レオパルト2「ロシア軍と接近戦」
2023.10.02
ウクライナ軍のレオパルト2A6戦車、白昼にロシア軍と接近戦 損失は71両中5両のみ 反攻開始から3カ月

■レオパルト2損失は71両中5両のみ

ウクライナ軍が南部と東部で待望の反転攻勢を開始してから13週間。その間、運用する71両のレオパルト2戦車のうち、失ったのはわずか5両だ。

これまでに少なくとも10両のレオパルトが損傷したが、ウクライナ軍はポーランドとドイツの車両基地で損傷車両を修理し、戦線に戻している。

重量69トンのレオパルト2は頑丈だ。そのため、損傷しても修理されてまた戦闘に投入される。再度損傷しても、また修理できる。繰り返しの利用に適しているのだ。

より重要なのは、破壊された5両のレオパルト2の乗員20人のほぼ全員が、車両が燃えたり爆発したりする前に脱出した可能性がある点だろう。

ウクライナ軍の兵士オレクサンドル・ソロニコは「ひどく損傷した装備であっても回収され、修理に出される」と説明する。「金属片ならたとえ高価でも交換できるが、人の命は修理できない」

カナダやデンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデンなど、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心とした国々は、ウクライナにストリッツヴァグン(Strv) 122を10両、レオパルト2A6を21両、レオパルト2A4を74両供与すると約束した。Strv 122はスウェーデン軍が使用していたレオパルト2A5の改良型だ。

14両のレオパルト2A4を除き、これらの戦車はすでに前線に到着している。

1980年代に生産されたA4はレオパルト2の中では最も装備が古い。90年代に生産されたStrv 122とA6には新しい複合装甲が施され、光学機器もアップグレードされた。A6には射程が長く威力のある120mm砲が搭載されている。

レオパルト2が生き残れるよう、ドイツ戦車メーカーのKMWとラインメタルは砲塔に弾薬を保管する特別なコンパートメントを搭載した。このコンパートメントは攻撃を受けると外側に向けて爆発し、乗員を保護する。

対照的に、ロシア軍の戦車は砲塔の下に弾薬を収納する。弾薬が爆発すると、砲塔と乗員3人もろとも吹き飛ばされる。レオパルト2は、車体を乗員もろとも破壊するよりも、車体に損傷を与えて乗員を離脱させる方がずっと簡単だ。一方でロシア軍のT-72戦車が直撃を受けると、戦車と乗員の両方が甚大な被害を受ける可能性がある。

破壊が映像や写真で確認されたレオパルト2の数は、6月4日に反攻が始まって以来、わずか5両だ。その内訳は、50両配備されたA4のうちの2両と、21両配備されたA6のうちの3両。Strv122の破壊は確認されていない。

「長い目で見れば、装甲の損失をゼロとすることは不可能だ。だが、装甲はリスクを伴う目的を果たすのに役立つ」とソロニコは指摘する。

「開いたハッチ」は乗員の脱出を示唆

レオパルト2の損失はすべて、マラトクマチカとロボティネを中心とする約40km四方で発生している。ロボティネからトクマクを経由して約80km離れたロシアに占領されている南のメリトポリに至る攻勢軸は、反攻作戦が3カ月目に突入するいま、ウクライナ軍が特に注力しているところだ。

ウクライナ軍は、ロシアの占領下にあるクリミアのロシア軍駐屯地への陸路の補給線を断ち切るため、メリトポリの解放を目指している。ウクライナ軍は着実に前進しているが、その歩みは遅い。第82航空強襲旅団と第47機械化旅団が率いる6つの部隊は先週、ロボティネを解放したばかりだ。

レオパルト2A4とA6はロボティネの北に待機している第33機械化旅団に配備されているが、同旅団はどうやら第47旅団を支援するために戦車中隊を送っているようだ。第82旅団には英国が供与したチャレンジャー2戦車が配備されている。

戦車を展開することで、M2ブラッドレー歩兵戦闘車やストライカー装甲車、マルダー砲兵戦闘車に乗った突撃部隊に威力のある長距離兵器が加わることになる。

これは乗員たちにとって過酷な任務だった。地雷原を進み、大砲の砲撃や大量の自爆ドローン(無人機)「ランセット」に耐え、攻撃ヘリや爆弾をかわしてきた。レオパルト2にとって、地雷とランセットの組み合わせが最も危険だったようだ。地雷は戦車のキャタピラを損傷させて動けなくする。そこへランセットが飛んできて戦車にとどめを刺す。

だが、破壊された5両のレオパルト2のうち4両をとらえた写真や映像には、砲塔や車体のハッチが開いている様子がうつっている。これは乗員が戦車から脱出したことを強く示唆している。ソロニコは、西側の戦闘車両は「命を救う」ものだと書いている。

5両の戦車が使い物にならなくなり、10両が修理のために車両基地に移されたが、ウクライナ軍の旅団はまだ最初に配備された71両のレオパルト2のうち50両超を運用している。来年初めに到着する予定の14両のレオパルト2A4は、損失を補って余りある。

大半のレオパルト2よりも装甲が厚い米国製のM1エイブラムス31両など、さらに多くの西側製の戦車がウクライナに向かっている。

だがウクライナ軍は、レオパルト2、チャレンジャー2、M1エイブラムスとは全く対照的に最小限の装甲のみ施されているレオパルト1A5も、少なくとも165両手に入れる。レオパルト1がレオパルド2のように敵軍の攻撃を強行突破することは期待できない。

■白昼にロシア軍と接近戦

ウクライナはドイツから供与された、わずか21両の砲身の長いレオパルト2A6戦車すべてを第47機械化旅団に配備した。同旅団は、南部ザポリージャ州のロボティネからトクマクを経てロシア占領下にある主要都市メリトポリに至る約80kmにわたる軸に沿って進められているウクライナ軍の反攻を率いている。

第47旅団は6月上旬に、マラトクマチカの南方に広がるロシア軍の第1防衛線への直接の攻撃で重量69トン、乗員4人の2A6を3両失った後、戦車を使った戦術を変えた。それから3カ月間、55口径120mm滑腔砲と昼夜使える高性能の照準装置を搭載した2A6はほぼ夜間に長距離砲を使って戦った。

だがそれは、百戦錬磨の第47旅団が運用する2A6が白昼にロシア軍の陣地に向かって突き進み、砲撃を加えることができないということではない。

まさにそうした白昼の戦闘が最近、メリトポリにのびる軸のどこかで行われた。第47旅団が9月29日にネットに投稿した映像には、戦車と戦闘車両、歩兵によるウクライナ軍の連合部隊と、姿の見えないロシア軍部隊との間で昼間に行われた荒々しい接近戦が映っている。

第47旅団の部隊が砲火を浴びたのは、米国製M2ブラッドレー歩兵戦闘車が、レオパルト2A6と並んで平野を南下していたときだったようだ。映像では、砲撃が爆発する様子が遠くに映り、またロシア軍が放った小火器の弾が撮影者の頭上を飛んでいる。

ロシア軍が樹林帯から機関銃を撃つと、M2は後退してスロープを降ろし、乗り込んでいた歩兵6人が飛び出す。歩兵らはM16自動小銃と対戦車ロケットで武装している。「こっちっだ!」と1人の兵士が叫ぶと、他の兵士らはロシア軍の塹壕だったと思われるところに身を隠すために飛び込む。ある兵士は、ロシア軍は白リン系の焼夷弾を撃っているのだろうと推測する。

ドラマチックに映し出されるバランスの取れた設計された2A6
M2が後退する中、2A6はロシア軍を抑えこもうと主砲で攻撃しながら前進する。「耳を覆え!」とウクライナ軍の兵士が叫ぶと、砲身の長い主砲から120mmの砲弾が発射される。

その後数秒間、2A6のバランスの取れた設計がドラマチックに映し出される。対戦車ミサイルから乗員を守るためだろうが、2A6は後部に搭載されたエンジンをロシア軍に向けている。そして砲撃を加える合間に前後に動く。おそらくロシア軍が狙えないようにするためだろう。

こうした機敏な動きは、主力戦車のT-72を含め、旧ソ連が開発した戦車の多くはできない。というのも、より機動性が優れている西側製の戦車に標準装備されている高速で後退するギアがソ連製戦車にはないためだ。

車両から降りたウクライナ軍の歩兵らは、自分たちが特別なものを目にしていることを知っている。世界で最も優れた戦車の1つが、ドイツ防衛機器メーカーのクラウス・マッファイ・ウェグマンが設計したとおりに動いているのだ。戦車の砲弾が、映像には映っていないロシア軍の陣地に打ち込まれると、歩兵たちは歓喜の声を上げる。

この接近戦が第47旅団の戦術に新たな変化をもたらすかどうかは何とも言えない。確かに、同旅団がメリトポリ軸に沿って前進するにつれ、戦場は変化している。地雷の密度は低くなっている。ますます劣勢に立たされているロシア軍の砲兵隊の砲撃は減っている。

第47旅団に残された18両のレオパルト2A6にとって、ロシア軍の陣地に接近する方が安全なのかもしれない。そして近いうちに、30両を超える2A6より古いレオパルト2A4Vや、まだ破壊されていない13両の英国製チャレンジャー2、今後到着する31両の米国製M-1エイブラムスといった優れた戦車も同じような戦い方をするかもしれない。

2023.10.02 15:21 | 固定リンク | 戦争

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