北朝鮮「衛星技術力」どこまで?
2022.12.26

北朝鮮が偵察衛星の画像公開、その技術力を徹底検証

 北朝鮮は12月18日、偵察衛星打ち上げの実験と称して、西海衛星発射場から東に向けて2発、11時11分頃と11時52分頃にミサイル(以後ロケットと表記)を発射した。

 併せてロケットの発射状況と撮影場所とみられる写真を公表した。

 日本の防衛省は、「北朝鮮がミサイル2発を発射し、1発目は最高高度約550キロで飛翔距離約500キロ、2発目も1発目と同じ最高高度・飛翔距離であった」と発表した。

 北朝鮮ミサイルの発射~飛翔~着弾

 (図が正しく表示されない場合にはオリジナルサイト=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73273でお読みください)

 北朝鮮は、2021年1月の党大会で、軍事偵察衛星の運用実現を目標に掲げ、今年の2・3月に、偵察衛星のための試験を実施したことを発表していた。

 今回の2発のロケット発射で、偵察衛星実験に関する試験を実施したようだ。

 北朝鮮が偵察衛星のどのような実験を行ったのか、どのレベルに達しているのかについて考察する。

■ 1.北朝鮮が発表した「実験」を検証

 北朝鮮の宇宙開発局によれば、この重要なテストの基本的な目的は、衛星写真とデータ伝送システム、および地上管制システムの能力を評価することとあった。具体的内容は以下の通りだという。

 北朝鮮が偵察衛星開発のために今回実施した内容について、掲載された写真と併せてそれぞれに解説をつける。

 (1)宇宙空間に打ち上げた装置は、20メートルの分解能(解像度)がある試験用のパンクロマティックカメラ1台とマルチスペクトルカメラ2台、映像送受信機と各帯域の送受信機、操縦装置と蓄電池などである。

 (解説)地上管制の指示を受けて写真を撮影し、その画像を地上に送る装置をロケットで打ち上げている。3台のカメラが搭載されているにもかかわらず、実際に公開した写真は、カラーではなく白黒であった。

 (2)高度500キロまで到達した後、各種撮影装置に撮影指令を出した。

 (解説)高度500キロは、偵察衛星が周回する高度である。偵察衛星が周回することが予想される高度に達した時に、カメラのスイッチを作動させた。

 (3)姿勢制御の指令を出した。

 (解説)衛星の姿勢を変更して、撮影したい地域、具体的にソウルの青瓦台や仁川の施設に、カメラを向けることができた。

 (4)情報伝送装置の処理能力と安全性を評価した。

 (5)撮影技術と通信データ処理および伝送、地上管制及び操縦技術を確認した。

 (解説)衛星から送信した写真のデータを地上の管制所で受信することができた。

■ 2.北朝鮮が公表した写真で分かること

 (1)どの地域・地点を撮影した写真なのか

 北朝鮮が公表した写真は、左が仁川で、右がソウルだ。

 撮影された写真とグーグルアースの写真(2022年12月19日確認)を比較すると、完全に一致する。

 北朝鮮公表写真、左:仁川市、右:ソウル市

 グーグルアースの写真 北朝鮮撮影と同じ場所

 左の仁川市に写っているのは、仁川空港の近く(空港そのものは、実際には写っていない)、仁川空港に至る橋、仁川新港と大型燃料タンク、防潮堤などだ。

 右のソウル市に写っているのは、ソウル市の市街地ほぼ全域(漢江の北側と南側)、青瓦台(大統領府)、ソウルを南北に分ける漢江などだ。

 長射程砲や大型多連装砲による攻撃目標であることを意図している。

 北朝鮮が、「ソウルを火の海にする」と言っているので、具体的な攻撃目標を示していて、暗黙の恫喝である。

 米韓合同指揮所、米韓軍の空軍や海軍基地も当然撮影したものと考えられるが、今公表しても意味がないし、秘匿する必要もあることから、今回は公表していないのだろう。

 (2)北の衛星写真は、今回のロケットで撮影したものか

 北朝鮮が、実際に撮影したかどうかを評価するためには、ロケットに取り付けたカメラで撮った角度なのかを検証する必要がある。

 映している角度や方向を分析するには、大きな建物の「壁」が写りこんでいるかを見ればよい。

 北朝鮮が掲載した写真の大きな建物を見ると(写真の解像度が低いので、絶対に正確とは言えない)、私が見たところでは建物の右上の壁がかすかに見える。

 真上からの撮影であれば、屋上部分しか見えない。右下の角度からの撮影では右下の壁が見える。

 右上の角度からだと、右上の壁が見える。衛星写真であっても、航空写真で撮っても同じように写る。

 これらのことを、略図で示すと以下のようになる。

 (3)光学衛星写真の解像度はどれほどか

 ・解像度はどのようにして解明するか

 写真の解像度は、白黒の写真の場合、一つの四角が白・黒・灰色の点で表される。

 簡単に説明すると、一つの点(四角)の一辺の大きさが100メートルであれば解像度100メートル、20メートルであれば20メートル、1メートルであれば1メートル、30~50センチであれば30~50センチ、5~10センチであれば5~10センチである。

 ・それぞれの解像度で、何が見えるか

 100メートルの解像度であれば、主に山と海が見え、幅が100メートル以上の河川は写る。

 20メートルであれば20メートル以上の道路や建物が見えるが、航空機はほぼ点でしかない。

 北朝鮮の写真で仁川空港を公表しなかったのは、旅客機が判別できない解像度であることが、韓国や軍事分析家に分かってしまうからだ。

 解像度20~100メートルが今回の北の写真レベルだといえる。

 1メートルであれば建物の形が概ね分かるし、乗用車がボヤっと見える。航空機が大型機か小型機であるかもわかる。

 30~50センチは、今回掲載したグーグルアースの写真レベルである。

 グーグルアースの写真はカラー写真である。車の車体が概ね分かり、フロントガラスと車体の区別ができるが、車種を明確に解明することは難しい。

 軍事兵器では、戦闘機の機種が概ね解明でき、戦車と自走砲の区別ができる。潜水艦であれば、艦種が分かる。

 例えば、北朝鮮のロメオ級なのか新浦級なのかが明確に分かる。

 中国の偵察衛星Gaofen高解像度画像衛星や日本の光学7号機だと、30センチ以下だという情報がある。確実なところは秘密であり不明である。

 解像度約30センチのグーグルアースの写真では、兵器がどのように見えるのかを、グーグルアースの写真から見つけたので紹介する。

 元山空港の「MiG-21」(左)、馬養島海軍基地のロメオ級潜水艦、埠頭係留(中央)とドック内(右)

 5~10センチ以下であれば、空軍の戦闘機の機種、海軍の艦艇や潜水艦の種類、地上軍の戦車の型や火砲の種類が鮮明に判別できる。

 人がいれば、上から見ているので頭が黒の点で見えるし、人の陰も写る。兵が集まっていれば、その点を数えれば何人いるか分かる。

 米国の偵察衛星レベルだ。

 これらの写真が一般に出回らないのは、秘匿性が極めて高く、施設から持ち出されないからだ。

 ・北朝鮮の写真とグーグルアースの写真の解像度比較

 北朝鮮の左の仁川写真の大型燃料タンクと仁川新港の写真を比較してみる。

 上は、北朝鮮の写真のその部分を拡大したもの、下はグーグルアースの写真をその部分とタンクを拡大したものである。

 北朝鮮の写真とグーグルアースの写真比較

 映像で見て分かるとおり、北朝鮮の写真では、島全体と、白・黒・灰色で何かがあることは判別できる。

 グーグルアースの写真では、左からゴルフ場、燃料タンク、コンテナ施設、埋め立てられている池などが明瞭に見える。

 タンクを拡大してみたが、グーグルアースの定規で図ると直径が70メートルである。

 北のタンクの部分を見ると、黒い点に見える。タンクが黒のいくつかの点になっている。これで解像度30~70メートルだということが判明する。

 グーグルアースの解像度はどれくらいかというと、右のソウル市街地に車の写真が掲載されていたので、これを利用して解説する。

 車は、南側から撮られたものということが分かる。また、フロントガラスは黒く、車体は白い。ガラスの黒は、黒い点が2~4つくらいだ。

 これから計算すると、フロントガラスは、縦80センチ、横150センチほどなので、解像度は、約30センチくらいだと評価できる。

 もし、解像度が5~10センチであれば、この車は明瞭に判明できるだろう。

 グーグルアースで撮影された車の写真(2020年10月27日以降撮影)

 ・北朝鮮が公表した写真の解像度は

 北朝鮮の2つの写真には、山・川・海・海岸線・橋梁・大きな建物が写っている。

 一方、道路・家屋・道路は見えない。道路が見えないので、当然、車の形も見えない。

 グーグルアースに写っていたゴルフ場、直径70メートルの燃料タンクもコンテナも見えない。しかも白黒である。

 これらのことから解像度は、70メートル以内ではなく、100メートル以上の解像度ということになる。

 とはいえ、公表された写真は、朝鮮中央通信に掲載されたものだ。

 掲載されるまでに、北朝鮮の担当部署で何度かコピーされたものだろう。本物は、解像度がもっと良いと見てよい。

 北朝鮮の写真の解像度は発表のとおり20メートルか、あるいは100メートル以上ということになる。

 一応、偵察衛星の初期段階であるということだが、北朝鮮の偵察衛星では、航空機、戦車などの兵器はまだ見えないということである。

■ 3.解像度30~50センチの解像度完成時期

 (1)周回軌道と滞空期間(寿命)

 偵察衛星は、地球の上空500~600キロを周回している。

 1990年前後では、同じ地点に戻ってくるのは、1週間に1回程度であったが、現在では、1日に1回から数回だ。

 衛星の軌道を変更すること、カメラを左右に動かすことによって、同じ地点を撮影することができる。

 滞空期間(寿命)は、衛星の種類や地球への接近の回数によって異なる。

 偵察衛星は通常、500~600キロ上空にあるが、解像度を上げるために、高度を下げて撮影する。

 下げた場合には、また元の位置に戻すためにエンジンを噴射して上昇する。軌道の方向を変える場合も同じだ。

 衛星は、これを何度か繰り返す。また、宇宙空間であっても、わずかな空気抵抗を受けるので、徐々に高度が下がる。

 下がればエンジンを噴射して上昇する。噴射用の燃料がなくなると、地球に落下する。

 通常、落下中に燃え尽きてしまう。燃え尽きないで落下してくる衛星もある。

 1990年頃、旧ソ連の偵察衛星の滞空期間は、機種によって異なるが、数週間から、数か月だった。

 1990年代に中国は偵察衛星の実験を始めたが、当初の滞空期間は約1週間であった。

 現在、米国のKH偵察衛星の寿命は、4~5年で、中国のガオフェンやヤオガン衛星は8年とされている。

 しかし、高度変更を繰り返して、燃料を多く使えば、寿命は短くなる。

 (2)解像度を米商業衛星や軍事衛星のレベルに上げるのはいつ頃か

 北朝鮮の今回の写真の解像度を見れば、20~100メートル以上だ。これを、10メートル、5メートル、1メートル、50センチ、30センチ、10センチまでレベルを上げるには、どれくらいかかるだろうか。

 この分野については、各国とも極めて秘密レベルが高いので正確なところは不明である。

 グーグルアースで使われている写真の解像度のレベルや公開される商業衛星の写真、専門家の話などを参考にして考えると、北朝鮮が自らの技術力で解像度をレベルアップし、道路が見えるようになるには、早くて5~10年、車らしきものが見えるにはさらに10年はかかるだろうと考える。

 中国やロシアが偵察衛星の技術を提供すれば、開発速度は速くなる。ただ、偵察衛星の技術は、秘密度が高いので渡す可能性は少ない。

■ 4.北朝鮮の偵察衛星が脅威になる時期

 北朝鮮は、2023年4月までに軍事偵察衛星1号機の準備を終了すると発表した。この時に地球周回は可能なのか、それとも今回の実施方法と同じなのだろうか。

 地球周回ができても、その寿命は他国の開発を踏まえれば、せいぜい1週間かもしれない。

 これらのことから、北朝鮮は将来、偵察衛星の打ち上げに成功したことを、大々的に宣伝するだろうが、現実には、山や川、海だけは見えるが、道路も車も見えない写真になるだろう。

 グーグルアースの写真の方が極めて精度が高い。

 どちらにしても、北朝鮮は偵察衛星の打ち上げに成功したと発表するだろう。

 北朝鮮は、偵察衛星の開発に一歩前進できたことは間違いない。しかし、偵察衛星を打ち上げ、軌道を周回しているだけで、開発が成功したとは言えない。

 必要な解像度に到達できなければ意味がないのだ。今後の開発の道のりは長い。

 北朝鮮が、偵察衛星を打ち上げたといっても、韓国・米国・日本の基地にある戦闘機、戦車等を判明できるようになるには、早くても10~20年以上先だろう。

 10年というのは、ロシアや中国から全面的な協力が得られた場合だ。

 また、衛星写真の解析ができるようになるには、要員の教育が必要である。

 同盟国が支援してくれれば、要員の分析技術は高まるが、自国だけで実施すると、かなりの期間が必要になる。

 北朝鮮にとって、偵察衛星は役に立つのか。

 衛星操作技術のレベルが相当上がったとしても、1日に1回同じ場所を撮影できるようになるには、解像度のレベルアップと同様に10~20年はかかる。

 北朝鮮が来年に衛星を周回軌道に乗せられたとしても、あと10~20年は役に立たない衛星になるだろう。

 北朝鮮にとっては、偵察衛星を打ち上げて成功したことを、人民や外国のメディアに伝えて、国威の発揚に努めることが一番の狙いなのだ。
2022.12.26 07:06 | 固定リンク | 宇宙
ロシア「ソユーズ」致命傷
2022.12.24

「ISS史上最も深刻な事故のひとつ」ソユーズ冷却水漏れ、フライトコンピュータに影響のおそれ

冷却不良によって徐々に熱が蓄積し、クルーの帰還に使われるフライト・コンピュータが正常に稼働しないおそれがある

ロシアが運用し、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしている有人宇宙船「ソユーズMS-22」において、冷却水漏れが発生した。

12月15日に起きたこの事故について、米技術サイトのアーズ・テクニカが、現在までに判明している事態と影響を解説している。フライト・コンピュータに影響が及ぶおそれもあり、同サイトで宇宙関連を担当する編集者のエリック・バーガー氏は、ISS史上「最も深刻なインシデントのひとつ」だと見る。

ロシアが運用し、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしている有人宇宙船「ソユーズMS-22」において、冷却水漏れが発生した。

12月15日に起きたこの事故について、米技術サイトのアーズ・テクニカが、現在までに判明している事態と影響を解説している。フライト・コンピュータに影響が及ぶおそれもあり、同サイトで宇宙関連を担当する編集者のエリック・バーガー氏は、ISS史上「最も深刻なインシデントのひとつ」だと見る。

船体を冷やす冷却水、ほぼ完全に失われたか

漏洩は15日、ソユーズの居住区画外部で発生した。機材を収容しているスペースの外装が破損し、その際にセンサーが冷却システムの圧力低下を検知した。ソユーズの冷却水漏れは人の手で止めることができず、現在までに冷却水はほぼ完全に失われたとの見方がある。

冷却水漏れの原因として、外部から飛来した物体により冷却水ラインが損傷したと考えられている。米CBSニュースは、スペースデブリあるいはマイクロメテオロイド(ごく小さな天然の流星物質)が衝突した可能性があると報じている。ISSの船外カメラの映像からは、小さな穴が確認された。

現在、NASAおよびロシア国営宇宙開発企業のロスコスモスは、事故の影響を評価している。

米テックサイトのアーズ・テクニカは、冷却水の喪失により、ソユーズが帰還する軌道を計算するためのフライト・コンピュータが過熱するおそれがあるとする独自の分析を示している。

記事は「宇宙ステーションに滞在中の7人の宇宙飛行士にただちに危険が及ぶことはない」と前置きしながらも、「これは四半世紀近く使用されているこの軌道上のラボの歴史において、最も深刻な事故のひとつだ」と指摘する。

クルー帰還時の軌道計算に影響のおそれ

折しもISSは現在、軌道面と太陽との角度を示す「太陽ベータ角」が大きい時期にある。これはISS全体の日照時間が長いことを意味しており、船体が過熱しやすい状況だ。アーズ・テクニカは、「このことから、時間が経つにつれフライト・コンピューターがオーバーヒートするおそれがある」と分析している。

また、フライト・コンピューターは船体の深部に設置されているため、どこかのハッチを開けて冷気を送り込むのも難しい状況だという。さらに、現在確認されている問題は冷却水漏れのみだが、スペースデブリやマイクロメテオロイドがほかの装備を貫いた可能性も否定できない。
2022.12.24 00:30 | 固定リンク | 宇宙

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