ウクライナ軍の「驚くべき攻撃力」
2023.07.10
ロシア軍のスホイ34戦闘爆撃機

■ロシア軍5機撃墜―ウクライナ軍


ウクライナと国境を接するロシアのブリャンスク州で13日にロシア軍の戦闘機など5機がほぼ同時に撃墜された

ロシア経済紙コメルサント(電子版)によると、ウクライナと国境を接するブリャンスク州で13日、ロシア軍のスホイ34戦闘爆撃機、スホイ35戦闘機、ミル8ヘリコプター2機の計4機が墜落した。同じ時間帯に撃墜されたもよう。保守系メディアの情報では、乗員計9人が死亡したという。

ウクライナが大規模な反転攻勢を予告する中、前線で戦闘が激化している。撃墜の可能性が高いとみられているが、それぞれのミサイルがウクライナ領とロシア領のどちらから発射されたかを巡り、情報が交錯している。

タス通信などによれば、スホイ34の乗員2人は緊急脱出できなかった。また、同機とヘリ1機の墜落現場は、約50キロしか離れていない

州内で「破壊工作員」が携行式地対空ミサイルを使った可能性も排除できず、警備が強化されたと伝えられる。これまでウクライナ軍がドローンでロシア空軍基地を攻撃したとみられる例はあるが、併合されたクリミア半島を除き、ロシア領内で飛行中の軍用機の撃墜が疑われるケースはほとんどなかった。

■「パトリオットで迎撃」

5月13日、ウクライナに近いロシア西部ブリャンスク州上空で、高性能攻撃機「Su-34」を含む複数のロシア軍機が相次いで撃墜されました。撃墜の事実が報じられた直後から、ウクライナ軍が地対空ミサイル(SAM)で迎撃したのではないかと言われていましたが、ウクライナ軍が公開した映像から、米国製パトリオットSAMによるものだったことが明らかになっています。

公表されている情報は多くはありませんが、撃墜の状況と合わせると、ウクライナ軍がかなり大胆で緻密な作戦を実行したことが分かります。

以下では、パトリオットの運用者(TD、TCO)だった筆者の経験を踏まえ、この迎撃作戦がどのようなものだったのか解説したいと思います。

■ロシア軍が行っていた攻撃

この迎撃作戦が実行された当時、ロシア軍が滑空爆弾を運用し、ウクライナ軍に被害を与えているとの情報が流れていました。ロシア軍が使用している滑空爆弾は、自衛隊も運用する米軍のJDAMに相当する「KAB-1500」だと見られています。

 KAB-1500には誘導方式や翼形状などにより複数のバージョンがありますが、この迎撃作戦時に使用されていたバージョンは不明です。一部の報道では、高高度から投下すれば40kmの滑空が可能な「UPAB-1500V」(KAB-1500のバージョンの1つ)だったとの情報もあります。

 5月13日の迎撃時、撃墜された機体は次の通りです。

・Su-34(戦闘爆撃機)×1
・Su-35(戦闘機)×1
・Mi-8MTPR-1(電子妨害ヘリ)×2
・Mi-8(汎用ヘリ)×1(おそらく、撃墜された際のパイロット救難用)

ヘリの撃墜数が2機だったのか3機だったのか議論がありましたが、撃墜時の動画が3種あった他、今回の動画公開で3機がカウントされていたため、3機で間違いないものと思われます。

ロシア側の攻撃がこの5機だけだったのか、もっと多かったのかは不明ですが、パトリオットが優先して攻撃するとは思えない汎用ヘリまで撃墜していることから推定すれば、この5機だけだったか、他の随伴機があったとしても少数だったと思われます。そのため、以下では、この5機により攻撃が実施されたことを前提に分析します。

各機の役割は、滑空爆弾を使用した攻撃役がSu-34、ウクライナが迎撃機を上げてきた場合に、その迎撃からSu-34を護衛するのがSu-35です。護衛はエスコートファイターと呼ばれる直接援護か、先行するエリアスイーパーですが、1機しかいないのであればエスコートファイターだった可能性が高いでしょう。電子妨害を行っていたヘリ、Mi-8MTPR-1は攻撃役の後方に位置しているため、スタンドオフジャマー(敵の射程圏外で活動する電子妨害機)です。ただし、ヘリの移動速度は遅いため、事前に進出し、Su-34とSu-35は、Mi-8MTPR-1を追い越すような形で進出したと思われます。

上記は、攻撃部隊の編成から考えられる動きですが、これを踏まえて各機の墜落地点を確認しておきます。

撃墜されたロシア軍機の墜落地点をプロットすると、下の地図のようになります。覚えておいていただきたいのは、Su-34でも国境から20kmほど、Su-35やMi-8は国境から40km以上も離れていたことです。

なお、ジャミングによって防護できる方位は限られるため、2機のMi-8とSu-34の墜落地点を結んだ南東方向への攻撃を意図していたと思われます。

不自然な点は、直援で近くにいなければいけないはずのSu-35の墜落位置ですが、パトリオットにとっての最優先目標であるSu-34が撃墜されたので、退避する途中で撃墜されたのではないかと思われます。

■パトリオット部隊の迎撃行動

ロシア軍機に対するウクライナ軍パトリオット部隊は、ブリャンスク州に近い国境付近に布陣していたと思われます。

パトリオットの射程は、対航空機では160kmにも及ぶため、国境から数十kmも離れた位置に展開していたとの見方もありますが、戦闘機や戦闘爆撃機のような高機動目標をそのような遠距離で射撃することはありません。160kmも離れていたら、旅客機が乗客に飲食を提供しながら行うような緩い旋回を行っただけでミサイルは命中できなくなります。

ロシア軍各機の墜落地点は、国境から20~40kmも離れていました。パトリオット部隊が国境まで進出したとしても、それだけの距離があったことになります。

当時、ウクライナにはパトリオット部隊が2個高射中隊しか存在しておらず、虎の子と言える存在だったことを考えれば、少なくとも迫撃砲で容易に攻撃できる距離は避けたはずです。最低でも国境から10kmは離れた位置に展開していたことでしょう。そうなると、Su-35やMi-8は、50km以上の距離で撃墜したことになります。ヘリのMi-8はともかく、Su-35は、ギリギリで撃墜できたのだと思われます。

この迎撃作戦は、パトリオット部隊にとっても国境に近づく必要性があり、リスクが高い作戦です。そのため、当時私はS-300やブーク(Buk)など、ウクライナが以前から使用していたSAMを使用し、国境間近まで進出して迎撃を行ったのだろうと思っていました。それだけに、今回の動画は衝撃だったのですが、この動画の衝撃は、迎撃手段がパトリオットだったというだけに留まらないものでした。

■公開動画から分かる衝撃の事実

今回の動画で注目の場面は、このシーンです。透過になっているため見づらいですが画面の左下に“PATRIOT”との文字があり、黒い大きな器材の側面に描かれたいくつものキルマーク(兵器のシルエット)が、このパトリオット部隊によるものだと分かります。

5月13日の戦果は、左から順にSu-35、Su-34、Mi-8×3が並んでいます。

ここまでは、この5月13日の戦果について述べてきましたが、実は他の部分にこそ、重要な情報があります。

まずは左の3つのキルマークです。

このキルマークは、形状がKAB-1500のものとなっており、滑空爆弾を表しているようです。また、キルマークは、左上から付けられるため、このパトリオット部隊が活動を始めた直後の戦果が、この3つの滑空爆弾だったということになります。文字部分を拡大してみましたが、5月の初旬と思われるものの、日付ははっきりとは分かりません。

滑空爆弾は、ミサイルと違い推進力を持たないため、滑空できるとは言っても滑空可能距離は数十kmに留まります。

ロシア軍機がウクライナ領内に長駆侵入できる状況ではなくなっているため、ロシア軍機は、国境からほど近いウクライナ軍拠点を滑空爆弾によって攻撃していたと思われます。それを防ぐため、このパトリオット部隊は、ウクライナ到着後、キーウ周辺に布陣することなく、この目標となっている拠点付近に布陣し、3発の滑空爆弾を迎撃していたことになります。

その上で、滑空爆弾を投下する母機を迎撃するため、若干前進し、5月13日の迎撃に至ったと思われます。

さらに、もう1つ注目すべきな戦果があります。5月21日のものです。

キルマークは、この日、Su-34×1、滑空爆弾×1を迎撃したことを示しています。5月13日の攻撃が失敗に終わったにもかかわらず、ロシアは21日に再攻撃を行い、返り討ちにあったようです。

ただし、13日と違い、迎撃される前に滑空爆弾を投弾したのか、パトリオットは母機であるSu-34と滑空爆弾の両方を迎撃しています。同日にドローンも撃墜していようなので、ドローンと連携した攻撃だった可能性もあります。

この21日のSu-34撃墜は、情報が明らかになっていないものでした。ロシア領内の情報統制が厳しくなっていたと思われます。そうした情報がなかったため、「Oryx」(オランダの軍事情報サイト)でのカウントにも入っていません。

これ以後のキルマークには、戦闘機や誘導爆弾が描かれておらず、弾道ミサイルや巡航ミサイル、それにドローンとなっています。ロシア軍が滑空爆弾による攻撃を断念したか、パトリオット部隊がキーウ方面などに移動した結果だと思われます。

■キンジャール迎撃、ロシア人部隊による攻撃との関係

このパトリオット部隊は、5月13日だけでなく21日にもSu-34などを迎撃していますが、5月16日には別のパトリオット部隊がキーウで6発のキンジャール(ロシア軍の航空機発射弾道ミサイル)を迎撃しています。

ウクライナ軍は、2つしかないパトリオット高射中隊の1つでキーウ防空を行い、もう1つの部隊をウクライナ北東部において、滑空爆弾による攻撃を行っていた戦闘爆撃機編隊を迎撃していたことになります。

ウクライナ北東部にどのような部隊が展開し、パトリオットが防護していたのか不明ですが、ウクライナ軍にとって重要で、ロシア軍にとっては脅威となる部隊が所在していたのでしょう。

ウクライナがこの動画を公開したことから、この部隊については既に伏せる必要がなくなっているはずです。もしかすると、5月22日に発生した、ウクライナ支援のロシア人部隊「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団(RVC)」によるロシア・ベルゴロド州への攻撃と関係があるかもしれません。滑空爆弾による攻撃は、ロシア・ブリャンスク州からでしたが、ロシア義勇軍団は3月に、このブリャンスク州に侵入し攻撃した実績があります。5月22日のロシア人部隊による攻撃は、ベルゴロド州へのものでしたが、同時にブリャンスク州への攻撃も計画されていた可能性が考えられるのです。ロシア側に察知され、重火器を滑空爆弾によって破壊されたため、ベルゴロド州への攻撃だけに絞ったのかもしれません。

■パトリオットによる迎撃はなぜ成功したのか?

次に、パトリオット部隊による迎撃が、なぜ成功したのか考えてみたいと思います。

戦術としてはSAMによるアンブッシュ(待ち伏せ)攻撃だったことが明らかです。これ自体は珍しいものではありません。攻撃編隊の予想経路にSAMを配置することで、防護目標への接近自体を阻止します。映画『トップガン マーヴェリック』で、接近経路周辺の山頂部に配備されていたSAMがこれです。

当然、攻撃側は対抗手段を準備した上で対地攻撃を行います。今回、ロシア側が迎撃を避けるために講じていた手段は次の2つです。

■滑空爆弾の使用

滑空可能距離は長くないものの、ある程度のアウトレンジが可能で、高高度から投弾する場合は、長射程、高高度対応能力を持つSAMでなければ母機を迎撃できません。また、滑空爆弾は、高速・急角度で落下してくるため、滑空爆弾自体を迎撃可能なミサイルが限られます。

ウクライナ軍が使用しているSAMの内、滑空爆弾およびその母機の迎撃に十分な性能があるのはパトリオットとS-300のみです。ただし、S-300はミサイル弾が枯渇していると言われています。

従来から保有しているブーク、新たに供与されたNASAMS、IRIS-Tは、国境ギリギリまで進出すれば、カタログ上は射程が届くことになりますが、性能限界近くでの射撃となるため、パトリオットを160km先に射撃する場合と同様に、目標が少しでも機動すると命中は期待できません。

■「Mi-8MTPR-1」によるジャミング(電子妨害)

短射程ミサイルには、レーダーを全く使用せずに射撃可能なシステムもありますが、中距離以上の対空戦闘ではレーダーが必須です。ロシア軍の攻撃部隊は、そのレーダーを妨害することで、目標の捕捉、ミサイルの誘導を妨害していました。

ただし、このMi-8MTPR-1のジャミング性能に関しては疑問を持っています。

Mi-8MTPR-1は、「Rychag-AV」と呼ばれる電子戦機器を機体後部の左右に2機搭載しています。妨害方位に機体側面を向け、左右どちらか一方のRychag-AVを作動させることで妨害を行います。国籍標章である赤い星の前にある小さな四角形の物体が、Rychag-AVのアンテナです(下の写真)。

効果に疑問を抱くのには、複数の理由があります。

まず、電子妨害では、妨害する対象のアンテナに十分な電力密度となる電磁波を照射しなければ効果を及ぼせません。Mi-8がヘリとしては大型とはいえ、Rychag-AVに十分な電力を供給できているか疑問なのです。

護衛する機体に随伴するエスコートジャマーや、もっと前方に出るスタンドインジャマーであれば、妨害対象との距離が近いため、出力が小さくとも効果を及ぼせるのですが、Mi-8MTPR-1は、それが可能な機体ではありません。

また、Rychag-AVのアンテナが平面形状であるため、フェーズドアレイレーダーだと思われます。フェーズドアレイレーダーでは、各アンテナ素子が放射できる電波の出力に限界があるため、高出力レーダー=大面積となります。しかし、Rychag-AVのアンテナは非常にコンパクトであるため、やはり出力が低い可能性があります。

さらに、公開されている内部写真を見る限り、Rychag-AVはアクティブ式のフェーズドアレイレーダーではなく、パッシブ式、あるいはロットマンレンズ式のようです。

パッシブ式であれば、対応できる周波数が少なく、同時に妨害を行うSAMの種類が限定されている可能性があります。その反面、必要となる電力が少なくて済みます。ロットマンレンズ式であれば、広帯域の送信が可能であり、同時に多種のSAMに妨害が可能となりますが、反面、出力の点ではさらに厳しくなります。

また、Mi-8の飛行性能も、ジャミング性能に悪影響を及ぼしている可能性があります。前述したとおり、ジャミングは、防護できる方位が限られますが、これは水平方向だけに留まりません。

防護したいSu-34は、Mi-8MTPR-1よりも前方に進出しているため、たとえ同高度を飛行していたとしも、迎撃するSAMから見るとSu-34は上方に見えることになります。滑空爆弾を投下するためには高高度から投弾することが望ましいですが、Mi-8の実用上昇限度は4500mしかありません。SAMから見た場合に、Mi-8MTPR-1は水平線に近く、Su-34は見上げる位置にあった可能性が濃厚です。対応可能な高低角から外れるため、十分なジャミングができなかった可能性があるのです。

以上の点から考えると、滑空爆弾の迎撃を行っていたウクライナ軍としては、S-300を持ってくる、あるいはパトリオットを前進させ、Mi-8MTPR-1によるジャミングを回避すれば、Su-34を迎撃できる状況だったのでしょう。

S-300については、残弾が枯渇している上、システムも大型で衛星などで察知されやすい装備です。さらに、使用している周波数などの電波諸元もロシア側が熟知しており、電波によっても察知、対応されやすいため、パトリオットが使用されたものと思われます。

パトリオット自体も、決して新しいシステムではないため、ロシアも電波諸元等はある程度承知していると思われます。滑空爆弾を迎撃していた時点で、存在は察知していたため、Mi-8MTPR-1を2機も飛行させ、攻撃を支援していた可能性が大です。

それでも、前述したとおりジャミングとしては不十分だったため、レーダーで捕捉、追随し射撃可能だった可能性があります。

また、5月13日以前の滑空爆弾のみを迎撃していた際も、パトリオットが母機であるSu-34に対しても射撃を行っていた可能性は高いと考えられます。攻撃は行ったものの、命中していなかったと考える方が妥当です。

攻撃を受けたSu-34は、パトリオットのレーダーに捕捉されていることをレーダー警戒装置で判断できるはずです。ただし、パトリオットは、TVM(Track Via Missile)と呼ばれる特殊な誘導方式を採っており、ミサイルが命中する少し前まで、Su-34は、いわゆる「ロックオン」と呼ばれる状態を感知することができません。中間誘導の段階では、ただ単にレーダーに捕捉されている場合と同様に電波が照射されているからです。

それでも、終末誘導のTVMの電波を捉えて回避する。あるいはこのTVMの電波をMi-8MTPR-1で妨害することで、命中を避けていたと思われます。

■PAC-3弾が使用された可能性

5月13日と21日に、パトリオットによる迎撃が成功した理由には、前述のようにパトリオットを前進させた可能性が考えられますが、もう1つ、パトリオット部隊が別の戦術をとった可能性があります。それは、PAC-3弾を使用した可能性です。

PAC-3弾は、言わずと知れた弾道ミサイル迎撃用のミサイルです。ですが、決して対弾道ミサイル専用ではありません。パトリオットの後継として計画されている中距離拡大防空システム(MEADS)では、対航空機を含め、PAC-3の改良型ミサイルが選択される見込みです。

PAC-3弾は、航空機など翼によって揚力を発生させるABTと呼ばれる目標に対しては、PAC-2弾ミサイルよりも射程が短くなります。しかし、もともと弾道ミサイル対処を念頭に開発されたミサイルであるため、サイドスラスターを装備し、高高度での機動性能はPAC-2弾よりも高くなっています。

Su-34は、滑空爆弾の射程を伸ばすため、米空軍のF-22が中国の気球を迎撃した時のように、ズーム機動で高高度まで上昇し、滑空爆弾を投下していたと思われます。ズーム機動は、通常の飛行が可能な高度で高速に達した後、強力なエンジンのパワーを用いて急角度で上昇する機動です。

投弾高度は1万5000mを超えていたでしょう。その場合、距離にもよりますがPAC-3弾の方が命中率を高くできた可能性があるのです。

さらに、PAC-3弾を使用した場合には、他にもメリットがあります。

PAC-3弾は、PAC-2弾と終末誘導の方式が異なり、シーカー(目標を捜索・探知・追尾するためのミサイルの構成装置)が使用している電波の周波数も異なります。Su-34の搭載するレーダー警報装置が、スレットテーブルと呼ばれる脅威と判断するための電波データベースに、PAC-2弾のTVM波しか登録していなかった場合、PAC-3弾が終末誘導の際に使用するKaバンドのレーダー波に対して警報を発することができません。

ロシア軍は、PAC-2弾のTVM波については、データベースに登録できていると思いますが、PAC-3弾のkaバンドレーダー波は、データを入手できていないと思われます。Su-34は、レーダー警戒装置が反応せず、ミサイルの接近に気付かないまま撃墜された可能性があるのです。

また、主目標であるSu-34にPAC-3弾を使用したことで、後方にいたMi-8MTPR-1や護衛役のSu-35の迎撃にも効果を及ぼした可能性が考えられます。

詳細は伏せますが、Su-34にPAC-2弾で迎撃していた場合、同時にMi-8MTPR-1などをPAC-2弾で攻撃することは困難ですが、PAC-3弾を選択していた場合は、PAC-2弾を使用し、これらを同時に攻撃することが可能なのです。

PAC-3弾が使用されたと推測するのは、このMi-8MTPR-1などを含めた迎撃戦闘が、わずか2分の間に行われたと言われており、PAC-2弾だけで戦闘が行われたとは考え難いということも理由です。なお、この2分間で複数機が一気に撃墜されたとの情報は、テレグラムで発信されたロシアサイドのものです。

また、PAC-3弾が使用されたと見る別の理由もあります。この動画は、迎撃されたSu-34が落下している際の映像です。機首が破壊されており、前方からミサイルが命中したように見えます。しかしながら、PAC-2弾が命中したのであれば、翼を含めた機体全体が、もっと激しく損傷しているはずです。

PAC-2弾は、高性能炸薬を備えた弾頭による破片効果で目標を破壊しますが、PAC-3弾は金属ペレットを拡散させることで、ミサイルの見かけ上の大きさを拡大することで命中確率を上げるものの、目標の破壊自体は、ミサイルの速度による運動エネルギーだけで目標を破壊する方式です。落下するSu-34の損傷状態からは、PAC-3弾が命中したように見えるのです。

■極めて高いウクライナ軍のパトリオット運用能力

今回、ウクライナ軍が公開した動画では、次のことが確定的に明らかです。

・ウクライナに到着した2つのパトリオット高射中隊は、1つがキーウでキンジャールやイスカンデル迎撃を担当し、もう1つがウクライナ北東部に進出し、滑空爆弾による攻撃に対処していた。

・滑空爆弾攻撃に対処していたパトリオット部隊が、5月上旬に3発の滑空爆弾迎撃を行った後、13日に滑空爆弾母機のSu-34、護衛のSu-35、電子妨害を行っていたMi-8などを撃墜した。その後、21日にもSu-34と滑空爆弾を迎撃していた。

この事実と5月13日の迎撃では、ロシア側からも多くの情報(周辺住民による動画のネット公開など)があったため、パトリオット部隊はPAC-3弾を使用してSu-34などの迎撃を行った可能性があると推測されます。

PAC-3弾の使用は推測ですが、いずれにせよ、ウクライナ軍は導入したばかりのパトリオットを極めて高いレベルで使いこなしていることは間違いありません。

各国が今後も兵器の供与を続けなければ、量的には対処が難しいと思われますが、質的にはウクライナ軍は精強で、最後には侵略者を撃退することができるでしょう。
2023.07.10 13:48 | 固定リンク | 戦争

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