バフムート近郊「ロシア軍旅団が全滅」
2023.09.18
ウクライナ軍の精鋭旅団が猛攻、バフムート近郊のロシア軍旅団が全滅

ウクライナ軍の旅団が8月中旬に、ロシアが占領するウクライナ南部メリトポリに向かうルートの要衝であるベルボベでロシア軍の防衛線を突破したため、ロシアはパニックに陥った。

突破を受けて、ロシア軍は温存していた最後の精鋭師団である第76衛兵航空突撃師団をウクライナの東部から南部へと振り向けた。

だが、この配置転換により東部に展開するロシア軍は機動性のある予備兵力を失った。これにより、ウクライナ軍は9月15日かその直前にアンドリーウカを解放した。アンドリーウカはバフムートにいるロシア軍の補給線を支える重要な集落だ。

ウクライナ軍の指揮官らはロシア軍の指揮官らに難しい選択を迫り、その結果を利用した。これは戦略的な傾向と一致している。「ウクライナ軍の参謀本部はロシア軍の参謀本部よりはるかにまさっている」と米欧州陸軍の元司令官ベン・ホッジスは指摘した。

ウクライナ軍の精鋭部隊である第3強襲旅団がアンドリーウカのロシア軍第72自動車化狙撃旅団への攻撃を指揮した。第3旅団はアンドリーウカを包囲してから、瓦れきの中を攻め込んだ。そして9月15日にアンドリーウカの解放を発表する動画をネットに投稿した。

「電撃作戦の結果、アンドリーウカのロシア軍の守備隊は包囲され、主力部隊から切り離された。そして壊滅した」と第3旅団は述べている。

「アンドリーウカにいた歓迎されない『客人』は、第3強襲旅団によって排除されている」とウクライナ国防省はジョークを飛ばした。

2日間にわたる激しい戦闘で、第72自動車化狙撃旅団の情報責任者や将校の多く、そして「ほぼすべての歩兵」を殺害したと第3旅団は主張した。ロシア軍の死傷者と捕虜は1000人以上にのぼった可能性がある。

戦闘は残酷で、第3旅団側の死傷者もかなりの数にのぼった。「このような戦闘の結果のために、我々は高い代償を払う」と旅団は述べた。

戦闘はウクライナ軍が廃墟と化したアンドリーウカからロシア軍を掃討した最後の数時間が最も残酷だった。ウクライナ軍のドローンがロシア軍兵士に投降を呼びかけた。捕虜となったウクライナ兵とロシア兵の交換中にロシア軍の大砲が爆発したケースもあった。

ンドリーウカの解放は、約8km北に位置するバフムートにあるロシア軍の駐留地に圧力をかける。「アンドリーウカの奪還と保持はバフムートの右側面を突破する手法であり、今後行うすべての攻勢を成功させる鍵だ」と第3旅団は説明した。

■ウクライナが露セバストポリ海軍基地への攻撃で狙った大きな成果

ロシアが占領するウクライナ南部クリミア半島のセバストポリにあるロシア海軍のインフラをウクライナが攻撃し、揚陸艦と潜水艦が大きな損害を受けたようだ。同海軍に多大な損失を与えたことはともかく、艦船を修理するのに使用される大型の乾ドック施設が損傷したことで、黒海における同海軍の活動能力があやしまれる事態になっている。

現代の戦争では、乾ドックは常に真っ先に狙われる。

乾ドックは船を浮かべ、それから水を抜いて船を修理することができる施設で、海軍の戦力を維持する上で必要なものだ。重機械が複雑に組み合わさってできており、簡単に修理できるものではない。米国は損傷したわけではない乾ドックを一新するために数十億ドルを費やしている。攻撃による損傷の修復にかかる費用はかなりの額になるだろう。

ロシアが重要な軍事インフラの必要不可欠な施設を守れなかったことは驚くべき軍事的失敗であり、ロシアの防空が不十分であるか機能していない、あるいはその両方であることを示唆している。

だが今回の攻撃はロシアが必死であることをはっきりとさせてもいる。クリミア各地に何回か攻撃を受け、ロシアはドックが標的になる可能性が高いことを知っていた。だが、そうした脅威にもかかわらず、重要な黒海艦隊を維持するためにドックを使い続けた。

ロシアには他に行き場所がないのだ。

近代的な修理インフラを黒海沿岸に持っていないことは、黒海艦隊にとって深刻な問題だ。修理ができる態勢がなければ黒海艦隊全体が数カ月のうちに作戦を展開できなくなり、事実上、機能しなくなる。

第二次世界大戦の教訓を無視

第二次世界大戦で連合軍は海軍インフラの重要な部分を無力化するのに注力した。新たに建造されたドイツ海軍のティルピッツという恐るべき戦艦の脅威をなくそうと、英国はフランス西部のサン・ナゼール港にある大規模な乾ドックを破壊するのに莫大なリソースを投入した。ドイツが国外で自軍の大型戦艦を修理できる唯一の乾ドックだったからだ。

この施設を破壊するため、英国は爆薬を満載した駆逐艦を乾ドックに体当たりさせて爆破した。代償の大きな作戦だった。この攻撃に参加した612人のうち、帰還したのはわずか228人。169人が死亡し、215人が捕虜となった。

だが乾ドックは破壊された。このドックが再び使用されるようになったのは、終戦から5年後の1950年のことだった。

ロシア軍にとって最悪なのは、旅団がまるまる1個失われ、その損失を補うための予備の師団ももはやないことだ。ロシアが第76衛兵航空突撃師団を東部に戻すとしても、南部の陣地が弱体化するだけだ。

予備師団を南に移動させることで、ロシア軍は東部でのリスクを取った。これは賭けだった。そしてこの賭けはウクライナ側にとって吉と出た。

巡航ミサイルであるストームシャドウの約450kgある弾頭は、サン・ナゼール港のドックを爆破するのに使われた4トンの爆薬の爆発力には及ばない。だが、報じられたところによると、ウクライナは今回、精密攻撃ミサイルを最大10発使ったようだ。

乾ドック内の軍艦への攻撃はともかく、重要な乾ドックのポンプ室や扉、乾ドック自体にミサイルを1、2発撃ち込み、さらには替えがきかないこれらの施設の再稼働を難しくするのは簡単だっただろう。

ロシアは遠く離れたロシア南部のノボロシスク港にも利用可能な乾ドックを有している。だがそれは浮き乾ドックで、設計上、乾ドックのように戦闘による損傷の修理や大規模な改修を効率的に行えない。

セバストポリはいま間違いなく攻撃にさらされており、ロシアがダーダネルス海峡とボスポラス海峡の軍艦の通過に関してトルコが持つ管理権を反故にするか、ロシア領の黒海沿岸のどこかに船底保守を行うドックや別の恒久的な乾ドック施設を建設するかにかなり必死に取り組んでいることをアナリストらは予想すべきだ。

大問題を抱える黒海艦隊

ロシアの防空管理能力の欠如により、ウクライナは黒海のロシア軍を少しずつ追い詰める新たなチャンスを手にしている。そしてロシアは、艦船が大規模な修理を受けている間はかなり攻撃されやすいことを知っておくべきだ。

米国が2020年に失った12億ドル(約1770億円)の水陸両用の強襲揚陸艦ボノム・リシャールは、修理を受けている艦船での消火活動の難しさを示した。修理中の艦船に乗組員はおらず、燃えやすいものが多い。そして往々にして火災を1カ所に閉じ込めることができないため、修理作業場での火災は最も消火が難しいものの1つだ。

今回の攻撃の対象は特に興味深い。

ロシアはここ数カ月で2隻目のロプーチャ級揚陸艦を失った。アゾフ海を通ってクリミアに物資や装備を運ぶ能力を確実に失いつつあり、クリミアを切り捨てる可能性もある。

ウクライナはこれらの兵站支援船を標的にしている可能性がある。ロシア海軍は黒海に数隻の古いアリゲーター級揚陸艦、数隻のロプーチャ級揚陸艦、そして1隻のイワン・グレン級揚陸艦を保有している。これらの艦船はそれ自体が陸上を攻撃し得る脅威的な存在だ。ウクライナでの戦争が始まる前、さほど大型ではない揚陸艦6隻が黒海に向けて出航したとき、バルト諸国はパニックに陥った。

ロプーチャは最大10両の主力戦車と兵士約340人を輸送することができるため、これらの輸送船は、スペア部品不足で使われていないということでなければ、今年後半にクリミアがロシアから切り離されたときは重要な資産となる。

ディーゼル潜水艦のロストフ・ナ・ドヌーが今回の攻撃で失われた可能性があることはことさら興味深い。ロシア海軍の黒海潜水艦隊は、海洋で周囲に脅威を与える中心的な存在だ。気づかれることなく貨物船を撃沈したり、巡航ミサイルのカリブルを発射したりすることができる。また、偵察を行い、奇襲部隊を上陸させることも可能だ。

建造されてわずか10年のロストフ・ナ・ドヌーは、比較的近代的なキロ級潜水艦だ。今回の損失は痛手だが、修理のサポートを渇望している黒海艦隊がウクライナやグルジア、トルコ、その他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国にロシアが欲しがっている海域を譲り渡すという、今後の事態を暗示するものにすぎない。

■レオパルド2A6戦車は「夜の捕食者」、ウクライナ第47旅団の戦い方

ウクライナに供与されたドイツ製のレオパルト2A6は間違いなく最高の戦車だ。夜間や明け方に活動し、移動しながら長距離砲を放つ。「まるで猫のようだ」と、レオパルト2A6の装填手を務めるユリイはウクライナ国防省が公開したインタビューで語った。

戦車の乗員を特集しているシリーズの最新回で登場したユリイの発言は、重量69トン、乗員4人のレオパルト2A6が戦っている様子をとらえた映像から浮かび上がることを裏づけている。

そしてさらなる詳細が明らかになった。ウクライナがドイツとポルトガルから入手した21両のレオパルト2A6は、ウクライナ軍の参謀が当初意図していた第33機械化旅団ではなく、おそらく第47機械化旅団が運用している。

第47旅団は当初、スロベニアが供与したM-55S戦車を運用していた。M-55Sは旧ソ連の1950年代のT-55戦車を大幅に改修したものだ。同旅団は今春のある時点で、M-55Sをレオパルト2A6と交換し、第21機械化旅団と第67機械化旅団が防衛戦を行なっている北東部にM-55Sを送った。

6月上旬にザポリージャ州とドネツク州で始まった待望の反攻作戦の初期段階では、レオパルト2A6の投入はあまり違いを生み出さなかった。

当時、第33旅団と第47旅団はいっしょになって戦っていた。まずマラトクマチカ南方の地雷原の強行突破を試み、後に迂回路を見つけた。

レオパルト2A6を配備した効果はここ数週間で顕著になった。30両を超えるレオパルト2A4戦車を抱える第33旅団が数キロ後退したのは、戦車に爆発反応装甲を取りつける時間とスペースを確保するためだったようだ。

1980年代に製造された2A4は2000年代製造の2A6よりも防御力が低い。そのため、ウクライナ軍はまず2A4に装甲を取りつけた。

一部の人は装甲が加えられた2A4のことを「レオパルト2A4V」と呼ぶ。この改修作業のために、2A6の少数部隊はマラトクマチカから南下し、ロシアに占領されているトクマク、さらに80キロ南のメリトポリに向かう道の要衝であるロボティネを経由して南下する歩兵部隊を支援するという大きな役目を担うことになったようだ。

歩兵部隊はしばしば米国製のM-2ブラッドレー歩兵戦闘車で、しかも往々にして暗闇にまぎれてロボティネ周辺のロシア軍の防御に探りを入れた。

第47旅団の3つの歩兵大隊に装備されているM-2には昼夜使える高性能の照準装置が搭載されており、ウクライナの戦場で最高水準の照準装置を備える2A6といい勝負だ。ウラジスラフという名の2A6の砲手はインタビューで「4~5キロ先、あるいはそれ以上離れたところでもはっきり見える」と語っている。

2A6に搭載されている強力な1500馬力のディーゼルエンジンと頑丈なトランスミッションに言及したウラジスラフは、スピードも「非常に重要だ」と指摘。そして「時速50〜60キロで走行できる」と語った。

加えて、ウラジスラフによると、主砲の複数軸による安定装置のおかげで、2A6の乗員は荒地を移動しているときでも標的を難なく狙えるという。

2A6の最大の特徴である精度の高い照準装置、スピード、優れた安定性を組み合わせれば、機敏なナイトハンターとなる。装填手のユリイがいうところの「夜の捕食者」だ。ユリイは「私たちは主に夜間と明け方に活動する」と語った。

夜間の戦闘は2A6の強みを際立たせる。またロシア軍が暗闇での戦闘に苦慮していることもあって、少数の2A6部隊は敵の攻撃にさらされていない。

ウクライナ軍は供与された21両の2A6のうち、すでに3両を失っている。ほとんどは地雷による損失だが、爆発物を搭載したドローンも大きな脅威だ。第47旅団の戦車の乗員がこの3カ月、激戦をくぐり抜けてきたことを考えれば、その数はかなりすばらしいものだが、これ以上2A6が供与されることはないことにも留意すべきだろう。

ウクライナ軍が今後数カ月で手に入れる西側諸国製の戦車は、31両の米国の主力戦車M-1エイブラムスと150両ほどの40年前のレオパルト1A5だ。また、2A6は現代の戦車に比べて装甲が薄い。

つまり、ウクライナ軍は徐々に減りつつある高速で移動しながら正確に遠距離砲撃ができる2A6を今のうちに有効活用すべきだろう。
2023.09.18 21:11 | 固定リンク | 戦争

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