8月プーチン氏「南アフリカ訪問」外交特権
2023.06.01



■南ア、国際会議参加者に外交特権 プーチン氏も出席可能に

南アフリカが、8月に開催が予定されている新興5カ国(BRICS)首脳会議について、参加者全員に対する外交特権を認めたことがわかった。これにより、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領も南アフリカを訪問することが可能となる。

南アフリカは5月29日、官報で今回の決定を発表した。南アフリカの当局者はICCの逮捕状を無効にすることはできないと主張した。南アフリカはICCに加盟しており、プーチン氏を逮捕する法的な義務を負っている。ICCは3月、ウクライナからロシアへ子どもを強制的に移送しているとの疑惑をめぐり、プーチン氏に逮捕状を発行していた。

南アフリカの外務省は声明で、「これは、参加者のレベルに関係なく、南アフリカで開催されるすべての国際会議や首脳会議における標準的な免責の付与だ」と述べた。

外務省は、今回の決定について、会議と出席者を保護するための通常の措置であり、特定の個人のためのものではないとした。

南アフリカの最大野党「民主同盟」は30日、声明で、プーチン氏が入国した場合、政府がプーチン氏を拘束してICCに引き渡すよう、裁判所に要請したと明らかにした。民主同盟によれば、要請では、ICCからプーチン氏の逮捕を求められた場合に取るべき手順をまとめており、従うべき手順と国に課された義務に関する法的なあいまいさがないようにしたという。

南アフリカ政府に対しては、ロシアのウクライナ侵攻に対する姿勢に関して批判の声が出ている。南アフリカは、国連総会におけるロシアに対する非難決議を繰り返し棄権している。

■南アフリカ、プーチン氏への対応めぐり法改正を検討 ICCから指名手配

南アフリカの政府高官は、国際刑事裁判所(ICC)に指名手配されている指導者の逮捕に関して自国が決定権を持つよう、法律の改定を計画していることをBBCに明らかにした。同国には夏にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が訪問する予定で、対応が焦点となっている。

南アフリカ大統領府のオベド・バペラ次官は、「6月に議会に法律を提出する予定だ」とBBCの番組で語った。

同国では8月に、ブリックス(BRICS)と呼ばれる新興5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳会議が予定されいる。プーチン大統領も招待されているが、ロシアは大統領が出席するのか明らかにしていない。

プーチン氏に対しては、ウクライナにおける戦争犯罪に関わった疑いがあるとして、ICCが3月に逮捕状を発行した。ロシア側は容疑を否認している。

南アフリカは現行法に基づき、プーチン氏が来訪した場合には、ICC加盟国として同氏を逮捕しなくてはならない。

そのため、南アフリカがプーチン氏に対する招待を維持するのか、さまざまな憶測が飛び交っている。

南アフリカは、首脳会議に出席予定のロシア政府関係者に外交特権を与えており、標準的な手続きだと説明している。

南アフリカはロシアのウクライナ侵攻を非難しておらず、中立を保ちたい考えだ。

南アフリカの主要野党の民主同盟(DA)は、プーチン氏が8月に到着した場合には当局に逮捕させるよう、裁判所に申請している。

■ICCの「二重基準」を非難

バペラ次官はBBCの番組で、今回の法律によって南アフリカは、「誰を逮捕し、誰を逮捕しないかの適用除外を自らできることになる」と述べた。

バペラ氏はまた、南アフリカがICCに、権利の放棄について通知していると説明した。

これは、2002年にICCを設立させた条約「ローマ規定」に関わるもの。同規定は第27条で、誰もICCによる訴追を免れないとしている。一方で第98条は、ロシアがプーチン氏の訴追免除を放棄しない限り、ICCは南アフリカにプーチン氏の逮捕を求めることができないと定めているように思われる。

バペラ氏は、ICCの「ダブルスタンダード」を非難。戦争犯罪法廷には、南アフリカ初の民選大統領となったネルソン・マンデラ氏(故人)も失望しただろうと述べた。

そして、「ICCが今日あるようなものになるとは思ってもみなかった。トニー・ブレア(元英首相)も(ジョージ・W)ブッシュ(元米大統領)も、イラクの人々の殺害について起訴されなかった」と、2003年のイラク侵攻に言及しながら批判した。

「マンデラなら、ICCの不平等や矛盾は問題だと言ったはずだ」

バペラ氏はさらに、国際的な司法が適用除外となった過去の例を指摘。イギリスが1998年にチリのアウグスト・ピノチェト将軍(故人)の身柄を引き渡さなかったことを挙げた。

ピノチェト氏は、17年間の統治時代に行った人権侵害を裁こうとしたスペインの裁判官の要請で、ロンドンで拘束された。しかし英政府は、同氏が裁判を受ける体調にはないとする医療専門家の助言を受け、16カ月後に釈放した。同氏はその後帰国し、2006年に死去した。

■身元偽り国際刑事裁判所のインターンになろうと……ロシアのスパイ特定=オランダ当局

オランダの情報機関・総合情報保安局(AIVD)は16日、国際刑事裁判所(ICC)に潜入しようとしていたロシアのスパイを特定したと発表した。

AIVDによると、この人物は「ヴィクトル・ミュラー・フェレイラ」という名のブラジル人を名乗っていた。ICCでインターンとして働くため今年4月、オランダに入国しようとしたところを阻止され、ブラジルへ強制送還された。本名はセルゲイ・ウラディミロヴィッチ・チェルカソフで、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)のスパイだという。

チェルカソフ氏はハーグにあるICCでのインターンシップに応募する前、数年間をかけて偽のアイデンティティーを作り上げていたとされる。

AIVDは、もしチェルカソフ氏がインターンとしてICCで実際に働き始めていたら、具体的な被害が出ていただろうと述べた。

「この情報職員の脅威は、非常に高いものになり得ると考えられる」と、AIVDは述べている。

「ヴィクトル・ミュラー・フェレイラ」を知る人にとって、彼は国際問題に興味のあるブラジル人だった。しかしAIVDによると、チェルカソフ氏は実際には、「非合法」と呼ばれる職種のスパイだという。

ロシアの情報機関では、外交官として諜報活動を行う「合法」スパイと、「非合法」のスパイを区別している。多くの国のスパイが一般人になりすまして活動しているが、ロシアでは長年、国籍を全く変えて身元を隠す非合法のスパイ活動を得意としてきた。こうしたスパイはアメリカ人やイギリス人、カナダ人、あるいは「フェレイラ」氏の場合はブラジル人に成りすまし、ロシア人のままでは疑われて活動しづらい組織に入り込んでいるという。

■偽の家族の物語

AIVDは今回、チェルカソフ氏が2010年頃に書いたとされる文書を公開。偽のアイデンティティーの内容を覚えるための書類だと思われる。

文書は「私の名前はヴィクトル・ミュラー・フェレイラだ」という一文から始まっている。

こうした文書の発見からは、チェルカソフ氏のずさんさが見て取れる。文書には、4ページにわたって偽の家族の物語が記されている。

別の部分には、「父親はとてもフレンドリーな人物だが、驚いたことに、私は母親や叔母の死、そして自分が人生で味わった困難や屈辱を全て、父親のせいにしていることに気が付いた」と書かれていた。

さらに、父親の葬儀のためにアイルランドに行ったことなどにも触れている。

「非合法」スパイが訓練を受け、偽のアイデンティティーを確立するには5~10年の歳月がかかるとみられている。そのため西側諸国は、こうしたスパイの数は少なく、GRUにも30人以下しかいないだろうとみている。

■「ICCの日々の業務環境に触れる」インターンシップ

ロシアの情報機関は以前からICCを標的にしており、「フェレイラ氏」は昨年末からインターンになるための活動を開始していたとされる。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、ICCの重要性は増している。3月初めにはICCのカリム・カーン主任検察官が、ロシアがウクライナ侵攻で戦争犯罪を犯した疑いについて、捜査を開始したと発表した。

ICCは無給のインターン200人を募集しており、「ICCの日々の業務環境に触れ、現役専門家の監督のもとで知識と経験を実践する」機会を提供すると説明していた。

この立場を獲得すれば、フェレイラ氏は業務内容に触れる貴重な機会を得ることになっただろう。

AIVDは声明で、「もしこのスパイがICCで働くことに成功していたなら、情報を集め、情報源を探し(あるいは採用し)、ICCのデジタルシステムにアクセスできるよう手配できたはずだ」と指摘した。

「そうなれば、GRUが求めている情報の入手に、大きく貢献することができたはずだ。また、ICCの刑事手続きに影響を与えることができたかもしれない」

正体を厳重に隠しているスパイにとって、インターンへの応募はリスクを伴う。しかしモスクワの上司は、その危険を冒すだけの価値があると考えたに違いない。「非合法」スパイを見つけるのは非常に難しい。チェルカソフ氏の正体に気づいたのはICCではないとみられている。オランダ当局は、同氏をどうやって特定したか明らかにしていない。

■ソーシャルメディアへの投稿

BBCが確認したフェレイラ氏のものとみられるソーシャルメディアのアカウントには、多くの友人の名前が連なっていた。中には、フェレイラ氏が通っていた米ジョンズ・ホプキンス大学とアイルランドのトリニティー・カレッジの学生も数多く含まれていた。こうした友人らは現在、米投資ゴールドマン・サックスから米ワシントンのシンクタンクや連邦規制当局まで、さまざまな場所で働いている。誰も、フェレイラ氏がロシアのスパイだとは知らなかったはずだ。

フェレイラ氏の受講クラスを受け持っていたというある講師はBBCの取材に対し、同氏には「どこのものか分からないアクセントがあったが、ロシア語ではなかった」と話した。「フェレイラ」氏は2020年9月の時点でICCに申請していたと思われるが、新型コロナウイルスの影響で遅れた可能性もあるという。

フェレイラ氏はあるとき、「ブラジルはICCでは代表者が少ないので、チャンスかもしれない!」と言っていたという。

フェレイラ氏のSNSアカウントのプロフィール欄には、同氏が2018年8月にワシントンに移住したと書かれている。また記録では、2020年にジョンズ・ホプキンス大学を卒業している。同氏はSNSに、ロシアに軽く批判的な内容を含め、様々な意見を投稿していた。これも、自分の偽装工作の一環だったと解釈することもできる。

ある時には、GRUがオンラインで使うアイデンティティーを発見したという調査グループ「べリングキャット」の報告書まで、SNSに投稿している。現在、自身がGRUのスパイだとされている人物としては、かなり珍しい動きだ。

だが身元の偽装が露見した今、チェルカソフ氏の潜入スパイとしての未来はこれでおしまいになるはずだ。

■NATO、ロシア代表部7人を追放 元スパイ殺人未遂受け

北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は27日、英国で今月4日に起きたロシアの元情報部員と娘に対する殺人未遂を受けて、ロシア代表部の外交官7人を追放すると発表した。

NATO本部があるベルギー・ブリュッセルで会見したストルテンベルグ事務総長は、認証が保留されていた3人のロシア人職員についても受け入れないと表明。さらに、ロシア代表部の人員を現在の30人から20人に削減すると述べた。

ストルテンベルグ事務総長は今回の対応が、ロシアに対して、自らの行為には「代償と結果」が伴うとのメッセージを送ることになると説明した。

NATOは2015年にも、ロシアによるウクライナ・クリミア半島の併合を受けて、ロシア代表部の人員を60人から30人に削減している。

過去2日間で、26カ国が英国への連帯を表すためロシアの外交官を国外追放すると発表している。英国は、同国南西部ソールズベリーでセルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)の殺人未遂に軍事兵器レベルの神経剤が使われたことに、ロシア政府が関与したと断定。26カ国も英政府の判断を支持している。

一方のロシア政府は関与を否定している。

ロシアは先に、多数のロシア外交官を国外追放すると発表した米国が他国に対しても同様の対応を取るよう圧力をかけたと非難。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、米政府が「壮大な脅迫」を計画したとし、現代の欧州は「独立国をわずかに残すのみとなった」と述べた。

入院中のスクリパリ氏とユリアさんの容体は安定しているものの、依然として危険を脱していないという。

■ロシアの反応

ラブロフ外相は、多数の外交官追放への対抗措置は避けられないとし、米国が責めを負うべきだと語った。同外相は、「あちこちの国が1人か2人の外交官を追放する一方で、我々の耳元で謝罪をささやいているのだから、壮大な圧力、壮大な脅迫が計画された結果であるのは確かで、残念なことにそれらは、米国が今、国際社会で主に使う道具だ」と述べた。

「現代の世界、現代の欧州は、わずかに独立国を残すのみとなったと、我々はこれまでに何度か強調してきたが、我々は正しかったという結論を持たずにはおれない」

ロシア外務省は現在、ウラジーミル・プーチン大統領に提案する報復措置の選択肢をまとめていると考えられている。

ロシアのウラジーミル・ディハバロフ上院議員は、ワシントンのロシア大使館から48人、ニューヨークにある国連本部から12人がそれぞれ国外退去させられたことへの「仕返し」があるだろうと語った、と報じられている。

セルゲイ・リャブコフ外務次官は先に、厳格な対応が必要だが、米政府との戦略的安定性に関する対話は放棄しないと強調した。
2023.06.01 18:52 | 固定リンク | 国際

- -