「ロシア軍のパニックを促せ」ウ軍攻勢
2023.04.25
攻撃が始まって最初の24時間が勝負だ


■ウクライナ、反攻のカギは「最初の24時間」にあり──消耗戦の泥沼を回避する唯一の道とは

79年前の上陸作戦に学べ。そして再びロシア兵をパニック状態に追い込めばその先の道は開ける。

ウクライナ軍がいつ、どこで春の大規模な反攻に出るのかは分からない。だが確かなのは、勝負は最初の24時間で決まるということだ。

第2次大戦末期の1944年春、欧州戦線における連合国軍の反転攻勢を予期していたドイツのロンメル将軍は側近にこう語っていた。「攻撃が始まってから最初の24時間が勝負だ......連合国にとってもドイツにとっても、いちばん長い日になるぞ」

あのノルマンディー上陸作戦を描いたハリウッド映画『史上最大の作戦』(1962年)で有名になった言葉だ。そう、「砂漠の狐」と呼ばれた名将ロンメルは知っていた。攻勢においては緒戦でその後の展開が決まり、勝敗も、敵に与える戦略的打撃もそこで決まるのだと。

ウクライナ軍がいつ、どこを攻めるか。どれだけの兵力を用意できるか。西側の供与した新たな兵器がどれだけ役に立つか。そうした議論や臆測は山ほどあるが、確かなことを知り得るのはウクライナ軍の上層部のみ。火力や弾薬数、兵員数、前線への補給態勢でウクライナ軍が確実にロシア軍を上回っているかどうか、私たちが知るすべはない。ただ分かっているのは、この戦争がますます消耗戦の様相を強めていること。どちらの側にも決定力はなく、ひたすら相手の消耗を待っている。

今回の戦争の「いちばん長い日」がどんな形で終わろうと、この戦争が基本的に消耗戦だという事実からウクライナ軍が逃れるのは容易でない。たとえウクライナ軍が数で勝り、士気で勝り、装備で勝っているとしてもだ。

鹵獲した露軍戦車

■相手の虚を突く戦術

反転攻勢の緒戦でウクライナが消耗戦の泥沼を回避する道は、おそらく1つしかない。ロシア軍の指揮命令系統を麻痺させ、現場のロシア兵にパニックを起こさせることだ。彼らが戦闘を放棄して逃げ出すようなら、この戦闘は大成功となるだろう。

たとえ装備の質や兵員の数でウクライナ側が勝っていても、それだけでこうした成果は得られない。決め手となるのは戦術的サプライズと戦場でのリーダーシップ、そして戦う者の士気の高さだ。この3つがそろえば、最初の24時間を制することができよう。

この3つの要素に最新鋭の武器が加われば、ロシア兵をパニックに陥れ、その指揮命令系統を麻痺させ、一時的であれ破壊することも可能だ。具体的に言えば、まずはウクライナの機甲部隊が敵の重層的な防御網を突破し、速やかにロシア軍の後方に回り込む。そして前線基地や補給拠点などの指揮命令系統を脅かす。そうすれば、パニックと麻痺が拡散する。

昨年9月の「ハルキウ(ハリコフ)の戦い」がまさにそうだった。ウクライナ側は事前に砲撃で圧力を加え、突撃の準備をしていた。それにはロシア側も気付いていた。しかし意表を突いた攻撃で戦術的サプライズを与え、数的な優位も見せつけると、ロシア側はパニックに陥り、指揮命令系統が麻痺してしまった。

こうなると、ロシア側は後方に待機している部隊を迅速に前線へ送り込むこともできない。結果、ウクライナ側は約6000平方キロ以上の土地を、わずか10日で取り戻せた。決め手は最初の24時間だった。先手を取って前線を突破したからこそ、ロシア側は混乱し、パニックに陥った。来るべき春の反転攻勢でも、ウクライナ側は「ハルキウの戦い」の再現を目指しているはずだ。

とにかく緒戦で戦術的サプライズを勝ち取ること。これが死活的に重要だ。これができれば、少なくとも短期的には、戦場での火力や兵員数で優位に立てる。

反転攻勢の準備を、ウクライナ側が隠す必要はない。偵察衛星の画像があり、安価な無人機が戦場を飛び回っている今の時代に、軍隊の集積を隠せるわけがない。大事なのは反転攻勢の時期と地点を隠し通し、ロシア側の兵力を分散させることだ。

また突破口の選定に当たっては、そこから速やかに戦線を広げて敵陣深く入り込めるよう、主要道路や交差点、鉄道の分岐点などを確保する方法まで準備しておきたい。

もちろん、最初に必要なのはロシアの重層的な防御網を突破することだ。ウクライナ軍の情報分析官が筆者に語ったところでは、同国南部を支配するロシア軍は地雷を敷き詰め、「竜の歯」と呼ばれるピラミッド形のコンクリートブロックや、戦車の進撃を阻む溝や壕、塹壕などを至る所に配置している。またハルキウやへルソンでの敗北に学び、今は前線を縮小し、兵員の集積度を高めている。

これだけの防御網を一撃で破壊できるほどの火力を、ウクライナ側が用意するのは不可能に近い。ロシア軍の陣地を素早く制圧するに足る兵力を投入することも難しい。

激しい砲火を浴びながら敵の重層的な防御網を破壊し、進撃するのは至難の業だ。戦車や装甲車両が前進できるように地雷を除去し、「竜の歯」や落とし穴を破壊するには、いずれも専門的な機材と高度な技術が必要になる。

だから成功への近道は、ロシアの守備隊が自らの陣地を放棄して逃げ出すように仕向けること。自分たちが孤立し、包囲されるという恐怖を抱かせ、ロシア兵にパニックを起こさせることだ。

ロシア軍の防御が比較的に薄い場所を見つけ、局所的で一時的でもいいから圧倒的な火力を見せつける。そして敵がひるんだところで前進し、敵陣の後方に回り込む。ウクライナ側が最初の24時間を制し、戦略的な突破口を開くには、おそらくこれしかない。

緒戦で死活的に重要なのは戦術的なリーダーシップだ。つまり戦場の最前線で臨機応変に対応し、命令を下し、結果を出せる下級レベルの指揮官の存在である。

■問われる現場の指導力

そもそも軍事作戦は、とりわけ大規模な攻勢は「組織化されたカオス」でしかあり得ない。考えてみればいい。進撃する部隊が道を間違える可能性もある。敵の通信妨害で部隊間の連携が崩れる恐れもある。進撃中に、敵がどこに潜んでいるかを正確に把握することも難しい。

こうした不確定要素、つまりカオスに打ち勝ち、少なくとも軽減するためにはしっかりとした戦術的リーダーシップが欠かせない。

戦場での統率力も死活的に重要だ。これは現場の兵士たちの士気を大きく左右する。指揮官が戦場での混乱に圧倒され、うろたえるようでは、兵士たちは指揮官を信頼できず、たちまち士気を失う。そうなったら、攻撃の緒戦でパニックに陥るのはウクライナ兵のほうだ。

前線の戦術的指揮官はロシア軍の防御の弱点を見抜き、できるだけ多くの機甲部隊をその場に投入し、素早くロシア軍の後方に回らせなければならない。

そのためには、たとえ空からの支援を望めない地点であっても進出し、敵と戦う必要があるだろう。大きなリスクを伴うから、隊員の士気が高くなければ勝ち抜けない。

反転攻勢を仕掛ける前に、こうした戦術的リーダーシップと兵員の士気において優位に立っていること。これが大事だ。そうすればパニックを起こさず、最初の24時間を超えても戦術的優位を保てる可能性が高い。

戦術的サプライズと現場の統率力、兵員の士気に加えて、反転攻勢の成否を左右する要因がもう1つある。ロシア側が後方待機の部隊を前線へ送るのをどれくらい遅らせられるかだ。ここでも最初の24時間がカギとなる。もしも最前線でパニックが起き、逃げ帰る兵士や車両で道路が塞がれたら、後方の部隊はなかなか前線に到達できない。

いずれにせよ、来るべき春の攻勢の最初の24時間はウクライナの「いちばん長い日」になるだろう。現在のような砲撃の応酬を繰り返す消耗戦が長く続けば、どう見てもウクライナ軍は苦しい。だから、まずは反攻の緒戦で敵の指揮命令系統を麻痺させ、兵員のパニックを誘い、敗走させること。それができれば、少なくとも戦術的な戦果にはなる。

むろん、それが長期にわたる戦略的優位に、いわんやこの戦争の勝利につながるかどうかは、また別な話だが。
2023.04.25 20:18 | 固定リンク | 戦争
ウ軍ドニプロ川東岸に拠点→反攻前兆か
2023.04.25
ウクライナ軍、ドニプロ川東岸に拠点か 南部のロシア掌握地域


■ウクライナ軍、ドニプロ川東岸に拠点か 南部のロシア掌握地域

ウクライナ軍が南部ヘルソン州のドニプロ川東岸に拠点を確保したとする報告が出ている。これまでロシアが掌握していた地域であり、事実であれば、ウクライナ軍の今後の攻勢において重要な意味をもちうる。

米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が23日に公表した報告によると、ロシアの軍事ブロガーが同日、「(ウクライナ軍の)前進を確認するのに十分な、位置情報を伴う映像と文字報告」を投稿した。

その投稿からは、ウクライナ軍がドニプロ川東岸のオレシキーの北西部で活動していることがうかがえるという。

ISWは、ウクライナ軍の前進の規模や意図を分析できるだけの情報はないとした。

BBCウクライナ語は軍関係者の話として、ヘルソン市付近で「ドニプロを渡る特定の動き」があったと伝えている。

ウクライナ軍はこうした動きが事実か明らかにしていない。ロシアは否定している。

ロシアは現在、ヘルソン州のドニプロ川の東に位置する地域を全面掌握している。ドニプロ川は川幅が広く、天然の障壁の役割を果たしている。

州都ヘルソンはドニプロ川の西岸にあり、昨年11月にウクライナ軍が解放した。

■専門家は困難を指摘

もし今回の報告が正しければ、ウクライナがロシア軍を押し返すうえで重要な意味をもちうる。

将来的には、2014年にロシアが併合したクリミア半島に続くロシアの陸路を断つ可能性もある。

クライナ軍はしばらく前から、大規模な反攻に向けて準備中だと表明している。ただ、反攻の時期や場所は明らかにしていない。

ロシアの軍事ブロガー「WarGonzo」は24日、ウクライナ軍がドニプロ川の新旧水路の間にある島を「足場にしようとしている」と伝えた。

ただ、軍事専門家らは、ドニプロ川東岸の橋付近で軍が行動するのは困難を伴うとしている。氾濫の影響を受けやすく、用水路などの障害物が縦横に走っているからだという。

空軍力ではロシアが大きく優位に立っており、そのこともウクライナ軍の前進を複雑にするとみられている。


■ロシア支配地に拠点、反攻前兆か ウクライナ軍、明言避ける

ウクライナ軍南部作戦司令部のフメニュク報道官は23日、ウクライナ軍が南部ヘルソン州のロシア側支配地域に拠点を設けたとの情報を巡り、地元テレビの取材に肯定も否定もしなかった。拠点設置が事実ならば、ウクライナ軍が準備する大規模反攻開始の前兆だとの臆測が出ている。

 米シンクタンクは22日、ロシアの軍事ブロガーのSNSへの投稿などを基に、ヘルソン州を流れるドニエプル川東岸にウクライナ軍が拠点を設けた可能性があると分析。ウクライナは昨年、対岸にある州都ヘルソンを奪還し、ロシア軍は東岸に追いやられた。

フメニュク氏は「軍事作戦を実行するには沈黙を必要とする」と述べた。


■原因不明の火災が相次ぐロシア、背後にいるのは誰なのか?

ロシアの首都モスクワで5日、煙が上がった。国営タス通信は、小規模な火災が一時的に発生したがただちに消火活動が行われ、犠牲者は出なかったと報じた。火災が発生したのが国防省の本部であること、しかもその建物が大統領府(クレムリン)の目と鼻の先であることなどは単なる偶然なのかもしれない。だが、ロシアでは最近、大規模な火災が頻発している。公開情報に基づく分析手法「オープンソースインテリジェンス(OSINT)」機関のモリファルがその詳細を伝えている。

ウクライナ侵攻の開始前まで、モリファルは市場や企業、個人について報告する営利企業だった。ところが現在、同社はOSINTを活用し、ボランティアでウクライナを支援している。同社はこれまで、戦争犯罪者の特定やロシアのプロパガンダに対する反証などを行ってきた。また、1月にはロシアで発生した大規模火災の件数を分析。特に昨年11月と12月には火災発生率が26%上昇し、指数関数的に増えていると指摘した。

モリファルのダリア・ベルビツカはフォーブスに「ロシアの軍事工場や発電所の火災に関する情報の取り扱い方に小さな変化が起きている」と証言する。「向こうの報道機関は、こうした出来事を以前ほど報じていないようだ。しかも、たとえ報道されたとしても重要な内容が含まれていなかったり、被害の程度が軽んじられていたりする。幸いなことに、モリファルは必要なアクセス権を持つ信頼できる情報源から詳細な情報を入手することができた」

同社の最新の報告書からは、ロシアで火災の発生件数が急激に増加し続けていることが明らかになった。昨年通年の火災発生件数が414件だったのに対し、今年1~3月の3カ月間ですでに212件に上っているのだ。いずれも数百万ドル(約数億円)規模の被害が出ており、経済がすでに低迷しているロシアにとっては打撃となっている。

モリファルによると、火災が最も多く発生しているのは倉庫や工場、商業施設のほか、石油や天然ガスの貯蔵施設やパイプラインだ。火災の一部は、軍需企業の工場やウクライナとの国境に近いロシア南西部ベルゴロトにある弾薬庫などの軍事施設で発生しているが、ほとんどの場合、明白な軍事的関連性はなかった。

火災が最も集中している地域はモスクワで、昨年国内で発生した全414件の火災のうち、約1割に相当する40件が同市内で発生している。その傾向は今年に入ってさらに強まり、212件の火災のうち、16%以上に当たる35件がモスクワで発生。うち20件が倉庫、6件が工場で起きている。

■ロシアで火災が急増している原因は?

モリファルのアナリストは、火災件数が急増している原因として、ロシアのウラジーミル・プーチン政権に反対する国内の反政府組織による行動、またはウクライナ軍による長距離破壊工作の2つの可能性を指摘している。現時点では、この2つの組み合わせの可能性が高いと考えられている。

ウクライナ側の活動としては、同国軍を支援する現地のカムバックアライブ財団がクラウドファンディングで資金を調達した「ブラックボックス」という取り組みがある。この活動で4000万フリヴニャ(約1億4600万円)以上の資金が集まり、同財団は昨年10月「ロシアの攻撃力を低下させることができる装備を購入し、ウクライナ国防省の国防情報部に引き渡した」と報告した。

一方、ウクライナ国防省で国防情報部長を務めるキリロ・ブダノウ少将は「守秘義務の関係で今回の協力の詳細については公表できないが、その成果は必ずや戦場で明らかになることだろう。私たちの試算では『ブラックボックス』と呼んでいるこの取り組みにより、10月だけでロシアに数百万ドルの損害を与えたことになる。支援者や関係するすべてのウクライナ人とともに、私たちは敵の戦闘能力に影響を与え続ける」と説明した。

モリファルによると、ロシアで火災が急増したのは、謎のシステム「ブラックボックス」の納入時期と一致しているという。

ところで「ブラックボックス」とは一体何なのだろうか? カムバックアライブ財団はこれ以外にも「実際の戦場でロシア軍に損害を与える」攻撃型サイバー戦争能力や長距離自爆型無人機などに取り組んできた。いずれの技術も遠方から火を起こすために使われるかもしれないが「ブラックボックス」がどちらの技術にも含まれていないことは、これが完全に別物であることを示している。

ロシアの報道機関は戦線後方で起きた火災や爆発を、たばこの火の不始末によるものだと伝えているが、ウクライナ側はこれを一笑に付している。確かにロシアには、ガソリンスタンドで給油している最中にたばこに火をつけようとして炎上した男性のように、不注意な喫煙者もいる。しかし、これでは火災の発生件数が急増している原因を説明できない。

モリファルのベルビツカは「軍事施設での火災が増加する傾向が続けば、国家がそれを隠蔽しようとする可能性があり、こうした出来事に関する報道はさらに限られてくるかもしれない」と語る。「何が起きているのか、それがロシア人の安全にどのような影響を及ぼすのか、一般市民の間にさらなる懸念が生じる可能性もある」

原因は謎のままだ。だが、この状況が続けばロシア当局は向こう数カ月の間に、この火災の背後に誰がいるのか、あるいは何があるのかを突き止める機会が増えることになるはずだ。
2023.04.25 15:30 | 固定リンク | 戦争

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