岸田政権の「異次元の増税」策
2023.07.06


「国債整理基金特別会計」を防衛力強化資金に繰り入れればいい 「異次元の増税」策

岸田総理、防衛費増額を賄う増税について「丁寧に説明する」と強調

通常国会は1月24日午後、参議院本会議で岸田総理とすべての閣僚が出席し、令和4年度決算についての質疑が行われた。岸田総理は防衛費増額に伴って不足する財源を増税で賄う方針について、国会審議を通じて丁寧に説明していく考えを強調した。

財務省の財政緊縮・増税路線に飲み込まれずに、政府が20兆円規模の需要拡大策を実施し、日銀が金融緩和を継続することが不可欠だ。

■積極財政路線を警戒する財務省

まず、足下の経済環境をみておこう。内閣府の2022年10~12月期四半期別国内総生産(GDP)速報(2次速報値、前年同期比)によれば、物価(GDPデフレーター)は1・2%上昇、雇用者報酬は同1・8%減だった。

失業率は22年10月~23年2月で2・5%程度だ。ただし、この失業率の数字は雇用調整助成金により見かけ上、低めに出ていると考えたほうがいい。

いろいろと批判もあったが、安倍晋三・菅義偉政権で有効需要100兆円にもなるコロナ対策を行い、日銀が金融緩和を継続したために、マクロ経済は底抜けをしなかった。

常に強調しているNAIRU(インフレを加速しない最低の失業率、2%半ば程度)を達成するまでには至っていないが、その近くにあるのは間違いない。失業率はややNAIRUより高めで、インフレ率はインフレ目標を安定的に達成する水準よりやや低いという状況だ。

ここで、インフレ率を消費者物価(除く生鮮食品)でみると、例えば今年3月は前年同月比3・1%なので、高いという意見もあるだろう。しかし、1月の4・2%をピークとして徐々に低下するものと見込まれる。GDPデフレーターが2%には達していないことからわかるように、まだ成長の好循環が起こるような状態にはなっていない。

これは、やはり内閣府が発表した昨年10~12月期の四半期別GDP速報でのGDPギャップ(総需要と供給力の差)をみてもわかる。そこでは、10兆円程度とされているが、内閣府の推計は供給力の天井が過小推計になっている。これを筆者が補正すると、総需要が20兆円程度積み増されれば、半年後くらいに、失業率が実質的なNAIRUになり、GDPデフレーターでみたインフレ率が2%になる公算が大きい。その場合、賃金上昇率はインフレ率を1~2%程度上回るようになるだろう。

要するに、今はあと一歩の状況だ。ここで、増税や利上げを行うと、せっかく良くなってきた経済を腰折れさせてしまう。

岸田政権はここで自信を持って「防衛増税」や「異次元少子化対策増税」を打ち出してしまうと、経済は腰折れしてしまう。

21年10月の衆院選の前に、当時の矢野康治財務事務次官が月刊「文芸春秋」で「バラマキ批判」論文を寄稿した。筆者は増税路線を仕掛けてきたのだと受け止めた。

今回も齋藤次郎元事務次官が仕掛けているとみている。日銀総裁も黒田東彦(はるひこ)氏から植田和男氏に代わったので、財政政策・金融政策ともに緊縮・引き締めを行いやすい環境だ。

岸田政権がそれをこらえて経済運営するのか、できないのか。それによって物価がマイルドに上がり、賃金がそれを上回るかどうかが決まるだろう。

■「異次元の増税」策

岸田文雄首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べた。これを受けて自民党の甘利明前幹事長が、財源として消費税の増税に言及した。少子化対策の財源として消費増税が必要なのか。増税の弊害はないのか。

少子化対策について、あまのじゃくな筆者はその必要性がストンとこない。人口が減少しても1人当たり国内総生産(GDP)で見る限り、必ずしも低下するとは言い難い。

世界中で人口減少している国は30カ国程度あるが、1人当たりGDPが成長している国も少なくない。端的にいえば、人口減少しても、ロボットでかなりの程度補えると思う。

人口動向の根本要因は分からないが、金銭要因による人口増誘導については、政治家のみならず在野の方からおびただしい政策提言がある。少子化対策ほど、客観的なエビデンス・ベースト・ポリシー(証拠に基づく政策)からほど遠い分野もなく、なんでもありの世界だ。

人口動向は人の生物としての本能的な営みが大きく関係するのは自明だが、それを金銭要因でどこまで誘導できるかについて、実証分析なしにも関わらずだ。逆にいえば、基本的なメカニズムが分からないので、人口問題は政治課題なのだろう。とにかく、人口問題は国民に人気があり、政治家には人口問題に関心を持つ人が多い。

財務省から見れば、政治課題なので無視することはできない。しかし、どうせ政治からの要求が来るのであれば、それを逆手に取ることを考えているはずだ。

そこで、少子化増税だ。人口を増やすために増税とはちょっと意表を突いているが、「少子化対策には安定財源を」という例のフレーズだ。

その財務省の思惑をつい口にしたのが、甘利前幹事長だった。本人は、趣旨は違うのに一部を切り取られたと弁明しているが、いかにも脇が甘かった。財務省にとっても、本音が漏れたので焦ったことだろう。

財務省の戦略は、少子化対策について多くの政治家から語ってもらう。ただし財源論抜きでは語らせないというものだ。そして、最終的な取りまとめ段階になったら、政治家の少子化対策にはエビデンスがないとして大幅に換骨奪胎するが、安定財源論だけはしっかり残して少子化増税に持っていくのだろう。少子化対策は広い意味での社会保障になるので、社会保障財源である消費税増税にもっていくのが目に浮かぶ。

少子化対策担当大臣の小倉将信氏は41歳で当選4回の新進気鋭だ。まさに百家争鳴の少子化対策の取りまとめにはうってつけだといえる。少子化対策はすぐに答えを出す必要はなく、議論、検討をしていればいい。そのための会議を官邸に作ると首相出席で煩わしいので、内閣府特命担当大臣は適任なのだ。

その方が財務省にとっても好都合だ。議論が拡散気味でも時間がかかってもよく、最後の刈り取りの時、政策には効果で難点をつけながら安定財源で増税を盛り込めばいい。これは「異次元の増税」策だ。
2023.07.06 19:42 | 固定リンク | 経済
中国経済統計「うそ八百」
2023.07.06


■中国経済が沈む成長鈍化の沼 

信用できない経済統計 デフレ懸念と高失業にも直面、利下げに加え財政出動必要に

中国経済の現状はどうなっているのか。うそ八百か?

2022年第2四半期から23年第1四半期まで、失業率を除き対前年同期比で、実質国内総生産(GDP)成長率は0・4%、3・9%、2・9%、4・5%、消費者物価上昇率は2・2%、2・7%、1・8%、1・3%、失業率は5・8%、5・4%、5・6%、5・5%、輸入額は2・4%、0・6%、6・4%減、5・2%減とそれぞれ推移している。

本コラムで再三繰り返しているが、中国のGDP統計や失業統計は当てにならず、信頼できるのは輸入統計のみだ。輸入は消費と連動しており、消費はGDPと連動するので、輸入の伸びがマイナスなのに経済成長率がプラスというのはなかなか考えにくい。そこから推測すると、実質GDP成長率はマイナスで、実質GDP成長率が上昇すると、失業率は低下するという「オークンの法則」からみると失業率はもっと高めだろう。

4、5月の輸入額は7・8減%、4・5%減と相変わらずマイナスだ。これでは、23年第2四半期の実質GDPも、実のところはマイナスではないか。

となると、消費者物価上昇率が鈍化しているのもある程度説明できる。ちなみに、23年4、5月の消費者物価上昇率は0・1%、0・2%で、マイナスのデフレ経済一歩手前だ。

4、5月の失業率は5・2%、5・2%だった。ただし、5月の若年層の失業率は20・8%で統計が公表されている18年以降で最高だという。これだけ消費者物価が下がりデフレ懸念すらくすぶると、失業率は若年層のみならず全体でももっと高いはずだ。

いずれにしても、中国の経済統計は信用できないが、断片的な情報からも、成長鈍化とデフレ気味、高失業が読み取れる。

こうした基本的なマクロ経済指標から、不動産投資がふるわないのも納得できる。実際、1~5月の不動産投資は前年同期比7・2%減だ。以上のような経済状況のため、富裕層の流出が続いている。ゼロコロナ政策や共同富裕の影響を受けた層が出ていっているようだ。

輸出減は、経済成長鈍化の証であるが、半導体などの集積回路の輸入額が約2割減っており、米国による対中半導体輸出規制の影響もありそうだ。

来月23日から先端半導体の製造装置など23品目を輸出管理の規制の対象に追加し、日本も米国やオランダと足並みをそろえる予定だ。「日本政府の決定は輸出管理の乱用であり、国際的な貿易ルールを著しく逸脱している」と中国は主張するが、日本は米国とオランダとともに安全保障目的なのでルールの範囲内だ。去年の米国の半導体規制では中国の携帯電話業界などが製造困難に陥った。この流れに日本が続けば、中国の経済は非常に悪くなる可能性がある。

そこで、景気のテコ入れとして、利下げが行われた。ローンプライムレートの期間1年、同5年超をそれぞれ年3・65%から0・1ポイント、年4・30%から0・1ポイント引き下げた。ただし、この程度の利下げでは、力不足で、本格的な財政出動が必要だろう。

■中国経済はなお悪化か 自由化に向けた改革は難航

中国の経済成長は既に過去数十年で最低の水準に鈍っているが、今後も上向かずに悪化しそうだ。経済自由化に向けた改革には時間が掛かり、政府は持続的回復のためになお困難な作業に取り組まざるを得ないとエコノミストはみている。

中国の昨年の国内総生産(GDP)成長率は7.4%と1990年以来の低い伸びで、政府は今年の成長率目標を7%程度としている。国際通貨基金(IMF)は今年と来年の成長率を6.8%、6.25%と予想した。

経済規模10兆ドルの国とすれば素晴らしい数字で、危機が差し迫っているとみるエコノミストはほとんどいない。しかし成長鈍化は改革そのものが原因の一部であり、回復を予想する声も聞かれない。

中国国際経済交流センター(CCIEE)のエコノミストのWang Jun氏は「残念ながら経済は今年に入ってまだ底を打っていない。成長は安定するはずだが、来年を予想するのは難しい。現在取り組みを進めている構造調整の進展度合いに左右されるからだ」と述べた。

株式市場はしぶとく上昇基調を保っているが、これは今年に入って経済指標がことごとく悪化し、政府が新たなてこ入れ策の発動を迫られるとの観測が一因。

社会情勢の安定度合いの指標となる失業率は4%近辺の低い水準を保っているが、失業率については当局者の間からも信頼性を疑う声が出ている。

不良債権比率も2%以下で低いが、やはり実際にはもっと高いとほとんどアナリストがみている。企業の多くや地方政府が透明度の低い「影の銀行」から資金を借り入れているためだ。

中国経済は回復の第1段階で、毛沢東の計画経済のもたらした歪みからの決別が即座に効果を生んだ。しかし今では経済が複雑さを増し、市場化が進んで海外要因の影響もより強く受けるようになり、改革はリスクの高い綱渡りの状態となっている。

北京大学光華管理学院のマイケル・ペティス教授は、中国は通貨の過小評価、生産性の伸びに比べて低い賃金の伸びなど不均衡の根源を取り除く改革の第1段階は概ね実行したが、投資に基づく内需主導型経済への移行という第2段階が残っていると指摘した。

政策当局者は、改革が力不足で、中国がいわゆる「中所得国のわな」(労働コストが上昇して経済成長が中所得国の段階で止まること)にとらわれるのではないかと危惧している。

一部の研究結果は中国が世界金融危機後にこの「わな」に足を踏み込んでしまったことを示唆している。

楼継偉財政相は4月、中国がこのわなから逃れられる確率は40%との見方を示した。
2023.07.06 10:13 | 固定リンク | 経済

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