ウクライナ軍「第3防衛線」突破
2023.10.01
ザポリージャ戦線、ウクライナが「第3防衛線」突破…車両の通過も可能に ロシア軍の死者、侵略開始以降「27万人超」…直近1日でも340人死亡 イギリス軍参戦か

ウクライナ南部でロシア軍への反転攻勢を指揮するウクライナ軍将官のオレクサンドル・タルナフスキー氏は23日、米CNNのインタビューで「ザポリージャ戦線」で露軍が築いた「第3防衛線」を突破し、前進を続けていると述べた。

タルナフスキー氏によると、ウクライナ軍が要衝のトクマク奪還に向けた足がかりとなるロボティネ近郊の村ベルボベでの戦闘で露軍の「第3防衛線」を破ったと明かし、「大きな突破口になる」との見方を示した。

米政策研究機関「戦争研究所」などは21日、ウクライナ軍が露軍の第3防衛線の一部を突破した可能性を指摘していた。現場の指揮官は米紙ワシントン・ポストに対し、歩兵はすでに2~3週間前に第3防衛線を越えており、最近になって車両の通過も可能になったと語った。激しい露軍の抵抗で、ウクライナ軍の前進は「ゆっくりしたもの」という。

一方、露軍は23日、ドネツク州の村やスムイ州の住宅地を砲撃し、市民2人が死亡した。

■ウクライナ軍、ロシア軍の「竜の歯」を突破したのか

ウクライナ軍の将官たちは9月に入り、ロシア軍の「第1防衛線」を突破したと主張している。BBCヴェリファイ(検証チーム)は、実際にウクライナ軍の部隊がどこまで進んだのか、そして前線沿いで今後どういう展開があり得るのかを探った。

南東部ザポリッジャ周辺の地域が、戦略的に最も重要だ。

アゾフ海へ向けて部隊を進めた上で、もし戦線突破に成功すれば、ロシア領ロストフ・ナ・ドヌの街とクリミア半島を結ぶロシアの補給線を断つことができる。

ただし、ザポリッジャ州の集落、ロボティネとヴェルボヴェの周辺を除けば、この地域での戦いであまり成果は出ていない。

もしロシア領とクリミアを結ぶ補給線の分断にウクライナが成功すれば、ロシアは2014年に併合したクリミアでの大規模な駐留を維持することが、ほとんどできなくなる。

ウクライナにとってかなりの難関は残るが、南部戦線では、ウクライナの部隊がロシアの防衛用障害物「竜の歯」などを突破した様子が、複数の個所で確認されている。

私たちはヴェルボヴェ村に近い前線沿いで撮影され、ソーシャルメディアに投稿された動画のうち9本が、本物だと確認した。

■検証済み動画が示す南部戦線の様子

このうち動画4本は、ヴェルボヴェの北でウクライナ軍がロシアの防衛線を突破する様子を映している。

ただしこれはウクライナが前線を突破したと示すもので、その一帯を掌握したと示すわけではない。

今のところ、ロシアの防衛線を越えているのはウクライナの歩兵隊のみ。その突破口からウクライナの装甲車列が次々とロシアの陣地に入り、そのまま国土を奪還し掌握したという様子は、まだ目にしていない。

ウクライナの速い前進を妨げているのは?

ロシア側はもうずっと前から、ウクライナのこの反転攻勢を予測していた。そして、世界最強の防衛線を何カ月もかけて構築した。

衛星画像で見ると、複数の防衛用障害物や塹壕(ざんごう)、地下要塞(ようさい)や地雷原が多重に組み合わさって連なり、それぞれが砲撃拠点に守られている。

守備力強化された防衛線

広大な地雷原がウクライナの前進を押しとどめている。ロシアはウクライナの野原に大量の地雷を敷設した。場所によっては、1平方メートルにつき地雷が5発も埋まっている場所もある。

ヴェルボヴェ近くの野原の様子を、8月21日と9月7日の衛星画像で比較すると、緑だった場所が9月7日には穴だらけになっているのがわかる。

ウクライナ軍は6月にこの地雷原を一気に突破しようとしたが、それはあっという間に失敗に終わった。西側諸国が供与した最新兵器は大破し、炎上した。ウクライナの歩兵部隊も、悲惨な数の死傷者を出して後退する羽目になった。

ウクライナが軍はその後、ロシアの地雷を個々に撤去する作戦に変更した。作業のほとんどは夜間で、しばしば砲火の下で行われる。ウクライナ軍の前進が遅いのは、そのためだ。

ウクライナの戦車や装甲車が、ロシアの地雷やドローン、対戦車ミサイルによって破壊されることもある。私たちが検証した動画では、イギリスが提供したチャレンジャー2戦車がロボティネ近くで破壊されていた。

そのため、ウクライナの戦車や装甲車がまとまって前進するには、地雷原を無事に通過できる、一定の幅がある通路が確保される必要がある。さらには、その場においてロシアの砲撃を抑制することも必要だ。

■ウクライナ反攻の今後は

「ウクライナにとって今の課題は、部隊をもっとロシアの陣地に送り込めるだけの大きな突破口を確保すること」だと、英キングス・コレッジ・ロンドン戦争研究学部のマリナ・ミロン博士は言う。

他方、ロシアは兵や装備の補給を送り込んでおり、この戦線は流動的に動いている。ウクライナが奪還した領土を、ロシアが再度奪い返す可能性もある。

ロシア軍の精鋭、空挺(くうてい)軍が、ヴェルボヴェ村の近くに配備されたという情報を裏付ける、ロシアのドローン撮影映像を、私たちは確認した。この展開は、ウクライナの反転攻勢によって前線に空いた隙間(すきま)を埋めるためのものだ。

イギリスのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のロシア専門家、カテリナ・ステパネンコ氏によると、「ウクライナ軍は依然として戦場で、ロシア軍の抵抗に遭っている」。

「砲撃やドローン攻撃、防衛用の障害物に加え、ロシア軍は幅広い電子戦を展開し、ウクライナ軍の通信やドローン使用を妨害しようとしている」

ウクライナ軍は、沿岸までの距離の約10%しか前進できずにいる。しかし、実情ははるかに複雑だ。

ウクライナの反転攻勢が始まってから3カ月。激しい攻撃にさらされ、補給線への長距離砲撃も受け続けてきたロシア軍の兵士たちは、疲れ果て、士気が下がっている可能性もある。

ウクライナ軍が残るロシア軍の防衛線を突破し、トクマクの町まで到達できれば、ロシア本土とクリミアを結ぶ鉄道と道路、つまりロシアの補給線が、ウクライナ側の砲撃の射程圏に入る。

もしそれが実現すれば、今回の反転攻勢は一定の成果を収めた成功と評価できるものになる。

それで戦争が終わることはないかもしれない。この戦争は2024年に入っても、あるいはさらにその先までも続く可能性がある。しかし、今回の反転攻勢が成功すれば、ロシア側の戦争遂行を大きく損なうことになる。そうすれば、いずれ和平協議が始まった時、ウクライナは強い立場で交渉に臨めるようになる。

とはいえ、ウクライナに残された時間は限られている。数週間もすれば雨季になり、道はぬかるみ、これ以上の前進が難しくなる。

さらにその先には、アメリカ大統領選がどうなるかわからないという、不安要素が控えている。もし共和党が勝てば、アメリカからのウクライナ支援は激減するかもしれないのだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、そこまでなんとか持ちこたえなくてはならないと理解している。そしてウクライナ側は、それだけに今回の反転攻勢をなんとしても成功させなくてはならないと、重々わかっているのだ。

■ロシア軍の死者、侵略開始以降「27万人超」…直近1日でも340人死亡

ウクライナ軍参謀本部は29日、ロシアの侵略開始以降、露軍の死者が27万7660人に上ったと発表した。ウクライナ軍は東・南部やロシアに併合されたクリミアで反転攻勢を強めており、直近の1日でも露軍の340人が死亡したとしている。

発表によると、露軍は4687台の戦車を失い、536基の防空システムが損害を受けた。装備品の損失も拡大している模様だ。

両国の攻撃の応酬は激しさを増している。ウクライナメディアによると、同国保安庁関係者は、露西部クルスクで29日、ウクライナ側が無人機攻撃を行い、レーダー基地を破壊したと明らかにした。

これに対し、露軍は29日、ウクライナ南部ヘルソン州やミコライウ州など各地を攻撃した。ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、28日~29日朝の砲撃などで6人が死亡、13人が負傷した。

■ウクライナ世界的規模で兵器製造

ウクライナの兵器製造資金、来年は2235億円に 今年の7倍

ウクライナのシュミハリ首相は9月30日、兵器や軍需品の製造に来年は15億米ドル(約2235億円)の資金を充てる計画を明らかにした。今年と比べ7倍の水準となる。

来年の国家予算案の中に含まれるとした。ウクライナ軍は前線の遠方にあるロシア領の標的に打撃を加えるため国産のミサイルやドローン(無人機)を投入する作戦を進めている。

首相は同月29日、首都キーウで開かれた国際防衛産業フォーラムで、自国の兵器産業の「新たな誕生」もたたえた。

ウクライナのゼレンスキー大統領も同フォーラムで30日に演説し、「世界はウクライナのミサイル、技術やドローンの能力を目撃している」と主張。「世界で最初の水上ドローン(無人艇)の艦隊を創設し、ロシア軍の艦船を無力化し、姿を隠すことを強いている」と誇示した。

また、ロシアへの抗戦で多用される155ミリの砲門システムと弾薬の製造を始めることも明かした。

同大統領によると、フォーラムには欧州、北米、アジアやオセアニア地域の30カ国が参加。250社を超える兵器製造企業も代表を派遣したと述べた。

■イギリス軍参戦か

シャップス国防相は、イギリスの「テレグラフ」紙のインタビューでイギリス陸軍をウクライナに派遣し現在、イギリス国内などで行っているウクライナ兵の訓練を現地で実施する可能性を示唆しました。また、黒海でロシア軍の攻撃からウクライナの商船などを守るためにイギリス海軍がどのような役割を果たせるかゼレンスキー大統領と協議したことを明らかにしました。

NATO(=北大西洋条約機構)の加盟国はこれまで、ロシアとの戦闘に巻き込まれることを避けるため、ウクライナへの派兵を避けていましたが、イギリス軍が派遣されれば、一歩踏み込んだ軍事支援となります。
2023.10.01 18:31 | 固定リンク | 戦争
中国人客「来られても困る」
2023.10.01
中国政府は新型コロナウイルスの感染対策として、2020年1月に海外への団体旅行を禁止しましたが、今週になって、日本を含む78か国への団体旅行が再開されたと発表しました。

しかし、中国人観光客が日本に来るにはまだ多くの障害があります。例えば、帰国時の隔離期間やPCR検査の負担、日本政府の原発処理水の海洋放出計画への反発などで訪日客が減少してます。

一方で、中国人観光客の日本への関心は高く、コロナ対策や規制緩和が進めば、再び日本に旅行する人が増える可能性があるという見方もあります。

2019年には3188万人のインバウンド客が日本を訪れていたが、そのうち30%が中国本土からの観光客だった。日本の観光市場にとって「お得意様」だった中国人観光客の消失を、ホテル側はどう思っているのだろうか。

■意外にも、ホテル側の受け止めはいたって冷静だ。

「受け入れ態勢ができていないので、いま中国人団体観光客に来られても困る」と、名門ホテルの幹部は胸をなでおろす。他のホテルも異口同音に「中国人客のキャンセルなどによる影響はほとんどない」と語る。

実際、インバウンドを集客できる都内のホテルの経営状況はコロナから急回復している。藤田観光が運営する1000室以上の大型ホテル「新宿ワシントンホテル」の客室単価・稼働率は現在、コロナ禍前を上回っている。

中国本土からの需要は回復していないものの、家族やグループでの宿泊が多いほかの国からのインバウンド客が増えたことで、宿泊人数が増加し客室単価の上昇につながっているのだ。

■客室清掃や調理の人手不足は深刻

ホテル各社がコロナ禍で推し進めてきたある戦略も「処理水問題」の影響緩和に大きく関係している。

それは、稼働率重視から客室単価重視への転換だ。ホテルはこれまで稼働率を高く保つため、多少単価を安くても客室を販売してきた。しかし、コロナ禍を経てホテル各社は稼働率を落としてでも、客室単価を引き上げる戦略に切り替えている。

背景にあるのは空前の人手不足だ。とくに客室清掃や調理の人手不足は深刻で、コロナ禍前ほどの稼働を維持できなくなっている。

また単価重視の販売は経営の改善にもつながる。客室を多く稼働させる場合はリネンやアメニティの交換、清掃などのコストがかかるが、客室単価を上げればそうした費用は抑えられ収益性が向上する。

ホテル側はコロナ禍後の顧客層の変化にも対応してきた。欧米インバウンド客や国内レジャー客は個人旅行が中心だ。こうした個人客は、ホテルが提示した価格で予約をするため単価が高くなりやすい。

他方、中国人は団体客が多い。団体客は数十名など大規模の予約が事前には入るため稼働が高くなるが、旅行代理店へ客室を安く販売することが多い。

人手不足が顕著ないま、「わざわざ客室稼働を上げ、単価を下げてまで中国人の団体客を取らなくてもいい」というのがホテル側の本音なのだ。

ただ、中国人観光客の復活を切望している状況ではないとはいえ、中国人観光客の復活はホテル各社にとって大きな追い風となることは間違いない。

中国人インバウンド客は宿泊施設の稼働を引き上げる重要な存在だ。市場全体の稼働率が高まれば、安売りされる部屋数が少なくなり、客室単価はさらに上昇していくだろう。

■次の春節シーズンには中国人観光客が回復?

観光庁が毎月発表している「宿泊旅行統計調査」によれば、2023年7月の業界全体の稼働率は57.8%で、2019年7月の63.6%を下回っている。中国人インバウンド客が戻ってきていないことに加えて、将来的なインバウンドの成長を見据えて宿泊施設の新規開業が相次いでいるためだ。

中国インバウンド客の本格復活は、はたしていつになるのか。中国人インバウンドや中国の越境EC関連のプラットフォーム事業を行っているNOVARCA(ノヴァルカ)の濱野智成社長は、「処理水問題を受けて、中国本土からのインバウンド客の回復ペースは少し遅くなっている。春節シーズンである2024年2月の月間訪日客は50万〜80万人程度になるのではないか」と推測する。

2019年2月の訪日客は、月間72万人だった。濱野氏の見立てでは、半年ほどもすれば、中国人観光客は従来のように戻ってくるということだ。宿泊施設はインバウンドの本格復活に備える必要がある。
2023.10.01 17:32 | 固定リンク | 国内

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