ロシア、24時間で戦車55両・兵士1380人損失
2023.10.26
10月24日にロシアとウクライナの戦争に関する情報を扱っているテレグラムチャンネル「Karymat」に投稿され、ソーシャルメディア上で共有された動画には、ウクライナ空軍の旧ソ連製スホーイSu27らしき戦闘機が標的に向けてミサイルを発射して飛び去る様子が映っている。この戦闘機の標的が何だったかは不明だが、Karymatチャンネルは、「敵の空中目標」に向けて「空対空ミサイル」を発射したと説明している。

ロシアがウクライナに本格侵攻してから18カ月以上が経つが、両国は今も激しい空中戦を繰り広げている。ロシア軍にとって、侵攻後すぐにウクライナの制空権を掌握できなかったことは、最大の失敗のひとつだ。ロシア軍の巡航ミサイルやドローンは今も、ウクライナ上空を飛行して各地の標的を攻撃しているが、ロシア空軍の航空機が危険を冒してウクライナ内陸部深くに飛行していくことは滅多にない。米国製の地対空ミサイル「パトリオット」など、西側諸国が供与した防空システムがウクライナに到着していることで、ロシア側にとって危険は増す一方だ。

■ATACMSでロシアの損失拡大

戦争中の兵器類の損失を集計するオランダのオープンソース調査会社「Oryx」によれば、2022年2月24日の本格侵攻以降、ロシア軍の航空機85機が破壊され、さらに8機が損傷を受けた。この中にはスホーイSu25近接支援用攻撃機30機、スホーイSu30SM多用途戦闘機11機とスホーイSu34戦闘爆撃機21機が含まれている。

このほかにもヘリコプター102機が破壊され、28機が損傷し、2機が鹵獲された。この多くが、ウクライナ東部のルハンシクと南部のベルジャンシクにあるロシア軍の拠点に対して、ウクライナ軍が初めて米国製の陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)を使用した際のものだ。

ウクライナ側の報告によれば、ロシア軍の損失はさらに大きく、ウクライナ軍はロシア軍の軍用機320機とヘリコプター324機を破壊したとしている。

18カ月以上にわたる戦闘はウクライナ空軍にも被害をもたらしており、ウクライナ軍が敗北する運命にあるとみられていた侵攻開始当初に、多くの経験豊富なパイロットが犠牲になった。ウクライナ空軍は航空機やパイロットの数でロシア空軍に劣っており、それらを失うことは戦略的により大きな痛手となる。

■ロシア軍の攻勢弱体化

ロシア軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州

ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデーフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。

ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデーフカへの攻勢を強化。露軍は5月に同州バフムトを制圧した後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデーフカの突破を狙っているとみられる。ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデーフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。

一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着(こうちゃく)状態が続いている。

■ロシア軍、アウジーイウカ周辺で1個旅団分の兵力失う

ウクライナ軍が南部と東部で待望の反転攻勢を開始してから4カ月後、ロシア軍は形勢の挽回を図った。

ロシア軍の第2諸兵科連合軍とそこに配属されている親ロシア派地支配地域「ドネツク人民共和国」の部隊は10日、東部ドネツク州ドネツク市の北西に位置するウクライナ軍の要衝アウジーイウカ周辺を攻撃した。1個2000~3000人規模の旅団少なくとも3個が参加した。

ロシア軍の部隊は、ウクライナ側がアウジーイウカの北と南に周到に設けたキルゾーン(撃破地帯)に直接進入した。以後2週間にわたり、ロシア側は次から次に攻撃を仕掛けた。だがその都度、ロシア軍の縦隊はウクライナ側の地雷やドローン(無人機)、砲撃によってつぶされた。

ロシア軍の損害はこれまでに、装甲車100両以上、戦死・戦傷者計数百人にのぼっている。死傷者は数千人規模に膨らんでいる可能性もある。ロシア軍がある区域で1日に出している車両や人員の損害としては、2022年5月に東部ルハンスク州でドネツ川の渡河に失敗した時や、その半年後、ドネツク州ブフレダールでウクライナ軍の守備隊を急襲しようとした時に並ぶ激しさになっている。

ウクライナの調査グループ「フロンテリジェンス・インサイト」は「1週間半の間にロシア軍は1個旅団規模の兵力を失った」と報告している。第2諸兵科連合軍が当初この攻撃に投入した人員・装備の3分の1が失われたということだ。

対照的に、ウクライナ側の守備隊は車両を数両しか失っていない。ただ、歩兵部隊は比較的大きな損耗を被っている可能性がある。ウクライナの映画監督で現在は兵士として前線で戦うオレフ・センツォフは、ある接近戦についてこう述べている。「オーク(編集注:ロシア軍のことを指す)どもからは歩兵・装甲部隊が次から次に波のように押し寄せてきた」

「自分たちは幸運だった。あの日は何度も幸運に恵まれた。(歩兵戦闘車のM2)ブラッドレー2両の掩護を受けて包囲から脱出できた時も。けれど、この作戦に参加した者が皆これほど幸運だったわけではない」

アウジーイウカ攻略戦はロシア軍の大失敗になっているわけだが、リソース不足が原因ではない。たしかに第2諸兵科連合軍はDIYの歩兵戦闘車や、試作品だった装甲兵員輸送車、博物館に展示してあってもおかしくないレベルの古い装甲兵員輸送車なども少なからず投入してはいる。

■ロシア軍精鋭旅団引き剥がす

その精鋭部隊だが、作戦で用いている装備の大半は近代的なものだ。たとえばT-80戦車、BMP-2歩兵戦闘車、BTR-82装甲兵員輸送車などである。地上部隊はかなりの規模の近接航空支援も得ている。独立した調査グループ「コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)」によると、アウジーイウカのウクライナ軍陣地とされる場所に対して、ロシア軍の戦闘機がUMPK(汎用滑空修正モジュール)誘導爆弾を使って空爆を加えている。

重量が1350kg以上もあるこの強力な滑空誘導爆弾は、ウクライナ軍が駆使している小型の滑空爆弾ほどエレガントで精確ではないかもしれない。それでも、ウクライナの軍人オレクサンドル・ソロニコによれば、重たい弾薬が詰め込まれたこの爆弾はウクライナ軍部隊の間で「最大の恐怖のひとつ」になっているという。

とはいえ、ウクライナ側は壕を掘って身を隠し、爆薬を積んだ一人称視点(FPV)ドローンの装備も十分整えている。アウジーイウカへの主要な接近ルートに地雷を埋めている点も重要だ。さらに、火力支援を行う砲兵部隊は米国製やトルコ製のクラスター弾の供給も受けている。

ロシア側の攻撃はほぼ毎回、同じパターンをたどっている。ウクライナ側のドローンが上空から監視するなか、縦隊が前進してきて地雷を踏み、混乱に陥る。そしてドローンが照準を合わせて攻撃し、クラスター弾が降り注ぐ。

アウジーイウカのウクライナ軍守備隊は持ちこたえている。「(ロシア側は)攻撃を続けているが、大きな戦果は得られていない」とCITは説明している。「(ウクライナ側)はこれまでどおり防御陣地を維持し、反攻は試みていない」

ウクライナ側が反攻に出ていないという点は非常に重要だ。第2諸兵科連合軍はアウジーイウカへの攻撃を通じて、ウクライナ軍の反攻の中心となっている南部の前線からウクライナ軍の旅団を引き剥がそうとしている可能性があるからだ。

これまでのところウクライナ側はその手に乗っていない。ウクライナ軍は南部に配置している第47独立機械化旅団の一部をアウジーイウカへの増援に回したとみられるが、現在の反攻を停止してまでアウジーイウカでの戦いにより多くのリソースを割こうとはしていない。ここでの戦いはドローンや地雷、大砲で制する構えだ。

「ウクライナの防衛者たちがみせた抵抗と技量は、ロシア側が作戦で想定していたものよりもはるかに手ごわかった」とフロンテリジェンス・インサイトは解説している。

もっとも、戦いは終わっていない。第2諸兵科連合軍も増援を得ており、攻撃の手を緩めていない。CITはウクライナ側にとって「状況は依然として非常に厳しい」とも指摘している。

■ロシア、24時間で戦車55両・兵士1380人損失

ウクライナ侵攻を続けるロシア軍はつい最近、4日間で戦車8両を含め、少なくとも68両の装甲車を失った。1年8カ月に及ぶウクライナ侵攻でロシア軍は苦戦しているが、そうした中でも今回の損失は特に大きい。同期間にウクライナ軍が被った損失は、ロシア軍の10分の1とみられている。

68両という損失車両の数は、オープンソースの情報を分析しているアンドルー・パーペチュアがソーシャルメディアに投稿された写真や動画で確認したもののみが含まれている。ロシア軍の実際の損失は、これよりもかなり大きいことはほぼ間違いないだろう。

この戦闘についてウクライナ軍参謀本部は、19日から20日にかけた24時間で戦車55両を含む175両もの装甲車を破壊したと発表した。昨年2月以来、ロシア軍が1日に失う戦車は平均してわずか3両だった。同軍はまた、アウジーイウカ上空で少なくとも戦闘機5機を失ったと報じられている。

兵士の死傷者数は車両の損失に比例している。ウクライナ軍参謀本部は、20日までの24時間でロシア兵1380人が死亡したと発表。ロシアの侵攻以来、双方における1日の犠牲者数としては最多規模だ。

ロシア側の犠牲者増加の要因は明らかだ。ここ数週間、各兵力最大2000人の7、8個の連隊と旅団が、ウクライナで最も防御が固められている都市のひとつであるアウジーイウカを包囲し、防御を切り崩そうと試み続けるも、失敗している。ウクライナ東部ドンバス地方にあるアウジーイウカは、ロシアの占領下にあるドネツクの北西に位置している。

ロシア軍は連日、戦車や戦闘車両の長い隊列を組んで挑んでいる。来る日も来る日も地雷原を突っ切り、ミサイルで狙われるキルゾーンに入り込み、大砲の砲撃を受け、そして爆発物を積んだドローンの餌食になっている。

それでもなお、ロシア軍は部隊を送り続けている。

これは、ウクライナ側のアウジーイウカ守備隊を側面から攻撃して切り崩し、最終的には撃破することを目指したものだが、失敗続きのこの作戦にロシア軍がなぜこれほどの兵力と車両を投入するのかは、はっきりしない。ウクライナ軍はアウジーイウカに少なくとも2個の旅団と連隊、付属の大隊を展開している。

ロシア軍の指揮官らは、ウクライナ軍が6月に始めた南部での反転攻勢の強化を阻止するために、ウクライナ軍の旅団を多大な犠牲を伴う戦いに引き込もうとしている可能性がある。ウクライナ軍はこの反攻作戦で、ロシアが占領しているメリトポリの北側に伸びる軸と、さらに東側のモクリヤリ川沿いに伸びる軸で、少なくとも約16km前進した。

ウクライナ軍はまた、ドニプロ川の左岸や東部バフムートの南でも前進している。

アウジーイウカの攻撃が本当にウクライナ軍の戦力を引き付けることを意図したものだとすれば、それはおそらく失敗している。「ウクライナ当局はすでに、アウジーイウカへの攻撃は戦力を引くための作戦だと認識しており、この軸にウクライナ軍が兵士を過度に投入することはないだろう」と米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は指摘した。

もしかするとこの攻撃は、引き付けの作戦ではないかもしれない。ロシアは単に、冬の到来を前にして、大規模な攻撃の機会が減少する中で勝利を収めようと必死になっているだけなのかもしれない。アウジーイウカの戦いで重要なのは、アウジーイウカ自体ではない可能性がある。

それはある意味、筋が通っているものの、実際には無意味な行為だ。ISWは「仮にアウジーイウカを掌握したとしても、ドネツク州の他の地域へ進軍する新たなルートが開かれることはない」と説明している。

だが、ロシアがアウジーイウカを象徴的な価値のために狙ったのだとすれば、それはひどい誤算だった。多くの血が流れた作戦が始まって2週間が経過した今、アウジーイウカが象徴しているのは、ロシア兵の死と大破した戦車だけだ。

攻勢の初日にロシア軍は撤退することもできただろう。ISWの推定では、ロシア軍は少なくとも45両の戦車や装甲車両を失った。だが、ロシア軍は攻勢を続けた。中隊や大隊が全滅しても、指揮官たちは気にしなかったようだ。

その意味で、ロシア軍のアウジーイウカでの作戦は、今年初めの東部ドネツク州ブフレダールでの作戦と不気味なほど類似している。ドネツクの南西約40kmに位置するブフレダールでは、ロシア軍の海兵隊が数週間、ひっきりなしにウクライナ軍の守備隊に猛攻撃をかけた。

ウクライナ側は、突撃隊を砲撃。ある交差点には、ロシア軍がウクライナ軍の攻撃に対応できなかった痕跡が残されていた。ウクライナ軍が数週間にわたってロシア軍に対する待ち伏せ攻撃を繰り返したこの交差点には、破壊された十数両の戦車や戦闘車両の残骸が散らばっていた。

激戦を経たブフレダールはいま、ウクライナ側にある。ロシア軍が制圧しようとできる限りの攻勢をかけているにもかかわらず、アウジーイウカも同様だ。

この戦いがどうなるかは分からない。ロシア軍は昨冬、ブフレダールの占領に失敗し、2つの海兵隊旅団の大部分を無駄に失った。だが春には、ドネツクの北約48kmに位置するバフムート周辺での戦いで、それより多くの犠牲を払いつつも、勝利を収めた。ウクライナ軍の旅団は時間を稼ぎ、ロシア軍に死傷者を出しながらバフムートから撤退したため、ロシア側にとってこの勝利は割に合わないものとなった。

キルゾーンが待ち受けるアウジーイウカに連隊を投入し続ければ、ロシア軍は最終的には同市を制圧できるかもしれない。だが、大きな損失を被った状態では、約970kmに及ぶ前線での作戦に支障をきたしかねない。

「この速い死傷ペースが続く限り、ロシア軍は効果的な攻勢をかけるのに必要とされる水準を満たせるよう、新兵を十分に訓練することができなくなる」と英王立防衛安全保障研究所は指摘している。
2023.10.26 21:17 | 固定リンク | 戦争

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