「戦争は最終局面に突入」ロシア崩壊現実に
2023.03.03
11の時差にまたがる広大な領土が政治的な空白地帯になると、キッシンジャーも警告

プーチンが語り始めた「ロシア崩壊」の脅しは核より怖い?

長距離攻撃の“秘策”英ミサイルをウクライナ機に搭載 クリミア奪還でなく“孤立作戦”も

「近くまで飛んで行って発射すればクリミア半島全域をカバーでき、ゲームチェンジャーになりうる」

長距離攻撃能力が求められる中、イギリスが供与を発表した『ストームシャドウ』。射程250㎞という長距離射程の巡航ミサイルだ。命中精度が高く、ステルス性能まで備えているという。しかしこれ、空中発射型ミサイルだ。つまり、戦闘機に搭載して、空から発射しなければならない。これでは、西側戦闘機の導入を待たなければ使えない。ところが、ここに奇策があった。

イギリス製のミサイルを、ウクライナ軍が扱い慣れている、旧ソ連製の航空機に搭載しようというのだ。ウクライナには、ミグ29戦闘機や、スホイ24爆撃機など111機の旧ソ連機があるが、当然、そのままイギリスのミサイルを搭載できるはずはない。果たして、どうやって搭載するのだろうか?

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「これは、ウクライナが求めている戦闘機と長距離射程兵器、2つの供与をパッケージにした、一石二鳥のアイディア。イギリスのスナク首相が言い出した」

先週、ミュンヘンで、スナク首相は「イギリスは、ウクライナに長距離兵器を提供する最初の国になるだろう」と述べている。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏
「NATO諸国は、かなり、ミグ戦闘機や、スホイ爆撃機を所有してるんです。特にスロバキアとポーランドは今、新しい戦闘機への更新が進んでいて、古いものはいらない。スロバキアに関しては、2022年9月から、領空の防衛はポーランドやチェコに移管している。なので余剰戦闘機なんです。さらに、既にNATOの近代化改修というのを行っていて、NATO兵器を取り付け易い状態になっていて、わずかな改修を加えれば、(すぐ乗りこなせる)戦闘機も供与できるし、『ストームシャドウ』を搭載することもできる。さらに、ウクライナが保有している、旧ソ連製の戦闘機も同じで、これには、イギリスのエンジニアを、ウクライナに派遣して改修作業を進めています」

これは単に『ハイマース』よりも『ストームシャドウ』の射程が長いということではなく、戦闘機で、占領された地域近くまで進出して発射できるため、攻撃範囲は格段に広がる。ウクライナにある戦闘機を改修するだけでなく、すでにストームシャドウ搭載可能になった戦闘機を送る選択もあるのだ。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「例えば、クリミア半島の近くまで飛んで行って発射すれば、クリミア半島全域をカバーできる。そういう意味では、ゲームチェンジャーに成りうると思いますね」

「NATO、羨ましいなぁ…」

ポーランド首相はすでに、ミサイル搭載用に改修した旧ソ連機を、61機供与する用意があると表明。11機を提供するスロバキアの首相は「ウクライナを救うのは、国内で退役したミグ戦闘機だ」と語った。こうした支援を加速させているのは、“NATO領空警備”という規定と、東欧で進む“西側戦闘機への置き換え”だ。

スロバキアの領空の防衛がポーランドとチェコに移管されたように、NATOでは、戦闘機保有国が、非保有国の領土を守る集団防衛の枠組みを設けている。更に、東欧諸国では、所有していた旧ソ連製戦闘機を、次々退役させている。ポーランドはすでに、アメリカ製F-16を48機保有していた。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「日本と大きく違う。例えば、対潜水艦の哨戒も、防空警備も、NATOは分担して、得意な分野を担っているんですね。NATO域では、防空警戒レーダーにしても、NATOが運営していて、各国が個別にやってるわけじゃない。ひ弱な国があれば、他の国が守る」

元陸上自衛隊東部方面総監 磯部晃一氏

「元米軍高官から言われた話なんですけど、日本は凄いと。自衛隊は、24万人しかいないのに領海、領空警備、いざとなったら地上部隊が島々に行く…。日本というのは、リマーカブル(非凡)だと。日本は自前でやるしかなくて、いざという時は、米軍に援軍を求めるわけですけど…。NATOは、持ち場持ち場で得意なところをやってる。羨ましいなぁ、っていうのが、実は私の率直な印象ですね」

クリミア全体が脅威にさらされる、長距離攻撃能力を、ウクライナが持とうとしていることを、プーチン大統領も既に知っているはずだ。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長

(プーチン氏にも脅威になるのでは?)「そう思います。アメリカは戦闘機の供与と、射程300キロのミサイルの供与は、今も否定的なんです。そこを、イギリスとか、ポーランドとかが率先してやる。上手く考えたな。今後、アメリカの慎重姿勢を変えさせていく意図が、イギリスにもポーランドにもあると思う。だから、プーチン大統領からすると、かなり警戒はしている…」

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏

「アメリカが先陣を切るわけではなく、また、常に及び腰のドイツが先陣を切るわけでもない。その代わりに、イギリスとポーランドが、呼び水的な発言や、実際の供与を行う。ここでも(防衛を分担しているように)NATOの役割分担がされていて、引いて見ると、仕組まれた芝居じゃないかと…。まぁ、そこがNATOのある種の柔軟性。機能性の高いところかと…」

クリミア奪還でなく“孤立作戦”も

ウクライナ陣営から長距離、それも空からの精密爆撃能力をウクライナが得た場合どんな作戦をとるのか…

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「南部がウクライナにとって、最も大切なわけで、西側が供与する高性能の戦車321台は、すべて南部戦線に投下する。そして、旧ソ連製の戦車は、東部戦線で相手を蹴散らすために使う。さらにクリミアについて、最近、西側で議論されているのは、軍事的に全面攻撃するのでなく、クリミア内の重要な軍事基地のセバストポリの海軍基地、サキ空軍基地、ドローンを飛ばす基地、弾薬の備蓄基地を長距離兵器でまとめて攻撃して軍事能力を、クリミアから一掃する。それと同時に、クリミア橋を破壊するとともに、ヘルソン州との境界を機能不全にして、補給できないように完全封鎖し、クリミアを孤立化させるという作戦です。とにかく、こうやってロシアが、手も足も出ないようにすることです」

孤立化作戦が議論されている背景には、クリミアには、ロシア系住民がいることや、ロシアの軍事的な重要拠点があることから、ウクライナが奪還を狙っても、大変な犠牲が出るだけで、費用対効果がないと読んでいるからのようだ。

和平案や奪還案、そして今回の孤立案と、様々な議論はあるようだが、ひとつ確かなことがあるという。ロシアにとって、現状維持はないということだ。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「侵攻前のロシアと、今のロシアの軍事的プレゼンスの意味が違うんです。戦争が終わっても、ロシア軍がクリミアに居座り続けると、黒海を使って、西側は様々な貿易をするんで安心できない。安心感のためにも、ロシアを動きが取れないようにしなければならないのです」

■「近くまで飛んで行って発射すればクリミア半島全域をカバーでき、ゲームチェンジャーになりうる」

長距離攻撃能力が求められる中、イギリスが供与を発表した『ストームシャドウ』。射程250㎞という長距離射程の巡航ミサイルだ。命中精度が高く、ステルス性能まで備えているという。しかしこれ、空中発射型ミサイルだ。つまり、戦闘機に搭載して、空から発射しなければならない。これでは、西側戦闘機の導入を待たなければ使えない。ところが、ここに奇策があった。

イギリス製のミサイルを、ウクライナ軍が扱い慣れている、旧ソ連製の航空機に搭載しようというのだ。ウクライナには、ミグ29戦闘機や、スホイ24爆撃機など111機の旧ソ連機があるが、当然、そのままイギリスのミサイルを搭載できるはずはない。果たして、どうやって搭載するのだろうか?

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「これは、ウクライナが求めている戦闘機と長距離射程兵器、2つの供与をパッケージにした、一石二鳥のアイディア。イギリスのスナク首相が言い出した」

先週、ミュンヘンで、スナク首相は「イギリスは、ウクライナに長距離兵器を提供する最初の国になるだろう」と述べている。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「NATO諸国は、かなり、ミグ戦闘機や、スホイ爆撃機を所有してるんです。特にスロバキアとポーランドは今、新しい戦闘機への更新が進んでいて、古いものはいらない。スロバキアに関しては、2022年9月から、領空の防衛はポーランドやチェコに移管している。なので余剰戦闘機なんです。さらに、既にNATOの近代化改修というのを行っていて、NATO兵器を取り付け易い状態になっていて、わずかな改修を加えれば、(すぐ乗りこなせる)戦闘機も供与できるし、『ストームシャドウ』を搭載することもできる。さらに、ウクライナが保有している、旧ソ連製の戦闘機も同じで、これには、イギリスのエンジニアを、ウクライナに派遣して改修作業を進めています」

これは単に『ハイマース』よりも『ストームシャドウ』の射程が長いということではなく、戦闘機で、占領された地域近くまで進出して発射できるため、攻撃範囲は格段に広がる。ウクライナにある戦闘機を改修するだけでなく、すでにストームシャドウ搭載可能になった戦闘機を送る選択もあるのだ。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「例えば、クリミア半島の近くまで飛んで行って発射すれば、クリミア半島全域をカバーできる。そういう意味では、ゲームチェンジャーに成りうると思いますね」

■「NATO、羨ましいなぁ…」

ポーランド首相はすでに、ミサイル搭載用に改修した旧ソ連機を、61機供与する用意があると表明。11機を提供するスロバキアの首相は「ウクライナを救うのは、国内で退役したミグ戦闘機だ」と語った。こうした支援を加速させているのは、“NATO領空警備”という規定と、東欧で進む“西側戦闘機への置き換え”だ。

スロバキアの領空の防衛がポーランドとチェコに移管されたように、NATOでは、戦闘機保有国が、非保有国の領土を守る集団防衛の枠組みを設けている。更に、東欧諸国では、所有していた旧ソ連製戦闘機を、次々退役させている。ポーランドはすでに、アメリカ製F-16を48機保有していた。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「日本と大きく違う。例えば、対潜水艦の哨戒も、防空警備も、NATOは分担して、得意な分野を担っているんですね。NATO域では、防空警戒レーダーにしても、NATOが運営していて、各国が個別にやってるわけじゃない。ひ弱な国があれば、他の国が守る」

元陸上自衛隊東部方面総監 磯部晃一氏

「元米軍高官から言われた話なんですけど、日本は凄いと。自衛隊は、24万人しかいないのに領海、領空警備、いざとなったら地上部隊が島々に行く…。日本というのは、リマーカブル(非凡)だと。日本は自前でやるしかなくて、いざという時は、米軍に援軍を求めるわけですけど…。NATOは、持ち場持ち場で得意なところをやってる。羨ましいなぁ、っていうのが、実は私の率直な印象ですね」

クリミア全体が脅威にさらされる、長距離攻撃能力を、ウクライナが持とうとしていることを、プーチン大統領も既に知っているはずだ。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長

(プーチン氏にも脅威になるのでは?)「そう思います。アメリカは戦闘機の供与と、射程300キロのミサイルの供与は、今も否定的なんです。そこを、イギリスとか、ポーランドとかが率先してやる。上手く考えたな。今後、アメリカの慎重姿勢を変えさせていく意図が、イギリスにもポーランドにもあると思う。だから、プーチン大統領からすると、かなり警戒はしている…」

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏

「アメリカが先陣を切るわけではなく、また、常に及び腰のドイツが先陣を切るわけでもない。その代わりに、イギリスとポーランドが、呼び水的な発言や、実際の供与を行う。ここでも(防衛を分担しているように)NATOの役割分担がされていて、引いて見ると、仕組まれた芝居じゃないかと…。まぁ、そこがNATOのある種の柔軟性。機能性の高いところかと…」

■クリミア奪還でなく“孤立作戦”も

ウクライナ陣営から長距離、それも空からの精密爆撃能力をウクライナが得た場合どんな作戦をとるのか…

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「南部がウクライナにとって、最も大切なわけで、西側が供与する高性能の戦車321台は、すべて南部戦線に投下する。そして、旧ソ連製の戦車は、東部戦線で相手を蹴散らすために使う。さらにクリミアについて、最近、西側で議論されているのは、軍事的に全面攻撃するのでなく、クリミア内の重要な軍事基地のセバストポリの海軍基地、サキ空軍基地、ドローンを飛ばす基地、弾薬の備蓄基地を長距離兵器でまとめて攻撃して軍事能力を、クリミアから一掃する。それと同時に、クリミア橋を破壊するとともに、ヘルソン州との境界を機能不全にして、補給できないように完全封鎖し、クリミアを孤立化させるという作戦です。とにかく、こうやってロシアが、手も足も出ないようにすることです」

孤立化作戦が議論されている背景には、クリミアには、ロシア系住民がいることや、ロシアの軍事的な重要拠点があることから、ウクライナが奪還を狙っても、大変な犠牲が出るだけで、費用対効果がないと読んでいるからのようだ。

和平案や奪還案、そして今回の孤立案と、様々な議論はあるようだが、ひとつ確かなことがあるという。ロシアにとって、現状維持はないということだ。

英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏

「侵攻前のロシアと、今のロシアの軍事的プレゼンスの意味が違うんです。戦争が終わっても、ロシア軍がクリミアに居座り続けると、黒海を使って、西側は様々な貿易をするんで安心できない。安心感のためにも、ロシアを動きが取れないようにしなければならないのです」

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はここ数カ月、前任者のドミトリー・メドベージェフとロシア連邦の崩壊について話し合ってきたと、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の元顧問が語った。

ゼレンスキーの元顧問、オレクシイ・アレストビッチは2月27日、ロシアの弁護士・元反体制派政治家のマルク・フェイギンが運営するYouTubeチャンネル「フェイギン・ライブ」のインタビューで、ウクライナの最新の戦況について聞かれ、ロシアは全面的な敗北も視野に入れていると述べた。

その証拠として挙げたのが、メドベージェフとプーチンの最近の発言だ。現在はロシアの安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフは、メッセージアプリのテレグラムで核の脅しをちらつかせ、ウクライナ戦争はNATOとロシアの代理戦争だと主張してきた。

2月27日付のロシアの新聞・イズベスチヤに寄稿した論説で、メドベージェフは旧ソ連の崩壊を古代ローマやオスマントルコの滅亡にたとえ、「大国が滅びれば、戦争が起きる」と述べ、ロシアの崩壊も大混乱を引き起こすと論じた。「帝国が滅びれば、世界の半分がその瓦礫に埋もれることは歴史が証明している......ロシアが存続するかどうかは、前線の決着で決まることではない。人類全体の文明の存続を考えるなら、答えははっきりしている。われわれはロシアなき世界を必要としていない」

崩壊に伴う大混乱に備えが必要

プーチンも26日にロシアの国営テレビで世界の終末を予言するような脅迫じみた発言をした。西側との対決はロシアの国家と国民の存続を懸けた実存的な戦いであり、この戦いではNATOの核戦力を考慮に入れなければならない、と述べたのだ。

「NATOの目的はただ1つ。ソビエト連邦に続き、その主体であるロシア連邦を解体することだ」

ウクライナを支援する西側主要国はウクライナ勝利のシナリオを検討する中で、戦争の結果としてロシア連邦が崩壊する可能性についても意見を交わしてきた。エマニュエル・マクロン仏大統領はプーチンに「屈辱を与えてはならない」と述べ、外交的な解決の余地を残すべきだと主張してきた。最近ではロシアの「敗北は望むが、崩壊は望まない」とも述べている。

ヘンリー・キッシンジャー米元国務長官は昨年12月、英誌スペクテーターに寄せた論説で、「ロシアが解体されるか戦略的政策の遂行能力が破壊されたら、11の時差にまたがる広大な領土が統治の空白状態に陥ることになる」と警鐘を鳴らした。

ウクライナの国家安全保障防衛会議のオレクシー・ダニーロフ長官も最近、西側は依然として停戦に向けた落とし所を決めかねているが、そろそろ世界はロシアの崩壊に備える必要があると警告を発した。

「戦争は最終局面に突入」

ゼレンスキーの元顧問のアレストビッチは、プーチンとメドベージェフが「ロシアの崩壊について」語っていることは、事態がかなり切迫していることを示すと指摘した。「なにしろロシアの大統領が(自身の懸念を)公然と表明しているのだから」

プーチンとメドベージェフは自国の崩壊を「完全に現実的なシナリオ」とみて、「少なくもここ3、4カ月」、その事態にどう備えるか話し合ってきたと、アレストビッチは言う。

「プーチンは脅威となる可能性がある非常に重大なシグナル、非常に重大かつ深刻なシグナルにしか反応しない」

ウクライナ情報を英語に翻訳して伝えているツイッターのアカウント「ウォー・トランスレイティッド」がフェイギン・ライブのインタビューの要約を紹介し、アレストビッチの指摘を伝えた上で次のように解説している。

「大統領その人が懸念を語ったということは、今やこれが最高レベルの危機となったことを物語る。ロシアは奈落の底へと突き進んでいる......戦争は最終局面、3段階の最後に突入したと、アレストビッチは確信している」

アレストビッチは今年1月まで大統領顧問を務めていたが、ウクライナ東部の都市ドニプロの集合住宅を破壊し、少なくとも40人の死者を出したロシアのミサイル攻撃について、誤ってウクライナの迎撃ミサイルによるものだと示唆し、この発言がロシアのプロパガンダに利用されたため自ら職を退いた。
2023.03.03 08:12 | 固定リンク | 戦争
コロナ起源「決定的な証拠」
2023.03.03


新型コロナウイルスは「中国」から流出した…米報告書が下したコロナ起源「衝撃の結論」

やはり武漢から流出した…?

 新型コロナの起源について「中国・武漢の研究所から流出した」という説が再び、浮上した。今回の出所は「米国のエネルギー省」である。事実なら、中国に打撃を与えるのは言うまでもない。だが、私はそれよりも「米国の対中攻撃がいよいよ本格化してきた」点に注目する。

 武漢流出説を報じたのは、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルだ。同紙は2月26日、特ダネとして「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の起源について、研究所からウイルスが流出した可能性がもっとも高い、と結論づけた」と報じた。

 同紙によれば「ホワイトハウスや米議会の主要議員に最近、提出された報告書から明らかになった」という。ただし、報告書自体は明らかになっていない。

 ホワイトハウスのジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、CNNの番組で「大統領は情報機関に対して繰り返し、全力を尽くして『何が起きたのか』突き止めるよう、指示してきた」と語り、記事の内容を否定も肯定もしなかった。

 米国のジョー・バイデン大統領は複数の情報機関に対して、新型コロナウイルスの起源について調査し、報告するよう指示していた。国家情報長官室(ODNI)は2021年10月、全体をとりまとめた報告書を発表した。

 この報告書は「ウイルスが生物兵器として開発された」という見方を明確に否定する一方、起源については、4つの機関が「自然感染で発生した」とする一方、1つの機関が「研究所からの流出」を指摘し、残る3つの機関は「判断を留保」していた。これらの判断は、2021年8月までに得られた情報を基にしていた。

 米エネルギー省は当時、判断を留保していたが、今回、「新たな情報」を基に「研究所からの流出」と結論づけた、という。この結論について「確度は低い」と評価している。

FBIも「流出説」を支持

 一方、同紙によれば、調査に加わった米連邦捜査局(FBI)は「中程度の確信」をもって、当時から「研究所からの流出」を指摘していた。ODNIの報告書は情報機関の名前を明示していなかったので、同紙は今回、研究所流出説を唱えたのはエネルギー省だけでなく、もう1つの機関がFBIだったことも明らかにした形だ。

 これで8機関のうち、2つが流出説で、4つが自然感染説、残り2つが判断留保になった。

 FBIのクリストファー・レイ長官は2月28日、FOXニュースの番組に出演し「FBIはしばらく前から、今回のパンデミックの起源は武漢にある研究所の事故である可能性がもっとも高い、とみている」と述べた。米国の情報機関トップがウイルスの発生源について、機密扱いの情報を明らかにしたのは、これが初めてだ。

 この発言のタイミングからみても、同紙は報道前にFBIから情報を確認していたのは、ほぼ確実だ。以上から、何が言えるか。

 ホワイトハウスやODNIは、公式にはウォール・ストリート・ジャーナル報道の追認を注意深く避けているが、レイ長官のテレビ発言によって事実上、確認したも同然である。つまり、バイデン政権は「オレたちは、オマエの仕業と知っているぞ」と中国に警告しつつ、情報の核心部分は、まだ手の内を明かさず、隠し持っているのだ。

 なぜかと言えば、「切り札を切るのはまだ早い」と見ているからだろう。

過熱する米中対立

 バイデン政権はこのところ、中国に対して猛烈な攻勢に出ている。

 スパイ気球問題では、中国からの気球が米国の空を飛んでいる事実を早い段階で察知しながら、今回はあえて核関連基地が集中しているモンタナ州の上空に飛来するまで公開せず、その後、派手に撃ち落としてみせた。これで、米国の反中世論は一段と高まった。

 半導体問題では、最先端の半導体や関連技術、製造装置の輸出を禁止し、日本やオランダに同調を迫っている。ウクライナ戦争では、アントニー・ブリンケン国務長官が中国の王毅政治局員に対して「ロシアへの武器供与計画を把握している。実行したら、重大な結果を招くぞ」と警告した。

 ウイルス研究所流出説の暴露も、その一環なのだ。今回はとりあえず、米紙の報道とFBI長官のテレビ発言にとどめたが、いずれ、機会をとらえて「決定的な証拠」を世界に示す可能性がある。サリバン大統領補佐官も先の番組で「結論が得られれば、議会と国民に対して公表する」と明言している。

 米共和党の若手有望株とみられているジョシュ・ホーリー上院議員は3月1日、エネルギー省長官に対して、研究所からの流出を唱えた調査の結論について説明を求める公開書簡を発出する一方、バイデン政権には武漢の研究所とパンデミックの関係に関する情報の公開を求める法案を同僚のマイク・ブラウン上院議員と再提出した。

 この法案は最初、2021年4月に提出され、同年5月に上院を全会一致で通過している。バイデン政権としても、無視できないだけでなく、むしろ中国を追い詰める追い風になるかもしれない。

 これに対して、中国外務省の毛寧報道官は27日、研究所流出説を否定し「中国に対する中傷と政治的な追及をやめよ」と語った。米紙の報道だけならともかく、FBI長官までがテレビで語ったとなると「バイデン政権の意思を正しく認識した」結果だろう。

 研究所からの流出をめぐっては、バイデン政権の調査に先立って、共和党が2021年8月1日、詳しい調査報告書を発表している。私は同年8月6日公開コラムで詳報したが、いまあらためて読み返しても、状況証拠を積み重ねて真相に迫っていく筆致は圧倒的な説得力にあふれている。

 まるで、第1級のミステリー小説を読むような面白さだ。コラムに目を通したうえで、いずれ出てくるであろう、政権の報告書を見れば、中国がいかに偽装工作に苦心していたか、わかるはずだ。
2023.03.03 08:00 | 固定リンク | コロナ
中国「990万人コロナ検査」ヤバい事実
2023.03.03

日本人は知らない…中国の「990万人コロナ検査」で見えたヤバい事実

「もう、PCR検査受けた?」

かつて中国では、「もうご飯を食べた?」と挨拶代わりに使われた時代があった。やっと深刻な食糧不足から脱したばかりの1980年代、食卓に様々な種類のおかずが並び始めた時期のことだ。人々が顔を合わせれば、話題の中心は食事。それが人々の最大の関心事だった。

まさに挨拶が世相を反映していたわけが、都市封鎖から1か月半が過ぎた武漢市でも、新たな挨拶の流行が生まれていた。

「もう、PCR検査は受けた?」である。

この挨拶の背景にあるのは、4月から中国で行われた、とんでもない量の「大量検査」だ。4月8日、封鎖が解除されるのと前後して武漢で6人の新規感染者が発見された。これを重く見た当局は、およそ900万人を対象にPCR検査を行うことを決断、実行したのである。

およそ20日間で検査を終えた人数は990万人に達した。感染封じ込めの対応としては、凄まじいレベルの話題だが、不思議なことに日本ではほとんどニュースにもなっていない。

おそらく中国のすることに信頼がおけないのか、政治体制が違い過ぎて日本が参考にすべきケースではないと判断されているのか。

だが後者の理由だとすれば、参考にならないはずはない。

例えば、改めてほぼ全市民にPCR検査を行ったことによって確認された無症状感染者に関する情報だ。990万人のなかで無症状感染者は300人であった。これは一つの目安になろう。

武漢市当局は、この300人と濃厚接触があったと考えられる人々を追跡していて、その数は1174人にのぼった。

マスクや歯ブラシまで検査された

興味深かったのは、衛生当局が新たに見つかった無症状感染者の生活に入り込み、ウイルスがどのように周りに広がっているのか、徹底して調べている点だ。手法はサンプル調査だ。

サンプルの対象はマスク、コップ、歯ブラシ、スマートフォン、床、家具、ドアノブ、トイレ、排水溝といった身の回りの品から、感染者が利用するエレベーターのボタン、共有スペースに置かれた物や通路からも採られた。検査されたサンプルは3343にも及んだが、驚いたことにそのすべてが「陰性」と判断されたことだ。

家具や床、ドアノブやエレベーターのボタンはまだしも、マスクや歯ブラシまでが陰性であれば、隠れた無症状感染者がいても希望の持てる話だ。とりわけコロナ禍以前の日常を取り戻そうとする過程では、人々は大きなプレッシャーから解放される。

また、これとは別に武漢市疾病コントロールセンター(CDC)は都市を対象とした調査も実行。水道水、生活汚水、タクシー、路線バス、地下鉄の駅や車輛、ショッピングモール、レストラン、公園などを無作為に選びサンプルを収集し検査したのだ。一部ペットも検査対象となりサンプル数は2314にも及んだ。だが、これも同じようにすべてが「陰性」と判明したのである。

こうした検査は、言うまでもなく費用で賄われ、その額、9億元(約136億円)だという。

「今回の900万人検査は、人々の健康と安心のためであって、お金には代えられないと政府は説明していますが、そればっかりではないでしょう。潜在的リスクを減らすことができれば、それだけ早く経済活動が再開できるのですから。そのメリットを政府はより重視したはずです」(北京のメディア関係者)

心の封鎖が解除された

いま武漢では、ほぼ全員のPCR検査が実現したことで、「心の封鎖が解除された」との流行語も広がっている。4月8日が物質的な封鎖解除だとすれば、やっと心も解除されたという意味だ。

つまり武漢は、その他の中国の都市と比べてもより確実な正常化へ向けた条件を整えたと考えられているのだ。

それにしても20日で990万人もの人数をどうやって検査したのか。

実は武漢は、この検査を行うために既にあった23の検査機関に加え、新たに40の医療機関・疾病対策センターに動員をかけたといわれている。検査に従事するスタッフも、従来の419人から1451人に増員、検査機器も215台から701台へと増やしたのだ。そして1日当たりの検査数を、従来の30万人から、ピーク時には100万人規模にまで高めたのである。

新型コロナウイルスが感染を爆発させた初期、日本には中国が情報を隠蔽し初動を誤ったという報道があふれた。そのことで日本人の頭は、武漢といえば「隠ぺい」で「感染対策を失敗した」との印象が定着している。

だが現状を見る限り、武漢での感染は日本以上にコントロールされている。そのことは武漢に進出した外国企業が日常を取り戻していることからもわかる。

その武漢が封鎖を解除されるのと前後して緊急事態宣言が出された日本では、安倍政権が対応でもたつき批判を浴びた。その反対に多くの首長が国とは違う対応をして称賛された。大阪の吉村洋文知事がその典型で「大阪モデル」という言葉も生んだ。だが、こうした知事たちの対応のほとんどは、とっくの昔に武漢で実践されているものだということに、日本人は気付くべきだろう。
2023.03.03 07:44 | 固定リンク | コロナ

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