SLIM「逆さまに墜落」
2024.01.31
SLIM逆さまに墜落 JAXA小型ロボット「レブ2」が撮影したスリム。姿勢が計画から外れて転倒し、太陽電池を上でなく西(右)に向けて静止している。中央部の横線はノイズ


SLIMは逆さまにしたため軟着陸したが、損傷は軽微だったが太陽電池が発電しなかった 原因は着陸の際、主エンジンの1基が破損停止したため 

SLIMエンジン破損とは、日本初の月面着陸に成功した実証機「スリム」が、着陸直前に主エンジンの1基が異常で停止したことを指します1。スリムは自動で姿勢制御を続け、目標地点から約55メートルずれた場所に着陸しました1。このとき、スリムから脱落したエンジンノズルが月面に落ちている様子が航法用カメラに写っていました。スリムはエンジン故障にも堪えて、100メートル級のピンポイント着陸を実現し、計画の主目的を達成しました。

スリムは着陸後、太陽電池が発電しない状態になりましたが、28日に運用が再開され、通信が確立されました。スリムは分光カメラで月面の岩石を撮影し、月の起源の謎に迫る観測を行う予定です1。また、スリムとともに月面に降りた小型ロボット「レブ1」「レブ2」も月面で活動し、レブ2がスリムの撮影に成功しました。

スリムの月面着陸は、日本の宇宙開発の歴史に残る快挙です。スリムのチームには、心から敬意と感謝を表します。

SLIMの主エンジンの1基が破損停止した原因は、現在も調査中です。しかし、SLIMは自律制御で着陸を続け、目標地点から約55メートルずれた場所に逆さまに軟着陸しました。着陸時の速度や姿勢は仕様範囲を超えていましたが、機体の損傷は軽微であると考えられます。

SLIMは着陸後、太陽電池が発電しない状態になりましたが、28日に運用が再開され、通信が確立されました。

SLIMは分光カメラで月面の岩石を撮影し、月の起源の謎に迫る観測を行う予定です。また、SLIMとともに月面に降りた小型ロボット「レブ1」「レブ2」も月面で活動し、レブ2がSLIMの撮影に成功しました。SLIMの月面探査計画は、主目的であるピンポイント着陸の技術実証を達成したほか、科学的データの取得も可能であると見込まれます。

なお、SLIMの月面探査に関する詳細は以下の通りです。

SLIMの月面着陸の結果・成果等について

JAXA、小型月着陸実証機(SLIM)の月面着陸の結果・成果等について発表

実証機スリム活動再開 月が「昼」になり発電可能に 撮影も

小型月着陸実証機「SLIM」

JAXA変形型月面ロボットによる小型月着陸実証機(SLIM)の撮影およびデータ送信に成功

日本の月面探査機「SLIM」、月周回軌道へ投入成功…1月20日に着陸へ

スリム 探査の概要 月探査情報ステーション

小型月着陸実証機SLIM(ISAS)

月面機スリム「ピンポイント着陸」を確認 今後の“復活”へ高まる望み

会見でスリムの模型を示しながら説明する坂井氏=25日

日本初の月面着陸に成功した実証機「スリム」について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は25日、当初の目標から約55メートルずれた場所に着陸しており、100メートル級の誤差を目指した世界初の「ピンポイント着陸」を達成していたと発表した。着陸直前に主エンジン1基が異常で停止したものの、機体は自動で姿勢制御を続けた。上空で分離した小型ロボットは、月面でスリムの撮影に成功した。スリムはいったん活動を終えたが、時間が経てば太陽電池に日光が当たり、再起動できる望みがあるという。

「新しい探査へ、扉を開いた」

高度50メートル付近で撮影した月面。中央に、スリムから脱落した円すい形のエンジンノズルが写っている(JAXA提供)

スリムは20日午前零時20分、世界5カ国目となる月面着陸を達成。ただ機体の太陽電池で発電できず、搭載したバッテリーが消耗したため同3時頃にいったん活動を終えた。活動中に地上で受信したデータを分析した結果、当初の目標地点から約55メートル東に着陸したことが判明。従来の月面着陸機で数キロ以上だった目標の誤差を大幅に下回る、100メートル級のピンポイント着陸に成功したことを確認した。

スリムは降下中の高度約50メートルで、月面の岩などの個々の障害物を自動で避けて着陸するよう作動し始めた。この時点での位置誤差は大きく見積もって10メートル、推定3~4メートルほどだったといい、これを実質的な誤差とみることができる。

25日、都内で会見した坂井真一郎プロジェクトマネージャは「信じられないほど、大きな飛躍のように思われる。ただわれわれの見込みでは、正常に着陸すれば10回中、7回くらいは10メートルの精度が出ると見込んでいた。3~4メートルなら(見込みより)少しよかったことになる。10メートルで特に驚くことはない」と説明した。

目標の着陸地点は低緯度の平原「神酒(みき)の海」にある「シオリクレーター」付近の、半径100メートルの円内の傾斜地だった。坂井氏は「安全な場所への着陸が考えられてきた従来なら、考えられないことだ。一方、スリムは100メートルないし10メートルの精度で着陸できた。スポーツ選手が記録を破るとその後、続けざまに(他の選手も)記録が伸びることがあるそうだ。同様にスリムの後、新しい探査をしようと思う人たちが現れるのでは。新しい扉を開いたのかもしれない」と話した。

エンジン故障も、異常対応モードで粘り抜く

高度約50メートルで、2基の主エンジンの1基が推力を喪失したことが分かった。航法用カメラが、スリムから脱落したエンジンノズルが月面に落ちている様子を捉えていた。直前まで正常に作動していたことなどから、スリムチームはエンジン以外の何らかの要因が異常を招いたとみて、解明を目指す。

主エンジン1基だけが作動する状態となったことを、搭載ソフトウェアが検知。すぐに異常対応モードに移行し、機体の位置のずれを抑えるよう姿勢を自動制御しながら降下を続けた。ただ、水平方向の速度や機体の姿勢が計画を外れてしまったため、計画通りに太陽電池のある面を上に向けて静止することはできなかった。

高度約5メートルで2体の小型ロボット「レブ1」「レブ2」を分離し、いずれも月面で活動した。このうち中央大学などが開発したレブ1は飛び跳ねて月面を移動し、地球との通信にも成功。タカラトミーなどのレブ2は計画通りに変形して移動し、さらに月面のスリムを撮影できた。画像には、スリムが転倒して静止している様子が明確に写っている。レブ1とレブ2により、日本初の月面ロボットが実現した。月面を飛び跳ねる移動、地上の指示によらない自律した動作などが、世界初になったという。

レブ2の愛称は「ソラキュー」。JAXAが科学技術振興機構(JST)から「イノベーションハブ構築支援事業(太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ)」を受託し、小型ロボット技術、制御技術について共同で行う契約をタカラトミーと結んで実現。今回の月面でのスリム撮影に結実している。

スリムが搭載した科学観測用の分光カメラも試験的に動作させ、月面の画像が地上に届いている。

スリムが着陸後、分光カメラで撮影した月面(JAXA提供)


「この成果をカタパルトに、惑星探査拡大へ」

 スリムは独自の「2段階着陸」を実施する計画だった。まず1本の「主脚」で月面に接地し、次に残り4本の足も使い、傾斜地に倒れ込んで静止するもの。しかし主エンジンの異常が引き金となって計画通りに着陸しなかったため、結果的にこの着陸方式は実証に至らなかった。

 月の昼間は、地球の2週間ほどに相当する長さがあり、着陸地点では来月1日の日没まで続く。スリムの太陽電池は西を向いており、今後“昼過ぎ”となり太陽光が西から当たるようになれば発電し、スリムが再起動できる可能性があるという。ただ、仮に太陽電池が機能しても、他の搭載機器が昼の高温に耐えて生き延びているかは、未知数という。

 JAXA宇宙科学研究所の國中均所長は「ピンポイント着陸技術の獲得は大きなステップ。(資源として使える水の氷があるともいわれる)月の極域や、(JAXAの火星衛星探査計画の)MMXでの衛星フォボスへの着陸に応用できる。宇宙研はこの成果をカタパルト(射出装置)にして、惑星探査を拡大させたい」と強調した。

 20日の会見で着陸の点数を問われ「ぎりぎり合格の60点」とした國中氏。5日経ち、一連の状況説明に続いて再び同じ質問を受けると「分光カメラとレブ1、レブ2が動いたので、各1点加算して63点」と応じた。相変わらずの辛口評価だが、この日は安堵(あんど)がうかがえる笑顔もみられた。

スリムはエンジントラブルにも堪えてピンポイント着陸を実現し、計画の主目的を達成した。小型ロボットも作動し、既に画期的成果を上げたことは疑いない。今後もし太陽電池が復活すれば、分光カメラを本格作動させ、地下のマントルから月面にむき出しになった「かんらん石」の組成が分析できる。月の起源の謎に迫るという、この観測にまで到達できるだろうか。スリム復活の期待がいよいよ、膨らんできた。

会見後、撮影に応じる國中氏(左から2人目)、坂井氏(3人目)と、小型ロボットの担当者ら=25日


■小型月着陸実証機(SLIM)の月面着陸の結果・成果等について

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2024年1月20日午前0:20(日本標準時)に小型月着陸実証機(SLIM)を月面に着陸させ、地球との通信を確立させました。

しかしながら、SLIMの着陸時の姿勢等が計画通りではなかったことから、太陽電池からの電力発生ができず、同日午前2:57(日本標準時)に地上からのコマンドにより探査機の電源をオフにしました。

電源をオフにするまでに取得した各データの分析を行った結果、SLIMが当初の目標着地地点から東側に55m程度の位置で月面に到達していることが確認できました。また、ピンポイント着陸性能を示す障害物回避マヌーバ開始前(高度50m付近)の位置精度としては、10m程度以下、恐らく3~4m程度と評価しています。詳細データ評価は継続する必要があるものの、SLIMの主ミッションであった100m精度のピンポイント着陸の技術実証は達成できたものと考えられます。

探査機からは、今後のピンポイント着陸技術に必要な着陸に至る航法誘導に関する技術データ、降下中及び月面での航法カメラ画像データを全て取得できました。また、接地直前には小型プローブ(LEV-1・LEV-2)の放出を成功裏に実施しました。加えて、SLIMに搭載されたマルチバンド分光カメラ(MBC)についても、電源オフまでの間に試験的に動作し、撮像画像を取得できました。

他方、太陽電池が電力を発生しない姿勢で月面上に静定した経緯について、取得した技術データを分析したところ、高度50m時点で障害物回避マヌーバを開始する直前、2基搭載されているメインエンジンの1基の推力が失われた可能性が高いことが判明しました。

その状況下でSLIM搭載ソフトウェアは自律的に異常を判断し、徐々に東側に移動するSLIMの水平位置がなるべくずれないように制御しながら、もう1基のエンジンでの降下を継続しました。接地時の降下速度は1.4m/s程度と仕様範囲内より低速でありましたが、横方向の速度や姿勢などの接地条件が仕様範囲を超えていたため、結果として計画と異なる姿勢に落ち着くことになったと考えております。

メインエンジンの機能喪失原因については、メインエンジン自体ではない何らかの外的要因がメインエンジンに波及した可能性が高いと考えています。本事象の原因については現在も調査中であり、詳細判明した時点で、改めてご報告いたします。

今後については、取得できた技術・科学的データの更なる分析や、異常が発生した原因の調査を進めます。

同時に、現在SLIMの太陽電池は西を向いていると分析されることから、今後月面で太陽光が西から当たるようになれば、発電の可能性があると考えています。SLIMの月面上での活動はもともと数日程度以上と想定していましたが、更なる技術・科学データの取得を目指し、引き続き復旧へ向けて必要な準備を行ってまいります。

着陸後SLIM搭載航法カメラによる月面画像(クレジット:JAXA)

【注】 重力方向を加味して画像を回転させている


SLIMの着陸目標地点と、現状の位置の推定(クレジット:Chandrayaan-2:ISRO/SLIM:JAXA)

【注】 インド探査機Chandrayaan-2が撮影した月面地形に高度50m地点付近でのHV2(ホバリング2回目)でのSLIM航法カメラによる取得画像などを重ねたもの。2つの青枠がHV2中の障害物検知の際に取得された画像であり、その後は障害物回避動作に入る設計であることから、ピンポイント着陸性能はこの時点での位置精度で評価される。1回目・2回目の障害物検知時点の位置精度はそれぞれ3~4m程度、10m程度であった。なお、2回目の障害物検知時には既にメインエンジン機能喪失の影響を受けていた可能性が高い。赤枠のSLIMフットプリントはHV2の障害物検知機能に基づきSLIMが自律的に設定した着陸安全域。

■SLIM

宇宙航空研究開発機構 (JAXA)が開発中の日本の月着陸機

小型月着陸実証機、SLIMとは、JAXAによる日本の無人月面探査機・着陸機である。月面へのピンポイント着陸を目指すことから複数のメディアで「ムーンスナイパー」とも紹介される。高さ約2.4 m、重さは燃料を除き約200 kg。H-IIAロケット47号機で2023年9月7日午前8時42分11秒に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、2024年1月20日に日本初となる月面着陸を達成し、かつ史上初。

宇宙の過酷な環境で使うコンピュータは地上用に比べて約100分の1の低い処理能力しかない。 そこでSLIMでは専用の計算効率の高い画像処理アルゴリズムを開発。 「長年にわたり宇宙科学研究所で研究、大学にも協力してもらい実現した」(坂井プロマネ)。 こうして自分の位置を自分で知ることができる、賢い探査機ができあがった。
2024.01.31 21:52 | 固定リンク | 宇宙
太陽の300億倍ブラックホール発見
2023.03.30
天の川銀河のブラックホール

超大質量ブラックホール、新手法で発見 太陽の300億倍

英ダラム大学の天文学者が率いるチームが観測史上最大級の超大質量ブラックホールを発見した。英王立天文学会月報に掲載の論文で発表した。

論文によれば、この星の質量は太陽の300億倍以上。チームは米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡の画像を利用し、重力レンズ効果とスーパーコンピューターでのシミュレーションの手法を通じて質量を確認した。

重力レンズ効果とは遠くの天体から来る光が途中の銀河によって曲げられる現象を指す。こうした銀河は拡大レンズのような役割を果たす。

チームは想定する銀河内のブラックホールの質量を変えながら宇宙から届く光をシミュレーション。その回数は数十万回に及んだという。

同学会によると、こうした手法を使ってブラックホールを発見したのは初めて。

論文の筆頭著者でダラム大学物理学部で観測的宇宙論を専攻するジェームズ・ナイチンゲール氏は「このブラックホールは観測史上最大級で、ブラックホールの大きさの理論的上限にあることから極めて刺激的な発見だ」と語る。

さらに「我々が知る最大級のブラックホールの大半はアクティブな状態で、近接する物質が吸い込まれて熱を発し、光の形でエネルギーを放出する」と指摘した上で、「重力レンズ効果はアクティブでないブラックホールの研究を可能にする」と強調。

遠くの銀河に存在するそうしたブラックホールはこれまで研究できなかったが、今回の手法で「我々の近くの宇宙を越えてもっと多くのブラックホールを見つけ、はるか昔にさかのぼる進化の過程を明らかにできる可能性がある」と述べた。

今回の発見の物語は2004年、同じダラム大学の天文学者アラステア・エッジ氏が銀河の調査画像の確認中に、重力レンズ効果による巨大な弧に気づいたときにまでさかのぼる。今回、チームはその発見に改めて立ち戻り、ハッブル宇宙望遠鏡とスーパーコンピューター「DiRAC COSMA8」を使って詳しく調査、結果にいきついた。

超大質量ブラックホールは宇宙で最大級の質量を持つ物体で、あまり見つかっていない。その起源は不明だが、数十億年前の銀河の衝突からできたとの説がある。銀河同士の衝突で星々が失われブラックホールの質量が増大、とてつもない大質量のブラックホールが誕生したとの説だ。
2023.03.30 18:57 | 固定リンク | 宇宙
光速を超える宇宙船を公開=NASA
2023.01.03
ワープ実現の宇宙船――NASAが画像公開

米航空宇宙局(NASA)は、光速を超えて宇宙空間を移動する「ワープ航法」の性能をもった宇宙船の設計画像を公開した。

ワープ航法を実現する宇宙船の研究は、NASAの先端推進技術研究チームを率いる物理学者のハロルド・ホワイト氏が2010年から取り組んできた。

イメージ図は同氏の設計をもとに、アーティストのマーク・レドメーカー氏が制作した。制作には1600時間以上を要したという。ホワイト氏はSF映画「スター・トレック」に登場する宇宙船にちなんで、この宇宙船を「IXSエンタープライズ」と命名。同船の設計も、1965年に描かれたスター・トレックのスケッチを参考にしている。

ホワイト氏は昨年11月に米アリゾナ州フェニックスで開かれた宇宙カンファレンスで、この宇宙船のデザインやコンセプト、進捗状況を発表していた。同氏によると、「宇宙ワープ」は一般相対性理論に出てくる抜け穴の法則を利用して宇宙空間を歪曲させ、何千年もかかって到達するような超長距離を数日で移動できる航法。この航法を採用すれば光速を超えられるようになり、速度に制限はなくなる。

NASAによると、ワープ航法の存在はまだ実証されていないものの、その理論は物理学の法則に反していない。ただ、実現できるという保証はないとしている。
2023.01.03 21:21 | 固定リンク | 宇宙
「我々の銀河は1ピクセル!」
2022.12.29


「我々の銀河は1ピクセル!」......20万個の銀河示す壮大な宇宙の地図が作成された

科学的に極めて正確。同時に、天文学の専門家以外でも宇宙のスケールを体感できるマップを目指した

私たちの太陽系が位置する天の川銀河は、最大4000億個ともいわれる恒星がひしめく途方もない空間だ。銀河1つだけでも広大な空間を占めるが、そんな銀河を20万個マッピングした壮大な「宇宙の地図」が誕生した。

この地図は、地球から観測可能な宇宙の一部を扇形にスライスしたものだ。無数の点の一つひとつが銀河を示しており、広大な宇宙空間に銀河が偏在する様子が視覚的に示されている。

地図の様子は、ジョンズ・ホプキンス大学が公開している動画でも確認することができる。コンピューター上に再現されたインタラクティブな地図となっており、視点や縮尺を変えて任意の位置から観察可能だ。

私たちの銀河(天の川銀河全体)は1ピクセル
地図を製作したのは、ホプキンス大の天文学者たちだ。過去20年以上をかけて蓄積された観測データをもとに、これまでに知られている銀河の位置を視覚化した。

扇形の最下部の頂点が、わたしたちのいる天の川銀河だ。広大なはずの天の川銀河が、わずか1ピクセルで表現されている。ホプキンス大のブライス・メナード教授(物理・天文学)は動画内で、マップの壮大さを次のように表現している。

「地図上で私たちは、一番下に位置します。私たちは小さな点で、わずか1ピクセルです。ここでいう『私たち』とはつまり、私たちの銀河、天の川銀河全体のことです」

宇宙ポータルのスペース.comはまた、地図に示された点の色に注目するよう勧めている。これらは、各銀河の赤方偏移の量を示している。膨張する宇宙の影響を受け、地球に届くまでに長い距離を旅してきた光ほど、波長が長くなり赤寄りに変化する。

すなわち、地図上で赤に近い色で表現されている星ほど、地球から見て遠方に位置することを意味している。一方、もともとの銀河自体の色味が異なることから、色相の変化と距離とは完全には比例しないことも読み取れる。

デザイナーを交え、天文学者以外でも理解できるビジュアルに
宇宙ポータルのスペース.comは、「驚くほど詳細かつ正確」に既知の宇宙をマッピングした地図だと評している。データ自体はこれまでに得られていたものの、科学的に正確かつ一般の人々にもわかりやすい形で銀河の位置関係を表現した地図はこれまで存在しなかったという。

デザイン情報メディアのデザイン・ブームも、本マップを取り上げている。作成にはホプキンス大の天文学者たちに加え、3Dデザイナーのニキータ・シュタルクマン氏が協力した。同サイトもまた、科学的な正確性と一般へのわかりやすさの両立を評価している。専門家向けだったデータを平易な形でビジュアライズした点にプロジェクトの価値があると言えそうだ。

製作に携わったホプキンス大のメナード教授は、マップ作りの動機を次のように説明している。

「幼い頃から私は、星や星雲、銀河といった天文学の写真から、大変な刺激を受けてきました。そしていま、私たち自身が新たなタイプの画を想像し、人々を刺激する番が来たのです」

「世界中の天体物理学者が、何年もかけてこうしたデータを分析しています。数え切れないほどの科学論文や発見につながってきました。しかし、美しく、科学的に正確で、なおかつ科学者でない人でも見られるような地図を作るために時間を投じる人は、これまでありませんでした。私たちの目標は、宇宙の本当の姿をすべての人々に届けることなのです」

既存の観測プロジェクトの成果を活用

観測の元データとして、アメリカを中心に運営され日本の機関も参加している「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)」の成果が活用された。

米ニューメキシコ州の山奥、澄んだ空気を持つアパッチポイント天文台に、SDSS用の観測装置が設けられている。主望遠鏡は広視野専用として設計され、狭い領域の拡大を主目的とする多くの天体望遠鏡と異なり、天空の広い領域を一度に観測することができる。

この主望遠鏡に加え、複数の天体用CCDカメラなどが観測をサポートする。天体画像により天体の位置を把握し、分光観測による赤方偏移量から距離を算出して記録するプロジェクトだ。

天空の一定領域を網羅的に観測する調査をサーベイ観測と呼ぶが、SDSSは天文学史上最も重要なサーベイ・プロジェクトのひとつに数えられている。第1期調査が完了した2005年までに全天の25%以上の領域を観測し、3億個以上の天体を記録した。

天文学の分野ではすでに名が知られているSDSSプロジェクトだが、その貴重なデータは専門家の注目を集めるに留まっていた。ホプキンス大の天文学者と3Dデザイナーという異分野の逸材がタッグを組んだことで、宇宙の神秘を広く一般にアピールするマップが完成したようだ。
2022.12.29 19:00 | 固定リンク | 宇宙
「水の惑星!」2つ発見される
2022.12.29

「水の惑星!」広大な海で覆われた惑星の候補が2つ発見される

赤色矮星「ケプラー138」を公転する太陽系外惑星「ケプラー138c」と「ケプラー138d」は、その体積の大部分を水が占める「水の世界」かもしれない......

218光年先のこと座方向にある赤色矮星「ケプラー138」を公転する太陽系外惑星「ケプラー138c」と「ケプラー138d」は、その体積の大部分を水が占める「水の世界」かもしれない。
カナダ・モントリオール大学らの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡による「ケプラー138c」と「ケプラー138d」の観測データを分析し、その研究成果を2022年12月15日、学術誌「ネイチャー・アストロノミー」で発表した。

「『水の惑星』と確信できる惑星を観測したのはこれが初めてだ」
これによると、「ケプラー138c」と「ケプラー138d」の半径はいずれも地球の約1.5倍で、「ケプラー138c」の質量は地球の約2.3倍、「ケプラー138d」の質量は約2.1倍であった。

いずれも水は直接検出されていないが、その大きさと質量を比較した結果、「これらの惑星の体積のかなりの部分は岩石よりも軽く、水素やヘリウムよりも重い物質でできている」と結論づけられている。その有力な候補が水だ。

研究論文の共同著者でモントリオール大学のビョルン・ベネケ教授は「これまで地球よりやや大きい惑星は金属や岩石を主成分とする『地球の拡大版』のようなものだと考えられ、それゆえに『スーパーアース(巨大地球型惑星)』と呼ばれてきた」としながら、「『ケプラー138c』と『ケプラー138d』はその性質が全く異なり、体積の大部分を水で占めている可能性が高いことが示された。長年仮説としてその存在が唱えられてきた『水の惑星』と確信できる惑星を観測したのはこれが初めてだ」と解説する。

■■「【画像】水の層は2000km! 地球とケプラー138dの断面比較

表面は氷ではなく大きな水蒸気?
「ケプラー138c」と「ケプラー138d」の体積は地球の3倍以上、質量も2倍以上あるにもかかわらず、密度はいずれも地球よりずっと低い。このことから、これらは太陽系の地球型惑星よりも、その大部分が岩石コアを取り巻く水で構成される「氷衛星」に似ていると考えられる。

「ケプラー138c」と「ケプラー138d」を氷衛星である木星の「エウロパ」や土星の「エンセラダス」を大きくしたものに見立て、恒星にもっと近づけてみると、その表面は氷ではなく大きな水蒸気で覆われることになる。そのため、「ケプラー138c」と「ケプラー138d」では地球のような海が直接地表に存在しないかもしれない。

研究論文の筆頭著者でモントリオール大学の博士課程に在籍するキャロライン・ピオレ氏は「『ケプラー138c』と『ケプラー138d』の気温は水の沸点を超えている可能性が高く、水蒸気でできた厚く濃い大気が存在すると考えられる。そして、その水蒸気の大気の下だけに、高圧の液体水または『超臨界流体』と呼ばれる高圧下で発生する別の相の水が存在する可能性がある」と考察している。
2022.12.29 12:01 | 固定リンク | 宇宙

- -