暗号資産「創業者」逮捕は口封じ
2022.12.14

暗号資産の「寵児」逮捕は口封じだった?陰で胸を撫で下ろした人々

不透明融資が明るみに出て経営破綻したFTXトレーディングの創業者サム・バンクマン・フリード(30)が12月12日に突然逮捕されたことで、その翌日に予定されていた米議会公聴会での彼の証言は中止された。法律の専門家によれば、バンクマン・フリードが証言していれば、暗号資産業界にとっても、かつて暗号資産のカリスマといわれたこの男にとっても、非常に都合の悪いことになっていたかもしれない。

FTXは暗号資産取引所として業界最大手の1つだったが、ほぼ一夜にして崩壊した。暗号資産版「リーマンショック」と呼ぶ人もいる。

バンクマン・フリードは13日に米下院金融サービス委員会にオンラインで参加し、FTXの経営破綻に関して証言を行うことになっていた。ところがその前日に、米検察当局に詐欺とマネーロンダリングの容疑で刑事告発され、本拠地にしているバハマで逮捕されたのだ。

13日の公聴会は予定通り行われたが、共和党議員からはバンクマン・フリードの不在について、連邦当局が意図的に彼の証言を封じたのではないかと非難めいた声が聞かれた。バンクマン・フリードは民主党の大口献金者でもあったからだ。

金融サービス委員会の委員長を務める進歩的なマキシン・ウォーターズ下院議員も、「この逮捕のタイミングは、国民が宣誓中のバンクマン・フリードから直接話を聞く機会を奪っている」と、13日の展開に憤慨した。

検察の早まった決断か
今回の逮捕は、アメリカの法執行機関ではなくバハマの当局によって行われたが、法律の専門家は、予定されていたバンクマン・フリードの証言が終わるまで待つべきだったという。

元連邦検事のマイケル・マコーリフ州検事は本誌に対し、バンクマン・フリードが宣誓のもとで証言していれば、連邦政府当局は、司法省が調査している問題について貴重な情報を得ることができたかもしれないと語った。

また、ネアマ・ラーマニ元連邦検事は、バンクマン・フリードは法的助言を無視することで知られているため、下院委員会で犯罪的行為を自白していた可能性が高く、その後に逮捕したほうが罪を認める可能性が高かっただろうと本誌に語った。

「犯罪の容疑で捜査されそうになっているとき、普通の人なら議会での証言など拒否するだろう。だが、バンクマン・フリードは普通の人間ではない。彼は自分の考えに従うだけでなく、法的な助言には逆らう」と、ラーマニは言う。「証言は多くの理由で役に立っただろう。検察はバンクマン・フリードの逮捕を待つべきだった」

逮捕のタイミングは米連邦検事局が指揮していたのだから、バンクマン・フリードの議会証言の前に逮捕を決断する「唯一の正当な理由」は、国外逃亡の懸念だけだ、とラーマニは言う。「そうでなければ、検察は早まった」。

ウィスコンシン大学のイオン・マイン准教授もこれに同意する。容疑者が犯罪人引き渡し条約のない国への逃亡を計画している、あるいは証拠隠滅の懸念があるなら、逮捕に踏み切ることもあると本誌に語った。

そうでもないのに当局がこれほど急いで逮捕に踏み切ったことは、複雑なホワイトカラー詐欺事件としては異例と思えるが、起訴状の内容からすれば、捜査は「かなり長い間」続いてきた可能性も高いとマコーリフは言う。

「連邦政府による捜査は、FTXが現実に破綻するよりずっと前から行われていたのかもしれない」と彼は述べた。

バンクマン・フリードが自社の失敗について議会で証言するという決断は、多くの人を驚かせた。特に、経営破綻後にFTXから距離を置こうと躍起になっていた暗号通貨の擁護者たちは仰天した。

逮捕に先立ち、シンシア・ルンミス上院議員(共和党)は、自分が彼の弁護士であったら、間違いなくバンクマン・フリードに証言しないように勧めると語った。「彼が委員会に出席するなんて、とんでもないことだ。それは大きな間違いだと思う」と、彼女はニュースサイト「セマフォー」のジョセフ・ゼバロス・ロイグ記者に語った。

適切な規制への一歩
ゼバロス・ロイグは、「暗号資産業界全体にさらなる汚名を着せることになりそうな破滅的な公聴会」を覚悟していた仮想通貨業界の幹部と投資家にとって、バンクマン・フリードの逮捕は、まさに天の恵みだったと報じた。

ブロックチェーン開発会社ソリダリティのアレックス・マカリーCEOは「バンクマン・フリードの逮捕は、暗号資産業界と世界中にいるFTXの顧客にとって前向きな一歩だ」と述べた。「彼の逮捕は、FTXの被害者に対する説明責任と正義に向けた正しい方向への一歩であり、これが集中型取引所に対する適切な規制を当局に促すことを願っている」

FTXの創業者は結局、公聴会に姿を現さなかったが、アメリカン大学のジェームズ・サーバー教授(行政学)は、13日の公聴会は暗号通貨分野の規制にとって依然として重要だと述べた。

サーバーは本誌の取材に対し、多くの議員が暗号資産規制のための法案提出に積極的に取り組んでいることから、「FTXの破綻は、明確なルールと米政府の直接的な監視がない場合に、顧客の資金に何が起こりうるかを示す好例の1つになった」と語った。
2022.12.14 21:15 | 固定リンク | 経済
年明けにも備蓄尽き…ウクライナに全土奪還される可能性
2022.12.14

ロシア軍〝弾切れ〟目前 年明けにも備蓄尽き…ウクライナに全土奪還される可能性 イランや北朝鮮からの供与なく軍の士気低下も

ロシアのプーチン大統領が主導したウクライナ侵攻がいよいよ行き詰まってきた。ロシアが一方的に併合を宣言した東・南部4州の5割超が奪還され、軍の砲弾は年明けにも備蓄が尽きるとの分析も出ている。対するウクライナは「全土奪還」へ意気軒高だ。

「ウクライナ軍はすぐそばまで来ている」。ロシアが併合を宣言した南部ザポロジエ州メリトポリのフョードロフ市長は13日、中心部で爆発があったと通信アプリで明らかにしたうえで、ロシア側を挑発した。メリトポリはロシア軍の物流拠点で、2014年にロシアが併合したクリミア半島の「玄関口」に当たる。

英国防省は、ロシアが侵攻開始以降に制圧した地域の54%をウクライナが奪還したとの見解を示した。ロシア軍が支配地域を制圧できるほどの軍部隊を編成するのはほぼ不可能で、今後数カ月で大きく前進する可能性は低いと分析する。

米高官は、約10カ月に及ぶ侵攻でロシア軍の砲弾やロケット弾の備蓄が尽きつつあり、40年以上前に製造された古い砲弾を使う可能性があると述べた。ロイター通信が報じた。古い砲弾に頼らず、イランや北朝鮮からの供与もないまま現在のペースで攻撃を続ければ、来年初めには使用可能な砲弾の備蓄が尽きるとの見方を示した。

ロシア軍は士気低下も指摘されるが、ウクライナの独立調査機関「レイティング」は13日、クリミア半島や東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の一部を含む全土奪還を「勝利」と認識する人が85%に上ったとの世論調査結果を発表した。侵攻直後の今年3月から11ポイント上昇した。

ロシアとの和平合意締結に賛同したのは8%にとどまった。ロシアの攻撃で大規模な停電が相次いでいるウクライナだが、国民の結束は引き続き強いとみられる。
2022.12.14 20:54 | 固定リンク | 戦争
逮捕された友人の中には消えてしまった人もいます....
2022.12.14

イラン、反政府デモの参加者に相次ぎ死刑判決 週末から5人に イランでは15日からまた新たなデモの波が各地で起きている

イラン・テヘランの革命裁判所は15日までに、反政府デモに参加した4人に対して、死刑を宣告した。「神への敵意」が罪状となっている。反政府デモに参加して死刑判決を受けたのは、13日以降、これで5人になった。

司法当局のミザン通信によると、革命裁判所は、死刑判決を受けた「反乱者」の1人は、車で警官を倒し殺害したと認定した。

2人目は刃物と銃を所持し、3人目は交通を妨害し「恐怖」を引き起こしたと、裁判所は説明したという。

ミザン通信によると、4人目は刃物を使った襲撃で有罪になった。

人権団体は、不当裁判によるものだとして、相次ぐ死刑判決を強く非難している。

ノルウェー拠点の人権団体イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)のマフムード・アミリー=モグハダム代表はAFP通信に、「抗議者が取り調べを受ける間、弁護士は同席しない。身体的にも精神的にも拷問され、うその自白をするよう追いつめられる。判決はその虚偽の自白をもとに下される」と話した。

裁判所は、死刑判決を受けた5人の身元を明らかにしていない。しかし、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、起訴内容から、モハマド・ホバドロウ、マノウシェル・メフマン・ナヴァズ、マハン・セダラト・マダニ、モハマド・ボロウハニ、サハンド・ヌルモハマド=ザデの各氏ではないかとしている。

アムネスティ・インターナショナルによると、治安関係の容疑で拘束されている抗議者のうち、イランのシャリア法で死刑の対象になり得る「神への敵意」や「地上の腐敗」などの罪状が適用される可能性のある人は、少なくとも21人に上る。

イランでは、9月に髪の毛を覆うヒジャブを「不適切に」着用していたとして道徳警察に逮捕されたマサ・アミニさん(22)が、その後に死亡した事件をきっかけに、各地で激しい反政府デモが続いている。

国外を拠点とするイラン人権活動家通信(HRANA)によると、これまでに少なくとも抗議に参加した348人が治安当局に殺害され、1万5900人が拘束されている。

イラン政府は一連の抗議を、外国の後押しを受けた「反乱」だと非難している。

「流血の11月」
活動家たちは、「流血の11月」と呼ばれ、2019年11月15日に始まった前回の全国的な反政府の抗議行動を記念するため、3日間のデモやストライキを呼びかけた。

15日から各地で新たに抗議デモが相次ぎ、新たに12人が殺害されたとされている。

首都テヘランをはじめ複数の都市で、「人間の鎖」を作った人たちが最高指導者アリ・ハメネイ師ら政府幹部を非難し、「独裁者に死を」と連呼する動画などが、ソーシャルメディアに投稿されている。

テヘランの地下鉄駅では、ハメネイ師は「倒される」と連呼する集団が、女性の着用が義務化され、反政府活動の象徴となっているヘッドスカーフを燃やした。

別の動画では、地下鉄車内で警官たちが人を殴打しているように見える。さらに別の動画には、治安当局が発砲し、大勢が倒れるなどしながら逃げようとしている様子が映っている。

16日夜には国営メディアが、南西部イゼの市場で武装「テロ関係者」が抗議者や警官に発砲し、少なくとも5人が死亡したと伝えた。フゼスタン州の副知事は、死者は男性3人、女性1人、少女1人だと述べた。

反政府活動家団体「1500tasvir」によると、イゼでは多数の死傷者が出ている。同団体は、治安当局が10歳少年を殺害したと非難。また、市内の神学校に放火する抗議者の様子だという映像も投稿した。

これに先立ち、クルド系人権団体ヘンガウは、クルディスタン州北西部のカミャラン市で、治安当局が男性の抗議者を射殺したと伝えた。15日にやはり治安当局に射殺された別の男性の自宅近くに立っていたのだという。また、近くのサナンダジ市でも男性2人が殺害されたとしている。同州は、一連の抗議のきっかけとなったアミニさんの地元。

ノルウェーを拠点とするヘンガウは、隣接する西アゼルバイジャン州では15日夜に、抗議者がブカン市を制圧したと伝えている。

国営メディアは、ブカンとカミャランで「反乱者」たちがイスラム革命防衛隊の大佐など2人を射殺したと伝えている。さらに南部シラズでは、イスラム革命防衛隊配下の民兵組織バシジに属するイスラム教指導者が、火炎瓶を投げつけられて死亡したという。

国営メディアは9月からの一連の抗議で、治安当局の38人が死亡したと伝えている。HRANAは43人だとしている。

2022.12.14 19:35 | 固定リンク | 国際
ロシアの最新兵器はどこへ消えたのか、統計数字の謎を暴く
2022.12.14

ロシア軍の侵攻から9か月が過ぎた。この間、ハルキウ~イジューム、へルソンがウクライナ軍に奪還された。       

 東部では、ロシア軍が果敢に何度も攻撃するもののウクライナ軍に撃破されている。

 南部では、両軍の砲撃は続いているが、ウクライナ軍は攻勢準備中で、ロシア軍は防御のための壕を構築している。

 この期間のロシア軍の損失(ウクライナ軍参謀部発表)をみると、兵器の種類によって、損失の多い時期が異なっている。

 基本的には侵攻当初が最も多いのだが、その後減少して、7か月後から増大しているものもある。また、兵員の損失も同じような傾向がある。

 この増減は、主に戦いの様相が変わったことによるものである。

 地上軍の戦車・装甲車、火砲など、および兵員の損失に区分して、損失の変化と理由、充足の可能性および今後の戦闘の予測について考察する。

■ 1.消耗激しいロシア軍の戦車・装甲車

 ロシア軍は、侵攻当初には月に500両を超える戦車の損失を出した。

 その後は、再編成後の攻撃、東部南部での一進一退の戦闘、ハルキウ~イジュームでの撤退、へルソンでの撤退の攻防があり、200~400両の損失を出している。

 合計2900両の損失だ。

 その損耗は、投入数(充足数の90%、筆者算定)約7900両の37%を占めている。

 装甲車は、約5800の損失であり、投入数8400両の約70%だ。

 ロシア地上軍の戦車の損失は月間約300両、装甲車の損失は月間650両の損失が継続的に出ている。

 侵攻後、戦車の月毎の損失数

 侵攻後、装甲車の月毎の損失数

 (図が正しく表示されない場合にはオリジナルサイト=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73107でお読みください)

 現場の戦車や装甲車化の部隊長としては(部隊長は死傷していなくなり代理の部隊長かもしれないが)、半数の兵器が破壊され、兵員の半数が死傷している場面を見ている。

 ドローンの映像を見れば、ゲーム感覚かもしれないが、現場の部隊長や兵士たちにとっては、悲惨で壮絶な状況であろう。

 今後の戦車兵の戦いはどうなるのか。

 大きな損失が出ても、戦いを強要される部隊長や兵士たちは、壕の中に入り、防御をするようになる。とても、攻勢に出ることはできない。

■ 2.侵攻7か月後から急増した火砲等損失

 戦車・装甲車の損失は、侵攻開始から1~3か月間の損失が最も多かった。

 だが、火砲等(榴弾砲・迫撃砲・多連装砲)は、侵攻開始から3か月の間も多かったが、6か月後に徐々に増加し始め、7~8か月後には350門/月を超えるほど急激に増加した。

 この損失の推移の特色は、火砲等だけである。

 火砲等の月毎の損失数は、平均250門、9か月後は約2300門である。投入数約4000門の60%を占めている。

 侵攻当初は、ウクライナ軍の火砲、航空攻撃、自爆型無人機による攻撃の成果である。

 その後、航空攻撃や火砲の射撃はできなくなり、ロシア軍火砲等の損失は、いったん減少した。

 その後の火砲等の損失数の増加は、欧米から供与されたHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)などの長射程精密誘導ロケットや砲の射撃成果が現れている。

 グラフには現れてはいないが、ウクライナ軍は、HIMARSなどでロシア軍の弾薬庫を多数破壊している。

 兵士へのインタビューで、「侵攻当初、こちらが火砲の射撃をすると、10倍以上の火砲の反撃があった。最近では、ロシア軍の反撃は少なくなった」と発言していた。

 下のグラフにあるとおりの結果が、戦場兵士の言葉にも現れている。

 侵攻後、火砲等(榴弾砲・迫撃砲・多連装砲)の月毎の損失数

 今後の砲兵の戦いはどうなるのか。

 ウクライナ軍のHIMARS等の射撃は続くであろう。壕に隠れていても発見され攻撃されて、投入された火砲は、近いうちに射撃ができなくなる。

 保管されている火砲が、戦場に導入されるだろう。問題は、使える兵士がいるかだが、砲を操作できる兵士を育てるには時間がかかる。

■ 3.再び増加し始めた兵員の損失

 ロシア軍兵員の損失は、侵攻当初の1か月間が最も大きかったのだが、5~6か月後から徐々に増加し、9か月後には当初の記録を上回った。

 傾向としては、戦車・装甲車、火砲の損失と似ているが、9か月後が特に目立って多い。8か月後から7000人増加して、約2倍に近い数字だ。

 侵攻後、兵士の月毎の死者数

 その理由は、ウクライナ軍が反撃に出ていること、ロシア軍の撤退時の混乱があったこと、HIMARS等の兵器の効果があったからだ。

 だが、他の兵器ではなかった9か月後に最も多いということは、別の理由も考えられる。

 新たに招集された兵士が、訓練も十分に受けずに戦場に行かされていること、そして、東部で無謀な攻撃をさせられていることがうかがえる。

 へルソンからクリミア半島にかけて、ロシア軍は塹壕を掘り、兵士や戦車などを守る戦法を取っている。

 だが、東部では、無謀な攻撃を何度も何度も繰り返して、兵士たちが死傷しているのだ。

■ 4.保管する戦車・装甲車を投入できるか

 (1)屋外に置かれ錆びついた戦車・装甲車を戦場に投入できるのか

 ロシア軍は、前述した戦車等(戦車・装甲歩兵戦闘車)・装甲車、火砲等および兵員の損失を補えるのだろうか。

 これらの損失を補うのには、戦場に送り出して使用できる予備の兵器があるか、また、予備役兵がいるのかどうかにかかってくる。

 ロシア軍の予備の戦車等は、ミリタリーバランス2017~2021のデータによれば、約1万0200~1万7500両(内訳、T-55:0~2800両、T-62:0~2500両、T-64:0~4000、T-72:7000両、T-80:3000両、T-90:200両)、装甲歩兵戦車8500両が保管(in store)の状態となっている。

 装甲車は約6000両もある。

 数値に差があるのは、関係する分析担当者が、これらはもう使えない兵器として換算すれば、「0」と見なして数値を決定するためだ。

 敵国の陸上兵器の数量を詳細に算定するのは、極めて難しい。

 その数量を見ると、戦車が2万6000両で、投入数の約3倍以上、装甲車は6000両で、まだその70%もある。

 これらが実際に使える状態にして保管されているのかどうかだ。

 ソ連軍が解体された時期の写真では、保管のT-72およびそれより旧型の戦車等は、広い駐車場のある一角に置かれ、キャンバスが上から被せられていただけのもので、放置に近い状態だった。

 特に、戦車の砲身内部は塗装されていないので錆びやすい。大きな腐食があれば、爆発の強い圧力で砲弾を発出することができない。

 腐食の部分で、砲口内破裂が発生するからだ。

 砲塔部分は回転できなければならないが、回転部分が錆びていれば、砲身を敵戦車に向けられない。

 一番大きな問題は、エンジン部分だ。

 エンジンが車体にそのまま据え付けられて放置されていれば、腐食で使えない。つまり、ロシア軍の保管されている戦車・装甲車等ほとんど使い物にならないと見てよい。

 この時期から現在までは、30年ほど経過している。

 私の記憶では、動かされた、整備されたという情報は全くなかった。

 将来使用することを考えた保管は、エンジン、砲身内部、その他の可動部が錆びないようにしなければならない。

 例えば、エンジンは1週間に1度は駆動させる。もし気温が零下に下がれば毎日実施する必要がある。

 また、月に1度は油を付けてブラッシングする。可動部は、錆で動かなくなるので、定期的にグリスを注入することが必要だ。

 ロシアの保管状態の戦車等をもしも復帰させようとすれば、20~30年間分の錆を落とし、分解して部品を交換し、作動させなければならない。

 エンジンは、整備によって復帰させることはほぼ不可能に近い。

 これらのことから、保管されているロシア軍のほとんどの戦車は、錆がひどくて、整備しても復帰させられることはないだろう。

 (2)保管されている戦車・装甲車が他国に横流しされている可能性

 保管されている戦車・装甲車が使えないのには、腐食のほかにも理由がある。

 一つの理由は、ロシア軍の戦車等が横流しされていて、旧型の戦車が実際に軍参謀部が記録しているだけの数量がないのではないかということだ。

 北朝鮮は旧ソ連時代から、T-55やT-62戦車、PT-76軽戦車を引き渡され、現在約4100両保有している。

 これよりも新型は、約10両しかない。

 また、装甲車を約2500両保有していることになっている。ほとんど旧ソ連(中国は一部)から導入したものだ。

 ソ連邦崩壊から現在でも、ロシア軍の旧式戦車は北朝鮮に渡っている。また、シリア、中東の国の反政府組織に秘密裏に渡っているという情報もあった。

 これと併せて弾薬も密売されているようだ。

 ソ連邦崩壊後、弾薬庫が原因不明火災で爆破するという事故が多発した。その理由は、弾薬を盗んだ者が、その事実を隠すために、弾薬庫に火をつけたということだった。

 もう一つの理由は、ロシアで保管されている新型のT-80は、戦場に投入できないということだ。

 例えば、ロシア軍がウクライナの戦場で使用している戦車(装甲歩兵戦闘車を含まず)は、T-62/64数量不明、T-72戦車1900両、T-80戦車450両、T-90戦車350両から一部残して投入されたものだ。

 この数値にあるように、T-72戦車が主力だ。

 それよりも新しいT-80戦車約3000両は保管状態にある。本来であれば、数量が最も多くて新しいT-80戦車が主力戦車であってもよいはずだが、実際の戦場ではそうではない。

 これはかなり不思議なことだ。なぜなのか。分析担当官の誤りなのか、それとも特別のからくりあるのだろうか。

 ロシア軍に余裕があるから新型の戦車を投入していないのか、あるいは、ロシア本土防衛のために残しているのかもしれない。

 しかし、なぜロシアはせっかく獲得した領地が奪還されている段階でも、新型戦車を多数投入しなかったのか。

 それは、保管されているT-80戦車は、使えないと考えると次のことが浮かび上がってくる。

 情報がないので100%の推測なのだが、軍の保管敷地内にあるのは形だけの戦車であって、重要な部品、例えば、エンジンや照準装置などは外され、友好国に輸出され、新型戦車に組み込まれているのではないかということだ。

 T-80は比較的新型なので、腐食は少ないはずだ。また、機能的にも優れているはずなので、速やかに戦場に投入してもよいはずだが、そうではない。

 使えないという可能性が高い。

■ 5.保管の火砲等を戦場投入できるのか

 ロシア軍の予備の火砲等(榴弾砲・多連装砲・迫撃砲)は、ミリタリーバランス2017~2021のデータによれば、約2万2100門(内訳、自走榴弾砲約4300門、牽引榴弾砲約1万2000門、多連装砲3200門、迫撃砲約2600門)が保管(in store)の状態となっている。

 その数量を見れば、投入数約2600門の約9倍で、無尽蔵にあるという感じだ。

 だが、それらは約30年間、野ざらしにされた結果の腐食があり、ほとんど使い物にならないか、もしも使える可能性があっても、使えるまでに回復させるには多くの時間と部品が必要になる。

 例えば、自走榴弾砲はエンジンと砲身の腐食、牽引榴弾砲は砲身と射撃の緩衝装置の腐食、自走多連装砲はエンジンの腐食が、回復できなくしているだろう。

 迫撃砲は、砲身の腐食が少なければ回復が早い。

 回復には、優秀な整備員や部品が確保されているかどうかだ。

 ソ連軍が解体されたときに、多くの研究者や整備員が失職した。私が、約30年前にモスクワを訪問した時に、聞いたことだが、中高年の男達は、工場に行って、何もしないで酒ばかり飲んでいるという話があった。

 それから約30年が過ぎ、現在その30年前の火砲を修理・整備できるだろうか。私は、一部を除いて、ほとんど不可能だと見ている。

 ロシア軍の火砲は、戦車等と同様に、かつて北朝鮮や中国に供与された。

 現在、保管されていることになっている火砲は、近年、北朝鮮に横流しされている可能性がある。

 なぜ横流しをしているのかというと、整備兵たちの給与が少なかったり、支給されなかったりした期間があったために、兵器を横流しして利益を得ていたというのだ。

 ソ連邦が崩壊した後には、このような情報は至る所にあった。

 火砲そのものも他国に横流しされているが、火砲の部品も同様だ。

 古い火砲を使わないのであれば、火砲そのものから部品を外して、あるいは倉庫にある部品を横流ししても、表面上は何も問題はない。

 かつて、兵器の部品が密輸されている情報も多くあった。

 このようなことで、保管されている兵器をロシアの軍倉庫から出して、次から次へと戦場に送り出すことはできない。

 野ざらしにされている兵器を戦場に復帰できる数量は、かなり少ないだろう。

■ 6.長期戦になればロシアが有利なのか

 ウクライナとロシアの戦いは、「消耗戦になる」「ロシアは長期戦に持ち込めば勝利できる」という情報があるが、どうなのだろうか。

 ロシア政府指導部やロシア軍参謀部はこれまで、「多くの損失が出ても、保管している兵器が十分にある」「補充できる兵士はいくらでもいる」と考えているかもしれない。

 これまで述べた損失をどう見るか。

 ロシア政府指導部特にウラジーミル・プーチン大統領はこう考えているのかもしれない。

 「ロシアには、強大であった旧ソ連軍が残してきた多くの兵器がある。戦車がまだ63%も残っていて、保管場所には投入した兵器の何倍もの数の兵器がある」

 「兵員も招集すれば数百万人いる。これらを投入して、持久戦に持ち込めば勝算はある」

 強大な旧ソ連軍の遺産は、軍の解体、予算の削減、給与未払いで、保管兵器は野ざらしで腐食し、そればかりではなく軍の組織、兵員の気力までも蝕まれてしまった。

 野ざらしにされた大量の兵器が、戦場に送り出されているという情報はない。

 兵器の心臓部が錆びで腐食し、回復に時間がかかっている。あるいは、もう回復できない状態にある。

 ソ連邦が崩壊して、兵士に給与が支払われない時期が長期間続いた。それを埋め合わせるために、北朝鮮・中国や紛争国に兵器・弾薬を引き渡し(横流し)てきた。

 現役や建造中のソブレメンヌイ級駆逐艦やスクリュー音の静粛性が高いキロ級潜水艦でさえも、中国に引き渡してきた。

 戦場の部隊長は、戦車が3分の1、装甲車が3分の2以上損失、合わせると半数が撃破され、多くの兵士が死傷している現場を見ている。

 負傷した兵士を助けることもできないでいる。

 この9か月間に死傷した兵士のほとんどは、兵器を使いこなせる古参の兵士たちだった。彼らがいなくては、兵器があっても使用できない。

 新たに招集された兵士は、せいぜい銃の取り扱い、壕を掘ることや警戒しかできない。

 ロシア地上軍の兵器の実情から、ロシアは今後、大きな攻勢に出られるという期待はほとんどない。

 作戦は、防勢にならざるを得なくなってきている。その防勢が上手くいかず、さらに撤退を余儀なくされる地域も出てくる。

 ロシアはこれまで、ウクライナの領土だけで戦っていればよかったが、これからは、ロシア国内への攻撃の可能性もあると考え、モスクワおよびモスクワに至る都市を守るための準備をせざるを得なくなる。
2022.12.14 16:12 | 固定リンク | 戦争
クリミア玄関口攻撃爆発!
2022.12.14

ウクライナ、ロシア軍の拠点破壊 クリミア玄関口で爆発も

ウクライナ軍は13日、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部ザポロジエ州で、メリトポリを含む複数のロシア軍拠点を過去数日の間に破壊したと発表した。メリトポリのフョードロフ市長は13日、中心部で爆発があったと通信アプリで公表。この爆発もウクライナ側の攻撃の可能性がある。

 メリトポリはロシア軍の物流拠点で、14年にロシアが支配下に置いた南部クリミア半島への「玄関口」に当たる。

 フョードロフ氏は12日にも、メリトポリと近郊の集落を結ぶ橋で爆発があったとし「ウクライナ軍はすぐそばまで来ている」とロシアを挑発するコメントを通信アプリに投稿した。
2022.12.14 11:53 | 固定リンク | 戦争

- -