中国経済統計「うそ八百」
2023.07.06


■中国経済が沈む成長鈍化の沼 

信用できない経済統計 デフレ懸念と高失業にも直面、利下げに加え財政出動必要に

中国経済の現状はどうなっているのか。うそ八百か?

2022年第2四半期から23年第1四半期まで、失業率を除き対前年同期比で、実質国内総生産(GDP)成長率は0・4%、3・9%、2・9%、4・5%、消費者物価上昇率は2・2%、2・7%、1・8%、1・3%、失業率は5・8%、5・4%、5・6%、5・5%、輸入額は2・4%、0・6%、6・4%減、5・2%減とそれぞれ推移している。

本コラムで再三繰り返しているが、中国のGDP統計や失業統計は当てにならず、信頼できるのは輸入統計のみだ。輸入は消費と連動しており、消費はGDPと連動するので、輸入の伸びがマイナスなのに経済成長率がプラスというのはなかなか考えにくい。そこから推測すると、実質GDP成長率はマイナスで、実質GDP成長率が上昇すると、失業率は低下するという「オークンの法則」からみると失業率はもっと高めだろう。

4、5月の輸入額は7・8減%、4・5%減と相変わらずマイナスだ。これでは、23年第2四半期の実質GDPも、実のところはマイナスではないか。

となると、消費者物価上昇率が鈍化しているのもある程度説明できる。ちなみに、23年4、5月の消費者物価上昇率は0・1%、0・2%で、マイナスのデフレ経済一歩手前だ。

4、5月の失業率は5・2%、5・2%だった。ただし、5月の若年層の失業率は20・8%で統計が公表されている18年以降で最高だという。これだけ消費者物価が下がりデフレ懸念すらくすぶると、失業率は若年層のみならず全体でももっと高いはずだ。

いずれにしても、中国の経済統計は信用できないが、断片的な情報からも、成長鈍化とデフレ気味、高失業が読み取れる。

こうした基本的なマクロ経済指標から、不動産投資がふるわないのも納得できる。実際、1~5月の不動産投資は前年同期比7・2%減だ。以上のような経済状況のため、富裕層の流出が続いている。ゼロコロナ政策や共同富裕の影響を受けた層が出ていっているようだ。

輸出減は、経済成長鈍化の証であるが、半導体などの集積回路の輸入額が約2割減っており、米国による対中半導体輸出規制の影響もありそうだ。

来月23日から先端半導体の製造装置など23品目を輸出管理の規制の対象に追加し、日本も米国やオランダと足並みをそろえる予定だ。「日本政府の決定は輸出管理の乱用であり、国際的な貿易ルールを著しく逸脱している」と中国は主張するが、日本は米国とオランダとともに安全保障目的なのでルールの範囲内だ。去年の米国の半導体規制では中国の携帯電話業界などが製造困難に陥った。この流れに日本が続けば、中国の経済は非常に悪くなる可能性がある。

そこで、景気のテコ入れとして、利下げが行われた。ローンプライムレートの期間1年、同5年超をそれぞれ年3・65%から0・1ポイント、年4・30%から0・1ポイント引き下げた。ただし、この程度の利下げでは、力不足で、本格的な財政出動が必要だろう。

■中国経済はなお悪化か 自由化に向けた改革は難航

中国の経済成長は既に過去数十年で最低の水準に鈍っているが、今後も上向かずに悪化しそうだ。経済自由化に向けた改革には時間が掛かり、政府は持続的回復のためになお困難な作業に取り組まざるを得ないとエコノミストはみている。

中国の昨年の国内総生産(GDP)成長率は7.4%と1990年以来の低い伸びで、政府は今年の成長率目標を7%程度としている。国際通貨基金(IMF)は今年と来年の成長率を6.8%、6.25%と予想した。

経済規模10兆ドルの国とすれば素晴らしい数字で、危機が差し迫っているとみるエコノミストはほとんどいない。しかし成長鈍化は改革そのものが原因の一部であり、回復を予想する声も聞かれない。

中国国際経済交流センター(CCIEE)のエコノミストのWang Jun氏は「残念ながら経済は今年に入ってまだ底を打っていない。成長は安定するはずだが、来年を予想するのは難しい。現在取り組みを進めている構造調整の進展度合いに左右されるからだ」と述べた。

株式市場はしぶとく上昇基調を保っているが、これは今年に入って経済指標がことごとく悪化し、政府が新たなてこ入れ策の発動を迫られるとの観測が一因。

社会情勢の安定度合いの指標となる失業率は4%近辺の低い水準を保っているが、失業率については当局者の間からも信頼性を疑う声が出ている。

不良債権比率も2%以下で低いが、やはり実際にはもっと高いとほとんどアナリストがみている。企業の多くや地方政府が透明度の低い「影の銀行」から資金を借り入れているためだ。

中国経済は回復の第1段階で、毛沢東の計画経済のもたらした歪みからの決別が即座に効果を生んだ。しかし今では経済が複雑さを増し、市場化が進んで海外要因の影響もより強く受けるようになり、改革はリスクの高い綱渡りの状態となっている。

北京大学光華管理学院のマイケル・ペティス教授は、中国は通貨の過小評価、生産性の伸びに比べて低い賃金の伸びなど不均衡の根源を取り除く改革の第1段階は概ね実行したが、投資に基づく内需主導型経済への移行という第2段階が残っていると指摘した。

政策当局者は、改革が力不足で、中国がいわゆる「中所得国のわな」(労働コストが上昇して経済成長が中所得国の段階で止まること)にとらわれるのではないかと危惧している。

一部の研究結果は中国が世界金融危機後にこの「わな」に足を踏み込んでしまったことを示唆している。

楼継偉財政相は4月、中国がこのわなから逃れられる確率は40%との見方を示した。
2023.07.06 10:13 | 固定リンク | 経済
円安で「実質GDP押し上げ」経済成長へ
2023.07.04

円安の今こそ日本経済は成長できる...円高はデフレと失業をもたらす 日銀は円安によるGDPへの影響を試算

■円高でなく、円安の時にこそ日本経済は成長してきた。日銀は自国の物価や景気を見極めて行動すべきだ

日銀は19日、円安が日本の経済成長を押し上げるとの試算を公表した。2010~19年の経済情勢をもとに推計したところ、円安が10%進めば実質国内総生産(GDP)を年間で0.8%ほど押し上げる。輸出企業の収益改善や訪日観光の増加が寄与する。円安は輸入品の価格上昇で内需企業や家計の負担を高める面があるが、「全体では景気にプラスの影響を及ぼす」とした。

日銀は円安が輸出の数量を押し上げる効果が弱まってきているとの分析も示した。生産拠点を海外に移す企業が増えているためだ。かつてのように円安により輸出企業の国内生産や雇用が増えるといった波及効果も弱まっている可能性がある。

一方、スマートフォンなど家電を中心に輸入品の比率が高まっており、円安が家計の負担増につながりやすい面がある。最近はエネルギー価格の上昇もあいまって、消費心理に逆風にもなりうる。20年以降は新型コロナウイルスの影響で訪日観光が急減し、円安のプラスの効果が落ちている面もある。

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは10%の円安による実質GDPの押し上げは0.5%と試算する。新型コロナ前と比較すれば、波及経路は変わったものの、円安が経済に与える押し上げ効果は10年前、20年前からあまり変わらないとみる。

米連邦準備理事会(FRB)は金融政策の正常化を進める一方、日銀は金融緩和を粘り強く続ける構えだ。この1年ほど、日米金利差の拡大を背景に円安・ドル高が進んだ。日銀の黒田東彦総裁は18日の記者会見で円安は日本経済にプラスとしつつも、「影響が経済主体によって不均一であることには十分留意しておく必要がある」と述べた。
2023.07.04 12:07 | 固定リンク | 経済
罠に嵌った中国
2023.07.01


■「中所得国の罠」発展途上国が一定規模(中所得)にまで経済発展した後、成長が鈍化し、高所得国と呼ばれる水準には届かなくなる。中国がまさにそうとも言える。

脱却するには経済構造の転換が必要だとされる。産業の高度化及び「規模の経済」や中産階級の拡大による内需や購買力の上昇も重要視される。また、そのためにはインフラや教育への投資も必要となる。1990年代末に中所得国の罠に陥った韓国や台湾は電機やIT分野で産業の高度化を行い、高所得国入りを果たした。

中国は「中所得国(中進国)の罠」に嵌り脱却できずにいる。理由はあきらかで「自由がない経済圏」ではむりもない。ネット通販「618商戦」も盛り上がらず(アリババ国有化)、国民の不満も高まる一方。

ゼロコロナ政策解除後の中国の景気回復は、サービスを中心とする個人消費が牽引してきたが、その勢いが失われつつある。先鋭化する共産主義へ真っしぐら。

6月中旬に行われた恒例のネット通販セール「618商戦」では、電子商取引(EC)サイト各社が大幅な値引きを実施したにもかかわらず、消費者の節約志向のせいで盛り上がりに欠ける結果に終わった。

端午節連休(6月22日から24日)の国内旅行支出も、新型コロナのパンデミック前の2019年に比べて5.1%の減少となった。さらに、6月の乗用車販売台数も前年比5.9%減となる見通しだ。

個人消費が低迷し始めている要因は、不動産市場の悪化にある。住宅が売れないと付随するモノやサービスの消費も伸びないからだ。

住宅市場は今年2月から3月にかけて回復基調にあった。しかし、4月に入ると早くも息切れし、4月の主要50都市の新築取引面積は前月に比べて25%減少。5月も1割落ち込んでいる

不動産市場の悪化のそもそもの原因は「家余り」にある。中国の1家庭当たりの住宅保有数は先進国並みの水準となりつつある

■不動産バブルの崩壊が露呈させた“作りすぎ”の問題

気になるのは中国で「不動産神話」が崩壊しつつあることだ。

6月19日付ブルームバーグは「住宅所有者や関係者などへのインタビューから、不動産が常に中国で最も安全な投資先の1つだという信頼が薄れ、景気減速に拍車をかけていることが浮き彫りになった」と報じた。

住宅所有者は「不動産ブームで現金化できる最後の機会だ」と考えており、中国の金融センターである上海の不動産市場でも売り圧力が日に日に強まっているという。

投機的な購入の抑制を目指す政府にとって、こうした意識の変化は歓迎すべきことだが、政府の当初の予想を超えて不動産市場が深刻な不振に陥るリスクが生じつつあるのではないだろうか(不動産バブルの崩壊)。

不動産バブルの崩壊は、中国の過剰生産能力の問題も露呈させている。

世界最大の鉄鋼生産国である中国で、生産抑制の動きが広がっている。不動産投資の低迷で鋼材需要が落ち込み、在庫の余剰感が強まっているからだ。多くの雇用を生む製造業の中核を成す鉄鋼業の不振は、中国経済へのさらなる打撃となるだろう。

不動産バブルの崩壊がもたらす金融システムへの悪影響も

30年前の日本と同様、中国でも不良債権問題が長期にわたって経済の重しとなり、大規模な金融危機が勃発する可能性も排除できなくなっている。

■中国経済にとっての頼みの綱はハイテク産業

このような状況を受けて、中国ではこのところ政府に対して景気刺激策を求める声が高まっている。しかし、筆者は「期待外れに終わる」と考えている。経済対策を担う地方政府の財政が火の車だからだ。

政府をあてにできないのであれば、成長の新たな源泉を見つけるしかない。中国経済にとっての頼みの綱はハイテク産業だ。

中国経済にとっての朗報は、今年第1四半期の中国の自動車輸出台数が日本を抜いて世界第1位になったことだろう。中国の輸出台数は前年比58%増の107万台となり、日本の輸出台数(95万台)を上回った。電気自動車(EV)など新エネルギー車の輸出が伸びて全体の4割弱を占めた。

中国は2009年に新車販売台数で米国を抜いて世界最大の市場となったが、今やEVの分野でも最大の市場規模を誇っている。

だが、手放しでは喜べない状況だ。中国の自動車市場の過剰生産能力は年間約1000万台となっており(昨年の北米地域の全生産台数の3分の2に相当)、EVを巡る環境も同様だ。

競争の激化で中国のEV企業は共倒れの状態になりつつある。

米EV大手テスラは中国・上海工場の増強を目指しているが、国内の過当競争を危惧する中国政府はEV工場の新規承認に後ろ向きだ

■中国のハイテク産業は「張り子の虎」か?

中国の航空機産業も存在感を高めつつある。6月中下旬に仏パリ近郊のル・ブルジェ空港で開かれたパリ航空ショーでは、中国国有の航空機製造会社「中国商用飛機(COMAC)」の展示ブースに多くの航空関係者が訪れた。COMACが開発した中国初の大型国産ジェット旅客機C919は、5月末から商用便として運航が始まっている。

中国政府は、この旅客機こそ「中国製造2025」政策(2025年までに製造強国の一員となることを目指す)の「旗頭的な存在」と胸を張るが、「中国産とは言えないのではないか」との声も上がっている。商用機に使われている部品の大多数が海外製(大半が欧米製)だからだ(6月8日付CNN)。

中国は「5G(第5世代移動通信)大国」としても知られている。国内の5G基地局数は2023年4月時点で273万基(全世界の5G基地局数の約6割)を超え、ユーザー数も6億3400万人(全世界の約6割)に達した。

しかし、中国の3大通信事業者(中国電信、中国聯通、中国移動)の業績向上につながっていない。5Gの特性を生かしたキラーアプリがないことが災いしている(6月19日付東洋経済オンライン)。

このように、中国のハイテク産業は「張り子の虎」だと言わざるを得ない。バブル崩壊で金回りが悪くなれば、「化けの皮」が剥がれるのは時間の問題だろう。

■経済破綻で米中逆転はない

23年も半ばを過ぎようとしている今、中国経済は多くの問題に見舞われている。個人消費の低迷や危機的な不動産市場、輸出不振に加え、若年層の失業率は20%を突破し過去最悪を更新。地方政府の債務も膨らんでいる。こうしたひずみは世界中に波及し始めており、商品相場や株式市場などあらゆる面でその影響が見られる。

インフレ抑制を図る米連邦準備制度の利上げで米国がリセッション(景気後退)入りするリスクもあり、世界1、2位の経済大国が同時に低迷するとの見通しも強まっている。

さらに悪いことには、中国指導部は状況を好転させる大きな選択肢を持ち合わせていない。

大型の景気刺激策で需要を押し上げるという中国政府がこれまで採ってきた典型的な手法は、不動産や産業における大規模な供給過剰を招き、地方政府の債務残高を急増させている。

そのため、約30年にわたり前例のない経済成長を遂げた後、沈滞から抜け出せなくなった日本のような状況に、中国も陥るのではとの議論も浮上。

これに拍車をかけているのが、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が取る米国と対決スタンスだ。将来の経済成長をけん引するはずの先端半導体やその他テクノロジーの供給から中国を切り離そうとする米国の動きが強まっている。

こうした力学を踏まえれば、中国経済の成長が今年は期待外れに終わるばかりではなく、経済規模で米国を追い越そうという中国の勢いもそがれる可能性がある。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のチーフエコノミスト、トム・オーリック氏は「数年前までは、中国がハイペースで米国を追い抜き、世界最大の経済大国にならないとは考えにくかった」が、「地政学が焦点となった今、米中逆転はほぼ確実に遅れるだろうし、全く起こらないシナリオも想像し得る」と述べる。

BEは不動産不況の深刻化や改革ペースの遅れ、米中デカップリング(切り離し)の劇的な進展といった下振れシナリオでは、中国の成長率は30年までに3%まで減速するとみている。

■「ベース効果」

中国政府が3月に示した今年の成長率目標(5%前後)は、発表時は控えめとみられていたが、今では現実的と思えない。ゴールドマン・サックス・グループは6月、今年の中国成長率予測を5%から2.4%に引き下げた。

世界経済の成長率が2.8%と予想される中で、一見するとそれほど悲観的な数字ではない。しかし実際には中国は22年もロックダウン(都市封鎖)など厳格なコロナ対策を続けていたため、今年の比較対象となる昨年の水準は低い。

こうした見かけ上、成長率を押し上げるいわゆる「ベース効果」を差し引くと、23年の成長率はパンデミック前平均の半分にも届かない3%に近くにとどまるとBEは想定している。

政府がこのまま手をこまねいていれば、事態がさらに悪化する恐れもある。不動産建設が急減し、土地売却収入が減少して公共財政に打撃を与え、米国のリセッションで世界需要が弱まり、中国市場が「リスクオフ」モードに移るというシナリオでは、BEの予想モデル「SHOK」は成長率がさらに1.2ポイント下がることを示す。

「中国は今、工業化からイノベーションに基づく成長への移行期にある。イノベーションを基盤とする成長はそれほど速いペースではない。中国の経済成長が今後さらに鈍化していくことに備える必要がある」とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンスの金刻羽教授(経済学)は話している。
2023.07.01 14:36 | 固定リンク | 経済
マルクスの予言は当たらない
2023.06.13
■中産階級の出現でマルクスの予言通りにはいかなかった。

 総じていうと、世界が共産主義の波に飲み込まれるということは起こりませんでした。さまざまな理由がありますが、現象的にいえば、マルクスが予言したように、労働者の運命が悪化の一途をたどるということはありませんでした。中産階級が出現したためです。

 マルクスの予言によれば、プロレタリアートは生存水準かそれ以下の生活しか送れないようになるため、革命のみが希望となり、共産党に集結するとされていました。対して、中産階級には余裕があります。例えば、「自分が中卒だったから、子どもには高校や大学に行かせよう」とか、「借家ではなくて一戸建ての家に住もう」とか、「休みには旅行に出かけよう」など、全体的に余裕を持っています。余裕があるということは、失われる財産を持っているので、それをリスクにさらして社会を変える、あるいは共産党に入るなどとはあまり思わない。そのような人々が増えてきてしまったのが、現象的な理由です。

■革命の成功によって生まれた「マルクス=レーニン主義」

 この根源を探っていくと、『資本論』の主張の正しさへの懐疑が生まれます。『資本論』の証明は、ある意味で完璧です。『資本論』のモデルが正しいとすれば、労働者は搾取され続け、資本家は搾取し続けます。すると、専門的な言葉でいうと、徐々に利潤率が下がっていき、簡単にいうと儲からなくなっていくことが証明されています。儲からなくなってきても、資本主義は儲けを生み出さなければ成り立ちません。

 レーニンは、この状況で帝国主義が繁栄すると論じました。軍事力を用いて植民地に進出し、強引な手段で安く資源を入手し、ものを叩き売るなどして、資本主義を維持していこうと試みるのです。さまざまな国家が帝国主義的な拡大を目指すので、帝国主義戦争が起こります、帝国主義戦争は革命の好機となる、とレーニンは予言したのです。その予言の通り、第一次世界大戦が起こり、これを好機と見たロシア共産党は革命に成功しました。マルクス主義はレーニンによって現代に生かされ、革命に成功したゆえ、「マルクス=レーニン主義」と呼ばれるのです。レーニンはなかなか優れた人だったのです。

■『資本論』が依拠する理論は単純すぎる

 ここまでは『資本論』の主張は的中しているように見えます。しかしその後、多くの中産階級が現れました。『資本論』の構造は、単純化し過ぎているきらいがあります。アメリカの近代経済学者のサミュエルソンは、マルクスの『資本論』に興味を持ち、その数学的構造を明らかにしようとしましたが、失敗しました。それを受け継いだ森嶋通夫という立派な経済学者が、『マルクスの経済学』という本を著します。日本の経済学者の置塩信雄氏の数学的モデルを取り入れ、『資本論』の数学的構造を明らかにしました。これはノーベル賞級の仕事です。余裕があって数学に明るい方は、ぜひ『マルクスの経済学』をお読みになっていただければと思います。

■マルクスの「労働価値」

マルクス経済学の最大の特徴といえば「労働価値説」です。近代経済学にはない「投下労働価値」という概念を使います。

■「投下労働価値」

 投下労働価値とは、商品1単位を生産するために、直接・間接に必要な投入労働量のこと。服を例にとれば、服を作るための労働量はもちろん、その服を作るのに必要な布を作るための労働量、その布を作るのに必要な綿花を作るための労働量と、川上から川下まで全段階の投入労働量を足し合わせたものです。

 投下労働価値の概念を使うと、年ごとにある商品を純生産するためにどれくらいの労働が必要か計算できます。そうなれば、何を作る部門にどれだけの労働を取り分けなければならないのか、社会全体の労働配分を把握できます。

 生活に必要なものを1人で作ることはできませんから、人間はお互いのニーズを満たすために、社会全体で労働を分担して、生産したものを分け合っています。それは原始社会でも、現代のような商品生産社会でも変わりません。

 この「ヒトとヒトとの依存関係」こそが社会の本質です。ところが私たちの目に映る現象としては、価格とか賃金とか「モノとモノとの交換関係」として現れます。見た目ではない社会の本質を理解するために、労働価値説というツールが有効なのです。

■「搾取」についても、労働価値説によって説明ができます。

 人は労働を分担して必要なものを手に入れますが、社会全体を見ると、労働者が消費する必需品だけを生産しているわけではありません。直接労働に関わらない資本家のための商品や、機械や工場などの生産手段の拡大分もあります。このような労働者が自由にできない財を剰余生産物といいます。

 この剰余生産物も、社会全体で労働を分担して生産しているということになります。

 これを労働者1人当たりの労働時間に置き換えると、自らが入手できる財を生産する「必要労働」と、剰余生産物を生産するための「剰余労働」に分かれます(下の図)。労働者からすると、労働時間の一部は自分のために働き、残りは資本家のために働いている。ここに労働の搾取があるというわけです。
2023.06.13 11:57 | 固定リンク | 経済
脱中国・資本家の本音
2023.06.06



アングル:米進出目指す中国ハイテク企業家、国外脱出企てる本当の理由

野心的な中国のハイテク起業家にとって、米国での事業拡大は難しさが増す一方になっている。

2019年以前は、中国本土にいながら米国で事業を行う企業を運営する上で大きな問題はほとんどなかった。しかし、米中貿易摩擦がエスカレートする中で、特に米政府が中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に制裁を科して以降は、幾つかの中国企業は本社機能を海外に移し始めた。それが米政府の厳しい視線をそらす手だてになり得るとみられたからだ。

そして今、中国本土の複数のハイテク企業オーナーは、さらに踏み込んだ対応が必要だと話す。米国における各種規制や中国企業への偏見を避けるには、経営者が中国以外の国・地域の永住権ないし市民権を取るべきだという。

ロイターは、中国本土で7人のハイテク起業家に話を聞くことができた。その大半は国外で教育を受け、米国での事業拡大を望んでいる。7人全員が国外の永住権か市民権の取得を目指していて、検討先は香港、カナダ、日本、米国、シンガポールなど。

このうち3人は取材に際して英語のファーストネームのみの匿名、残る4人は完全な匿名を求め、全員が自分たちの事業を詳しく描写しないで欲しいと要望した。いずれも中国当局による処罰を恐れているためだ。

こうした中で深センを拠点としているライアンさんは、3年前に立ち上げたソフトウエア関連のスタートアップ企業が世界最大の市場である米国進出を果たす段階に達したと明かした。この企業は、既に東アジアでは100万人のユーザーを抱えている。

ただ、ライアンさんは、米中貿易摩擦や、米議会で実際に制裁を発動されたり発動を提案されたりしている中国企業がどんどん増えていく状況には落胆している。米国に進出しようとしている他の国の競争相手には全く関係がない問題を背負わされているのは「非常に不公平だ」と嘆く。

では、どうするかについて、ライアンさんが選んだのはアジアの別の国で永住権を得る方法だ。

■風当たり

米中の緊張は、トランプ政権下で幅広い分野に対中関税が導入され、ファーウェイへの制裁が科されたことで高まったが、現在のバイデン政権になってからも一向に和らぐ気配はない。

主な対立点は、米国による対中半導体輸出規制とデータ保護を巡る問題。後者に関して、米政府は中国系短編動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)を公用の端末で使用するのを禁止した。

一方で中国も最近、国内重要産業に米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品調達を禁じるなど報復に動いている。

ロイターが取材した起業家やコンサルタントの話では、このような対立関係を反映し、米国で資金調達ないし事業展開をしたがっている中国本土企業への風当たりは、以前よりずっと強まった。

米コンサルティング会社・APCOワールドワイドの広域中華圏チェアマン、ジェームズ・マクレガー氏は「ワシントンや多くの州都に出回っている政治的な言説は、全ての中国企業が政府と共産党と深くつながり、直接指示を受けているという誤解に基づいている」と述べた。

■脱中国色

ただ、ロイターが話を聞いた起業家のほとんどは、米国進出の難易度が上がってもなお、それを最終的な目標としている。いくら規模が大きいといっても中国本土市場に事業を専念するのは魅力的な選択肢ではない、と彼らは言い切る。

習近平指導部の中国に起業家らが幻滅したのは、かつて自由に活動できたハイテク分野に対して2020年終盤から2年間続いた締め付けだった。これは新型コロナウイルスのパンデミックに際して感染を徹底的に封じ込めるために打ち出された「ゼロコロナ」政策の時期と重なる。

習氏が昨年、指導者3期目を務めることが承認された後、ソフトウエア関連スタートアップ企業を国外に移す方法を模索し始めた起業家のウィルソンさんは「パンデミック期間に何もかもが変わってしまった」と語る。

中国本土を足場に事業をすることは不可能ではないが、米中相互の不信感がここまで強まった以上、国外に脱出できるなら、その方が従業員や株主のためにも楽になると付け加えた。

深センを拠点にコンサルティング会社ノース・アメリカン・エコシステム・インスティテュートを運営するクリス・ペレイラ氏は、中国で本社の国外移転や、企業の中国色そのものを消すことさえ模索する動きが、トレントになってきたとみている。

実際、ファストファッションの電子商取引(EC)プラットフォームを展開するSHEIN(シーイン)はシンガポール企業を事実上の持ち株会社化した。ネット通販大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)の持ち株会社も、5月初めに本社を上海からダブリンに移した。

ペレイラ氏の会社には今年初め以来、中国本土企業100社前後から、国外への事業拡大についての支援要請が舞い込んでいる。これに対して同氏は、単に中国色を薄めるだけではなく、いかに進出先の国・地域で効果的にサービスや製品を最適化し、社会の一員になれるか助言しているという。

■当局への不信感

起業家らは、民間企業オーナーを応援すると表明した中国政府が信じられないと打ち明け、市民の自由が失われる事態への不安を口にしている。

さらに中国で積極的に事業を手がけるなら、必然的に共産党との関係を築かなければならず、これは気が進まないとの声も聞かれた。

起業家の1人で既に中国を離れたトミーさんは、中国で企業を経営していた際に、製品に関する検閲要求があまりにもたび重なり、政府の介入がひどくなったため、事業をたたんだと当時を振り返った。

トミーさんは今、新たな起業を進めている。最近の米国出張時には税関でなぜ米国の銀行口座を持っているのかしつこく聞かれる経験をしたが、それでも最終的には米国に進出したい考えだ。

■脱中国加速

ダイキン、青山商事、アップル…「脱中国」リスク分散のため脱中国を急ぐ企業の急増

ここにきて、生産拠点を中国から他のアジア新興国などに分散する企業が増えている。わが国のアパレル業界では脱中国が一段と鮮明だ。象徴的な企業に、ビジネススーツなどを手掛ける青山商事がある。2014年からインドネシアで生産を開始した同社は、今後も対中依存を低下させる方針だ。

 なお、財務省の貿易統計で2017年と2021年を比較すると、わが国の「スーツの輸入」は、中国からの割合が47%から41%に低下している。一方、ベトナムからは10%から11%、インドネシアからは12%から15%に増加している。

脱中国の動きは、アパレル以外にも広がる。空調大手のダイキンは、中国からの原材料調達に頼らずフッ化水素酸を生産する技術を生み出した。同社は中国製の部品が調達できなくてもエアコンを生産する体制も構築している。

海外企業も生産拠点の脱中国を進めている。象徴的な企業は、米国のアップルだ。アップルは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンが河南省鄭州市で運営する工場にてiPhoneやiPadを生産してきたが、近年インドやベトナムにシフトしている。また、米ナイキはスニーカーの生産を中国からベトナムやインドネシアなどに移管している。

このように、つい最近まで「世界の工場」としての地位にあった中国の存在感が、急速に低下している。1978年に始まった「改革開放」以降、中国は経済特区を設けて海外企業を誘致し、効率性の高い、あるいは先端分野の生産技術の移転に取り組んだ。加えて、農村部から沿海部の工業地帯へ、安価かつ豊富な労働力が供給された。それらが、中国への直接投資の増加を支えていた。

また、共産党政権は国有企業などに低コストで土地を供給し、急速にサプライチェーンも整備した。こうして世界の企業は最もコストが低い場所でモノを生産し、世界全体の需要動向に応じて迅速に供給する体制を確立できた。一時は、「世界にデフレを輸出している」といわれたほど、中国の輸出競争力は強かった。

■脱中国を加速する重大なファクター

しかし近年、中国の経済構造は急激に変容し始めている。その一つに、中国の生産年齢人口(15~64歳)は2013年にピークに達して以降、減少している。1979年から2014年まで「一人っ子政策」が実施された影響は大きい。

経済全体で労働投入量が減少すると、賃金には上昇圧力がかかる。JETROが公表した「新型コロナ禍2年目のアジアの賃金・給与水準動向」によると、21年、中国の製造業の作業員の月額基本給(平均値)は651ドル(1ドル=135円換算で約8万8000円)だった。

それに対して、インドネシアは360ドル(約4万9000円)、インドは316ドル(約4万3000円)、ベトナムは265ドル(約3万6000円)。バングラデシュは105ドル(約1万4000円)とさらに低い。世界情勢の影響もあり当面、エネルギー資源は高止まりが予想される。企業がコストカットを進めるためには、労働コストが低いASEAN地域などでの事業運営体制の強化が、これまで以上に重要となっている。

また、地政学リスクも懸念される。米軍内部では、「想定よりも早い時期に中国が台湾に侵攻する」との見方が高まっている。経済安全保障の観点から、各国企業にとって台湾リスクへの対応は急務だ。

加えて、半導体などの先端分野における米中の対立も先鋭化している。米国は中国への最先端の半導体、その製造装置などの禁輸措置を強化している。人権問題においても、新疆ウイグル自治区やチベット、香港、ゼロコロナに抗議する「白紙運動」への対応をめぐって中国への懸念は高まっている。米国の対中制裁を順守し、社会の公器としての責任を果たすためにも、脱中国の重要性は増しているといえる。

そうした中で、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効し、ASEANとわが国などの連携が強化されたことは大きい。各国の企業がコスト削減と地政学リスクに対応しつつ収益率を高めるために、RCEPなど多国間の経済連携はまさに「渡りに船」の役割を果たしている。また、海外企業の誘致を進めて雇用・所得環境を強化するために、主要先進国はこれまで以上に産業補助金政策を強化し始めている。

■中国への直接投資と株式投資それぞれの展開

今後、海外企業の対中投資は不安定に推移するだろう。工場建設などの直接投資に関しては、中国から他の国や地域へのシフトが増えることは間違いない。ただし、共産党政権は「中国製造2025」を推進するために、海外企業と中国企業の合弁事業をより重視し、「技術の強制移転」のリスクが高まるのではとの見方も増えている。加えて、ゼロコロナ政策による個人消費の停滞、不動産市況の悪化などによって、販売面でも海外企業への逆風は強まるだろう。

また、中国企業にとっても事業運営コストの引き下げは大きな課題になっている。ユニクロなどの生産拠点の移管に伴って、中国の縫製大手である晶苑国際集団(クリスタル・インタナショナル)は、ベトナムなどでの生産能力強化に取り組んでいる。企業戦略としては、デジタル技術などを用いて中国の個人消費を取り込みつつ、いかに生産コストを引き下げるかが問われている。

一方、株式投資の観点で考えると、直接投資とは異なった展開が予想される。台湾問題の緊迫化や個人消費のさらなる減少懸念が高まった場合には、リスク回避の動きが鮮明化し、中国本土株や香港株は下落するだろう。その場合、海外投資家は短期目線で押し目の買いを入れやすい。ポートフォリオ投資は周期的に減少と増加を繰り返す展開が予想される。

いずれにしても、共産党政権の経済・社会政策がどう運営されるかが命運を握る。現時点では、共産党政権は情報統制のためにIT先端企業への締め付けを一段と強める公算が大きい。また、台湾に対する圧力への懸念は増すばかりだ。今後、中国への直接投資は徐々に減少していくと考えられる。世界経済を下支えするというよりも、下振れ要因として、中国経済の存在感はこれまで以上に無視できなくなっている。

■アップル「脱中国」は達成間近

消えた中国の世界的輸出増、サプライヤーの9割がインド・ベトナム移転へ

中国の担うサプライチェーンは危機を迎えている。アップルのサプライヤーのほぼ9割が、大挙してインドやベトナムへ移転する打診を受けているという。これが現実化すれば、中国経済には大きな打撃となろう。産業空洞化の始まりである。

中国は、3年に及ぶゼロコロナ政策とその間に進んだ米中対立によって、経済は思わざる展開になっている。ゼロコロナの中で、政策見通しがつかないという「予測不能性」。ウクライナ侵攻が、連想させる地政学的リスクも重なって、中国の担うサプライチェーンは危機を迎えたのだ。

アップルのサプライヤーのほぼ9割が、大挙してインドやベトナムへ移転する打診を受けているという。これが現実化すれば、中国経済には大きな打撃となろう。産業空洞化の始まりである。詳細は、後で取り上げる。

国営中央テレビ(CCTV)によれば、習近平国家主席は江蘇省の全人代代表団に対し3月5日、次のように発言している。「中国にとって、食料確保と製造業の強化が重要である。人口14億人の大国として、この問題を解決しなければならない。国際市場に頼り、われわれを救うことはできない」

この発言は、習氏がかねてから主張する「双循環モデル」(国内市場を重視し、貿易は補足手段)への実行を示唆したものである。いわば、「籠城経済」を志向し始めている点に注目すべきだ。中国が、ここまで追い詰められていることを言外に示したと言えるだろう。

■疲労困憊の地方経済

中国が、突然の「ゼロコロナ」打ち切り策に出た背景について今、明らかになってきたことが多い。

地方政府の財源難が、顕著になっていた結果だ。住民10万人を超える北京のある区画の指導者は、ロイターの取材に対して、「昨年後半に入るころ、PCR検査会社や住民の外出を規制する警備会社に支払う資金が底を突いていた。地方政府レベルでは、単純にもうゼロコロナ政策を執行できなくなっていた」と述べている。

要するに、北京ですら財政的に困窮していたわけで、他の地方政府になれば、言わずもがなの事態に突入していたであろう。地方政府の有力財源である土地売却収入は、不動産バブル崩壊で減り続けている。こうした事態では、もはやゼロコロナを打ち切らざるを得なかったのだ。ゼロコロナを打ち切った後に、各地で公務員の給料遅配に対する抗議デモが起こっている。ここまで、財政危機が進んでいたと言える。

中でも衝撃的だったのは、税務署職員による給料未払いを訴えたデモである。税務署と言えば、最も資金の豊富な部署と見られている。そこが、「現金不足の事態」に陥ったことに、一般市民までが財政危機の深刻さを認識させられたほどである。

こうした環境下だけに、ゼロコロナ打ち切り後の経済が、直ぐに活発化するとは予想し難い。1~2月のPMI(購買担当者景気予測指数)は、好不況分岐点の50を大きく上回っているが、比較するベースが余りにも低かったので、表面的に高い水準になったと見るべきだろう。つまり、「見せかけ」の好況感に過ぎないのだ。

中国が、23年のGDP成長率目標を発表したが、「5%前後」と22年の「5.5%前後」を下回る控え目な数字となった。事前予測では、「5%台」という強気目標が報じられていた。それが、5%前後に後退した理由は、1~2月の実績が芳しくなかった結果である。

内需からみれば、産業構造の牽引役は住宅と自動車である。この2業種が、力強い回復力を見せなければ、中国経済に明るさは戻らないのだ。住宅は、不動産バブル崩壊の渦中にある。住宅を購入しても、新居に住めない人たちが180万人もいる状況だ。この状況が改善されない限り、安心して購入契約を結べるはずがない。それほど、不動産開発企業への信頼感が失われているのである。

自動車(EVなど新エネルギー車)は、昨年一杯で取得税(10%)半減策が、すでに終了している。だが、1~2月の新車販売不振であったので、再度の取得税半減が議論されていると報じられた。優遇策がなければ、今年の販売台数は伸び率ゼロが予測されているほどだ。自動車優遇の裏には、半導体産業テコ入れも絡んでいる。中国半導体は、米国からの厳しい輸出規制によって苦しむトップ企業に対し、政府支援が行われている。こうして、EV(電気自動車)の生産増が、半導体支援になるという期待感が滲み出ている。

■消えた世界的輸出増

中国が内需振興へ力を入れている裏に、輸出不振という大きなプレッシャーが存在する。1~2月の輸出(ドルベース)は、前年同月比で6.8%減になった。輸入(同)は、輸出減を反映して10.2%減とさらに落ち込んでいる。

この輸出入の不振には、世界的なサプライチェーンの供給圧力が減り正常化したことが大きく影響している。その意味で、「パンデミック特需」は終了したのだ。

米ニューヨーク連銀は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)宣言から約3年を経て、グローバルサプライチェーンが通常に戻ったと分析した。NY連銀のグローバルサプライチェーン圧力指数は、2月の数字がマイナス0.26となり、2019年8月以降で初めてゼロを下回り、全世界の供給圧力が標準値未満に低下したのである。『ブルームバーグ』(3月7日付)が報じた。

これは、重大なシグナルである。中国のサプライチェーンにかかっていた超過需要圧力が解消されたことを示すのだ。中国輸出が、減少している背景がこれである。

習氏が、前述のように「国際市場に頼り、われわれを救うことはできない」という意味は、輸出で稼ぎ食糧などを輸入するというこれまでのパターンを警戒しているのであろう。中国のサプライチェーンが、世界へ与える影響度はすでにピークを過ぎたのだ。米中対立によるデカップリング(分断)が、これをプッシュしていると見るべきだろう。

■アップルの「脱中国」はもう止まらない

中国外への生産移管は、観測筋の多くが見込むよりもはるかに速く進む公算が大きい。米中の緊張悪化で被る影響を未然に防ぐ狙いだと、アップルの大手サプライヤーの一社が明らかにした。

これによると、ワイヤレスイヤホン「エアポッド」を製造する中国の電子部品メーカー、ゴアテック(歌爾)は、中国外の生産拠点を模索している1社だ。歌爾のようなメーカーに対し、米国のテクノロジー企業が強く代替の生産拠点を探すよう働き掛けているという。企業は、「2月からほぼ毎日のように、多くの顧客企業の訪問を受けている」と述べ、決まって話題になるのは「いつ生産を移管できるのか」だと明らかにした。

アップルは、中国で生産システムを作り上げ、全体で数百万人を雇用している。その舞台裏では、アップルの最も重要なサプライヤー10社のうち9社が、インドなどに大規模な生産移管準備をしている可能性がある。中国側が知ったら仰天するであろう。

■西側が中ロを警戒へ

米中対立激化の背景には、ロシアのウクライナ侵攻がある。米国を中心とする西側諸国は、ロシアに対して不退転の決意で臨んでいる。ウクライナ侵攻がロシアの勝利に終われば、高い確率で中国の台湾侵攻が現実化することを危惧しているからだ。

2月に開催された「ミュンヘン安全保障会議」で、米国はこれまでの最大級となる代表団を送った。副大統領、国務長官、中央情報局(CIA)長官のほかに、約50人の連邦議員も加わった。米国が発信したメッセージは2つとされる。第1に、ロシアが敗北するまで、決してウクライナへの軍事支援を緩めない。第2に、民主、共和両党とも、この政策では一枚岩であるというのだ。

このミュンヘン安全保障会議で、米国は侵略を許さないという強い姿勢を見せた。これは同時に、中国に対しても台湾侵攻を排除するというメッセージである。これに対して中国は、米国へ強い対抗心を見せている。

中国の秦剛外相は3月7日、米中間の緊張を高めているのは米国だと非難した。米国が進路を変えなければ、「衝突と対立」が起こると警告したのである。また「米国が自国を再び偉大な国にしたいという野心を持つなら、他国の発展にも広い視野を持つべきだ」と指摘した。『ロイター』(3月7日付)が報じた。

この秦氏の発言からも分かるように、中国は経済的にかなり米国から追い込まれていることを示している。

中国は、台湾を自国領であるとしている。台湾には、独自の主権を保持してきたという厳然たる事実が存在する。中国は、この台湾主権を戦争によって奪おうとしているのだ。国際社会が、それを受け入れられるはずもない。

まさに、中国の知恵が問われている。同じ中華民族である以上、「共存共栄」という道を選べなければ、中国が西側諸国から包囲されるのも致し方ないであろう。包囲は、中国の衰退を意味する。

既述の通り、アップルのサプライヤーは、大挙してインドへ移転する圧力を受けている。数百万人の雇用が、インドへ移る危険性が高まっているのだ。中国の産業空洞化は確実に進むであろう。世界的ハイテク企業の生産部門を失うことは、関連産業の発展を阻止するのだ。

■サッカー弱体が示唆

習近平氏は、自らの手で台湾を統一すると力説している。歴史に名前を刻みたい。そういう個人的な欲望が、中国国内を一糸乱れぬ統一下に組み入れさせている。これが、成功する確率は極めて低いのだ。その好例として、中国サッカーがなぜ弱いかという例を取り上げたい。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月6日付)が報じた。

習氏は、無二のサッカーファンとされる。中国を「サッカー強国」にしたいと号令を発したのだ。だが、未だにその夢は実現しないどころか、国内で八百長ゲームが横行するという腐敗ぶりである。中国の男子代表チームは、2002年に一度だけサッカーワールドカップ(W杯)に出場したが、グループステージでまったく得点できずに3戦全敗に終わった。その後は、W杯出場とは無縁な存在だ。

この原因について、習氏が細かく指示を出し過ぎているという指摘がある。習氏は、50項目からなる計画を立て、2025年までに中国各地に約5万校のサッカースクールを開設。男子代表チームをまずアジアの強豪へ、次に世界の強豪へと育てる高い目標が設定されたのだ。問題は、官僚がこの計画を金儲けに利用して汚職の温床にしたことだ。これでは、結果が出なくて当然であろう。

このサッカー狂騒曲は、サッカーの発展に必要な自発性やイノベーションを阻害していると指摘されている。日本サッカーは、地方でサッカーファンを増やしながら、チームを強化する道を辿って成功した。これに対して、中国は上からの指示である。自発性もイノベーションも育つはずがない。

中国サッカー問題は、習氏の中央集権的統治スタイルの弱点を知る手がかりとなろう。産業育成でも大量の補助金を出して、汚職を蔓延させている。半導体もその例から洩れない。

習氏は、今回の全人代において「治安・金融・ハイテク」を共産党指揮下に組み入れる。これによって、中国の弱点部門を習氏の直轄下に入れて監督しようというものだ。サッカーの二の舞いになろう。
2023.06.06 17:43 | 固定リンク | 経済

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