「プリゴジン死亡」プーチン・プリゴジン会談は「でっち上げ」だった
2023.07.15


「プリゴジン死亡」プーチン・プリゴジン会談は「でっち上げ」だった 「嘘八百のプロバガンダ」

■仏暴動で使われた武器はウクライナから送られた

最近フランスで起きた暴動では、誤解を招く多くの投稿がオンラインで共有された。先週、一気に広がったものの一つは、アメリカのウクライナへの軍事支援に関するものだった。

その投稿は、ニュースサイトの見出しと思われるスクリーンショットと、ライフル2丁の画像でできていた(下の画像)。

見出しは、「フランスの警察、ウクライナから届いた可能性のあるアメリカ製ライフルで撃たれる」というものだった。

ツイッターの「青いチェックマーク」付きのアカウントのいくつかが、この投稿をシェア。以来、100万回以上閲覧されている。

BBCヴェリファイ(検証チーム)は、この投稿がメッセージアプリ「テレグラム」の、親ロシアのチャンネルが発信元であることを突き止めた。投稿に使われた画像は、2012年にモスクワ近郊の射撃場で開かれた射撃競技会に関する、ロシアの軍事ブログの記事に出ている。

同じ見出しと画像を使った記事は、オンラインでは他に見当たらなかった。また、アメリカがウクライナに供与した武器が、最近のフランスでの暴動で使われたことを示す証拠もない。

■ウクライナに「赤ちゃん工場」

ロシアがウクライナで 「赤ちゃん工場」を発見したという投稿を、ツイッターの「青いチェックマーク」付きのアカウントが最近、広めている(下の画像)。

2~7歳の子どもたちが「工場で育成」され、「児童売春宿」に送られるか、臓器を摘出されて西側諸国で売られている――という内容だ。

BBCヴェリファイは、この投稿の出所が、「The People's Voice」の3月公開の記事だと突き止めた。「The People's Voice」は、ファクトチェック団体からインターネットで最大の偽ニュース製造者だとされる「YourNewsWire」の別名だ。

このグループはこれまでも、反ワクチン陰謀論や、2017年の米ラスヴェガス銃乱射事件に関するデマなど、さまざまな虚偽や誤解を招く記事を広めてきた。

ロシア政府と、同政府が掌握しているメディアには、ウクライナで違法な臓器摘出がなされているとする根拠のない主張を展開してきた過去がある。

■クラマトルスクのミサイルはウクライナ製

ウクライナ東部クラマトルスク中心部で6月末、ロシアのミサイル攻撃により8人が死亡した。

攻撃直後、まっとうな情報源だと自称する、ツイッターの「青いチェックマーク」を付けたアカウントが、攻撃はウクライナが誤って実施したと投稿。北大西洋条約機構(NATO)軍と外国の雇い兵らを収容する軍兵舎を直撃したと主張した(下の画像)。

その投稿は、「(イギリスがウクライナに供与した)ストームシャドウミサイルが突然、軌道を大きく変え、クラマトルスクに命中し、外国兵と雇い兵を収容するウクライナ軍の兵舎を壊滅させた」とした。

この投稿の閲覧回数は100万回を超えた。

クラマトルスクの攻撃はウクライナ軍が発射したミサイルが原因だとする証拠も、軍兵舎が爆撃されたという証拠もない。

■ゼレンスキー氏は選挙を中止

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が選挙を「中止した」とする投稿が、ツイッターで最近、拡散された。

その投稿では証拠として、ゼレンスキー氏が6月下旬に応じたBBCのインタビューでの発言を挙げている。

ゼレンスキー氏はそのインタビューで、ウクライナで来年、選挙があるかと尋ねられ、「(戦争に)勝てばある。戒厳令も戦争もなくなっていたら、ということだ。選挙は、戦争がない平時に、法律に従って実施しなくてはならない」と答えた。

この発言について、米FOXニュースの元司会者で、アメリカのウクライナ支援に批判的なタッカー・カールソン氏は、最近スタートさせた自らのツイッターの番組で、ゼレンスキー氏がウクライナの民主主義を終わらせたことを証明するものだと述べた。

ツイッターでは、これに似た内容の「青いチェックマーク」付きのアカウントの投稿が、何十万回とシェアされている(下の画像)。

ウクライナの憲法は、戒厳令下での議会解散と国政選挙を禁じている。そのため、戒厳令が終了するまで、現在の大統領と議会が政権を維持する。

ウクライナ国家安全保障防衛会議のオレクシイ・ダニロフ書記は最近、戒厳令が敷かれている間は、憲法の定めにより、「選挙は行われない」と認めた。

BBCヴェリファイは、この記事で取り上げた虚偽や誤解を招くツイッターの「青いチェックマーク」付きの投稿について、ツイッターに質問した。ツイッターの広報は、問い合わせを受けたことは認識しているとしたが、コメントはしないとした。

■「休養中」、解任、恐らく死亡 ロシアの消えた将官たちが明らかにする軍内の亀裂

将官1人を失うことは、首尾よく進まない戦争の最中であれば不運な出来事とみなせるかもしれない。しかし24時間で2人を失うとなると、さすがに迂闊(うかつ)な話に思える。ただこれこそが、ウクライナ南部のロシア軍司令部で起きていることだ。2つの事例が描き出すのは、ロシア軍の上層部に蔓延(まんえん)する機能不全と意見対立に他ならない。

11日、ウクライナ軍のミサイルが同国南部の港湾都市ベルジャンスクにあるホテルを直撃した。ベルジャンスクはロシア軍によって占拠されていた。

死亡が伝えられた多くのロシア人の1人に、オレグ・ツォコフ中将がいた。ツォコフ氏はロシア軍南部軍管区の副司令官で、ウクライナ南部の占領地域の防衛に当たる主要人物だった。これまでウクライナでの戦闘ではロシア軍の将官が10人前後死亡しているとされるが、同氏はこのうちの最高位の階級と考えられている。

当該のホテルをロシア軍の第58諸兵科連合軍が司令部にしていたことは伏せられていなかったようだが、それでもツォコフ氏はホテル内に入った。昨年秋にはルハンスク州のスバトボ近くでウクライナ軍の攻撃に遭い、ひどく負傷してもいた。

第58諸兵科連合軍は、中南部ザポリージャ州の西側で前線を守る重要な役割を果たしている。そこは反転攻勢に出たウクライナ軍が突破を試みている地域だ。

しかしこれよりも格段に悪い事例が、続いて起きることになった。

12日遅く、第58諸兵科連合軍の司令官イワン・ポポフ少将による4分間の音声メッセージが浮上した。その中でポポフ氏は、ロシア軍上層部の対応を裏切りと呼んで非難。支援不足のために大勢の部下を失ったと訴えた。

ポポフ氏はロシアの防衛態勢の大きな欠陥を指摘した。ウクライナ側はロシアの後方陣地に長距離砲撃を仕掛ける新たな作戦で、ロシア側の状況悪化を招こうとする姿勢を鮮明にしている。

ポポフ氏はメッセージを通じ「対砲兵射撃の不足や砲兵偵察所の欠如、敵の火砲により我が軍に大量の死傷者が出ている状況」について疑問を呈したと説明。「他にも複数の問題を提起し、その全てを最高レベルで率直かつ厳重に伝えた」と述べた。

米シンクタンクの戦争研究所(ISW)によると、ポポフ氏の主張はロシア軍が抱える重大な問題を露呈している可能性がある。具体的には作戦に動員できる予備兵の不足から、兵士を交代させながらウクライナの反転攻勢を防衛することができていない事態が想定される。この状況はロシア軍の防衛線を脆弱(ぜいじゃく)なものにしかねないという。

しかし、ポポフ氏の批判はこれで終わらない。 ゲラシモフ参謀総長に向けたとみられるメッセージの中で、「ウクライナ軍が我が軍を正面突破することはできなかったが、身内の上級指揮官が我々を後方から攻撃し、最も困難かつ緊迫した局面で卑劣にも軍を切り捨てた」と指摘。さらにショイグ国防相にも矛先を向け、危険を感じた上官らが仕組んだ命令によって自分を解任、排除したと主張した。

■プリゴジンはすでに死んだ(粛清)

プリゴジンは今、どういう状態にあるのか。情報が錯綜するなか、元米軍陸軍大将は「彼を見ることはもうないだろう」と語った

6月下旬にロシア政府に対する「反乱」を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンは、「すでに死んでいる可能性が高い」と元米陸軍大将が語った。ロシア大統領府は、反乱後の6月29日にウラジーミル・プーチン大統領とプリゴジンを含むワグネル幹部が面会したと発表しているが、これについても「演出」だという見方を示した。

元米陸軍大将のロバート・エイブラムスは今週、ABCニュース・ライブに出演し、プリゴジンとプーチンの会談は、ロシア政府がでっち上げたものだと主張した。そのうえで、反乱後のプリゴジンは、二度と公の場所に姿を現すことはないかもしれないと述べた。

在韓米軍司令官だったエイブラムスは、「まず、プーチンとプリゴジンが本当に会談したという証拠が出てきたら、私は驚くだろう。あれは高度な『演出』だったと思う」と語った。「私の見立てでは、プリゴジンを公の場で見ることはもうないだろう。彼は身を隠すか、投獄されるか、何らかの処分を受けることになると思うが、二度と彼を見ることはないだろう」

ではプリゴジンはまだ生きていると思うか、という質問に対してエイブラムスは、「すでに死んでいると思う」と答え、もし生きているとしたら「どこかの刑務所」にいる可能性が高いと言い添えた。

プーチンの盟友でもあるプリゴジンは6月23日、ロシア国防省に対する武装反乱を起こした。ロシア国防省が、ウクライナにあるワグネルの拠点を爆撃し、自身の兵士数十人を殺害したと主張してのことだ。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介した結果、プリゴジンがベラルーシに亡命すれば、ロシア政府はすべての嫌疑を取り下げる、という取引が成立し、武装反乱は終結した。

ロシアに戻ったとされるが目撃情報なし

以来、プリゴジンは所在不明だ。ロシアとベラルーシを行き来するワグネルの航空機は目撃されており、反乱の数日後にはプリゴジンがプライベートジェットでベラルーシに到着したとルカシェンコは述べている。一方でロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は7月10日、プーチンが6月29日にロシアでプリゴジンと会談したと発表した。これはプリゴジンがベラルーシに到着したとされる翌日にあたる。

「プーチン大統領が会談を主催し、35人を招待した。ワグネルの指揮官とプリゴジン本人を含む幹部全員だ。この会談は6月29日にクレムリンで行われ、ほぼ3時間に及んだ」とペスコフは述べた。

会談が報告され、プリゴジンはロシアに戻ったと報道されているにもかかわらず、生きているプリゴジンの目撃情報はまだない。

■兵士から絶大な支持

ロシアの軍事ブロガーらが示唆するところによると、ツォコフ氏とポポフ氏はどちらも有能な軍人で、部下からの信頼も厚い。51歳のツォコフ氏はロシア軍の期待の星だったようで、2021年にはプーチン大統領も出席したクレムリン(ロシア大統領府)での士官候補生のための式典で演説している。

軍事ブロガーのライバー氏はポポフ氏について、兵士から絶大な支持を得ていたと説明。前線の兵士らは解任の知らせを受け、大変にやる気を失っているとした。「気取らない性格で頭脳明晰(めいせき)、誠実に職務に当たるポポフ将軍」というのが彼らの評価だという。

ポポフ氏が司令官として最後に発した言葉は自分の部隊に向けたものだった。「さようなら、私の最愛の戦士、最愛の親族、一つの家族よ。私はいつでもあなた方の手の届く所にいる。同列になってあなた方を支持することは自分にとって名誉だ」

忠誠心をかき立てる司令官を失うことは、迂闊であるだけでなく危険な場合さえある。

6月末には民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こし、一部の軍高官の能力と忠誠に疑義を投げかけた。このうちの何人かは、その後公の場に姿を見せていない。

ロシア航空宇宙軍の司令官で、ウクライナ侵攻の総司令官を一時務めたセルゲイ・スロビキン上級大将は、ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏から支持され、同氏と良好な関係を築いていた。反乱が進む最中には、幾分乱れたような格好で動画に登場し、反乱をやめるように訴える姿も見せていた。

スロビキン氏は総司令官に就任後の昨年11月、ヘルソン州からの「秩序ある撤退」を進めた人物だが、今年1月には任を解かれた。ワグネルの反乱後は姿を見せていない。

スロビキン氏の状況に臆測が渦巻く中、ロシア下院のカルタポロフ国防委員長は12日の動画で同氏が「休養中」のため姿を見せないと説明した。難航する戦争のただ中では興味深い状況と言える。クレムリンは、スロビキン氏に関する質問には国防省が答えるとの立場を取る。

カルタポロフ氏は13日にはポポフ氏にも言及。「当事者たちが問題を解決すると確信している」とした上で、有望な将軍であるポポフ氏は軍で仕事をするべきだとの見解を示した(カルタポロフ氏自身も、過去に第58諸兵科連合軍の司令官を務めた経歴を持つ)。

カルタポロフ氏は国防省に向けたように見られるメッセージも残した。「どのボスにも共通する最も重要なスキルは、問題を把握し、部下の話を聞く力だ。これを実行することが想定される人々が、既に話を聞き、把握し、これから行動を取ると思う」

■不確実性と混乱

軍事ブロガー界隈(かいわい)からの発言はより直接的だ。彼らはかねて、軍の権力層が仕返しに血道をあげているとして懸念を表明してきた。

最も有力な軍事ブロガーの一人のライバー氏は、ポポフ氏の運命にこそプリゴジン氏の武装反乱以降始まった「魔女狩り」の実態が表れているとの見方を示す。

非公式の情報発信メディア「VChK-OGPU」も12日、国防省内部の「戦争」が依然として継続しているとし、ポポフ氏の解任を要求したのはゲラシモフ参謀総長だったと主張した。

VChK-OGPUによれば、ポポフ氏がプーチン氏に直接抗議する姿勢を見せたため、「ゲラシモフ氏がその任を解き、前線に送った」という。

ポポフ氏が現在どこにいるのかは不明。

不確実性と混乱が渦巻く中で、国防省は完全な沈黙を守っている。ツォコフ氏の死亡やポポフ氏の解任、スロビキン氏の現在の居場所に関するコメントは一切出てこない。

一方で、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長は、高度に演出された形で公の場に登場している。前者は武装反乱直後にウクライナ国内を視察(映像の正確な撮影時期は疑問の余地がある)、後者はスロビキン氏の副官と電話会議を行う様子が確認されている。

ランド研究所に所属するロシア軍の専門家、ダラ・マッシコット氏は、スロビキン氏の所在への臆測が続く中で同氏の率いる航空宇宙軍の最新状況にあえてスポットライトを当てる行為は恐らく意図があると指摘する。

さらに10日にはツイッターで、ショイグ氏による前触れなしでの訓練施設の訪問に言及し、「万事順調」で自分が適任者だとアピールする取り組みがなおも続いているとの見方を示唆した。

ブロガーのライダー氏も同様の見方を示す。「ロシア国防省の指導部が主に明るい報告に依拠している事実は否定しがい状況にある。そうした状況は否定的な報告を阻害する」と指摘する。

さらに「ポポフ氏とゲラシモフ氏の対立で浮き彫りになったように、ロシア軍には結束が欠如している。敵は間違いなくその点を利用するだろう。そして当然ながらロシアはそこから痛手を被る。これこそが最も悲しいことだ」ともつづった。

西側の専門家らは、狭量な対立の文化が国防省をはじめとするロシア軍の多数の組織に浸透していると指摘。慢性的な腐敗も一因となっているこうした風土は、ウクライナでの戦況が差し迫った中でも変わっていない。

いかなる軍事作戦でも後退を余儀なくされ、混乱に陥ることはある。しかしロシアによるウクライナ侵攻では、機敏な統率や一貫した指導力が発揮された事例がほとんど確認できないのが実情だ。

有能な司令官たちの喪失は、ロシアの「特別軍事作戦」が週を追うごとに特別なものでなくなりつつあるということを改めて示している。
2023.07.15 09:01 | 固定リンク | 戦争

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