ロシア、24時間で戦車55両・兵士1380人損失
2023.10.26
10月24日にロシアとウクライナの戦争に関する情報を扱っているテレグラムチャンネル「Karymat」に投稿され、ソーシャルメディア上で共有された動画には、ウクライナ空軍の旧ソ連製スホーイSu27らしき戦闘機が標的に向けてミサイルを発射して飛び去る様子が映っている。この戦闘機の標的が何だったかは不明だが、Karymatチャンネルは、「敵の空中目標」に向けて「空対空ミサイル」を発射したと説明している。

ロシアがウクライナに本格侵攻してから18カ月以上が経つが、両国は今も激しい空中戦を繰り広げている。ロシア軍にとって、侵攻後すぐにウクライナの制空権を掌握できなかったことは、最大の失敗のひとつだ。ロシア軍の巡航ミサイルやドローンは今も、ウクライナ上空を飛行して各地の標的を攻撃しているが、ロシア空軍の航空機が危険を冒してウクライナ内陸部深くに飛行していくことは滅多にない。米国製の地対空ミサイル「パトリオット」など、西側諸国が供与した防空システムがウクライナに到着していることで、ロシア側にとって危険は増す一方だ。

■ATACMSでロシアの損失拡大

戦争中の兵器類の損失を集計するオランダのオープンソース調査会社「Oryx」によれば、2022年2月24日の本格侵攻以降、ロシア軍の航空機85機が破壊され、さらに8機が損傷を受けた。この中にはスホーイSu25近接支援用攻撃機30機、スホーイSu30SM多用途戦闘機11機とスホーイSu34戦闘爆撃機21機が含まれている。

このほかにもヘリコプター102機が破壊され、28機が損傷し、2機が鹵獲された。この多くが、ウクライナ東部のルハンシクと南部のベルジャンシクにあるロシア軍の拠点に対して、ウクライナ軍が初めて米国製の陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)を使用した際のものだ。

ウクライナ側の報告によれば、ロシア軍の損失はさらに大きく、ウクライナ軍はロシア軍の軍用機320機とヘリコプター324機を破壊したとしている。

18カ月以上にわたる戦闘はウクライナ空軍にも被害をもたらしており、ウクライナ軍が敗北する運命にあるとみられていた侵攻開始当初に、多くの経験豊富なパイロットが犠牲になった。ウクライナ空軍は航空機やパイロットの数でロシア空軍に劣っており、それらを失うことは戦略的により大きな痛手となる。

■ロシア軍の攻勢弱体化

ロシア軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州

ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデーフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。

ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデーフカへの攻勢を強化。露軍は5月に同州バフムトを制圧した後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデーフカの突破を狙っているとみられる。ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデーフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。

一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着(こうちゃく)状態が続いている。

■ロシア軍、アウジーイウカ周辺で1個旅団分の兵力失う

ウクライナ軍が南部と東部で待望の反転攻勢を開始してから4カ月後、ロシア軍は形勢の挽回を図った。

ロシア軍の第2諸兵科連合軍とそこに配属されている親ロシア派地支配地域「ドネツク人民共和国」の部隊は10日、東部ドネツク州ドネツク市の北西に位置するウクライナ軍の要衝アウジーイウカ周辺を攻撃した。1個2000~3000人規模の旅団少なくとも3個が参加した。

ロシア軍の部隊は、ウクライナ側がアウジーイウカの北と南に周到に設けたキルゾーン(撃破地帯)に直接進入した。以後2週間にわたり、ロシア側は次から次に攻撃を仕掛けた。だがその都度、ロシア軍の縦隊はウクライナ側の地雷やドローン(無人機)、砲撃によってつぶされた。

ロシア軍の損害はこれまでに、装甲車100両以上、戦死・戦傷者計数百人にのぼっている。死傷者は数千人規模に膨らんでいる可能性もある。ロシア軍がある区域で1日に出している車両や人員の損害としては、2022年5月に東部ルハンスク州でドネツ川の渡河に失敗した時や、その半年後、ドネツク州ブフレダールでウクライナ軍の守備隊を急襲しようとした時に並ぶ激しさになっている。

ウクライナの調査グループ「フロンテリジェンス・インサイト」は「1週間半の間にロシア軍は1個旅団規模の兵力を失った」と報告している。第2諸兵科連合軍が当初この攻撃に投入した人員・装備の3分の1が失われたということだ。

対照的に、ウクライナ側の守備隊は車両を数両しか失っていない。ただ、歩兵部隊は比較的大きな損耗を被っている可能性がある。ウクライナの映画監督で現在は兵士として前線で戦うオレフ・センツォフは、ある接近戦についてこう述べている。「オーク(編集注:ロシア軍のことを指す)どもからは歩兵・装甲部隊が次から次に波のように押し寄せてきた」

「自分たちは幸運だった。あの日は何度も幸運に恵まれた。(歩兵戦闘車のM2)ブラッドレー2両の掩護を受けて包囲から脱出できた時も。けれど、この作戦に参加した者が皆これほど幸運だったわけではない」

アウジーイウカ攻略戦はロシア軍の大失敗になっているわけだが、リソース不足が原因ではない。たしかに第2諸兵科連合軍はDIYの歩兵戦闘車や、試作品だった装甲兵員輸送車、博物館に展示してあってもおかしくないレベルの古い装甲兵員輸送車なども少なからず投入してはいる。

■ロシア軍精鋭旅団引き剥がす

その精鋭部隊だが、作戦で用いている装備の大半は近代的なものだ。たとえばT-80戦車、BMP-2歩兵戦闘車、BTR-82装甲兵員輸送車などである。地上部隊はかなりの規模の近接航空支援も得ている。独立した調査グループ「コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)」によると、アウジーイウカのウクライナ軍陣地とされる場所に対して、ロシア軍の戦闘機がUMPK(汎用滑空修正モジュール)誘導爆弾を使って空爆を加えている。

重量が1350kg以上もあるこの強力な滑空誘導爆弾は、ウクライナ軍が駆使している小型の滑空爆弾ほどエレガントで精確ではないかもしれない。それでも、ウクライナの軍人オレクサンドル・ソロニコによれば、重たい弾薬が詰め込まれたこの爆弾はウクライナ軍部隊の間で「最大の恐怖のひとつ」になっているという。

とはいえ、ウクライナ側は壕を掘って身を隠し、爆薬を積んだ一人称視点(FPV)ドローンの装備も十分整えている。アウジーイウカへの主要な接近ルートに地雷を埋めている点も重要だ。さらに、火力支援を行う砲兵部隊は米国製やトルコ製のクラスター弾の供給も受けている。

ロシア側の攻撃はほぼ毎回、同じパターンをたどっている。ウクライナ側のドローンが上空から監視するなか、縦隊が前進してきて地雷を踏み、混乱に陥る。そしてドローンが照準を合わせて攻撃し、クラスター弾が降り注ぐ。

アウジーイウカのウクライナ軍守備隊は持ちこたえている。「(ロシア側は)攻撃を続けているが、大きな戦果は得られていない」とCITは説明している。「(ウクライナ側)はこれまでどおり防御陣地を維持し、反攻は試みていない」

ウクライナ側が反攻に出ていないという点は非常に重要だ。第2諸兵科連合軍はアウジーイウカへの攻撃を通じて、ウクライナ軍の反攻の中心となっている南部の前線からウクライナ軍の旅団を引き剥がそうとしている可能性があるからだ。

これまでのところウクライナ側はその手に乗っていない。ウクライナ軍は南部に配置している第47独立機械化旅団の一部をアウジーイウカへの増援に回したとみられるが、現在の反攻を停止してまでアウジーイウカでの戦いにより多くのリソースを割こうとはしていない。ここでの戦いはドローンや地雷、大砲で制する構えだ。

「ウクライナの防衛者たちがみせた抵抗と技量は、ロシア側が作戦で想定していたものよりもはるかに手ごわかった」とフロンテリジェンス・インサイトは解説している。

もっとも、戦いは終わっていない。第2諸兵科連合軍も増援を得ており、攻撃の手を緩めていない。CITはウクライナ側にとって「状況は依然として非常に厳しい」とも指摘している。

■ロシア、24時間で戦車55両・兵士1380人損失

ウクライナ侵攻を続けるロシア軍はつい最近、4日間で戦車8両を含め、少なくとも68両の装甲車を失った。1年8カ月に及ぶウクライナ侵攻でロシア軍は苦戦しているが、そうした中でも今回の損失は特に大きい。同期間にウクライナ軍が被った損失は、ロシア軍の10分の1とみられている。

68両という損失車両の数は、オープンソースの情報を分析しているアンドルー・パーペチュアがソーシャルメディアに投稿された写真や動画で確認したもののみが含まれている。ロシア軍の実際の損失は、これよりもかなり大きいことはほぼ間違いないだろう。

この戦闘についてウクライナ軍参謀本部は、19日から20日にかけた24時間で戦車55両を含む175両もの装甲車を破壊したと発表した。昨年2月以来、ロシア軍が1日に失う戦車は平均してわずか3両だった。同軍はまた、アウジーイウカ上空で少なくとも戦闘機5機を失ったと報じられている。

兵士の死傷者数は車両の損失に比例している。ウクライナ軍参謀本部は、20日までの24時間でロシア兵1380人が死亡したと発表。ロシアの侵攻以来、双方における1日の犠牲者数としては最多規模だ。

ロシア側の犠牲者増加の要因は明らかだ。ここ数週間、各兵力最大2000人の7、8個の連隊と旅団が、ウクライナで最も防御が固められている都市のひとつであるアウジーイウカを包囲し、防御を切り崩そうと試み続けるも、失敗している。ウクライナ東部ドンバス地方にあるアウジーイウカは、ロシアの占領下にあるドネツクの北西に位置している。

ロシア軍は連日、戦車や戦闘車両の長い隊列を組んで挑んでいる。来る日も来る日も地雷原を突っ切り、ミサイルで狙われるキルゾーンに入り込み、大砲の砲撃を受け、そして爆発物を積んだドローンの餌食になっている。

それでもなお、ロシア軍は部隊を送り続けている。

これは、ウクライナ側のアウジーイウカ守備隊を側面から攻撃して切り崩し、最終的には撃破することを目指したものだが、失敗続きのこの作戦にロシア軍がなぜこれほどの兵力と車両を投入するのかは、はっきりしない。ウクライナ軍はアウジーイウカに少なくとも2個の旅団と連隊、付属の大隊を展開している。

ロシア軍の指揮官らは、ウクライナ軍が6月に始めた南部での反転攻勢の強化を阻止するために、ウクライナ軍の旅団を多大な犠牲を伴う戦いに引き込もうとしている可能性がある。ウクライナ軍はこの反攻作戦で、ロシアが占領しているメリトポリの北側に伸びる軸と、さらに東側のモクリヤリ川沿いに伸びる軸で、少なくとも約16km前進した。

ウクライナ軍はまた、ドニプロ川の左岸や東部バフムートの南でも前進している。

アウジーイウカの攻撃が本当にウクライナ軍の戦力を引き付けることを意図したものだとすれば、それはおそらく失敗している。「ウクライナ当局はすでに、アウジーイウカへの攻撃は戦力を引くための作戦だと認識しており、この軸にウクライナ軍が兵士を過度に投入することはないだろう」と米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は指摘した。

もしかするとこの攻撃は、引き付けの作戦ではないかもしれない。ロシアは単に、冬の到来を前にして、大規模な攻撃の機会が減少する中で勝利を収めようと必死になっているだけなのかもしれない。アウジーイウカの戦いで重要なのは、アウジーイウカ自体ではない可能性がある。

それはある意味、筋が通っているものの、実際には無意味な行為だ。ISWは「仮にアウジーイウカを掌握したとしても、ドネツク州の他の地域へ進軍する新たなルートが開かれることはない」と説明している。

だが、ロシアがアウジーイウカを象徴的な価値のために狙ったのだとすれば、それはひどい誤算だった。多くの血が流れた作戦が始まって2週間が経過した今、アウジーイウカが象徴しているのは、ロシア兵の死と大破した戦車だけだ。

攻勢の初日にロシア軍は撤退することもできただろう。ISWの推定では、ロシア軍は少なくとも45両の戦車や装甲車両を失った。だが、ロシア軍は攻勢を続けた。中隊や大隊が全滅しても、指揮官たちは気にしなかったようだ。

その意味で、ロシア軍のアウジーイウカでの作戦は、今年初めの東部ドネツク州ブフレダールでの作戦と不気味なほど類似している。ドネツクの南西約40kmに位置するブフレダールでは、ロシア軍の海兵隊が数週間、ひっきりなしにウクライナ軍の守備隊に猛攻撃をかけた。

ウクライナ側は、突撃隊を砲撃。ある交差点には、ロシア軍がウクライナ軍の攻撃に対応できなかった痕跡が残されていた。ウクライナ軍が数週間にわたってロシア軍に対する待ち伏せ攻撃を繰り返したこの交差点には、破壊された十数両の戦車や戦闘車両の残骸が散らばっていた。

激戦を経たブフレダールはいま、ウクライナ側にある。ロシア軍が制圧しようとできる限りの攻勢をかけているにもかかわらず、アウジーイウカも同様だ。

この戦いがどうなるかは分からない。ロシア軍は昨冬、ブフレダールの占領に失敗し、2つの海兵隊旅団の大部分を無駄に失った。だが春には、ドネツクの北約48kmに位置するバフムート周辺での戦いで、それより多くの犠牲を払いつつも、勝利を収めた。ウクライナ軍の旅団は時間を稼ぎ、ロシア軍に死傷者を出しながらバフムートから撤退したため、ロシア側にとってこの勝利は割に合わないものとなった。

キルゾーンが待ち受けるアウジーイウカに連隊を投入し続ければ、ロシア軍は最終的には同市を制圧できるかもしれない。だが、大きな損失を被った状態では、約970kmに及ぶ前線での作戦に支障をきたしかねない。

「この速い死傷ペースが続く限り、ロシア軍は効果的な攻勢をかけるのに必要とされる水準を満たせるよう、新兵を十分に訓練することができなくなる」と英王立防衛安全保障研究所は指摘している。
2023.10.26 21:17 | 固定リンク | 戦争
ウクライナ戦場・今「陸戦」で何が?
2023.10.21
今、ウクライナ戦争では、ウクライナ・ロシア両軍が南部と東部で激しい戦闘を繰り広げている。しかし冬季を前に地面は泥濘となり、戦車が使えず膠着状態となる。「そんなの時に最適な『七人のサムライ』作戦があります」と、元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)が語った。

今年の6月、ウクライナ軍がロシアへの反攻に転じた。NATOに教わった通りに、地雷除去ド―ザ―をフロントに付けた戦車を先頭に突撃。しかし、ロシア軍による無人偵察機の正確な着弾誘導で、攻撃前進したウクライナ軍の戦車は榴弾砲の餌食になった。

これは、去年3月にウクライナ軍が行った防御のやり方だ。ロシア軍はそれを真似て見事に成功したのだ。そして今、南部はロシア空軍の航空優勢下にある。

しかし、ウクライナ軍は無人機を効果的に使用し、ロシア空軍のジェット戦闘機の力が及ばない低高度空域で戦闘開始。ウクライナ軍は夜間にサーマルカメラを搭載する無人偵察機を飛ばし、ロシア軍防御陣地前のすさまじい数の地雷源を把握。そこを米軍から供与されたクラスター砲弾で徹底的に叩いた。そして、少しずつ前進したのだ。

この10月現在、両軍の兵士は塹壕に籠り、その上を毎日数百機の無人機、ドローンが飛び交っている。月に数万機が撃墜されるすさまじい空戦消耗戦だ。

これらのドローンは双方の電波戦でバタバタと落ちていく。しかし、辛うじて生き残ったドローンは、手榴弾や迫撃砲弾を落として攻撃。自爆ドローンはそのまま目標に突っ込んで爆発する。

こうして6月の反抗開始以来、ウクライナ軍はウクライナ中南部のトクマクを少しずつ進撃している。ロシア軍は電波戦でドローンを安易に落としているものの、スターリンクの衛星経由で5G回線を使用したドローンに手を焼いているのだ。

ただし、総司令官のゼレンスキー大統領はポーランドを怒らせ、9月の国連総会で「供与武器は出さない」と言われた。西側連合は今、ギクシャクしている。そして、もし来年11月の米大統領選挙でトランプが勝てば、2025年1月に大統領に就任した翌日、米国からの供与も完全に止まる。さらに、秋の「泥濘期」になれば地面はぬかるみ、「全ての戦闘は止まる」と識者たちは言う。

時間がないウクライナは、いったいどうすればいいのか?

■「七人のサムライ」作戦とは?
元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)はこう言う。

「ウクライナ軍は西側から供与されるF16が来るまでの御膳立てを、地上でしなければなりません。作戦計画は泥濘期、来年の凍結期、泥濘期、乾燥期を通して作成されています。

泥濘期が来るのは避けられないので、それで戦闘が止まると言うのは、短期間の作戦計画しかないことであり、歩兵の特性を活かしておりません。

泥濘では戦車が一度通り過ぎ、ギュンと方向転換するだけで1m以上の深さの溝ができます。そのため、戦車が何度も通ると泥濘になり、走行不能となります。そのため、戦車を使わず歩兵の力を発揮して攻めます。または歩兵戦闘車が何度も同じ所を通らなければ泥濘にはなりにくいでしょう」

では、どんな歩兵の作戦があるのだろうか?

「まず、ロシア軍の第一線陣地の地雷原は『活性化地雷原』といって、対戦車地雷の処理を妨害するため、ワイヤーに引っかかると空中で爆発する跳躍式対人地雷や、踏むと爆発する圧力式対人地雷がセットされているので地雷の処理を難しくしています。

この第一線地雷原は、今、無人偵察機のサーモセンサーで位置評定し、クラスター弾で対戦車地雷を破壊し活性化地雷を誘爆させることができます。第二線地雷原にロシア軍はそれほど手間をかけられません。だからここで、『七人のサムライ』作戦を遂行します」(二見氏)

どこかで傭兵を集めるのだろうか?

「いいえ。夜間、ロシア軍陣地に歩兵戦闘車一台を接近させます。そこから暗視装置と、ウクライナ軍が"透明マント"と呼ぶ装備(※)を着用した七人のサムライ、すなわち一個分隊の歩兵が散開します。まず対人地雷を無力化し、対戦車地雷の周りを掘り対戦車地雷をひとつずつ隠密処理して、当初、歩兵用の通路、逐次車両用へ拡幅していきます。

ウクライナ軍はレベルの高い訓練を受けているので、ロシア軍兵士と強さが全然違います。歩兵同士の戦いになれば、ウクライナ軍が圧倒的に強いです」(二見氏)(※断熱素材で作られ、露軍赤外線カメラに探知されない)

では、具体的にどんな歩兵戦闘になるのだろう。

「夜間、ウクライナ軍歩兵は、優れた性能の米軍の暗視装置を装着しています。これで七人のサムライが地雷原に作られた歩兵用通路により隠密にロシア陣内へ潜入し、偵察用無人航空機が発見した塹壕内のロシア兵を倒していきます。

10~20mでロシア兵と銃撃戦になれば一度引き返し、爆撃ドローンを呼んで手榴弾を投下して無力化します。そして、塹壕に入れば今度は塹壕内の掃討をします。

後方にいるロシア軍はウクライナ軍から夜間襲撃をされたと分かれば、まず偵察兵と増援を出します。ナイトビジョンを装着したウクライナ軍の狙撃兵銃とライフルによりロシア歩兵を狙撃していきます。次にロシア軍は地雷原の空いている経路を使用した機動打撃へ移行し、戦車と装甲車を送り込んで来ます。

この経路は事前に偵察で分かっています。ウクライナ軍砲兵火力を指向発揮し、戦車が機動力を発揮できない状態にしたところをジャベリンミサイルにより破壊します。こうしてロシア軍戦力を削り込んでいきます」(二見氏)

ウクライナ軍歩兵の「七人のサムライ」の一個分隊が、次々とロシア軍の塹壕に入り陣内のロシア兵を処理していく。やがて戦場は明け方を迎える。

「昼間は砲兵の時間です」

■昼間の泥濘戦争

24時間戦闘で泥濘期の戦争をする。地上は泥濘になっても、空は無人機ドローンが飛べる。さらに、後方にいる砲兵部隊は泥濘とは無関係だ。

「まず、上空を飛んでいるロシア軍無人機をEW電子戦でどんどん落します。次に上空を飛ぶウクライナ軍偵察ドローンからの情報で、砲撃を開始します。射程が数kmならば、隠蔽された120mm迫撃砲で上から砲弾を落します。距離十数キロならば、連続速射の可能な105mm榴弾砲を、精密誘導が必要ならば155mmM777を叩き込みます。 

最初に狙うのはドローンの操縦者たち。次に、予備のドローンが集積してある場所を潰します。それからロシア軍の対無人機ドローン電子戦部隊を叩き潰し、ロシア軍無人機部隊を壊滅させます。

そして、偵察ポイント、歩兵のいる塹壕、最前線司令部、その後ろの兵站施設、反撃用戦車、装甲車待機所を次々と砲撃で潰します」(二見氏)

今、砲兵部隊はウクライナを1とすると、ロシア軍の砲兵部隊は3と、3倍の数が毎日やられていると言う。

「米軍から供与されたウクライナ軍の砲迫レーダーは、ロシア軍が撃った瞬間にその発射位置を割り出します。それを砲弾ウーバーと言われる指揮統制システムによって、ちょうど砲撃できる部隊に瞬時に情報が伝わるので、砲撃して潰します。

その成果が1対3以上のキルレシオ(空中戦における自軍と敵軍との撃墜比)に出ています。ウクライナ軍は6月から高価値目標として、砲兵狩りをしていますから。

使う砲弾は全て、クラスター弾でよいと思いますが、もしコンクリート陣地を発見したならば貫通弾で破壊します。高機動ロケット砲システム・ハイマースで、その後方にいる電子戦、砲兵部隊、指揮所、補給場所、兵站部隊を叩きます。こうして、ロシア軍歩兵は毎日2個大隊ずつやられています」(二見氏)

現在、ロシア軍の最前線に開いた地・トクマクを目指す突破口は、横に広げていかなくてよいのだろうか?

「幅が20kmありますから、今の状態で十分ですが、さらに広げることができれば有利になるでしょう。11~12月の泥濘期になれば、トクマク陥落を追求するために夜間は歩兵分隊の『七人のサムライ』、昼間は砲兵中心で作戦を進めます。そうすれば、今度はウクライナ軍の砲兵が有利です」(二見氏)

しかし、上空はロシア空軍の航空優勢だ。

「もちろんロシア空軍が1日40~80機は飛んで来るため、ウクライナ軍は戦車を出せません。なので、歩兵の『七人のサムライ』分隊を夜間に出し、地対空ミサイルで守られた後方に砲兵部隊を展開して攻撃します。

ロシア空軍は、ウクライナ軍地対空ミサイルの射程外から、精度の悪い誘導爆弾を落していく形を維持します。ここで戦車、地対空ミサイル部隊、砲兵部隊をガーンと前に出せば、瞬間にロシア空軍の爆撃で相当な数がやられます。泥濘期は、『七人のサムライ』が夜間に動き回り、静かにロシア兵を漸減していくのです」(二見氏)

ロシア軍の予備兵力は潤沢なのか?

「ロシア軍は砲兵が少なくなり、守備部隊は逆襲ばかりしているので、予備兵力は枯渇しています。この状態で、射程距離300kmの地対地ミサイル・ATACMSを航空基地へ打ち込めば、叩き続けられます。両軍が四つに構えている状態から、ある時に分水嶺が崩れ、一挙にウクライナ側有利に傾くでしょう」(二見氏)

■射程300kmのATACMS投入

F16の前に、射程300kmに達するハイマースから撃てるATACMS弾各種(ブロック I・射程165km・搭載子弾950個、ブロック IA・最大射程248km・搭載子弾 275個、ブロック II・最大射程140 km・搭載子弾13発、ブロック IIA・最大射程300 km・搭載子弾 BAT無動力滑空型誘導式子爆弾6発)がはいれば、また最前線は変化するのであろうか。

「冬場は寒さが敵です。その場合、補給が効いていて、暖かい待機所と温かい食事が食べられれば、士気も高い。もし、ロシア軍にそれらの弾薬、燃料、食料などの補給物資が入らなくなれば、部隊の士気が低下します。だから、この兵站を徹底的にATACMSで叩きます」(二見氏)

ロシア軍の補給インフラは鉄道と船だ。鉄道はロシア本土からクリミア大橋を通り、クリミア半島経由で南部に届く。しかし、今その南部に繋がる橋が空中発射巡航ミサイル・ストームシャドウで破壊された。なので、トラックで運んでいる。

南部は全てトクマクまで繋がる一本の鉄道に頼っている。しかし、その鉄道は海岸から約50~60kmの内陸を通っているので、戦況が進むと使えなくなる。その場合は、アゾフ海のベルジャンスクにある港湾施設から海岸沿いの陸路で運ぶ。

「まず、最前線から110kmのベルジャンスクを、遥か後方からATACMSで撃って、そこの鉄道と港湾施設を潰します。そして、ここのうるさい航空基地も叩きます。ロシア軍の頼みの綱は航空攻撃だからです。次に、海岸沿いのメリトポリに続く十数か所の橋梁を落とします。兵站線をとにかく破壊するのです」(二見氏)

残りは、クリミア大橋だ。

「これは緒戦で、ハイマース発射機が4両しかない時と同じように、慎重に使います。

まず、トクマクへの突破口の真ん中に機動路を整備します。それでチャンスを窺い、ハイマースをクリミア大橋に向けて一気に発射、30秒以内に撤収させます。クリミア大橋を奇襲すれば、ロシア軍は反撃をおこなうからです。

これは、せっかく諸事情をクリアして渡したのにすぐに破壊されたら、『虎の子をなんてことするのだ』と西側諸国から確実にクレームがあり兵器支援に影響を受けます。ウクライナは思った以上に難しい戦争をしています。そのため、『懸命に戦っている結果、事態は好転を続けています』と米国や西側諸国に納得させなければなりません」(二見氏)

地上戦での「F16が来るまでの御膳立て」とは、どこまでを指すのだろうか?

「クリミア大橋を落せる体制が取れたら、御膳立てができたことになると思います」

デンマークはF16を19機、ウクライナに供与すると明言している。年明け前後にまず6機を供与する見通しだ。年明けまでに地上の「七人のサムライ」分隊たちと長距離砲兵火力、ドローン攻撃が、どの程度の戦果を上げているのか......。御膳立ては、いまこの瞬間も続いている。
2023.10.21 05:45 | 固定リンク | 戦争
パレスチナのチェ・ゲバラ「ハマスのデイフ最高司令官を追跡」
2023.10.17
「デイフはパレスチナのチェ・ゲバラになるかもしれない」 ハマスのムハンマド・デイフ最高司令官

イスラエル奇襲攻撃の首謀者といわれるハマスのデイフ司令官は何度も暗殺の試みを潜り抜け、今や生きても死んでも厄介な大物テロリストだ。

イスラム武装組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃の報復として、イスラエル国防軍(IDF)がパレスチナ自治区ガザへの攻撃を強化するなか、ハマスの軍事組織の中枢にいる謎に包まれた人物に注目が集まっている。彼は最後の抵抗の準備を始めているのかもしれない。

ハマスのアル・カッサム軍事旅団を率いるムハンマド・デイフ最高司令官は、意図的に身を隠しており、彼についての情報はほとんど知られていない。通称のデイフには「客人」という意味があるが、それは一か所にとどまらず、頻繁に居場所を変えるからだ。

そのおかげでデイフは、命をねらうイスラエルの襲撃から逃れてきた。長い間生き延びてきたデイフだが、イスラエル軍が大規模なガザ侵攻を始めれば、30年以上も続いた血なまぐさい追跡劇は頂点を迎えるかもしれない。そのときデイフはどうするのか。

「デイフは優れた地位と名声、業績がありながら、不屈の精神と殉教の文化にどっぷり浸かっている男だ。イスラエル軍がきたからといって自分の土地や戦場を離れるとは思えない」と、カタールのノースウェスタン大学の教授で、ハマスの内情に関する著書があるハレッド・フルブは本誌に語った。

「地上侵攻が行われ、イスラエル軍の追跡の手が迫ったら、彼は命ある限り戦うだろう」

〇奇襲攻撃の首謀者

ハマスは、イスラエルを跡形もなく破壊し、その上にイスラム主義のパレスチナ国家を築くために戦っている。そのなかで、デイフは極めて重要な役割を担ってきた。特に彼が首謀した10月7日の陸、空、海からのイスラエルの攻撃では、少なくともイスラエル人1300人が死亡した(イスラエルの報復空爆でガザでは2000人近い犠牲者が出た)。

イスラエルは過去に何度もデイフを暗殺しようと試みた。そのせいでデイフはさまざまな怪我を負っており、眼球、腕の一部、脚を失ったと伝えられる。また、2014年にイスラエルがガザに本格的な地上侵攻を行なったときには、空爆で妻と生後7ヶ月の息子、3歳の娘を失ったという。

新たな報告によれば、現在進行中のイスラエル国防軍の攻撃で、デイフの兄と息子を含む、多くの親族が殺害されたという。おそらく、イスラエルは今回こそデイフを完全に排除しようとしているのだろう。

フルブは、デイフの死は短期的にハマスの軍事力に損害を与えるかもしれないとしながらも、支持者に広く敬愛され、敵からは忌み嫌われるデイフのような人物が殉教者としての地位を得ることは、ハマスの地位と威信を高めることにもなりかねないと主張する。

〇伝説を追いかけて

デイフが伝説上の英雄になるのは、イスラエルにとって厄介極まりない難題だ。イスラエル国防軍軍事諜報部門の研究部門の責任者およびイスラエル戦略問題担当省の長官を務めたヨッシ・クーパーワッサーによれば、デイフが他のハマス幹部、たとえばイスマイル・ハニェ政治局長やガザ地区の指導者ヤヒヤ・シンワルヤと違うのは、「彼が誰よりも象徴的な存在であること」だという。

クーパーワッサーは、デイフをイラン革命防衛隊クッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官や、レバノンのヒズボラの軍事部門を率いるイマド・ムグニエ、アルカイダによる9.11テロの立役者ハリド・シェイク・モハメドになぞらえる。「われわれがそう仕向けたわけではないが、彼は伝説的な人物になっている」

多くのイスラエル人にとって、デイフは9.11テロの象徴になったウサマ・ビンラディンのようなものだ。

ソレイマニは米軍による2020年の空爆で死亡し、ビンラディンは米軍の急襲で2011年に死亡した。ムグニエはCIAとモサドの合同作戦で2008年に殺害され、モハメドは米・パキスタン合同囮捜査で2003年に捕まった。しかしイスラエルの最重要指名手配犯であるデイフだけはまだ逃亡を続けている。

〇象徴になった影の男

イスラエル情報機関の元職員でアラブ問題担当上級顧問だったアビ・メラメッドは本誌の取材に対し、イスラエル国防軍にとって今は、デイフの捜索に焦点を当てないほうが得策だと語った。最後には逃げおおせるかもしれない「影の男」としての評判をさらに高める可能性があるからだ。

「イスラエルの目下の戦略目標は、ハマスの軍事・組織能力を破壊することだ。やるべきことはそれしかない」と、メラメッドは言う。「個人を追いかけても話は終わらない。捕らえることができるかもしれないし、決して捕らえることができないかもしれない。永遠にわからないどこかの場所に埋葬されるかもしれない。だが、そんなことはほとんど意味がない」

「これ以上、伝説を膨らませる必要はない。彼は残忍な殺人者であり、非常に危険で世故にたけた人物であり、精神的に異常すれすれの人格だ」

だが、多くのハマス支持者にとっては、影から戦争を仕掛けるデイフの謎めいた能力は、長い間、彼が掲げる大義への支持を煽るのに役立ってきた。

ガザのアル・アズハル大学で政治学を教えるムハイマール・アブサダ教授が本誌に語ったように、「彼の存在はハマスの軍事部門にとって重要だ。彼らはデイフを賞賛し、彼のリーダーシップによって刺激を受けている」。

〇謎に包まれた正体

ガザにある地域研究センターのアイマン・アル・ラファティ理事は、デイフは「パレスチナの抵抗の象徴となっており、パレスチナ人の間で絶大な人気を誇っている」と本誌に語った。デイフは現在「新世代のパレスチナ人に刺激を与える存在と考えられている。その証拠に、パレスチナ人が唱える祈りのなかには常に彼の名前が組み込まれている」。

デイフの顔がわかる写真は2枚しかなく、いずれも数十年前に撮影されたものだ。そのため、今回のハマスの攻撃の開始と同時期に録音された演説と共に、珍しくデイフのシルエットの画像が登場したとき、パレスチナの闘士たちはさらに活気づいた。

デイフは現在、さらに多くの戦士を結集させようとしており、「レバノン、イラン、イエメン、イラク、シリアのイスラム抵抗勢力の兄弟たち」に対イスラエル戦争への参加を呼びかけている。この呼びかけはこの5カ国の全域で活発に議論されている。

メラメッドによれば、文字通り影に隠れたデイフの正体は、1965年頃にガザ南部のハーン・ユニス難民キャンプで生まれたムハンマド・ディアブ・イブラヒム・アルマスリ、またの名をアブ・カレドとも呼ばれる人物だ。

デイフの家族はヘブロン北西の村アル・クバイバに住んでいたが、1948年のイスラエル建国時の戦争が勃発したため、他のパレスチナ人住民同様、逃げ出してガザ南部の難民キャンプハーン・ユニスに移り住んだ。このときの戦争が、その後数十年に渡る中東紛争の幕開けとなった。

ロイターによれば、デイフは「ガザのイスラム大学で物理学、化学、生物学を学び、理学士の学位を取得した。芸術にも親しみ、大学のエンターテインメント委員会を率いて、喜劇の舞台への出演も経験した」。演劇の経験は、彼の演説の劇的効果を与えている、とメラメッドは言う。
2023.10.17 10:24 | 固定リンク | 戦争
中国ハマス擁護「中国人3人殺害認めるも見捨てる」
2023.10.17
■中国、突然パレスチナ側に立つ ハマス擁護 中国人3人殺害認めるも見捨てる

中国が突然「イスラエルバッシング」に出た理由は何か。これを巡り西側メディアは「中国の中東に対する野望と関連がある」という分析を次々と出している。親パレスチナ路線でアラブ諸国とさらに密着し、中東での影響力拡大を狙っているというものだ。また、パレスチナの武装組織ハマスのイスラエル奇襲攻撃の背後といわれて注目を集めているイランを対米国交渉カードとして利用しようとする腹積もりもあるとの観測も出ている。

15日、中国外交部によると、王毅外交部長兼共産党中央政治局委員は前日、サウジアラビアのファイサル外相と電話会談を行い、イスラエルのガザ地区攻撃が「度を越した」と猛非難した。王部長は「中国は民間人を害するあらゆる行為に反対して糾弾する」とし「イスラエルの行為はすでに自衛の範囲を超えている」と話した。このような中国の反応は今回の事態が起きて以来、初めてだ。

戦争勃発以降、中国は表向きは中立的な立場を堅持してきた。だが、この日王部長は決心したように「中国はサウジなどアラブ諸国と共に、パレスチナが民族の権利を回復する正義あふれる事業を引き続き支持する」とあからさまにパレスチナの肩を持った。王部長は同日、イランのアブドラヒアン外交長官と行った電話会談でも、「(独立したパレスチナ建国を通じて)歴史的不公正は早期に終結させなくてはならない」とし、同じ論旨を展開した。

◇「米国のせいで品行が良くなくなった」

中国官営メディアも一斉にイスラエル批判に加勢した。

特に「中国共産党のラッパ吹き」役を自任してきた環球時報元編集者の胡錫進氏は14日、ソーシャルメディア(SNS)にガザ地区空襲を批判して「イスラエルは米国のせいで品行が悪くなった」と書くなど過激な発言を投稿した。胡氏のSNSはフォロワーが2500万人に達するだけにその批評は大衆への影響力が強い。

このような扇動に対する反響も大きかった。「中国オンライン上で反ユダヤ主義感情の掲示物が急増している」(米国NGO「フリーダム・ハウス」)という懸念が出ている。

これに先立ち、在中国イスラエル大使館側はハマスが攻撃を加えた翌日の8日、SNSに中国系イスラエル女性がハマスに拉致される映像を掲載して支持を訴えた。だが、中国内の雰囲気はこのように正反対に流れる様相だ。大使館側が悪質なコメントを除去するためにSNSアカウントをフィルタリングしている状況だ。

◇ネタニヤフ首相を国賓として中国に招待したが…

西側専門家は中国の態度変化の流れを注視している。中国は今回の事態が発生する直前まで、イスラエルとの関係強化に動いていたためだ。今年6月には習近平国家主席がイスラエルのネタニヤフ首相に国賓訪問を要請し、今月末には北京での首脳会談も予定されていた。

だが、中国はイスラエルのガザ地区空襲以降、態度を変えた。対中東戦略上、親パレスチナ路線が有利だという判断のためと分析している。専門家は「パレスチナに対する中国の確かな支持がアラブ世界で中国の地位を高め、地域内での立場を強化することができる」と中国の本音を突いた。米シンクタンク「スティムソン・センター」中国プログラムディレクターのユン・ソン上級研究員はフィナンシャル・タイムズ(FT)に「(イスラエルのガザ地区攻撃で)パレスチナに対するアラブ諸国の支援が増えるだろう」としながら「これは中国とアラブ国家を再び同じ方向に向かせるため、中国の利益と合致する」と説明した。

中国の立場ではイスラエルを全面的に支援する米国の対中東ヘゲモニーに揺さぶりをかけることができる局面でもある。米国は中東全域で事態を拡散させないように、一国の海・空軍全体戦力を凌ぐ2個の空母打撃群をイスラエル周辺海域に急派した状況だ。このために「これまで米国と軍事的に協力してきたが、今回の事態で不満を抱くことになったアラブ諸国に中国製武器の販売を拡大できる機会」(エクセター大学国際関係学のマリア・パパゲオルギウ講師)という観測もある。

◇イランとの関係は対米交渉カード

ハマスの攻撃を支援したといわれているイランとの関係も中国には重要だ。実際に中国は戦争の渦中にもイランとの高官接触を継続している。また、中国官営メディアはイランメディアを引用してイスラエル軍の不法な「白リン弾」使用を批判した。白リン弾は人体に付着する場合、骨や肉が溶けるほど深刻な火傷を負わせる致命的な武器だ。

これに対して中国安保が専門の英国ギングス・カレッジ・ロンドンのAlessandro Arduino准教授はFTとのインタビューで「中国が米国と中東政策で交渉するためにはイランを圧迫できる数少ない行為者の一つということを強調しなければならない」とし「中国の立場で、イランは対米交渉の重要なカードになるだろう」と話した。

■「ハマスに襲われた後に路上に捨てられた」…中国人3人、自国民が亡くなったのに消極的対応

今月7日にパレスチナの武装組織ハマスの無差別攻撃を受けて現地中国人3人が殺害され、2人が行方不明だと中国外交部が12日、確認した。

汪文斌報道官はこの日の定例会見で「現在までのところ3人の中国国民が衝突中に不幸にも亡くなり、2人は行方不明となった。また多数が負傷した」とし「犠牲者に深い哀悼を表し、遺族と負傷者にお見舞いを申し上げる」と話した。

10日(現地時間)、イスラエルに進出した中国企業組織「中華商会」は7日、ハマス攻撃当時に江蘇省出身の35歳の鄒氏と万氏、曹氏がトラックに移動中に武装したハマスに襲われた後、道路に捨てられ、少なくとも中国人2人が死亡したと発表していた。だが、中国当局が関連情報を遮断してSNSで検索できないようにするなど報道を統制したとラジオ・フリー・アジア(RFA)が11日、報じた。

中国時事評論家の胡平氏は「中国のこのような態度はハマスの罪状を軽くしようとする試み」とし「中国人死亡者発生を認めてしまえばハマス非難世論が高まるためだ。中国の従来の方針はできるだけパレスチナに対していかなる非難もしないこと」と指摘した。

◇ 「中国式『ゼロエナミー』政策、試験台にのせられた」

今回のイスラエル・パレスチナ事態でウクライナ戦争など国際紛争で一方的に片方を非難しない中国特有の「ゼロエナミー(中国の敵を作らない外交)」政策が試験台にのせられたという指摘が出ている。英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)のAhmed Aboudouh研究員は「中国外交部のこのような態度はイスラエル・パレスチナの間で危険を管理するヘッジ平衡を維持しようとする試み」とし「ただしイスラエルの反応を見ると北京が中東と一帯一路フレームの下で維持してきた『ゼロエナミー』政策が現実の検証を受けることになった」と独メディア「ドイチェ・ヴェレ(DW)」に語った。

一歩遅れて中国人被害を認めた中国はイスラエルの報復による人命被害を特に印象付けながら伝えた。中国新京報のSNSアカウント「政事児」は12日午前、ガザ地区で活動した国連要員11人がイスラエル軍の爆撃で亡くなったというコメントを爆撃映像と共に掲載したが、中国人死亡者には言及しなかった。

◇中国の中東特使「パレスチナ人道主義危機懸念」

中国はイスラエルの報復による被害を強調しながらパレスチナの被害を防ぐために国際社会が出なければならないと求めた。元フランス大使を歴任した中国の中東問題特使の翟雋氏は10日のエジプトに続き11日にパレスチナ第1外務次官と相次いで電話会談を行い、パレスチナに人道主義的支援を求めたと中国外交部が発表した。翟特使はエジプトのウサマ・パレスチナ担当外務次官補と10日の電話会談で「イスラエル・パレスチナ衝突が悪循環している原因はパレスチナ問題を依然として公正に解決することができないところにある」と指摘した。

翟特使は11日にパレスチナのアマル・ジャドー第1外務次官と話をして「罪のない民間人死傷が発生していることに対して深い遺憾を感じている」とし「パレスチナの安全と人道主義情勢の重大な悪化に深い懸念を表する」と話した。彼は「即時休戦と民間人保護が急務」とし「国際社会は実質的な役割を発揮して共に情勢の安定化を成し遂げ、パレスチナ人民に人道主義的援助を提供しなければならない」と求めた。

■「どうか娘だけは…」映像の中のハマス人質、中国北京生まれだった ハマスロシア人も殺害

イスラエルを攻撃したハマス武装隊員が拉致および殺害した民間人の中にはロシア・中国国籍者などもいることが明らかになった。

10日(現地時間)、ロシアのアナトーリ・ヴィクトロフ・イスラエル大使は自国国営放送とのインタビューで「不幸にもロシア人1人の死亡が確認されたという情報を伝える」とし「死亡した若い男性はロシアとイスラエルの二重国籍者で現地に常駐していたことが把握された」と話した。

ヴィクトロフ大使は7日、ハマスのイスラエル攻撃以降、連絡が途絶えたロシア人が9人になると付け加えた。ヴィクトロフ大使は「連絡が途絶えたロシア人のうち4人はイスラエル側の行方不明者名簿に入っている。彼らの所在を把握するためにイスラエル当局と連絡を取っている」と伝えた。

中国外交部も自国国籍者の行方不明、負傷に関連した事態把握に乗り出した状況だ。

中国外交部の汪文斌報道官は10日の会見を通じて「外交部は関連大使館・領事館に対して、全力を尽くして行方不明者を探して負傷者を助けるように指示をする一方、対外的には有効な措置を取って中国人と機関の安全を保障するように求めた」と明らかにした。

報道官は「けがをしたり拉致されたりした中国公民(国民)に関する新しい情報はあるか」という記者の質問には「現地の安全状況が時々刻々と変化していて関連情報は引き続き検証・把握中」と回答した。香港サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、現在行方不明の中国国籍者は4人、負傷者は3人であることが分かった。

特にハマス隊員にバイクで拉致される様子がソーシャルメディア(SNS)を通じて伝えられた25歳女性のノア・アルガマニさんも中国北京生まれのイスラエル人であることが分かった。アルガマニさんの父親は娘を拉致した人に言いたいことはないかと聞かれると、泣きながら「どうか、どうかこのようにお願いするから娘を傷付けないでくれ」と哀願した。ただしアルガマニさんが中国国籍を有しているかはまだ確認されていないとSCMPは伝えた。

ハマス側もロシア・中国国籍人を抑留中であることを認めた。これに先立ってハマス側報道官のアブ・ウバイダ氏は「イスラエル人捕虜の中に二重国籍者が数十人いて、その中にはロシア人や中国人もいる」と話した。

問題はハマス側が「イスラエルの新しい空襲が加えられるとイスラエル人質から1人が処刑される」としながら人質を盾にしているということだ。ネタニアフ首相は「ハマスは恐ろしいことを経験することになり、これは中東全体を変えることになるだろう」と報復を公言した状態だ。

英国エコノミストは「交渉を通じて人質を連れてくることになればハマスの前例ない侵攻に誤った先例を残すことになるので、救出作戦をしようとしても人質がどこにいるのか分からない状況」と指摘した。

この他にもハマスの攻撃で米国・カナダ・英国・フランス・タイ・ネパール・ドイツ・カンボジア・ブラジル・パラグアイ・メキシコ・アイルランド・タンザニア国籍者らが死亡あるいは行方不明になっていることが分かった。韓国人の場合、まだ届け出られた被害はない。

■中国、ハマスを擁護

パレスチナ武装政派ハマスのイスラエル奇襲攻撃に対し、中国が直接的な批判を拒否して中立の立場を繰り返すと、西側メディアの苦言が続いている。

外交専門誌ディプロマットは10日、「中国は完全な中立を維持しようと努力しているが、結果的にはハマスの肩を持つものとみられる」と指摘した。ディプロマットのシャノン・ティエッジ編集長は、「イスラエル・ハマスの戦争に対する中国の『歯の欠けた(Toothless)』対応」と題したコラムで、中国が各国の自制を求めて中立を表明しているが、ハマスの民間人攻撃に対する批判を拒否するのは事実上、この武装集団を保護しようとする試みに読まれる」と批判した。

シャノン氏は「中国は民間人を残忍に殺害したハマスの初期攻撃に対して糾弾することを完全に回避し、これを『テロ攻撃』に分類することも強く拒否した」と述べた。また、過去に西側諸国がウイグル人の抵抗をテロと呼ぶことを拒否した時、中国が発作的な反応を見せたことを例に挙げ、現在の中国の態度は矛盾していると指摘した。

政治専門誌ポリティコも12日、「中国はハマスをかばうことでいかなる批判を受けるといっても、大きな世界的な影響力を持つ道はパレスチナにあると判断したとみられる」とし、中国の中立的な態度を長期的な戦略の一部と解釈した。すなわち、中国が米国に代わるパートナーを探している中東だけでなく、アフリカやラテンアメリカなどパレスチナ解放運動に同調する国の好意を得ようとしているという分析だ。

外交専門誌フォーリン・ポリシーは、中国国営メディアのニュース報道の偏向性にも言及した。フォーリン・ポリシーは「中国国営メディアは不確実な政治的問題に対しては普段のように『米国のせいにする』ようなアプローチをとっている」と報じた。現在、中国国営メディアは中東地域に対するワシントンの「悪意的な」介入を最も強調している。

中国外務省は8日、イスラエルとパレスチナの双方に「落ち着き」と「自制」を求め、敵対行為の中止を促したが、具体的な批判や糾弾は控えた。中国は9日、外交部の定例ブリーフィングで民間人死傷者について言及したものの、主体を省略したまま原論的な立場だけを繰り返した。同日の声明に関連して、中国が最悪の逆風を避けるためにメッセージのバランスを取ろうと努力したが、結局は中国の仲裁者の地位を浮き彫りにすることにさらに集中しているという評価が出ている。

■イスラエル外交官の家族が中国で襲われる 中国当局一切公表せず

13日午後に北京で発生した中国駐在中のイスラエル外交官の家族の襲われた事件を捜査中の中国警察が逮捕した犯人を外国国籍としか明かしておらず、背後に何かあるのではないかと疑う声が高まっている。

北京警察はこの日、「13日午後2時(現地時間)ごろ、北京朝陽区左家荘のあるスーパーマーケットの前でイスラエル人外交官の家族(男性、50)が外国国籍の男に刃物で刺された」とし「犯罪容疑者はすでに警察に逮捕された。初期捜査の結果、該当の外国容疑者(53)は北京で小売経営に従事している。事件は現在追加調査中」と発表した。具体的な犯行動機や犯人の国籍などは一切公開しなかった。

この日の事件は在北京イスラエル大使館から3.5キロほど離れた比較的治安の安定している外交団地で発生した。事件直後、微博やX(旧ツイッター)に投稿された映像には白い上着を着た白人男性が歩道で被害者と激しくもみ合いながら、凶器で被害者の首の辺りなどを数回切りつける場面が映されている。事件現場が見下ろせる建物で撮影されたと見られる映像には被害者が安全なところに移動すると犯人が逃げる様子も含まれている。路上で撮影された別の映像には通行人や警察補助員(輔警)が被害者を助ける場面も見える。該当の映像には「私はイスラエル大使館から来た」という中国語、「救急車がすぐに来る」という別の英語の声も聞こえる。

在北京イスラエル大使館の報道官によると、この日午後に自国の大使館職員が刃物で攻撃を受けたが、病院で治療を受けて容態は安定しているとブルームバーグ通信が14日、伝えた。

中国官営メディアは警察の発表だけを報じた。これとは違って元「環球時報」編集長の胡錫進氏が13日午後、微博を更新して「最近パレスチナ・イスラエルの重大な衝突によって今回の事件を関連付けて考えることが自然だ」としながら「犯人が誰なのか、攻撃原因が同地域の情勢と関連しているのか、当局の追加詳細情報の提供を待つ」と綴った。だが、胡氏の書き込みはすぐに検閲によって削除された。中国当局は今回の事件に関連したSNS検索語の露出をさせないようにしている状態だ。

中国と違って海外ではパレスチナの武装組織ハマスが聖戦を訴えた当日に北京でテロが発生したことの関連性に注目している。イスラエル住在の論客・張平氏は「ハマスの指導者が金曜日に世界各地にジハード(聖戦)を訴えた後、現在までフランス北部で1件、北京で2件目の事例が発生した」とし「今回攻撃した犯人と背後にいる指示者を厳しく処罰しない場合、今後より多くの攻撃が中国で起きる可能性がある」と懸念した。

◇在中国米国大使館「日程を変更して繁華街では注意を」

在中国米国大使館は自国民に安全注意報を発令した。米国大使館はこの日午後、微博やXに「前職ハマス指導者が『怒りの日(day of rage)』と宣言した日に事件が発生した」とし「周期的な日程をすべて変更して、他人の注目を引くような行動を避け、繁華街を通る時には注意するように」など不測の事態に備えるよう求めた。

一方、北京全域ではものものしい警戒とあわせて検問・検索が始まった。17~18日に140カ国と30カ所余りの国際機構代表が出席する第3回一帯一路(陸・海上新シルクロード)国際協力首脳フォーラムを控えているためだ。15日午前、北京都心国貿CBDでは私服警察十人余りが警察犬を連れて道路で行進している様子が目撃された。幹線道路には10余メートル間隔で哨所が立てられたほか、バス停留所と陸橋にも万一の事態を備えて公安要員が警備に立つ姿が目撃された。大使館が密集する地下鉄亮馬橋駅の出入り口では小銃を所持した警察が通行人の身分証を検問していた。
2023.10.17 08:57 | 固定リンク | 戦争
【速報】特殊部隊が人質250人を救出「ハマス副司令官拘束」
2023.10.15
【速報】イスラエル特殊部隊が人質250人を救出 スーファ、イスラエル、10月13日 (AP) ― イスラエル国防省は10月13日、同国南部パレスチナ自治区ガザ地区の境界線のすぐ外側に位置するスーファで、イスラム武装組織ハマスに一時的に占拠された前哨基地を、海軍特殊部隊が奪回する様子を撮影した映像を公開した。

 同国防省は、ハマスによる奇襲攻撃が行われた当日の7日に実施されたこの作戦で、人質250人が救出され、約60人のハマス戦闘員が死亡、26人が拘束されたことを明らかにした。拘束されたなかにはハマス南部海軍部隊のムハンマド・アブ・アーリ副司令官も含まれていたという。

 「シャイェテット13」は、イスラエル海軍の特殊部隊で、対テロ作戦、破壊工作、情報収集、人質救出などがその主な任務であるといわれている。

イスラエル国防軍は14日、パレスチナ自治区ガザ地区の北部に住む約110万人に対して、住民が通るべきという2つの避難経路を示した。イスラエル空軍は同日、7日のイスラエル侵入作戦を指揮したイスラム組織ハマスの司令官をドローン攻撃で殺害したと明らかにした。他方、ガザ当局によると、イスラエルの空爆によるガザの死傷者は1万人を超えた。

イスラエル軍のアヴィチャイ・アドラエ報道官はソーシャルメディアで、ガザ北部から南部へ移動する経路を2つ示し、現地時間の午前10時~午後4時(日本時間の午後4時~午後10時)の間は、「危害を受けることなく」ここを通行できると、ソーシャルメディア「X(旧ツイッター)」でアラビア語で発表した。

報道官は、ガザ市の住民はハンユニスまで南へ移動するよう指示。沿岸部やザイトゥン地区西の住民にも、特定の道路を使った南への移動が認められるとした。

イスラエル軍の地上部隊によるガザ侵攻が近いとされている。イスラエルは地上攻撃の準備を進めており、ガザ地区との境界付近に兵士や重砲、戦車を集めている。

ガザ市と2つの難民キャンプが位置するガザ北部は、人口密集度の高いガザ地区でも特に人口の多い地域。南へ移動するための幹線道路は1本しかなく、自動車用の燃料はなくなりつつある。

こうした中、米国務省関係者は14日、ガザ地区にいるアメリカ国民は、エジプトへ至るラファ検問所からガザを出られることになったと明らかにした。イスラエルとエジプト両政府の合意を受け、現地時間正午から午後5時(日本時間午後6時~同11時)の間、ラファ経由の退避が認められるという。ただし、ハマスがこれを認めるかは不透明な情勢。

イスラエルとガザの間の通過地点は7日以降、すべて封鎖されてきた。ガザとエジプトを結ぶラファ検問所は、エジプトの管理下にあるものの、イスラエルの空爆が続き、ほとんど閉鎖されているか、通行が厳しく制限されている。

イスラエル政府は12日、ガザ地区のワディ・ガザ(ガザ渓谷)以北の全住民は24時間以内にガザ地区南部に退避すべきだと通告した。退避の対象となるのは、ガザ地区の人口のほぼ半数の約110万人。人口密度が高いガザ市も含まれる。

イスラエルからの通告を受けた国連は声明で、「このような人の移動は、壊滅的な人道的影響なしには不可能だ」とした。

世界保健機関(WHO)は、ガザ地区の保健当局から、危険な状態にある入院患者を病院から避難させるのは不可能だと報告を受けたと明らかにした。

ハマスは、イスラエルによるこの退避勧告は「偽のプロパガンダ」だと主張し、無視するようガザの住民に呼びかけている。しかし、すでに大勢が自宅を離れている。

ただし13日夕方には、ガザ北部から南へ避難する市民の車列が空爆され、多数が死傷したという情報が拡散した。BBCヴェリファイ(検証チーム)が現場映像などを調べたところ、ガザ地区を南北に走るサラ・アラ・ディン通りで13日午後5時半ごろ、車列が攻撃されたのが確認できた。

サラ・アラ・ディン通りは、イスラエル軍が14日の時点で「危害を加えない」避難経路として、ガザ住民に向けて発表したルートのひとつ。

13日午後の現場映像では、少なくとも12人が遺体となってトラックの荷台や路上に倒れているのが確認できる。そのほとんどが女性と子供で、子供は幼児に見える。

パレスチナ保健当局はこれについて、イスラエルの空爆で70人が死亡したとしている。

イスラエル国防軍は、事実関係を調べているとする一方、ガザ住民が北部から避難するのを阻止しようとしているのは、敵の方だと主張した。

■ガザの死傷者1万人超える=ガザ当局

ガザの保健省によると、14日までにイスラエルの空爆で死亡した人は少なくとも2215人に達し、負傷者は8714人に上る。報道官によると、死傷者の6割が女性や子供だという。

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区では、ガザ空爆に抗議するパレスチナ人とイスラエル軍の衝突が続き、パレスチナ人54人が死亡、1100人が負傷している。

国連の人道問題調整事務所(OCHA)は13日、イスラエルによる7日からの空爆でガザ地区では「1300棟」の建物が破壊され多と発表。その中に含まれた「5540軒の住宅」が破壊され、さらに3750棟の民家が居住不可能なまでに破壊されたという。

OCHAは12日、 ガザで33万8000人以上が住む場所を失ったと発表している。

侵入作戦指揮の司令官殺害=イスラエル空軍

イスラエル空軍は14日、7日のイスラエル侵入作戦を指揮したハマスのアリ・カディ司令官をドローン攻撃で殺害したと明らかにした。イスラエル総保安庁(シンベト)とイスラエル参謀本部諜報局が入手した情報をもとに、カディ司令官殺害を成功させたとしている。

イスラエル軍はこれに先立ち13日、パレスチナ自治区ガザ地区内の一部で「テロリストのセル(小集団)とインフラによる脅威を排除」するため、地上部隊による急襲作戦を展開したと明らかにした。

イスラエル国防軍の報道官は13日、地上部隊による作戦行動は「その地域からテロリストと武器を一掃」し、「行方不明となっている人たち」を探すためだと説明した。

ハマスによって最大150人が拉致され、人質に取られたとみられている。

イスラエル軍は、部隊がガザ地区に入ることで、人質の居場所について手がかりになる証拠を集められたと説明した。

ソーシャルメディアに投稿した動画では、「イスラエル攻撃にガザ地区内のハマスのテロリスト拠点と対戦車ミサイルランチャーが使われた直後、イスラエル空軍はこれを引き続き空爆した」としている。

これに対してハマスの軍事部門「アル・カッサム旅団」は、イスラエル南部アシュケロンへのロケット弾発射を続けていると主張している。

発電所が燃料切れに

イスラエルによるガザの完全封鎖は続き、食料や水や燃料が枯渇しつつある。

イスラエルによる完全封鎖を受けて、ガザ唯一の発電所の燃料がなくなり、主要電源が切れた。電力を失い、ガザの上下水道システムも停止する見通し。

ガザの病院や家庭、事業所などは発電機を使っているが、この燃料もなくなりつつある。

ハマスや軍事部門のアル・カッサム旅団は、イスラエルのほかアメリカ、欧州連合(EU)、イギリスなどからテロ組織として認定されている。

他方でイランはハマスを支援し、資金や装備、軍事訓練などを提供している。

イスラエルによると、ハマスの戦闘員は約3万人にのぼり、自動ライフルやロケット推進式の手投げ弾、対戦車ミサイルなどの武器を所持しているという。

ガザ地区は、イスラエル、エジプト、地中海に挟まれた全長41キロ、幅10キロの領土。約230万人が暮らし、世界で最も人口密度が高い地域の一つとなっている。

ガザ地区の上空と海岸線はイスラエルが掌握しており、人と物の行き来もイスラエルが検問所で制限している。同様にエジプトも、ガザ地区との国境で出入りを管理している。

■【解説】 救出か取引か イスラエル史上最悪の人質危機

イスラエルが地上戦をにらみ、正規軍と予備軍の兵士計数十万人をパレスチナ自治区ガザ地区との境界付近に集結させている。だが、何ともしようがないような難しい状況にイスラエルは直面している。

ガザ地区のイスラム組織ハマスは7日にイスラエル南部に侵入した際、少なくとも150人を人質にとった。それらの人質は現在、ガザ地区内の秘密の場所で拘束されている。女性、子ども、高齢者もいる。

もうすぐ始まるとも言われるガザ地区での本格地上侵攻に、イスラエルが実際に踏み切った場合、どれくらいの確率で人質たちは生き残れるのだろうか。

〇妥協ムードは皆無

水面下では、カタール、エジプト、そしておそらく他の国々が、人質の一部解放に向けた交渉の努力をしているとされる。イスラエルの刑務所に収容されている36人のパレスチナ人女性と未成年者と引き換えに、ハマスが女性と子どもを解放するという案も浮上している。

しかし、イスラエルのライヒマン大学政策戦略研究所のシニアアナリスト、マイケル・ミルスティーン氏は、イスラエルが最優先するのは平時なら人質の返還だが、現在は軍事的脅威であるハマスの排除だと話した。

イスラエルとハマスは共に緊張と怒りが頂点に達している。妥協や譲歩の雰囲気はない。

イスラエル国民は、南部で国境がいとも簡単に武装集団に突破され、少なくとも1200人が(多くは冷酷な方法で)殺害されたことに衝撃と憤りを感じている。

一方のパレスチナ人は、ハマス以外の人々も含め、イスラエルによる2000回以上のガザ空爆で1000人超が死亡していることに大きなショックを受けている。ガザ地区では現在、燃料、電気、水、医薬品の供給が断たれている。

ハマスは、イスラエルが警告なしに空爆を実施し、ガザ地区で民間人の死者が出るたび、人質を1人ずつ「処刑する」と脅している。それがこれまでに実行された証拠はない。他方、イスラエルにも自制の兆しはほぼ見られない。意図的にガザ地区の大部分をがれきへと変えている。

ただ、ライヒマン大学のミルスティーン氏は、女性や子ども、高齢者を拘束し続けることには、ハマスはこだわっていないだろうとみている。それらの人々は、拘束すれば国際的に非難されるし、世話が大変だからだ。空爆が続き、人質の居場所をガザ内のイスラエル側スパイに知られないようにしている状況では、面倒をみるのは簡単ではない。

対照的に、拘束した兵士については、ハマスは最大限に利用するだろう。今後、交渉が始まった場合は、最大限の対価を要求するはずだ。

〇困難な選択

こうした状況が、イスラエル政府をジレンマに陥れている。リスクを伴う軍事的な救出作戦を試みるのか。それとも、ハマスが空爆で弱体化して取引に応じる気になるのを待つのか。

後者にもリスクはある。人質は地下トンネルや地下壕(ごう)で拘束されているとみられるが、空爆の影響が及ぶ可能性がある。また、ハマス戦闘員が衝動的な怒りや、救出されてしまうとの見通しに基づいて、人質を殺す恐れは常にある。これは実際、2012年にナイジェリアでジハード(聖戦)主義者に拘束された人質2人の救出作戦で、イギリスとナイジェリアの特殊部隊が失敗した時に起きたことだ。

イスラエルは今回、人質対応の専門部署を素早く設置し、人質一人ひとりの身元と状況の確認を進めている。

イスラエル領内で拘束されていた人々については、イスラエル軍と警察の特殊部隊が救出した。その際、一緒にいたハマス戦闘員らは全員殺害した。しかし、イスラエル軍情報部に20年間在籍していた前出のミルスティーン氏は、「イスラエルがガザのすべての家や通りのデータを握っているわけではない」と警告する。ハマスは地下の部屋やトンネルのネットワークに、自らと人質を隠すことができる。

イスラエルは人質救出の実績をもち、訓練も集中的に実施している。1957年に創設されたイスラエルの秘密部隊「サイェレット・マトカル」は、イギリス軍の特殊空挺部隊(SAS)やアメリカの陸軍特殊部隊(デルタフォース)に似ている。1976年に、ウガンダの空港でハイジャックされた飛行機から人質を救出した「エンテベ空港奇襲作戦」で一躍有名になった。

この部隊の指揮したヨナタン・ネタニヤフ大佐は、イスラエル軍側の唯一の死者となった。現在のイスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏は、その弟だ。交渉による人質解放に望みをかけるのか、それとも武力による救出という強硬手段に出るのか、その決断は彼が下す。

〇「史上最も難しい人質事案」

イスラエルに対しては、アメリカが機密情報と、おそらくは特殊部隊による支援も提供しているとの報道が出ている。米海軍は、地中海東部の沖合に大型空母群を展開させている。

しかしハマスは、戦力が大きく上回る相手と戦えることを、これまでに証明している。イスラエルはテクノロジーと火力で圧倒的優位に立っているが、ハマスはその差を補うことができる。

通信を最小限に抑え、デジタルの痕跡を残さないようにすることで、ハマスは7日のイスラエル奇襲を可能にした。150人超の人質を拘束している戦闘員らは、可能な限りオフラインの状態を保ち、電波を使わないだろう。人質たちからはほぼ間違いなく、すべてのデジタル機器を取り上げているはずだ。

「これは間違いなく、イスラエルにとって史上最も難しい人質事案だ」。前出のミルスティーン氏はそう話す。

■米、2隻目の空母派遣へ 地中海に、中東情勢緊迫で

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11日の記者会見で、米海軍の空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」を中心とする空母打撃群を新たに地中海に派遣すると発表した。

中東情勢が緊迫する中、2隻目の空母を投入し、イスラエルに対する軍事行動の抑止を目指す。

 米軍は既に空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群をイスラエルに近い東地中海に展開している。

 カービー氏は空母派遣について、「イスラエルに敵意を抱く組織、国家などに対し、抑止力を高めるのが狙いだ」と説明した。2隻目の空母は今後大西洋を横断し、地中海に向かう予定だという。

■イギリス、東地中海に海軍艇を派遣へ イスラエル首相に支援伝える

英首相官邸は12日、「イスラエルを支援する」目的で、地中海東部に偵察機と海軍の艦船2隻を派遣すると発表した。リシ・スーナク首相は同日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話協議し、支援を表明した。

発表によると、偵察機は13日にパトロールを開始する。「テロリスト集団への武器の移動など、地域の安定に対する脅威を追跡する」という。

この取り組みには、偵察機のほかヘリコプター、海上哨戒機P8、海軍の一個中隊が関係している。

スーナク首相は声明で、この軍事支援が事態の「さらなる深刻化を防ぐ」だろうとした。

また、「イスラエルおよび地域のパートナーに実質的な支援を提供し、抑止力と保証を与える」ため、英軍は待機しているとした。

今回の計画では、英海軍の機動部隊が来週この地域に移動し、人道支援活動をサポートすることになっている。

スーナク氏は、イスラエルで起きた「恐ろしい光景」が「繰り返されない」よう、政府として「明確な姿勢を示す必要がある」と説明。

「安全を回復し、ハマスのテロリストによる野蛮な攻撃の犠牲となった罪のない何千もの人々に人道支援が届くよう、この地域の私たちの軍事・外交チームは国際的なパートナーを支援していく」とした。

スーナク氏はまた、イスラエルやキプロス、地域に展開している軍部隊に対し、有事計画の支援に備えて態勢強化を求めた。

イスラエル南部では7日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがかつてない規模の攻撃を仕掛けた。少なくとも1300人を殺害、150人近くを人質に取ってガザ地区に連れ去った。

イスラエルはガザ地区に報復の空爆を実施しており、1500人以上が死亡している。

グラント・シャップス英国防相は、今回の軍事支援は「ハマスのテロ作戦を確実に失敗させるというイギリスの決意の紛れもない表明となる」と述べた。

一方、イギリス外務省はイスラエルに取り残された国民のため、航空機の手配を始めた。

最初の飛行機は12日にテルアヴィヴを出発の予定。「安全状況次第で今後数日のうちに」さらなる退避便を予定しているという。

〇イスラエル首相と電話協議

英首相官邸は12日、スーナク氏とイスラエルのネタニヤフ首相が電話で協議したと発表した。

発表によると、スーナク氏は「イギリスはテロとの戦いにおいてイスラエルと共にある」と表明。ハマスがイスラエル国民に二度と残虐行為を実行できなくなることに賛同したという。

スーナク氏はまた、ハマスがガザ地区の市民の中に紛れていると指摘。一般のパレスチナ人の保護と、それらの人々への人道支援の促進に、あらゆる手段を講じることが重要だと伝えたという。

この電話協議に先立ち、スーナク氏はエジプトのアブドゥルファタハ・アル・シーシ大統領と協議。ガザ地区に閉じ込められたイギリス人やその他の人々を脱出させるため、エジプト国境のラファ検問所を開くことの「重要性」について話し合ったという。
2023.10.15 07:54 | 固定リンク | 戦争

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