ノーベル賞次々決まる
2023.10.05
■ノーベル生理学医学賞 カタリン・カリコ博士「考えてもみなかった」

新型コロナウイルスのワクチン開発への貢献で、ノーベル生理学医学賞に選ばれたカタリン・カリコ博士が喜びを語りました。

「大切にしていることは、役立つものを作るということです。ですから、ノーベル賞の受賞は考えてもみなかったことです」(カタリン・カリコ博士)

 ビオンテック社の上級副社長を務めるカリコ博士(68)は、ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授(64)とともに、新型コロナで用いられたmRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)ワクチンの開発に貢献しました。

 受賞決定を受け、カリコ博士は会見で「賞や単なる製品開発のためだけに研究しているわけではない」と述べ、ノーベル賞に繋がったことへの喜びと驚きを口にしました。

 カリコ博士はまた「自分がやっていることを楽しめないなら、やるべきではない。でも問題解決が好きなら、科学が向いている」と若い研究者にエールを送りました。

■欧米3氏にノーベル物理学賞 一瞬「アト秒」の光使う新手法

スウェーデンの王立科学アカデミーは3日、2023年のノーベル物理学賞を、「アト秒」(アトは100京分の1)というごく一瞬だけ光るレーザーを使って物質中の電子の動きを捉える手法を開発した欧米の3氏に授与すると発表した。カメラのフラッシュに相当する技術で、電子の動きのように素早くて観測が非常に難しい現象の研究に新たな手段をもたらした。

受賞が決まったのは、米オハイオ州立大のピエール・アゴスティーニ名誉教授、ドイツのミュンヘン大のフェレンツ・クラウス教授、スウェーデンのルンド大学のアンヌ・リュイリエ教授。

半導体の開発などさまざまな材料の性質を知るためには内部の電子の動きを調べることが重要だが、動きが非常に速く捉えることが難しい。極めて短い時間だけ光を当てる技術が求められる。

リュイリエ氏は1980年代後半、強力なレーザー光を希ガスに通すと波長の極めて短い光が発生する現象を発見。アゴスティーニ氏とクラウス氏は、光が当たる時間をアト秒単位まで短くできると証明した。

「電子の世界への扉開いた」 ノーベル物理学賞 医療への応用も期待

アト(100京分の1、京は1兆の1万倍)秒というごく短い時間に変化する電子の動きを追う実験方法の開発に貢献。「電子の世界への扉を開いた」と評価された。

アト秒という短い時間に、原子や電子のように超高速で動くものを観察する場合、レーザー光をストロボのように何度も瞬間的に当てて、見かけ上は静止させる必要がある。

電子はアト秒よりも短い時間に変化しているため、極めて短い時間でレーザー光を光らせる「光パルス」が必要になる。

リュイリエさんは1987年、赤外線レーザー光を希ガスに通すと極端に波長が短い光が出ることを発見した。01年には、アゴスティーニさんが250アト秒の光パルスを、クラウスさんは650アト秒の光パルスを、それぞれ実験で作り出した。

これにより、3人はアト秒光パルスを発生させる方法の確立に貢献し、電子の動きを捉えることを可能にした。アト秒分野の物理学は電子による物理現象の理解につながり、医療分野への応用も期待されるという。

アト秒物理学を研究する新倉弘倫(ひろみち)・早稲田大教授は「3人はアト秒物理学という新分野を開拓した。多くの研究者や企業が研究を進め、イノベーションにつながることを期待したい」と話した。

素早く動くものを見るためには変化の一瞬を切り取る必要がある。ルイエ氏は1987年、赤外レーザー光を貴ガスに通すと、ガスの原子との相互作用により光の波が変化することを発見。アゴスティーニ氏は2001年、持続時間250アト秒の光パルスを連続して作り出すことに成功した。同じ頃、クラウス氏は独自に同650アト秒の光パルスを単離した。

3氏の貢献により、アト秒レーザーで以前は追跡できなかった原子や分子レベルの非常に速い物理過程を観察できるようになり、エレクトロニクスや医療診断に応用が期待される。日本でも東京大学や理化学研究所でアト秒レーザーの開発を進めている。

受賞理由となった「アト秒」とは「0.000000000000000001秒」という極めて短い時間のことで、これほど短い時間に起きる現象は通常の技術では観察することができない。

しかし、リュイリエ教授は特殊な気体を通過したレーザー光の波長が短くなるという現象を発見し、アゴスティーニ名誉教授とクラウス教授はこの現象を応用して数百アト秒だけ光る「アト秒パルス」を発生させる実験に成功した。

「アト秒パルス」をカメラのフラッシュのように使えば、物質中を素早く動き回る電子の動きなどを「写真を撮るように」捉えることができるようになり、新素材の開発や医学など様々な分野での活用が期待されている。

■ノーベル化学賞は、量子ドットの発見と合成に貢献した米国の3人に

受賞が決まったのは、ムンジ・バウェンディ米マサチューセッツ工科大教授とルイス・ブラス・コロンビア大名誉教授、米企業の主任研究員だったアレクセイ・エキモフ氏の3人。

今年のノーベル化学賞の受賞者が発表され、「量子ドット」の分野で功績を挙げた、アメリカのマサチューセッツ工科大学の研究者ら3人が選ばれました。

ノーベル化学賞の受賞が決まったのはアメリカ・マサチューセッツ工科大学のムンギ・バウェンディ教授、アメリカ・コロンビア大学のルイ・ブラス教授、そしてアレクセイ・エキモフ氏の3人です。

受賞の理由については極めて小さい「ナノサイズ」の粒子「量子ドット」の発見、合成に寄与したとしてその功績を称えています。

量子ドットはその大きさによって異なる色で光る性質があり、コンピューターなどのディスプレーに使われているほか、手術の際に切除する腫瘍組織を光って示す染料として使用されています。

■史上初の事態…ノーベル化学賞、事前流出した名簿そのままだった

ノーベル賞受賞者が公式発表数時間前に事前流出する事態が起きたことと関連し、スウェーデン王立科学アカデミーは4日、遺憾を表明した。

この日スウェーデンメディアはノーベル化学賞受賞者3人の名簿が発表予定時間より4時間ほど早い同日朝に流出したと報道した。スウェーデンのSVT放送はノーベル化学賞受賞者を選定する選考委員会がモウンジ・バウェンディ氏、ルイス・ブラス氏、アレクセイ・エキモフ氏の3人の受賞者の名前が記載された報道資料の電子メールをミスで送ったと伝えた。

現地日刊紙エクスプレッセンはこの日、受賞者発表予定時間は現地時間午前11時45分だが問題の報道資料電子メールは午前7時31分に届いたと報道した。

これと関連し選考委員会の委員長はロイターに「これは王立科学院のミス。われわれの(受賞者最終決定)会議は午前9時30分に始まるのでまだ何の決定も下されていない。受賞者は選ばれていない」と話した。

王立科学アカデミー報道官も「どんな資料が流れたのかコメントすることはできない。知っておくべき重要なことは、王立科学アカデミーはまだ(受賞者最終決定)会議を開いておらず、今年の受賞者がだれになるのか決まっていないという点」とAFPに電子メールで明らかにした。

選考委員会は予定通りこの日午後に今年のノーベル化学賞受賞者を発表した。受賞者3人は量子ドットを発見し研究を発展させたモウンジ・バウェンディ氏、ルイス・ブラス氏、アレクセイ・エキモフ氏の3人だった。これはこれに先立ちスウェーデンメディアを通じて報道された名簿と同じだ。

アカデミーのハンス・エレグレン事務局長は受賞者発表記者会見で「依然としてわからない理由で報道資料が配布された。正確な経緯を把握しようとけさからとても忙しかった」と話した。その上で「名簿の事前流出は非常に不幸なことだ。深刻な遺憾を示す」と明らかにした。

これまでノーベル賞受賞者の選考結果が事前に流出したという議論は何回もあったが、1901年にノーベル賞が制定されたから受賞主体のミスで受賞者名簿が事前に流出した事例は今回が初めてという。

これに伴い、化学賞、物理学賞、生理医学賞の3つの科学部門のノーベル賞選考と授賞を務める王立科学アカデミーは今回の選考発表過程で大きな穴が明らかになり激しい批判は避けられないものとみられる。

■ノルウェー劇作家にノーベル文学賞

今年のノーベル文学賞をノルウェーを代表する劇作家ヨン・フォッセ氏に授与すると発表した。

授賞理由は「革新的な戯曲や散文」。ノルウェーからの文学賞受賞は1928年のシグリ・ウンセット氏以来95年ぶり、4人目となる。

59年、ノルウェーの西海岸ハウゲスンで生まれた。80年代に作家デビューし、小説や詩、児童文学、エッセー集などを刊行。初の戯曲「だれか、来る」を発表した後は、多数の劇作で現代演劇界をリードし、「イプセンの再来」「21世紀のベケット」と呼ばれる。間を生かした詩的、音楽的なせりふで、リアリズムと不条理演劇の間を往来する作風が特徴。

日本でも2004年に「だれか、来る」(太田省吾演出)や「名前」(三浦基演出)、07年に「死のバリエーション」(アントワーヌ・コーベ演出)などが上演されている。

フォッセ氏はノルウェー西岸で生まれた。戯曲約40本のほか、小説や詩、エッセー、児童書、翻訳を多数手掛けている。

アカデミーは「フォッセ・ミニマリズム」の名で知られる同氏のスタイルを称賛した。

フォッセ氏の代表作は七つの作品を1巻にまとめた「セプトロジー」。妻を亡くし1人暮らしをする年老いた画家が、宗教やアイデンティティー、芸術、家族の暮らしについて考察する物語を描く。

約800ページからなる「セプトロジー」は形式面の実験が称賛されてきた。フォッセ氏の思索的な散文は句読点などによる中断がほとんどなく、同氏の哲学的な問いに呪文のような流れを与えている。

アカデミーは「フォッセ氏は言語面でも地理面でも強固な地域的つながりとモダニズムの芸術技法を組み合わせている」と述べ、同氏のスタイルに影響を与えた人物としてアイルランドの劇作家サミュエル・ベケットやオーストリアの詩人ゲオルク・トラークルを挙げた。

フォッセ氏の選出は、アカデミーが他の大陸の作家をないがしろにして欧州の作家を優遇しているとの批判への反論にはならなそうだ。

ノーベル文学賞は歴史的に男性作家が圧倒的多数を占めており、これまでの受賞者120人のうち、女性は17人のみにとどまる。
2023.10.05 21:12 | 固定リンク | 化学

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