猫の気持ち
2023.12.31
「猫も人間が好き。ただ犬より愛情表現が分かりにくい」最新科学が解き明かす猫の本当の気持ち

猫は社会性がなく冷淡なイメージだが、本当は飼い主のことをどう思っているのか?犬との比較研究や実験による新たな発見から、猫の真実と上手な付き合い方が見えてきた

動物行動学者のペーテル・ポングラッツは4匹の猫──クッキー、スシ、クランブルズにスティンキー──と暮らしているだけあって、猫のミステリアスな心を解き明かすための研究テーマには事欠かない。

ペットとして世界で人気第2位の猫は、人間に対してどんな感情を抱いているのか。飼い主のことをどう思っているのか。

とはいえ謎の解明を手伝ってくれる忍耐強く意欲的な大学院生は、そういない。

人間にいい子だと褒められ、ご褒美の骨をもらうためなら何だってする犬という研究対象がいるとなれば、なおさらだ。

ハンガリーのウトブス・ロラーンド大学で教鞭を執るポングラッツが研究の難しさを思い知ったのは、2005年のことだった。

猫を研究室に連れてきてもらったところ、たちまち空調設備のダクトから壁の後ろに潜り込んでしまったのだ。

飼い主の必死の呼びかけもむなしく猫は姿を表さず、研究チームは夕方までかかって壁を解体した。猫の研究に挑戦したがる大学院生を再び見つけるのに、ポングラッツは10年余りを要した。

「私はとにかく猫に夢中で、猫の研究ができると聞けば見境なく飛び付く」と、ポングラッツは言う。

「アイデアはいくらでもあるが、一緒に猫を研究してくれる学生はなかなかいない」

数年前、彼はためらいつつも「猫の認知研究」に復帰した。研究室の壁の裏に「被験者」が消える事態を防ぐため、猫のいる場所にこちらから出向くことにした。

まずは飼い主にアンケートを実施。

「あなたの猫はほかの猫の鳴き声をまねしますか?」「あなたの猫には共感能力やコミュニケーション能力があると思いますか?」「どの程度の理解力があると思いますか?」といった質問をした。

アンケートの集計が終わったところで、ポングラッツは学生たちを猫が住む家に派遣し、実際の行動を観察させた。

■犬より愛情表現は複雑だが

こうして18年に発表した論文は、人間と良好な関係を結ぶ猫の能力に新たな光を当てた。

研究結果によれば猫は驚くほど巧みに人間の視線を追い、人間の意図を推し量る。

室内飼いの猫と外飼いの猫では生活様式の違いから、認知に大きな違いが出ることも明らかになった。室内飼いの猫はボールなどの人工物を使った遊びに、外飼いの猫よりはるかに強い興味を示した。

ポングラッツの論文は、この5年間に相次いで発表された猫の認知をめぐる研究結果の1例だ。

猫は尊大で気まぐれだから研究対象としては手が焼ける。それでもここへきて、猫の研究は盛り上がりを見せている。

長いこと猫の研究は、ペット界のトップスターである犬の後回しにされてきた。昨今のブームには、1990年代~2000年代に行われた犬の認知研究に刺激された面もある。

90年代以来、犬の内面を調査する研究施設が世界各地で誕生した。

研究者たちは人間の感情やシグナルを読み、抽象概念や社会力学を理解する犬の能力を測定し、人間との関係の核となる「犬は本当に私たちを愛しているのか」といった問いに答えを求めた。

近年になって猫を愛する新世代の研究者が犬の実験手法を借用し、その成果をヒントに研究に着手。猫にまつわる誤解を解き、飼い主を悩ませてきた疑問に答えを出している。

孤独が好きで人間が嫌いというイメージとは裏腹に多くの猫が複雑な社会集団の中で生き、人に対して深い愛着を抱く能力を持っていることが分かったのも、こうした研究の成果だ。

また猫は一般に思われているよりずっと賢い。

多くの個体が自分の名前を理解し、飼い主の声を聞き分け、顔を認識する。家の規則やスケジュールを覚え、人間が発する複雑なシグナルや初歩的な指示を理解し、限られた情報から結論を導き出す。

何より猫と人間の絆は双方向で、人間の思い込みではなく本当に存在し、長続きすることを示す証拠が次々に出ている。

研究によれば、猫は人間に好意を持っている。それどころか、私たちを愛している。犬に比べて愛情表現が分かりにくいだけなのだ。

犬をかわいがるのは簡単だ。犬はあふれんばかりの愛で私たちを圧倒する。抱き付き、顔をなめ、尻尾を振り、無視されれば眉根を寄せたりクンクン鳴いたりして、私たちといるのがうれしいことを表現する。

一方で、人間と猫の関係はそう単純ではない。

なで回されたり耳の後ろをかかれたりしても、一部の猫はじっと我慢するだろう。だが猫というのは得てして偉そうで、私たちの愛情に無関心に見える。まるで自分たちのほうが飼い主で、少しでも関心を向けてもらえるならありがたく思えと言わんばかりだ。

しかも飼い主が旅行で留守をしたりすると、腹いせにソファに小便をする。腹がすけば、悪魔のような手口で寝ている飼い主を起こそうとする。コップを倒し、飼い主に水を浴びせる猫の動画を、YouTubeで見たことがあるかもしれない。

それでも猫は犬と同じように人間の家庭生活の奥の奥まで入り込み、家族の一員となることに成功した。この能力自体が大がかりな研究に値する。

22年の1年でアメリカ人はペットの飼育に1368億ドルを費やし、そのかなりの部分が猫に使われた。

現在ペットとして飼育される猫は世界におよそ2億2000万匹おり、そのうちの5880万匹がアメリカで暮らす(犬の飼育頭数は世界で4億7100万を超える)。

猫がそのカリスマ的な魅力で人の心をつかんだ証拠は、有史以来残っている。

04年にキプロス島で9500年ほど前の墓地を発掘したところ、生後8カ月の小猫と一緒に埋葬された成人の墓が見つかった。キプロスにもともと猫はいなかったから、船で連れてこられたのだろう。

■1万年以上前から人間と同居

古代エジプトでは、人間と猫の特徴を併せ持つ女神バステトが崇拝されていた。

バステトは太陽神ラーの娘で、その信仰の中心地だったナイル川デルタの都市ブバスティスの遺跡では、猫のミイラや猫の彫刻が多数発見されている。古代エジプトの建物には、猫の装飾が施された柱も多い。

猫は不思議な力を持つ生き物と考えられていた。

人間と猫が同居するようになったのは、少なくとも1万2000年前のことだと、米ミズーリ大学獣医学部のレズリー・ライオンズ教授は語る。

メソポタミア地方の氷河が解けて、チグリス川とユーフラテス川流域の肥沃な三日月地帯で農耕文明が生まれると、人々は定住するようになった。

やがて農作物やゴミの集積場所がネズミを引き寄せ、ネズミが猫を引き寄せた。

このプロセスは、猫と人間の関係が、犬と人間の関係とは異なるものになった理由を説明している。

初期の犬は、餌として人間の残飯をもらわなければならなかったから、人間の心をつかむ能力にたけた種が生き残った。

また、狩猟採集民は狩りを手伝ってくれる犬を重宝した。こうした環境が、現代に至る犬の進化や淘汰に影響を与えた。

これに対して初期の猫は、人間の生活圏の周縁で、人間の邪魔をしないように獲物を捕獲することで生き残った。

その一方で、犬よりも体が小さく、群れをつくらない性質から、オオカミやコヨーテ、ワシ、フクロウ、アライグマなどに捕食されやすかった。

だから猫は犬よりもずっと警戒心が強い動物に進化したのだ。好奇心が強いけれど、用心深く、不透明な状況ではひとまず身を隠す。

ポングラッツが研究しようとした猫が、空調設備のダクトに逃げ込み、出てこようとしなかったのもそのためだ。

こうした生来の臆病な性質は、人工的な交配により克服できる場合がある。それでも、人間が石器時代から犬を飼育して望ましい性質を伸ばしてきたのに対して、猫を訓練するようになったのはごく最近だ。

現在も猫は「半家畜化」されたというのがせいぜいだろう。

■人間の赤ん坊にそっくりの声

ではなぜ、猫はペットとしてこれほど好まれるようになったのか。

それは猫が、人間が生来的に持つ親としての愛情に訴えるからだと、米ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)の進化生物学者であるジョナサン・ロソス教授(生物学)は考えている。

その証拠として、ロソスはイギリスの研究チームが09年に行った実験結果を挙げる。

それによると、10匹の猫がさまざまな場面で発した鳴き声を録音して、50人の被験者に聞かせたところ、彼らは猫が食べ物を欲しがっているときの鳴き声と、それ以外のときの鳴き声を区別できたという。

詳しく調べてみると、食べ物が欲しいときの猫の鳴き声は、周波数が220~520ヘルツで、人間の赤ん坊の泣き声と同レベルだった。

「人間は遺伝子的に、赤ん坊の泣き声を聞くとそちらに注意を向けるようにプログラムされている」と、ロソスは解説する(関連記事)。

猫の顔は人間の赤ん坊のように、鼻が小さくて両目とも前方を向いている(これに対して、ほとんどの家畜の目は側面を向いている)。

また、大人の飼い猫は体重が平均4~4.5キロと、やはり生まれたばかりの人間の赤ん坊の体重3400グラムに近い。

もちろん、「私が猫を愛してやまないのは、人間の赤ん坊と似ているからじゃない!」と主張する人は多いだろう。

米ユニティ環境大学(メーン州)のクリスティン・ビターリ助教(動物衛生・行動学)は、猫はマイペースというイメージを抱かれがちだが、一般に思われている以上に人間の愛情を勝ち取るのがうまいと語る。

ビターリは長年、「猫は社会性が乏しく、しつけもできないし、頑固で、冷淡だ」という猫嫌いの人たちのコメントに驚いてきた。彼女自身の経験とは大きく異なるからだ。そしてこの10年ほど、猫は反社会的で犬ほど賢くないという誤解を正すための研究に励んできた。

ビターリはオハイオ州ケントに住んでいた7歳くらいの頃、ほぼ毎朝キッチンの床に座って、ゴールドベリーという名前のアメリカン・ショートヘアと一緒にフレンチトーストの朝食を取っていたという。

どこへ行くにもゴールドベリーは付いてきた。黒毛と灰色の三毛猫メイシーも、いつもビターリを探し、擦り寄り、なでてもらいたがった。

ビターリは14年、米オレゴン州立大学大学院で犬の認知研究で知られるモニーク・ユデル助教の研究室に参加した。

そして、猫が飼い主の傍らで過ごす時間を測定するというシンプルな方法によって、猫は犬よりも社会性が乏しいという誤解を打ち砕くことにした。

「犬と同じく個体差はあるが、猫も極めて社会的に振る舞うことが分かった」

■飼い主を見ると不安が軽減

さらにビターリは19年の研究で、猫も犬と同じように、飼い主との間に人間の親子のような愛着を形成する能力があることを示した。そのために使ったのは「安心基地テスト」と呼ばれる手法だ。

具体的には、猫と飼い主を実験室に入れた後、しばらくして飼い主だけ退室させ、2分たったら再び実験室に戻ってもらう。その間の猫の行動を観察するというものだ。

すると約66%の猫が、犬や人間の赤ん坊と同じように、飼い主に愛着があることを示す行動を取った。

まず、飼い主と一緒に実験室に入ったときは、部屋の中をあちこちを探りながら、時々、飼い主のほうに視線を送って安心を求めた。やがて飼い主が退室すると、急に緊張や動揺を示す。

ところが飼い主が戻ってくると、瞬く間に緊張は消えた。

つまり、飼い主に愛着を抱くようになった猫は乳幼児と同じように、自分の世話を主にしてくれる人の姿を見るだけで不安やストレスが軽減されるのだ。

愛着は、重要だが限られた発達段階に形成される。脳の発達に重要なこの時期に人間との接触を与えられなかった猫は、人間との交流に対する抵抗がはるかに強くなる。

猫と人間の絆にとって非常に重要な時期でもあり、家畜化が永続的な遺伝的変化をもたらした数少ない分野の1つだと、ポングラッツは言う。

その期間は野生種の猫で約2週間、家畜化された猫で約2カ月続く。

ポングラッツらが05年に行った実験の目的は、猫の飼い主の大半が日頃から思っている疑問に答えることだった──自分の猫は本当はどこまで理解しているのだろうか?

その答えを探るために研究者たちは、人間や霊長類の発達心理学の分野でよく知られている実験を利用した。

この実験は複数の容器の1つに食べ物を隠してから、動物を部屋に入れて、どの容器に食べ物があるかを当てさせる。その際、研究者は正解の容器を見つめたり、うなずいたり、指差したりなど、さまざまな合図を動物に送る。

合図に正しく反応するためには、動物は頭の中で複雑な計算をする必要がある。このとき、指を差す人が自分を助けようとしていることを理解していると考えられる。

人間の乳幼児がこのような合図に従う能力が発達するのは早くても生後4カ月、おそらく9カ月くらいからで、これは人間のコミュニケーションの発達の大きな節目でもある。

猿やチンパンジーの場合は、徹底した訓練なしにこの能力が発達することはほとんどない。

もっとも、答えを見つけるのは難しかった。研究チームのメンバーが飼い主の家に行くと、猫たちは見知らぬ人を前に椅子の下で固まったり、協力を拒んだりした。実験を数回やったら興味を失う猫もいた。

苦労して集めた結果は奥深いことを示唆していた。

猫は乳幼児のように、あるいは猫と同じく人間の家庭で生き延びることに成功した唯一のペットである犬のように、指差しの合図に反応して隠された食べ物を見つけることができたのだ。

ポングラッツらが18年に発表した研究結果によると、70%の猫が人間の視線を追って、隠された食べ物を見つけることができた(研究チームは85匹の飼い猫の家を訪問し、そのうち44匹は最初は協力を拒んだり、24回繰り返した実験の途中で飽きてしまい脱落した)。

「犬はより社会的で、猫はより独立性と自律性がある」と、ポングラッツは言う。

「しかし、犬も猫も人間と一緒に暮らす能力を身に付けた。正式な訓練を受けなくても、一緒に暮らしている特定の人間の家族やグループの主なルールをすぐに覚えることは、猫と犬の基本的な特徴だ。私たちは一緒に暮らしながら、常に言葉やジェスチャーでコミュニケーションを取っている。そして、彼ら動物は私たち人間にとても注意を払っている」

猫が社会的知性を持つという証拠は近年、着実に積み重ねられている。

京都大学の高木佐保(現・麻布大学獣医学研究科特別研究員)らのチームが21年に行った実験では、飼い主もしくは知らない人が名前を呼ぶ声を録音して猫に聞かせた後に、顔写真を見せた。

すると、飼い主の声の後に知らない人の写真、あるいは知らない人の声の後に飼い主の写真という一致しない組み合わせの場合、猫は写真をより長く見ていた。これは、猫の頭の中に飼い主の視覚イメージがあることを示唆している。

実験ではさらに、部屋の複数の場所に設置したスピーカーから飼い主の声を流したところ、声が予想以上に早く室内を移動すると、猫は周囲を見回したり、耳をピクピクさせて驚いたりした。

これは彼らが注意深く耳を傾け、飼い主がいるはずの場所をイメージできることを示唆している(これらの猫には嫉妬する能力もあり、「飼い主が以前になでていた柔らかいおもちゃの猫に、より強く反応した」という)。

■「子犬のような目」ができない

拒絶されるのはつらいものだ。猫が何かと物議を醸すのは、そのせいもあるのだろう。

私たちが仲良くしようとする誘いに、猫は無関心だったり、怯えたり、攻撃的に反応したりすることも少なくない。

多くの人が猫に何回も拒絶されて、自分は猫に好かれていない、わざわざ手をかけてやる価値がないと諦めている。

犬は私たちの関心を引こうと必死になるのに、わざわざこの気まぐれな毛玉の世話をしなくてもいいだろう、と。

猫がいわれのない非難を受ける理由の1つは、単純なコミュニケーションのすれ違いかもしれないと、ビターリら猫擁護派は主張する。

例えば猫には、犬のようにかわいい顔をして私たちの関心を引こうとするような表情筋がない。

数千年にわたる家畜化と繁殖の過程で進化した犬は、顔の速筋線維がオオカミの2~3倍になり、豊かな表情を獲得した。

なかでも目の上にある特殊な筋肉は「子犬のような目」を演出し、人間から赤ちゃんに向けるような甲高い声や表情を引き出す。

対照的に、猫は眉を上げたり悲しそうな顔をしたりできない。彼らの表情の欠如は人間を混乱させるシグナルになりかねないことが、研究で明らかになった。

これはカナダのゲルフ大学の研究チームが19年に行ったもので、85カ国6000人以上の参加者に猫の画像を見せて、ネガティブな反応をしたときの顔か、ポジティブな反応をしたときの顔かを判定させた。

正解率が75%を超えたのは参加者のわずか13%。最も成績がよかったのは獣医師など動物の専門家で、猫のそばにいることが多い人々だった。研究チームに加わらなかったビターリもテストに参加して、満点だった。

猫のシグナルが微妙なことには理由がある。

動物の思考と学習について研究している米オークランド大学のジェニファー・ボンク教授によると、野生の猫のほとんどは孤独を好む(ネコ科の中でも群れで生活するライオンは例外だ)。

犬が群れの仲間に危険や新たな獲物について知らせるのと違って、猫は過去数千年にわたって明らかなシグナルを発達させるような進化上の圧力にはあまりさらされなかった。

猫も飼い主のことを気にかけていることが最新の研究で分かってきた

だが、猫もシグナルを送る。

それに気付くには、気を付けるべきポイントさえ押さえていればいい。

研究者たちは猫のシグナルについて野良猫の社会的交流の研究から多くを学んできたと、動物行動学者で猫の社会的行動にも詳しいミケル・デルガドは言う。

野良猫のゆっくりとしたまばたきはリラックスしていて友好的だというシグナルだ。仲良しの猫同士はしょっちゅうお互いをなめたり毛繕いしたり、頬や額をこすり合ったりもする。

飼い猫が人間の腕に額をこすり付けるのは普通、猫の社会圏に受け入れているという意味だ。

猫が別の猫に近づくときに尻尾を上げていれば、それは普通「敵意はありませんよ」という意味だ。

目を合わせてにらみ付けると大抵は威嚇されていると解釈し、シャーッという声を出したり、うなったり、耳を後ろに倒し尻尾を足の間に入れて体を小さくしたりする。

猫は自由気ままでよそよそしく見えがちだが、実は飼い主によく注意を払っていることが研究によって分かっている。

19年、上智大学総合人間科学部心理学科の齋藤慈子(あつこ)准教授は78匹の猫に飼い主の声を録音したものを聞かせた。

飼い主は一般名詞やほかの猫の名前を口にし、最後にその猫の名前を呼ぶ。次に知らない人間の声で同じように録音したものを聞かせた。

すると猫たちの多くが飼い主の声を聞くと頭を動かし、耳や尻尾をぴくぴくさせたが、やがて興味を失った。

ところが自分の名前が呼ばれるとまた耳をそばだてた。

つまり、猫は飼い主の声と、意味は分からなくても聞き慣れた単語を識別できるというわけだ。

■猫の身になって考えてみる

猫は人間の言葉のイントネーションにも注意を払っている。

パリ・ナンテール大学(パリ第10大学)のシャルロット・ドムーゾンらの研究チームは飼い主が猫に話しかける声を録音。すると、多くの飼い主が高い声の赤ちゃん言葉で話しかけていることが分かった。

そこで飼い主に高い声と普通の声で話してもらい、飼い主以外の声でも同様に録音した。

猫たちの反応はすぐには気付かないほど微妙だった。

後で録画をチェックしてみると、猫たちは飼い主が高い声で話すのを聞いたときのほうが反応して耳や尻尾を動かしたり、周囲を見回したり、じっとして動かなくなったりしていた。

飼い主以外の声にはそうした反応は示さなかった。

猫もシグナルを出しているが微妙で独特なので、気付くにはコツが要る

確かに多くの猫は気難しい可能性がある。

だが相手が猫の場合でも、相手の身になって考えてみれば多くの問題は解決できる。

猫の認知研究という新たな学問が示唆するように、猫は人間のことを気にかけている。ただ、その示し方が独特なのだ。

猫は程よい距離を必要とする場合もある。

例えば犬が長時間のスキンシップを好むのに対し、猫は概して「緩い」けれども頻繁な社会的交流を好むとデルガドは言う。

また多くの人間は猫の胸やおなかをなでたがるが、猫はその辺りを触られるのを嫌がる。

「研究によれば、自分から猫に近づくのではなく、猫が近づいてくるようにしたほうが、いい関係が長続きする。ほとんどの人は『私は猫が好きだから猫も私を好きなはず』と考えがちだが、猫は支配欲が強い。自分で仕切りたがる。自分の思いどおりにしたがる。嫌だと感じたら、その場から離れたり逃げたりできるようにしておきたいのだ」

食事についても、猫は犬と動機付けが違う。

猫は確かにごちそうを喜ぶが、餌をくれる人間と友達になりたがるとは限らない。

猫は「ちょこちょこ食い」になりがちで、自分で捕まえた獲物と同じように餌を少し食べては残りを取っておき、後でまた食べるのが好きだ。

餌目当てではないので、犬のようにごちそうで釣って訓練するのは無理なことが多い。

■「ご褒美」次第で訓練も可能

だからといって猫は駄目というわけではないと、ビターリは言う。条件が整っていれば犬と同じように訓練できる。「猫は訓練できないというのは迷信にすぎない」

それを証明するべく、ビターリは猫55匹(飼い猫23匹と保護猫22匹)を1匹ずつ2時間半隔離した後、餌、おもちゃ、アレチネズミやイヌハッカなど猫が好む匂い、人間との交流(なでる・遊ぶ・赤ちゃん言葉で話しかけるなど)のどれかを選ばせた。

猫を中心にして同じ距離の場所に4つの選択肢を置いたところ、38匹がどれか1つを選択。

そのうち人間との交流を選んだのは19匹(約50%)で、14匹(約37%)が餌、4匹がおもちゃ、1匹が匂いを選んだ。

それぞれの猫がどんなご褒美を好むかが分かると、お座りや輪くぐりなど犬にできることの大半を猫にも訓練できるようになった。

ビターリは研究結果を17年に学術誌ビヘイビアラル・プロセシズに発表した。

猫とうまく付き合うには適度な距離を保つことも大切

〇20年、愛知県一宮市のドッグトレーナーでペットショップを経営する檜垣史は、エビスと名付けた11歳の雌猫の動画を公開。

エビスが彼女のまねをしてプラスチックケースの引き出しを開けたり、先が輪になったゴムを引っ張ったり、前足で箱に触れたりする様子が世界中で話題になった。

ポングラッツのような猫好きの科学者にとっては心浮き立つ発見ばかりだ。

彼は今後、飼い猫と近縁の野生種の行動を比較する研究や、集団生活で仲間とうまくやっていける猫と適応できない猫がいる理由の解明に役立つ研究が行われることを期待している。

とはいえ、それらは彼が関心を持っている疑問のごく一部にすぎない。

幸い、今後は猫好きの大学院生が増えて、彼の疑問の解明に手を貸してくれるはずだ。
2023.12.31 08:53 | 固定リンク | 動物
曽我容疑者「2人の女性殺害・胸には包丁が刺さったまま」
2023.12.29
曽我容疑者は、なぜ2人の女性を殺害したのか動機を探ってみます まず気性が荒い男だった 「胸には包丁が刺さったまま」

2023年12月26日の、名古屋市中村区のカラオケ店で、20代の女性が自称曽我春暉(はるき)容疑者(25歳)によって刺殺されるという事件が発生しました。この事件は、曽我容疑者が同居していたとみられる別の女性もマンションの浴槽で殺害したと自供したことで、さらに衝撃を与えました。曽我容疑者は、なぜ2人の女性を殺害したのでしょうか。その動機と経緯について、現在のところ判明している事実をもとに考察してみましょう。

まず、カラオケ店で刺殺された女性と曽我容疑者の関係は、現時点では不明です。警察の調べによると、女性は複数回刺されており、胸には包丁が刺さったままだったということです。このことから、曽我容疑者には強い殺意があったと推測できます。しかし、曽我容疑者が女性を刺した直後に通報したことや、自身もけがをしていたことから、計画的な犯行ではなく、現場でのトラブルや感情的な衝動による犯行である可能性もあります。曽我容疑者が女性とどのような関係にあったのか、また、事件当日に何があったのか、詳細な事情を明らかにする必要があります。

次に、マンションで殺害されたとみられる女性と曽我容疑者の関係は、同居人であったと見られています。曽我容疑者は、この女性を「風呂場に沈めた」と自供しており、浴槽の中で遺体で発見されました。この女性の死亡時期や殺害方法はまだ特定されていませんが、曽我容疑者がカラオケ店での事件よりも前に女性を殺害したとすると、恋愛感情が絡んだ犯行である可能性が高まります。

曽我容疑者と同じフロアに住む住民によると、曽我容疑者は女性と一緒にいる時の様子が良好だったという証言もある一方で、女性はいつも替わっている気がしたという証言もあります。このことから、曽我容疑者と女性の関係には何らかの問題があったのではないかと推測できます。曽我容疑者が女性を殺害した動機や経緯について、詳細な事情を明らかにする必要があります。

以上のことから、曽我容疑者が2人の女性を殺害した動機については、現在のところ不明な点が多いことがわかります。警察は、曽我容疑者の供述や現場の証拠などをもとに、事件の全容を解明するために捜査を進めています。被害者の冥福を祈りつつ、真相が早く明らかになることを願っています。

■半日内に女性2人殺害か 逮捕の男、両事件への関与認める 名古屋

名古屋市中心街で女性2人が刺されるなどして死亡した事件で、殺人未遂容疑で逮捕された男(25)が26日午前11時半ごろにカラオケ店で女性(20)を襲う前、同居女性(30)の遺体が見つかったマンションに滞在していたことがわかった。遺体の状況などから、同居女性は25日夜以降に殺害されたとみられる。男は両事件への関与を認めており、愛知県警は男が約半日の間に相次いで殺害したとみて調べている。

男は自称・風俗店員の曽我春暉(はるき)容疑者。20歳の女性を刺殺したとして28日に殺人容疑で送検された。死因は心臓を刺されたことによる失血死だった。現場で見つかった凶器とみられる包丁1本は曽我容疑者が持ち込んだとみられる。

一方、同居女性は職業不詳の長野汐里(しおり)さん。逮捕時の曽我容疑者の供述にもとづき、26日正午前にカラオケ店から約2キロ離れたマンションで遺体で見つかった。

■同居女性の殺害ほのめかす 直後にカラオケ店で刺殺か

名古屋市のカラオケ店で女性が刺殺され、マンションで住人の女性遺体が見つかった事件で、自称風俗店店員曽我春暉容疑者(25)=カラオケ店での殺人容疑で送検=が同居する住人女性(30)の殺害をほのめかす供述をしていることが28日、捜査関係者への取材で分かった。女性は25~26日に浴槽内で溺死させられた可能性が高く、その後、26日の刺殺事件を起こしたとみられる。

捜査関係者によると、マンションの防犯カメラ映像などの捜査から、女性は24日まで生存が確認されていることも判明。26日に浴槽内で発見された際、衣服を身に着けていなかったという。

■カラオケ店で刺殺された女性の腕の傷は骨まで達する…男に強い殺意か 小中学校の同級生「気性が荒かった」

名古屋市中村区のカラオケ店で20歳の女性が男に刺されて死亡した事件で、女性は襲われた際 抵抗したとみられ、腕の傷は骨まで達していたことが新たに分かりました。

警察は男に強い殺意があったとみて調べています。

28日朝、殺人の疑いで送検されたのは自称・名古屋市中区の風俗店店員 曾我春暉(そが・はるき)容疑者25歳です。

警察によりますと、曾我容疑者は26日、名古屋駅近くのカラオケ店で、職業不詳の20歳の女性を包丁で刺して殺害した疑いがもたれています。

曾我容疑者は、女性を刺したことは認めていますが、動機については黙秘しています。

女性の頭や胸には複数の傷があり捜査関係者によりますと、腕の傷の一部は骨まで達していたということです。

この傷は女性が抵抗した際に負ったものとみられ、警察は曾我容疑者に強い殺意があったとみて調べています。

また犯行の際、曾我容疑者自身も手にけがをしたということです。

一方、曾我容疑者の小中学校の同級生は、校舎のガラスを割るなど気性が荒かったと話します。

(蘇我容疑者の小中学校の同級生)
「もう学校1、2の問題児。抑えのきかない感じの子になっちゃった。(柔道部で)礼儀正しかったとは思う。パワーを間違った方向に、そういう年齢というのもあるが使ってしまっていた」

曾我容疑者はこのほか、名古屋市中区大須のマンションで同居する、長野汐里(ながの・しおり)さん30歳を殺害したこともほのめかしていて、警察が調べています。
2023.12.29 06:24 | 固定リンク | 事件/事故
岸田首相が解散総選挙を行わない理由
2023.12.27
岸田政権が解散総選挙を行わない理由

岸田文雄首相は2023年9月に自民党総裁に選出され、同月に内閣を発足させた。しかし、その後の内閣支持率は低迷し、年内の衆議院解散・総選挙を断念した。本稿では、岸田政権が解散総選挙を行わない理由を分析する。その理由として、以下の三点を挙げる。

政権発足後の政策決定や人事における失敗や不手際が支持率低下の要因となった。

政権の最優先課題であるデフレ脱却に向けた経済対策の効果が出るのは2024年6月以降であり、それまで待つ必要があった。

自民党内にポスト岸田の有力候補がいないため、総裁選前に解散すると政権交代のリスクが高まると判断した。

岸田文雄首相は2023年9月に自民党総裁に選出され、同月に内閣を発足させた。岸田首相は、デフレからの完全脱却を政権の最優先課題に掲げ、物価高対策や賃上げ促進、投資拡大などの経済対策を打ち出した。また、女性5人を閣僚に起用するなど、内閣改造や党役員人事でも新風を吹き込もうとした。

しかし、その後の内閣支持率は低迷し、年内の衆議院解散・総選挙を断念した。本稿では、岸田政権が解散総選挙を行わない理由を分析する。

まず、政権発足後の政策決定や人事における失敗や不手際が支持率低下の要因となったと考えられる。例えば、岸田首相が物価高対策として打ち出した所得税と住民税の減税策は、タイミングや効果を巡り批判の的となり、自民党内からも異論が出た。また、マイナンバー制度の拡充に伴うインボイス制度の導入は、混乱や不備が相次ぎ、国民の不信感を招いた。さらに、副大臣・政務官の人事では、女性や若手の登用が少なく、派閥への配慮が目立った。これらの政策や人事は、岸田政権の刷新感やリーダーシップを損なう結果となった。

次に、政権の最優先課題であるデフレ脱却に向けた経済対策の効果が出るのは2024年6月以降であり、それまで待つ必要があったと考えられる。

岸田首相は、所得税と住民税の減税策により、2024年度までの2年で1人あたり4万円、住民税が非課税の世帯には1世帯あたり7万円を還元するとした。しかし、この減税の効果は、実際に税金が引かれる2024年6月以降に出る予定であり、それまでは国民が可処分所得の増加を実感できない可能性が高い。また、岸田首相は、30年ぶりの賃上げ水準となった2023年春に引き続き、企業に春季労使交渉(春闘)での賃上げを要請しているが、物価高の影響で実質賃金の上昇は限定的となる恐れがある。

したがって、岸田首相は、賃金と消費がともに拡大する好循環を生み出すことで支持率を回復させるシナリオを描いていたが、それを実現するには時間がかかると判断したのだろう。

最後に、自民党内にポスト岸田の有力候補がいないため、総裁選前に解散すると政権交代のリスクが高まると判断したと考えられる。岸田首相は、2024年9月に自民党総裁の任期満了を迎えるが、その前に衆院選で勝利すれば総裁再選に弾みがつくと考えていたとされる。しかし、支持率が低いまま解散すれば、自民党の議席が減少し、政権基盤が揺らぐ可能性がある。また、自民党内には、岸田首相に代わるポスト岸田の有力候補がいないという現状がある。

最大派閥の安倍派は集団指導体制で、総理総裁候補はいない。麻生派の麻生太郎副総理兼財務相や二階派の二階俊博幹事長は年齢的な問題がある。茂木敏充幹事長は総理を目指す雰囲気だが、派閥をまとめきれているのか不透明だ。河野太郎デジタル改革相や高市早苗経済安全保障相は岸田首相に取り込まれている。石破茂元幹事長は次の総理にふさわしい人として世論調査で高い支持を得ているが、党内では反石破の勢力が強い。

このように、自民党内には、岸田首相に対抗できる総裁候補が不在であるため、総裁選前に解散すると、政権交代のリスクが高まると判断したのだろう。

「萩生田さんが政調会長でいるかぎり、岸田首相はやりたいことはできないね」

年末年始の内閣改造がささやかれる中、ある自民党幹部はこう語った。

岸田首相が防衛費倍増の財源として増税する方針を示したことで、あぶり出された岸田官邸と安倍派を中心とする自民党保守派との対立。年明けもこの対立が続くのは確実で、岸田首相が人事で何らかの手を打つのかが焦点だった。

しかし、岸田首相は結局、内閣改造・党役員人事には踏み込まず、秋葉賢也復興相と杉田水脈総務大臣政務官の交代にとどめた。これにより岸田政権は内部に火種を抱えたまま、2023年1月下旬の通常国会を迎えることになる。

岸田首相は、安倍派の政治資金パーティー収入の裏金疑惑に対処するために、実行力・調整力・答弁力を備えた即戦力として閣僚を選任したと主張したが、この人事は党内外の支持基盤の弱さと政権運営能力の低下を露呈したものと言える。

安倍派の閣僚や党幹部の交代は、政権の信頼回復には不十分であり、パーティー収入問題は他派閥にも波及する可能性が高い。また、安倍派の切り捨ては、保守層の離反や党内の対立を招くリスクも孕んでいる。世論調査の結果からも、岸田首相の人気は低迷し、早期の退陣を望む声が多数を占めていることがわかる。岸田首相は、重要政策の推進力を失いつつあり、次期衆院選に向けて自民党の勝利を確保するのは困難と見られる。

■内閣支持率低迷、来秋の総裁選前の首相退陣との見方も

岸田内閣の支持率は14日の閣僚交代後に行われた報道各社の世論調査で10-20%台に落ち込み、大半で自民党が政権に復帰した12年12月以降の最低を更新するなど危機的な状況にある。

クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは、内閣支持率の低迷が続けば、来秋の総裁選前に岸田首相が退陣する可能性も否定できないと述べた。ただ、次の春闘で賃上げ効果が得られればデフレ脱却を成果とすることで、総裁選を戦う選択肢もあるとみている。
2023.12.27 18:05 | 固定リンク | 政治
美人殺人鬼「7人殺害」逃亡20年逮捕処刑
2023.12.24
中国版「ボニー&クライド」と呼ばれる労栄枝と法子英は、1990年代に7人を殺害するという連続誘拐殺人事件を起こした。労栄枝(2023年12月18日処刑)彼らの犯罪は、中国の社会的・経済的な変化と密接に関係していると考えられる。本リポートでは、彼らの犯罪に関わる社会の背景と、物質的に豊かになる社会に追いついていけない人々の心理を分析する。

法子英は、死刑が確定した後も、笑顔で記者に対して「私は悪いことをしたのではなく、悪いことをするしかなかったのだ」と言った。

社会の背景

労栄枝と法子英が犯罪を犯したのは、1996年から1999年の間である。この時期は、中国が改革開放政策を推進し、経済発展と市場開放を目指した時期である。中国のGDPは、1990年の3,860億ドルから1999年には9,920億ドルにまで急増した。

一方で、経済の成長に伴って、社会の格差や不安定さも拡大した。農村部から都市部への大量の人口移動、失業や貧困の増加、環境汚染や腐敗の悪化などが問題となった。また、価値観の多様化や道徳の崩壊も進んだ。西洋の文化や思想の影響を受けた若者たちは、伝統的な家族や社会の規範に反抗し、自由や個性を求めた。一方で、高齢者や保守的な人々は、変化に適応できずに孤立や不満を感じた。

犯罪者の心理

労栄枝と法子英は、このような社会の変化に対応できなかった人々の代表例といえる。労栄枝は、元小学校教師で美貌と才能に恵まれた女性であったが、法子英という既婚者で前科のある不良青年に恋に落ち、犯罪者に堕ちていった。彼女は、自分の教育や地位に見合わない男性に惹かれたのは、自分の人生に刺激や冒険を求めたからだと述べた。

彼女は、伝統的な教師の職を捨てて、法子英という自由奔放な男性に従属した。彼女は、法子英に対する愛情や依存から、妊娠を通じて彼との絆を強めようとしたが、彼に中絶を強要された。彼女は、自分たちが殺害した犠牲者の命と、自分たちが奪った自分の子供の命を、比較して苦しんでいた。

法子英は、貧しい農家の出で、幼い頃から犯罪に手を染めていた。彼は、金銭や物質に執着して、人の命を軽視した。彼は、中国の経済発展に乗り遅れたと感じており、自分の欲望を満たすために、強盗や殺人を繰り返した。彼は、労栄枝を支配するために、妊娠させておきながら、中絶を強要した。彼は、自分の罪を悔いることはなく、死刑が確定した後も、笑顔で記者に対して「私は悪いことをしたのではなく、悪いことをするしかなかったのだ」と言った。

中国美人連続殺人鬼の逮捕について

中国で20年以上にわたって逃亡を続けていた連続殺人犯の労栄枝(Lao Rongzhi)容疑者が、2019年11月28日に福建省厦門市で逮捕された。彼女は交際相手の男と共に7人の強盗殺人に関与したとされる。彼女の事件は中国版「ボニー&クライド」とも呼ばれており、地元メディアは彼女の容貌から「美人殺人犯」と報じている。

彼女の逮捕は、中国警察が最先端のクラウドネットワーク技術と顔認証技術を駆使して指名手配犯を突き止める「クラウドの剣」作戦の成果である。この作戦は「ビッグデータによる科学捜査の勝利」と称されている。中国警察は、全国の監視カメラや交通機関のデータベースを統合し、容疑者の顔写真と照合することで、彼女の居場所を特定した。彼女は逮捕時に偽名を使っていたが、顔認証技術によって本人であることが確認された。

彼女の事件は、中国社会における犯罪と治安の問題を浮き彫りにしたとも言える。彼女は逃亡中に何度も身分証明書を偽造し、様々な職業に就いていた。彼女はまた、インターネット上で自分の写真を公開し、男性との交際を求めていた。彼女の逮捕によって、中国の公安当局は、犯罪者の追跡と逮捕に向けて、さらなる技術的な改善と法的な整備を行う必要性を感じたという。

連続殺人犯として知られる労栄枝は、一連の犯罪行為を通じて、自身の身元を隠すために何度も身分証明書を偽造したとされています。彼女は自分の写真を公開し、被害者となる男性を求めていました。

これらの行為は、彼女が自身の犯罪行為を隠蔽し、新たな被害者を見つけるための手段であったと考えられます。彼女の行動は、社会全体に対する深刻な脅威を示しており、このような犯罪行為を防ぐための対策を講じる必要があります。

労栄枝と法子英は、1996年から1999年までの間に、中国の江西省南昌市、浙江省温州市、江蘇省常州市、安徽省合肥市などで、計7人を殺害するという連続誘拐殺人事件を起こした。この事件は、中国の社会に衝撃を与えたが、特に注目されたのは、労栄枝と法子英の関係である。

労栄枝は、元小学校教師で美貌と才能に恵まれた女性であったが、法子英という既婚者で前科のある不良青年に恋に落ち、犯罪者に堕ちていった。労栄枝は、法子英との関係で何度も妊娠し、子供をおろしたという。

労栄枝と法子英は、犯罪を繰り返しながらも、性的な関係を持ち続けていた。しかし、彼らは避妊を十分に行わなかったか、あるいは意図的に妊娠させた可能性がある。労栄枝は、法子英に対する愛情や依存から、妊娠を通じて彼との絆を強めようとしたのかもしれない。一方、法子英は、労栄枝を支配するために、妊娠させておきながら、中絶を強要したのかもしれない。

労栄枝と法子英は、妊娠と中絶を繰り返すことで、自分たちの罪悪感や後悔を増幅させていた。彼らは、自分たちが殺害した犠牲者の命と、自分たちが奪った自分の子供の命を、比較して苦しんでいたのかもしれない。

労栄枝は、法子英が逮捕された後も、彼の子供を産もうとしたが、結局中絶した。これは、彼女が法子英への愛と憎しみの間で揺れ動いていたことを示している。

労栄枝と法子英は、妊娠と中絶を通じて、中国社会の変化と対峙していた。彼らは、1990年代の中国の経済発展と市場開放に伴う、価値観の多様化や道徳の崩壊に影響を受けていた。労栄枝は、伝統的な教師の職を捨てて、法子英という自由奔放な男性に惹かれた。法子英は、金銭や物質に執着して、人の命を軽視した。彼らは、自分たちの欲望を満たすために、妊娠や中絶という重大な選択を、簡単に行ってしまったのかもしれない。

労栄枝と法子英の関係における妊娠と中絶の事例を分析し、その背景と影響について考察した。労栄枝と法子英は、妊娠と中絶を繰り返すことで、自分たちの感情や人生、社会との関係に深刻な影響を受けた。彼らの事件は、中国の社会における妊娠と中絶の問題を浮き彫りにした。

■犯行に至ったかれらの動機とは

犯行に至ったかれら労栄枝と法子英は、1996年から1999年まで交際していました。その間、彼らは共謀して強盗、誘拐、殺人の罪を犯しました。彼らは江西省南昌で3歳の女児を含む家族3人を殺害し、その後は浙江省温州、江蘇省常州、安徽省合肥市などで連続4件の犯行を重ねた。

法子英は1999年に逮捕され、7人を殺害した罪で有罪となり、同年12月に死刑が執行されました。一方、労栄枝は複数の仮名を使って逃亡を続け、各地を転々としながらバーや娯楽施設でパートとして働き、逮捕を免れる目的で容姿を変える手術も受けていたといくことです。

法子英が逮捕される際、1999年7月23日、法子英は殷某华の妻、刘敏(化名)と赎金の交渉を行っていました。

刘敏は筹钱を理由に法子英を自宅で待たせ、その間に同僚に警察に通報するよう依頼しました。

通報を受けた合肥市公安局西市分局(現蜀山分局)の刑警大队、合肥市公安局110直属大队、防暴三大队の警察官たちは迅速に現場に駆けつけ、法子英がいる409室を包囲しました。その結果、法子英は現場で逮捕され、一方で労栄枝は逃亡し逮捕を免れました。

労栄枝の逮捕後、彼女の逃亡生活についての詳細が明らかになりました。彼女の元恋人で共犯者の法子英が逮捕された後、労栄枝は複数の仮名を使って逃亡を続けました。

彼女が向かった最初の逃亡先は、2人がいざという時に落ち合う場所に決めていた重慶でした。その後、彼女は各地を転々としながらバーや娯楽施設でパートとして働き、逮捕を免れる目的で容姿を変える手術も受けていました。

1999年6月には、労栄枝と法子英は安徽省の省都・合肥に流れ着きました。そして、2019年11月28日に福建省厦門市のショッピングモールにいたところを公安当局に見つかり、その逃亡生活は幕を閉じました。

■法子英と労栄枝の関係は、一見すると普通の恋人同士のように見えましたが、その実態は遥かに暗いものでした。

労栄枝は元々、江西省の平凡な小学校教師でした。しかし、彼女が法子英と出会ったことで、彼女の人生は一変しました。法子英は10歳以上年上の既婚者で、何度も前科がある野性的な青年でした。

労栄枝は小学校を辞め、ナイトクラブで働きながら犯行の対象を物色しました。彼女は美しい容貌で自宅に相手を誘引し、法子英が武力を行使して殺害し、金品を奪いました。

彼らは1996年から1999年までの間に、南昌市、温州市、合肥市などで犯罪を繰り返し、合計7人を殺害しました。1999年に法子英は逮捕され、死刑が執行されました。一方、労栄枝は法子英が逮捕される時に残した信号を見て潜伏し、20年後の2019年11月28日に中国公安に捕まりました。

■まとめ

労栄枝と法子英の犯罪は、中国の社会における妊娠と中絶の問題を浮き彫りにした。彼らは、自分たちの欲望を満たすために、妊娠や中絶という重大な選択を、簡単に行ってしまった。彼らは、自分たちの感情や人生、社会との関係に深刻な影響を受けた。彼らの事件は、中国の社会における価値観の多様化や道徳の崩壊を示している。今後、この問題に対するさらなる研究が必要である。
2023.12.24 22:13 | 固定リンク | 事件/事故
アメリカの最大の脅威は「地政学」的に読み解く
2023.12.23
アメリカの「最大の脅威」は中国かロシアか…「地政学」的に読み解く

地政学とは、地理的条件が国際政治や戦争に与える影響を分析する学問です。地政学には、英米系と大陸系の二つの主要な流派があります。英米系地政学は、海洋によって結ばれた自由主義国家の連合が、大陸によって囲まれた専制主義国家の連合に対抗するという視点を持ちます。大陸系地政学は、大陸の中心部に位置する国家が、周辺部に位置する国家に対して優位に立つという視点を持ちます。

アメリカにとっての最大の脅威は、これらの地政学の視点から考えると、中国とロシアの二つの国家になります。中国は、経済、軍事、外交、科学技術などの分野で急速に発展し、アメリカに対抗する力を持つようになりました。

中国は、アメリカの同盟国や友好国との関係を損なうような行動をとったり、アメリカの政治や経済に干渉したり、アメリカの技術や知的財産を盗んだりすることで、アメリカの国益や安全保障に損害を与えています。

中国は、台湾や南シナ海などの地域での覇権を主張し、アメリカとの衝突の可能性を高めています。
中国は、英米系地政学の視点からは、ランド・パワーの陣営の代表格であり、シー・パワーの陣営に対する最大の挑戦者です。大陸系地政学の視点からは、大陸の中心部に位置する国家であり、周辺部に位置する国家に対する最大の脅威です。

ロシアは、旧ソ連時代の勢力圏を回復しようとしており、ウクライナやジョージアなどの国に対して武力行使やサイバー攻撃などの侵略的な行動をとっています。ロシアはまた、アメリカの選挙や民主主義に対して、偽情報やプロパガンダなどの手段で干渉し、アメリカの社会や政治に分断をもたらそうとしています。
ロシアは、アメリカの同盟国であるNATOやEUとの関係を悪化させることで、アメリカの国際的な影響力を弱めようとしています。

ロシアは、英米系地政学の視点からは、ランド・パワーの陣営の一員であり、シー・パワーの陣営に対する深刻な脅威です。大陸系地政学の視点からは、大陸の中心部に位置する国家であり、周辺部に位置する国家に対する競争相手です。

以上の比較から、アメリカにとっての最大の脅威は、中国とロシアの二つの国家であると言えます。
しかし、その中でも、中国の方がより直接的で広範な挑戦をしており、アメリカの世界的なリーダーシップに対抗する野心を持っていると言えます。

ロシアは、中国ほどの規模や能力は持っていませんが、アメリカの利益や価値観に反する行動をとることで、アメリカの安定や秩序に損害を与える可能性があります。アメリカは、中国とロシアの脅威に対処するために、同盟国や友好国との連携を強化する必要があります。

■アメリカの最大の脅威国はどこか

アメリカは世界の超大国として、多くの国との関係を持っています。しかし、その中にはアメリカの利益や価値観に反する国も存在します。アメリカにとって最大の脅威になる国はどこでしょうか。中国、ロシア、インドの3カ国を比較してみましょう。

■中国の台頭と挑戦

中国は近年、経済、軍事、外交、科学技術などの分野で急速に発展し、アメリカに対抗する力を持つようになりました。中国はアメリカの同盟国や友好国との関係を損なうような行動をとったり、アメリカの政治や経済に干渉したり、アメリカの技術や知的財産を盗んだりすることで、アメリカの国益や安全保障に損害を与えています。中国は台湾や南シナ海などの地域での覇権を主張し、アメリカとの衝突の可能性を高めています。中国はアメリカの「最大の長期的な脅威」だと米FBI長官は述べています。

米FBI長官、中国の脅威を強調

米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官は、2020年7月と2022年7月に、中国政府によるスパイ活動と盗用行為が、アメリカにとっての「最大の長期的な脅威」になっていると述べた。レイ氏は、中国がアメリカの経済や国家安全保障に対して、多面的な挑戦をしており、アメリカの世界的なリーダーシップに対抗する野心を持っていると指摘した。

レイ氏は、中国政府がアメリカの同盟国や友好国との関係を損なうような行動をとったり、アメリカの政治や経済に干渉したり、アメリカの技術や知的財産を盗んだりすることで、アメリカの国益や安全保障に損害を与えていると語った。レイ氏は、中国が台湾や南シナ海などの地域での覇権を主張し、アメリカとの衝突の可能性を高めているとも警告した。

レイ氏は、中国による妨害行為や広範な経済スパイ活動、データおよび資産の窃取、違法な政治活動などを列挙した。レイ氏によると、中国政府は賄賂や脅迫によって、アメリカの政策に影響を及ぼそうとしていると述べた。レイ氏は、中国が天安門事件を批判する候補者を当選させないために、ニューヨークの議会選に直接介入したとも指摘した。

レイ氏は、中国がロシアのウクライナ侵攻から教訓を得ようとしており、科されたような制裁から将来的に身を守る方法も、その一つだと述べた。レイ氏は、もし中国が台湾を侵略すれば、経済的混乱は今回よりはるかに大きく、西側の対中投資は「人質」となり、サプライチェーンは破壊されるだろうと、警告した。

レイ氏は、中国の脅威に対処するために、アメリカは同盟国や友好国との連携を強化する必要があると強調した。レイ氏は、中国はあまりにも長い間、どの国の優先事項でも2番目であることに乗じてきたとし、こう付け加えた。「中国はもはや、気づかれないように行動しているわけではない」

■ロシアの侵略と干渉

ロシアは旧ソ連時代の勢力圏を回復しようとしており、ウクライナやジョージアなどの国に対して武力行使やサイバー攻撃などの侵略的な行動をとっています。ロシアはまた、アメリカの選挙や民主主義に対して、偽情報やプロパガンダなどの手段で干渉し、アメリカの社会や政治に分断をもたらそうとしています。ロシアはアメリカの同盟国であるNATOやEUとの関係を悪化させることで、アメリカの国際的な影響力を弱めようとしています。ロシアはアメリカにとって「深刻な脅威」だと米国防総省は位置づけています。
米国防総省、ロシアの脅威を強調

米国防総省は、2023年3月に国防の方向性などを示す戦略文書「国家防衛戦略」の概要をバイデン政権として初めて発表した。中国を「最重要の戦略的競争相手」と位置付けた上で、ロシアを中国に続く脅威とし、同盟国と連携して対抗するとした。

国家防衛戦略は、米大統領が策定する外交・安全保障の指針「国家安全保障戦略」に基づいて定めるもので、2023年の発表はロシアによるウクライナ侵攻への対応に追われる中での策定となった。発表された概要では、ロシアのウクライナ侵攻を「深刻な脅威」と指摘し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や友好国と連携し、さらなる侵略を防ぐための抑止力の整備を進めるとした。

ロシアは旧ソ連時代の勢力圏を回復しようとしており、ウクライナやジョージアなどの国に対して武力行使やサイバー攻撃などの侵略的な行動をとっている。ロシアはまた、アメリカの選挙や民主主義に対して、偽情報やプロパガンダなどの手段で干渉し、アメリカの社会や政治に分断をもたらそうとしている。ロシアはアメリカの同盟国であるNATOやEUとの関係を悪化させることで、アメリカの国際的な影響力を弱めようとしている。

米国防総省は、中国とロシアに対しては、「必要となれば紛争に勝つ用意をする」と明記した。同盟国や友好国との協力推進を掲げた。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は、イランや過激派組織と同列に位置付け、「持続的な脅威に対処できるよう引き続き対応する」と強調した。

■中国が最大の脅威

以上の比較から、アメリカにとって最大の脅威になる国は中国であると言えます。中国はアメリカの国益や価値観に対して、最も直接的で広範な挑戦をしており、アメリカの世界的なリーダーシップに対抗する野心を持っています。ロシアはアメリカにとって深刻な脅威ですが、中国ほどの規模や能力は持っていません。インドはアメリカにとって脅威ではなく、協力する国です。アメリカは中国の脅威に対処するために、インドや他の国との連携を強化する必要があります。

英米の情報機関トップ、中国の「途方もない」脅威をそろって警告した。アメリカの「最大の脅威」は中国と 米FBI長官が説明。米の国家防衛戦略、ロシアは中国に続く「深刻な脅威」と位置づけた。米国民の半数が中国を最大の脅威と認識、シンクタンク調査。インドとの関係強化は不可欠であると、米国務長官が強調した。

■地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは?

冷戦の終焉とその後の世界

冷戦の終焉は、英米系地政学の視点から言えば、シー・パワー連合の封じ込めが成功しすぎて、ランド・パワーの陣営が崩れていってしまった現象だということになる。

大陸系地政学から見ても、いずれにせよソ連/ロシアが自国を覇権国とする生存圏/勢力圏/広域圏のような圏域の管理に失敗して自壊したことによって生じた事態であった。

フランシス・フクヤマが洞察した「自由民主主義の勝利」である「歴史の終わり」としての冷戦の終焉は、シー・パワー連合の封じ込め政策が完全な勝利を収めてしまった状態のことを、理念面に着目した言い方で表現したものだったということになる。

これに対して、冷戦終焉後の世界においてもなお大陸系地政学の視点を対比させようとするならば、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の世界観に行きつくだろう。圏域を基盤にした世界的対立の構図は残存する、という主張である。

一方では、「自由民主主義の勝利」が、自由主義の思潮の普遍化や、自由貿易のグローバル化を背景にして、圏域に根差した思想の封じ込めを図る。この傾向は、冷戦終焉後に、ある面では強まった。

しかし、他方では、「歴史の終わり」としての「自由民主主義の勝利」の時代であればこそ、「文明」のような人間のアイデンティティの紐帯を強調する動きも生まれやすくなるかもしれない。

グローバル化と呼ばれる普遍主義の運動が強まれば強まるほど、それに反発する動きも顕著になるかもしれない。そこでシー・パワー連合のグローバル化に対抗し、圏域思想の側が「文明の衝突」を助長する。

冷戦終焉後の世界は、「自由民主主義の勝利」と「文明の衝突」が絡み合い、やがて二つの異なる地政学の対立にも引火していく構図の時代であった。

■ソ連の崩壊と英米系地政学が直面した課題

ソ連を盟主とした共産主義陣営の崩壊によって、シー・パワー連合としての自由主義陣営は、冷戦時代の封じ込め政策の目的を達してしまったかのようであった。

マッキンダー地政学にしたがえば、ハートランド国家が拡張主義政策をとり、それに対してシー・パワー連合が封じ込め政策をとることによって、「歴史の地理的回転軸」が動いていく。

もしハートランドが拡張を止め、むしろ縮小するなら、「歴史の地理的回転軸」が止まった状態だ。マッキンダー理論では、これでは歴史が動かない。

冷戦の終焉という「歴史の終わり」としての「自由民主主義の勝利」は、マッキンダー地政学の理論からも語れることであった。

1990年代初頭の世界では、「新世界秩序」といった言葉が多用された。アメリカ一国の覇権、活発化する国連を中心にした世界、国境を越えて進展するグローバル経済、といった「自由民主主義の勝利」のイメージを表現するための言説も多かった。冷戦終焉直後の1990年代は、地政学への問題関心が著しく低下していた時期であった。

2001年に「9.11テロ」が起こると、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、「我々の側か、我々の反対側か」という二者択一を迫るブッシュ・ドクトリンと呼ばれるようになる立場を鮮明にする。
この単独主義とも称されたアメリカの唯一の超大国としての圧倒的な力を背景にした政策は、モンロー・ドクトリン以来のアメリカの外交政策が、ある種の頂点に達したものだったと言える。

ブッシュ・ドクトリンにおける善と悪の二元論的世界観は、伝統的なモンロー・ドクトリンにおける神の恩寵を受けた共和主義諸国の「新世界」と汚れた絶対主義王政諸国の「旧世界」の二元論を彷彿させた。

■再び台頭する二元論的世界観

冷戦期のトルーマン・ドクトリンでは、自由主義陣営と、共産主義陣営の二元論で、表現されていた。アメリカは自国の安全保障政策の関心対象である集団防衛の領域を、常に二元論的世界観にそって決定してきた。

 「対テロ戦争」の時代のブッシュ・ドクトリンでは、遂にこの二元論的世界観が、国際社会そのものと、非領域的に存在するテロ組織及びその支援者の間の分断となった。領域性のある政治アクターは、基本的に国際社会の側に立ち、国際社会に反した勢力は非領域的なものとして存在していることになった。

実際には、2003年のアメリカによるイラク侵攻は、同盟国を含めた諸国の反発を招いた。その後の占領統治の困難もあり、国際社会全体とテロリストとの闘いとしての対テロ戦争の構図は、頓挫していった。そしてアメリカでも、オバマ大統領の多国間協調主義と、トランプ大統領のアメリカ第一主義が登場してくることになる。

ただし、バイデン大統領の「民主主義諸国vs権威主義諸国」の世界観は、伝統的な二元論的世界観に通じるものだ。

超大国化した中国との競争関係の明確化、ウクライナに侵攻したロシアとの敵対姿勢などから、「民主主義諸国vs権威主義諸国」の構図に沿って、大きく国際政治が動いてきている面もある。

冷戦時代の自由主義陣営と共産主義陣営の対立の場合のような明確な線引きが「民主主義諸国vs権威主義諸国」の間に存在しているわけではない一方で、国家の間の対立が強まってきている現象もはっきりしてきている。
このような萌芽的あるいは過渡期の状況の中で、地政学理論への関心が復活してきているのが現代である。
2023.12.23 15:45 | 固定リンク | 国際

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