ロシア軍南部2州完全孤立で「全部隊投降」か
2023.10.04
ウクライナ反転攻勢 ロシア防衛線の突破口を拡大 ロシア軍瓦解へ 米供与「ATACMS」のトンデモない実力

BBCビジュアル・ジャーナリズム・チーム

ロシアに対する反転攻勢をじわじわと進めるウクライナ軍は、南部ザポリッジャ州の前線でロシア軍の防衛線を越え、その突破口を少しずつ拡大している。

ウクライナ各地の戦場における、9月末までの主な情勢は次の通り。

複数のアナリストによると、ザポリッジャ州の前線でウクライナ軍は初めて装甲車を、ロシア側の陣地へと進めた。

東部バフムート周辺では、ロシア軍が精鋭部隊をザポリッジャ州へ移動させた後、ウクライナ軍が少し前進した。

ロシア軍はウクライナ南西部で、ドナウ川の港へのドローン攻撃を継続。ウクライナの穀物輸出を妨害し続けている。

■ウクライナの装甲車が前進

ウクライナ軍は8月末に奪還したという南部ロボティネ村の近くで、ロシア軍の防衛線を越え、ここ数週間でその突破口の幅を広げてきた。軍事アナリストたちは、次の大攻勢に向けてウクライナ側が準備をしているのかもしれないと話す。

ザポリッジャ市の南東約56キロにある小さいロボティネ村は、6月初めにウクライナの反転攻勢が始まって以来、重要な拠点となっている。

ウクライナ軍の進軍ペースはゆっくりだが、アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)のアナリストたちは9月末の時点で、ロシアが設置した対戦車用の溝や「竜の歯」と呼ばれる障壁を越えて、ウクライナ軍が装甲車をロシア陣地に前進させているのを初めて確認したという。場所は、ロボティネに近いヴェルボヴェのすぐ西側だという。

ISWによると、これは「前進の重要な証拠」だが、確認できるロシアの防衛拠点をすべて通過したわけではないため、ウクライナがロシアの防衛線を完全に突破したとはまだ言えないという。

BBCのフランク・ガードナー安全保障担当編集委員は、この作戦がウクライナの反転攻勢で最も戦略的に重要な部分だと指摘。もし成功すれば、ロシア国内のロストフ・ナ・ドヌからロシア支配下のクリミアまで続く、ロシア軍の補給線を切断することになるという。

これが実現すれば、2014年に併合して以来クリミアに駐留させている大部隊を、ロシアは維持できなくなるとガードナー編集委員は言う。

ただし、ウクライナ軍の前進はこれまでのところロボティネ村周辺に限られているため、部隊がアゾフ海まで到達しロシアの補給線を断てるようになるまでには、まだまだ先は長い。

■バフムート攻防

ロボティネ村近くでウクライナ軍が防衛線の突破口を広げようとする間、ロシア軍は援軍をこの地域に送り込んでいる。援軍の中には、他の地域に配備されていた精鋭部隊も含まれている。

イギリス国防省は、ロシア空てい部隊(VDV)の再配備によって、東部バフムート周辺の防衛が手薄になった可能性があると指摘する。バフムート周辺はこの戦争の激戦地の一つ。

バフムートは今年春以降、ロシアの支配下にあるものの、その周辺ではウクライナが少しずつ前進している。イギリス国防省によると、バフムートから南約8キロに位置するクリシュチイヴカとアンドリイヴカの二つの村を、ウクライナ軍が奪還し、足場を固めているという。

■クリミア攻撃

ウクライナ軍はここ1カ月、クリミア半島への攻撃も強化している。9月22日には、ロシア黒海艦隊が母港とする港湾都市セヴァストポリにミサイルを撃ち込み、艦隊司令部を攻撃した。

この攻撃でロシア軍の将官34人が死亡し、その中には黒海艦隊のヴィクトル・ソコロフ司令官も含まれるとウクライナは主張した。しかし、ロシア政府はその後、攻撃の数日後に撮影されたものだとする映像を公開。そこにはソコロフ司令官が映っていた。

ウクライナ軍はこれに先立ち、9月13日にもセヴァストポリをミサイルで攻撃し、軍艦と潜水艦を破壊。黒海艦隊の艦艇補修に使われる乾ドックにも大きな損傷を与えた。

いずれの攻撃にも、イギリスやフランスが提供した長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」が使用されたという。

ウクライナ軍はさらに9月14日には、ロシアがクリミア半島の防衛に設置した防空システムS-400を海軍が破壊したと発表した。

ウクライナ軍は8月末にも別のS-400を破壊したほか、洋上の天然ガス設備に設置されているロシアのレーダーを破壊している。

ロシアの黒海艦隊は、ウクライナにとって重要な標的となる。ロシア海軍の旗艦艦隊と位置付けられており、その艦船からのミサイル攻撃はウクライナに甚大な被害をもたらしてきた。

黒海艦隊はさらに、ウクライナの穀物輸出を阻止するため、海上輸送ルートを封鎖している。これを克服することが、ウクライナ政府にとって目下の大きな課題となっている。

ロシア政府は今年7月半ば、国連とトルコが仲介したウクライナ産穀物の輸出協定から離脱した。軍艦ではない船舶による黒海の安全航行を保障する協定から離れた理由として、ロシアは自国産の農産物が不利な状態に置かれていると主張した。

ロシアの協定離脱以来、オデーサ港など黒海に面したウクライナの港から穀物を積んで出港できた船はごくわずか。9月22日になってようやく、協定失効後初めて、大型貨物船が穀物を積んでオデーサの南にあるチョルノモルスク港を出港し、1週間後にトルコに到着した。

■ドナウ川の港に攻撃

イギリスの農業・園芸開発委員会(ADHB)によると、ウクライナが輸出する穀物の65%が現在、ドナウ川のイズマイル港とレニ港から出荷されている。穀物は川や運河を経て、ルーマニアのスリナ港とコンスタンタ港から黒海へと出る。

ドナウ川の河口から黒海に出る船は直ちにルーマニア領海に入るため、理論上はこの方が安全ということになる。

しかし、ロシアはドローンを使ってウクライナのドナウ川港も攻撃している。

ドナウ川はウクライナと、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を隔てる国境でもあるだけに、ロシアのこの攻撃は地政学上の不安要素をはらんでいる。ロシアのドローンが少なくとも1回は、ドナウ川を越えて対岸のルーマニア国内イズマイルで爆発した様子が撮影されている。

■1年以上続く戦闘

ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日未明、ウクライナ各地の都市へのミサイル攻撃で始まった。

数十カ所へのミサイル攻撃から間もなく、ロシアの地上部隊が国境を越えて進み、数週間のうちにウクライナの広い範囲を制圧。首都キーウの近郊までロシア軍は迫った。

ロシア軍はウクライナ北東部ハルキウを砲撃し、東部だけでなく南西部へルソンも制圧。南東部の港湾都市マリウポリを包囲した。

しかし、ウクライナの人たちは各地で徹底抗戦を繰り広げた。対するロシア兵の士気は低く、食料や水や銃弾が不足するなどロシア軍は補給の面でも深刻な問題に直面した。

2022年10月までに、開戦当初の勢力図は大きく塗り替えられた。首都キーウの制圧に失敗したロシア軍は、ウクライナ北部から完全に撤退した。

開戦から1年半以上がたち、ウクライナは今も続ける反転攻勢によって、戦況を好転させようとしている。

■ロシア軍瓦解へ

南部激戦地でもう一息のウクライナ軍、突破できればロシア軍瓦解へ

1.突破拡大するウクライナ地上軍

ウクライナ軍とロシア軍は、ザポリージャ州西部に主要戦力を集中させて戦っている。この地での勝敗により、戦争の勝敗が見えてきそうな天王山の戦いだ。

ウクライナ南部ザポリージャ州の西部で、ウクライナ地上軍(陸軍に海軍歩兵が加わっているので地上軍の名称を使用)は、ロボティネからトクマクまでの目標線(オリヒウ攻撃軸)に向けて突破口を形成し、それを拡大して、南下しつつある。

 一方、ロシア地上軍は南下するウクライナ軍の南下を止めようと必死で、両軍は死闘を繰り広げている。

 この地の戦いでは、ウクライナ軍の後方連絡線は後方にあるが、ロシア軍のそれは南にアゾフ海があるために主に東にある。

 そのため、ザポリージャ州防御のロシア軍は、この地で敗北すれば、東からの後方連絡線を遮断されるという脅威を受けている。

 ザポリージャ州西部のオリヒウ攻撃軸では、両軍の戦闘力の先端がぶつかり合っているのだ。

 ロシア軍が占拠する地域は、南北に幅約110キロあるが、防御陣地はその北部の約30キロに集中している。

 その約30キロの間に、ロシア軍は前進陣地、第1・第2・第3の防御陣地を、地域によっては第2と第3の間にも陣地線を構築した。

さらに、市街地を利用した防御も実施している。

ウクライナ軍はこれまで、前進陣地や第1防御線を破壊してきた。ベルボベ正面では第2防御線を突破して進んでいる。

 ロシア軍はこれらの防御線の戦闘に最も力を入れてきた。ウクライナ軍も苦戦を強いられてきたが、10~12キロほど深く進軍できている。

 ベルボベ正面は、応急陣地の2.5防御線と第3防御線がある。あと、十数キロの戦だ。ロシア軍の戦力は減少しているし、もともと配備されている部隊は2個旅団だけだ。

 ロボティネ正面は、まだ第2防御線と第3防御線が残っている。したがって、まだまだ厳しい戦いが続く。

 これらの防御線を打ち破れば、その南にはトクマクなどの都市を守るように陣地が構築されているが、主要な都市以外はウクライナ軍を阻止できるような陣地は作られていない。

 このため、第3防御線を突破されたときのロシア軍は、ウクライナ軍の前進を止めるためには応急陣地を構築するか、機動打撃により攻撃するほかはない。

 南部戦線における地上戦を、第3防御線までの戦いとこれ以降のヤゾフ海までの戦いに区分して、今後の戦闘予想について考察する。

2.オリヒウ攻撃軸、防御3線突破要領

 オリヒウ攻撃軸のこれまでの攻撃には、十数キロの前進のために4か月を費やした。

 これは、ロシア軍が戦力と防御準備の点で最も強い抵抗をしてきたためだ。地雷などの障害処理にも時間がかかった。

 ロシア軍は死力を尽くして戦ったが、戦力を消耗し、ウクライナ軍の前進の速度を遅らせられても、止められてはいない。

 火砲の損害も著しく多く、砲撃も大きく減少してきた。

 一方、ウクライナ軍は、クラスター弾をロシア軍の防御陣地に使い、効果も出ている。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と米国のジョー・バイデン大統領の会談では、射程距離の長い地対地ミサイルATACMS(Army Tactical Missile System、エイタクムス)供与の発表もあった。

 この兵器の供与により、攻撃進展速度はさらに速くなるであろう。

 これから、ウクライナ軍はどの方向から攻撃するのか予想する。

 どの攻撃方向を選択するかで、攻撃目標、攻撃進展速度、ロシア軍の機動打撃対処方法も変わる。

 今後の攻撃方向は概ね3つに集約される。

 オリヒウ攻撃軸の東側のベルボベから南への攻撃方向(A-1)、ロボティネからトクマクの東を通過する攻撃方向(A-2)、ロボティネからトクマクへ進む攻撃方向(A-3)がある。

 図2:オリヒウ攻撃軸、予想されるウクライナ軍の攻撃方向とロシア軍の防御線

 3つの攻撃方向の特色について述べる。

 A-1の場合は、現在、第2防御線を突破し戦闘中であるベルボベを経由して南下する攻撃軸である。

 この経路では、第3防御線のみ1本だけが立ち塞がってくる。道路状況によっては、応急陣地のような第2.5防御線を突破する必要がある。

 また、現在の接触線から第3防御線までは十数キロ、現在攻撃しているベルボベを占拠すれば、残り7~8キロであり、第3防御線を突破するまでに、最短の攻撃軸である。

 この攻撃軸が、現在では最も進展していることから、ウクライナ軍は、この方向を重視して攻撃を進める可能性が高い。

 A-2の場合は、ロボティネから南下して、トクマクの東側を通過して南下する攻撃である。

 また、この方向はトクマクへの直接攻撃を避けるものである。この方向は、まだ第2と第3の防御線が無傷のまま残っている。

 ここを突破するには、ロシア軍の火砲数が著しく減少している現状でも、現在の予備部隊を投入しクラスター弾やATACMSを使ったとしても、10月末まで突破することが難しくなっている。

 ただ、突破してしまえば、これらの南には周到な防御陣地が構成されていないので、217高地まで到達するのは早くなる。

 A-3の場合は、ロボティネからトクマクの市街地を直接攻撃するものである。

 トクマクまでには、A-2と同様に第2と第3防御線がまだ無傷のまま残っている。さらに、トクマクの周囲にも陣地線が構築されている。

 著名な都市を攻撃して成功すれば攻撃成功の宣伝はできるが、トクマクを占拠するまでに多くの時間を要してしまう。

 トクマクだけで数か月間かかる可能性がある。

 そうなればロシア軍が新たな防御線を構築して、ヤゾフ海まで南下するのに時間がかかってしまい、ウクライナ軍の戦争構想が失敗する恐れが出てしまう。

 できれば、市街地の戦闘を避けて、南下作戦を実施したいと考えるだろう。

 もしも、トクマクがロシア軍に占拠され続ければ、ウクライナ軍の南下作戦の側背に脅威が残ると思われるが、ここは一部の部隊で拘束すればよい。

 また、火砲を使って、トクマクに占拠する司令部や兵站施設を火砲で攻撃していけば、つまり兵糧攻めをしていれば、この寒い冬の期間に、ロシア軍の降伏を促すだろう。

 この3つの攻撃方向を比較すれば、A-1が攻撃進展が進んでいること、ロシア軍の防御線が少なく短いこと、その後の攻撃進展が速いことが予想されることから、この方向を主攻撃として攻撃を続行する可能性が高い。

 とはいえ、ウクライナ軍は第3防御線の突破口を形成したとしても、突破口の拡大を行う必要性があることから、ロボティネからトクマク方向への攻撃も継続して実施するだろう。

3.ヤゾフ海に面する都市までの攻撃方向

 ウクライナ軍は、第2と第3防御線を突破した後は、南下してヤゾフ海に面する都市、メリトポリやベルジャンスクまでを奪還して、南部2州およびクリミア半島とロシア占拠地との間を分断する作戦だ。

 これらはどうのようになるのだろうか。

 具体的には、どの地域を目標として、どの方向から攻撃するのか。

 攻撃方向については、3方向(A-1ab、A-2、A-3)が考えられる。

 図3:南部戦線ザポリージャ州オリヒウ攻撃軸作戦予想

 A-1は、A-1aとA-1bに分けられる。

 A-1aは、ウクライナ軍が現在、ロシア軍の第2線陣地のベルボベを打ち破って進む延長線上の方向だ。

 これは、295高地からベルジャンスクに至る経路だ。この経路には主要な道路はないが、ロシア軍の防御陣地がなく、抵抗が少ない。

 295高地を占拠していれば、ロシア軍の機動打撃がある場合でも、対処が有利に進められる。

 A-1bは、第3防御ラインを打破した後に217高地を経由して、その後、道路P37号線沿いに南下しベルジャンスクに至るものだ。

 途中から主要な道路を使用できることで、比較的機動が容易である。

 また、この道路を獲得することで、トクマクへの補給を制約することができる。217高地を占拠していれば、ロシア軍の機動打撃がある場合でも、対処が有利に進められる。

 A-2は、ロボティネから第2と第3の防御線を突き抜け、その後、方向を南東に向けて進み、150高地、そしてベルジャンスクに至る経路である。

 これは、都市トクマクを攻撃せずに、トクマクの東をすり抜けて進むものであり、攻略に時間がかかるトクマクの市街戦を避け、ベルジャンスクに至ることができるので、早期にアゾフ海に到達することができる。

 前述したが、トクマクを奪回しないことは、ウクライナ軍の攻撃前進に側背に脅威が残るが、これについては一部の部隊でロシア軍を拘束すれば済むことである。

 ウクライナ軍がベルジャンスクに到達すれば、トクマクやメリトポリを守る部隊への補給を遮断することができるので、兵糧攻めで陥落させることができる。

 A-3は、第2防御線を通過してトクマクの防御線を突破し、トクマクに入り市街戦を実施しなければならない。

 トクマク奪回に多くの時間がかかる。その次に、メリトポリに入り市街地戦闘を実施することになる。

 トクマクおよびメリトポリでの市街地戦闘は、陥落させるために時間がかかるし、ウクライナ軍としても大きな被害を受けることになる。

 また、ロシア軍の兵站連絡線を止めることができないので、ロシア軍も長期間戦うことができる。

4.ヤゾフ海に面する都市までの攻撃目標

 ウクライナ軍は、現在の接触線からヤゾフ海に到達するまでに、目的・距離別に概ね、

 (1)ロシア軍防御線を突破する目標線(トクマク目標線)

 (2)ロシア軍兵站線の妨害を可能とする目標線(ロシア軍兵站妨害目標線)

 (3)ロシア軍を東西に分断する目標線(ロシア軍東西分断目標線)を設定すると考えられる。

 図3ウクライナ軍の南部戦線ザポリージャ州オリヒウ攻撃軸作戦予想を参照。

 (1)トクマク目標線

 ウクライナ軍が、ロシア軍の3線の防御線の3線目に突破口を形成し、さらに突破口を拡大することができれば、ロシア軍のザポリージャ州における防御は瓦解する。

 そして、これよりも南には防御線がないために、ロシア軍はウクライナ軍の南下を阻止することは極めて難しくなる。

 ただ、この目標線を獲得しただけでは、ロシア軍を東西に分断することはできない。また、兵站活動を妨害することも難しい。

 このため、ウクライナ軍は、この目標線獲得後は、速やかに南下するだろう。

 (2)ロシア軍兵站妨害目標線

 トクマク目標線を獲得しただけでは、ロシア領域からメリトポリへの後方連絡線(E58道路)を遮断することはできない。

 ウクライナ軍は、少なくとも217高地や295高地の南までを獲得しなければならない。

 ただし、トクマク目標線を獲得すれば、それよりも周到に準備した防御陣地がないので、ここを通過できればロシア軍兵站妨害目標線まで到達する時間は少なくて済む。

 この目標線に到達する前後には、ロシア軍は北部・東部の戦力を抽出してザポリージャ州に移動し、この地まで進出したウクライナ軍を機動打撃するだろう。

 ロシア軍がこの地を奪回されれば、南部2州のロシア軍は孤立する可能性が高まる。

 (3)と(4)ロシア軍東西分断目標線

 ウクライナ軍がメリトポリおよびベルジャンスクに到達すれば、東西の後方連絡線を完全に遮断できる。

 ロシア軍は、この地を奪回されれば南部2州のロシア軍は完全に孤立するし、クリミア半島の部隊までもが孤立する。

 孤立すれば、時間の経過とともに兵糧攻めにより、投降する部隊が増加する。

 このような事態を防ぐために、ロシア軍は前述同様に各地から戦力を抽出して、最大規模の機動打撃を実施するだろう。

5.トクマク目標線進出で南下阻止不可能に

 オリヒウ攻撃軸でウクライナ軍の攻撃が進展すれば、ロシア軍の防御は瓦解し、主力はベルジャンスク経由でロシア領内に後退し、一部はトクマク、メリトポリの市街地に集結し、長期間の防御を行うだろう。

 しかし、補給が続かず、自滅することになる。

 図4:ロシア軍の防勢作戦イメージ

 自滅を防ぐために、ロシア軍はまずザポリージャ州東部やヘルソン州に配備している部隊から兵力を抽出して、機動打撃-1を行うだろう。

 この場合、ザポリージャ州西部やヘルソン州の部隊が少なくなる。

 この動きをウクライナ軍が察知すれば、これらの2つの地域から反撃を開始することになるであろう。

 図5:各段階におけるロシア軍の機動打撃要領

 ロシア軍はこれまで何度も攻勢に失敗したこと、ロシア軍に大きな損失が出ていることから、トクマク目標線でウクライナ軍の攻撃を撃退することは不可能であろう。

 ロシア軍が次に反撃を行うのは、295高地および217高地だ。

 この場合、ロシア軍は北部戦線や東部戦線から戦力を集中して機動打撃-2を実施する可能性がある。

 障害物を利用した陣地線での防御ではなく、防御の利がない機動打撃では、ロシア軍の成功はない。

 ウクライナ軍にベルジャンスクが奪回されれば、ロシア軍は東西に分断されてしまい、ザポリージャ州およびヘルソン州の2州に配備されたロシア軍は孤立し、弾薬等の補給が得られなくなる。

 さらに、クリミア橋がATACMSで破壊されれば、補給が完全に途絶してしまう。

 孤立を防ぐために、ロシア軍は、この正面に対して北部と東部の戦線から抽出した多くの部隊を使って、機動打撃-3・4を実施するだろう。

 ロシア軍のこれまでの戦いであれば、ウクライナ軍を撃退することは困難である。

 また、この時点になると、ロシア軍内に混乱が起きている可能性が高く、機動打撃は失敗するだろう。

 ウクライナ軍にメリトポリが奪回されれば、ロシア軍は東西に分断され、2州に配備されたロシア軍は抵抗できずに早期に降伏することになる。

■米供与「ATACMS」のトンデモない実力

ロシア軍は戦々恐々…米国がウクライナに供与を決めた長距離ミサイル「ATACMS」のトンデモない実力 専門家は”微妙なさじ加減”に注目

「バイデン政権、ウクライナにATACMSを少数提供へ-関係者」との記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。ATACMSは「エイタクムス」と発音され、日本語に訳すと「陸軍戦術ミサイル・システム」となる。

ATACMSの性能は極めて高く、いわゆるゲームチェンジャー、戦況を一変させる兵器だと指摘されてきた。今回、初めて供与されるわけだが、ウクライナの念願がようやく叶った形だ。

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻すると、早くも6月の時点でATACMSを供与すべきか議論になった。

ゼレンスキー大統領は供与を切望していた。しかし、バイデン大統領は22年6月21日の会見で「第三次世界大戦は望まない」と強く否定。さらに今年1月にもアメリカ国防省の高官が「性能が過剰だ」と説明したことを読売新聞が報じた

ATACMSを供与するとロシアを過度に刺激しかねない──これがアメリカの本音だった。軍事ジャーナリストが言う。

「ATACMSの射程距離は300キロメートルと長く、命中精度も高いことで知られています。東京都庁から300キロ圏内といえば、静岡県、愛知県、富山県、長野県などです。これらの地域なら、どこでもピンポイントで攻撃できるわけです。ロシアにとって脅威であることは言うまでもなく、対抗措置として戦術核の使用をほのめかしても不思議ではありません。バイデン大統領の『第三次世界大戦は望まない』という発言は、ATACMSの高性能を考えれば当然でした」

やはり怖いロシア

だが、遂にアメリカは供与へと踏み切った。ロシアの恫喝に屈せず、ウクライナに対する強い支援を実現したということなのだろうか。

「ブルームバーグを筆頭に欧米のメディアは、全て『少数』の供与と報じています。これは異常事態と評しても大げさではありません。ホワイトハウス側が『少量』を強調しているわけですが、本来ならあり得ないことです。情報戦でロシアにプレッシャーを与えるためにも、供与数を公表しないのが普通でしょう。バイデン政権が供与を明らかにしながら同時に火消しにも躍起なのは、依然としてロシアの反応が怖いからです」

ならば「ATACMSはロシアの逆上が心配されるほど高性能な兵器」という言い方も可能だろう。一体、ATACMSの何が凄いのか。

クリミア半島の港湾都市セバストポリに、ロシア黒海艦隊の司令部があります。ウクライナ軍は9月22日、司令部の攻撃に成功したと発表。34人の将校が死亡し、その中に艦隊司令官のビクトル・ソコロフ大将も含まれているとの情報も飛び交いました。さらにBBCは、攻撃にはイギリスとフランスが共同開発した空中発射巡航ミサイル『ストームシャドウ』が使われたと報じました。

ロシア空軍の基地も攻撃可能

ストームシャドウも輸出版は射程距離が280キロある。ATACMSの300キロとほぼ互角と言えるが、性能の差は大きいという。

「ストームシャドウは航空機から発射する必要があり、ウクライナ空軍は数機しか持っていないSU-24戦闘爆撃機を使用しています。機数が足りないのは明白で、いつでも爆撃機を飛ばせるわけではありません。ところが、ATACMSは高機動ロケット砲システム『HIMARS』からの発射が可能です。おまけに、ストームシャドウの最高速度は音速(マッハ1)未満の亜音速ですが、ATACMSはマッハ3で飛びます」(同・軍事ジャーナリスト)

ウクライナ南部の都市ヘルソンは、反攻作戦における重要拠点の一つ。このヘルソンからセバストポリの距離は約250キロだ。

「ATACMSを使えば、ウクライナ軍はクリミア半島に駐留するロシア軍を広範囲に攻撃できます。例えば、アゾフ海沿岸の都市ベルジャンシクにはロシア空軍の基地があり、戦闘機や軍用ヘリである程度の航空優勢を確保しているとされています。しかし、ウクライナ領内からATACMSを発射すれば、基地を攻撃できます。甚大な被害が出るのは確実で、一定期間、離着陸を不可能にすることが可能です」

封じ込められるロシア軍
 アメリカは以前からHIMARSの供与は行っており、ウクライナ軍はフル活用している。そして重要なことだが、HIMARSがロシア軍の攻撃を受けて破壊されたという報道は今まで一つもない。

「HIMARSが発射するロケット弾の射程距離は約80キロです。ロシア軍は着弾地点から発射地点を算出するレーダーシステムを稼働させており、その範囲は30キロから40キロと推定されています。榴弾砲なら撃たれても発射地点を割り出せますが、HIMARSだとお手上げです。情報の精度が高いことで知られているオランダの戦争研究サイト『ORYX』でも、HIMARSの損害は確認されていません。そしてATACMSに至っては射程距離300キロですから、“絶対的な安全地帯”からロシア軍の重要拠点を攻撃することができます」(同・軍事ジャーナリスト)

ロシア軍がクリミア半島に拠点を置く司令部、兵站、軍港、空軍基地は、大半が射程圏内となる。ロシア国内とクリミア半島を結ぶクリミア大橋を標的とする可能性も高い。

「ロシア軍は今、ウクライナ領内に攻め込む考えはありません。ATACMSが実戦配備されれば、さらに自陣内に引きこもるでしょう。ロシア軍を封じ込めることができるわけですから、ウクライナ軍にとってはまさに戦術核を手にいれたほどの価値があります。ATACMSでクリミア半島のロシア軍を集中攻撃すれば、反転攻勢に強い追い風が吹くのは間違いありません」

ATACMSと冬

アメリカが「少量」を強調しているのは前に見た通りだ。これには「在庫」の問題も大きいという。

「ATACMSは1991年の湾岸戦争で初めて実践で使用されました。ところが、中距離核戦力全廃条約(INF)が2019年に失効したことから、アメリカ軍は射程500キロ超のミサイル開発にシフトしており、ATACMSの製造は終了しました。在庫は約4000発と見られているのですが、ウクライナの他にも台湾など供与を求めている国はたくさんあります。そのためアメリカ軍は、ウクライナにATACMSを無制限で供与することは反対していたのです」

こうした状況から考えると、アメリカはATACMSを「ウクライナが冬を乗り切るための兵器」と位置づけている可能性が高いという。

「秋の終わりに差しかかかると、ウクライナの大地は泥濘と化し、戦車の移動が難しくなります。そして長い冬が到来し、大地は凍って軍事車両の通行は可能になりますが、今度は兵士が寒さで動けなくなります。ただでさえ戦線は膠着するわけですが、ATACMSの射程距離に入っているロシア軍は新しい陣地や兵站の構築さえ難しくなります。衛星で監視され、そこを狙われたらひとたまりもありません。ウクライナ軍はロシア軍を身動きできない状況にさせ、戦況を見ながら重要な軍事施設を破壊し、戦果を宣伝しながら春を迎えようとしているのではないでしょうか」

ロシア軍の悪夢

春になるとNATO(北大西洋条約機構)加盟国から供与される航空戦力が揃うと言われている。これでウクライナ軍は、戦車を孤立させず、空の支援を得ながら反攻作戦を行うことが可能になる。

「ただでさえロシア軍はATACMSで身動きが取れなくなるわけですが、春になって航空戦力が整うと、かなりの脅威を感じると思います。もしロシアのプーチン大統領にまともな判断能力があれば、停戦交渉に応じても不思議ではない状況です。アメリカの狙いも、おそらくはそこにあるのではないでしょうか」

停戦交渉が現実のものとなるためにも、ATACMSの大活躍が期待される。もちろん実力は充分だと専門家の誰もが太鼓判を押す。

「ATACMSを搭載しているコンテナは、HIMARSのロケット弾のコンテナと全く同じ形です。操作するアメリカ軍の兵士も『100メートル離れると、どちらか分からない』と口を揃えます。これは敵軍に監視された場合を想定しているからです。戦場に潜むHIMARSを発見し、軍事衛星やドローンで必死にコンテナを判別しようとしても、射程距離が80キロのロケット弾なのか、300キロのATACMSなのか分かりません。HIMARSは『高機動ロケット砲システム』と訳されるように、発射した後は高速で離脱することが可能です。そしてATACMSなら、マッハ3で標的まで飛んでいきます。こうなると、もう誰にも止められません。今冬、ロシア軍にとっては悪夢のような被害が出ると思われます」
2023.10.04 09:02 | 固定リンク | 戦争
FSBとSVRの代理人宗男氏
2023.10.03
党に届け出ずにロシアへ渡航したとして、日本維新の会が鈴木宗男参院議員の処分を検討していることが3日、分かった。党幹部が取材に「党がルールとして定めていた海外渡航の際の届け出はない。国会議員団の副代表を務める鈴木氏の責任は軽くない。帰国後に本人から話を聞いて処分内容を決めたい」と答えた。

ロシア外務省は2日、ルデンコ外務次官が鈴木氏を迎え、会談したと発表。鈴木氏がモスクワを訪れたもようだ。

■ロシア弾尽きる

ロシア軍〝弾切れ〟目前 年明けにも備蓄尽き…ウクライナに全土奪還される可能性 イランや北朝鮮からの供与苦しく軍の士気低下も

ロシアのプーチン大統領が主導したウクライナ侵攻がいよいよ行き詰まってきた。ロシアが一方的に併合を宣言した東・南部4州の5割超が奪還され、軍の砲弾は年明けにも備蓄が尽きるとの分析も出ている。対するウクライナは「全土奪還」へ意気軒高だ。

「ウクライナ軍はすぐそばまで来ている」。ロシアが併合を宣言した南部ザポロジエ州メリトポリのフョードロフ市長は13日、中心部で爆発があったと通信アプリで明らかにしたうえで、ロシア側を挑発した。メリトポリはロシア軍の物流拠点で、2014年にロシアが併合したクリミア半島の「玄関口」に当たる。

英国防省は、ロシアが侵攻開始以降に制圧した地域の54%をウクライナが奪還したとの見解を示した。ロシア軍が支配地域を制圧できるほどの軍部隊を編成するのはほぼ不可能で、今後数カ月で大きく前進する可能性は低いと分析する。

ロシア軍は士気低下も指摘されるが、ウクライナの独立調査機関「レイティング」は13日、クリミア半島や東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の一部を含む全土奪還を「勝利」と認識する人が85%に上ったとの世論調査結果を発表した。侵攻直後の今年3月から11ポイント上昇した。

ロシアとの和平合意締結に賛同したのは8%にとどまった。ロシアの攻撃で大規模な停電が相次いでいるウクライナだが、国民の結束は引き続き強いとみられる。

米高官は、あと数か月に及ぶ侵攻でロシア軍の砲弾やロケット弾の備蓄が尽きつつあり、40年以上前に製造された古い砲弾を使う可能性があると述べた。ロイター通信が報じた。古い砲弾に頼らず、イランや北朝鮮からの供与もないまま現在のペースで攻撃を続ければ、来年初めには使用可能な砲弾の備蓄が尽きるとの見方を示した。

■鈴木氏、ガルージン外務次官と面会

鈴木宗男氏が訪ロ 侵攻後、国会議員で初 ガルージン外務次官と面会

日本維新の会の鈴木宗男参院議員が1日、ロシアの首都モスクワを訪問したことが分かった。4日まで滞在し、ロシア外務省高官や議会要人らとの面会を計画。昨年2月のロシアのウクライナ侵攻後、日本の国会議員のロシア訪問が確認されたのは初めて。停滞する日ロ関係について意見を交わし、元島民らの北方領土墓参や北方四島周辺での日本漁船による安全操業の早期再開をロシア側に要請する見通し。

ウクライナ侵攻が続く中、日本政府はロシア全土に渡航中止勧告を出している。鈴木氏は国会の許可を得て5月に大型連休中の訪ロを検討したが、維新執行部が慎重な対応を要請。最終的に訪問が見送られた経緯がある。

鈴木氏側によると、2日はアジア太平洋地域を担当するルデンコ外務次官、前駐日ロシア大使のガルージン外務次官とロシア外務省で面会した。3日以降はロシア上院のコサチョフ副議長やカラシン国際問題委員長との面会も予定しているという。

■維新 鈴木宗男議員訪ロで処分検討

日本維新の会の藤田幹事長は、党に所属する鈴木宗男参院議員がロシアを訪問していることについて処分を検討する考えを示しました。

日本維新の会の藤田幹事長はJNNの取材に応じ、鈴木宗男議員のロシア訪問について「党がルールとして定めていた海外渡航の際の届け出がなかった」ことを明かし、「届け出がなかった場合、“役員会通達違反”」だとして処分対象となる考えを示しました。

これに対し、鈴木氏の事務所関係者は「きのうの朝、党に海外渡航届を提出した」と主張しています。

鈴木氏が帰国した後に本人からヒアリングを行う予定だということです。

松野官房長官

「政府としては基本的立場としてロシア全土にレベル3、すなわち渡航中止勧告以上の危険情報を発出しており、どのような目的であれ、ロシアへの渡航はやめていただくよう、国民の皆様に求めてきています。その上で、鈴木宗男参議院議員のロシア訪問の詳細について政府として、お答えする立場にはありません」

一方、松野官房長官は、このように述べたうえで、鈴木議員から政府側に連絡は来ていないと明かしました。

また、自民党の茂木幹事長も会見で「鈴木議員がどのような経緯か目的かはわからないが、渡航は望ましいことではない」と苦言を呈しました。

■日本の対露制裁に遺憾の意を表明

鈴木宗男氏がモスクワ訪問、ロシア外務省「外務次官と会談」「日本の対露制裁に遺憾の意を表明」

ロシア外務省は2日、アンドレイ・ルデンコ外務次官が日本維新の会の鈴木宗男参院議員と会談したと発表した。モスクワで会談したとみられる。ロシアが昨年2月にウクライナ侵略を開始して以降、日本の国会議員の訪露が明らかとなるのは初めて。

事務所によると、鈴木氏は今月1~5日の日程でロシアを訪問している。参院には海外渡航届が提出されていた。

露外務省の発表によると、ルデンコ氏は鈴木氏が日露関係の発展に貢献したと指摘した上で、日露関係について「日本の対露制裁や西側の反露路線で破壊されていることに遺憾の意を表明した」という。鈴木氏は露側から、世界や地域の安全保障問題や現在の日露関係についての説明を受けたという。

2023.10.03 14:49 | 固定リンク | 戦争
レオパルト2「ロシア軍と接近戦」
2023.10.02
ウクライナ軍のレオパルト2A6戦車、白昼にロシア軍と接近戦 損失は71両中5両のみ 反攻開始から3カ月

■レオパルト2損失は71両中5両のみ

ウクライナ軍が南部と東部で待望の反転攻勢を開始してから13週間。その間、運用する71両のレオパルト2戦車のうち、失ったのはわずか5両だ。

これまでに少なくとも10両のレオパルトが損傷したが、ウクライナ軍はポーランドとドイツの車両基地で損傷車両を修理し、戦線に戻している。

重量69トンのレオパルト2は頑丈だ。そのため、損傷しても修理されてまた戦闘に投入される。再度損傷しても、また修理できる。繰り返しの利用に適しているのだ。

より重要なのは、破壊された5両のレオパルト2の乗員20人のほぼ全員が、車両が燃えたり爆発したりする前に脱出した可能性がある点だろう。

ウクライナ軍の兵士オレクサンドル・ソロニコは「ひどく損傷した装備であっても回収され、修理に出される」と説明する。「金属片ならたとえ高価でも交換できるが、人の命は修理できない」

カナダやデンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデンなど、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心とした国々は、ウクライナにストリッツヴァグン(Strv) 122を10両、レオパルト2A6を21両、レオパルト2A4を74両供与すると約束した。Strv 122はスウェーデン軍が使用していたレオパルト2A5の改良型だ。

14両のレオパルト2A4を除き、これらの戦車はすでに前線に到着している。

1980年代に生産されたA4はレオパルト2の中では最も装備が古い。90年代に生産されたStrv 122とA6には新しい複合装甲が施され、光学機器もアップグレードされた。A6には射程が長く威力のある120mm砲が搭載されている。

レオパルト2が生き残れるよう、ドイツ戦車メーカーのKMWとラインメタルは砲塔に弾薬を保管する特別なコンパートメントを搭載した。このコンパートメントは攻撃を受けると外側に向けて爆発し、乗員を保護する。

対照的に、ロシア軍の戦車は砲塔の下に弾薬を収納する。弾薬が爆発すると、砲塔と乗員3人もろとも吹き飛ばされる。レオパルト2は、車体を乗員もろとも破壊するよりも、車体に損傷を与えて乗員を離脱させる方がずっと簡単だ。一方でロシア軍のT-72戦車が直撃を受けると、戦車と乗員の両方が甚大な被害を受ける可能性がある。

破壊が映像や写真で確認されたレオパルト2の数は、6月4日に反攻が始まって以来、わずか5両だ。その内訳は、50両配備されたA4のうちの2両と、21両配備されたA6のうちの3両。Strv122の破壊は確認されていない。

「長い目で見れば、装甲の損失をゼロとすることは不可能だ。だが、装甲はリスクを伴う目的を果たすのに役立つ」とソロニコは指摘する。

「開いたハッチ」は乗員の脱出を示唆

レオパルト2の損失はすべて、マラトクマチカとロボティネを中心とする約40km四方で発生している。ロボティネからトクマクを経由して約80km離れたロシアに占領されている南のメリトポリに至る攻勢軸は、反攻作戦が3カ月目に突入するいま、ウクライナ軍が特に注力しているところだ。

ウクライナ軍は、ロシアの占領下にあるクリミアのロシア軍駐屯地への陸路の補給線を断ち切るため、メリトポリの解放を目指している。ウクライナ軍は着実に前進しているが、その歩みは遅い。第82航空強襲旅団と第47機械化旅団が率いる6つの部隊は先週、ロボティネを解放したばかりだ。

レオパルト2A4とA6はロボティネの北に待機している第33機械化旅団に配備されているが、同旅団はどうやら第47旅団を支援するために戦車中隊を送っているようだ。第82旅団には英国が供与したチャレンジャー2戦車が配備されている。

戦車を展開することで、M2ブラッドレー歩兵戦闘車やストライカー装甲車、マルダー砲兵戦闘車に乗った突撃部隊に威力のある長距離兵器が加わることになる。

これは乗員たちにとって過酷な任務だった。地雷原を進み、大砲の砲撃や大量の自爆ドローン(無人機)「ランセット」に耐え、攻撃ヘリや爆弾をかわしてきた。レオパルト2にとって、地雷とランセットの組み合わせが最も危険だったようだ。地雷は戦車のキャタピラを損傷させて動けなくする。そこへランセットが飛んできて戦車にとどめを刺す。

だが、破壊された5両のレオパルト2のうち4両をとらえた写真や映像には、砲塔や車体のハッチが開いている様子がうつっている。これは乗員が戦車から脱出したことを強く示唆している。ソロニコは、西側の戦闘車両は「命を救う」ものだと書いている。

5両の戦車が使い物にならなくなり、10両が修理のために車両基地に移されたが、ウクライナ軍の旅団はまだ最初に配備された71両のレオパルト2のうち50両超を運用している。来年初めに到着する予定の14両のレオパルト2A4は、損失を補って余りある。

大半のレオパルト2よりも装甲が厚い米国製のM1エイブラムス31両など、さらに多くの西側製の戦車がウクライナに向かっている。

だがウクライナ軍は、レオパルト2、チャレンジャー2、M1エイブラムスとは全く対照的に最小限の装甲のみ施されているレオパルト1A5も、少なくとも165両手に入れる。レオパルト1がレオパルド2のように敵軍の攻撃を強行突破することは期待できない。

■白昼にロシア軍と接近戦

ウクライナはドイツから供与された、わずか21両の砲身の長いレオパルト2A6戦車すべてを第47機械化旅団に配備した。同旅団は、南部ザポリージャ州のロボティネからトクマクを経てロシア占領下にある主要都市メリトポリに至る約80kmにわたる軸に沿って進められているウクライナ軍の反攻を率いている。

第47旅団は6月上旬に、マラトクマチカの南方に広がるロシア軍の第1防衛線への直接の攻撃で重量69トン、乗員4人の2A6を3両失った後、戦車を使った戦術を変えた。それから3カ月間、55口径120mm滑腔砲と昼夜使える高性能の照準装置を搭載した2A6はほぼ夜間に長距離砲を使って戦った。

だがそれは、百戦錬磨の第47旅団が運用する2A6が白昼にロシア軍の陣地に向かって突き進み、砲撃を加えることができないということではない。

まさにそうした白昼の戦闘が最近、メリトポリにのびる軸のどこかで行われた。第47旅団が9月29日にネットに投稿した映像には、戦車と戦闘車両、歩兵によるウクライナ軍の連合部隊と、姿の見えないロシア軍部隊との間で昼間に行われた荒々しい接近戦が映っている。

第47旅団の部隊が砲火を浴びたのは、米国製M2ブラッドレー歩兵戦闘車が、レオパルト2A6と並んで平野を南下していたときだったようだ。映像では、砲撃が爆発する様子が遠くに映り、またロシア軍が放った小火器の弾が撮影者の頭上を飛んでいる。

ロシア軍が樹林帯から機関銃を撃つと、M2は後退してスロープを降ろし、乗り込んでいた歩兵6人が飛び出す。歩兵らはM16自動小銃と対戦車ロケットで武装している。「こっちっだ!」と1人の兵士が叫ぶと、他の兵士らはロシア軍の塹壕だったと思われるところに身を隠すために飛び込む。ある兵士は、ロシア軍は白リン系の焼夷弾を撃っているのだろうと推測する。

ドラマチックに映し出されるバランスの取れた設計された2A6
M2が後退する中、2A6はロシア軍を抑えこもうと主砲で攻撃しながら前進する。「耳を覆え!」とウクライナ軍の兵士が叫ぶと、砲身の長い主砲から120mmの砲弾が発射される。

その後数秒間、2A6のバランスの取れた設計がドラマチックに映し出される。対戦車ミサイルから乗員を守るためだろうが、2A6は後部に搭載されたエンジンをロシア軍に向けている。そして砲撃を加える合間に前後に動く。おそらくロシア軍が狙えないようにするためだろう。

こうした機敏な動きは、主力戦車のT-72を含め、旧ソ連が開発した戦車の多くはできない。というのも、より機動性が優れている西側製の戦車に標準装備されている高速で後退するギアがソ連製戦車にはないためだ。

車両から降りたウクライナ軍の歩兵らは、自分たちが特別なものを目にしていることを知っている。世界で最も優れた戦車の1つが、ドイツ防衛機器メーカーのクラウス・マッファイ・ウェグマンが設計したとおりに動いているのだ。戦車の砲弾が、映像には映っていないロシア軍の陣地に打ち込まれると、歩兵たちは歓喜の声を上げる。

この接近戦が第47旅団の戦術に新たな変化をもたらすかどうかは何とも言えない。確かに、同旅団がメリトポリ軸に沿って前進するにつれ、戦場は変化している。地雷の密度は低くなっている。ますます劣勢に立たされているロシア軍の砲兵隊の砲撃は減っている。

第47旅団に残された18両のレオパルト2A6にとって、ロシア軍の陣地に接近する方が安全なのかもしれない。そして近いうちに、30両を超える2A6より古いレオパルト2A4Vや、まだ破壊されていない13両の英国製チャレンジャー2、今後到着する31両の米国製M-1エイブラムスといった優れた戦車も同じような戦い方をするかもしれない。

2023.10.02 15:21 | 固定リンク | 戦争
ウクライナ軍「第3防衛線」突破
2023.10.01
ザポリージャ戦線、ウクライナが「第3防衛線」突破…車両の通過も可能に ロシア軍の死者、侵略開始以降「27万人超」…直近1日でも340人死亡 イギリス軍参戦か

ウクライナ南部でロシア軍への反転攻勢を指揮するウクライナ軍将官のオレクサンドル・タルナフスキー氏は23日、米CNNのインタビューで「ザポリージャ戦線」で露軍が築いた「第3防衛線」を突破し、前進を続けていると述べた。

タルナフスキー氏によると、ウクライナ軍が要衝のトクマク奪還に向けた足がかりとなるロボティネ近郊の村ベルボベでの戦闘で露軍の「第3防衛線」を破ったと明かし、「大きな突破口になる」との見方を示した。

米政策研究機関「戦争研究所」などは21日、ウクライナ軍が露軍の第3防衛線の一部を突破した可能性を指摘していた。現場の指揮官は米紙ワシントン・ポストに対し、歩兵はすでに2~3週間前に第3防衛線を越えており、最近になって車両の通過も可能になったと語った。激しい露軍の抵抗で、ウクライナ軍の前進は「ゆっくりしたもの」という。

一方、露軍は23日、ドネツク州の村やスムイ州の住宅地を砲撃し、市民2人が死亡した。

■ウクライナ軍、ロシア軍の「竜の歯」を突破したのか

ウクライナ軍の将官たちは9月に入り、ロシア軍の「第1防衛線」を突破したと主張している。BBCヴェリファイ(検証チーム)は、実際にウクライナ軍の部隊がどこまで進んだのか、そして前線沿いで今後どういう展開があり得るのかを探った。

南東部ザポリッジャ周辺の地域が、戦略的に最も重要だ。

アゾフ海へ向けて部隊を進めた上で、もし戦線突破に成功すれば、ロシア領ロストフ・ナ・ドヌの街とクリミア半島を結ぶロシアの補給線を断つことができる。

ただし、ザポリッジャ州の集落、ロボティネとヴェルボヴェの周辺を除けば、この地域での戦いであまり成果は出ていない。

もしロシア領とクリミアを結ぶ補給線の分断にウクライナが成功すれば、ロシアは2014年に併合したクリミアでの大規模な駐留を維持することが、ほとんどできなくなる。

ウクライナにとってかなりの難関は残るが、南部戦線では、ウクライナの部隊がロシアの防衛用障害物「竜の歯」などを突破した様子が、複数の個所で確認されている。

私たちはヴェルボヴェ村に近い前線沿いで撮影され、ソーシャルメディアに投稿された動画のうち9本が、本物だと確認した。

■検証済み動画が示す南部戦線の様子

このうち動画4本は、ヴェルボヴェの北でウクライナ軍がロシアの防衛線を突破する様子を映している。

ただしこれはウクライナが前線を突破したと示すもので、その一帯を掌握したと示すわけではない。

今のところ、ロシアの防衛線を越えているのはウクライナの歩兵隊のみ。その突破口からウクライナの装甲車列が次々とロシアの陣地に入り、そのまま国土を奪還し掌握したという様子は、まだ目にしていない。

ウクライナの速い前進を妨げているのは?

ロシア側はもうずっと前から、ウクライナのこの反転攻勢を予測していた。そして、世界最強の防衛線を何カ月もかけて構築した。

衛星画像で見ると、複数の防衛用障害物や塹壕(ざんごう)、地下要塞(ようさい)や地雷原が多重に組み合わさって連なり、それぞれが砲撃拠点に守られている。

守備力強化された防衛線

広大な地雷原がウクライナの前進を押しとどめている。ロシアはウクライナの野原に大量の地雷を敷設した。場所によっては、1平方メートルにつき地雷が5発も埋まっている場所もある。

ヴェルボヴェ近くの野原の様子を、8月21日と9月7日の衛星画像で比較すると、緑だった場所が9月7日には穴だらけになっているのがわかる。

ウクライナ軍は6月にこの地雷原を一気に突破しようとしたが、それはあっという間に失敗に終わった。西側諸国が供与した最新兵器は大破し、炎上した。ウクライナの歩兵部隊も、悲惨な数の死傷者を出して後退する羽目になった。

ウクライナが軍はその後、ロシアの地雷を個々に撤去する作戦に変更した。作業のほとんどは夜間で、しばしば砲火の下で行われる。ウクライナ軍の前進が遅いのは、そのためだ。

ウクライナの戦車や装甲車が、ロシアの地雷やドローン、対戦車ミサイルによって破壊されることもある。私たちが検証した動画では、イギリスが提供したチャレンジャー2戦車がロボティネ近くで破壊されていた。

そのため、ウクライナの戦車や装甲車がまとまって前進するには、地雷原を無事に通過できる、一定の幅がある通路が確保される必要がある。さらには、その場においてロシアの砲撃を抑制することも必要だ。

■ウクライナ反攻の今後は

「ウクライナにとって今の課題は、部隊をもっとロシアの陣地に送り込めるだけの大きな突破口を確保すること」だと、英キングス・コレッジ・ロンドン戦争研究学部のマリナ・ミロン博士は言う。

他方、ロシアは兵や装備の補給を送り込んでおり、この戦線は流動的に動いている。ウクライナが奪還した領土を、ロシアが再度奪い返す可能性もある。

ロシア軍の精鋭、空挺(くうてい)軍が、ヴェルボヴェ村の近くに配備されたという情報を裏付ける、ロシアのドローン撮影映像を、私たちは確認した。この展開は、ウクライナの反転攻勢によって前線に空いた隙間(すきま)を埋めるためのものだ。

イギリスのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のロシア専門家、カテリナ・ステパネンコ氏によると、「ウクライナ軍は依然として戦場で、ロシア軍の抵抗に遭っている」。

「砲撃やドローン攻撃、防衛用の障害物に加え、ロシア軍は幅広い電子戦を展開し、ウクライナ軍の通信やドローン使用を妨害しようとしている」

ウクライナ軍は、沿岸までの距離の約10%しか前進できずにいる。しかし、実情ははるかに複雑だ。

ウクライナの反転攻勢が始まってから3カ月。激しい攻撃にさらされ、補給線への長距離砲撃も受け続けてきたロシア軍の兵士たちは、疲れ果て、士気が下がっている可能性もある。

ウクライナ軍が残るロシア軍の防衛線を突破し、トクマクの町まで到達できれば、ロシア本土とクリミアを結ぶ鉄道と道路、つまりロシアの補給線が、ウクライナ側の砲撃の射程圏に入る。

もしそれが実現すれば、今回の反転攻勢は一定の成果を収めた成功と評価できるものになる。

それで戦争が終わることはないかもしれない。この戦争は2024年に入っても、あるいはさらにその先までも続く可能性がある。しかし、今回の反転攻勢が成功すれば、ロシア側の戦争遂行を大きく損なうことになる。そうすれば、いずれ和平協議が始まった時、ウクライナは強い立場で交渉に臨めるようになる。

とはいえ、ウクライナに残された時間は限られている。数週間もすれば雨季になり、道はぬかるみ、これ以上の前進が難しくなる。

さらにその先には、アメリカ大統領選がどうなるかわからないという、不安要素が控えている。もし共和党が勝てば、アメリカからのウクライナ支援は激減するかもしれないのだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、そこまでなんとか持ちこたえなくてはならないと理解している。そしてウクライナ側は、それだけに今回の反転攻勢をなんとしても成功させなくてはならないと、重々わかっているのだ。

■ロシア軍の死者、侵略開始以降「27万人超」…直近1日でも340人死亡

ウクライナ軍参謀本部は29日、ロシアの侵略開始以降、露軍の死者が27万7660人に上ったと発表した。ウクライナ軍は東・南部やロシアに併合されたクリミアで反転攻勢を強めており、直近の1日でも露軍の340人が死亡したとしている。

発表によると、露軍は4687台の戦車を失い、536基の防空システムが損害を受けた。装備品の損失も拡大している模様だ。

両国の攻撃の応酬は激しさを増している。ウクライナメディアによると、同国保安庁関係者は、露西部クルスクで29日、ウクライナ側が無人機攻撃を行い、レーダー基地を破壊したと明らかにした。

これに対し、露軍は29日、ウクライナ南部ヘルソン州やミコライウ州など各地を攻撃した。ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、28日~29日朝の砲撃などで6人が死亡、13人が負傷した。

■ウクライナ世界的規模で兵器製造

ウクライナの兵器製造資金、来年は2235億円に 今年の7倍

ウクライナのシュミハリ首相は9月30日、兵器や軍需品の製造に来年は15億米ドル(約2235億円)の資金を充てる計画を明らかにした。今年と比べ7倍の水準となる。

来年の国家予算案の中に含まれるとした。ウクライナ軍は前線の遠方にあるロシア領の標的に打撃を加えるため国産のミサイルやドローン(無人機)を投入する作戦を進めている。

首相は同月29日、首都キーウで開かれた国際防衛産業フォーラムで、自国の兵器産業の「新たな誕生」もたたえた。

ウクライナのゼレンスキー大統領も同フォーラムで30日に演説し、「世界はウクライナのミサイル、技術やドローンの能力を目撃している」と主張。「世界で最初の水上ドローン(無人艇)の艦隊を創設し、ロシア軍の艦船を無力化し、姿を隠すことを強いている」と誇示した。

また、ロシアへの抗戦で多用される155ミリの砲門システムと弾薬の製造を始めることも明かした。

同大統領によると、フォーラムには欧州、北米、アジアやオセアニア地域の30カ国が参加。250社を超える兵器製造企業も代表を派遣したと述べた。

■イギリス軍参戦か

シャップス国防相は、イギリスの「テレグラフ」紙のインタビューでイギリス陸軍をウクライナに派遣し現在、イギリス国内などで行っているウクライナ兵の訓練を現地で実施する可能性を示唆しました。また、黒海でロシア軍の攻撃からウクライナの商船などを守るためにイギリス海軍がどのような役割を果たせるかゼレンスキー大統領と協議したことを明らかにしました。

NATO(=北大西洋条約機構)の加盟国はこれまで、ロシアとの戦闘に巻き込まれることを避けるため、ウクライナへの派兵を避けていましたが、イギリス軍が派遣されれば、一歩踏み込んだ軍事支援となります。
2023.10.01 18:31 | 固定リンク | 戦争
来春ウクライナ勝利で戦争終了
2023.09.24
来春ウクライナ勝利確定、ロシアの敗北必至 国防省情報総局長 今年重要な勝利が...

ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ総局長(少将)は20日までに、ウクライナは今年末までに「重要な勝利」を収め、戦争は来年の夏までに「終わるであろう」との予測を示した。

情報総局が公表した発言内容で、ロシアの敗北は不可避であって止められないとし、ロシアの破壊につながるだろうとも主張。ウクライナが握るとする重要な勝利については「まもなくわかるだろう」とした。

この勝利に、ロシアが占領するウクライナ南部のヘルソン市が含まれることを期待するとも述べた。ウクライナ軍はここ数週間、同市などで大きな戦果を得ている。

総局長は「来年春の終わりには戦争は終わるであろうし、夏までには全てが終わるであろう」とも占った。

ウクライナが1991年時点での国境線を取り戻す意向も表明。2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ・クリミア半島と親ロシア派勢力が占領した東部のドネツク、ルハンスク両州の奪回を意味するとした。

また、ロシアはウクライナで核兵器の投入はしないだろうとの見方も表明。理論的には使うことができるだろうが、そうなればロシア連邦の崩壊への道のりを速めるだけとなると指摘。「彼らはこのことを十分に理解しているし、我々が望むほど愚かではない」とも説いた。

「ロシア大統領府の指導者たちはウクライナ戦争の主要な目標について一致しており、それは敗北を喫しないことだ」と強調。「ハト派」もいれば「タカ派」もいるが、共に情勢が非常に悪化していることは認識しているとし、現状から抜け出すための方途についての意見が若干異なっているだけだと説明した。

その上で、「一部の者は戦争をやめ、ある種の平和的な解決方法を模索すべきと明確に理解している」とし、「(侵攻を)続けなかったり、敗れたりしたら、ロシアは存在しなくなると判断している者もいる」と続けた。

ロシア大統領府内の現在の判断について「もはや勝利の問題ではなく、敗北しないことが問題になっている」と分析。ウクライナが勝利すれば、「非常に深刻な政治的なプロセスが、現在のロシア連邦の組織の変化と組み合わせた形で始まるだろう」とも締めくくった。

■ロシア黒海艦隊司令官ら重傷

ロシア海軍会合に合わせクリミアを攻撃

ウクライナ軍は23日、クリミアのロシア黒海艦隊司令部に対する前日のミサイル攻撃について、ロシア海軍当局者の会合に合わせて実施したと説明した。クリミアでは23日も攻撃が続いた。

ウクライナ軍は短い声明を発表。22日の攻撃でロシア側は「黒海艦隊の幹部を含む数十人が死傷した」と主張した。詳細は明らかにしなかった。

ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は、ロシア軍司令官2人が重傷を負ったと述べた。

ウクライナ軍関係者は、攻撃にはイギリスとフランスから供与されたミサイル「ストームシャドウ」を使ったとBBCに話した。

ロシア政府は22日、攻撃で兵士1人が行方不明になったと明らかにしている。

BBCは戦闘に関する双方の主張の多くを、独自に検証できていない。

港湾都市セヴァストポリに拠点を置くロシアの黒海艦隊は、同国海軍で最強の艦隊とみられている。

クリミアに連日の攻撃

セヴァストポリ周辺は23日も再び攻撃を受けた。ロシア側が任命したミハイル・ラズフォザエフ知事は、防空システムで撃ち落としたミサイルの破片が桟橋の近くに落下したと説明。防空シェルターに行きにくい、行っても状態が悪いなどの批判が出ているため、点検を命じているとした。

そして、「みなさんに心から願う。パニックの種をまいて敵を喜ばせるのをやめてほしい。パニックこそが向こうの主な狙いだ」と、ソーシャルメディア「テレグラム」に書いた。

こうした中、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は同日、米ニューヨークで開催中の国連総会で演説し、西側は自分たち以外の世界と交渉できない「うその帝国」だと非難。その後、記者団に対し、西側勢力は「ウクライナ人の手と体を使って事実上、私たちと戦っている」と述べた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年2月にウクライナへの全面侵攻を始め、国際的に非難されている。ロシアは、ウクライナのクリミア半島を2014年に不法に併合した。

クリミアの重要性

ウクライナ軍はこのところ、クリミア駐留のロシア軍に連日のように攻撃を繰り返している。

今月14日には、ロシアがクリミア半島の防衛に設置した防空システムS-400を、ウクライナ海軍が破壊したとされる。そのため、ロシアの防衛力は低下しているという。

その前日には、セヴァストポリでロシアの大型揚陸艦と潜水艦を損傷させた。ウクライナ側は、この攻撃にも「ストームシャドウ」ミサイルを使ったとしている。

クリミアへの攻撃は、戦略的にも象徴的にも重要だ。

黒海艦隊はロシアにとって、ウクライナを攻撃する際の基盤であると同時に、この地域における数世紀にわたる軍事的存在感を誇示する主要シンボルにもなっている。

ソヴィエト連邦崩壊後の1997年にウクライナは、黒海艦隊の大半の引き渡しとセヴァストポリ軍港の基地貸与で、ロシア側と合意した。そのため黒海艦隊はロシアによる2014年の併合前から、セヴァストポリを本拠地とし続けてきた。

■クリミアのケルチ橋に複数のミサイル攻撃

ロシア国防省は12日、ロシアがウクライナから併合したクリミアと、ロシア本土を結ぶ主要交通路のケルチ大橋が、ウクライナのミサイル2発に攻撃されたと発表した。

ロシア国防省は、ウクライナが同日午後1時ごろ、S-200ミサイル2機をケルチ橋へ向けて発射したものの、どちらも迎撃したため、橋に損傷はなかったとしている。S-200は冷戦時代にソヴィエト連邦で開発された誘導型長距離高高度防空ミサイルシステムで、ウクライナが地上戦用に改良したものとみられる。

ソーシャルメディアに投稿された動画では、ケルチ橋の近くで煙が上っている様子が見える。

ウクライナはこの件についてコメントしていない。

ロシア外務省は、「このような野蛮な行為には必ず対応する」と述べた。

ロシアがクリミア知事に任命したセルゲイ・アクショノフ氏は、ケルチ海峡で3発目のミサイルが撃墜されたと述べた。

アクショノフ知事の顧問は、橋の通行は一時停止されたと明らかにした。立ち上った煙は、軍による意図的な「煙幕」だと話した。

これに先立ちロシアは同日、クリミア近くでウクライナのドローン(無人機)20機を撃墜したとしていた。

ウクライナは今回のケルチ橋攻撃や使用兵器について認めていないが、ウクライナが奪還を目指すクリミアをはじめウクライナ南部と、ロシア本土を結ぶ重要な輸送路なだけに、昨年から繰り返しケルチ橋を攻撃している。

ウクライナのニュースサイト「ユーロマイダン・プレス」は7月、改良型S-200ミサイルがケルチ橋のほか、ロシアのロストフ州とブリヤンスク州の軍事拠点を攻撃するために使用されたと伝えた。

7月12日には橋で起きた爆発で2人が死亡し、1人が負傷した。

ウクライナは当時、攻撃したことを認めなかったが、BBCロシア語が取材したウクライナ治安当局の関係者は、攻撃は自分たちによるもので、水上ドローン(無人機)を使ったと話した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月21日、ケルチ大橋は正当な軍事標的だと主張した。ゼレンスキー氏は米コロラド州アスペンで開かれた安全保障関連会議でオンライン演説し、「この戦争の弾薬を届けるのに毎日使われる」大橋を「無効」にする必要があると述べ、ウクライナ政府は大橋を「敵の施設」とみなしていると話していた。

昨年10月に起きた橋の爆発については、当事者はまだ判明していない。当時の監視カメラ映像には、上向きに傾斜する橋の路面を複数の車両が通行する間に、その後ろの片側で巨大な火の玉が発生する様子が映っていた。この爆発の影響でケルチ橋は部分的に閉鎖され、今年2月に全面通行が再開した。

ウクライナ軍は、ロシアが2014年に併合したクリミアをはじめ、2022年2月からの侵攻で制圧した東部や南部の地域を奪還しようと、春から反転攻勢を続けている。夏に入り、ケルチ橋周辺での軍事行動が歴然として頻度を増した。

ゼレンスキー大統領は6月下旬の時点で、反攻の進展が「望んだより遅い」とBBCに対して認めていた。ロシア軍が20万平方キロメートルのウクライナ領土に地雷を仕掛けて守りを固めているため、進軍は容易ではないと、ゼレンスキー氏は話していた。

ロシア政府は、首都モスクワのクレムリン(大統領府)や政府省庁の入る高層ビル群への相次ぐドローン攻撃も、ウクライナによるものと非難している。

モスクワへのドローン攻撃についてウクライナは自分たちによるものと認めていないものの、最初の高層ビル攻撃をロシアが発表すると、ゼレンスキー大統領は「戦争は徐々にロシア領に戻りつつある。ロシアにとって象徴的な中心地や軍の基地へ。これは不可避で自然で、まったく公平なプロセスだ」と発言している。

他方、ロシアはウクライナの民間施設への攻撃を続けている。ウクライナによると、今月5日には北東部ハルキウ州の輸血センターを破壊。南部ザポリッジャでも民間インフラの攻撃が続いているという。
2023.09.24 14:55 | 固定リンク | 戦争

- -