新型ロケット「H3」初号機「2000億円」以上
2023.06.05
新型ロケット「H3」初号機の打ち上げ失敗、さらに新型のメインエンジンで想定外の振動が確認されるなど開発が難航した結果、初号機の打ち上げは、当初の2020年度から2度延期され、開発費用は2000億円を超えてしまった。2023年3月7日。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年3月7日、同日午前に発生した新型ロケット「H3」初号機の打ち上げ失敗について記者会見を開いた。第2段エンジン「LE-5B-3」が着火しなかったことは確実と表明。今後は、着火しなかった原因を調査する。エンジン点火機構や点火機構を制御する制御系、制御系に点火信号を送る機体アビオニクス(電子機器類)と、点火に至るまでの信号の流れをさかのぼって事故原因を探る。

JAXA理事長の山川宏氏は会見で、「原因究明を通じて信頼を回復していく。信頼の回復にはどれだけ早く失敗に対応できるかと、その内容について透明性を持って示せるかにかかっている。それが海外ユーザーの信頼性を確保していくためには大変重要と考えている」と述べ、早期の原因究明・対策と打ち上げ再開を目指す姿勢を見せた。

 文部科学省官房審議官のの原克彦氏も「一刻も早く原因を究明したい」と、早期原因究明を支援する考えを明らかにした。

 JAXAは山川理事長を長とする対策本部を設置し、原因調査を開始する。

エンジン不着火の2段と衛星は、フィリピン東方沖合に落下2023年3月7日夕刻の時点で判明している事実は以下の通りだ。

[1]打ち上げ後304秒の第1段と第2段の分離までは、計画通り正常に飛行した。
[2]打ち上げ後316秒に予定していた第2段エンジン「LE-5B-3」が着火しなかった。打ち上げ中にエンジンなどから取得できた複数のテレメトリーデータから着火しなかったことは確実。「今はエンジンが着火しなかったという事実しか分からない」(JAXA理事の布野泰広氏)。
[3]そのまま飛行を続けてもペイロード(積載物)の地球観測衛星「だいち3号」を所定の軌道に投入する望みがないとして、打ち上げ後835秒の午前10時51分50秒に、破壊指令コマンドを送信した。
[4]第2段および衛星は、分離された第1段と共に、フィリピン東方海上に落下したものと推定される。エンジンが着火しなかったことから弾道飛行で第1段の落下海域に落ちたことは確実。

 1999年11月に発生した「H-II」ロケット8号機の打ち上げ失敗では海中に没した第1段エンジン「LE-7」を引き揚げ回収して原因を究明した。この時はLE-7のインデューサーという部品が運転途中で破損したために打ち上げが失敗したと分かっている。布野理事は「(今回はそもそもエンジンが着火していないので)現時点では、H3第2段の回収は考えていない」と回収に否定的な考えを示した。
2023.06.05 20:43 | 固定リンク | 化学
ガーシー元議員「強制送還」で逮捕
2023.06.05
ガーシー元参議院議員を逮捕 著名人を脅迫した疑いなど 警視庁 「UAEが強制送還」


動画投稿サイトで著名人らを繰り返し脅迫した疑いなどで逮捕状が出ている、ガーシー元参議院議員が、4日、滞在先のUAE=アラブ首長国連邦から帰国し、暴力行為等処罰法違反などの疑いで警視庁に逮捕されました。

警視庁は、動画配信の詳しいいきさつについて、元議員を取り調べることにしています。

逮捕されたのは、元参議院議員のガーシー、本名・東谷義和容疑者(51)です。

捜査関係者によりますと、去年、動画投稿サイトで、著名人や実業家を繰り返し脅迫したり中傷したりしたなどとして、暴力行為等処罰法違反の常習的脅迫などの疑いが持たれています。

元議員をめぐっては、ことし4月にパスポートは失効していましたが、その後もUAE=アラブ首長国連邦に滞在しているとみられていました。

警視庁が、ICPO=国際刑事警察機構を通じて国際手配するとともに、先月、現地に捜査員を派遣し、現地当局に元議員の早期の帰国に向けて働きかけていたということです。

元議員は4日夕方、飛行機で成田空港に帰国したところを警視庁に逮捕されました。

警視庁は、動画配信の詳しいいきさつについて取り調べることにしています。

■ガーシー元議員 空港では

ガーシー元議員は青色の半袖Tシャツに白い短いズボン姿で、大勢の捜査員に囲まれて空港をゆっくりと無言のまま歩いていました。

この際、集まった報道陣に目を向け、時折笑みを浮かべることもありました。

またガーシー元議員は午後6時ごろ、捜査員に囲まれて成田空港の地下駐車場に姿を見せました。

まっすぐ前を向いて歩き、報道陣に軽く頭を下げたあと、待機していた警察の車両に乗り込んで、空港をあとにしました。

■「動画配信は事実」ガーシー容疑者、接見弁護士に捜査協力の意思

接見した弁護士に「動画を配信したことは事実なので、やったことはやったということで(捜査に)協力する」という趣旨の説明をしていたことが判明した。弁護士が接見後、インターネットのライブ配信で明らかにした。

高橋弁護士は配信で、ガーシー容疑者は帰国したことについて「すっきりした気持ちとほっとした気持ちが強い」と穏やかな表情で話していたと説明した。「自分で空港に向かい、自主的に帰国した。無理やり帰国させられたわけではない」と強調し、移送時などに笑みを浮かべていたことは「マスコミがたくさんいたから」と話したという。

一方、容疑についてガーシー氏は「配信した事実関係については客観的証拠もあるので、(捜査に)協力姿勢でいく」と説明したという。

捜査関係者によると、今回の帰国は「(ガーシー容疑者の)自主的な帰国ではない」としており、UAEがガーシー容疑者を国外へ退去させたとみられる。

■刑事告訴していた実業家の1人「事実を話して」

ガーシー元議員が逮捕されたことについて、刑事告訴していた実業家の1人は「取り調べに素直に応じ、事実を話してもらいたいと思います。私に関する配信内容が事実無根であったことが一日も早く明らかになることを希望します」というコメントを出しました。

■政女の前身のN党立花氏「帰国するにはそれなりの理由が」

政治家女子48党の前身のNHK党の党首として、去年の参議院選挙にガーシー氏を擁立した立花孝志氏は、4日午後3時から記者会見を行いました。

この中で、立花氏は「驚いたというのが正直な感想だが、帰国するのにはそれなりの理由があるのだろう。ガーシー氏がやったことのすべてが正しいとは思っていないが、言っていることの中には正しいこともあり、党として全力でサポートしていく」と述べました

■ガーシー元議員の実家 警視庁が捜索 外務省が旅券返納命令も

動画投稿サイトで著名人らを繰り返し脅迫した疑いなどで逮捕状が出ているガーシー元参議院議員について、警視庁は詳しいいきさつなどを調べるため、3月24日朝から兵庫県にある実家を関係先として捜索しました。

国会への欠席を続け除名された元参議院議員のガーシー、本名・東谷義和容疑者(51)は去年2月から8月にかけて動画投稿サイトで著名人や実業家を繰り返し脅迫したり中傷したりした疑いがあり、警視庁は先週、暴力行為等処罰法違反の常習的脅迫などの疑いで逮捕状を取りました。

ガーシー元議員はUAE=アラブ首長国連邦に滞在しているとみられていて、警視庁は、詳しいいきさつなどを調べるため、24日朝から、兵庫県伊丹市にある実家を捜索しました。

この事件で警視庁は、一部の動画制作や編集に関わったとして元議員の知人の会社経営者の逮捕状も取っていて、複数の人物が動画配信に関与していたとみて引き続き捜査を進めています。

警視庁は、元議員が帰国する可能性は低いとみて、今後、警察庁を通じてICPO=国際刑事警察機構に申請し、国際手配する方針だった。
2023.06.05 08:25 | 固定リンク | 事件/事故
天安門事件で中国に変化が
2023.06.05
中国 天安門事件から34年 政府への批判は徹底的に抑え込まれる

中国の首都 北京で民主化を求める学生らの運動が武力で鎮圧され、大勢の死傷者が出た天安門事件から、6月4日で34年になりました。
習近平国家主席への権力の集中が進む中、情報統制が強化され、共産党や政府への批判は徹底的に抑え込まれています。

34年前の1989年6月4日に起きた天安門事件では、民主化を求めて北京の天安門広場やその周辺に集まっていた学生や市民に対して軍が発砲するなどして鎮圧し、大勢の死傷者が出ました。

中国共産党や政府は、事件を「動乱」と結論づけて、当時の対応は正しかったとする立場を変えておらず、情報統制が年々強化される中、事件を公に語ることはタブー視されています。

天安門広場やその周辺には4日朝、多くの観光客が訪れる一方で、大勢の警察官が配置され、犠牲者を追悼する動きなどを警戒して厳重な警備態勢が敷かれていました。

習近平国家主席が異例の3期目に入り、権力の集中が進む中、事件の真相究明や責任追及を求める声は封じ込められ、共産党や政府への批判は徹底的に抑え込まれています。

■遺族でつくるグループ「天安門の母」が書簡を公開

天安門事件で家族を亡くした遺族は「天安門の母」というグループをつくり、中国政府や指導者に宛てた書簡を公開するなどして真相究明や謝罪を求め続けています。

ことしも天安門事件が起きた6月4日を前に、遺族116人が連名でインターネット上に書簡を公開しました。

書簡では「34年がたったが、一夜にして突然、家族を失った苦しみは、悪夢のように心の底に永遠にまとわりついて離れない」として、今も苦しむ遺族の心情を表しています。

そのうえで「政府は事件をコントロールし、残酷な事実の記憶を人々の心から消し去ろうとしている」として、事件の風化を懸念しています。

そして、「希望は見えないが私たちは諦めない。人間としての尊厳を守り、犠牲者たちの正義のために政府がすべての遺族に謝罪し、当時の悲劇について国民にざんげすることを待ち望む」と、中国政府を非難しています。

しかし、この書簡は情報統制が厳しい中国では閲覧が制限されて、多くの人が見ることはできません。

事件から34年たち、遺族が高齢化し、亡くなる人が相次いでいて、書簡では、この1年で新型コロナウイルスなどで7人が亡くなったことを明らかにしています。

■遺族「34年間沈黙してきた政府を受け入れることはできない」

「天安門の母」の中心メンバーの1人で、夫を亡くした尤維潔さん(69)は、「この時期になると、愛する家族が殺された当時の情景が頭に浮かび、必ず気持ちが沈んでくる。天安門事件は政府が軍隊を使って国民を銃殺した犯罪であり、34年間も沈黙してきた政府を受け入れることはできない」と話していました。

尤さんは、中国国内で情報統制が年々強化されるとともに、遺族が高齢化し、亡くなる人が相次いでいることを踏まえ、「政府が天安門事件をタブーにしたので、事件を知っている親の世代が話さなければ、若者たちには分からない。みんなが伝えないなら、若い世代は少しずつ忘れていくだろう」と述べ、事件が風化することを心配していました。

また、香港で3年前から天安門事件の犠牲者を悼み、中国の民主化を訴える大規模な集会が開かれなくなったことについては、「追悼集会は中国の人たちに天安門事件を理解してもらう窓口だったが、政府によって禁止された。香港メディアも報道を禁止された。香港政府のやり方はとても残念だし、天安門事件は決して忘れてはならず、非難されなければならない」と訴えていました。

こうした一方で、海外では今も支援の動きが続いていることについて、尤さんは「日本を含む世界各地で毎年この時期に天安門事件の犠牲者を追悼してくれることに感謝している」と話していました。

■中国外務省「中国政府は明確な結論出している」

天安門事件からことしで34年になるのを前に、中国外務省の毛寧報道官は、2日の記者会見で「1980年代末に起きた政治的な騒ぎについて、中国政府はとっくに明確な結論を出している」と述べ、事件の評価を見直す必要はないという立場を強調しました。

そのうえで、世界各地で事件を追悼する活動が行われることについて、「事件を口実に中国を中傷し、内政に干渉するいかなるたくらみも、思いどおりにならないだろう」と述べ、反発しました。

■遺族が墓参りの墓地も警察官や警備員が厳戒態勢

天安門事件で家族を亡くした遺族のグループ「天安門の母」の中心メンバーの1人で、夫を亡くした尤維潔さん(69)などが毎年墓参りに訪れている北京郊外の墓地でも、4日の朝から大勢の警察官や警備員が厳戒態勢を敷いていました。

記者が取材のため墓地を訪れると、警察官に制止されてすぐに立ち去るよう求められ、敷地への立ち入りは一切認められませんでした。

天安門事件から34年が過ぎても、中国政府は遺族や報道関係者の動きに神経をとがらせています。

■香港の公園 追悼の動きなく 親中派団体のイベント開催

天安門事件が起きた6月4日に長年追悼集会が開かれてきた香港の公園では、当局によって追悼の動きが徹底的に抑え込まれる中、ことしは、親中派の団体によって中国各地の特産品を販売するイベントが行われ、大きく様変わりしています。

一国二制度のもと言論や集会の自由が認められてきた香港では、市民団体がおよそ30年間、毎年6月4日に香港中心部の公園で追悼集会を開き、ろうそくをともして犠牲者を悼むとともに、中国政府に事件の真相究明を求めてきました。

しかし、2020年と2021年はコロナ対策を理由に当局は集会の開催を許可しなかったほか、追悼集会を主催していた市民団体の幹部らが、反政府的な動きを取り締まる香港国家安全維持法違反などで相次いで起訴され、団体はおととし解散に追い込まれました。

追悼集会が開かれてきた公園では4日、親中派の団体が中国返還26周年を祝うイベントを開催し、中国各地の料理など特産品を販売するブースが設けられていて、多くの人が訪れていました。

香港メディアによりますと、警察はおよそ6000人を動員して公園周辺などの警戒にあたり、3日に4人を逮捕するなど、追悼の動きを徹底的に抑え込んでいます。

■中国でNHKの放送 天安門事件のニュースの際に一時中断

中国ではNHKの海外向けテレビ放送で日本時間の4日午後1時すぎ、天安門事件に関するニュースを伝えた際に、カラーバーとともに「信号の異常」などと表示され、放送が一時中断されました。

中国では、国内で放送される外国のテレビ局の放送内容も当局に監視されていて、中国政府や共産党にとって都合の悪い内容はたびたび中断されます。

中国当局が天安門事件に関する外国メディアの報道に神経をとがらせていることがうかがえます。

■天安門事件から34年を前に ニューヨークに記念館が開館

中国の北京で民主化を求める学生らの運動が武力で鎮圧され、大勢の死傷者が出た天安門事件から34年になるのを前に、事件の資料を集めた記念館が2日、アメリカ・ニューヨークで開館しました。

この記念館は、1989年6月4日に起きた天安門事件で、当時の学生リーダーの1人でアメリカに亡命した王丹氏らが募金を募りニューヨーク・マンハッタンのビルの中に設立しました。

記念館は、これまで香港で民主派の市民団体が運営してきましたが、政府による統制が強まる中、おととし香港の警察の捜索を受けるなどして閉館していました。

開館を記念する式典が2日行われ、王氏は「現在も政権によって人々が脅かされている。事件で犠牲になった人々を追悼し、当時の中国人の民主化の夢を思い返すべきだ」と述べ、事件を風化させないことが必要だと訴えました。

香港の記念館で展示されていた品々のほとんどが当局に押収されたため、ここには関係者から新たに寄せられた血に染まったシャツや当時の新聞記事などが展示されています。

この日は、当時の学生運動のリーダーや事件の関係者などが招待され、長年、中国の人権問題に取り組んできたという弁護士の男性は「これは単なる記憶ではなく未来に関わることで、ニューヨークに記念館ができたことには大きな意味がある」と話していました。
2023.06.05 08:12 | 固定リンク | 事件/事故
中国の停戦仲介「ロシアの手先」だった
2023.06.03
中国は「停戦仲介」で、ウクライナに領土放棄を迫っていた──米紙報道「ロシアの手先と断言」


李輝のヨーロッパ歴訪では中国の停戦案をちらつかせ「西側諸国の結束と団結を試していたのだろう。」ロシアに撤退を求めない停戦案は「仲介」ではなく「ロシアの手先」だったと断言できる。

ロシアとウクライナの仲介を買って出た中国は、西側諸国に対し、ウクライナ国内の占領地域をロシアに残す形で「即時停戦」を受け入れるよう迫っていたと、5月26日付の米ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた。中国は5月29日、この報道を否定した。

ウクライナのニュースサイト「ウクラインスカ・プラウダ」によれば、同国のドミトロ・クレバ外相は週末に、中国側の提案は受け入れられないと拒絶。ソーシャルメディアへの投稿で国民に対し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領もウクライナ政府も領土問題での譲歩は一切受け入れないと確約した。

中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表は、5月16日から26日にかけてヨーロッパを歴訪。ウクライナを皮切りに、ポーランド、フランス、ドイツ、欧州連合(EU)、そしてロシアを訪れた。4月には習近平国家主席が、ウクライナ侵攻が始まって以来初めてゼレンスキー大統領と電話会談を行い、ウクライナで続く戦争について、中国として停戦に貢献していく立場を表明していた。

ウォール・ストリート・ジャーナルは、李がポーランド、フランス、ドイツとEUの当局者に対して、すぐに戦闘を終わらせるよう呼びかけたと報道。ウクライナにとって受け入れ難い「紛争凍結」(現状で領土を固定する)という結末を示唆したとしていた。

■クレバは国民に報道への「冷静な対応」を促す

李と西側当局者の会談に同席していたある外交官は同紙に対し、「我々はロシア軍が撤退しない限り、紛争凍結は国際社会の利益にかなわないと説明した」と語った。また別の外交官は同紙に対して、中国は「おそらく西側諸国の団結を試していたのだろう」と述べた。

中国外務省の毛寧報道官は、この報道を否定。李はウクライナでの紛争に関する中国政府の立場を伝え、意見の一致点を探るために「さまざまな当事者の意見や助言」に耳を傾けたのだと主張し、「中国が引き続き建設的な影響力を発揮していくことに、全ての当事者が期待を示した」と説明した。

クレバはウクライナ国民に向けたメッセージの中で、報道内容について確認するために、李が訪問したヨーロッパ諸国の当局者らに連絡を取ったと明かした。

その結果、「ロシアが占領しているウクライナの領土をロシアのものと認めるという発表や、それに関する話し合いがあったことを認めた者は一人もいなかった」と述べた。

クレバは国民に対して「冷静さと理性を保ち、報道に感情的な反応をしないように。我々はこのプロセスを管理している。ウクライナの知らないところで、何者かが我々の不利になるようなことをする事態は起きない」と述べ、中国が関与する話し合いは、ウクライナ政府が設定した条件に基づいて続けられるとつけ加えた。

2009年から2019年まで駐ロシア中国大使を務めていた李は、ロシア政府の当局者の手厚い歓迎を受けた。ロシア外務省によれば、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「ウクライナ危機について、中国が偏りのない立場を取っていることに感謝し、仲裁への積極的な関与を称賛した」ということだ。

中国指導部はロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年以上にわたって、この「紛争」について、明確な立場を表明してこなかった。ただし中立の立場を強調する一方で、ロシア政府が西側諸国、とりわけアメリカに対して表明した不満の多くに同調してきた。

こうしたなか中国政府は2月、ロシアによるウクライナ侵攻から1年に合わせて、中国政府の立場を示す12項目の文書を発表。ロシア軍の撤退には触れずに停戦を呼びかけた。

中国政府は同文書の中で、「すべての当事者が対立を激化させず、ロシアとウクライナが同じ方向を目指して協力することを支持し、できる限り早い時期に直接的な対話を再開して全面的な停戦を達成するべきだ」と呼びかけたが、ウクライナは拒絶した。

■中国は「力の論理」でロシアとの連携を選んだ

その答えをはからずも当の中国の外交官が教えてくれていた。

「ウクライナ問題から銘記すべき一大教訓:弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚かをしては行けないこと!仮に何処かほかの強い人が後ろに立って応援すると約束してくれてもだ」(原文ママ)。

ウクライナ侵攻があった2月24日。在大阪の中国総領事が自身のツィッターに書き込んだ内容だ。

中国ウォッチャーの、ある国の外交官はこの総領事が「勇ましい発言をする『戦狼」外交官で有名な人」だと教えてくれた。「本来、外交官というのは任地の国との関係発展に力を尽くすものだが、この外交官は任地の日本のことなんかよりも、北京にアピールすることに余念がないのだろう」と解説する。

ちなみにウクライナ侵攻は「弱い人が強い人に喧嘩を売った」のではなく、強い人が弱い人に一方的に喧嘩を売ったものだが、中国は開戦前から「強い人」につくことを決めていたのかもしれない。

■中国の“裏切り”とアメリカの怒り

2月25日付のニューヨーク・タイムズはバイデン政権がウクライナを侵攻しないようロシアを説得することを中国に頼んでいたと報じている。この報道によれば、アメリカ側はロシア軍が集結していることを示す機密情報まで中国側に開示して複数回にわたって説得を依頼したが、ことごとく中国側はこれに懐疑的な姿勢を見せて拒否。この記事に出てくる米政府当局者の言葉を借りれば、中国はアメリカが提供した機密情報をロシア側に流すことすらしていたという。

ウクライナが大国ロシアに蹂躙されることがないよう、潜在的敵国である(刺激的な言い回しだが、実態を見ればそうだろう)中国に機密情報を開示してまで頭を下げる、という低姿勢はアメリカらしからぬ動きだ。それだけアメリカも必死だったのだろう。

中国はそうしたアメリカの、なりふり構わぬ必死の説得を袖にしただけでなく、受け取った機密情報を裏でロシアに流していたことになる。

中国による「裏切り」ともいえる態度がよほど腹に据えかねたのだろう。

アメリカの情報機関からのリークによる報道は続いた。今度は中国が「北京冬季五輪の開会前にウクライナ侵攻をするのはしないでくれ」とロシア側に求めていたというもので、またもやニューヨークタイムズが米欧の情報機関の報告書にある記載として報じた。当然これはアメリカ情報機関によるリークであろうし、軍事侵攻の食い止めよりも、大過ない五輪の開催という自己都合を優先させた中国に対するアメリカの怒りだと解釈していいだろう。

一方、中国側は「完全な偽情報」(中国外務省・汪報道官)だと、この報道を全面否定している。全面否定という中国リアクションのいつものパターンだ。インテリジェンス関係者と話をしていると「これは決してうまいやり方ではない」といつも話題にのぼる。

実際、日常生活においても全面否定はかえって嘘臭く聞こえることが多い。事実関係を認めるところは認めつつ、核心的な部分(譲れない部分)はエビデンスやディテールを添えて否定するのが説得力のある反論というものだ。ここは確かにこういうやり取りはあったが、こういう話をしていたもので、ご指摘の点などは話題にのぼっていない、といった具合だ。

「憶測だ、偽情報だ」、場合によっては「欧米の陰謀だ」といつもの通りに全面的に否定する強い防御反応はむしろ、一点の真実を含んでいるから激しく反応しているのでは、という疑問を呼ぶ。かえって間接的に報道内容を認めているようなものかもしれない、という議論は中国政府内でないのだろうか。いつも素朴な疑問をおぼえるのである。

■ウクライナ侵攻で浮かび上がる「台湾有事」

専制主義国家同士、世界からどう見られようとも連携を深める。ウクライナ侵攻が浮き彫りにした、もう一つの薄暗い現実だ。

「中国政府高官たちがこの陰謀論を振りまいていることをアメリカ政府はわかっている。」
3月9日、ホワイトハウスのサキ報道官はツィッターで公然と中国を批判した。「アメリカとウクライナが共同で化学、生物兵器をウクライナ国内で開発している」というロシアの駐英大使館によるツィッター投稿に対する反論だ。

CNNは中国の国営テレビCCTVもこのロシアの投稿を報じていることを伝え、中国の国営メディアはウクライナがアメリカの傀儡で、ロシアではなくむしろウクライナの方が脅威を与えているという印象を広めようとしていると指摘した。さらには中国メディアがウクライナ攻撃に参加しているロシア軍に同行取材していることも報じている。

これまではニューヨークタイムズなど大手メディアにリークすることでアメリカ政府の主張を非公式に発信する穏当なやり方をとってきたが、3月9日を境にアメリカ政府が公然と中国のロシアとの連携を批判し始め、主要メディアもこの流れに加わった形だ。

ウクライナ侵攻でも存在感を示す中国。そして警戒を強めるアメリカ。潮目の変化はこれだけではない。アメリカの安全保障アリーナでは将来の台湾有事に備えて、ウクライナ侵攻からどんな教訓を学ぶべきか、という議論がすでに始まっている。

■ウクライナ侵攻 背後の情報戦 ロシア軍の停滞のワケを読み解く

なぜか小規模の部隊で動き、ウクライナ軍の待ち伏せで犠牲を重ねたロシア軍。一方、なぜウクライナ軍はロシア軍を待ち伏せ攻撃できているのか。ウクライナ侵攻の裏側で繰り広げられていた情報戦について、圧倒的な戦力を誇るはずのロシア軍が停滞を余儀なくされている謎に迫る。

■アメリカによるインテリジェンス支援の実態

いくら作戦の初期段階において地上部隊を大規模に投入しない「手加減」をしていたとしても、ロシア軍は巡航ミサイルや弾道ミサイルをウクライナ軍の防空施設や指揮所に撃ち込んでいる。ロシア軍が発射したミサイルは700発以上にのぼる。

ロシア軍に詳しい現役の軍関係者は「全体像はわからないが、初期のミサイル攻撃、航空攻撃によってウクライナ軍のC4I(指揮・通信・統制・コンピューター、情報)システム、防空システム、司令部機能の多くは破壊されたと見るべき」だと指摘する。そのうえで「ウクライナ軍の神経機能と眼と耳の多くは失われ、ウクライナ軍は組織的な戦闘というよりも、生き残った部隊ごとに独立的に戦闘をおこなっていると見るべき」だという。

それにもかかわらず、ウクライナ軍はロシア軍の車列を対戦車ミサイルやドローンで待ち伏せ攻撃をしている。動画で明らかになっている範囲でいえば、ウクライナ軍の戦い方は進撃しつつロシア軍の陣地や拠点を正面から叩くという積極攻勢ではなく、あくまで道路上を進んでくるロシアの小規模の車列を後方に回り込んで待ち伏せて叩く、という守勢的な作戦だ。

待ち伏せには敵がやってくる位置とタイミングを正確に把握することが必須なのは言うまでもない。前述の軍関係者はアメリカのインテリジェンス支援があるのではないか、と疑う。

「たとえば市街地で待ち伏せをするにしても、ロシア軍の経路、車列の規模、先端の位置などがわかっていなければ準備のしようもないはず」と前述の軍事専門家は言う。「『マルチドメイン作戦』(陸海空、宇宙、サイバー空間を含む多角的で高度な作戦 )の支援が、間接的に行われているとしか思えない。今、それができる能力を持つのはアメリカだけ」だという。

この疑問は3月2日のホワイトハウスのサキ報道官の会見で氷解した。記者に問われるとサキ報道官はあっさりウクライナ側に「リアルタイムで」インテリジェンスの提供をしていることを明らかにしている。

CNNによれば、アメリカ軍はロシア軍の動きや位置に関する情報を入手して30分から1時間以内にウクライナ側に伝達しているという。おそらくこれは大まかな動き、たとえばロシア軍の輸送トラックの車列がどの道をどの方角に向かいつつある、という情報なのだろう。特定の戦車をミサイルで照準して撃破するのに使えるような、より精度の高い個別の目標に関するターゲティング情報まで提供しているかどうかはアメリカ政府はコメントを避けている。

アメリカ軍はさらに開戦前まで首都キエフ西方でウクライナ軍に訓練を施してきた。米陸軍特殊部隊グリーンベレーとフロリダ州軍の兵士が教官として教育した数は延べ2万7千人にのぼるという。

「ロシア軍と事を構える気はない」として地上部隊のウクライナ派遣など直接介入を早々に否定しているバイデン政権だが、武器の提供、訓練の提供、そしてインテリジェンスの提供など間接介入の範囲で最大限できる支援をしている。

■軍事大国アメリカの「冷静と情熱」

どんなに美しい外交的レトリックで飾ったとしてもアメリカがウクライナの直接支援のために軍を派遣しないのは、そこに戦略的利益がないからである。

戦略的利益があると判断すればアメリカはもっとリスクをとって軍事的対抗策を打ち出すこともあったかもしれないが、今のところ変化の兆しは見られない。ヨーロッパに派遣している軍の増強もバルト三国やポーランド、ルーマニアといった東欧のNATO加盟国に対する安心供与のためであり、ウクライナ防衛のためではない。

ロシア軍の爆撃やミサイル攻撃に苦しむウクライナ政府が再三、求めているウクライナ上空の飛行禁止空域の設定でもアメリカ政府は拒否の姿勢を崩さない。そんなことをすれば「NATO軍機がロシア軍を撃墜する展開となり、第三次世界大戦に発展してしまう」からだ。ロシアと事を構えることになるようなリスクは一切とらない、それがアメリカ政府の戦略的目標だ。

どんなに非人道的な破壊行為がおこなわれていて、心を痛める光景があろうとも、できないことはできないし、しないことはしない。国際政治が冷徹な国益の計算に基づいていることに気づかされる。

だが、そのアメリカも冷徹な国益計算だけ、というわけではない。利益だけではない、情熱(感情)で動いている側面ももちろんある。

武器の提供がいい例だ。ウクライナへの武器の輸送は主にポーランド、ルーマニアから陸路でおこなわれているが、ロシア軍からの攻撃を受けるリスクと隣り合わせだ。

流れはこうだ。アメリカをはじめ各国が提供する武器は一度、ウクライナと隣接するポーランドとルーマニアにある非公表の飛行場に空輸されたのちに陸路でウクライナに搬入される。基地をホストしているポーランドが果たしている役割はロシア軍から見れば敵対行為であり、場合によっては当該飛行場に攻撃が加えられることもあり得る。

実際、ロシア軍の作戦はポーランドとの国境に近いところにも及んでいて国防総省が強い懸念を示している。またポーランドとウクライナが接している国境付近の空域はベラルーシに配備されたS-300地対空ミサイルの射程に収まっており、ロシアがその気になれば空輸に対して妨害や攻撃を加えることもできる。

■なぜ小国・中立国までがリスクを冒すのか(NATO)

武器の提供と一言でいっても、やっている側も相当のリスクをとってやっていることなのである。実際、NATO各国は大国から小国までリスクをとってウクライナ支援に動いている。ロシア侵攻があった翌日には早速、アメリカ、カナダ、スロバキア、リトアニア、ラトビア、エストニアなどの各国が共同で武器弾薬をポーランド経由で送っている。

GDPや国防予算が日本よりも圧倒的に小さいような国々もリスクをとって責任と役割を果たしている姿からは冷徹な国益計算とともに、何か心意気のようなものさえ感じさせる。オランダは数少ない輸送機を使って、対戦車ミサイル400発、スティンガー携帯型対空ミサイル200発を輸送しているし、デンマークも自ら輸送機を飛ばして対戦車ミサイルを空輸している。最終便がデンマーク本国に帰還したのはロシア軍による攻撃が本格化している3月1日のことだった。持っている輸送機の数も稼働数も少ない、これらの国にとっては決して楽なオペレーションではなかったはずだ。

小国といえばバルト三国の本気度はさらに高い。リトアニアはロシアによる侵攻がはじまった2日後の2月26日、早速、陸路でウクライナに武器を届けている。忘れてはいけないのはフィンランドやスウェーデンといったNATOに加盟しない、歴史的に中立的立場をとってきた国々もウクライナ支援の列に加わったことだ。フィンランドは1500のロケットランチャー、2500丁のライフル、15万発の弾を提供したほか、スウェーデンも7700発の対戦車ミサイルを送っている。

なぜ、ヨーロッパの小国や中立国がこれほどの支援をするのだろうかー。

それはロシアに近い位置にある国々にとってウクライナ侵攻は「明日は我が身」だからだ。

まずは自分達に累が及ぶ前にウクライナで食い止めてもらいたい。それが偽りのない本音だろう。そこには当然、小国なりの冷静な国益計算と自己防衛本能がある。

だが、彼らを動かしているのはそれだけではない。それはウクライナが本気と勇気を世界に示しているからだ。

■ウクライナの「クリエイティブな戦い」

「ウクライナ軍、そして人々は勇敢に、そしてクリエイティブに戦っている」(アメリカ国防総省)。まさにウクライナが見せている抵抗は勇気にあふれ、創造的な戦法がとられている。

アメリカの情報機関はロシア軍が数日で首都キエフを陥落させられると考えていたと分析している。その電撃的短期決戦の先兵として首都キエフに投入されていたのが、ゼレンスキー大統領の暗殺を狙った工作員だ。

ウクライナ兵に身分偽装した工作員の数は100人とも200人とも言われ、開戦6日前の2月18日からキエフ市内で活動をしていたという未確認情報もある。

SNS上にはウクライナ軍に身分を見破られて捕らえられた工作員たちとされる写真が出回っている。ウクライナ側はロシア人には発音しにくいウクライナの方言を合言葉にして、それを言えなかった工作員たちを次々に見破っていったとも言われている。

ウクライナ軍はロシア軍の進軍を少しでも遅らせるために道路標識を書き換えたり、非武装の一般市民がグループで道をふさぐ形でロシア軍の進軍の前に立ちはだかったりしている。18歳から60歳の男性の出国を禁じているウクライナ政府だが「前線で罪を償える」(ゼレンスキー大統領)として軍務経験のある受刑者を急遽、釈放して戦力にしている。

クリエイティブな戦い方といえば、極めつけはウクライナ軍がロシア軍パイロットに呼び掛けている懸賞金だ。航空機であれば100万ドル、ヘリコプターであれば50万ドルの懸賞金を渡すので投降を呼びかけているのだ。懸賞金目当てで機体ごとパイロットが投降すれば、ロシア軍にこちらの犠牲なしで実質的なダメージを与えられるという、合理的でユニークな発想だ。ウクライナ国防省が作った動画には連絡先の電話番号もある。さて、ホットラインが鳴ることはあるだろうか。

■立ち上がった「普通の人々」

SNSや報道ではウクライナのごく普通の人たちが戦いに加わっていることが伝えられている。

「自分の孫のために戦う」と入隊を希望しに来た80歳のおじいさん、火炎瓶作りに精を出す車椅子の人たち、銃を手に取ったバレリーナ、戦うため子供に別れを告げる夫婦。侵攻後の混乱の中で出会い結婚したカップル、立ち上がる女性たち。

写真に映る彼ら、彼女らからは強さと弱さがない混ぜになったようなものがにじみ出る。勇気、覚悟、忍耐と同時にどこか、ごく普通の人たちが持つ柔らかい気持ち、いたわりや優しさのようなものを隠しきれていないところに、この戦いの不条理と非情さがある。

軍人だけではなく、ごく普通の一般市民たちが銃を取り、火炎瓶を作り、自分がやれることをやり抵抗しようとしているウクライナ。そのウクライナは一時期、アジアの大国に停戦の仲介を期待したことがあった。
中国だ。しかし、その期待は最初から裏切られていたのであった。
2023.06.03 16:09 | 固定リンク | 戦争
【速報】紙の健康保険証「廃止」
2023.06.02



改正マイナンバー法など成立 紙の健康保険証は“廃止”→マイナカードに一本化 「特急発行・交付」の創設も

紙の健康保険証を廃止して、原則マイナンバーカードに一本化することなどを目的とした改正マイナンバー法などの関連法が参議院本会議で成立しました。

改正された法律は、▽紙の健康保険証を廃止して原則マイナカードに一本化するほか、▽マイナカードを速やかに交付する「特急発行・交付」の創設、マイナカードの利用促進を目的としています。

マイナカードをめぐっては、他人の情報が紐づけられるなどトラブルが相次いでいて、法案の成立が遅れていました。

法案は、参議院の本会議で採決が行われ、与党や日本維新の会の賛成多数で可決、成立しました。

一方、「適切な措置を講ずるべき」として、▽マイナカードの取得を強制しないことや、▽セキュリティ対策に十分配慮をすることなどの附帯決議がつけられました

■マイナカード最大の失敗はネーミング?

政府関係者が明かすマイナンバーカード“最大の失敗” 実質義務化背景に岸田総理の強い思い

「マイナンバーカード最大の失敗は、“マイナンバーカード”という名前をつけたことだ」

以前、ある政府関係者が私にこう語った。どういうことか。

政府関係者

「本来マイナンバーカードは、カードのICチップを利用した、全国民が持つ身分証明書となることが期待されていた。「デジタル時代のパスポート」と言われるのはそのためで、マイナンバーは使わないし関係がない。しかし、「マイナンバーというものは他人に漏らしてはいけない」「重要情報です」と事前に宣伝してしまったため、そんな大事なものが書いてあるカードは持ち運べないというイメージがついてしまった」

全国民が無料でICチップ付きの身分証明書を取得できる、というのは世界でもほとんど例がない取り組みであり、デジタル社会で優位に立てる、そんな思惑があったということだが、マイナンバーが足を引っ張った、という解説だ。

ちなみに現在、政府は「マイナンバーを他人に見られても大丈夫です」「マイナンバーだけ、あるいは名前とマイナンバーだけでは情報を引き出したり、悪用することはできません(河野デジタル大臣のブログより)」と強調している。

そんな“負のイメージ”からスタートしたマイナンバーカードだが、全国民にカードを取得させるべく汗をかいてきた2人の総理がいる。菅前総理と岸田総理だ。

■マイナカードと菅前総理

菅義偉前総理

「河野さんがデジタル大臣でよかったよね」

政府が打ち出した、2024年秋にも紙などの保険証を廃止し、マイナ保険証の取得を“実質義務化”する方針。感想を聞かれた菅前総理は周囲にこう漏らした。

菅氏は官房長官時代、マイナンバーカードと保険証の一体化を打ち出したことで知られる。

実は、その菅氏、カードの配布が始まる前は「全国民に配布するのは無理だ。普及は難しいだろう」などと否定的だった。

しかし、その数年後、マイナンバーカード事業を一からやり直すことも考えたものの、すでに事業に数千億円が費やされていることを知り、それならば有効活用しなければ、と考えを改めたのだという。

菅総理(当時)(2021年3月31日 衆院内閣委にて)

「特に設置の際は5000億ぐらいかかっていました。そうしたお金がかかっていて、たしか10数%の利用率だったんです。国民の皆さんに申し訳ない、そういう思いの中で、何が一番早く、また国民の皆さんにお役に立てるかと考えたときが、保険証だったんです」

総理大臣時代には、マイナンバーカードと運転免許証の一体化についても本格的に乗り出し、自身の秘書官だったこともある中村格・警察庁次長(当時)に「一体化の早期実現」を命じた。結果、当初は「2026年度中」とされていた一体化の目標時期が「2024年度中」と一気に2年前倒しされることになった。

しかし、その菅氏でさえも、現在使われている、紙などの保険証の廃止には踏み込まなかった。

関係者によると、「当時は医療機関にマイナンバーカード読み取り機がほとんど普及しておらず、現場からも強い反発の声があったから」だという。

こうした経緯があるだけに、冒頭の菅氏の発言は、発信力があり、多少の反発にひるむことなくマイナンバーカード普及の旗を振り続ける河野氏の行動を評価したものだ。

■“実質義務化”背景に岸田総理の強い思い

実際、岸田総理が8月の内閣改造で河野氏をデジタル大臣に起用したのは、マイナンバーカード普及促進をにらみ、その突破力に期待したからだった。

岸田総理

「マイナンバーカード普及は待ったなしだ。河野大臣の突破力に期待している」

岸田総理は、周囲にこう解説すると、組閣直後に河野氏に対してマイナカードと保険証との一体化促進と、紙の保険証廃止によるカード取得の“実質義務化”を指示したという。

菅前総理、岸田総理2人の仕事ぶりを間近で見てきた政府関係者は、「岸田さんにとってのマイナンバーカード普及と言うのは、菅さんにとってのワクチン接種。それくらいの熱意をもって総理は臨んでいる」と解説する。

2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府与党はすべての国民に一律10万円を配ることを決めた。しかし、給付を実施する自治体の窓口は処理しきれずに混乱し、給付が遅れるなどした。批判の矛先は当時、自民党の政調会長だった岸田総理にも向いたのだ。

総理周辺

「国民からの申請を待つことなく、政府から一律に給付する仕組みは日本にはない。これを実現させるためにはマイナンバーを完全普及させるしかない」

総理周辺は、岸田総理がすべての国民にプッシュ型でサービスを提供できるツールとしてのマイナンバーカードを強く意識しだしたのはこのころからだったと証言している。

その熱意はどこから来るのか。岸田総理には苦い記憶がある。

しかし、なぜ今、マイナカード”実質義務化”に踏み切ったのか。

■“これ以上の上積みは難しい”と判断

マイナンバーカードの交付率は、配布開始6年半あまりで50.9%(10月27日現在)に達した。申請数なら7200万枚を超えていて、年内に運転免許証の約8100万枚到達が視野に入ってきた。免許証を保有しているのは全国民の約64%(取得できるのは満18歳以上)。ちなみに新型コロナワクチンの3回接種率は約66%(10月27日現在・生後6か月以上が対象)である。ご存じのようにワクチン接種は義務ではない。

政府関係者によると、政府がマイナポイント付与という“アメ”から、紙などの保険証廃止=カード取得の実質義務化という“ムチ”へと舵を切ったのは「お願いベース」ではこれ以上の上積みが難しいと判断したところが大きいという。「どこかで退路を断たないとなかなか進まない(政府関係者)」という考えだ。

ただ、現行の法律上、マイナンバーカードの取得はあくまで任意となっている。実質義務化をするならばマイナンバー法の改正をすべきでは、という批判は免れない。また、安倍元総理の国葬と同様、突然、トップダウンで意思決定を下すのは乱暴だという声も出ている。
一方で、他の決定事項においては「検討使」とか「判断が遅い」などと非難されている岸田総理は、双方向から批判される珍しい政治家と言える。

■”誰一人取り残さない”デジタル社会は実現するか

「マイナンバーカードで、医療機関を受診することによって、健康・医療に関する多くのデータに基づいた、よりよい医療を受けていただくことができるなどのメリットがあるほか、現行の保険証には顔写真がなく、なりすましによる受診が考えられるなど課題もあります。こういったことを考慮して、保険証を廃止していくという方針を、明らかにした次第であります。」

岸田総理は、28日の記者会見でも”マイナ保険証”のメリットと紙の保険証廃止の意義をこう訴えた。カードを持たない人への対応などのため、関係省庁による検討会を設置する方針も表明した。

マイナカード“実質義務化”という岸田総理が踏み出した一歩が、将来的に「レガシー」と呼ばれるのか、「天下の愚策」と結論づけられるのか。今後の岸田総理の説明や行動ひとつひとつにかかっている。

■「マイナ保険証」でトラブル続出 「根本的に無理がある」その原因は?

他人の情報が紐づけられるなどトラブルが続出している「マイナ保険証」。「命に関わる重大な問題が発生する可能性も」との指摘もあがっています。一体、何が起きているのか?解説します。

■医療機関の6割超が「トラブルあり」と回答

そもそもマイナンバーカードを巡ってトラブルが相次いでいますが、健康保険証と一体化した「マイナ保険証」についても、トラブルが続出しています。

5月31日に公表された医師と歯科医師でつくる団体「全国保険医団体連合会」が、マイナ保険証を取り入れている医療機関の2440件から回答を得た中で、6割を超える1556件から“トラブルあり”と回答があったということです。具体的にどんなトラブルがあったのか。

■“血液型を間違えて輸血する”など「命に関わる重大な問題が発生する可能性も」

トラブル(1)

他人の情報が紐づけられていたトラブル。23年の4月以降少なくとも49件あったということで、中には複数の他人の情報が紐づけられていたケースもありました。

例えば南波キャスターのマイナ保険証に、井上キャスターやホランキャスターの情報が紐づけられていたパターンがあったということです。

そして、血液型を間違えて輸血するなど「命に関わる重大な問題が発生する可能性もある」と指摘しています。

この他にも「全国保険医団体連合会」は、他人がマイナポータルなどのアプリを使って、別の人の薬剤や診療情報を閲覧した可能性も捨てきれない。

非常に大事な個人情報が閲覧されていた可能性もあるのではないかと指摘しています。

■半年以上「資格無効」のケースも

トラブル(2)

マイナ保険証は読み取り式です。機械自体は正常ですが、実際に読み取った際に「資格無効」とか「該当無し」と出た例が、トラブルがあった中で最も多い62.2%ということで、中には半年以上「資格無効」だったケースもあったということです。

“無保険者”扱いだと、医療費が10割負担で徴収されます。その例が393件もあって、全国保険医団体連合会は「経済的な負担により受診困難になる恐れもあるのでは」という指摘があります。

■マイナ保険証のトラブルに医療現場ではどう対応?

医療現場ではこういったトラブルにどうやって対応しているのでしょうか。

トラブルに対する医療現場での対応

(1)別人と紐付け→保険証を持参していれば保険診療可

(2)マイナ保険証のみの持参、無資格は10割負担→後日、保険証を持っていって7割返金

全国保険医団体連合会は「保険証がなくなった時の医療崩壊が目に見えている。なんとしても保険証を残してほしい」としています。

■「人がやるのは根本的に無理がある」という指摘も

トラブルが起きている要因があります。

そもそもマイナンバーと健康保険証の紐付けの作業ですが、健康保険組合などが手作業でやっている。だから確認不足や情報更新の遅れなどが生じやすい。

いとう王子神谷内科外科クリニック 伊藤博道院長は「人がやるのは根本的に無理がある。最先端のデジタル技術を使うべきだ」と指摘をしています。

情報がきちんと紐付けられているか確認する方法ですが、マイナポータルのアプリを開いて、ログインをすると画面右下に「最新の保険証情報の確認」という項目があります。

もし誤登録があった場合は、マイナンバー総合フリーダイヤルや、加入している医療保険の保険者に問い合わせをすることが大事になってきます。

機械側のトラブルもあるということで、カードリーダーやパソコンの不具合で読み取りができなかった例も46.2%あって、コールセンターなどに連絡しても、すぐに対応してもらえない患者とのトラブルが続いている。

全国保険医団体連合会は、「医療現場の訴えを無視し、きちんと稼働するか検証せず見切り発車した」と話しています。
2023.06.02 19:33 | 固定リンク | 政治

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