ワイヤレス自動給電で何が変わる?
2023.04.13

■じゃまな電線、電気コードをなくして「ワイヤレス」に!

さて、みなさんの身の回りに目を向けてみてください。

家の中には街中の電線のように、電気を送るためのたくさんの電気コードがあると思います。テレビ、ラジオ、オーディオ、電話機、照明、パソコン、スマートフォンの充電器、季節によっては扇風機やストーブなどの家電。場合によってはタコ足配線になっていたり、コード同士がからみあってぐちゃぐちゃになっていたりしませんか。

また、電源コンセントの位置によっては、家電を置く位置が制約されてしまったり、何メートルもの延長コードが必要になったりと、室内のレイアウトにいろいろ頭を悩ませている方も多いでしょう。

一方、掃除機やアイロン、ヘアドライヤーなど動かしながら使う家電も随分コードレス化商品が普及してきましたが、まだまだコード式の家電を使っている家庭が多いかと思います。

「この家電がコードレスになればいいのに」「電気コードが必要なくなれば部屋が綺麗になるのに」「電源コンセントの場所に縛られずに家電を自由にレイアウトできたらいいな」と思っている人も多いのではないでしょうか。

そんな多くの人たちが感じている「ワイヤー(線)に縛られた」生活の不便さを解消してくれそうな技術の開発が今進んでいます。電線を使わず電気を無線で飛ばす「ワイヤレス給電」という技術です。

今家の中で、インターネットのWi-Fiルーターからパソコンやタブレットに電波を飛ばしてインターネットを繋いでいるように、家の中に電気を飛ばす「電気発信器」のようなものがあって、そこから飛んでくる電気を各家電に取り込む、というイメージです。

夢のような話かと思われるかもしれませんが、このワイヤレス給電(非接触型給電とも)はすでにかなり技術開発が進んでいて、実用化の段階に入っています。
もちろん大容量の電気の長距離無線送電の実用化はもっと先の話になると思いますが、10メートル、20メートルくらいの家庭規模の距離であれば、送受電できるシステムは比較的近いうちに実用化されるでしょう。

このワイヤレス給電技術が普及すれば、家の中も無線化して生活がより快適&便利になるはずです。もちろんコンセントもなくなりますから、コンセントの場所によってテレビやオーディオを置く場所が限定されなくなり、部屋のレイアウトの自由度も増します。

スマートフォンも、うちに帰って毎日充電器に繋いで充電しなくても、家に帰ってそのまま玄関に置いておくだけで、あっという間に充電してくれるような時代が来るでしょう。

■デザインの可能性を広げる技術

また、製品の中に蓄電池、充電池を入れることを前提にデザインしなくていいので、家電製品のデザインも大きく変わるでしょう。

バッテリーの重たいノートパソコンも軽量化されて持ち運びが便利になり、今までできなかったデザインも可能になるはずです。おそらく電気自動車のデザインも変わり、様々な機器のデザインの可能性が広がるはずです。

さらに、機器から接続端子をなくすことができるため、ホコリが機器の中に入って誤作動や故障を起こすリスクを減らせるだけでなく、防水機能を持たせることができるという利点もあります。

■無線技術の先駆者、ニコラ・テスラ

みなさん「電気を電波のように無線で飛ばす」と言うと、少しびっくりするかもしれませんが、考えてもみてください。

雷の電気は空中で発生して空中を飛んでいます。また、静電気も空中を飛んでいるわけですし、みなさんが子供の頃理科の実験で目にした電磁石でも、空間を電気が移動しています。

そもそも電気は線(ワイヤー)がなくても空中を移動できるものなのです。

こうした電気の特性を利用して、電気を線(ワイヤー)なしで送ったり受け取ったりできる「無線送電」の仕組みを、なんと100年以上前に研究開発し、実際にシステムを作り上げた研究者がいます。

彼の名はニコラ・テスラ。旧ユーゴスラビア出身でアメリカに渡ってエジソンの元で研究活動をした、無線技術の先駆者と呼ばれる発明家です。

ニコラ・テスラは無線、ラジオ、無線操縦、放電照明、現在我々が使っている冷蔵庫やエアコン、洗濯機などに使われている交流モーターの技術や原理を発明しました。

日本ではテスラの名はあまり知られていませんが、アメリカではエジソンやアインシュタインなどと並び誰もが知っている天才科学者です。

テスラは数多くの人類史に残る重要な発明を成し遂げたにもかかわらず、生前はその業績が正当に評価されることなく生涯を終えた「不遇の天才」と呼ばれるサイエンティストでしたが、近年になって改めて再評価されはじめています。

ちなみにイーロン・マスク率いるテスラモーターズの社名は、彼の名前からとっていることは有名な話です。

そんなテスラが、無線による電力の伝送「無線送電」の研究・実験に取り組み始めたのは、今から100年以上前の1890年代後半のことでした。

テスラは「電気エネルギーを無線で送受信できれば、送電線を使った送電コストを大幅に削減でき、世界中に電気が送れる」と考え、この研究を始めたのです。

テスラは何度も実験と失敗を繰りかえし、無線送電システムを作り上げていきましたが、様々な事情により挫折。結局、無線による送電の実用化は実現しませんでした。

■ワイヤレス給電の需要が技術を進歩させる

それから今日までの約100年間、人類は電気を電線(ケーブル)で送受信する「ワイヤー送電(給電)」で電気のやりとりを行ってきました。

この100年間、ワイヤレス給電の実用化をめざした研究も開発もほとんど進められてこなかったのは、やはりそこにニーズがなかったのだと思います。

「別に有線でいいのでは。そのほうが安全だし、わざわざワイヤレスで飛ばす必要はない」という考えです。

また、昔は電化製品の数自体が少なかったので、先ほど話したような有線による不便さというものも感じなかったのだと思います。

しかし今、ようやく人々がワイヤレス給電を切に求める時代になり、100年前にテスラが失意のうちに断念したワイヤレス給電に、改めて大きな注目が集まっているのです。

やはりテクノロジーの発達、普及はニーズありきですから、これからは、電線を使って電気を運ぶこと自体がちょっと非効率だよね、不便だよね、という時代になっていき、ワイヤレス給電が急速に普及していくでしょう。

■コストが下がれば需要が増える!

これから日本は人口減少に向かっていきます。ということは、電気の使用量、電力需要もそれにともなって減っていくのでしょうか。ある試算によると、今後日本国内の電力消費量は、人口減少や省エネなどによりマイナスに転じていくだろうという予測もあります。では電気の需要が増えなければ、ここまで話したように発電システムが多様化して発電量が増えても、せっかく作った電気が余ってしまう、つまり余剰電気が増えてしまうのでしょうか。そうなると、私がここまで話してきた「無駄がなくなる世の中」と反対に、無駄が生じる社会になってしまいます。

ですが、私は今後日本のみならず世界の電力需要はさらに増えていくと考えています。その理由は2つです。

一つは電気代、電力のコストが下がるためです。すべてのものはコストが高ければ自然と需要が減り、コストが下がれば需要が増えます。水道水も非常にコストが低いからこそ、多くの人は普段あまり水道代を気にせず水を使っています。インターネットも最初は通信量が高かったのが、今のように安くなったのでこれだけ普及したのです。

紙も、100年前、200年前はきっと非常に高くて、ごく一部の地位・身分の人や知識人しか手にすることができなかったはずです。今は1枚1円もしません。それによって需要が増えて本の文化や教育などが発展し、様々な仕事も増えました。それと一緒で、コストが下がれば今までそれを使えなかった人が使えるようになるのです。

電気も同じです。車もガソリン車だと人によっては月1万~2万円くらいをガソリン代に使っています。これが電気自動車だと月数百円ですむということになれば、みんな電気自動車に乗るようになるはずです。そうなると電気自動車が急速に普及していくでしょう。電気が安くなって電気の使用量、消費量が増え、それにともなって発電システムも発達して発電量も伸びていく。発電量が増えればさらに発電コストが下がるので使用量が増える、という好循環が生まれるのです。今はまだ、発電コストが下がらないので使用量も増やせないのです。今後、太陽光発電など再生可能エネルギーが普及し、分散型発電によって「消費量が増えることで地球環境が悪くなるわけでない」という社会になれば、ますます電力需要は増えていくはずです。

■増え続ける電力消費量

もう1つ、今後電力需要が増えるだろうと考える理由があります。それは、これからのIoTを中心としたテクノロジーの発達、AI(人工知能)やスパコン(スーパーコンピュータ)の進化、普及により、電気エネルギーを必要とするマシン、デバイスが無限に増えていくと予測されるからです。

先にも述べたように、IoT化が進むことによって、現在の約3000倍のモノがインターネットにつながるようになります。ということは、電気を必要とするモノも3000倍に増えるということです。また、ロボットやAI搭載型の新しい機器、ウェアラブル端末など、今まで存在しなかった新しい電子機械も増えていくでしょう。それらが個々にどれほど電力を消費するものなのかは分かりませんが、地球上に電気エネルギーを動力とするマシンが膨大に増えていくことは確かです。

ドローンは今後急速に普及するマシンの中でもかなり電気をくうモノの一つですが、一方でこれから日本が世界をリードしていける分野であろうと期待されているスパコンも非常に電気量がかかるものの一つです。今後こうしたスパコンが世界的に増えていけば、それにともなって電力消費量も大きく増加していくでしょう。

今後ドローンやスパコンのような機器がさらに進化発展していくためには、電力コストがもっと下がる必要があります。今は電気代が高くて実現できないこと、実用化に向けて開発が進まない製品がたくさんあります。電気代が安くなれば、そうした製品の実用化が一気に進む可能性があるのです。

■電気のシェアが始まる!

電気のやり取りがワイヤレスになることで非常に重要な変化が起きるはずです。それは、先に述べた「電気を人に分け合う」「共有がしやすくなる」=電気をシェアできるようになることです。

近い未来、カフェなどで給電・充電して課金できるようになると考えていますが、その場合も今のようにスマートフォンの電源をコンセントに差し込むのではなく、スマートフォンでWi-Fiと同じように、無線で電気を受け取れるようになるでしょう。

また、あなたがカフェで友人と話をしていたとして、そのときあなたのスマートフォンの電源が切れそうになっていたら、「ちょっと電気貸してくれない?」と言って、その友人のスマートフォンに貯まっている電気を、まるで赤外線通信のようにピピッと送ってもらう、といったこともできるようになるはずです。

貸し借りした電気の量はきちんとデジタルデータとして残っているので、後でまとめてきちんと返す。こうしたスマートフォンを介した電気の貸し借り、やりとりは近いうちにごく当たり前になるのではないかと思います。

そうなると、本当にスマートフォンがひとつのバッテリー兼、電気の送受信装置のような感じになり、スマートフォンに貯まった電気を他の家電製品に、まるでリモコンのようにピピッと飛ばして充電できるようになるでしょう。

繰り返しになりますが、こうしたことが可能になる前提条件が前述した電気の「デジタル化」です。

無線でお互い融通し合った電気でも、どれだけ誰が使ったかが分かるようになる、どの端末にどれだけ給電したかが分かるようになるからこそ、こうしたニーズに対応できるようになるのです。

■デジタル化が「電気エネルギーのシェア化」を進める

外国人旅行者向けのワイヤレス給電サービスも、日本にいる間どんな場所で充電をしても、クレジットカードの明細のように帰国してから電気代の請求書が届いて、いつどこでいくら電気を使ったかが分かるようになるでしょう。

それもすべて電気のデジタル化が可能にするものです。かつそれが将来的には仮想通貨でオンライン上で決済されて払われるようになったらもっと便利ですよね。

先日、電気代を仮想通貨で支払うサービスを始めた会社が登場したというニュースが出ていましたが、今後そうしたシステムが急速に普及していくはずです。

■Wi-Fiサービスの次に整備が必要なワイヤレス給電サービス

ワイヤレス給電によって便利になること、役に立つことはまだまだたくさんあります。

今、訪日外国人が増えていますが、私たちが海外に行ったとき困るように、日本に来た外国人が観光などでずっと街中にいるとき、スマートフォンのWi-Fiや充電に困っていて、みなさんWi-Fiスポットや充電できる場所を探しているようです。

今日本は外国人観光客向けのWi-Fiサービスの充実が課題になっていますが、これからの訪日外国人向けサービスとして、電源サービス、給電サービスの整備も重要な課題になっていくでしょう。
そこで鍵になるのがワイヤレス給電です。

もし日本国内の街中にワイヤレス給電スポットが増えて、Wi-Fiのように簡単に、いつでもどこでもスマートフォンに充電できれば、旅行者にとってこれほど便利なことはないでしょう。

東京都が東京五輪に向けて「電線地中化」に加え、東京の街に「ワイヤレス給電ステーション」をたくさん作ってくれたら、世界へ向けた日本のテクノロジーのアピールにもなりますし、世界中から東京に来るアスリートや人々に感謝されるのではないでしょうか。

こうしてデジタル化とワイヤレス給電技術が「電気エネルギーのシェア化」を後押しするのです。

■ワイヤレス給電は人の活動範囲を広げる

ワイヤレス給電は災害時にも大いに役立ちます。

災害時に通常の電力供給がストップしてしまい、携帯の電源が切れてしまいそうなとき、そこにワイヤレス給電の機械があればすぐに充電でき、家族とも連絡がとれます。

また、よく山で遭難してしまった人がスマートフォンの位置情報で自分の位置を確認して捜索隊に連絡して助かった、という話を聞きますが、山岳地帯などにもワイヤレス給電スポットがあれば助かります。

このように、山の中であろうが砂漠地帯、荒野であろうが、ワイヤレス給電で電気が確保できるようになれば、これまで電線がきていない、電気がないから暮らせなかったところでも生活できるようになります。
もしかしたらそこで同時に太陽光発電も行いながら大規模なIT農業ができるようになるかもしれません。そうなればオフグリッド生活も急速に広がります。

このようにワイヤレス給電は、家の中以上にアウトドアでの生活において大きな利用価値が出てくる技術であり、この技術によって、我々人間の活動範囲が大きく広がる可能性を秘めています。

■ワイヤレス給電の需要が高まるドローン

現代のタケコプターとも言えるのが、今世界中で注目されている無人小型航空機「ドローン」です。
私は、ドローンはEVと並んで近い将来、ワイヤレス給電のニーズが急激に高まるマシンのひとつだと考えています。

ところでそもそもドローンは、そんなに私たちの生活に必要なものなのか? どんな需要があるのか? と疑問を抱いている方が多いと思います。そこで、まずは近い将来実現すると考えられるドローンの活用例を具体的にご紹介しておきましょう。

1 物流・配送

ドローンは、まずモノを運ぶ物流・配送の分野で大きな貢献を果たすことになるでしょう。つまり、今宅配便などで人間が商品を運んでいる作業を、ドローンが代わりにやってくれるのです。

実際、すでにアマゾンはドローンを使った次世代の物流・配送システムを開発、実用化を進めています。ワンクリック注文からわずか30分、1時間以内で商品が自宅に届くという未来はすぐそこまで来ています。

2 災害救助

山や海などで人が遭難したとき、救助隊がなかなか遭難現場を見つけられない、または遭難の場所が分かっていても、危険がともない人間が近づけない、というケースがよくあります。そんなとき、やはりドローンが役立ちます。

また地震や台風などの天災や災害発生時、ドローンはどんな過酷な状況下でも飛行でき、搭載されたカメラやセンサーで状況調査や人命救助の手助けができます。

3 監視・点検

高い建物や巨大な屋外設備(たとえば巨大アンテナやタワー)など、今人間が事故のリスクを負いながら、または長時間かけて行っている監視・点検作業を、これからはドローンが行ってくれるようになり、そうした作業の効率化に貢献します。

また人間では入り込めない狭い場所にも入れるので、そうした作業の領域が広がり安全性が高まります。

4 映像撮影

ドローンは、その飛行方法、操作性の高さから、今まで人間が撮影できなかったような映像を撮影することができます。

今後さらにドキュメンタリーや映画、CMなどの商業用映像などに活用されるでしょうし、報道映像などジャーナリズムの分野でも活躍するでしょう。

これまで戦場カメラマンが命がけで撮影していた映像以上の衝撃的な映像を見せてくれるでしょう。

5 農業ビジネス

今、最先端テクノロジーを活用した「IT農業」(スマートアグリ)が注目されていますが、ドローンは農業の分野でも期待されています。

たとえば広大な農場を監視して作物の生育状況や問題をチェックしたり、肥料や農薬を散布したり、農業ビジネスの効率化に貢献するでしょう。

6 電波や電力の発信装置

ワイヤレス給電技術を利用して、ドローン自体が電気を各家庭などに飛ばす「空飛ぶワイヤレス給電装置」になる可能性もあります。

そうなると、今、送電インフラがなく電気を使えない地域にでも電気を使うことができるようになります。
また、まだまだ地球上にはインターネット接続できない地域がたくさんあります。そうした地域に飛んでいって「空飛ぶWi-Fi基地」となり、世界中の人がインターネットにアクセスできるようになるかもしれません。

■ワイヤレス給電の技術が、ドローンの使用用途を広げる

ドローンは、ただリモコン飛行機のように飛ばしているだけでは意味がありません。

スマートフォンやインターネットと連動することにより、その利用価値・用途が無限に広がっていくのです。ドローンのもたらす経済効果は2025年までにアメリカ国内だけで8兆円を超えると試算されていますが、現在、ドローンの技術開発における大きな課題の一つがバッテリー問題です。バッテリーの性能・容量が飛行時間に大きく関わってくるからです。

ドローンは充電式で、メーカーによって様々な充電池が使われていますが、現在販売されているドローンの平均的な飛行時間はたったの20分。これでは先ほど話したような実用化はできません。

今、代替バッテリーが研究されていますが、一方で注目が集まっているのが「ワイヤレス給電」です。
タケコプターのように、しばらく飛んでいたらバッテリーがなくなって、またもとの場所まで充電のために戻ってこないといけない、では役に立ちません。

ドローンへのワイヤレス給電技術が発達すれば、ドローン同士が空中でお互いに電気の融通をしたり、母船のようなドローンから各ドローンに電気を飛ばして充電したりといったこともできるようになるでしょう。

最近、立命館大学の院生グループがマイクロ波で給電しながら飛ぶドローンを開発し話題になりましたが、ワイヤレス給電技術が実用化すれば、ドローンの飛行時間とともに飛行領域が一気に拡大します。

また、もっと大型のドローンで人やさらに重い物を乗せて移動できるようになるでしょう。新たな夢が広がります。

■EV(電気自動車)のワイヤレス給電

ドローンとともに、今後、ワイヤレス給電を必要とするモノがEV(電気自動車)です。

今、電気自動車に家や充電ステーションで充電するときには専用のプラグ(ケーブル)を接続する必要がありますが、このプラグの着脱には結構手間がかかります。

しかし、ケーブルを使わないで駐車場などに止めておくだけで無線充電できればこんなに便利なことはないでしょう。

今、そうしたニーズに応えるべく、トヨタ自動車や三菱自動車工業をはじめ、世界の自動車メーカー各社は競ってEVのワイヤレス給電化の実証・実験を行っています。

そのシステムは割とシンプルで、車の下側に電気を受電する装置(パット)を搭載し、駐車場に設置した送電パットの上に車を止めれば、そのまま充電ができるというものです。

このシステムが実用化されれば、たとえばスーパーやショッピングモールに車で買い物に行って、送電パット付きの駐車場に車を止めておけば、買い物中に充電ができてしまいます。

また、路線バスもバス乗り場や停留所で停車中に充電できますし、タクシーも駅のロータリーなどで客待ち時間に充電できるようになります。

そうなったらとても効率がいいですよね。

■「自動運転車」にも不可欠なワイヤレス給電

また、電気自動車とともに実験・開発が進んでいる「自動運転車」にとっても、ワイヤレス給電はなくてはならないシステムとなるでしょう。

最近、米グーグルの親会社のアルファベットという会社が、開発中の電動式自動運転車についてワイヤレス給電の実験を行っているという報道がありました。

ペッパーのようなロボットなど、自動で動くものを充電する場合、人間がいちいち電源につないで充電するのは非常に非効率的です。

将来、決まったルートを巡回して走るような自動運転車(バスなど)が増えれば、ワイヤレス給電システムのニーズはさらに高まるはずです。

EVのワイヤレス給電システムは、停車している間だけでなく、走行中にもワイヤレス給電できる技術が研究開発されています。

NEXCO中日本は道路にワイヤレス充電装置を設置しての走行中の電気自動車に無線で電力を伝送する(走行中給電)システムの屋外走行実験に成功したそうです。

こうした技術はまだまだ始まったばかりですが、走行中のワイヤレス給電が可能になれば、搭載するバッテリーの容量も小さくなり、車体の軽量化やパッケージングの高効率化、デザインの変化など、EVの姿を一気に変えてしまうはずです。

電気を動力にした自動で動く乗り物が、自動的にワイヤレス充電されて街の中を行き交い、空を飛び交う。
近い将来、スターウォーズで見るような世界が現実のものになると思うとワクワクします。

■道路を走る車の約4分の1がEVになる未来

先ほどEV(電気自動車)が将来蓄電池がわりになるという話をしましたが、これからEVはどれくらいのスピードで社会に普及していくのでしょうか。

ある調査(Bloomberg New Energy Finance)によると、2040年までにEV販売は4100万台になると予測されています。

この数字から計算すると、EVが新車の小型乗用車販売で35%のシェアを占め、道路を走る車の約4分の1がEVになる計算になります。この予測がどこまで正しいかは現時点では分かりませんが、いずれにせよEVがこれからの電気・エネルギー産業にとって重要なキーワードになることは間違いないでしょう。

■EV先駆者のテスラモーターズ

そして、EVについて語る上ではずせないのがテスラモーターズです。

テスラモーターズは、先ほどお話ししたように、高性能の蓄電池「パワーウォール」を開発・販売している会社ですが、ここで少しテスラモーターズについて触れておきたいと思います。

テスラモーターズは、2003年に現CEOのイーロン・マスクらシリコンバレーのエンジニア数名によって設立された会社ですが、ただの電気自動車メーカーではありません。

前述のように蓄電池「パワーウォール」の開発・販売を行うなど、EVのみならずエネルギー関連のイノベーションに力を注ぐ、今世界から注目を集める革新的なテクノロジー会社です。

テスラモーターズは生産・販売方法も他の自動車メーカーと一線を画しており、ディーラー網を持たず、まるでアップルストアのように、高級ショッピングエリアなどに実物が見られるギャラリーを作り、販売は基本的にウェブを通じて行っています。日本でも東京・港区の南青山に国内唯一のショールームを開設して注目を集めています。

■エネルギービジネスのキーパーソン、イーロン・マスクとは?

テスラモーターズのCEO、イーロン・マスクは、EV事業のほかにも「スペースX」という会社を設立して、「人類を火星に送る」ことを目標にロケット開発や打ち上げなど宇宙開発にも取り組んでいることで有名です。

イーロン・マスクは第2のスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツとも言われる一方、その突飛な発想やアグレッシブな経営の仕方に対しては賛否両論あり、その評価は分かれています。

しかし私は、コンピュータの世界で人類の歴史に名を残すであろうジョブズやゲイツ同様に、イーロン・マスクは電気・エネルギー分野の革命者として人類史に名を残すのではないかと考えています。

先ごろテスラモーターズは、太陽光発電ベンチャーの「ソーラーシティ」という会社を買収、イーロン・マスクはスペースX、テスラモーターズに続く3つ目の事業、ソーラービジネスに乗り出しました。

イーロン・マスクは、宇宙産業、電気自動車産業、電気エネルギー産業、これらすべてを手中に収めつつ、それぞれの分野におけるテクノロジーやシステムを相互に結びつけ、エネルギー産業全体を支配していく。そんな野望を抱いているのでは、とも言われています。

イーロン・マスクに対する評価はさておき、彼がこれからの電気エネルギー産業、エネルギービジネスのキーパーソンであることは間違いありません。次はどんな破壊的イノベーションを我々に見せてくれるのか、大いに楽しみにしたいところです。

■ワイヤレス充電でソフトバンクの「ペッパー(Pepper)」君がもっと身近に

ワイヤレス給電は、今後増えていくであろうソフトバンクの「ペッパー(Pepper)」のようなサービスロボットにとって必須の技術になっていくでしょう。

ちなみにペッパーは今どうやって充電しているのかというと、床に置かれた「充電ベース」と呼ばれる機械の上に自分で歩いていって、「いまから充電しまーす」と言って自分で充電するシステムを備えています。
でもこの「充電ベース」はそこそこ大きいので、やはり部屋の中では邪魔な存在になります。ペッパーもいずれワイヤレス給電できるようになれば、もっと私たちの生活に密着した存在になっていくでしょう。

■アニメの中のロボットたちの動力源は何なのか

ところで、漫画やアニメの中に出てくるロボットたちは、何を動力源にしているのか? 動力源が電気であれば、いつどうやって充電しているのか? などと妄想を膨らませてしまうのは私だけでしょうか。

調べてみたところ、『鉄腕アトム』のアトムは「原子力」、マジンガーZは架空の「光子力」というエネルギー、新しい鉄人28号は「太陽光」、ガンダムは「ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉」というシステム、エヴァンゲリオン初号機は「電力」(長いケーブルを背中に繋いで充電する)で動いている、という設定だそうです。その他、漫画やアニメに出てくるロボットたちは、「乾電池」や「ガソリン」など、その動力源は様々なようです。

では、世界的にも人気のアニメ「ドラえもん」の動力源はいったい何なのでしょう? 一説によると最初の設定では「ドラえもんの体内には「原子ろ(原子炉ではない)」という物があり、この中で食べた物を原子分解してエネルギーに変換する」ということらしいのですが……、要は食べるもの、特にドラ焼きがエネルギー源ということなのかもしれません。

■かつての想像よりも進化した現代のテクノロジー

ドラえもんの動力源も気になりますが、ここで問題にしたいのは、タケコプターの動力源です。
タケコプターは電池式なのか、充電式なのか、はたまたもっと別の未来の技術を使った動力で動いているのか? 諸説ありますが、のび太がよく「タケコプターの電池が切れちゃったんだ」などと言っているので、基本的には電気で動いていると見てよさそうです。

となるとドラえもんやのび太は、時々どこかでタケコプターの充電、または電池交換をしているということになります。

でも、もしワイヤレス給電のシステムを使えば、タケコプターだっていちいち地上に降りてきて充電しなくても、ワイヤレス給電でずっと飛び続けられるはずです。

そう考えると、未来のテクノロジーを想像して描かれた漫画やアニメ作品よりも、現実の今のテクノロジーのほうが一歩先をいっているとも言えます。一昔前には想像もできなかったような技術が実現化している、ということに感慨を覚えずにはいられません。
2023.04.13 20:41 | 固定リンク | 化学
脱炭素「合成燃料」課題が...
2023.04.02

「CO₂を大気中から回収!?驚きの新技術」。DAC(ダイレクトエアキャプチャー)によって大気中から回収されたCO₂や、工場などから排出されたCO₂を使う「合成燃料」のことである。日本の実用化は2040年ごろ。

その合成燃料は、燃焼時に排出されるCO₂と相殺されCO₂排出量が実質ゼロ=カーボンニュートラルな脱炭素燃料とみなされる。

脱炭素燃料といえば、バイオマス(生物資源)を原料とするバイオ燃料もあるが、バイオ燃料よりも製造時間が短く、大量生産しやすいという利点がある。

一方、合成燃料については、国内外で様々な研究開発や実証プロジェクトが行われており、最近では東芝エネルギーシステムズ、出光興産等がCO₂をCO(一酸化炭素)に電気分解する技術を用いたプロセスにより、排ガスなどからのCO₂を「持続可能なジェット燃料」に再利用する、カーボンリサイクルのビジネスモデルの検討を開始した。

また、欧州では合成燃料に関するプロジェクトについては、政府からの支援を受けて研究開発・実証を行っているケースが殆どであり、国をあげて取り組む姿勢です。

そんな合成燃料ですが、かかえている課題の一つに製造技術の確立があります。

現在の製造技術は製造効率が良いとは言えず、効率向上を図るための革新的な製造技術の多くが研究開発の段階にあり、今後の実用化が期待されています。

また、現状では合成燃料は化石燃料よりも製造コストが高く、国内の水素製造コストや輸送コストを考えると、海外での製造が最もコストを抑えることができると見込まれています。しかし、合成燃料のコストは、「脱炭素燃料である」という環境価値をふまえて考えるかどうかで評価が大きく変わります。既存の燃料には無い付加価値も考慮して、将来性のある代替燃料として研究開発を続ける必要があります。

日本においては、今後10年間で集中的に技術開発、実証を行い、2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立し、2030年代に導入拡大・コスト低減を行って、2040年までに自立的な商用化を目指す計画が立てられています。
2023.04.02 20:59 | 固定リンク | 化学
理研「量子コンピューター稼働」
2023.03.25
初の国産量子コンピューター=24日午後、埼玉県和光市の理化学研究所

初の国産量子コンピューター稼働へ クラウド経由で利用―理研など

 理化学研究所などの研究グループは24日、開発を進める国産初の量子コンピューターについて、27日からクラウドを通じた外部からの利用を開始すると発表した。当初は研究グループ内の大学や企業で進めるが、徐々に対象を拡大したい考え。

 スーパーコンピューター(スパコン)を上回る計算能力を秘めた量子コンピューターは、研究開発の国際競争が激化している。理研などは実際に使いながら改善点を洗い出すなどして開発を進め、人材育成や関連産業の発展も目指す。
 研究グループが開発した量子コンピューターは超電導方式と呼ばれ、超電導素材を使った集積回路を、ほぼ絶対零度まで冷却して使う。情報を扱う基本部品「量子ビット」は64個搭載している。

 理研のほかに大阪大や富士通、NTTなどが参加。本体や制御装置などを開発した。



2023.03.25 12:27 | 固定リンク | 化学
再使用ロケット実験か?
2022.12.31

各地で「謎の光」目撃情報…上空に突然、地上へ降り注ぐような光

 30日午後6時過ぎ、国内の各地で夜空に浮かぶ円すい状の光が目撃され、「謎の光を見た」との情報がツイッターに相次いで投稿された。ロケットの噴煙が光って見えた可能性がある。

 目撃情報は九州地方のほか、近畿や四国、関東からも投稿された。いずれも、上空に突然、地上へ降り注ぐような光が現れて、ゆっくりと消えていったという。

 動画を投稿した宮崎県延岡市の女性会社員(31)は「驚いてすぐに撮影した。福岡県や兵庫県からも『見た』と返信があった」と話した。

 投稿された動画について、たちばな天文台(宮崎県都城市)の蓑部樹生台長は、「下に広がる形の特徴から、ロケットの噴煙に日光が当たって光ったのではないか」と話した。
2022.12.31 07:12 | 固定リンク | 化学
東京工業大学研究グループ「完全透明化」に成功!
2022.12.24


モノを見えなくする技術の開発(透明化・不可視化)に成功 光を通さない、普通の金属の細線や薄膜をメタマテリアルで塗布してあげる透けて向こうが見えるようになる…

 成功したのは、東京工業大学工学院電気電子系の小林佑輔大学院生と梶川浩太郎教授の研究グループ。

 同研究グループは、屈折率や構造などのパラメーターを網羅的に調べ、不可視化する対象物と同じ屈折率のクロ―キング媒質でも不可視が実現できることを見出し、単一物質で不可視化が可能なことを、シミュレーションによって実証しました。

 単一物質であれば、比較的容易に不可視化が実現でき、応用しやすくなります。

 研究チームは、円柱構造の物体に偏光しているある波長の光を当てたときの、光の散乱具合を計算によって解析し、散乱しにくく屈折率の大きな材料、および光の波長と円柱のサイズの関係をつきとめました。そして、光を当てたときの光磁場のようすをFDTD法(時間領域差分法)で解析し、光が物体を通過しても、光の波が通過前と同じ状態であることを確認しました(図1)。

 このとき、円柱構造内の光磁場の分布が不可視の場合は、中心部分にプラスの光磁場ができ、その上下にマイナスの光磁場が対称に存在していることもわかりました(図2)。そのため、光磁場がうまくキャンセルされて散乱光が出なくなるのだそうです。

 この研究成果によって、見えない光学素子や外部の光や電波によるノイズの影響を受けないデバイスを実現できる可能性があるということです。

 ◆同研究グループ

 私たちの研究室では、メタマテリアルを使って透明ではないモノを透明にする「クローキング」の研究をしています。

 光のクローキングの研究は世界中の研究者が一生懸命研究していますが、ほとんどは理論の研究です。私たちの研究室では、理論だけでなく実験でクローキングを実証する研究を行っています。

 また、光を吸収する構造のそばに、別の構造を近づけるだけで、全体が透明になる「電磁誘起透明化」現象の研究を行っています。これを使って、光集積デバイスや高感度なバイオ素子の研究を行っています。

 バイオ・メタマテリアル(Scientific Reports 5 15992 (2015))

 昨年、私たちの研究室では自然界の物質(葉や羽など)を使えば、簡単に極薄の黒体を作れることを発表しました。金でできている「超薄膜」を蓮の葉の表面にコートすれば、光をほとんど吸収して黒体となることがわかったのです。

 黒体というと単に黒いものというイメージがありますが、実は黒体は以下の大切な性質を持ちます。

 広い波長にわたって、どのような角度で入射した光も反射せずに吸収します。光検出器や太陽電池等の光から電気や熱へのエネルギー変換の効率化に役立ちます。また、光を利用した物質生産(人工光合成や光化学反応)にも役立ちます。

「光を吸収するものほどよく発光する」というキルヒホッフの法則があります。赤外光源などの発光素子に用いることができます。赤外線の利用は、今競争が激しい分野の一つです。
条件によっては、モノを隠したり、見えなくしたりすることができます。映像や視覚分野での利用が期待できます。

 ランダム・レーザー(Physical Review A 92 13824 (2015))

 レーザーの教科書には、レーザーには共振器が必要と書いてあります。共振器とは向かいあわせた1対の鏡やリングのような構造のことを指します。でも、共振器が無くても、光が散乱されながらゆっくり進むランダム媒質では、レーザー発振が起こります。これをランダムレーザーといいます。私たちの研究室では、ランダムな媒質やランダムではない媒質でおこるランダムレーザーの研究をしています。
2022.12.24 07:30 | 固定リンク | 化学

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