身長10Cm伸ばす「600万円」
2023.04.03

600万円で背を10センチ高くすることが可能…骨延長手術を600例行った整形外科医の告白

 女性プロゲーマーが昨年2月、「身長170センチない男は人権ない」と発言してSNS上で大炎上したことがあった。実際、身長が低いことをコンプレックスに感じている男性は多い。ところが、身長を伸ばす画期的な手術があるという。“骨延長手術”と呼ばれるもので、この手術を17年間で約600例行った整形外科医の吉野宏一氏(55)に話を聞いた。

 そもそも、骨延長手術とは、どのようなものなのか。

「足の骨は、膝から上が大腿骨、膝下には脛骨と腓骨があります。それらの骨のあるところの血管を避けて小さく切開し、ノミと槌を使って人工的に骨折させます」

 と解説するのは、吉野氏。

「すると、自然治癒力によって骨折した部分に新しい骨(仮骨)が出来てきます。その仮骨は成熟していないので柔らかいため、足の外側に取り付けたリング状の器具によってゆっくり伸ばすことができます。1日当たり1ミリ、50日で5センチ伸ばします」

10センチ身長を伸ばす
 大腿骨と脛骨、腓骨をそれぞれ骨折させて仮骨を伸ばしていけば、5センチずつで計10センチ身長を伸ばすことが可能だという。

 この骨延長手術は、いつ頃考えだされたのか。

「1951年、ロシアのイリザロフ医師が、患者の足の外側にリング状の器具を取り付け、器具に装着しているネジを回して骨折した患部を圧迫することで骨がつきやすくなる治療をしていました。ところが、患者の1人が圧迫するネジを逆方向に回してしまったのです。イリザロフ氏がレントゲン写真でその患者の骨折部を見てみると、骨折した患部が伸びて、そこに仮骨が出来ているのを発見しました。これが骨延長術の始まりです」

 日本では1990年頃から骨延長手術が行われるようになった。

「当時、私が勤務していた大阪赤十字病院附属大手前整肢学園で初めて骨延長手術が行われました。私はその手術に関わっていなかったので、担当医に手術のやり方を教えて欲しいと頼んだのですが、教えてくれませんでした。そこで骨延長手術を本格的にやっているアメリカのメリーランド州立大学に留学しました。大学の付属病院の整形外科のペーリー教授とハーゼンバーク教授に師事したのです。この2人は、ドバイなど世界各国の富豪から依頼されて、骨延長手術を行っていました」

 吉野氏は帰国後、関西医科大学関連病院などを経て2006年、大阪で主に骨延長手術を行う「スカイ整形外科クリニック」を開設した。

「開設した当初は、小人症の患者がほとんどでした。ところが10年ほど前から、身長が低いことにコンプレックスがあって、何とかしたいと私の病院を訪れる患者が増えてきました。だいたい身長165センチくらいの男性が多かったですね。骨延長手術をすれば確実に170センチ以上になりますので、そこに魅力を感じたのでしょう。こういう方が年間で25人ほどいました」

 通常、手術してから完治するまでに6カ月かかる。患者は2、3日おきに通院しなければならないので、治療期間中はクリニックの近くにマンションを借りる必要があるそうだ。料金は、手術や治療費、薬代などすべて含めて600万円。他に、足の外側に取り付ける器具や、骨を固定するため骨の内部に釘状の器具を入れる手術を行うと、1100万円になるという。

運動能力が劣化

 2020年10月、「Forbes JAPAN」がラスベガスのクリニックが800万円で身長を15センチ伸ばす手術を行い、予約が殺到していると報じた。

「15センチも骨を伸ばすのは無茶です。1本の骨は5センチが限界です。骨が5センチ伸びると、神経や筋肉も伸びることになります。するとどうなるか。ゴムを伸ばした時のように、筋肉は硬くなってしまいます。骨延長手術をすると、明らかに運動能力が劣ってくるのです。膝が曲がりにくくなって、和式トイレでは座れなくなります」

 15センチも伸ばすと、歩けなくなったり、骨が曲がったりしてしまうケースがあるという。

「以前、ヨルダンで骨延長手術を受けて足が変形してしまった日本人男性が私の所へ来たことがありました。海外で手術をして失敗して私の病院に来るケースは、これまで10例ほどありました」

 男性だけでなく、女性が来院したこともあった。

「モデルのようにきれいな女性で、身長が180センチ近くありました。背が高いことにコンプレックスを抱いていたのでしょうか。足を短くして欲しいと言うので、さすがにお断りしました」

 骨延長手術は、足の骨だけに行うものではないという。

「足の指が人より短い方がいて、指の骨を伸ばしたことがあります。腕が短い方の上腕骨や前腕骨を伸ばしたこともありました」

 実は、吉野氏は17年間で骨延長手術を600例ほど行った後、昨年、クリニックを親族に任せて退職した。現在、クリニックでは骨延長手術は行っていないという。

「新型コロナがあって、人生を色々考え直してみたのです。正直申し上げると、医師として五体満足の体に身長を伸ばす手術を行うことに抵抗がありました。また、身長コンプレックスで来院する患者は、引きこもりの人が多かったのです。自分の身長にコンプレックスで精神的に病んでしまい、学校や会社に行かなくなったのです。そういう人たちに手術を行うことで本当に問題が解決するのか、うしろめたさを感じていました」

 加えて、手術をした患者の親戚などからクレームが来ることもあった。

「患者さん本人は、背が伸びて喜んでいます。しかし、運動能力が劣ってしまうので、なぜ手術をしたんだと、怒鳴られたことが何度もありました。それがストレスになってしまって……。僕は寒いところが苦手なので、今は鹿児島県の人口7000人の離島で診療所を開いています。のんびり暮らそうと思っています」
2023.04.03 09:13 | 固定リンク | 医療
免疫低下『帯状疱疹』注意=ワクチン有り
2023.01.16

加齢と共に発症率が高まるとされる『帯状疱疹』…ここ10年増え続けているという理由や対策は

長引くコロナ禍によるストレスが、発症するリスクを高める一因になっていると指摘されている「帯状疱疹」。
体に帯状の発疹が出て、加齢とともに発症率が高くなるとされる病気ですが、ここ10年、発症する人が増え続けていると言うことです。
患者が増えた理由と対策について取材しました。

*富山市の50代女性「痛くて痛くてしかたなくて、ちょっとやけどみたいなかんじになってしまった。皮膚科に行ったら、そこで帯状疱疹と診断された」

富山市に住む50代の女性です。
10年ほど前、帯状疱疹と診断されました。
はじめは虫刺されと思いましたが、次第に皮膚がやけどのようにただれ、完治した今も跡が残っています。

*富山市の50代女性「一日二日はだるくて階段を登るのも大変だった。ちょうど体の疲れや、仕事の忙しい時期で睡眠不足もあったと思う」

帯状疱疹は、肌に赤く小さな水ぶくれを伴う発疹があらわれ、チクチクと強く痛み、ただれることもあります。
その原因は「水ぼうそうのウイルス」。

*皮膚科神経内科 白崎医院 白崎文朗理事長「誰でもなる病気で、80歳までに3人に1人がなると言われる。帯状疱疹は子どものころにやった水ぼうそうが再活性化して起きる。水ぼうそうは治るが、体の中にずっと(ウイルスが)残っている。それを潜伏感染という」

このウイルスは、(ヘルペスウイルスの一種)子どものころに最初にかかると、水ぼうそうとして発症します。
水ぼうそうが治っても体内にはウイルスが残っていて、大人になって免疫が落ちてくるとウイルスが再活性化し帯状疱疹となって表れます。
もともと高齢者に多い病気ですが、年々患者が増えているといいます。

*皮膚科神経内科 白崎医院 白崎文朗理事長「宮崎スタディといって、宮崎県内の患者を調べた(大規模疫学調査)研究があるが、今から10年ぐらい前と比べたら、1.3倍から1.5倍ぐらいに増えている」

その理由のひとつが、水ぼうそうにかかる子どもが減ったこと。
2014年から、子どもへの水ぼうそうワクチンの定期接種が始まり流行を防いでいます。

ところが、帯状疱疹の予防には水ぼうそうのウイルスに少し触れて免疫を活性化させた方が良く、これをブースター効果といいますが、水ぼうそうの子どもが減ったため、家族などがブースター効果を得る機会がなくなったことから、帯状疱疹が増えたと考えられています。

実は取材した白崎医師自身も、数年前に発症したといいます。

*皮膚科神経内科 白崎医院 白崎文朗理事長「自分では帯状疱疹にならないんじゃないかと実は思っていた。もともと水ぼうそうの患者をよく診察してきた。診察の時に患者から水ぼうそうのウイルスをもらって、免疫が活性化して強まることを日々やっていたから(帯状疱疹に)ならないのではないかと思っていたが、(水ぼうそうワクチンの)定期接種化で水ぼうそうの患者がすごく減ったら、自分も帯状疱疹になってしまった」

帯状疱疹の主な治療は飲み薬で(抗ヘルペスウイルス薬)、1週間から10日ほどで
治ります。
ただ、皮膚症状が治った後も神経の痛みだけが残る、合併症が(帯状疱疹後神経痛)長引くこともあるため、早期の治療が重要です。

では、帯状疱疹のサインに気づくにはどうしたらよいのでしょうか。

*皮膚科神経内科 白崎医院 白崎文朗理事長「一番特徴的なのは身体のどちらか半分に出る、右も左も出ることはまずなくて右だけとか左だけとか、どちらかに出る。症状としては痛み。チクチクとかズキンズキンとか、神経痛が出る」

予防する手立てはあるのでしょうか

*白崎医院 白崎文朗理事長「基本的には規則正しい生活を送る、無理をしない。最近は50歳以上に限ってだが、ワクチンがあるので、ワクチンで予防が可能」

50歳以上なら任意で接種できるワクチン。
2種類あり、費用や効果に違いがあり、高いものでは1回2万円程度と高額なので、医療機関などへの相談がおすすめです。
50歳以上の3人に1人が発症するといわれますが、世代を問わず、早期発見と予防に注意が必要です。

*皮膚科神経内科 白崎医院 白崎文朗理事長「誰でもなる可能性がある。9割以上の人は水ぼうそうにかかっているとと言われているので、みなさん注意が必要」

50歳以上の人が接種できるワクチンは、「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類です。
生ワクチンは1回の接種で費用は8000円程度。
抗がん剤やリウマチなどの薬を服用している人は接種できません。
不活化ワクチンは2回の接種が必要で、1回あたり2万2千円。
効果と値段に違いがあります。
接種は医師と相談の上、検討してください。

白崎医師によりますと、アメリカのある研究では50歳以上でコロナに感染した人はかからなかった人に比べて帯状疱疹が1.3倍に増えたという結果もあということです。
コロナで免疫力が落ちるためとみられています。
感染予防に努めて免疫力を落とさないようにすることが、必要なようです。
2023.01.16 20:49 | 固定リンク | 医療
「がん治療は高くない」に反応「医療費詳細」を公表
2022.12.07

「すい臓がんで余命2年」YouTuber、「がん治療は高くない」指摘コメントに反応し医療費詳細を公表

 登録者20万人超の旅系ユーチューバー、「sunny journey~サニージャーニー~」が、7日までにYouTubeチャンネルを更新。すい臓がん「ステージ4」であることを告白した旅人・みずき(32)のクラウドファンディングについて、婚約者のこうへいが改めて説明した。

 こうへいとみずきが、軽キャンピングカーで車中泊しながら日本一周していく人気旅チャンネル。11月12日の動画で、みずきがすい臓がん「ステージ4」という診断を受けたことを明かし、こうへいは「このまま何もしなければ、あと4か月。標準治療を進めて、抗がん剤で延命していったとして、長くて2年というお話をいただきました」といい、今後にかかる医療費のことをふまえ、クラウドファンディングを実施することを発表していた。しかし、クラファンについて一部批判の声が上がったことから、中止を発表。芸能界やネットからさまざまな声が上がっていた。

 騒動から約1カ月、「多くの方からクラファンをやってほしいという声を受けて…。」と題して、こうへいが一人で語る動画を更新。クラファン中止発表後に「クラファンをやるべきだ」という声が2人のもとに多く届いたといい、これらの声に対し説明する形で、医療費についての詳細を明かした。

 こうへいは「ちなみに恥ずかしながらガン保険は入ってません」とし、今後の治療は「高額医療費制度」を利用することで費用を抑えるという。みずきの場合、病気が発覚して最初の月の医療費は「ほとんど検査だったんですけど、検査と入院で28万円でした」と告白。これから上がっていく可能性が高いと言い、高額医療費制度の計算に基づいて、仮に1カ月50万円がかかる場合、80100円に「500000―267000×1パーセント」を足した額になるといい、この計算が「2330円」となるため、ひと月82430円の支払いが生じるとした。

 その他食事代や洗濯代がかかるため、年間約100万円かかる計算に。こうへいは「結構、“高額医療費制度があるからがんの治療費なんてそんなにかかんないよ”というコメントがあったんですけど、僕の感覚としては決して安くないかなと思ってます」と吐露。さらに、保険適応外の治療にもお金がかかるといい、「セカンドオピニオンは、1つ受けると1~3万円。コメントでおすすめされた高濃度ビタミンCの注射は、1回2万円でした。これを週3回、1年間継続すると年間288万円かかってきます。これがいわゆる自由診療ですね。他にも有名なのは免疫治療というものがあるんですけど、僕らが見積を出してもらったのは、1クールで400万円なら安い方でした」と報告した。

 「“がん治療はお金がかからないよ”というのは全然違うなと思っていて、がん治療は結構お金がかかります。ただ、クラファンが必要かどうかという観点で言えば、僕たちが現状受けたい治療と今後の生活費を加味しても、今までいただいたクリエイター支援、収入の予想を考えると、何とかなりそうかなと、今のところは考えております」と、クラファン中止に至るまでの経緯を明かし「今いただいているお仕事を、みずきの無理のない範囲で受けていって、なんとかなりそうかなと思っております」と前向き。「もしも今後、海外での治療を受けたらみずきが助かりそうだとか、この治療を受けると助かる可能性が高くなるとか、そういうことが出てきて、それが何千万円とかかるとなると、クラファンさせていただくこともあるかもしれませんが、その時はどういう治療で、いくらかかるというのを提示させていただきます」とした。
2022.12.07 21:44 | 固定リンク | 医療
渡辺徹さん急逝 「食中毒」
2022.12.07

俳優・渡辺徹さんはわずか8日で急逝 「食中毒」には命を落とすリスクが…他人事ではない!

 グルメな俳優の突然の訃報に驚いた人は少なくないだろう。先月28日に亡くなった俳優渡辺徹さんだ。一般には耳慣れない敗血症で、61年の生涯に幕を閉じたが、その急変ぶりは決して他人事ではないという。

 渡辺さんに異変が生じたのは先月20日。所属した文学座によると、発熱や腹痛などの症状が現れたため、都内の病院で検査を受けたところ、細菌性胃腸炎と診断されて入院。

 その後、敗血症を起こし、入院からわずか8日後に帰らぬ人となってしまった。

 細菌性胃腸炎は、いわゆる食中毒だ。それが敗血症に至るのは、なぜなのか。東京都健康長寿医療センターの元副院長・桑島巌氏が言う。

「体に細菌やウイルスなどの病原体が感染すると、それらから身を守る免疫反応が生じたり、傷口が修復されたりします。その生体メカニズムが適切に制御されていれば問題ありませんが、制御不能となって臓器障害を引き起こした状態が敗血症です。感染経路は、肺炎や尿路感染症が多く、細菌性胃腸炎をはじめとする腸管感染症や、手足の傷口などからの感染もある。年間10万人が亡くなり、重症化因子は糖尿病、肝臓病、がん、高齢者などです」

 厚労省によると、昨年の食中毒発生状況は、全体で717件発生。患者数は1万1080人に上る。

 全国の患者数を月別に表したのが表①だ。梅雨に入る6月が多いのは例年通りだが、昨年は4月が6月を上回っている。昨年4月は、岡山で提供された弁当給食がノロウイルスに汚染されていて2545人が、愛知でも給食のノロ汚染によって158人が食中毒に。これらが例年以上の感染者数の要因だが、食中毒はほかの月も確実に発生している。患者数はともかく、食中毒の件数は例年、6月前後より年末の方が多い傾向だ。

調理済みにも多発、持ち帰り総菜は注意
2021年原因施設別発生状況(左)と原因食品別発生状況(C)日刊ゲンダイ

 どんなものを、どこで口にして、食中毒になることが多いのか。昨年は富山で汚染された牛乳で大きな被害が出たことで乳製品の患者数が多いが、魚介類や肉類、野菜類などは満遍なく被害が発生している。注目は複合調理品で、被害の詳細を見ると、火を通した総菜などが原因食品になっていることが珍しくない。決して生魚や生肉だけではないのだ。

 その点で発生施設を見ると、飲食店がトップ。不衛生な店は論外だが、家庭で多発しているのも事実で、生ものだけでなく、持ち帰った総菜なども注意すべきだろう。

 お腹を下して嘔吐や下痢を繰り返すのは、つらい。感染による高熱も重なると、なおさらだが、それでも感染前に健康な人なら数日で回復するだろう。実際、昨年の感染者数は1万人を超えても、死者数は2人のみ。例年、その程度だ。

 ところが、渡辺さんは食中毒から敗血症を起こし、命を失った。それも61歳の若さで、だ。最悪の転帰をたどったのは、なぜなのか。桑島氏は、「あくまでも報道から推測されることですが」と断った上でこう言う。

「報道によると、渡辺さんは30代で糖尿病を発症されていて、50代からは腎機能の低下によって人工透析を受けていたといいます。糖尿病と腎不全の影響は、とても大きいでしょう。一般に糖尿病の人は免疫力が下がりやすく、感染リスクが高くなります。血糖コントロールが悪い人はなおさらで、そんな人が何かの手術を受けるときは、術中の感染リスクを下げるため血糖値を下げてから行われますから。さらに腎不全で、人工透析を医療機関で受ける場合、月水金など週3回が原則で、透析との間隔が1日か2日空きます。その間、尿は排出できず、体にたまった状態。人工透析は、敗血症が重症化しやすいのです」

 渡辺さんの悲劇が、決して他人事でないのは、まさにここ。生活習慣病の一つである糖尿病がベースにあって、それをこじらせたことが影響していると思われるためだという。

「糖尿病には、末梢神経の感覚がマヒする神経障害、失明のリスクになる網膜症、そして腎不全を起こす糖尿病性腎症が3大合併症。渡辺さんが腎不全で人工透析を余儀なくされたのも、糖尿病の悪化と考えられます」

「国民健康・栄養調査」(2016年)によると、糖尿病の人は予備群を含めて2000万人。

 同じ調査で患者数は4300万人とされる高血圧も、治療をおろそかにすると腎臓に悪影響を及ぼすことが分かっていて、慢性糸球体腎炎が悪化すると人工透析が必要になることが少なくない。

「人工透析の導入要因となる病気はいくつかありますが、2大因子が糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎です。つまり、糖尿病や高血圧がある人は、しっかりと治療を受けて持病を悪化させず、腎臓を守ることが大切。腎不全になる前の段階で治療を受けていれば、人工透析の導入を免れることができますが、腎不全と診断されると、人工透析が避けられませんから」

■「2分の1の法則」が浮き彫りになる現状

 糖尿病と高血圧は、今や国民病。いずれかに当てはまる人は、渡辺さんの死を教訓に病気と向き合って、しっかりと治療を受けるべきだが……。

「企業健診などで糖尿病や高血圧などを指摘されても、自覚症状がないため、治療を受けずに放置する人がとても多いのが現状です。その現状を如実に示すのが、高血圧治療の『2分の1の法則』で、高血圧患者のうち治療しているのは大体全体の半分で、治療しているグループのうち血圧基準を達成しているのがその半分。つまり、治療していても、半分は未達ということ。一方、治療していないグループのうち、およそ半分は高血圧の認識があり、残りの半分は認識がありません」

 なるほど、16年の「国民健康・栄養調査」の結果も、およそ桑島氏の指摘通りの結果だ。まず治療群は全体の56%で、目標達成が27%、未達が29%とほぼ半々。残りの未治療群44%は半々とはいかないが、それでも高血圧の認識アリ11%、認識ナシ33%となっていて、全体で見ると「2分の1の法則」が当てはまるといっていい。

「治療もせず認識もない人は検診を受けて治療すること。治療中で未達の人、未治療でパスしている人は、とにかくなるべく血糖値や血圧などの数値を下げることが大切です。たとえ腎不全にならなくても、心筋梗塞や脳卒中など死に直結する合併症を招く恐れがあります」

 渡辺さんは亡くなる直前まで毎日のようにSNSを更新。グルマンだけにその写真は、おいしいものであふれる。人工透析患者とは思えないほどだが、その更新がストップしたのが先月19日。その翌日に細菌性胃腸炎で入院した。わずか8日後の急逝は家族を苦しめ、妻の郁恵さんは憔悴しているという。今回の訃報に驚いた人は、自分のためにも家族のためにも食事などに気をつけながら受診することだろう。
2022.12.07 12:34 | 固定リンク | 医療

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