プーチン・習近平・金正恩「独裁者の盟約」
2023.09.20
中国の王毅外相がロシア訪問 プーチン「中国訪問の調整」 「プーチン・習近平・金正恩の盟約」 武器資金供与 逮捕なければ西側非難囂々

中国の王毅外相は18日、モスクワを訪れ、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相と会談した。ロシア国営メディアによると、両外相は会談後、ウクライナでの戦争を終わらせる取り組みは、ロシアの利益を考慮する必要があると述べた。

ロシアのメディアは、王外相のロシア訪問を通じて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による中国訪問の調整が行われると伝えた。

これに先立ち中国外務省は同日、王毅外相が「戦略的安全保障協議」のため18日から4日間の日程でロシアを訪問していると発表。

ロシア国営タス通信は同国政府関係者の話として、王外相とラヴロフ外相、ウクライナでの戦争や北大西洋条約機構(NATO)軍の拡大、アジア・太平洋地域のインフラ、国連など国際協議の場での協力などを話し合うと伝えていた。

今月初めにプーチン氏は、中国の習近平国家主席と会う予定だと言及したが、具体的な時期には触れなかった。

今年3月に国際刑事裁判所がウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチン大統領らに逮捕状を出して以来、プーチン氏は国外に出ていないとされている。昨年12月にベラルーシとキルギスタンを訪れたのが、プーチン氏の最後の外国訪問とされる。

ロシアと近い関係にある中国政府は、間接的にロシアの対ウクライナ戦争を支援していると西側から批判されている。中国はそのような支援を否定している。

シンクタンク、アジア・ソサイエティ政策研究所のローリー・ダニエルズ氏は、中国は欧州との関係改善のためにもウクライナでの戦争の終わりを望んでいるものの、ロシアに対しても同情的なため、「(戦争終結の)結果と、戦争の責任追及を切り離したい」のだと指摘する。

「プーチンの中国招待はロシアに支持を表明する方法だが、それはロシアを交渉のテーブルに着かせるための正当な取り組みという文脈に位置付ける必要がある。中国が欧州諸国との関係を悪化させないためにも」と、ダニエルズ氏は言う。

王外相の訪ロに先立ち、プーチン大統領は北朝鮮の金正恩総書記を歓迎。ロシアと北朝鮮は、「軍事協力」のほか、北朝鮮の人工衛星打ち上げ事業への協力などについて両首脳が話し合ったと発表した。

長引くウクライナ侵攻で武器や砲弾が不足しているロシアに、北朝鮮が武器を提供する取引をしたのだろうと、アメリカは指摘している。

プーチン大統領と金総書記の会談について聞かれ、中国外務省は、「両国の間のことだ」とのみ答え、コメントを避けた。

ただし、中国がロシアと北朝鮮の双方と緊密な関係を維持していることから、金総書記のロシア訪問について中国はあらかじめ承知、場合によっては承認していただろうと、一部の専門家は話す。

中国と北朝鮮の関係は、政治思想や西側への不信という共通点を超えている。中国はかねて貿易を通じて北朝鮮の経済的生命線であり続けてきた。それと同様、昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降は、中国はロシアの原油や天然ガスを買い支えてきたため、今や中国はロシアの経済的生命線にもなりつつある。

「ロシアと北朝鮮の間で何が起きているにせよ、中国のあずかり知らないところで起きているはずがない」、「中国政府の了解なくして、ロシアと北朝鮮が軍事的に協力するなど、ありえないと思う」と、豪ニューサウスウェールズ大学で中ロ関係を専門とするアレクサンダー・コロレフ博士は言う。

ウクライナ侵攻で自分たちに代わってロシアを支援するのに、北朝鮮は便利な代理役だとさえ、中国が考えている可能性もあると、コロレフ博士は話す。

「北朝鮮に、ロシアと軍事協力してもいいよと青信号を出すだけで、中国は自分たちの評価をほとんど落とすことなく、ロシアを助けることができる。自分たちに何の関係もない北朝鮮のならずもの政府がやることだと、中国は北朝鮮のせいにできるだろう。もしそうなら、頭のいいやり方だ」

■前日には米大統領補佐官と会談

中国の王外相は17日には、地中海のマルタで、アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談したばかり。両政府の発表によると、両氏は二国間関係について協議したほか、地域の安全保障とウクライナに対する戦争についても話し合った。

北朝鮮によるロシアへの協力をやめさせるため、中国から北朝鮮に圧力をかけるよう働きかけることが、マルタ会談のアメリカ側の狙いだったかもしれないが、中国がそれに応じる可能性は低いと、コロレフ博士は言う。

「アメリカ流に応じるつもりが中国にあるなら」、中国は「1年以上前から」ロシアとウクライナの停戦に向けて動くことができたはずだが、そうしなかったと、博士は指摘する。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、中国は経済的に、さらには重要技術提供の形で、ロシアを支援してきたと、アメリカは非難している。

今年7月に公表されたアメリカ国家情報長官の報告書によると、「西側の制裁や輸出規制の打撃を緩和するため、中国はロシアに対して、さまざな経済支援の仕組みを推進している」のだという。

同報告書は、中国はロシア産エネルギーの購入を増やし、ロシアとの間で人民元建ての取引を増やしたほか、ウクライナでの使用を念頭にドローンなど軍民両用技術を「おそらく」提供していると指摘した。

中国の王外相は17日には、地中海のマルタで、アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談したばかり。両政府の発表によると、両氏は二国間関係について協議したほか、地域の安全保障とウクライナに対する戦争についても話し合った。

北朝鮮によるロシアへの協力をやめさせるため、中国から北朝鮮に圧力をかけるよう働きかけることが、マルタ会談のアメリカ側の狙いだったかもしれないが、中国がそれに応じる可能性は低いと、コロレフ博士は言う。

「アメリカ流に応じるつもりが中国にあるなら」、中国は「1年以上前から」ロシアとウクライナの停戦に向けて動くことができたはずだが、そうしなかったと、博士は指摘する。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、中国は経済的に、さらには重要技術提供の形で、ロシアを支援してきたと、アメリカは非難している。

今年7月に公表されたアメリカ国家情報長官の報告書によると、「西側の制裁や輸出規制の打撃を緩和するため、中国はロシアに対して、さまざな経済支援の仕組みを推進している」のだという。

同報告書は、中国はロシア産エネルギーの購入を増やし、ロシアとの間で人民元建ての取引を増やしたほか、ウクライナでの使用を念頭にドローンなど軍民両用技術を「おそらく」提供していると指摘した。

■プーチンと金正恩の盟約の裏側

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は、きらびやかな宇宙基地を並んで歩いた。後ろにいた側近たちも歩調を合わせた。

二人は発射台の上に立ち、ロケットの打ち上げに使われる穴をのぞき込んだ。

その日の豪華な晩さん会では赤ワインを傾けた。国際社会の大多数から嫌われている国同士の、乾杯だった。

そして別れる前に、2人はプレゼントを交感した。お互いの国製のライフルだ。

ロシアの極東で行われたプーチン氏と金氏のデートは、戦争の中で築かれている新しい関係を明示する見た目になっていた。

金氏はさらにロシアでの滞在を延長し、港湾や航空機工場、軍事施設などを数日かけて見て回る予定だ。

両首脳の会談には、開始以前から大きな注目が寄せられていた。金氏が装甲列車で何時間もかけて国境を越えていく様子を、世界のメディアは見つめ続けた。

金氏がロシア東端にあるヴォストチヌイ宇宙基地にたどり着くまで、西側では40時間にわたって憶測が飛び交った。その後も、両首脳がいったい何を話す予定なのかはわからないままだった。米ホワイトハウスは先週、北朝鮮がロシアに兵器を売る可能性があると警告している。

総書記の列車到着を出迎えるため、プーチン氏は出迎えの先遣隊を現地に派遣した。敷地内の線路の横に、赤じゅうたんが敷かれた手すり付きのステップが設置され、北朝鮮の指導者の列車の停車と、本人が降りてくるのを待ち構えていた。

プーチン氏は、リムジンに乗った金氏を宇宙基地の建物前で出迎えた。カメラのフラッシュがたかれる中で、二人は握手した。その様子はすぐさま、国営メディアによって報じられた。

どちらの首脳も、見世物と演出の力を熟知しているが、金総書記は特に、大掛かりな式典を好む。英シェフィールド大学の北朝鮮専門家サラ・サン博士は金氏について、「自分たちについて何世代もの神話を構築してきた一族」から出た、最高指導者の3代目なのだと指摘する。

「北朝鮮の人たちは、総書記のこの旅や会談の一部をテレビや新聞で目にすることになる。それだけに、総書記がありきたりの、任期限定の国家指導者と同じだと思われては、北朝鮮としては困る」のだと、サン氏は述べた。

「金総書記にとって、他国の首脳と一対一で会談することは、非常に重要だ。そうすれば全員の目が自分に集まるし、国際舞台で北朝鮮が実際よりも重要な存在なのだと、そういう見た目を演出できる」

「もちろん、国際社会による制裁は依然として極めて厳しい。それだけに、ロシアが武器を必要としている現状は、北朝鮮にとって相補的な2つの目的を実現するチャンスとなっている。つまり、国家への収入確保に加え、金氏は主要国の指導者に会えるだけの存在なのだと示すことが、その2つの目的だ」

両首脳が会談する1時間ほど前、北朝鮮は2発の弾道ミサイルを発射した。国家元首が国内にいない時に発射したのは初めてだった。

ソウルの梨花女子大学校のリーフ=エリック・イーズリー教授は、「この首脳会談は、欧州とアジアにおける嫌われ者国家の振る舞いを結びつける、挑戦的なものだった」と語った。

しかし、この会談がきらびやかな見た目と大げさな演出にとどまらず、具体的な取引につながったのかどうか、オブザーバーたちは疑問視している。その内容はほとんど公表されなかった。

ソウルの国民大学校で北朝鮮の軍事を研究するフョードル・テルティツキー氏は、「現時点では、公の場での実質的な進展はないようだ」と話した。

「我々が見たのは、二面的なイベントだった。主に海外向けに作られた壮大な見世物と、密室での非公開の合意。そして、合意の意義については不透明なままだ」

ウクライナにおけるロシアの戦力を北朝鮮が底上げしかねないと、西側は懸念している。この武器取引については、何も明かされていない。

また、食糧支援、経済支援、軍事協力、技術共有など、金氏が希望したはずの内容を北朝鮮が獲得したのかについても、何も言及がない。

唯一成果として明らかになっているのは、北朝鮮の宇宙開発や人工衛星打ち上げについてで、プーチン氏はロシアによる支援提供の可能性をちらりと口にした。

だからこそ宇宙基地が首脳会談の場所として選ばれたのだろうと、アナリストらは言う。両首脳は、ロシアの中でもモスクワとは遠く離れた場所にある、先進的な宇宙基地まで長距離を移動した。

しかし、宇宙基地での会談はプーチン氏にとっても、意味のある姿を世界に示す機会だったと、専門家たちは言う。

第一に、プーチン氏は宇宙開発を支援するとちらりとだけ触れた。それはおそらく北朝鮮に提供できる範囲内にとどまった。

北朝鮮は今年2度、偵察衛星を宇宙に運ぶことに失敗している。北朝鮮の宇宙技術は、ロシアに何十年も遅れている。

北朝鮮が敵の監視に使える衛星を宇宙空間に置く手助けをすることと、国連安全保障理事会から長年にわたって非難され、禁止されている北朝鮮の核・ミサイル開発計画について、ロシアが実際の手助けに同意することとは、大きく異なる。

ウクライナ侵攻以前のロシアは、北朝鮮による軍縮の可能性について、何らかの仲介役として影響力を持つかもしれないとさえ、国際社会では見られていたこともある。

つまり、今回の会談は「プーチン氏が安保理決議を、せせら笑ったに等しい」と、イーズリー教授は指摘した。

「これは他のすべての国連加盟国に対して、対北朝鮮制裁の徹底に向けて、努力を今一度強化しなくてはならないと、警鐘を鳴らすものだ」

一方で、宇宙基地という場所はフェイントに過ぎないと見る向きもある。ウクライナ侵攻後にロシアとの関係を断ち、制裁を採用した西側諸国と韓国を不安にさせるのが狙いだと。

「プーチン氏は、今回の首脳会談を韓国へのテコとして利用するつもりなのかもしれない。ウクライナへの武器供与を思いとどまらせるための。韓国がウクライナに武器を提供するなら、ロシアは報復として北朝鮮に軍事技術を提供するぞと、暗に示唆しているのかもしれない」と、前出のテルティツキー氏は言う。

しかし、自分たちの最高峰の宇宙開発技術を北朝鮮に分け与えるつもりがロシアにあるのか、そもそも北朝鮮から受け取る武器を念のための予備以上に評価しているのか、どちらもかなり疑わしい。

テルティツキー氏は、「人工衛星技術に関しても、プーチン氏の発言は慎重で、援助を提供するという明確なコミットメントではなく、検討するかもしれないと強く示唆するものだった」と指摘する。

テルティツキー氏はまた、両国間にほとんどマネーフローがないと述べた。韓国の推計によれば、兵器をめぐる表向きの発言とは裏腹に、両国の貿易額はゼロに近い。北朝鮮は貿易収入の95%以上を、中国に依存している。

「そのため、今回の首脳会談が、成果ゼロだった前回2019年の会議よりも具体的な結果をもたらすかどうかは不透明だ」

だが前回の会談から4年がたっているだけに、金氏の珍しい外遊を過小評価するべきではないと、専門家たちは言う。今回は4年ぶりの外遊で、北朝鮮もまた、新型コロナウイルスのパンデミック後、世界に対して再び門戸を開き始めているのだ。

プーチン氏も、金氏をしっかり豪勢にもてなすよう注意を払っていたと、専門家たちは指摘する。

この会談はたとえば、プーチン氏肝いりの東方経済フォーラムの一部として、極東ウラジオストクで行われても良かったはずだ。同フォーラムにはかつて、中国や韓国の首脳も出席していた。

だがプーチン氏は全く別の場所を選び、金氏を目立つ舞台の中心に招いた。赤いカーペットに晩さん会。マーチングバンドをそろえ、自らもその場所までおもむいた。

「金氏への敬意を示したことになる。自分は尊重されていると、金氏に感じてもらうためのふるまいだったのだろう」と、テルティツキー氏は話す。

だが同時に、これは西側へのメッセージでもあるという。その詳細は不明でも、ロシアと北朝鮮の二国間関係について、西側が今まで以上に気にして、重視するようにさせるための。

しかしこの関係においては、両国が実際に何をするか、そこを中止するのが、きわめて重要だと、テルティツキー氏は言う。

「金氏もプーチン氏も欺くことに長けている。そして今もまた、二人の言葉よりも、その具体的な行動を精査することが不可欠だ」
2023.09.20 19:04 | 固定リンク | 戦争
バフムート近郊「ロシア軍旅団が全滅」
2023.09.18
ウクライナ軍の精鋭旅団が猛攻、バフムート近郊のロシア軍旅団が全滅

ウクライナ軍の旅団が8月中旬に、ロシアが占領するウクライナ南部メリトポリに向かうルートの要衝であるベルボベでロシア軍の防衛線を突破したため、ロシアはパニックに陥った。

突破を受けて、ロシア軍は温存していた最後の精鋭師団である第76衛兵航空突撃師団をウクライナの東部から南部へと振り向けた。

だが、この配置転換により東部に展開するロシア軍は機動性のある予備兵力を失った。これにより、ウクライナ軍は9月15日かその直前にアンドリーウカを解放した。アンドリーウカはバフムートにいるロシア軍の補給線を支える重要な集落だ。

ウクライナ軍の指揮官らはロシア軍の指揮官らに難しい選択を迫り、その結果を利用した。これは戦略的な傾向と一致している。「ウクライナ軍の参謀本部はロシア軍の参謀本部よりはるかにまさっている」と米欧州陸軍の元司令官ベン・ホッジスは指摘した。

ウクライナ軍の精鋭部隊である第3強襲旅団がアンドリーウカのロシア軍第72自動車化狙撃旅団への攻撃を指揮した。第3旅団はアンドリーウカを包囲してから、瓦れきの中を攻め込んだ。そして9月15日にアンドリーウカの解放を発表する動画をネットに投稿した。

「電撃作戦の結果、アンドリーウカのロシア軍の守備隊は包囲され、主力部隊から切り離された。そして壊滅した」と第3旅団は述べている。

「アンドリーウカにいた歓迎されない『客人』は、第3強襲旅団によって排除されている」とウクライナ国防省はジョークを飛ばした。

2日間にわたる激しい戦闘で、第72自動車化狙撃旅団の情報責任者や将校の多く、そして「ほぼすべての歩兵」を殺害したと第3旅団は主張した。ロシア軍の死傷者と捕虜は1000人以上にのぼった可能性がある。

戦闘は残酷で、第3旅団側の死傷者もかなりの数にのぼった。「このような戦闘の結果のために、我々は高い代償を払う」と旅団は述べた。

戦闘はウクライナ軍が廃墟と化したアンドリーウカからロシア軍を掃討した最後の数時間が最も残酷だった。ウクライナ軍のドローンがロシア軍兵士に投降を呼びかけた。捕虜となったウクライナ兵とロシア兵の交換中にロシア軍の大砲が爆発したケースもあった。

ンドリーウカの解放は、約8km北に位置するバフムートにあるロシア軍の駐留地に圧力をかける。「アンドリーウカの奪還と保持はバフムートの右側面を突破する手法であり、今後行うすべての攻勢を成功させる鍵だ」と第3旅団は説明した。

■ウクライナが露セバストポリ海軍基地への攻撃で狙った大きな成果

ロシアが占領するウクライナ南部クリミア半島のセバストポリにあるロシア海軍のインフラをウクライナが攻撃し、揚陸艦と潜水艦が大きな損害を受けたようだ。同海軍に多大な損失を与えたことはともかく、艦船を修理するのに使用される大型の乾ドック施設が損傷したことで、黒海における同海軍の活動能力があやしまれる事態になっている。

現代の戦争では、乾ドックは常に真っ先に狙われる。

乾ドックは船を浮かべ、それから水を抜いて船を修理することができる施設で、海軍の戦力を維持する上で必要なものだ。重機械が複雑に組み合わさってできており、簡単に修理できるものではない。米国は損傷したわけではない乾ドックを一新するために数十億ドルを費やしている。攻撃による損傷の修復にかかる費用はかなりの額になるだろう。

ロシアが重要な軍事インフラの必要不可欠な施設を守れなかったことは驚くべき軍事的失敗であり、ロシアの防空が不十分であるか機能していない、あるいはその両方であることを示唆している。

だが今回の攻撃はロシアが必死であることをはっきりとさせてもいる。クリミア各地に何回か攻撃を受け、ロシアはドックが標的になる可能性が高いことを知っていた。だが、そうした脅威にもかかわらず、重要な黒海艦隊を維持するためにドックを使い続けた。

ロシアには他に行き場所がないのだ。

近代的な修理インフラを黒海沿岸に持っていないことは、黒海艦隊にとって深刻な問題だ。修理ができる態勢がなければ黒海艦隊全体が数カ月のうちに作戦を展開できなくなり、事実上、機能しなくなる。

第二次世界大戦の教訓を無視

第二次世界大戦で連合軍は海軍インフラの重要な部分を無力化するのに注力した。新たに建造されたドイツ海軍のティルピッツという恐るべき戦艦の脅威をなくそうと、英国はフランス西部のサン・ナゼール港にある大規模な乾ドックを破壊するのに莫大なリソースを投入した。ドイツが国外で自軍の大型戦艦を修理できる唯一の乾ドックだったからだ。

この施設を破壊するため、英国は爆薬を満載した駆逐艦を乾ドックに体当たりさせて爆破した。代償の大きな作戦だった。この攻撃に参加した612人のうち、帰還したのはわずか228人。169人が死亡し、215人が捕虜となった。

だが乾ドックは破壊された。このドックが再び使用されるようになったのは、終戦から5年後の1950年のことだった。

ロシア軍にとって最悪なのは、旅団がまるまる1個失われ、その損失を補うための予備の師団ももはやないことだ。ロシアが第76衛兵航空突撃師団を東部に戻すとしても、南部の陣地が弱体化するだけだ。

予備師団を南に移動させることで、ロシア軍は東部でのリスクを取った。これは賭けだった。そしてこの賭けはウクライナ側にとって吉と出た。

巡航ミサイルであるストームシャドウの約450kgある弾頭は、サン・ナゼール港のドックを爆破するのに使われた4トンの爆薬の爆発力には及ばない。だが、報じられたところによると、ウクライナは今回、精密攻撃ミサイルを最大10発使ったようだ。

乾ドック内の軍艦への攻撃はともかく、重要な乾ドックのポンプ室や扉、乾ドック自体にミサイルを1、2発撃ち込み、さらには替えがきかないこれらの施設の再稼働を難しくするのは簡単だっただろう。

ロシアは遠く離れたロシア南部のノボロシスク港にも利用可能な乾ドックを有している。だがそれは浮き乾ドックで、設計上、乾ドックのように戦闘による損傷の修理や大規模な改修を効率的に行えない。

セバストポリはいま間違いなく攻撃にさらされており、ロシアがダーダネルス海峡とボスポラス海峡の軍艦の通過に関してトルコが持つ管理権を反故にするか、ロシア領の黒海沿岸のどこかに船底保守を行うドックや別の恒久的な乾ドック施設を建設するかにかなり必死に取り組んでいることをアナリストらは予想すべきだ。

大問題を抱える黒海艦隊

ロシアの防空管理能力の欠如により、ウクライナは黒海のロシア軍を少しずつ追い詰める新たなチャンスを手にしている。そしてロシアは、艦船が大規模な修理を受けている間はかなり攻撃されやすいことを知っておくべきだ。

米国が2020年に失った12億ドル(約1770億円)の水陸両用の強襲揚陸艦ボノム・リシャールは、修理を受けている艦船での消火活動の難しさを示した。修理中の艦船に乗組員はおらず、燃えやすいものが多い。そして往々にして火災を1カ所に閉じ込めることができないため、修理作業場での火災は最も消火が難しいものの1つだ。

今回の攻撃の対象は特に興味深い。

ロシアはここ数カ月で2隻目のロプーチャ級揚陸艦を失った。アゾフ海を通ってクリミアに物資や装備を運ぶ能力を確実に失いつつあり、クリミアを切り捨てる可能性もある。

ウクライナはこれらの兵站支援船を標的にしている可能性がある。ロシア海軍は黒海に数隻の古いアリゲーター級揚陸艦、数隻のロプーチャ級揚陸艦、そして1隻のイワン・グレン級揚陸艦を保有している。これらの艦船はそれ自体が陸上を攻撃し得る脅威的な存在だ。ウクライナでの戦争が始まる前、さほど大型ではない揚陸艦6隻が黒海に向けて出航したとき、バルト諸国はパニックに陥った。

ロプーチャは最大10両の主力戦車と兵士約340人を輸送することができるため、これらの輸送船は、スペア部品不足で使われていないということでなければ、今年後半にクリミアがロシアから切り離されたときは重要な資産となる。

ディーゼル潜水艦のロストフ・ナ・ドヌーが今回の攻撃で失われた可能性があることはことさら興味深い。ロシア海軍の黒海潜水艦隊は、海洋で周囲に脅威を与える中心的な存在だ。気づかれることなく貨物船を撃沈したり、巡航ミサイルのカリブルを発射したりすることができる。また、偵察を行い、奇襲部隊を上陸させることも可能だ。

建造されてわずか10年のロストフ・ナ・ドヌーは、比較的近代的なキロ級潜水艦だ。今回の損失は痛手だが、修理のサポートを渇望している黒海艦隊がウクライナやグルジア、トルコ、その他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国にロシアが欲しがっている海域を譲り渡すという、今後の事態を暗示するものにすぎない。

■レオパルド2A6戦車は「夜の捕食者」、ウクライナ第47旅団の戦い方

ウクライナに供与されたドイツ製のレオパルト2A6は間違いなく最高の戦車だ。夜間や明け方に活動し、移動しながら長距離砲を放つ。「まるで猫のようだ」と、レオパルト2A6の装填手を務めるユリイはウクライナ国防省が公開したインタビューで語った。

戦車の乗員を特集しているシリーズの最新回で登場したユリイの発言は、重量69トン、乗員4人のレオパルト2A6が戦っている様子をとらえた映像から浮かび上がることを裏づけている。

そしてさらなる詳細が明らかになった。ウクライナがドイツとポルトガルから入手した21両のレオパルト2A6は、ウクライナ軍の参謀が当初意図していた第33機械化旅団ではなく、おそらく第47機械化旅団が運用している。

第47旅団は当初、スロベニアが供与したM-55S戦車を運用していた。M-55Sは旧ソ連の1950年代のT-55戦車を大幅に改修したものだ。同旅団は今春のある時点で、M-55Sをレオパルト2A6と交換し、第21機械化旅団と第67機械化旅団が防衛戦を行なっている北東部にM-55Sを送った。

6月上旬にザポリージャ州とドネツク州で始まった待望の反攻作戦の初期段階では、レオパルト2A6の投入はあまり違いを生み出さなかった。

当時、第33旅団と第47旅団はいっしょになって戦っていた。まずマラトクマチカ南方の地雷原の強行突破を試み、後に迂回路を見つけた。

レオパルト2A6を配備した効果はここ数週間で顕著になった。30両を超えるレオパルト2A4戦車を抱える第33旅団が数キロ後退したのは、戦車に爆発反応装甲を取りつける時間とスペースを確保するためだったようだ。

1980年代に製造された2A4は2000年代製造の2A6よりも防御力が低い。そのため、ウクライナ軍はまず2A4に装甲を取りつけた。

一部の人は装甲が加えられた2A4のことを「レオパルト2A4V」と呼ぶ。この改修作業のために、2A6の少数部隊はマラトクマチカから南下し、ロシアに占領されているトクマク、さらに80キロ南のメリトポリに向かう道の要衝であるロボティネを経由して南下する歩兵部隊を支援するという大きな役目を担うことになったようだ。

歩兵部隊はしばしば米国製のM-2ブラッドレー歩兵戦闘車で、しかも往々にして暗闇にまぎれてロボティネ周辺のロシア軍の防御に探りを入れた。

第47旅団の3つの歩兵大隊に装備されているM-2には昼夜使える高性能の照準装置が搭載されており、ウクライナの戦場で最高水準の照準装置を備える2A6といい勝負だ。ウラジスラフという名の2A6の砲手はインタビューで「4~5キロ先、あるいはそれ以上離れたところでもはっきり見える」と語っている。

2A6に搭載されている強力な1500馬力のディーゼルエンジンと頑丈なトランスミッションに言及したウラジスラフは、スピードも「非常に重要だ」と指摘。そして「時速50〜60キロで走行できる」と語った。

加えて、ウラジスラフによると、主砲の複数軸による安定装置のおかげで、2A6の乗員は荒地を移動しているときでも標的を難なく狙えるという。

2A6の最大の特徴である精度の高い照準装置、スピード、優れた安定性を組み合わせれば、機敏なナイトハンターとなる。装填手のユリイがいうところの「夜の捕食者」だ。ユリイは「私たちは主に夜間と明け方に活動する」と語った。

夜間の戦闘は2A6の強みを際立たせる。またロシア軍が暗闇での戦闘に苦慮していることもあって、少数の2A6部隊は敵の攻撃にさらされていない。

ウクライナ軍は供与された21両の2A6のうち、すでに3両を失っている。ほとんどは地雷による損失だが、爆発物を搭載したドローンも大きな脅威だ。第47旅団の戦車の乗員がこの3カ月、激戦をくぐり抜けてきたことを考えれば、その数はかなりすばらしいものだが、これ以上2A6が供与されることはないことにも留意すべきだろう。

ウクライナ軍が今後数カ月で手に入れる西側諸国製の戦車は、31両の米国の主力戦車M-1エイブラムスと150両ほどの40年前のレオパルト1A5だ。また、2A6は現代の戦車に比べて装甲が薄い。

つまり、ウクライナ軍は徐々に減りつつある高速で移動しながら正確に遠距離砲撃ができる2A6を今のうちに有効活用すべきだろう。
2023.09.18 21:11 | 固定リンク | 戦争
朝露結束で「米中に挑戦状」
2023.09.15
ロ朝首脳会談、「米中協調、北露切捨て」 孤立国の結束 米中主導の国際秩序に挑戦状

ロシアに引き渡される予定の北の砲弾を奪ったウクライナ「ほとんどが1980~90年代製」「たまに変な所に飛ぶ」 北の人工衛星ロシアの疑似衛星 ミサイル、戦車も疑似 「ロシア中国へサイバー攻撃で技術奪う」北朝鮮

ウクライナ国防省情報総局のキリル・ブダノフ長官は13日に現地メディア「ニュー・ボイス・オブ・ウクライナ」の取材に「ロシアはすでに1カ月ほど前からロケット弾など北朝鮮製の兵器を使っている」と明らかにした。ブダノフ長官によると、1カ月半ほど前に北朝鮮とロシアは協定を結び、この時から北朝鮮製兵器の輸入が始まったという。これは7月22日にロシアのショイグ国防相が6・25戦争休戦協定70周年に北朝鮮を訪問し、武器や砲弾の供給を要請した時期と合致する。

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も昨年末の時点で「ウクライナ東部バフムトを攻撃するロシアの民間軍事会社ワグネルに対し、北朝鮮はロケット砲やミサイルを売りさばいた」と主張していた。

 ロシアにおける砲弾の生産能力は年間100万-200万発だが、ロシア軍は昨年2月末のウクライナ侵攻後、昨年1年間ですでに1000万-1100万発を使ったとみられる。

 これについて西側の軍事専門家は「北朝鮮の武器庫は一部が老朽化し、効率も悪い」と指摘する。英フィナンシャル・タイムズは7月28日、「ウクライナ軍はロシアに引き渡される前の北朝鮮製122ミリ砲弾を友好国を通じて入手し、これを南部ザポリージャ戦線で、旧ソ連時代のグラド多連装ロケット砲で使用しロシア軍を攻撃している」と報じた。

 当時ウクライナ軍のルスランと名乗る砲兵指揮官はフィナンシャル・タイムズの取材に「北朝鮮製の砲弾はほとんどが1980年代か90年代に製造された」「不発の割合が高いのであまり使いたくはない」と述べていた。また別の砲兵も「砲弾は信頼性が非常に低く、たまに変なところに飛ぶので、発射台に近づいてはならない」と注意を呼びかけた。

 グラドは122ミリ砲弾を20秒以内に最大40発撃てる多連装発射システム(MLRS)で、トラックに積んだ状態で使用する自走砲だ。AK47小銃と同じく世界中で使用されており、北朝鮮軍、ロシア軍、ウクライナ軍のいずれもグラドを使っている。

 上記のルスランと名乗る指揮官はフィナンシャル・タイムズに「北朝鮮製の砲弾は信頼性に問題はあるが、これでも使えるのは幸い」「ウクライナ軍は手に入る全ての砲弾を使わねばならない」とも述べた。

 ウクライナ軍が北朝鮮製の砲弾を入手したルートについてウクライナ国防省関係者は「戦車や装甲車と同じくロシア軍から奪った」と説明していたが、これに対して戦場のウクライナ軍指揮官は「ロシアに渡る前に『友好国』を通じて入手した」と明らかにした。

 ロシア軍はウクライナ侵攻以来、これまで戦車2000両、装甲車4000両、航空機100機以上を失ったとみられる。さらに27万人のロシア軍兵士が戦死あるいは負傷した。

■北朝鮮製の砲弾「老朽化でたまに変なところへ飛ぶ」

ロシアの北朝鮮武器購入リスト、6・25戦争で使われた旧型が多数占める

ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が今年7月に北朝鮮を訪れたことで朝ロ間の武器取引の懸念が浮上する中、ロシアの武器購入リストのかなりの部分を70年以上前の旧式兵器が占めていることが明らかになった。

自由アジア放送(RFA)は最近、ロシアの人権団体「グラグ・ネット」が,ロシア国防省関係者の話を引用して暴露した,ロシアの北朝鮮武器購入リストを公開した。

関連リストによると、ロシアは北朝鮮に、6・25戦争当時「タバル銃」と呼ばれた,PPSh41サブマシンガンや、RPDデグチャレフ軽機関銃、中国製AK47の56式歩槍(ほそう、小銃)および弾薬などを要求したという。

PPSh41サブマシンガンは旧ソ連が1941年から使用し、50年に生産を終えた。その後、北朝鮮は「49式」という名前で生産し、6・25侵略の際に使用した。老朽化した武器類は現在、韓国の民防衛に相当する「労農赤衛隊」で主に使われている。

またロシアは、北朝鮮軍で主力戦車として使用中の「天馬号」戦車(T62)やT55戦車で用いる戦車砲弾も大量に要求したという。北朝鮮の旧式兵器や弾薬、砲弾は旧ソ連から技術と装備の移転を受けて生産されたもので、ロシア製の兵器と互換が可能だ。

北朝鮮が「ソウルは火の海になる」と脅した際に持ち出してきた170ミリ「主体砲」とその砲弾も、購入リストに含まれている。1970年代以降に生産された北朝鮮の主体砲は、現在のロシア軍の兵器体系とは異なるものだが、その射程故に要求していると伝えられている。北朝鮮の170ミリ主体砲は基本弾で30キロ、射程延長弾を使えば60キロ先まで攻撃できる。

チョ・ハンボム統一研究院先任研究委員は「ロシアの切迫した状況を考慮して、すぐに提供可能な旧式兵器を中心として購入リストを作ったものとみられる」と語った。

■北朝鮮の人工衛星・戦車はロシア製とそっくり、ミサイルは射程距離も同じ

北朝鮮はここ数年ロシアの複数のハイテク武器メーカーにサイバー攻撃を仕掛けていたことが分かった。そのため最近北朝鮮が公開した軍事偵察衛星「万里鏡1号」などにロシアの技術が数多く利用されているとの見方が浮上している。

北朝鮮は食料不足などの経済難にもかかわらず、宇宙発射体や固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、原子力潜水艦などの開発で大きく進展したが、その「秘訣(ひけつ)」がまさにサイバー攻撃だったのだ。

韓国国家戦略研究院や国防安保フォーラムなどによると、今年4月に公開された万里鏡1号はロシアの人工衛星スプートニクの技術をサイバー攻撃で奪い製造されたとみられる。ロシアは北朝鮮に対して人工衛星関連技術を正式に移転していないという。

人工衛星の核心技術は国家機密であるため、友好国であってもこれを渡すのは厳しく制限されている。そのため北朝鮮はサイバー攻撃を通じて一連の技術を奪っているようだ。

専門家は「北朝鮮は一連のサイバー攻撃で液体燃料ICBMの開発が大きく進展した」と分析している。

NPOマシノストロエニヤが開発した武器の中には「燃料アンプル化技術」が使われた液体燃料ICBMのUR100N(RS18A)がある。液体燃料ミサイルは発射直前に燃料を注入するため、短時間での発射は難しい。しかし製造段階でエンジンに燃料を注入し密封するアンプル化技術を使えば、固体燃料ミサイルと同じく短時間で発射できる。

実際に北朝鮮がNPOマシノストロエニヤへのサイバー攻撃に成功した2021年、北朝鮮はミサイル燃料のアンプル化に成功したと発表した。

韓国のサイバーセキュリティー会社Geniansのセキュリティーセンターで取締役を務めるムン・ジョンヒョン氏は「北朝鮮は防衛産業や宇宙関連の先端技術を確保するためロシアや中国など友好国にも幅広くサイバー攻撃を続けているようだ」とコメントした。

■北朝鮮とロシアの首脳会談で本当の目的は何だったのか

両国は、米国主導の国際秩序に対抗するために、孤立国としての結束を強めることが狙いだったと思います。

プーチン大統領は、ウクライナ侵攻を支援する米国やその同盟国に対して、北朝鮮との軍事協力を示唆することで、警告を発することができました。

金正恩総書記は、ロシアが後ろ盾になっていることを米国や韓国、日本に示すことで、制裁や圧力を緩和させることが目的でしょう。

両国は、実利的な協力も目指していたと思いますが、北朝鮮は、ロシアから武器や技術の提供を受けることで、核・ミサイル開発や人工衛星計画などを進めることができるとの考えです。一方、ロシアは北朝鮮からウクライナ侵攻に必要な武器や兵器を提供してもらうことで、西側諸国の制裁による影響を緩和することができるとの思惑です。

両国は、中国への過度な依存を回避するためにも、関係を深化させることが必要だったと思います。北朝鮮は、中国が核問題の解決に向けて米国と協調する可能性があることを懸念していました。ロシアは、中国が極東地域での影響力を拡大することを警戒していました。両国は、中国に対抗するためにも、自らの立場を強化する必要がありました。

■孤立した両国の会談では「お互いを同志と呼ぶ」

共に地政学的に孤立するロシアと北朝鮮が、頼れるパートナーがいることを誇示し、ウクライナ戦争や、核・ミサイル開発を巡る米国主導の制裁や圧力を弱めようとしている。

米ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センターのドゥヨン・キム氏は、両氏は会談によって、二国間の取引上の恩恵のみならず、地政学的恩恵も得ると指摘。プーチン氏にしてみれば「核保有国が軍事的に協力しているという印象を与えることで、ウクライナを支援する米国の同盟国や同志国に、潜在的な影響について警告を送る」ことができ、金氏としては「ロシアが後ろ盾になっていることを米国、韓国、日本に示すことになる」と述べた。

会談では、軍事面の協力の深化で合意し、プーチン氏は北朝鮮の人工衛星計画を支援すると述べた。

梨花女子大学(韓国)のレイフエリック・イーズリー教授は、単に秘密裡の武器取引が目的なら、わざわざ首脳が直接会う必要はないとし「プーチン、金両氏の外交的誇示は、米国主導の国際秩序への挑戦、中国への過度の依存の回避、ウクライナや韓国に関するライバル国への圧力強化での成功を主張するためのもの」との見方を示した。

国民大学(韓国)のアンドレイ・ランコフ教授は、今回の首脳会談は北朝鮮に関して言えば核・ミサイルを巡る国連安保理決議が、その他の制裁措置と同様、有名無実化したことを示唆するとみる。「安保理決議が気に入らなければ、それを無視すればいいという重大な前例ができた。ロシアだけでなく、主要な国際的プレーヤーに利用されるだろう」と語った。

さらに、両国の防衛協力を前面に打ち出すことで、韓国に対し、ウクライナに直接軍事支援するなという強いメッセージを韓国に送ることができるとも指摘した。ただ、ロシアが、制御不能になりかねない先端技術を北朝鮮に提供する可能性は低いとみている。

ロシア、北朝鮮、そして中国が米国を中心とする西側の包囲網に脅威を感じているのであれば、対抗軸として同盟などを形成し助け合うのは当然だ。しかし韓国外国語大学のメイソン・リッチー教授は、3カ国には過去にそうした関係をうまく機能させたことがあまりないと指摘する。「プーチン、金、習近平(中国国家主席)の3氏が本当に長期的な同盟関係を築けるほど信頼し合えるとは考えにくい。独裁者同士が協力するのは難しい」と語った。

■両国の思惑通り進んだのか

外遊をほとんどしない金総書記だが、今月下旬にウラジオストクを訪問した。

北朝鮮の金正恩総書記がロシアでウラジーミル・プーチン大統領と会談し、ウクライナ侵攻で使用される武器の提供について協議する見通しだと、米政府関係者が4日に明らかにした。

この報告に先立ち、ホワイトハウスは先週、ロシアが北朝鮮と秘密裏に活発な協議を繰り返し、戦争を遂行するための様々な軍需物資の入手に動いていると警告していた。

米国家安全保障会議(NSC)のエイドリアン・ワトソン報道官は、北朝鮮の略称を用いて次のように述べた。「我々が公に警告してきたように、ロシアとDPRK(北朝鮮)の間では武器提供をめぐる交渉が活発に進んでいる」

「我々は、金正恩総書記がロシアへの指導者レベルでの外交的関与を含め、これらの議論が継続されることを望んでいる、という情報を得ている」

ニューヨーク・タイムズによると、外遊することがほとんど無い金総書記だが、今月下旬に北朝鮮からそう遠くないロシアの太平洋沿岸にあるウラジオストクに赴き、プーチン大統領と会談すると見られている。

同紙は、金総書記はモスクワを訪れる可能性もあるが、それは定かではないと伝えた。

NSCのジョン・カービー報道官は先週、北朝鮮は否定しているものの、2022年に北朝鮮はロシアに対し、民間軍事会社ワグネルが使用する歩兵用ロケット弾やミサイルを提供したと述べていた。

一方、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が先月、北朝鮮を訪れ、戦争で使用する追加の軍需物資を入手しようとしていたことを、ワトソン報道官が明らかにした。

そして、「北朝鮮に対し、ロシアとの武器提供をめぐる交渉を中止し、ロシアに武器を提供や売却をしないという公約を守るよう求める」とした。

国連では先週、米国、英国、韓国、日本が共同声明を発表し、ロシアと北朝鮮の二国間協力を拡大する取り決めはすべて、ロシア自身も承認している北朝鮮との武器取引を禁止する安保理決議に違反することになると指摘した。

この4か国からの報告によれば、ショイグ国防相が平壌を訪問した後、別のロシア政府関係者らが北朝鮮に出向き、武器の購入に関するフォローアップ協議を行ったという。

金総書記とプーチン大統領が協議を行う傍ら、ウクライナは同国の南部と東部で綿密に計画された反転攻勢を展開しており、その動きに対してプーチン大統領は4日、失敗していると主張した。

プーチン大統領は「失速しているのではない。失敗だ」とし、「少なくとも今日はそう見える。次の展開を見てみよう」と語った。

■北朝鮮のハッカー集団「ロシアの内部ネットワークに侵入」

ロイター通信によると、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」などは、極超音速ミサイルや人工衛星技術で知られるロシア企業「NPOマシノストロエニヤ」のシステムに情報を抜き取りやすくする「バックドア」を組み込んでいた1。データが盗まれたかどうかは不明だが、ネットワークへの侵入は2021年末ごろから始まり、22年5月まで続いたという。

朝鮮日報によると、北朝鮮のサイバー攻撃部隊は昨年1-3月にロシアの人工衛星メーカー「スプートニクス」の内部ネットワークに侵入し、超小型衛星関連技術などを奪っていたという。北朝鮮はこの企業から超小型衛星の設計図など一部の技術を奪ったとみられる。

北朝鮮は2020年5-8月に地対空ミサイル開発で有名なロシアの「アルマズ・アンティ」社の内部ネットワーク侵入にも成功した。北朝鮮ハッカーはこの会社の内部ネットワークに侵入し、開発者の個人情報やミサイル部品関連情報など多くの資料を奪ったようだ。

北朝鮮は2019年にロシアの第3.5世代主力戦車「T14アルマータ」などを開発・製造する「ウラルヴァゴンザヴォド」の設計図を奪ったこともわかった。北朝鮮は極超音速ミサイルやICBM(大陸間弾道ミサイル)など先端兵器メーカーにも数年にわたり繰り返しサイバー攻撃を仕掛けていたという。
2023.09.15 20:20 | 固定リンク | 戦争
ウ軍・開戦後最大規模の攻撃「クリミヤ奪還の意思」
2023.09.14

ウクライナ軍「開戦後最大規模の空襲」ウクライナ、セバストポリの艦船修理工場に大規模攻撃 2020年就航の「ロストフ・ナ・ドヌー」大破火災発生、攻撃を受けたのは大型の揚陸艦「ミンスク」と潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌ」大破、他4隻の主要艦艇も大破 「石油掘削施設2基奪還」

ウクライナ軍は、クリミア半島のロシア軍基地に対する攻撃を認めました。攻撃には、巡航ミサイルや水上ドローンなどの兵器が使われたとされています。攻撃の結果、ロシア軍の揚陸艦や潜水艦などが大きな損傷を受けたと報じられています。

BBCニュースは、ウクライナが13日にクリミア半島にあるロシアの海軍施設と港湾インフラを攻撃したと発表したと伝えています。攻撃には、西側諸国から供与された巡航ミサイルや水上ドローンが使われたとされています。攻撃の標的には、大型の揚陸艦「ミンスク」と潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌ」が含まれ、4隻の主要艦艇が大破された。

Forbes JAPANは、ウクライナ軍部隊がどのようにしてセバストポリ港に侵入したのかは不明だが、爆発した乾ドックにはロプーチャ級揚陸艦とキロ型潜水艦が各1隻入っていたと伝えています。

この記事では、黒海艦隊がこれまでにウクライナ軍の攻撃で4隻の主要艦艇を失っていることや、ウクライナ軍が黒海西部で石油掘削施設を奪還したことも紹介しています。

BBCニュースは、ウクライナが7日にクリミア半島西岸のロシア空軍のサキ軍事基地への一連の空爆を認めたと伝えています。この攻撃では、1人が死亡したということです。

日本経済新聞は、ウクライナ南部クリミア半島のセバストポリにある黒海艦隊基地が水上ドローン7機と空中ドローン9機の攻撃を受けたとロシア国防省が発表したことを報じています。

この記事では、この無人艇攻撃が海戦の新時代を開いたと一部のアナリストが話していることも紹介しています。

ウクライナ軍が13日未明、南部クリミア半島セバストポリ港の艦船修理施設に対して大規模攻撃を仕掛けたことが分かった。ロシア国防省とウクライナの双方が明らかにした。

ロシア国防省は、ウクライナ軍が「セバストポリ市にあるオルジョニキーゼ艦船修理工場に対し巡航ミサイル10発による攻撃を仕掛けた」と説明。黒海艦隊の航行中の艦船に対しウクライナが無人艇3隻を送り込んだことも明らかにした。

ロシア国防省は、防空部隊が巡航ミサイル7発を迎撃し、哨戒艇がすべての無人艇を破壊したと主張している。ただ、「修理中の艦船2隻が敵の巡航ミサイルで損傷した」ことは認めた。

ロシアに任命されたセバストポリのラズボジャエフ市長も、夜間のメッセージで大規模攻撃があったことを確認。ミサイル攻撃で火災が発生したと明らかにした。24人が負傷したという。

ラズボジャエフ氏らが投稿した現場のものとされる映像と写真には、巨大な黒煙や激しい炎が上がる様子が捉えられている。

ロシアの非公式軍事ブロガーの一人によれば、ディーゼルエレクトリック潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌー」と大型揚陸艦「ミンスク」の2隻が損傷した。両艦とも乾ドックで修理中だったという。

こうした証言について独自に検証することはできていない。別の非公式アカウントは、英国製巡航ミサイル「ストーム・シャドー」が使用されたと主張した。

一方、ウクライナ空軍のオレシチュク司令官は、空軍パイロットの「素晴らしい戦闘行為」に感謝の意を表明。「占領者は今もセバストポリへの夜間爆撃から立ち直ろうとしているところだ」とも述べた。

ウクライナ軍がセバストポリ港に対して仕掛けた攻撃としては最も野心的なものとみられる。これ以前、セバストポリに対しては無人機による攻撃が実施されたほか、無人艇による港への侵入が試みられていた。

■黒海艦隊司令部大規模攻撃

ウクライナ、クリミアのロシア黒海艦隊攻撃…「開戦後最大規模の空襲」

ウクライナ軍が13日にクリミア半島のロシア黒海艦隊司令部を攻撃し、艦艇2隻が破壊され海軍造船所で大規模火災が発生した。外信は今回の攻撃が昨年の戦争勃発後ロシア黒海艦隊本拠地に対するウクライナ軍の最大規模の攻撃だと伝えた。

ニューヨーク・タイムズとガーディアンなどによると、ウクライナ軍はこの日未明の攻撃によりクリミア半島のセバストポリ海軍基地でロシア軍の大型船舶1隻と潜水艦1隻を修理不可能なほど破壊したと発表した。

ロシア国防省も声明を通じウクライナ軍が巡航ミサイル10基と無人艇3隻でセバストポリ海軍基地の造船所を攻撃し、修理中だった軍艦2隻に被害をもたらしたと明らかにした。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にはセバストポリ海軍基地から火柱が上がる写真が投稿された。

ロシアが任命したセバストポリのラズボザエフ知事はこの日、攻撃により造船所で最小24人が負傷したと明らかにした。

元ウクライナ海軍大尉のアンドリー・リジェンコ氏はロイター通信に「今回の攻撃は戦争が始まって以来セバストポリに対する最大規模の攻撃」と話した。

ニューヨーク・タイムズも「19カ月前にロシア軍が全面的な侵攻を始めてからロシア海軍基地に対する最大の打撃。ロシアの占領地の奥深くまで打撃するウクライナ軍の能力が強化されていることを見せる」と伝えた。

クリミア半島最大の港湾都市であるセバストポリは2014年のロシアによるクリミア併合後にロシアの黒海艦隊が駐留してきた戦略的要衝地だ。ロシア軍はこの海軍基地を活用してウクライナの黒海穀物輸出を封鎖してきた。

ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は「ロシア黒海艦隊の非武装化は黒海穀物輸出での安全を長期的に確保するためのもの。これは食糧難を武器として活用しようとするロシアの試みに対する唯一の正しい対応であり、アフリカとアジアにウクライナ穀物輸出を保障する唯一の方法」と話した。

■最大規模の黒海艦隊への攻撃はウ軍の奪還を示す意思

クリミア半島でロシア黒海艦隊に対するウクライナ軍の攻撃は、近年の欧州の安全保障にとって重大な出来事。この攻撃により、ロシア軍の揚陸艦や潜水艦などが大きな損傷を受けた。

ウクライナ軍は、西側諸国から供与された巡航ミサイルや水上ドローンなどの兵器を使用したとされています。この攻撃は、クリミア半島の奪還を目指すウクライナの意思を示すものと見られる。

[Forbes JAPAN]は、ウクライナ軍部隊がどのようにしてセバストポリ港に侵入したのかは不明だが、爆発した乾ドックにはロプーチャ級揚陸艦とキロ型潜水艦が各1隻入っていたと伝えています。

この記事では、黒海艦隊がこれまでにウクライナ軍の攻撃で4隻の主要艦艇を失っていることや、ウクライナ軍が黒海西部で石油掘削施設を奪還したことも紹介しています。

[日本経済新聞]は、ウクライナ南部クリミア半島のセバストポリにある黒海艦隊基地が水上ドローン7機と空中ドローン9機の攻撃を受けたとロシア国防省が発表したことを報じています。

この記事では、この無人艇攻撃が海戦の新時代を開いたと一部のアナリストが話していることも紹介しています。

■ウクライナ軍のバイラクタル無人機部隊が劇的復活 ロシアには不吉な兆候

ここ数カ月、ウクライナの空からほぼ姿を消していたウクライナ軍のバイラクタルTB-2無人攻撃機が、再び戦闘に戻ってきた。

3日にネット上に公開された複数の動画には、ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部で、TB-2がロシア軍の哨戒艇や補給トラックを空爆する様子が映っている。

ロシアが支配していると言われている空域へのTB-2の進入は、ふたつのことを示唆している。ひとつは、9カ月前、ロシアの防空網によってひどく損耗したTB-2部隊(70機規模)を、ウクライナがなんとか再建したということだ。

もうひとつは、ウクライナ南部の広い範囲で、ロシア軍の防空網が徐々に弱まってきているということだ。ウクライナ軍は4カ月前に待望の反転攻勢に乗り出し、南部ザポリージャ州と東部ドネツク州の主要な攻撃軸で、ゆっくりと、だが着実に前進を遂げている。

TB-2は全長6.5m、最大離陸重量700kgのトルコ製ドローンだ。通信衛星で制御され、航続距離は数百kmにおよぶとみられる。搭載されている光学機器によって昼夜を問わず飛行でき、ハードポイント(機外兵装搭載部)から射程8kmの小型ミサイルを発射できる。

「ロシア軍の防空網にわずらわされなくなると、ウクライナ軍は(中略)偵察と近接航空支援という、ほかのふたつの重要な任務のためにもTB-2を運用し始めた」。ロシア軍に詳しい作家のトム・クーパーはそう解説している。

防空網を引き剥がされたロシア軍の戦車や補給トラックは、TB-2の格好の獲物だった。TB-2は「キーウ周辺ではロシア軍の装甲部隊多数を攻撃し、損害を与えた」とクーパーは当時報告している。「南部ではヘルソン空港や、ミコライウを包囲していた(ロシア軍)部隊に大規模で正確な砲撃を加えた」

TB-2はロシア軍のいくつかの野戦本部にもミサイルを撃ち込んだ。効果は非常に大きかった。「TB-2はロシア側を極度の不安にも陥れている」とクーパーは書いている。「TB-2によってたった数両失っただけで、ロシア軍(の大隊)全体が向きを変えて逃げ出している動画をいくつか目にした」

ロシア側も反撃し、侵攻から半年でTB-2を少なくとも12機撃墜した。とはいえ、ウクライナ側には製造元のトルコのバイラクター社から機体が安定して(全面侵攻後、最初の1年間で少なくとも35機)供給されたため、TB-2部隊は戦闘を続けることができた。

ロシアがウクライナ侵攻を開始した初日に、ウクライナ軍が当時20機保有していたTB-2の一部は航空機やミサイルによる攻撃で破壊された。その後、態勢を立て直したウクライナの空軍と海軍は、中北部をはじめ各地の戦場にTB-2を投入した。 ロシア軍はキーウに向かって進撃していた。しかし、前進するごとに、補給線が延びるだけでなく、前線と後方の両面で部隊を守る防空範囲も広がっていった。

TB-2のオペレーターはこの過剰な拡張を突いた。ドローンはまず、ロシアの戦車大隊と補給車列を守る短距離防空システムを攻撃目標にした。TB-2は侵攻開始から1カ月足らずの2022年3月半ばまでに、ブーク、トール、パーンツィリといったロシア軍の地対空ミサイル(SAM)発射機を10基以上撃破した。

経費は安くなかっただろう。制御装置と6つの機体で構成されるTB-2の1ユニットは最大1億ドル(約147億円)する。

ロシア軍がキーウから撤退し、半年後には東部ハルキウ州や南部ヘルソン州からも退くと、戦線は安定した。ロシア軍は1000kmにわたる前線で防空網を急いで増強した。

こうなると、飛行速度の遅いTB-2が生き残るのは難しかった。「態勢を整えたロシア軍は多数のTB-2を撃墜できた」と米シンクタンク海軍分析センター(CNA)のアナリスト、サミュエル・ベンデットはネットメディアのインサイダーに述べている。ロシア軍はこれまでに、ウクライナ軍が運用するTB-2の3分の1ほどにあたる少なくとも24機を撃墜、もしくは地上で破壊している。

昨年末、ウクライナ軍はTB-2を後方に引き下げ、主に、接触線の自軍側の哨戒任務に当たらせるようにした。これにより、おおむね危険からは遠ざけられた。より危険な、ロシアの大隊上空での任務には、爆発物を積んだ小型のFPV(1人称視点)レーシングドローンを使い始めた。

FPVドローンは1機5000ドル(約74万円)程度と安価な半面、航続できるのはオペレーターがいる場所から数kmの範囲にとどまる。また、基本的に1回きりの使い捨ての使用になる。より深部を攻撃目標とし、繰り返し運用するドローンとしては、やはりTB-2のほうが優れている。しかし、再建されたTB-2部隊による攻撃再開に適した条件が整ったのは、ようやく今月に入ってからのことだった。

3日に公開された動画のうち、ロシア軍のKS-701哨戒艇に対する攻撃を映したものは、その様子がぞっとするほど克明に記録されており、とくに強い印象を与える。TB-2は、ロシア兵が岸辺で全長約9mのKS-701から物資を降ろしているところを、上空からじっと見つめている。

そしてKS-701にミサイルを撃ち込む。KS-701は破壊され、何人かの兵士が消し飛ばされる。ロシア兵たちはミサイルが命中するまで、監視されていることに気づいていなかったに違いない。

TB-2がどういう経緯で作戦上の自由を取り戻したかを理解するのは難しくない。ウクライナ軍は6月4日に反攻を開始して以降、大砲や爆弾、ロケット、FPVドローンで精密攻撃を実施し、ウクライナ南部のロシア軍の防空網を着実に弱めてきたのだ。ウクライナ軍は少なくとも13基の地対空ミサイル発射機を撃破したことが、独立した調査グループによって確認されている。

2022年2〜3月に、キーウ周辺のロシア軍大隊の上にTB-2が放たれたのと同様の力学が、現在のウクライナ南部にも働いているのかもしれない。TB-2は敵の防空網がとくに疲弊しているところで最も効果を発揮する。TB-2が再びロシア軍部隊に向けてミサイルを発射し出したことは、ウクライナ南部でのロシア軍の防空網が大きな問題を抱えていることを強く示唆する。

ロシア側にとって脅威になるのは、TB-2が防空網のすきを突いては無傷の防空箇所を攻撃目標にしていくというフィードバック・ループだ。こうやって、南部を覆う地対空ミサイルの傘が崩れていくと、TB-2はロシア軍占領下の地域をさらに自由に飛行し、ロシア軍の大隊や補給車列を意のままに攻撃できるようになるだろう。

■[Forbes JAPAN]クリミアのロシア海軍基地攻撃

ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部クリミア半島セバストポリのロシア海軍基地を、ウクライナ軍部隊がどのように攻撃したのかはわからない。セバストポリはウクライナの前線から南へ240kmほどに位置する。

ウクライナ軍は、爆発物を積んだ水上ドローン(無人艇)を何隻か、厳重な防御が施されているセバストポリ港に潜入させたのかもしれないし、弾道ミサイルか巡航ミサイルを撃ち込んだのかもしれない。あるいは破壊工作員たちが港に忍び込んだのかもしれない。

いずれにせよ、本記事を執筆している現在、黒海艦隊にとって重要なのは攻撃の手段が何だったかではなく、13日未明に爆発したドライドック(乾ドック)の火災を消し止めることだろう。この乾ドックにはロプーチャ級揚陸艦とキロ型潜水艦が各1隻入っていたと伝えられる。

軍艦が大きく損傷する前に火を消し止められなければ、黒海艦隊は約30隻の大型艦艇をさらに2隻失う可能性がある。これらの大型艦は、ロシアがウクライナで拡大させた現在の戦争が終わり、黒海と地中海の出入り口であるボスフォラス海峡の通行禁止をトルコが解かない限り、ほかの艦艇で置き換えることもできない。

黒海艦隊にとって目下の戦争は非常に厳しいものになっている。8月には、クリミアから東へわずか110kmほどのロシア南部ノボロシスク港で、ロプーチャ級揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」を夜間に水上ドローンで攻撃された(編集注:同艦は北方艦隊に所属していたが、2022年2月の戦争開始前に黒海艦隊の増強に振り向けられた)。これにより、ウクライナ海軍の攻撃を受けて戦闘不能に陥った黒海艦隊の主要艦艇は計4隻になった。

ほかはタピール級揚陸艦「サラトフ」(2022年3月、弾道ミサイル攻撃で大破)、ミサイル巡洋艦「モスクワ」(2022年4月、対艦ミサイル攻撃で穴が空いた)、救助曳船「ワシリー・ベフ」(2022年6月、同じく対艦ミサイル攻撃の犠牲に)。オレネゴルスキー・ゴルニャクは攻撃を受けてから数日後にドライドックに入っており、たぶんこの戦争の間は復帰できないだろう。

ウクライナ側はさらに、ロシア海軍の複数の哨戒艇や揚陸艇も撃沈したり大きく損傷させたりしているほか、このほど黒海西部でロシア側が前哨基地として使っていた石油掘削施設2基の支配も取り戻している。

これらの撃沈や襲撃はウクライナ海軍にとって目覚ましい戦果だ。ウクライナ海軍はロシアの全面侵攻直後に唯一のフリゲート艦を失い、現在保有している大型艦は老朽化した揚陸艦1隻のみとみられる。この揚陸艦はドニプロ川の河口付近に潜伏し、時おり短距離のロケット弾をロシア軍部隊に発射している。

ウクライナ海軍は事実上、艦艇をもたない海軍になっているが、だからといってロシア側にとって危険な存在でなくなったわけではない。国産のネプチューン対艦ミサイルや西側製ハープーン対艦ミサイル、ミサイルを搭載したバイラクタルTB2無人機、自爆型水上ドローンなどを駆使して、ウクライナ海軍は黒海艦隊をたんに近づけないようにしているどころか、積極的に攻撃して後退させているのだ。

クリミアの港から展開するロシア艦艇は常に攻撃にさらされる。8月時点では、ロシア国内の艦艇も安全ではない。ロシアの艦艇は港から出る場合、短時間にとどめるようにしている。通常は、ウクライナの都市に向けて巡航ミサイルを数発発射して、そそくさと港に引き揚げている。

黒海艦隊の安全状況は今後、悪くなることはあっても良くなることはないだろう。ウクライナ軍が黒海艦隊に対する攻撃に使える長距離攻撃兵器は、数も種類も着実に増えつつあるからだ。

ウクライナは射程約1600kmの新型巡航ミサイルを開発しているし、米国のジョー・バイデン政権は射程約300kmの長距離ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」のウクライナ供与を承認する意向と報じられている。

どちらのミサイルも、前線のウクライナ側からセバストポリを攻撃できるだろう。そして、これまでウクライナ側がロシアの艦艇を次々に攻撃してきているという事実は、ロシア艦艇の位置を特定するウクライナの諜報能力に問題がないことの明白な証拠である。
2023.09.14 15:17 | 固定リンク | 戦争
プリゴジン氏生きている「行動計画」
2023.09.04
プリゴジン氏生きている。ワグネルどう動く? 幹部の有事に自動発動“行動計画”

搭乗するジェット機が墜落し死亡したとされるプリゴジン氏についてロシアの捜査当局が本人だと確認したと発表しました。
リーダーを失ったワグネルが今後どう動くのかに関心が集まる中、元側近など関係者を取材しました。

■プリゴジン氏死亡 当局が正式発表

「プリゴジン氏の死が正式に発表されました。その後、多くの市民がつめかけているようです。中には、ワグネルの関係者とみられる軍服を着た男性たちも次々とやってきています。」
この週末も、モスクワでは「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏を追悼する人々らの姿が見られました。
(献花に訪れた人)「亡くなった理由については言いたくないですが、私たちのため戦ってくれました。」
Q. 彼の死に誰が関与していると思いますか?
「そのことはよくわからない。でも私にとって英雄です。」

■出発直前に内覧や修理…ジェット機めぐる謎

「飛行機だ。」
「本当に?」
「どこに落ちているの?」
23日に墜落した、プライベートジェット機。ロシア連邦調査委員会はDNA鑑定の結果、プリゴジン氏の死亡が確認されたと発表しました。
これはロシアの独立系メディアが公開した、ジェット機の機内とされる映像です。撮影されたのは、墜落の8時間前。実は、この機体は売りに出されていて、下見に来た購入希望者が撮ったのだと言います。
(購入希望者)「座席シートの革を張り替えないとね。」
機内には、ヘルメットをかぶったプーチン大統領の写真に、『小火器図鑑』、『世界の武器』などの本も。
この日、ワグネル所有のジェット機に何が起きたのか。番組では、搭乗者名簿に名前がある、客室乗務員、クリスティーナさんの親族に話を聞くことができました。
(クリスティーナさんの親族)「私も泣きましたし、(クリスティーナさんの)母も泣いていました。」
この親族は、プリゴジン氏のもとで、仕事をしていることを知り、こう声をかけたそうです。
(クリスティーナさんの親族)「『愛するクリスティーナ。常に監視の目にさらされます。どうなるか本当に考えましたか?』と。彼女は『大丈夫。プリゴジン氏には客室乗務員として接しているだけです』と。」
今、現地メディアが注目し、報じているのが、クリスティーナさんが出発前に別の親族と交わしたやりとりです。
「クリスティーナは『機体の“予定外の修理”のために出発が遅れている。出発の連絡を待っている』と話していた。」
飛行当日の“購入希望者による下見”と、“予定外の修理”は、墜落と何か関係があるのでしょうか。
ロシア独立系メディアの編集長は、機内に爆弾が仕掛けられた可能性を指摘します。
(ロシア独立系メディア 「アイストーリーズ」 アニン編集長)「プリゴジン氏たちは非常に警戒して、常に飛行機もルートも変更していた。専門家は「爆弾の可能性が高い」と考えている。空港でプライベートジェットに爆弾を持ち込む、それができるのはロシア特殊部隊だけだ。疑う余地なくこの殺人の背後にプーチン大統領がいると考えている。」

■元側近ら証言 引き金は“アフリカ利権”か

(プリゴジン)「ショイグ!ゲラシモフ!」
プリゴジン氏が武装蜂起を宣言し、モスクワに向けて、一時、部隊を進軍させてから、ちょうど2カ月。なぜ、このタイミングだったのか。
元ワグネルの指揮官で、プリゴジン氏の補佐役も務めたガビドゥリン氏は―。
(元ワグネル指揮官 マラート・ガビドゥリン氏)「(アフリカ諸国で)暴力で抑圧されている状況を、ワグネルが変え、人々を助けた。アフリカのすべてのプロジェクトはプリゴジンが統率している。」
ワグネルは、アフリカ諸国の内戦などに介入。その見返りとして、巨大な利権を得たとされています。
イギリスに拠点を置くシンクタンクは、この2カ月で、“アフリカ利権”に大きな変化があったと分析します。
(英シンクタンク「ドシエセンター」 ロジジェストベンスキー氏)「ロシア政府は全力でプリゴジンをアフリカ事業から切り離そうとしていた。この“アフリカ利権”の奪い合いにロシア政府は成功した。」
ただ、プリゴジン氏は“アフリカ利権”に意欲を持ち続けていたようで、墜落の2日前にも―。
(プリゴジン氏)「アフリカをより自由にする。アフリカの人々に正義と幸福を。」
このプリゴジン氏のアフリカ行きも、プーチン大統領はすべて把握していたようです。
(プーチン大統領)「(プリゴジン氏は)きのうアフリカから帰国したばかりで、複数の政府関係者と会っていた。特にアフリカで成功し、石油や天然ガス、希少金属や宝石を取り扱っていた。」
アフリカでの功績を称えてみせた一方で…
(英シンクタンク「ドシエセンター」 ロジジェストベンスキー氏)「プーチン大統領自身もプリゴジン氏をアフリカの事業から外すために動いていた。反乱2カ月後にあたる、この日は裏切者を消すには適切な時だったのです。」

■ワグネル今後どう動く?電話してみると…

「ワグネル」は、今後どう動くのか。各地のワグネル事務所に電話取材をしてみると…
Q. ワグネルの事務所ですか?
(ベルゴロド州のワグネル事務所)「いいえ、冷蔵庫販売店だ。冷蔵庫を販売しています。」
「唯一知っているのはワグネルが作曲家ということだけだ。」
Q. ワグネルの事務所ですか?
(カリーニングラード州のワグネル事務所)「いいえ、もちろん違います。」
Q.ニュースでプリゴジン氏が亡くなったことを見ていませんか?
「うちのテレビは故障しているんだ。」

■有事に発動 ワグネルの“行動計画”とは

一方で、SNS上では、こんな呼びかけも。
(ワグネル兵とみられる人物)「ワグネルが何かするんじゃないかと、多くのことが言われている。現在、言えることはただ一つ。我々は動き出しているので待っていろ。」
ロシアメディアは、プリゴジン氏ら幹部が死亡した場合に自動的に発動する“行動計画”が存在していると報じました。
元ワグネルの指揮官は、この“行動計画”について―。
(元ワグネル指揮官 マラート・ガビドゥリン氏)「戦闘に参加している部隊には、必ず“行動計画”は存在している。指揮官が部隊から消えた場合、その指示が機能する。」
ただ、2019年にワグネルを離れ、今の“行動計画”の詳細は知らないとした上で…
(マラート・ガビドゥリン氏)「“行動計画”は戦闘地域でのことだ。ロシア国内で反旗を翻すなんて無理だ。」
一方で、プーチン政権がワグネルの解体を急げば、戦闘員らの反発を招くとの指摘もあります。
(ロシア独立系メディア 「アイストーリーズ」 アニン編集長)「ワグネル兵数人と話をした。全員が指示を待っていた。ワグネルには司令官会議というものがあり、約20人で構成されている。モスクワへの再進軍も否定はできないし、ロシア政府への復讐に出ることも否めない。」

■「パラシュートが落ちてきた」プリゴジン氏に根強い“生存説” プーチン政権の対応は

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率い、武装反乱を引き起こしたプリゴジン氏は、プーチン政権にとって最大の不安定要素だった。一方で、歯に衣着せぬ発言で国民からは一定の支持を集めていた。

プーチン大統領の関与も指摘されるプリゴジン氏の「死」は、プーチン政権にとってどのような意味をもたらすのだろうか?

まず、ジェット機が墜落した村で耳にしたある噂からひも解いてみたい。

■墜落の村で広まる噂−「パラシュートが2つ」

 モスクワとサンクトペテルブルクの中間に位置するトベリ州クジェンキノ村―。乳牛が放牧されているのどかな草原が広がる。
 23日午後6時19分、この村にプリゴジン氏が所有するビジネスジェット「エンブラエル135」が墜落した。
 そこでこんな噂を耳にした。

 墜落を目撃したという老人は「ミサイルかと思った」と一部始終を興奮気味に語ると、こう付け加えた。
「墜落の直前、パラシュートが2つ落ちてきたんだ。私は直接この目で見ることはできなかった。でも、見た人がたくさんいるんだ!」

 爆発音がする直前に、機内から脱出する2つのパラシュートを複数の人が目撃しているという。
 老人は、爆発音を聞いてから空を見上げたため、パラシュートを直接見てはいない。
それでも、パラシュートの話を強調した。

■故郷での“隠された埋葬劇”の謎

 墜落にも多くの疑問が残るが、プリゴジン氏の埋葬も謎に満ちている。

 8月29日。
 プリゴジン氏の故郷サンクトペテルブルク市内では、プリゴジン氏の葬儀で混乱が起こることを警戒した警察や治安部隊が、早朝から市の中心部の北にあるセラフィモフスコエ墓地に集結していた。
 プーチン大統領の両親も埋葬されているこの墓地の入り口には、前日から金属探知機が設置され、墓地内を数百人の警察・治安部隊が巡回し続けている。
 しかし、何も起こらないまま時間だけが過ぎていく。

■別の場所で“お別れ会”? 霊柩車も登場

 午後1時ごろになると、突然、サンクトペテルブルクの中心部でプリゴジン氏の「お別れ会」が開かれているとの情報が駆け巡った。
 情報を確認するため急行すると、建物の周囲をワグネルの屈強な兵士らが厳重に警備し、霊柩車が横付けされていた。
 しばらくすると何かが霊柩車に運び込まれ、車体が深く沈みこんだ。

 プリゴジン氏の棺だろうか?

 しかしその後、現地メディアが建物の中を確認するともぬけの殻だった。また、その後、霊柩車もプリゴジン氏が埋葬されたところとは別の墓地で目撃された。「お別れ会」は完全な芝居だったとみられている。

■広報の発表はさらに別の場所 警察も知らされず?

 市内の墓地は午後5時には閉まる。プリゴジン氏の埋葬は翌日以降になるだろうと思い始めた丁度そのころ。
 午後5時20分、プリゴジン氏の広報のSNSが突如報じた。

 「エフゲニー・ビクトロビッチ(=プリゴジン氏)への別れは非公開形式で行われた。 別れを告げたい人は、ポロホフスコエ墓地を訪れることができる」

 警察やメディアが警戒している場所とは全く別の、市の東端で葬儀が秘密裏に行われていたということだ。

 SNSの発表から30分ほど過ぎたところで、警察や治安部隊の車両がポロホフスコエ墓地に続々と到着する。SNSの発信を受けて、慌ててやってきたようだった。
彼らも混乱していたようで、警察や機動隊などがそれぞれの持ち場を巡って口論になっていた。
 墓地の入り口は細く、一人分の通路しかないため、車両から降りてくる数百人の警察官らは公道まであふれていた。ライフルやドローン迎撃銃を携えるものもいる。ものものしい空気の中、追悼のために訪れた市民はその日、立ち入りを禁じられた。

■ここまで葬儀を秘密裏に行う理由

 独立系メディア「モスクワ・タイムズ」によると、プリゴジン氏の葬儀を世間から隠したのは、大統領府の意向だという。
 政府高官は同紙の取材に、葬儀会場にワグネルの兵士や市民が大規模に集結するのを防ぐためだったと説明している。映像や写真も一切禁止にし、プリゴジン氏が「英雄視」されることを徹底的に防ぐ狙いだったという。

 プリゴジン氏が「英雄視」されるというのは、私たち日本人にとっては違和感がある。
 数十年前にプリゴジン氏の下で働いたという男性は、「プリゴジン氏は常に恐怖で支配していた」と語り、いまだに恐れている。最近では、ワグネルからの脱走者の頭をハンマーでつぶすなど残虐な性格が知れ渡っている。

 にもかかわらず「プリゴジン氏は英雄だ」というロシア人は少なくない。
 ウクライナへの侵攻が長期化する中、プリゴジン氏は「侵攻が失敗している」という現実を汚い言葉も混ぜながら怒りに任せて率直に語った。
 多くのロシア人は「嘘をつかない、本音を語る人だ」と心を寄せるのだ。

 独立系世論調査機関「レバダ・センター」の調査でも、6月の反乱の失敗後に落ち込んだプリゴジン氏の支持率は回復傾向にあったという。

 こうしたロシア人のメンタリティーがあるからこそ、ロシア大統領府はプリゴジン氏の英雄、神格化を強く恐れたのだ。

■16%が「プリゴジンは生きている」と信じている

 ところが、大統領府の狙いどおりにはいかないようだ。別の現象が起こりつつある。
真相が分からないジェット機の墜落やプリゴジン氏の棺や葬儀の写真が一切表に出ていなという不自然な状況がロシア人にある疑念を抱かせているのだ。

 「レバダ・センター」は、ビジネスジェット機の墜落の理由についてどう考えるか尋ねた結果を9月1日に発表した。

 26%は「悲劇的な事故だった」と考え、20%が「6月の武装反乱に対するプーチン政権の報復だ」と信じている。
 興味深いのは16%の人が、「事故はプリゴジン氏自身が引き起こしたもので、プリゴジン氏は生きている」と信じているという。自作自演だと思っているのだ。

■トップを失ったワグネル兵らの動向は…?

 ブルームバーグなどの報道によれば、ロシア国防省や外務省は現在、アフリカで活動するワグネルに国防省傘下に入るよう圧力を加えているという。
 ただ、スムーズに成功するかは分からない。

 墜落したビジネスジェットに同乗して死亡したワグネルの幹部の葬儀などに現れたプロの傭兵たちは、けた違いに屈強で、周囲を警備する警察官らを圧倒していた。
 互いに固い握手を交わしあっている彼らが、国防省の傘下にすんなりと収まるのだろうか。
 ましてや、仮にプリゴジン氏が生きているという「神話」が広がれば、ワグネルの求心力につながるだろう。

 また、アフリカでは中国が勢力を広げている。
 アフリカ各国政府に影響力を持つワグネルの行方には、中国も食指を伸ばしてくることも想定される。
 ロシア国防省が直面する課題は容易ではない。

■重大な岐路に立たされたプーチン政権

 プリゴジン氏の「死」によってプーチン政権は、正反対の方向に向かう大きな岐路に立たされていると指摘されている。

 ひとつは、プーチン政権が安定するという見方。

 プリゴジン氏という不安定要素を取り除くだけではなく、墜落劇という悲劇的な結末は、プーチン政権に対して反感を抱くエリートや軍人たちへの見せしめになり、反乱の芽を摘むことになるというのだ。

 もう一つは、全く逆で、さらに不安定になるという見方だ。

 ワグネルの兵士にかぎらず、劣勢が続くロシア軍内部にも、本音では、侵攻が失敗していると言い切るプリゴジン氏に同調する軍人は少なくない。

 戦場で戦い続けている者たちにとって、墜落死が脅しになるとも考えづらい。

 彼らの不満が解消されないまま爆発すれば、国内情勢の不安定化は避けられない。

■ロシアのニュースでは報道されず

8月29日にサンクト・ペテルブルグで親族だけでおこなわれたワグネル創設者エフゲニイ・プリゴジンの葬儀は、日本のニュースでは大きく取り上げられたが、ロシアのニュースではほとんど報道されなかった。

墓には「死んでいるも生きているも違いはない」という一篇の詩が添えられた。

ロシアの国営通信社RIA NOVOSTIではこの日、「プリゴジン」の名は一度もニュースに登場しなかったし、主要なテレビ局「第1チャンネル」、「独立テレビ」でもプリゴジンの葬儀への言及は1秒もなかった。

「ロシアテレビ」だけが夜の47分のニュース番組の最後の項目として1分だけ、プリゴジン等の葬儀が行われたという事実だけを淡々と報じた。

プリゴジンの埋葬が8月29日に行われるということは事前に報道されていたが、どの墓地で行われるかという具体的な名前はなく、サンクト・ペテルブルグ郊外のポロホフスコエ墓地という埋葬の場所をワグネル広報が公表したのは、埋葬が終わってからだった。

■葬儀の簡略化は大統領府が関与か?

この葬儀を「家族のみ」で質素に行うと決めたのは、妻と娘の意向だと伝えられているが、『モスクワ・タイムズ』(8月30日)によれば、葬儀を秘密裏に行うことや規模と内容を決めたのは、クレムリンのセルゲイ・キリエンコ大統領府副長官とFSB(連邦保安庁)高官が出席して事前に行われた合同会議だったという。

会議の関係者は『モスクワ・タイムズ』に対して、「プリゴジンは正義を強調し、煽った発言でロシア人の感情をかきたて、一部の人びとの間では国民的英雄になっている。だがクレムリンとしてはプリゴジンを許すことはできない。裏切りかどうかは別としても、おとしめることが必要なのだ」と語っている。

その結果、生前にプリゴジンに贈られた「ロシア英雄」の称号にもかかわらず、本来、この称号を得た者だけに特別に行われる国歌演奏や国旗掲揚、栄誉儀仗兵の配置、葬送の礼砲などは一切行われず、葬儀そのものの写真や動画撮影も禁止された。

■「死んだのか生きているのか」

ロシア正教の伝統では葬儀の翌朝、故人の魂が永遠の平安を得るために最も近い親族が墓を訪れるのが風習になっている。8月30日早朝にはプリゴジンの妻と娘がポロホフスコエ墓地にやってきた。ところが、プリゴジンやワグネルなどというものはもともと存在しなかったかの如く、テレビなどでは一切報道が流れないにもかかわらず、30日朝9時には30人余りの墓参客が墓地を訪れ、花を手向けたという。墓地の周囲に警察官やワグネルの隊員が配備された。

プリゴジンは“本当は死んでいない”という説が一部のロシア人の間で根強く流れる中、真新しい墓には墓碑銘とも言える一篇の詩が額に入れて置かれている。プリゴジンと同じレニングラード(現在のサンクト・ペテルブルグ)に生まれ、アメリカに亡命して死んだノーベル賞詩人ヨシフ・ブロツキーの詩だ。

   母がキリストに言う
   ――おまえはわたしの息子? それとも神?
   十字架に釘打たれて。
   わたしはどうして家に帰れようか。

   敷居をまたげようか。
   おまえがわたしの息子なのか神なのか
   死んだのか生きているのかも
   わからず、心も決まらずに。

   彼は答えて言う
   ――死んでいるも生きているも違いはない、女よ。
   息子でもあり、神でもある
   わたしは、あなたの。

の詩を墓に献じた者は、生きていようが死んでいようが、神のような人としてプリゴジンの功績と力がロシア中にあまねく行き渡ることを願う気持ちを込めたのだろう。

■候補者1 プーチンへ忠誠を示したエリート司令官か?

モスクワの中心部をはじめロシア各地には、8月23日に墜落死したプリゴジンらを悼む追悼碑が自然発生的に生まれている。際立った個性でワグネルを率いたプリゴジンやカリスマ的司令官ウトキン亡き後、誰がワグネルを束ねていくのか、またアフリカの利権はどうなるのか、ワグネルをめぐっては憶測が絶えない。

「プリゴジンの乱」の後、一度は処罰を検討したプーチン大統領が訴追を中止し、プリゴジンとワグネル隊員をクレムリンに招き入れた6月29日、プーチン自身の口から出たのはコードネーム「セドイ(白髪)」を名乗るトロシェフの名前だった。

ワグネル隊員たちはうなずくように聞いていたが、一番前に座っていたプリゴジンが言った−−「隊員たちはその決定を受け入れないでしょう」。会談後、プーチンは「罪の追及」を取りやめてやったプリゴジンのこの態度に激怒し、プリゴジンもプーチンの突然の提案に、会談後、憤激していたと伝えられている。

そのトロシェフの名が、プリゴジンの後継者としてふたたび取り沙汰されている。 アンドレイ・トロシェフはロシア内務省の精鋭エリート特殊部隊OMONの出身で62歳。アフガニスタン戦争、第二次チェチェン戦争に従軍し、ワグネルの司令官としてはシリアでの戦闘に軍功を立てている。ウトキンからの信頼も厚く、ワグネル本部長としてプリゴジンの右腕だった。

しかし、ロシアのブログGulag.netによると、「プリゴジンの乱」の際、トロシェフは決起に反対したとも言われていて、「乱」の直後には本部長解任のうわさも流れた。しかしプーチンにしてみれば、それが現政権への忠誠心と映っているのかもしれない。 

■候補者2 プリゴジンに心酔する若き指揮官か?

これに対して8月26日、ワグネル関連のSNSは「新指導者にはエリザロフ司令官が就任した」と伝えたが、正式な発表はない。

アントン・エリザロフは42歳。ロシア軍空挺部隊に所属していたが、2014年にワグネルに移り、中央アフリカ共和国で軍事インストラクターを務め、シリアでは部隊を指揮している。

今年1月のバフムトの激戦にも参加、ソレダール奪取作戦の指揮を執り、プリゴジンに高く評価された。ベラルーシに移動してからも宿営地のロジスティックスの責任者を務めていると言われている。エリザロフはプリゴジンに心酔し、プーチンにではなく、プリゴジンへの忠誠心が強いようだ。

■「プリゴジンの乱」後、ワグネルは3つに割れた

まず、7月1日までにロシア国防省と契約を交わし、正規軍の将兵としてウクライナの前線で戦う「元」ワグネル隊員たち。次に「乱」後もアフリカや中東で活動を続けてきたワグネル部隊。そして「乱」後も国防省の支配下へ移ることを拒んでベラルーシへ移動した5千人を超えるワグネル隊員たち。

ベラルーシのワグネルは今回死亡したプリゴジン、ウトキンへの忠誠心が強い人びとだ。今後は「弔い合戦」を企てる動きも出てくる可能性もある。しかし、「乱」後、ワグネルが保有していた戦車や装甲車、攻撃用ヘリなどの装備はすべてロシア政府に接収された。もはや単独で実戦を戦うことも難しいだろう。たとえ「弔い合戦」のようなテロが起きても、モスクワを揺るがすような「行軍」の火種にはなり得ない。

■候補者3 アフリカ利権を取り戻すためにGRU破壊工作担当者を任命

ワグネルがアフリカ諸国で獲得した、金やダイヤモンド、石油などの天然資源の権利は莫大なものだ。プリゴジンを自由に泳がせていたこの2か月の間、プーチン政権はワグネルのアフリカ利権を整理し、利益を確実にロシア国家に取り戻すことに全力を注いできたように見える。

こうした中で、「ワグネル後」のアフリカ利権の采配を任されたと言われているのが、ロシア国防省参謀本部情報総局(GRU)のアンドレイ・アベリヤノフ(56)だ。アベリヤノフはGRU29155部隊を指揮し、プーチン大統領の指令を受けて外国での秘密工作活動に当たってきた。2014年、チェコのヴルビェティツェで起きた弾薬庫爆破事件に関与し、2018年英国南部で起きた元ロシアスパイ父娘の毒殺未遂事件の指揮を取ったことがほぼ確実視されている。

そのアベリヤノフを、7月末にサンクト・ペテルブルグで開催された「ロシア・アフリカサミット」で、プーチンみずからがアフリカの首脳に「あなた方の大陸の安全保障担当」だと紹介した。

英国情報筋によれば、以前からアフリカの利権に触手を伸ばそうとしていたGRUのアベリヤノフは、プリゴジンへの深い恨みを抱いていて、今回のビジネスジェットの墜落にアベリヤノフが関与している疑いがある、という。

■“ワグネル神話の解体”がプーチンの狙い

一度「裏切り者」と名指した者は許さないのがプーチンに沁みついたKGBの流儀だが、それでもプーチンは「才能あるビジネスマンで、わたしの依頼には結果を出した」と語ってプリゴジンに哀悼の言葉を投げかけた。

しかし、プーチンの狙いは、すでに戦闘能力を奪ったワグネルのアフリカ利権を政府機関に移し替えて資金源を断つことによって組織としてのワグネルを解体し、ロシア国民の間でプリゴジンが殉教者として祭り上げられることのないよう、ワグネル神話を徹底的につぶすことだろう。

■「許すという言葉はない」公開処刑か事故死か…プリゴジン氏死亡と旧KGBの遺伝子

2カ月前に「プリゴジンの乱」で世界中を騒がせたエフゲニイ・プリゴジンの所有するビジネスジェット Embraer Legacy 600 RA-02795が墜落した、という情報を最初に知ったのは、プリゴジンの設立した民間軍事会社「ワグネル」に近いサイトGrey Zone上だった。そこには「防空システムによって撃墜されたとみられる」と書かれていた。最後に「情報は確認中」とあった。

果たしてプリゴジンは死亡したのか、だとすればGrey Zoneが伝えるようにロシアの防衛システムの地対空ミサイルによる「撃墜」なのか、偶発的なのか意図的なのか、ここまで(8月25日午後2時)の情報をまとめたうえで、この「墜落」が意味するものを考えてみたい。

■そもそもプリゴジンは死んだのか?

搭乗名簿には、「ワグネル」の創設者エフゲニイ・プリゴジン、戦闘部隊「ワグネル」のカリスマ的司令官ドミトリー・ウートキン、そして「ワグネル」の物品調達・輸送部門を担当するビジネス総括者ヴァレリー・チェカロフの名前があった。「ワグネル」のトップ三人と言ってもいい。

飛行機事故に見せかけて、実はプリゴジンは生き延びているという「自作自演説」もある。しかしそのためには搭乗員名簿のデータの書き換えなど、飛行を管理する「ロスアヴィア」を含め広範な公官庁との「共謀」がなければ偽装できない。プリゴジンはやはり死亡したと見る方が合理的だろう。

■ジェット機は「撃墜」なのか「爆発」なのか?

 ではGrey Zoneが書いたように防空システムの地対空ミサイルによる「撃墜」なのか? 撃墜現場はプーチン大統領のヴァルダイ別荘にも近く、周辺には防空システムの地対空ミサイルが配備されているが、アメリカのCNNなどによるとミサイル発射を偵察衛星が捉えた形跡はないという。残るのは仕掛けられた爆弾による「爆発」か、事故による爆発だ。残骸が5キロ範囲で飛び散り、機体本体とエンジンが2.5キロも離れていることや、ほぼ垂直状に墜落している映像、公表されている飛行高度記録などを見ると、飛行中に急激な破壊が起きたことは間違いない。

 ロシアの独立系メディアLenta.ruによれば、車輪が格納される部分に爆弾が仕掛けられていた可能性があるという。一方、整備不良や金属疲労、燃料混淆など事故の可能性も否定できない。ロシアのメディアは、このジェット機が2019年以来、欧米の経済制裁によって製造元の点検サービスを受けられないまま飛行を続けてきたという情報を強調している。これまでのところ、欧米のメディアは「爆弾説」、ロシア国内は「整備不良の事故説」に傾いているようだ。

■「裏切者は必ず処罰する」

 もし「爆弾」が仕掛けられていたとすれば、FSB(連邦保安庁)が関わっていた可能性が浮上し、プーチン大統領の関与なしに実行することは考えられない。

 6月の「プリゴジンの乱」後、プーチン氏は「裏切者は必ず処罰する」と明言した。その後、理由の説明もなく訴追は取り消されたが、プリゴジンが「正義の行軍」と称した宣言を出したのが6月23日、今回の墜落はそのちょうど2カ月目にあたる。モスクワへの行軍の途中では、「ワグネル」によってロシア軍の戦闘ヘリと航空機が撃ち落とされ、10人を超える兵員、将校が死亡している。「空の責任は空で取らせる」と言わんばかりの「報復」と見えてくる。

 このプライベートジェットの墜落後、プーチン大統領は「犠牲者の家族に哀悼の意を表したい。プリゴジンの人生には間違いもあったが、共通の目標のために成果も上げた」と述べてプリゴジンを讃えた。反プーチンの急先鋒で現在不当に獄中にいるアレクセイ・ナヴァリヌイやウクライナのゼレンスキー大統領など、プーチン大統領は自分が憎悪する人物の名前を口にしない。プーチンは「プリゴジンの乱」以降、この「哀悼」の言葉まで、プリゴジンの名を口にしたことはなかった。

■プリゴジンはなぜ2カ月間、「自由の身」でいられたのか?

 ではなぜプリゴジンはこの2カ月の間、罰せられることなく自由な行動を許されてきたのだろうか。そこにはブラックボックスともいえる「ワグネル」のアフリカでの利権がからんでいると見られる。中央アフリカやマリ、スーダン、モザンビークなど、アフリカでの金鉱やダイヤモンドの採掘権の獲得や、権力者との関係を築いてきたのが民間軍事会社ワグネルとプリゴジンだった。プーチン大統領は巨額の国家予算をつぎ込んで「ワグネル」を支援してきたことをみずから明らかにしているが、「ワグネル」のアフリカでの利権の実態はいまだに明らかになっていない。

 中国が国家プロジェクトとしてアフリカ各国に投資して経済を握り、欧米の企業は先端技術を売り物にしてアフリカ市場を席捲するのに対して、経済も衰え、先端技術もないロシアがアフリカに見出したのは、不安定な政情をさらに不安定にしながら、唯一の競争力のある「輸出品」である武器と武装兵員を売り込むことだった。民間軍事会社は、当初、採掘場や輸送の「警備隊」としてアフリカ市場に入って行ったが、天然資源を資金元とする権力者にとっては、ロシアの民間軍事会社は願ってもない「私兵集団」であった。いわばロシア国家が表ではできない「裏仕事」を引き受けてきたのが民間軍事会社「ワグネル」だった。

■「許す、という言葉はない」

 オープンソース・ジャーナリズム、ベリングキャットのクリスト・グロゼフは、今年7月末にサンクト・ペテルブルグで開催された「ロシア・アフリカサミット」で、プーチン大統領がロシア軍参謀本部情報総局(GRU)のアンドレイ・アヴェリヤノフ将軍を、今後のロシア政府でのアフリカ担当としてアフリカ諸国の首脳に紹介したとしている。ロシア国内とアフリカ諸国での「ワグネル」の利権の整理と付け替えが進み、プリゴジンなしでのロシアの国益が守られると確信したタイミングが、まさに「プリゴジンの乱」から2カ月目だったではないだろうか。

 FSBがソ連時代のKGB(国家保安委員会)の体質をそのまま受け継いでいることから、FSBには「許す、という言葉はない」とグロゼフは語っている。が、一度怒りを込めて「裏切者」と名指ししたプリゴジンを、若い頃進んでKGBに入り、FSBのトップを務めたプーチン大統領が「許す」とは到底思えない。
2023.09.04 18:05 | 固定リンク | 戦争

- -