爆撃機を消す、ウクライナの「秘密武器」
2023.10.14
■爆撃機を消す、ウクライナの「秘密武器」

960キロ離れたモスクワ狙う、ロシア爆撃機を消すウクライナの「秘密武器」

開戦から10カ月が過ぎたウクライナ戦争で無人機(ドローン)が核心「非対称戦力(相手の対応が難しい武器)」に浮上している。ウクライナはドローンを活用して数百キロ離れたロシアの軍事基地を相次いで打撃し、ロシアの長距離ミサイル空襲を阻止している。ロシアも不足するミサイルの代わりに自爆ドローンでウクライナの民間施設を攻撃している。

今月に入ってウクライナはロシア領土内の軍事基地を狙った長距離攻撃をしている。攻撃手段はドローンだ。26日、ウクライナの国境から約500キロ離れたロシア南部サラトフ州エンゲリス空軍基地には、ウクライナが送ったと推定されるドローンによる攻撃でロシア軍3人が死亡した。5、6日にもエンゲリス基地をはじめ、ロシア西部リャジャン州ディアギレボ空軍基地、ウクライナと隣接したクルスク州ボストーチヌイ飛行場などにウクライナ側のドローンによる空襲で死傷者が発生した。

〇ウクライナのドローン攻撃で減ったロシアのミサイル空襲

こうした攻撃は10月からロシアによるミサイル空襲を阻止する効果を出している。ニューヨークタイムズ(NYT)は26日、「エンゲリス基地など飛行場が攻撃を受けると、ロシアは戦闘機を別のところに移動させなければいけないほか、ここに配備された一部の巡航ミサイルまで失う可能性がある」とし「これら武器でウクライナを空襲しようとしていたロシアの計画にも支障が生じるしかない」と分析した。実際、エンゲリス基地には核爆弾の搭載が可能なロシア戦略爆撃機Tu-95、Tu-160が配備されている。ロシアはこれら爆撃機と長距離巡航ミサイルでウクライナの基盤施設を集中攻撃し、ウクライナ全域をエネルギー不足状態にした。

ドローンは事実上、ウクライナがロシアを直接打撃できる唯一の長距離攻撃手段だ。米国の支援で戦争中のウクライナだが、米国は長距離ミサイルを支援していない。米国の武器でウクライナがロシア本土を攻撃して戦争が拡大することを望まないからだ。

しかし米国はウクライナ軍が自らの武器でロシアを攻撃することには反対していない。オースティン米国防長官は6日、「米国はウクライナがロシア領土を狙える独自の長距離打撃能力を開発することを阻止していない」と述べた。米政治専門メディアのポリティコは「5、6日にロシア本土を攻撃したドローンは旧ソ連製ドローンTu-141をウクライナ軍が改造したものだ」と伝えた。NYタイムズによると、最近ウクライナの国営軍需会社は飛行距離が960キロ以上でロシアの首都モスクワまで打撃できるドローンを開発中という。

〇「ウクライナ戦争は最初のドローン戦争」

ドローンを戦場で活用するのはロシアも同じだ。相次ぐミサイル空襲で発射できるミサイルが減ると、イラン製自爆ドローン「シャヘド136」でウクライナの基盤施設を打撃している。

このためウクライナ戦争が「初の本格的なドローン戦争」(ワシントンポスト)という評価が出ている。ドローンが前面に登場して双方の戦争当事者に実質的な被害を与えたのは今回が初めてだからだ。アフガニスタンと中東で米軍がドローンを活用してきたが、当時は米国の空軍力で相手が完全に制圧された状況での作戦だった。

現代戦でドローンの効用価値が高まるのは何よりも安い費用のためだ。シャヘド136の場合、1機あたりの価格が2万ドル(約260万円)前後で、飛行可能距離も2000キロにのぼる。1発の発射のに数十万ドルから数百万ドルかかる長距離巡航ミサイルと比較すれば非常に安い。味方の人命被害なく敵の後方を攻撃できる。ワシントンポストは「ウクライナ軍が偵察用として使用する中国ドローン企業DJIのMatrice300ドローンの場合、4000ドルにすぎないが、ロシアの軍事施設を探知してウクライナ軍のロケット打撃正確度を大きく高めるのに寄与した」と伝えた。

〇ザワヒリ暗殺・アゼルバイジャン戦争などに使用

ドローンはイスラエルが1970-80代に中東国家の防空網識別のために戦場に初めて投入した。当時は偵察目的で使用された。イスラエルの成功に刺激された米国がコソボ戦争(1999)で偵察用ドローンMQ-1プレデターを試験的に投入して以降、本格的な開発に入り、ドローンは攻撃用に進化した。技術力を高めた米国は2020年にイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官、今年8月にアルカイダのナンバー2、アル・ザワヒリをドローンで暗殺して世界を驚かせた。

米国以外の国もドローンを活用した多様な作戦をしている。イランは2019年、サウジアラビアの原油生産施設をドローンで攻撃して被害を与え、2020年のアゼルバイジャン-アルメニア戦争ではアゼルバイジャン軍がトルコ製無人機でアルメニア機甲戦力を無力化し、戦況を逆転させた。

〇生物化学兵器による大量殺傷も

今回のウクライナ戦争をきっかけにドローンの効率性が確認されたことで、今後、世界各国はドローン戦力拡充を攻撃的に進めると予想される。ロシア軍総司令官を歴任した退役将軍のユーリ・バルイェフスキー氏は先進軍事戦略に関する著書でドローンを「現代戦の象徴」と評価した。ただ、ドローン戦力が強化される中、生物化学兵器による大量殺傷攻撃も懸念される。実際、ウクライナ軍傘下の民兵隊組織のアゾフ連隊は「ロシアの無人機がマリウポリに正体不明の化学物質をまく攻撃をした」と主張した。

■「遺体袋山積み」…プーチンの傭兵、バフムトで大規模戦死

ロシアのプーチン大統領の最側近である民間軍事企業のワグネルグループがウクライナ戦争の最大激戦地であるバフムトで大きな損失を出しているものと把握された。英日刊紙ガーディアンは3日、ワグネルグループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がウクライナ東部戦線を視察する姿を収めた映像を入手してこのように報道した。

公開された映像にはプリゴジン氏がある建物の地下室を視察する様子が含まれている。床のあちこちには戦闘で死亡したワグネルグループの傭兵の遺体収納袋が置かれており、別の一方には足の踏み場もないほど積み上げられた遺体収納袋も見られる。プリゴジン氏が「戦闘で死亡した戦士らは棺に収められて家に帰るだろう」と話す姿とともに、兵士らが遺体収納袋を運ぶ場面も収められた。ガーディアンが公開した別の映像ではプリゴジン氏が「バフムトではすべての家が要塞化されている」と話す。「1棟過ぎれば防衛線、1棟過ぎればまた別の防衛線が出てくる」ということだ。この戦線で彼らが大きな困難に陥っている傍証だと同紙は伝えた。

ウクライナ東部ドネツク州に位置するバハムトは最近戦争の最大の激戦地に浮かび上がったところだ。

ドネツク州の半分を占領し自国領だと主張するロシアは昨年11月に南部ヘルソンから退いてからはこの地域を死守するために全力を挙げている。そのためには主要都市へ向かう要衝地であるバフムトの掌握が重要だ。プーチン大統領はワグネルグループをこの地域の核心戦力として投じ、新たに補充する兵力も次々と送っている。そのため戦闘が塹壕戦に広がり、ロシアとウクライナの双方で1日数百人の死傷者が続出しているとガーディアンは伝えた。

それでもロシアのバフムト戦闘勝利は容易ではなさそうだとの観測が出ている。ニューズウィークは3日、「ウクライナもやはりバフムトで兵力を増強している。ロシアが突破口を見いだす可能性はますます低くなっている」と報道した。

残忍なことで悪名高いワグネルグループはプーチンが手足のように働かせる傭兵集団だ。戦争が激しくなりプリゴジン氏が直接ロシアの刑務所を訪問して釈放を見返りに囚人を募集する場面が公開されたりもした。米国情報機関は先月ワグネルグループが北朝鮮から兵器を購入しウクライナ戦争で使っていると発表している。

■「ロシア、夜中に遺体2500体をひそかに移送…遺体列車の姿に衝撃」

ロシアがウクライナで死亡した自国の軍人の数を隠すため夜間に乗じて戦死者の遺体を少なくとも2500体を本国に移送したという証言がベラルーシから出た。

テレグラフは19日、ラジオ・フリー・ヨーロッパなどの報道を引用し、ロシア軍戦死者の遺体が夜中にウクライナと近いベラルーシ南東部の都市ゴメリを経て本国に移送されたと報道した。

ゴメリの病院のある医師はラジオ・フリー・ヨーロッパに「3月13日まで2500体を超える遺体が(ウクライナから)ゴメリに移送され列車と航空機でロシアに運ばれた」と話した。ゴメリ近郊マジルのある医師も「当初は遺体が救急車で搬送されロシア行きの列車に載せられた。ところがだれかがこの場面を撮影した動画をインターネットに載せたため、後に人々の関心を集めないよう(遺体は)夜に移送され始めた」と語った。

ゴメリとマジルの住民らも遺体安置所がロシア軍の遺体であふれている状況だと伝えた。マジルのある住民は「遺体安置所には信じられないほどの遺体があり、マジル駅の乗客は列車に載せられた遺体の数に衝撃を受けた」と話した。

これら地域の病院は負傷し治療を受けようとするロシア軍人であふれている。病床が不足するほどで入院中だった一部の患者は病床を空けるために退院させられ、外科医師も不足している状態だと外信は伝えた。ある住民は「病院には負傷したロシア人がとても多い。本当にぞっとする」と話した。

ロシアがウクライナでの自国の戦死者数を正確に明らかにしない中で、ベラルーシで起きているこうしたことはロシア軍の死亡者数を推定する端緒になるだろうとテレグラフは伝えた。

メディアによると、ロシア軍を治療中のベラルーシの医療陣は死傷者と関連した情報を口外しないよう指示を受けており、病院に携帯電話を持ち込むことも禁止された。ロシア軍の死傷者と関連して十分な情報がある医療陣は解雇されたり辞めたある人権活動家は伝えた。

テレグラフは、これはロシア当局が自国の軍人の死傷者数をロシア国民に隠すのにどれだけ必死なのかを示すものと伝えた。また、このように情報が強力に統制されており、ベラルーシで発生するロシア軍関連のことを正確に把握するのは難しい状況だと伝えた。

2日にロシア軍は先月24日の開戦後に自国軍の兵士498人が戦死し、1597人が負傷したと明らかにしてから死傷者規模を発表していない。

こうした中、ウクライナ外務省は19日に公式ツイッターアカウントを通じ、ロシアがウクライナを侵攻してからのロシア軍の死亡者が1万4400人に達すると明らかにした。また、ロシア軍は航空機95機、ヘリコプター115機、装甲車1470台、大砲213台などの兵器と装備を失ったと主張した。ただロシアは人命被害と装備損失規模をほとんど公開しておらず、こうした主張は正確には確認されていない。

CNNは米国と北大西洋条約機構(NATO)関係者らの情報によるとロシア軍の死傷者は3000人から1万人の間と推定されると報道した。

これに先立ち17日にニューヨーク・タイムズなどは米情報当局が開戦から約20日間のロシア軍の戦死者を7000人と推定したと伝えた。7000人という数は保守的な集計で、これは20年間にわたりイラクとアフガニスタンで戦死した米軍の数を合わせたものより多いとメディアは指摘した。
2023.10.14 10:12 | 固定リンク | 戦争

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