スマホメーカーここまで弱体化か
2023.06.02
https://news.yahoo.co.jp/articles/29ace08948d8f4e5124eefd5088d9bc49b14cc25?page=1
“ボロボロ”の国内スマホメーカー ここまで弱体化してしまった「4つの理由」とは

 2023年5月、バルミューダと京セラが相次いで個人向けスマートフォン事業からの撤退を発表し、FCNTが民事再生法を申請するなど、国内スマートフォンメーカーの撤退・破綻が相次いだ。一連の出来事に大きく影響しているのは国内スマートフォン市場を取り巻く“四重苦”というべき現状であり、今後も国内外問わず、スマートフォンメーカーの撤退・縮小が続く可能性がある。

バルミューダと京セラは撤退、FCNTは経営破綻
 夏商戦を控え、メーカー各社からスマートフォン新機種が相次いで発表されている2023年5月。だがその一方で、スマートフォン市場に激震をもたらす出来事も相次いでいる。

 口火を切ったのは家電メーカーのバルミューダだ。同社は2021年に「BALMUDA Phone」でスマートフォン市場へ参入、バルミューダらしい強いこだわりを盛り込んだことで注目された一方、それゆえにコストがかさみ性能と価格のバランスを大きく欠いたことで多くの批判にさらされることにもなった。

 それだけに同社も新モデルの開発には意欲的に取り組んでいたようだが、2023年5月12日に突如スマートフォン事業からの撤退を表明。参入からわずか2年足らずでの撤退とあって驚きをもたらした一方、参入から日が浅く、傷が浅いうちの撤退として妥当との見方も少なからずなされていた。

 だがバルミューダの撤退は、国内メーカー撤退・破綻ドミノの序章に過ぎなかった。その4日後となる2023年5月16日には、高耐久スマートフォン「TORQUE」シリーズで知られる老舗のスマートフォンメーカーの京セラが、コンシューマー向けスマートフォン事業の終息を表明。高耐久端末やIoT向けなどの法人向け端末事業は継続するというが、同社の通信事業はスマートフォンなどの端末事業から、企業向けのソリューションやインフラ事業へと主軸を移すことが明らかにされている。

 そしてより一層、大きな驚きをもたらしたのが2023年5月30日。やはり国内メーカー大手の一角を占めるFCNTが民事再生手続きの申し立てをすると発表し、事実上経営破綻したことが明らかになったのである。各種調査会社の情報によると、民事再生法の申請をしたFCNTら3社の負債総額は1431億600万円とされており、規模の大きさにも驚かされるのだが、同社の生い立ちを考えると携帯電話業界に与えた衝撃は一層大きなものだったといえる。

 なぜならFCNTの前身は富士通の携帯電話事業だからだ。2016年に富士通から分離して設立された後、ファンドに株式が譲渡され現在は独立系のメーカーとなっているが、富士通時代から考えれば30年近く携帯電話やスマートフォンを開発してきた老舗中の老舗なのである。

 しかも同社は「らくらくホン」「らくらくスマートフォン」などシニア向け端末の定番というべき商品も持っており、長年安定した端末開発を続けてきたことでも知られていた。それだけに、同社の経営破綻が非常に大きな驚きを与えたことは間違いない。

■日本メーカーに襲いかかる“四重苦”とは

 わずか1カ月のうちに国内メーカー3社が撤退・破綻するというのはかなりの異常事態といえるが、なぜ各社がそのような状況に追い込まれたのだろうか。

そもそも日本のスマートフォン市場は、スマートフォン普及期に携帯大手3社によるiPhoneの値引き合戦が激化して一時はiPhoneが最も安く買えるスマートフォンとなったこと、それを機としてiOSのエコシステムに多くの人が取り込まれ継続的にiPhoneに買い替えるようになったことで、アップルが圧倒的なシェアを獲得。それ以外のメーカーには非常に厳しい環境となっていた。

 だがそれでも従来は、アップル以外のメーカー同士で残りのシェアを分け合い、事業を継続することができていた。それがなぜできなくなったのかといえば、2023年、さらにいえば2022年半ばごろから、国内のスマートフォン市場が“四重苦”というべき状況に陥っていることが見えてくる。

 順を追って説明すると、1つ目はスマートフォンの進化停滞と市場の飽和である。2008年に日本でアップルの「iPhone 3G」が販売されてからすでに15年近い年月が経っており、スマートフォン自体の進化も停滞傾向にある。それゆえ最新機種に買い替えても大きな進化が見られないことから買い替えサイクルも長期化しており、スマートフォンの販売が伸び悩んでいるのだ。

 そして市場の飽和は日本などの先進国だけでなく、これまで市場の伸びを支えてきた中国などでも急速に広がっている。それゆえ中国市場を基盤として低価格モデルを主体に急成長を遂げたOPPOやXiaomiなどの中国新興メーカーも、最近では販売が伸び悩み苦戦を強いられているのだ。

 2つ目は国内特有の事情である。具体的には政府によるスマートフォンの値引き規制だ。2014年ごろまで非常に過熱していた携帯各社のスマートフォンの大幅値引き販売合戦に業を煮やした総務省が、通信サービスの契約とセットで端末を大幅値引きする従来の販売手法を問題視。結果として2019年の電気通信事業法の改正により、通信契約と端末の販売を明確に分離することが義務付けられるに至った。

 それに加えて、通信契約にひも付く端末の値引きも税別で2万円に制限され、スマートフォンの値引きは現状非常に困難な状況にある。最近になって誰でもスマートフォンを安く買えるよう大幅値引きすることで、「一括1円」などの価格を実現する手法が編み出されたが、これに関しても現在総務省で議論が進められ、2023年中にも規制されるものと見られている。

 この値引き規制が直撃したのが値段の高いハイエンドモデルで、一連の法規制以降、10万円を超えるモデルの販売が急減。ハイエンドモデルはメーカーにとっても利益が大きいだけに、その販売が落ち込み利益が少ないミドル・ローエンドモデルの販売が増えていることは、各社の業績を落ち込ませる大きな要因となっている。

■さらに追い打ちをかけた2つの“苦”とは

 これら2つの“苦”によって、日本市場は以前から国内メーカーにとって厳しい環境となっていたのだが、そこに突如2つの“苦”が加わったことが、3社を撤退・破綻に追い込んでいる。その1つが半導体の高騰だ。

 コロナ禍に入って以降、複数の要因から深刻な半導体不足が起き、価格が高騰するなどしてその影響がIT製品だけでなく給湯器など身近な機器にまで及んだことは覚えている人も多いだろう。その後半導体不足は解消されてきている一方、価格高騰はまだ収まっていない。それゆえ国内メーカーのように、市場シェアが小さく半導体の調達力が弱い、ボリュームディスカウントが働きにくいメーカーほど、価格高騰の影響を強く受け苦戦している状況にある。

 そしてもう1つは、ロシアによるウクライナ侵攻や、米国でのインフレなどによって2022年の半ば頃から急速に進んだ円安だ。半導体などの調達にはドルを使うことが多いことから、円安が日本メーカーに不利に働きやすいのに加え、スマートフォンは海外で製造して国内に輸入して販売することが多いので、円安によりスマートフォン自体の価格が高騰、販売を一層落ち込ませる要因となっているのだ。

 実際2022年には、円安の影響からアップルがiPhoneを突如値上げしたことが多くの人を落胆させたが、2023年に入ると各社が投入するハイエンドモデルが軒並み20万円、あるいはそれを超える価格を記録するなど、もはや一般消費者が購入するのが困難なレベルにまで高騰してしまっている。

 そしてバルミューダやFCNTの発表内容を見ると、撤退・破綻に至った直接的な理由としていずれも半導体の高騰と円安を挙げている。市場成熟と端末値引き規制で市場が冷え込んでいた所に、突如半導体高騰と円安が直撃したことで、規模が小さい国内メーカー3社がギブアップしたというのが正直な所であろう。

■海外メーカーが日本市場から撤退する日も……?

 ただこれらの“四重苦”は3社に限ったものではなく、国内メーカーだけでなく海外メーカーも苦しめている。そのことを象徴しているのがXiaomiの動向だ。

 日本市場で後発のXiaomiは市場での存在感を高めるべく、2019年の参入以降コストパフォーマンスの高いスマートフォンを積極投入。2022年の前半にはソフトバンクからも販売された「Redmi Note 10T」や、日本初の「POCO」ブランドの端末「POCO F4 GT」などスマートフォンを相次いで投入したのに加え、後半にもソフトバンクから「神ジューデン」をうたう「Xiaomi 12T」が販売されるなどして注目を集めていた。

 だが2023年に入るとその状況が一転、執筆時点(5月31日)までに同社が日本で投入したのはローエンドの「Redmi 12C」のみで、価格は安いがパフォーマンスには疑問の声が挙がっていた。端末値引き規制を機として日本市場に参入したXiaomiだが、その値引き規制にハイエンドモデルの販売が阻まれているのに加え、円安で強みとしていたコストパフォーマンスも発揮できなくなるなど、苦しい状況にあると見て取れる。

■残る2社はソニーとシャープ

 しかも先に挙げた4つの問題は、いずれも容易に解決できないので影響が長く続く可能性が高く、日本のスマートフォン市場の冷え込みは長く続くと考えられる。そこで多くの人が気になるのは、他の国内メーカーは大丈夫なのか? ということだろう。

 シャープはすでに台湾の鴻海精密工業の傘下にあり、部材調達や製造など多くの面で同社の支援を得ることができていることから、他の国内メーカーと比べれば規模の面で強みがある。また以前からスマートフォンだけでなく、フィーチャーフォンやWi-Fiルーターも手掛けるなど端末開発の柔軟性も高いことから、京セラやFCNTの撤退でシニア・子供向けなどニッチ市場向け端末の受注が増え、“漁夫の利”を得やすいことも予想される。

 またソニーは2014年にモバイル事業の赤字で経営を揺るがす事態となり、現在のソニーグループ代表取締役社長である十時裕樹氏が徹底したコストカットで事業規模を大幅縮小した経験を持つ。それゆえ現在はカメラを軸としたハイエンドモデルに集中、確実な利益を出すことに重点を置いてあまり無理をしない体制を取り、生き残りを図っている。

 とはいえ両社とも、現在以上に環境が悪化すれば先行きは分からないし、それは他の多くの海外メーカーも同様だ。現在の日本市場で生き残ることが確約できるのはアップルくらいなもので、今後国内メーカーだけでなく海外メーカーからも、成長が見込めない日本市場に見切りをつけて撤退する所が出てきてもおかしくない。
2023.06.02 19:17 | 固定リンク | 経済
8月プーチン氏「南アフリカ訪問」外交特権
2023.06.01



■南ア、国際会議参加者に外交特権 プーチン氏も出席可能に

南アフリカが、8月に開催が予定されている新興5カ国(BRICS)首脳会議について、参加者全員に対する外交特権を認めたことがわかった。これにより、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領も南アフリカを訪問することが可能となる。

南アフリカは5月29日、官報で今回の決定を発表した。南アフリカの当局者はICCの逮捕状を無効にすることはできないと主張した。南アフリカはICCに加盟しており、プーチン氏を逮捕する法的な義務を負っている。ICCは3月、ウクライナからロシアへ子どもを強制的に移送しているとの疑惑をめぐり、プーチン氏に逮捕状を発行していた。

南アフリカの外務省は声明で、「これは、参加者のレベルに関係なく、南アフリカで開催されるすべての国際会議や首脳会議における標準的な免責の付与だ」と述べた。

外務省は、今回の決定について、会議と出席者を保護するための通常の措置であり、特定の個人のためのものではないとした。

南アフリカの最大野党「民主同盟」は30日、声明で、プーチン氏が入国した場合、政府がプーチン氏を拘束してICCに引き渡すよう、裁判所に要請したと明らかにした。民主同盟によれば、要請では、ICCからプーチン氏の逮捕を求められた場合に取るべき手順をまとめており、従うべき手順と国に課された義務に関する法的なあいまいさがないようにしたという。

南アフリカ政府に対しては、ロシアのウクライナ侵攻に対する姿勢に関して批判の声が出ている。南アフリカは、国連総会におけるロシアに対する非難決議を繰り返し棄権している。

■南アフリカ、プーチン氏への対応めぐり法改正を検討 ICCから指名手配

南アフリカの政府高官は、国際刑事裁判所(ICC)に指名手配されている指導者の逮捕に関して自国が決定権を持つよう、法律の改定を計画していることをBBCに明らかにした。同国には夏にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が訪問する予定で、対応が焦点となっている。

南アフリカ大統領府のオベド・バペラ次官は、「6月に議会に法律を提出する予定だ」とBBCの番組で語った。

同国では8月に、ブリックス(BRICS)と呼ばれる新興5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳会議が予定されいる。プーチン大統領も招待されているが、ロシアは大統領が出席するのか明らかにしていない。

プーチン氏に対しては、ウクライナにおける戦争犯罪に関わった疑いがあるとして、ICCが3月に逮捕状を発行した。ロシア側は容疑を否認している。

南アフリカは現行法に基づき、プーチン氏が来訪した場合には、ICC加盟国として同氏を逮捕しなくてはならない。

そのため、南アフリカがプーチン氏に対する招待を維持するのか、さまざまな憶測が飛び交っている。

南アフリカは、首脳会議に出席予定のロシア政府関係者に外交特権を与えており、標準的な手続きだと説明している。

南アフリカはロシアのウクライナ侵攻を非難しておらず、中立を保ちたい考えだ。

南アフリカの主要野党の民主同盟(DA)は、プーチン氏が8月に到着した場合には当局に逮捕させるよう、裁判所に申請している。

■ICCの「二重基準」を非難

バペラ次官はBBCの番組で、今回の法律によって南アフリカは、「誰を逮捕し、誰を逮捕しないかの適用除外を自らできることになる」と述べた。

バペラ氏はまた、南アフリカがICCに、権利の放棄について通知していると説明した。

これは、2002年にICCを設立させた条約「ローマ規定」に関わるもの。同規定は第27条で、誰もICCによる訴追を免れないとしている。一方で第98条は、ロシアがプーチン氏の訴追免除を放棄しない限り、ICCは南アフリカにプーチン氏の逮捕を求めることができないと定めているように思われる。

バペラ氏は、ICCの「ダブルスタンダード」を非難。戦争犯罪法廷には、南アフリカ初の民選大統領となったネルソン・マンデラ氏(故人)も失望しただろうと述べた。

そして、「ICCが今日あるようなものになるとは思ってもみなかった。トニー・ブレア(元英首相)も(ジョージ・W)ブッシュ(元米大統領)も、イラクの人々の殺害について起訴されなかった」と、2003年のイラク侵攻に言及しながら批判した。

「マンデラなら、ICCの不平等や矛盾は問題だと言ったはずだ」

バペラ氏はさらに、国際的な司法が適用除外となった過去の例を指摘。イギリスが1998年にチリのアウグスト・ピノチェト将軍(故人)の身柄を引き渡さなかったことを挙げた。

ピノチェト氏は、17年間の統治時代に行った人権侵害を裁こうとしたスペインの裁判官の要請で、ロンドンで拘束された。しかし英政府は、同氏が裁判を受ける体調にはないとする医療専門家の助言を受け、16カ月後に釈放した。同氏はその後帰国し、2006年に死去した。

■身元偽り国際刑事裁判所のインターンになろうと……ロシアのスパイ特定=オランダ当局

オランダの情報機関・総合情報保安局(AIVD)は16日、国際刑事裁判所(ICC)に潜入しようとしていたロシアのスパイを特定したと発表した。

AIVDによると、この人物は「ヴィクトル・ミュラー・フェレイラ」という名のブラジル人を名乗っていた。ICCでインターンとして働くため今年4月、オランダに入国しようとしたところを阻止され、ブラジルへ強制送還された。本名はセルゲイ・ウラディミロヴィッチ・チェルカソフで、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)のスパイだという。

チェルカソフ氏はハーグにあるICCでのインターンシップに応募する前、数年間をかけて偽のアイデンティティーを作り上げていたとされる。

AIVDは、もしチェルカソフ氏がインターンとしてICCで実際に働き始めていたら、具体的な被害が出ていただろうと述べた。

「この情報職員の脅威は、非常に高いものになり得ると考えられる」と、AIVDは述べている。

「ヴィクトル・ミュラー・フェレイラ」を知る人にとって、彼は国際問題に興味のあるブラジル人だった。しかしAIVDによると、チェルカソフ氏は実際には、「非合法」と呼ばれる職種のスパイだという。

ロシアの情報機関では、外交官として諜報活動を行う「合法」スパイと、「非合法」のスパイを区別している。多くの国のスパイが一般人になりすまして活動しているが、ロシアでは長年、国籍を全く変えて身元を隠す非合法のスパイ活動を得意としてきた。こうしたスパイはアメリカ人やイギリス人、カナダ人、あるいは「フェレイラ」氏の場合はブラジル人に成りすまし、ロシア人のままでは疑われて活動しづらい組織に入り込んでいるという。

■偽の家族の物語

AIVDは今回、チェルカソフ氏が2010年頃に書いたとされる文書を公開。偽のアイデンティティーの内容を覚えるための書類だと思われる。

文書は「私の名前はヴィクトル・ミュラー・フェレイラだ」という一文から始まっている。

こうした文書の発見からは、チェルカソフ氏のずさんさが見て取れる。文書には、4ページにわたって偽の家族の物語が記されている。

別の部分には、「父親はとてもフレンドリーな人物だが、驚いたことに、私は母親や叔母の死、そして自分が人生で味わった困難や屈辱を全て、父親のせいにしていることに気が付いた」と書かれていた。

さらに、父親の葬儀のためにアイルランドに行ったことなどにも触れている。

「非合法」スパイが訓練を受け、偽のアイデンティティーを確立するには5~10年の歳月がかかるとみられている。そのため西側諸国は、こうしたスパイの数は少なく、GRUにも30人以下しかいないだろうとみている。

■「ICCの日々の業務環境に触れる」インターンシップ

ロシアの情報機関は以前からICCを標的にしており、「フェレイラ氏」は昨年末からインターンになるための活動を開始していたとされる。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、ICCの重要性は増している。3月初めにはICCのカリム・カーン主任検察官が、ロシアがウクライナ侵攻で戦争犯罪を犯した疑いについて、捜査を開始したと発表した。

ICCは無給のインターン200人を募集しており、「ICCの日々の業務環境に触れ、現役専門家の監督のもとで知識と経験を実践する」機会を提供すると説明していた。

この立場を獲得すれば、フェレイラ氏は業務内容に触れる貴重な機会を得ることになっただろう。

AIVDは声明で、「もしこのスパイがICCで働くことに成功していたなら、情報を集め、情報源を探し(あるいは採用し)、ICCのデジタルシステムにアクセスできるよう手配できたはずだ」と指摘した。

「そうなれば、GRUが求めている情報の入手に、大きく貢献することができたはずだ。また、ICCの刑事手続きに影響を与えることができたかもしれない」

正体を厳重に隠しているスパイにとって、インターンへの応募はリスクを伴う。しかしモスクワの上司は、その危険を冒すだけの価値があると考えたに違いない。「非合法」スパイを見つけるのは非常に難しい。チェルカソフ氏の正体に気づいたのはICCではないとみられている。オランダ当局は、同氏をどうやって特定したか明らかにしていない。

■ソーシャルメディアへの投稿

BBCが確認したフェレイラ氏のものとみられるソーシャルメディアのアカウントには、多くの友人の名前が連なっていた。中には、フェレイラ氏が通っていた米ジョンズ・ホプキンス大学とアイルランドのトリニティー・カレッジの学生も数多く含まれていた。こうした友人らは現在、米投資ゴールドマン・サックスから米ワシントンのシンクタンクや連邦規制当局まで、さまざまな場所で働いている。誰も、フェレイラ氏がロシアのスパイだとは知らなかったはずだ。

フェレイラ氏の受講クラスを受け持っていたというある講師はBBCの取材に対し、同氏には「どこのものか分からないアクセントがあったが、ロシア語ではなかった」と話した。「フェレイラ」氏は2020年9月の時点でICCに申請していたと思われるが、新型コロナウイルスの影響で遅れた可能性もあるという。

フェレイラ氏はあるとき、「ブラジルはICCでは代表者が少ないので、チャンスかもしれない!」と言っていたという。

フェレイラ氏のSNSアカウントのプロフィール欄には、同氏が2018年8月にワシントンに移住したと書かれている。また記録では、2020年にジョンズ・ホプキンス大学を卒業している。同氏はSNSに、ロシアに軽く批判的な内容を含め、様々な意見を投稿していた。これも、自分の偽装工作の一環だったと解釈することもできる。

ある時には、GRUがオンラインで使うアイデンティティーを発見したという調査グループ「べリングキャット」の報告書まで、SNSに投稿している。現在、自身がGRUのスパイだとされている人物としては、かなり珍しい動きだ。

だが身元の偽装が露見した今、チェルカソフ氏の潜入スパイとしての未来はこれでおしまいになるはずだ。

■NATO、ロシア代表部7人を追放 元スパイ殺人未遂受け

北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は27日、英国で今月4日に起きたロシアの元情報部員と娘に対する殺人未遂を受けて、ロシア代表部の外交官7人を追放すると発表した。

NATO本部があるベルギー・ブリュッセルで会見したストルテンベルグ事務総長は、認証が保留されていた3人のロシア人職員についても受け入れないと表明。さらに、ロシア代表部の人員を現在の30人から20人に削減すると述べた。

ストルテンベルグ事務総長は今回の対応が、ロシアに対して、自らの行為には「代償と結果」が伴うとのメッセージを送ることになると説明した。

NATOは2015年にも、ロシアによるウクライナ・クリミア半島の併合を受けて、ロシア代表部の人員を60人から30人に削減している。

過去2日間で、26カ国が英国への連帯を表すためロシアの外交官を国外追放すると発表している。英国は、同国南西部ソールズベリーでセルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)の殺人未遂に軍事兵器レベルの神経剤が使われたことに、ロシア政府が関与したと断定。26カ国も英政府の判断を支持している。

一方のロシア政府は関与を否定している。

ロシアは先に、多数のロシア外交官を国外追放すると発表した米国が他国に対しても同様の対応を取るよう圧力をかけたと非難。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、米政府が「壮大な脅迫」を計画したとし、現代の欧州は「独立国をわずかに残すのみとなった」と述べた。

入院中のスクリパリ氏とユリアさんの容体は安定しているものの、依然として危険を脱していないという。

■ロシアの反応

ラブロフ外相は、多数の外交官追放への対抗措置は避けられないとし、米国が責めを負うべきだと語った。同外相は、「あちこちの国が1人か2人の外交官を追放する一方で、我々の耳元で謝罪をささやいているのだから、壮大な圧力、壮大な脅迫が計画された結果であるのは確かで、残念なことにそれらは、米国が今、国際社会で主に使う道具だ」と述べた。

「現代の世界、現代の欧州は、わずかに独立国を残すのみとなったと、我々はこれまでに何度か強調してきたが、我々は正しかったという結論を持たずにはおれない」

ロシア外務省は現在、ウラジーミル・プーチン大統領に提案する報復措置の選択肢をまとめていると考えられている。

ロシアのウラジーミル・ディハバロフ上院議員は、ワシントンのロシア大使館から48人、ニューヨークにある国連本部から12人がそれぞれ国外退去させられたことへの「仕返し」があるだろうと語った、と報じられている。

セルゲイ・リャブコフ外務次官は先に、厳格な対応が必要だが、米政府との戦略的安定性に関する対話は放棄しないと強調した。
2023.06.01 18:52 | 固定リンク | 国際

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