クラスター爆弾「大量破壊兵器」供与
2023.07.09


■米、難しい決断だった「大量破壊兵器」供与

クラスター爆弾をアメリカがウクライナに供与発表 国際条約で製造・使用禁止の殺傷力高い兵器

ロシアによるウクライナ侵攻からきょうで500日となります。こうしたなか、アメリカ政府はウクライナに殺傷力の高いクラスター爆弾を供与すると発表しました。

アメリカ サリバン大統領補佐官

「ウクライナは領土を守るために、クラスター爆弾を求めている」

クラスター爆弾は多数の小さな爆弾を広い範囲にまき散らす殺傷力の高い兵器で、塹壕を掘って守りを固めるロシアへの攻撃に有効だとしてウクライナが提供を求めていました。ただ、不発弾で民間人が被害にあう懸念から国際条約で製造や使用が禁止されていますが、アメリカやロシア、ウクライナは加盟していません。

アメリカ政府は「難しい決断だった」と強調。一方で、民間人の被害を最小限にするため“ウクライナが慎重な使用を約束した”としています。

ロシアによる侵攻から8日で500日となりますが、国連は、ウクライナでの民間人の死者が先月末の時点で9000人を超えたと発表しています。

■クラスター爆弾の殺傷力「大量破壊兵器」に準ずるもの 

親爆弾1発がもたらす被爆面積は、じつにサッカー場3面分におよびます。範囲内は全員殺傷されることになります。

クラスター爆弾の子爆弾は1個でも人の命を奪ったり、戦車を破壊して走行不能にさせるのに十分な破壊力をもっています。「湾岸戦争」でアメリカ軍が使ったBLU-97という子爆弾は、ビールのロング缶ほどの大きさ(6センチ×20センチくらい)で筒状の形をしていて、中には混合された高性能爆薬が287グラム入っていました。

この高性能爆薬が爆発すると、鋼鉄製の筒が300個ほどの破片になって、毎秒5000メートル以上の超高速で周囲に飛び散ります。この破片の威力は、戦車などに使われている12.5ミリの厚さの装甲鉄板を貫通する威力があるといわれています。

さらには、ジルコニュームという発火剤が入っていて、これが飛び散って、戦車や戦闘車両を炎上させ、燃料倉庫や爆薬庫、建物などに火をつけます。1回の作戦で200発以上の親爆弾が投下され、1発の親爆弾から子爆弾が数個から数千個ばらまかれますので、その被害はとても広い範囲におよびます。

クラスター爆弾は、兵器の分類からいえば、地雷などと同様「通常兵器」に区分されるものですが、1発の親爆弾がもたらす威力を考えると「大量破壊兵器」に準ずるものだともいえます。

核兵器、化学兵器などの「大量破壊兵器」はいまではそれを使用することは国際社会から厳しい批判を受けることになるため、どの保有国もあくまで「抑止効果」として保有していますが、規制のゆるい「通常兵器」をより攻撃効率の高い兵器に「改良」して、実戦配備するようになっているのです。

子爆弾の性能を上げれば上げるほど、その威力を増すクラスター爆弾は、強い軍事力を保持したい国々にとっては手放すことができない兵器として改良されてきました。兵士と民間人を区別することなく「面」としての攻撃に踏み切った作戦で、より広範囲に威力を発揮する兵器が、クラスター爆弾なのです。

■米、露防衛線突破に有効

バイデン米政権は7日、ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援として、殺傷能力が高いクラスター弾を新たに供与すると発表した。民間人の犠牲を招くリスクがあるとされ、生産や使用を禁じる国際条約(オスロ条約)には100カ国以上が加盟。非加盟の米国もこれまでウクライナに供与してこなかったが、ウクライナ軍が苦戦する反攻作戦で露軍の防衛線突破に有効と判断した。

クラスター弾は、一発の親爆弾に多数の子爆弾が詰め込まれ、空中から広範囲な地域に拡散して攻撃する兵器。ウクライナ軍の反攻は露軍が占領地沿いに構築した強固な防衛線に阻まれ苦戦を続けるが、クラスター弾は塹壕に身を隠す露軍の攻撃に有効とされる。

ただし、戦闘終結後も不発弾が民間人を殺傷するリスクは長期間続くとして、国際人権団体が供与に反対。バイデン政権も、ロシアがウクライナの民間施設を標的に使用してきたことを非難してきた。

米政権はウクライナの要請を受け慎重に検討してきたが、ウクライナ軍を悩ます砲弾不足の解消にもつながると判断。ウクライナが「民間人被害のリスクを最小化する」と文書で明言したのを受け供与を決めた。

■サリバン大統領補佐官

民間人殺傷リスクを認めつつ「露軍がウクライナ軍を退けて多くの領土を占領し住民を従属させれば極めて大きなリスクとなる」と述べ、領土と国民の防衛が供与の目的であり、不発弾処理の支援にも力を入れると強調した。

国防総省によると、供与される米軍のクラスター弾の不発弾発生率は2・35%。露軍がウクライナで使用してきたクラスター弾の不発率は30~40%に上る。

クラスター爆弾の生産・使用・移転・貯蔵を禁止するオスロ条約には英仏独やカナダなど北大西洋条約機構(NATO)の主要国や日本なども加盟するが、米国、ロシア、ウクライナは加盟していない。

米政権は今回クラスター弾に加え、パトリオット地対空ミサイルや高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)に使用される砲弾、歩兵戦闘車、155ミリ榴弾砲など計8億ドル(約1130億円)の追加軍事支援を行う。

■ウクライナ「塹壕を標的に」

ウクライナは、このクラスター爆弾はロシア側の塹壕を標的にする上で役立つと主張している。反転攻勢の開始から約1カ月たったが、これまでのところ大きな成果は上がっていない。米政府高官によれば、ウクライナは戦後に不発弾を除去する方針を表明しており、民間人がいる地域で使用することはない。

この計画は北大西洋条約機構(NATO)加盟国との間に緊張をもたらす可能性がある。クラスター爆弾の使用や移譲を禁止する2010年のクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)にはNATO加盟国を含む約100カ国が署名している。来週リトアニア・ビリニュスで開催されるNATO首脳会議で、この問題が取り上げられる可能性が高い。

■ウクライナ側は、「占領された領土の解放のためだけに使われる」

アメリカがウクライナにクラスター爆弾を供与する方針について、使用を禁止する国際条約に加盟しているイギリスやドイツなどは供与の動きに追随しない構えで、欧米による軍事支援のあり方をめぐって議論を呼びそうです。

クラスター爆弾は、小型爆弾が飛び散り一部が不発弾として残ることから、民間人への被害など人道上の懸念が強い武器として、使用を禁止する国際条約があります。

アメリカやロシア、ウクライナは、この国際条約には加盟していませんが、加盟国のイギリスのスナク首相は8日、「戦車の供与などでウクライナを支援する役割を果たし続ける」と述べ、クラスター爆弾の供与はしない方針を示しました。

さらに、ドイツやスペイン、カナダも、クラスター爆弾の供与には追随しない方針を明らかにしています。

ウクライナ側は、「占領された領土の解放のためだけに使われる」としていますが、11日に開幕するNATO(=北大西洋条約機構)の首脳会議を前に、欧米によるウクライナへの軍事支援のあり方をめぐって、議論を呼びそうです。

■スナク首相反対の立場

アメリカ政府がクラスター爆弾をウクライナへ供与すると発表したことに対し、イギリスのスナク首相は供与に否定的な立場を示しました。

スナク首相は8日、無差別に民間人を殺傷するおそれのあるクラスター爆弾について、「イギリスは製造や使用を禁止する国際条約に加盟している」と述べ、アメリカとの立場の違いを明確にしました。

そのうえで、これまで長距離兵器を供与してきたことなどを例に、「ウクライナを支援する役割を果たし続ける」としています。

一方、ウクライナのレズニコフ国防相はアメリカによるクラスター爆弾の供与を歓迎したうえで、「我々の領土を占領から解放する目的でのみ使用する」と自身のSNSに投稿。

「民間人の被害を避けるため都市部では使用しない」、「公式に認められたロシアの領土では使用しない」などとし、限定的な使用にとどめることを強調しました。
2023.07.09 20:28 | 固定リンク | 戦争
首狩り犯人は「女装のオカマ」
2023.07.07



■遺体は"うずくまった状態"で発見 犯人は「女装のオカマ」か

一緒にいた人物の性別は…「女装のオカマ」か 犯人は未だに行方分からず 事件の背景に「2つの謎」 ススキノ殺人事件

衝撃的な事件の背景には何があったのでしょうか。

札幌市ススキノのホテルで首を切断された男性の遺体が見つかった事件で、遺体は浴室でうずくまった状態で見つかったことが新たに分かりました。

札幌市の歓楽街、ススキノで7月2日、ホテルの部屋の浴室で首が切断された遺体が見つかりました。

遺体は浴室でうずくまった状態で見つかり、身元は恵庭市の62歳の会社員の男性と確認されました。

現場に男性の身元につながる遺留品は一切、残されていませんでしたが、身元発覚のきっかけは男性の妻が出した行方不明届けでした。

客室内に争った形跡はなく、男性は浴室で抵抗する間もなく、いきなり刺された可能性もあります。

ホテルの防犯カメラには、男性と一緒に部屋に入りその後、1人で立ち去った人物が映っていました。

男性が巻き込まれた衝撃的な事件に職場の元同僚も困惑を隠せません。

元同僚:「全然信じられないです、私たちもね。普通の人さ。人に嫌われたり、恨まれるとかしない」

男性の死因は出血性ショックで体の一部には致命傷となる刃物のようなもので刺された傷がありました。

男性の体に身を守る時にできる傷はありませんでした。

警察の調べで自宅にあった男性の指紋が一致したということです。

犯罪心理の専門家は現場の状況から、今回の事件は周到に準備されたものだとみています。

犯罪心理に詳しい品田 一郎 さん:「殺人は計画的なものではないか。短時間で行われ、衣類も持ち去ってる、ススキノという歓楽街のホテルで、最初から殺害計画を立てていたので、別の服を持っていた可能性もあるし、血痕が自分の衣類に付いたから着替えたということもあり得る」

室内に男性の頭部や所持品はなく警察はこの人物が持ち去ったとみて殺人死体遺棄事件として捜査しています。

頭部を持ち去ったとみられる人物の行方も分かっておらず、2人の接点も分かっていません。

遺体で発見された男性は、ホテルの浴室で頭がない状態で発見されたんですが、その時、"うずくまった状態"で発見されたということが新たに分かりました。

死因は出血性ショック。首が切断されたこと以外に、体に致命傷となる刺し傷があり、抵抗した時にできる傷、防御創がなかったということです。

男性は家族に行き先を告げずに自宅を出ていて、車で札幌まで移動していたということです。

7月3日の夜に、妻が警察に行方不明届を提出し、自宅で採取された指紋と、遺体の指紋が一致したため、身元が確認されました。

行方が分からなくなっている、男性と一緒にいた人物について、これまでに分かっていることは、体格は小柄で、女性のような服装でした。

入室時と退出時で違う服装で、つばが大きい帽子を目深にかぶっていたということです。

黒っぽい大型のスーツケースを持っていたということなんです。

犯罪心理に詳しい品田一郎さんはこの事件について、2つの疑問があると指摘します。

まずは、なぜ頭部を持ち去ったのかという点については、遺体を切断する事例の9割が「証拠隠滅」を目的にしたものだということです。

さらに、愛憎のもつれ、という可能性もあるといいます。

もう1つの疑問が、加害者の性別です。

防犯カメラの映像では「女性」のようにも見えていたんですが、男性がカモフラージュをしていた可能性もあるということで、ますます、不可解な事件となっています。

■知り合いの相手と入室

札幌市の歓楽街、ススキノのホテルで首を切断された男性の遺体が見つかった事件。

男性は事件前、イベントに1人で参加後、別の人物とホテル周辺で待ち合わせをしていた可能性があることがわかりました。

カラフルなライトが交差するフロアで、軽快なリズムに乗り体を揺らす男女。

7月1日の夜、札幌市ススキノ近くで行われたイベントの映像です。

ススキノのホテルで、恵庭市の62歳の男性が殺害され、首を切断された事件。

関係者によりますと、事件前、男性は1人でススキノのホテルの近くで行われたイベントに参加。

別の人物とホテル周辺で待ち合わせをし、その後、事件に巻き込まれました。

男性の体の一部には、刃物のようなもので刺された傷があったということで、これが致命傷となりました。

浴室内には争った形跡や男性の体に身を守る時にできる傷はなく、うずくまった状態で見つかりました。

また、室内には男性の頭部や車の鍵などの所持品や衣服は残されていませんでした。

関係者によりますと、男性と一緒にいた人物は小柄な体格で、女性のような衣服を身に着けていました。

つばが大きい帽子を目深にかぶり、部屋を出る時には服装を変えていたということです。

また、大型の黒っぽいスーツケースを持っていました。

男性と一緒にいた人物は、ホテルに入ってから約3時間後の2日午前2時すぎに「先に出る」とフロントに伝え、1人で退室し、立ち去ったとみられています。

■犯人は「女性、医療関係者」の可能性

札幌の首切断事件、精神科医「古代から『戦利品』極端なサディズムの傾向」

札幌市中央区のホテルで首が切断された男性の遺体が見つかった事件で、男性の車が区内の有料駐車場で発見された。車は施錠されていたが、鍵が見つかっておらず、札幌・中央署捜査本部は、男性と一緒に入室した人物が持ち去った可能性があるとみて調べている。

男性は北海道恵庭市の会社員、浦仁志さん(62)。1日に家族と顔を合わせた後、行き先を告げずに車で自宅から札幌へ移動。同行した人物とはホテルの近くで待ち合わせをしていたという。

遺体には抵抗した際にできる防御創がなかった。死因は刺し傷による出血性ショックで、ほかにも傷があった。

首を切って持ち去った動機について、ヒガノクリニック院長で精神科医の日向野春総氏は「首は古代から『勝利の象徴』『戦利品』という意味があり、切断は『その人間の存在を消す』という意味になる。金銭や恋愛などの強い怨恨で殺害するよりも異なるレベルの行動だ。極端なサディズムの傾向もある」と話す。

2人は1日午後10時50分ごろ一緒に入室し、2日午前2時ごろに同行者が1人で退出する姿がホテルの防犯カメラに写っていた。男性はこの間に殺害されたとみられる。

約3時間という短時間の凶行だが、日向野氏は「高齢ならば1時間程度で失血死することもある。医療関係者らプロならメス1本でも人体を切断できる。殺害後は心理的に通常以上の力が出ることもあり、仮に加害者が女性でも、男性の遺体を浴室に運んで首を切断することは可能ではないか」との見方を示した。

■ディスコイベント参加か

被害男性、ホテル入室直前までディスコイベント参加か その後、防犯カメラに映った別の人物と2人で入室

近くで開かれたディスコイベントに1人で参加していたとみられることが、関係者への取材で分かった。札幌・中央署捜査本部は、その後一緒に入室した人物と合流し、殺害されたとみて、詳しい足取りを調べている。

男性は北海道恵庭市の会社員、浦仁志さん(62)で、1日午後、車で自宅から札幌へ向かった。関係者によると、イベントが開かれたのは現場から約250メートルのホールで、時間は午後4時から10時ごろまでだった。

ホテルの防犯カメラには、男性が午後10時50分ごろに別の人物と2人で入室し、2日午前2時ごろにはこの人物がスーツケースを引いて1人で退出する様子が写っていた。

2023.07.07 20:09 | 固定リンク | 事件/事故
NHK一人当たりの平均給与は、1,629万円
2023.07.07

■一人当たりの平均給与は、1,629万円

給与1,114億円と退職手当・厚生費517億円を足すと1,631億円,

職員数10,175人で割ると、平均一人当たりで1,629万円となる。純粋に給与1,114億円だけでも、平均一人あたり、1,094万円となった。
2023.07.07 17:51 | 固定リンク | 経済
岸田政権の「異次元の増税」策
2023.07.06


「国債整理基金特別会計」を防衛力強化資金に繰り入れればいい 「異次元の増税」策

岸田総理、防衛費増額を賄う増税について「丁寧に説明する」と強調

通常国会は1月24日午後、参議院本会議で岸田総理とすべての閣僚が出席し、令和4年度決算についての質疑が行われた。岸田総理は防衛費増額に伴って不足する財源を増税で賄う方針について、国会審議を通じて丁寧に説明していく考えを強調した。

財務省の財政緊縮・増税路線に飲み込まれずに、政府が20兆円規模の需要拡大策を実施し、日銀が金融緩和を継続することが不可欠だ。

■積極財政路線を警戒する財務省

まず、足下の経済環境をみておこう。内閣府の2022年10~12月期四半期別国内総生産(GDP)速報(2次速報値、前年同期比)によれば、物価(GDPデフレーター)は1・2%上昇、雇用者報酬は同1・8%減だった。

失業率は22年10月~23年2月で2・5%程度だ。ただし、この失業率の数字は雇用調整助成金により見かけ上、低めに出ていると考えたほうがいい。

いろいろと批判もあったが、安倍晋三・菅義偉政権で有効需要100兆円にもなるコロナ対策を行い、日銀が金融緩和を継続したために、マクロ経済は底抜けをしなかった。

常に強調しているNAIRU(インフレを加速しない最低の失業率、2%半ば程度)を達成するまでには至っていないが、その近くにあるのは間違いない。失業率はややNAIRUより高めで、インフレ率はインフレ目標を安定的に達成する水準よりやや低いという状況だ。

ここで、インフレ率を消費者物価(除く生鮮食品)でみると、例えば今年3月は前年同月比3・1%なので、高いという意見もあるだろう。しかし、1月の4・2%をピークとして徐々に低下するものと見込まれる。GDPデフレーターが2%には達していないことからわかるように、まだ成長の好循環が起こるような状態にはなっていない。

これは、やはり内閣府が発表した昨年10~12月期の四半期別GDP速報でのGDPギャップ(総需要と供給力の差)をみてもわかる。そこでは、10兆円程度とされているが、内閣府の推計は供給力の天井が過小推計になっている。これを筆者が補正すると、総需要が20兆円程度積み増されれば、半年後くらいに、失業率が実質的なNAIRUになり、GDPデフレーターでみたインフレ率が2%になる公算が大きい。その場合、賃金上昇率はインフレ率を1~2%程度上回るようになるだろう。

要するに、今はあと一歩の状況だ。ここで、増税や利上げを行うと、せっかく良くなってきた経済を腰折れさせてしまう。

岸田政権はここで自信を持って「防衛増税」や「異次元少子化対策増税」を打ち出してしまうと、経済は腰折れしてしまう。

21年10月の衆院選の前に、当時の矢野康治財務事務次官が月刊「文芸春秋」で「バラマキ批判」論文を寄稿した。筆者は増税路線を仕掛けてきたのだと受け止めた。

今回も齋藤次郎元事務次官が仕掛けているとみている。日銀総裁も黒田東彦(はるひこ)氏から植田和男氏に代わったので、財政政策・金融政策ともに緊縮・引き締めを行いやすい環境だ。

岸田政権がそれをこらえて経済運営するのか、できないのか。それによって物価がマイルドに上がり、賃金がそれを上回るかどうかが決まるだろう。

■「異次元の増税」策

岸田文雄首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べた。これを受けて自民党の甘利明前幹事長が、財源として消費税の増税に言及した。少子化対策の財源として消費増税が必要なのか。増税の弊害はないのか。

少子化対策について、あまのじゃくな筆者はその必要性がストンとこない。人口が減少しても1人当たり国内総生産(GDP)で見る限り、必ずしも低下するとは言い難い。

世界中で人口減少している国は30カ国程度あるが、1人当たりGDPが成長している国も少なくない。端的にいえば、人口減少しても、ロボットでかなりの程度補えると思う。

人口動向の根本要因は分からないが、金銭要因による人口増誘導については、政治家のみならず在野の方からおびただしい政策提言がある。少子化対策ほど、客観的なエビデンス・ベースト・ポリシー(証拠に基づく政策)からほど遠い分野もなく、なんでもありの世界だ。

人口動向は人の生物としての本能的な営みが大きく関係するのは自明だが、それを金銭要因でどこまで誘導できるかについて、実証分析なしにも関わらずだ。逆にいえば、基本的なメカニズムが分からないので、人口問題は政治課題なのだろう。とにかく、人口問題は国民に人気があり、政治家には人口問題に関心を持つ人が多い。

財務省から見れば、政治課題なので無視することはできない。しかし、どうせ政治からの要求が来るのであれば、それを逆手に取ることを考えているはずだ。

そこで、少子化増税だ。人口を増やすために増税とはちょっと意表を突いているが、「少子化対策には安定財源を」という例のフレーズだ。

その財務省の思惑をつい口にしたのが、甘利前幹事長だった。本人は、趣旨は違うのに一部を切り取られたと弁明しているが、いかにも脇が甘かった。財務省にとっても、本音が漏れたので焦ったことだろう。

財務省の戦略は、少子化対策について多くの政治家から語ってもらう。ただし財源論抜きでは語らせないというものだ。そして、最終的な取りまとめ段階になったら、政治家の少子化対策にはエビデンスがないとして大幅に換骨奪胎するが、安定財源論だけはしっかり残して少子化増税に持っていくのだろう。少子化対策は広い意味での社会保障になるので、社会保障財源である消費税増税にもっていくのが目に浮かぶ。

少子化対策担当大臣の小倉将信氏は41歳で当選4回の新進気鋭だ。まさに百家争鳴の少子化対策の取りまとめにはうってつけだといえる。少子化対策はすぐに答えを出す必要はなく、議論、検討をしていればいい。そのための会議を官邸に作ると首相出席で煩わしいので、内閣府特命担当大臣は適任なのだ。

その方が財務省にとっても好都合だ。議論が拡散気味でも時間がかかってもよく、最後の刈り取りの時、政策には効果で難点をつけながら安定財源で増税を盛り込めばいい。これは「異次元の増税」策だ。
2023.07.06 19:42 | 固定リンク | 経済
中国経済統計「うそ八百」
2023.07.06


■中国経済が沈む成長鈍化の沼 

信用できない経済統計 デフレ懸念と高失業にも直面、利下げに加え財政出動必要に

中国経済の現状はどうなっているのか。うそ八百か?

2022年第2四半期から23年第1四半期まで、失業率を除き対前年同期比で、実質国内総生産(GDP)成長率は0・4%、3・9%、2・9%、4・5%、消費者物価上昇率は2・2%、2・7%、1・8%、1・3%、失業率は5・8%、5・4%、5・6%、5・5%、輸入額は2・4%、0・6%、6・4%減、5・2%減とそれぞれ推移している。

本コラムで再三繰り返しているが、中国のGDP統計や失業統計は当てにならず、信頼できるのは輸入統計のみだ。輸入は消費と連動しており、消費はGDPと連動するので、輸入の伸びがマイナスなのに経済成長率がプラスというのはなかなか考えにくい。そこから推測すると、実質GDP成長率はマイナスで、実質GDP成長率が上昇すると、失業率は低下するという「オークンの法則」からみると失業率はもっと高めだろう。

4、5月の輸入額は7・8減%、4・5%減と相変わらずマイナスだ。これでは、23年第2四半期の実質GDPも、実のところはマイナスではないか。

となると、消費者物価上昇率が鈍化しているのもある程度説明できる。ちなみに、23年4、5月の消費者物価上昇率は0・1%、0・2%で、マイナスのデフレ経済一歩手前だ。

4、5月の失業率は5・2%、5・2%だった。ただし、5月の若年層の失業率は20・8%で統計が公表されている18年以降で最高だという。これだけ消費者物価が下がりデフレ懸念すらくすぶると、失業率は若年層のみならず全体でももっと高いはずだ。

いずれにしても、中国の経済統計は信用できないが、断片的な情報からも、成長鈍化とデフレ気味、高失業が読み取れる。

こうした基本的なマクロ経済指標から、不動産投資がふるわないのも納得できる。実際、1~5月の不動産投資は前年同期比7・2%減だ。以上のような経済状況のため、富裕層の流出が続いている。ゼロコロナ政策や共同富裕の影響を受けた層が出ていっているようだ。

輸出減は、経済成長鈍化の証であるが、半導体などの集積回路の輸入額が約2割減っており、米国による対中半導体輸出規制の影響もありそうだ。

来月23日から先端半導体の製造装置など23品目を輸出管理の規制の対象に追加し、日本も米国やオランダと足並みをそろえる予定だ。「日本政府の決定は輸出管理の乱用であり、国際的な貿易ルールを著しく逸脱している」と中国は主張するが、日本は米国とオランダとともに安全保障目的なのでルールの範囲内だ。去年の米国の半導体規制では中国の携帯電話業界などが製造困難に陥った。この流れに日本が続けば、中国の経済は非常に悪くなる可能性がある。

そこで、景気のテコ入れとして、利下げが行われた。ローンプライムレートの期間1年、同5年超をそれぞれ年3・65%から0・1ポイント、年4・30%から0・1ポイント引き下げた。ただし、この程度の利下げでは、力不足で、本格的な財政出動が必要だろう。

■中国経済はなお悪化か 自由化に向けた改革は難航

中国の経済成長は既に過去数十年で最低の水準に鈍っているが、今後も上向かずに悪化しそうだ。経済自由化に向けた改革には時間が掛かり、政府は持続的回復のためになお困難な作業に取り組まざるを得ないとエコノミストはみている。

中国の昨年の国内総生産(GDP)成長率は7.4%と1990年以来の低い伸びで、政府は今年の成長率目標を7%程度としている。国際通貨基金(IMF)は今年と来年の成長率を6.8%、6.25%と予想した。

経済規模10兆ドルの国とすれば素晴らしい数字で、危機が差し迫っているとみるエコノミストはほとんどいない。しかし成長鈍化は改革そのものが原因の一部であり、回復を予想する声も聞かれない。

中国国際経済交流センター(CCIEE)のエコノミストのWang Jun氏は「残念ながら経済は今年に入ってまだ底を打っていない。成長は安定するはずだが、来年を予想するのは難しい。現在取り組みを進めている構造調整の進展度合いに左右されるからだ」と述べた。

株式市場はしぶとく上昇基調を保っているが、これは今年に入って経済指標がことごとく悪化し、政府が新たなてこ入れ策の発動を迫られるとの観測が一因。

社会情勢の安定度合いの指標となる失業率は4%近辺の低い水準を保っているが、失業率については当局者の間からも信頼性を疑う声が出ている。

不良債権比率も2%以下で低いが、やはり実際にはもっと高いとほとんどアナリストがみている。企業の多くや地方政府が透明度の低い「影の銀行」から資金を借り入れているためだ。

中国経済は回復の第1段階で、毛沢東の計画経済のもたらした歪みからの決別が即座に効果を生んだ。しかし今では経済が複雑さを増し、市場化が進んで海外要因の影響もより強く受けるようになり、改革はリスクの高い綱渡りの状態となっている。

北京大学光華管理学院のマイケル・ペティス教授は、中国は通貨の過小評価、生産性の伸びに比べて低い賃金の伸びなど不均衡の根源を取り除く改革の第1段階は概ね実行したが、投資に基づく内需主導型経済への移行という第2段階が残っていると指摘した。

政策当局者は、改革が力不足で、中国がいわゆる「中所得国のわな」(労働コストが上昇して経済成長が中所得国の段階で止まること)にとらわれるのではないかと危惧している。

一部の研究結果は中国が世界金融危機後にこの「わな」に足を踏み込んでしまったことを示唆している。

楼継偉財政相は4月、中国がこのわなから逃れられる確率は40%との見方を示した。
2023.07.06 10:13 | 固定リンク | 経済

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