにらみ付けると大抵は威嚇されていると解釈し、シャーッという声を出したり、うなったり、耳を後ろに倒し尻尾を足の間に入れて体を小さくしたりする。

猫は自由気ままでよそよそしく見えがちだが、実は飼い主によく注意を払っていることが研究によって分かっている。

19年、上智大学総合人間科学部心理学科の齋藤慈子(あつこ)准教授は78匹の猫に飼い主の声を録音したものを聞かせた。

飼い主は一般名詞やほかの猫の名前を口にし、最後にその猫の名前を呼ぶ。次に知らない人間の声で同じように録音したものを聞かせた。

すると猫たちの多くが飼い主の声を聞くと頭を動かし、耳や尻尾をぴくぴくさせたが、やがて興味を失った。

ところが自分の名前が呼ばれるとまた耳をそばだてた。

つまり、猫は飼い主の声と、意味は分からなくても聞き慣れた単語を識別できるというわけだ。

■猫の身になって考えてみる

猫は人間の言葉のイントネーションにも注意を払っている。

パリ・ナンテール大学(パリ第10大学)のシャルロット・ドムーゾンらの研究チームは飼い主が猫に話しかける声を録音。すると、多くの飼い主が高い声の赤ちゃん言葉で話しかけていることが分かった。

そこで飼い主に高い声と普通の声で話してもらい、飼い主以外の声でも同様に録音した。

猫たちの反応はすぐには気付かないほど微妙だった。

後で録画をチェックしてみると、猫たちは飼い主が高い声で話すのを聞いたときのほうが反応して耳や尻尾を動かしたり、周囲を見回したり、じっとして動かなくなったりしていた。

飼い主以外の声にはそうした反応は示さなかった。

猫もシグナルを出しているが微妙で独特なので、気付くにはコツが要る

確かに多くの猫は気難しい可能性がある。

だが相手が猫の場合でも、相手の身になって考えてみれば多くの問題は解決できる。

猫の認知研究という新たな学問が示唆するように、猫は人間のことを気にかけている。ただ、その示し方が独特なのだ。

猫は程よい距離を必要とする場合もある。

例えば犬が長時間のスキンシップを好むのに対し、猫は概して「緩い」けれども頻繁な社会的交流を好むとデルガドは言う。

また多くの人間は猫の胸やおなかをなでたがるが、猫はその辺りを触られるのを嫌がる。

「研究によれば、自分から猫に近づくのではなく、猫が近づいてくるようにしたほうが、いい関係が長続きする。ほとんどの人は『私は猫が好きだから猫も私を好きなはず』と考えがちだが、猫は支配欲が強い。自分で仕切りたがる。自分の思いどおりにしたがる。嫌だと感じたら、その場から離れたり逃げたりできるようにしておきたいのだ」

食事についても、猫は犬と動機付けが違う。

猫は確かにごちそうを喜ぶが、餌をくれる人間と友達になりたがるとは限らない。

猫は「ちょこちょこ食い」になりがちで、自分で捕まえた獲物と同じように餌を少し食べては残りを取っておき、後でまた食べるのが好きだ。

餌目当てではないので、犬のようにごちそうで釣って訓練するのは無理なことが多い。

■「ご褒美」次第で訓練も可能

だからといって猫は駄目というわけではないと、ビターリは言う。条件が整っていれば犬と同じように訓練できる。「猫は訓練できないというのは迷信にすぎない」

それを証明するべく、ビターリは猫55匹(飼い猫23匹と保護猫22匹)を1匹ずつ2時間半隔離した後、餌、おもちゃ、アレチネズミやイヌハッカなど猫が好む匂い、人間との交流(なでる・遊ぶ・赤ちゃん言葉で話しかけるなど)のどれかを選ばせた。

猫を中心にして同じ距離の場所に4つの選択肢を置いたところ、38匹がどれか1つを選択。

そのうち人間との交流を選んだのは19匹(約50%)で、14匹(約37%)が餌、4匹がおもちゃ、1匹が匂いを選んだ。

それぞれの猫がどんなご褒美を好むかが分かると、お座りや輪くぐりなど犬にできることの大半を猫にも訓練できるようになった。

ビターリは研究結果を17年に学術誌ビヘイビアラル・プロセシズに発表した。

猫とうまく付き合うには適度な距離を保つことも大切

〇20年、愛知県一宮市のドッグトレーナーでペットショップを経営する檜垣史は、エビスと名付けた11歳の雌猫の動画を公開。

エビスが彼女のまねをしてプラスチックケースの引き出しを開けたり、先が輪になったゴムを引っ張ったり、前足で箱に触れたりする様子が世界中で話題になった。

ポングラッツのような猫好きの科学者にとっては心浮き立つ発見ばかりだ。

彼は今後、飼い猫と近縁の野生種の行動を比較する研究や、集団生活で仲間とうまくやっていける猫と適応できない猫がいる理由の解明に役立つ研究が行われることを期待している。

とはいえ、それらは彼が関心を持っている疑問のごく一部にすぎない。

幸い、今後は猫好きの大学院生が増えて、彼の疑問の解明に手を貸してくれるはずだ。
2023.12.31 08:53 | 固定リンク | 動物

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