クラスター爆弾「大量破壊兵器」供与
2023.07.09


■米、難しい決断だった「大量破壊兵器」供与

クラスター爆弾をアメリカがウクライナに供与発表 国際条約で製造・使用禁止の殺傷力高い兵器

ロシアによるウクライナ侵攻からきょうで500日となります。こうしたなか、アメリカ政府はウクライナに殺傷力の高いクラスター爆弾を供与すると発表しました。

アメリカ サリバン大統領補佐官

「ウクライナは領土を守るために、クラスター爆弾を求めている」

クラスター爆弾は多数の小さな爆弾を広い範囲にまき散らす殺傷力の高い兵器で、塹壕を掘って守りを固めるロシアへの攻撃に有効だとしてウクライナが提供を求めていました。ただ、不発弾で民間人が被害にあう懸念から国際条約で製造や使用が禁止されていますが、アメリカやロシア、ウクライナは加盟していません。

アメリカ政府は「難しい決断だった」と強調。一方で、民間人の被害を最小限にするため“ウクライナが慎重な使用を約束した”としています。

ロシアによる侵攻から8日で500日となりますが、国連は、ウクライナでの民間人の死者が先月末の時点で9000人を超えたと発表しています。

■クラスター爆弾の殺傷力「大量破壊兵器」に準ずるもの 

親爆弾1発がもたらす被爆面積は、じつにサッカー場3面分におよびます。範囲内は全員殺傷されることになります。

クラスター爆弾の子爆弾は1個でも人の命を奪ったり、戦車を破壊して走行不能にさせるのに十分な破壊力をもっています。「湾岸戦争」でアメリカ軍が使ったBLU-97という子爆弾は、ビールのロング缶ほどの大きさ(6センチ×20センチくらい)で筒状の形をしていて、中には混合された高性能爆薬が287グラム入っていました。

この高性能爆薬が爆発すると、鋼鉄製の筒が300個ほどの破片になって、毎秒5000メートル以上の超高速で周囲に飛び散ります。この破片の威力は、戦車などに使われている12.5ミリの厚さの装甲鉄板を貫通する威力があるといわれています。

さらには、ジルコニュームという発火剤が入っていて、これが飛び散って、戦車や戦闘車両を炎上させ、燃料倉庫や爆薬庫、建物などに火をつけます。1回の作戦で200発以上の親爆弾が投下され、1発の親爆弾から子爆弾が数個から数千個ばらまかれますので、その被害はとても広い範囲におよびます。

クラスター爆弾は、兵器の分類からいえば、地雷などと同様「通常兵器」に区分されるものですが、1発の親爆弾がもたらす威力を考えると「大量破壊兵器」に準ずるものだともいえます。

核兵器、化学兵器などの「大量破壊兵器」はいまではそれを使用することは国際社会から厳しい批判を受けることになるため、どの保有国もあくまで「抑止効果」として保有していますが、規制のゆるい「通常兵器」をより攻撃効率の高い兵器に「改良」して、実戦配備するようになっているのです。

子爆弾の性能を上げれば上げるほど、その威力を増すクラスター爆弾は、強い軍事力を保持したい国々にとっては手放すことができない兵器として改良されてきました。兵士と民間人を区別することなく「面」としての攻撃に踏み切った作戦で、より広範囲に威力を発揮する兵器が、クラスター爆弾なのです。

■米、露防衛線突破に有効

バイデン米政権は7日、ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援として、殺傷能力が高いクラスター弾を新たに供与すると発表した。民間人の犠牲を招くリスクがあるとされ、生産や使用を禁じる国際条約(オスロ条約)には100カ国以上が加盟。非加盟の米国もこれまでウクライナに供与してこなかったが、ウクライナ軍が苦戦する反攻作戦で露軍の防衛線突破に有効と判断した。

クラスター弾は、一発の親爆弾に多数の子爆弾が詰め込まれ、空中から広範囲な地域に拡散して攻撃する兵器。ウクライナ軍の反攻は露軍が占領地沿いに構築した強固な防衛線に阻まれ苦戦を続けるが、クラスター弾は塹壕に身を隠す露軍の攻撃に有効とされる。

ただし、戦闘終結後も不発弾が民間人を殺傷するリスクは長期間続くとして、国際人権団体が供与に反対。バイデン政権も、ロシアがウクライナの民間施設を標的に使用してきたことを非難してきた。

米政権はウクライナの要請を受け慎重に検討してきたが、ウクライナ軍を悩ます砲弾不足の解消にもつながると判断。ウクライナが「民間人被害のリスクを最小化する」と文書で明言したのを受け供与を決めた。

■サリバン大統領補佐官

民間人殺傷リスクを認めつつ「露軍がウクライナ軍を退けて多くの領土を占領し住民を従属させれば極めて大きなリスクとなる」と述べ、領土と国民の防衛が供与の目的であり、不発弾処理の支援にも力を入れると強調した。

国防総省によると、供与される米軍のクラスター弾の不発弾発生率は2・35%。露軍がウクライナで使用してきたクラスター弾の不発率は30~40%に上る。

クラスター爆弾の生産・使用・移転・貯蔵を禁止するオスロ条約には英仏独やカナダなど北大西洋条約機構(NATO)の主要国や日本なども加盟するが、米国、ロシア、ウクライナは加盟していない。

米政権は今回クラスター弾に加え、パトリオット地対空ミサイルや高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)に使用される砲弾、歩兵戦闘車、155ミリ榴弾砲など計8億ドル(約1130億円)の追加軍事支援を行う。

■ウクライナ「塹壕を標的に」

ウクライナは、このクラスター爆弾はロシア側の塹壕を標的にする上で役立つと主張している。反転攻勢の開始から約1カ月たったが、これまでのところ大きな成果は上がっていない。米政府高官によれば、ウクライナは戦後に不発弾を除去する方針を表明しており、民間人がいる地域で使用することはない。

この計画は北大西洋条約機構(NATO)加盟国との間に緊張をもたらす可能性がある。クラスター爆弾の使用や移譲を禁止する2010年のクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)にはNATO加盟国を含む約100カ国が署名している。来週リトアニア・ビリニュスで開催されるNATO首脳会議で、この問題が取り上げられる可能性が高い。

■ウクライナ側は、「占領された領土の解放のためだけに使われる」

アメリカがウクライナにクラスター爆弾を供与する方針について、使用を禁止する国際条約に加盟しているイギリスやドイツなどは供与の動きに追随しない構えで、欧米による軍事支援のあり方をめぐって議論を呼びそうです。

クラスター爆弾は、小型爆弾が飛び散り一部が不発弾として残ることから、民間人への被害など人道上の懸念が強い武器として、使用を禁止する国際条約があります。

アメリカやロシア、ウクライナは、この国際条約には加盟していませんが、加盟国のイギリスのスナク首相は8日、「戦車の供与などでウクライナを支援する役割を果たし続ける」と述べ、クラスター爆弾の供与はしない方針を示しました。

さらに、ドイツやスペイン、カナダも、クラスター爆弾の供与には追随しない方針を明らかにしています。

ウクライナ側は、「占領された領土の解放のためだけに使われる」としていますが、11日に開幕するNATO(=北大西洋条約機構)の首脳会議を前に、欧米によるウクライナへの軍事支援のあり方をめぐって、議論を呼びそうです。

■スナク首相反対の立場

アメリカ政府がクラスター爆弾をウクライナへ供与すると発表したことに対し、イギリスのスナク首相は供与に否定的な立場を示しました。

スナク首相は8日、無差別に民間人を殺傷するおそれのあるクラスター爆弾について、「イギリスは製造や使用を禁止する国際条約に加盟している」と述べ、アメリカとの立場の違いを明確にしました。

そのうえで、これまで長距離兵器を供与してきたことなどを例に、「ウクライナを支援する役割を果たし続ける」としています。

一方、ウクライナのレズニコフ国防相はアメリカによるクラスター爆弾の供与を歓迎したうえで、「我々の領土を占領から解放する目的でのみ使用する」と自身のSNSに投稿。

「民間人の被害を避けるため都市部では使用しない」、「公式に認められたロシアの領土では使用しない」などとし、限定的な使用にとどめることを強調しました。
2023.07.09 20:28 | 固定リンク | 戦争

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