脱中国・資本家の本音
2023.06.06



アングル:米進出目指す中国ハイテク企業家、国外脱出企てる本当の理由

野心的な中国のハイテク起業家にとって、米国での事業拡大は難しさが増す一方になっている。

2019年以前は、中国本土にいながら米国で事業を行う企業を運営する上で大きな問題はほとんどなかった。しかし、米中貿易摩擦がエスカレートする中で、特に米政府が中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に制裁を科して以降は、幾つかの中国企業は本社機能を海外に移し始めた。それが米政府の厳しい視線をそらす手だてになり得るとみられたからだ。

そして今、中国本土の複数のハイテク企業オーナーは、さらに踏み込んだ対応が必要だと話す。米国における各種規制や中国企業への偏見を避けるには、経営者が中国以外の国・地域の永住権ないし市民権を取るべきだという。

ロイターは、中国本土で7人のハイテク起業家に話を聞くことができた。その大半は国外で教育を受け、米国での事業拡大を望んでいる。7人全員が国外の永住権か市民権の取得を目指していて、検討先は香港、カナダ、日本、米国、シンガポールなど。

このうち3人は取材に際して英語のファーストネームのみの匿名、残る4人は完全な匿名を求め、全員が自分たちの事業を詳しく描写しないで欲しいと要望した。いずれも中国当局による処罰を恐れているためだ。

こうした中で深センを拠点としているライアンさんは、3年前に立ち上げたソフトウエア関連のスタートアップ企業が世界最大の市場である米国進出を果たす段階に達したと明かした。この企業は、既に東アジアでは100万人のユーザーを抱えている。

ただ、ライアンさんは、米中貿易摩擦や、米議会で実際に制裁を発動されたり発動を提案されたりしている中国企業がどんどん増えていく状況には落胆している。米国に進出しようとしている他の国の競争相手には全く関係がない問題を背負わされているのは「非常に不公平だ」と嘆く。

では、どうするかについて、ライアンさんが選んだのはアジアの別の国で永住権を得る方法だ。

■風当たり

米中の緊張は、トランプ政権下で幅広い分野に対中関税が導入され、ファーウェイへの制裁が科されたことで高まったが、現在のバイデン政権になってからも一向に和らぐ気配はない。

主な対立点は、米国による対中半導体輸出規制とデータ保護を巡る問題。後者に関して、米政府は中国系短編動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)を公用の端末で使用するのを禁止した。

一方で中国も最近、国内重要産業に米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品調達を禁じるなど報復に動いている。

ロイターが取材した起業家やコンサルタントの話では、このような対立関係を反映し、米国で資金調達ないし事業展開をしたがっている中国本土企業への風当たりは、以前よりずっと強まった。

米コンサルティング会社・APCOワールドワイドの広域中華圏チェアマン、ジェームズ・マクレガー氏は「ワシントンや多くの州都に出回っている政治的な言説は、全ての中国企業が政府と共産党と深くつながり、直接指示を受けているという誤解に基づいている」と述べた。

■脱中国色

ただ、ロイターが話を聞いた起業家のほとんどは、米国進出の難易度が上がってもなお、それを最終的な目標としている。いくら規模が大きいといっても中国本土市場に事業を専念するのは魅力的な選択肢ではない、と彼らは言い切る。

習近平指導部の中国に起業家らが幻滅したのは、かつて自由に活動できたハイテク分野に対して2020年終盤から2年間続いた締め付けだった。これは新型コロナウイルスのパンデミックに際して感染を徹底的に封じ込めるために打ち出された「ゼロコロナ」政策の時期と重なる。

習氏が昨年、指導者3期目を務めることが承認された後、ソフトウエア関連スタートアップ企業を国外に移す方法を模索し始めた起業家のウィルソンさんは「パンデミック期間に何もかもが変わってしまった」と語る。

中国本土を足場に事業をすることは不可能ではないが、米中相互の不信感がここまで強まった以上、国外に脱出できるなら、その方が従業員や株主のためにも楽になると付け加えた。

深センを拠点にコンサルティング会社ノース・アメリカン・エコシステム・インスティテュートを運営するクリス・ペレイラ氏は、中国で本社の国外移転や、企業の中国色そのものを消すことさえ模索する動きが、トレントになってきたとみている。

実際、ファストファッションの電子商取引(EC)プラットフォームを展開するSHEIN(シーイン)はシンガポール企業を事実上の持ち株会社化した。ネット通販大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)の持ち株会社も、5月初めに本社を上海からダブリンに移した。

ペレイラ氏の会社には今年初め以来、中国本土企業100社前後から、国外への事業拡大についての支援要請が舞い込んでいる。これに対して同氏は、単に中国色を薄めるだけではなく、いかに進出先の国・地域で効果的にサービスや製品を最適化し、社会の一員になれるか助言しているという。

■当局への不信感

起業家らは、民間企業オーナーを応援すると表明した中国政府が信じられないと打ち明け、市民の自由が失われる事態への不安を口にしている。

さらに中国で積極的に事業を手がけるなら、必然的に共産党との関係を築かなければならず、これは気が進まないとの声も聞かれた。

起業家の1人で既に中国を離れたトミーさんは、中国で企業を経営していた際に、製品に関する検閲要求があまりにもたび重なり、政府の介入がひどくなったため、事業をたたんだと当時を振り返った。

トミーさんは今、新たな起業を進めている。最近の米国出張時には税関でなぜ米国の銀行口座を持っているのかしつこく聞かれる経験をしたが、それでも最終的には米国に進出したい考えだ。

■脱中国加速

ダイキン、青山商事、アップル…「脱中国」リスク分散のため脱中国を急ぐ企業の急増

ここにきて、生産拠点を中国から他のアジア新興国などに分散する企業が増えている。わが国のアパレル業界では脱中国が一段と鮮明だ。象徴的な企業に、ビジネススーツなどを手掛ける青山商事がある。2014年からインドネシアで生産を開始した同社は、今後も対中依存を低下させる方針だ。

 なお、財務省の貿易統計で2017年と2021年を比較すると、わが国の「スーツの輸入」は、中国からの割合が47%から41%に低下している。一方、ベトナムからは10%から11%、インドネシアからは12%から15%に増加している。

脱中国の動きは、アパレル以外にも広がる。空調大手のダイキンは、中国からの原材料調達に頼らずフッ化水素酸を生産する技術を生み出した。同社は中国製の部品が調達できなくてもエアコンを生産する体制も構築している。

海外企業も生産拠点の脱中国を進めている。象徴的な企業は、米国のアップルだ。アップルは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンが河南省鄭州市で運営する工場にてiPhoneやiPadを生産してきたが、近年インドやベトナムにシフトしている。また、米ナイキはスニーカーの生産を中国からベトナムやインドネシアなどに移管している。

このように、つい最近まで「世界の工場」としての地位にあった中国の存在感が、急速に低下している。1978年に始まった「改革開放」以降、中国は経済特区を設けて海外企業を誘致し、効率性の高い、あるいは先端分野の生産技術の移転に取り組んだ。加えて、農村部から沿海部の工業地帯へ、安価かつ豊富な労働力が供給された。それらが、中国への直接投資の増加を支えていた。

また、共産党政権は国有企業などに低コストで土地を供給し、急速にサプライチェーンも整備した。こうして世界の企業は最もコストが低い場所でモノを生産し、世界全体の需要動向に応じて迅速に供給する体制を確立できた。一時は、「世界にデフレを輸出している」といわれたほど、中国の輸出競争力は強かった。

■脱中国を加速する重大なファクター

しかし近年、中国の経済構造は急激に変容し始めている。その一つに、中国の生産年齢人口(15~64歳)は2013年にピークに達して以降、減少している。1979年から2014年まで「一人っ子政策」が実施された影響は大きい。

経済全体で労働投入量が減少すると、賃金には上昇圧力がかかる。JETROが公表した「新型コロナ禍2年目のアジアの賃金・給与水準動向」によると、21年、中国の製造業の作業員の月額基本給(平均値)は651ドル(1ドル=135円換算で約8万8000円)だった。

それに対して、インドネシアは360ドル(約4万9000円)、インドは316ドル(約4万3000円)、ベトナムは265ドル(約3万6000円)。バングラデシュは105ドル(約1万4000円)とさらに低い。世界情勢の影響もあり当面、エネルギー資源は高止まりが予想される。企業がコストカットを進めるためには、労働コストが低いASEAN地域などでの事業運営体制の強化が、これまで以上に重要となっている。

また、地政学リスクも懸念される。米軍内部では、「想定よりも早い時期に中国が台湾に侵攻する」との見方が高まっている。経済安全保障の観点から、各国企業にとって台湾リスクへの対応は急務だ。

加えて、半導体などの先端分野における米中の対立も先鋭化している。米国は中国への最先端の半導体、その製造装置などの禁輸措置を強化している。人権問題においても、新疆ウイグル自治区やチベット、香港、ゼロコロナに抗議する「白紙運動」への対応をめぐって中国への懸念は高まっている。米国の対中制裁を順守し、社会の公器としての責任を果たすためにも、脱中国の重要性は増しているといえる。

そうした中で、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効し、ASEANとわが国などの連携が強化されたことは大きい。各国の企業がコスト削減と地政学リスクに対応しつつ収益率を高めるために、RCEPなど多国間の経済連携はまさに「渡りに船」の役割を果たしている。また、海外企業の誘致を進めて雇用・所得環境を強化するために、主要先進国はこれまで以上に産業補助金政策を強化し始めている。

■中国への直接投資と株式投資それぞれの展開

今後、海外企業の対中投資は不安定に推移するだろう。工場建設などの直接投資に関しては、中国から他の国や地域へのシフトが増えることは間違いない。ただし、共産党政権は「中国製造2025」を推進するために、海外企業と中国企業の合弁事業をより重視し、「技術の強制移転」のリスクが高まるのではとの見方も増えている。加えて、ゼロコロナ政策による個人消費の停滞、不動産市況の悪化などによって、販売面でも海外企業への逆風は強まるだろう。

また、中国企業にとっても事業運営コストの引き下げは大きな課題になっている。ユニクロなどの生産拠点の移管に伴って、中国の縫製大手である晶苑国際集団(クリスタル・インタナショナル)は、ベトナムなどでの生産能力強化に取り組んでいる。企業戦略としては、デジタル技術などを用いて中国の個人消費を取り込みつつ、いかに生産コストを引き下げるかが問われている。

一方、株式投資の観点で考えると、直接投資とは異なった展開が予想される。台湾問題の緊迫化や個人消費のさらなる減少懸念が高まった場合には、リスク回避の動きが鮮明化し、中国本土株や香港株は下落するだろう。その場合、海外投資家は短期目線で押し目の買いを入れやすい。ポートフォリオ投資は周期的に減少と増加を繰り返す展開が予想される。

いずれにしても、共産党政権の経済・社会政策がどう運営されるかが命運を握る。現時点では、共産党政権は情報統制のためにIT先端企業への締め付けを一段と強める公算が大きい。また、台湾に対する圧力への懸念は増すばかりだ。今後、中国への直接投資は徐々に減少していくと考えられる。世界経済を下支えするというよりも、下振れ要因として、中国経済の存在感はこれまで以上に無視できなくなっている。

■アップル「脱中国」は達成間近

消えた中国の世界的輸出増、サプライヤーの9割がインド・ベトナム移転へ

中国の担うサプライチェーンは危機を迎えている。アップルのサプライヤーのほぼ9割が、大挙してインドやベトナムへ移転する打診を受けているという。これが現実化すれば、中国経済には大きな打撃となろう。産業空洞化の始まりである。

中国は、3年に及ぶゼロコロナ政策とその間に進んだ米中対立によって、経済は思わざる展開になっている。ゼロコロナの中で、政策見通しがつかないという「予測不能性」。ウクライナ侵攻が、連想させる地政学的リスクも重なって、中国の担うサプライチェーンは危機を迎えたのだ。

アップルのサプライヤーのほぼ9割が、大挙してインドやベトナムへ移転する打診を受けているという。これが現実化すれば、中国経済には大きな打撃となろう。産業空洞化の始まりである。詳細は、後で取り上げる。

国営中央テレビ(CCTV)によれば、習近平国家主席は江蘇省の全人代代表団に対し3月5日、次のように発言している。「中国にとって、食料確保と製造業の強化が重要である。人口14億人の大国として、この問題を解決しなければならない。国際市場に頼り、われわれを救うことはできない」

この発言は、習氏がかねてから主張する「双循環モデル」(国内市場を重視し、貿易は補足手段)への実行を示唆したものである。いわば、「籠城経済」を志向し始めている点に注目すべきだ。中国が、ここまで追い詰められていることを言外に示したと言えるだろう。

■疲労困憊の地方経済

中国が、突然の「ゼロコロナ」打ち切り策に出た背景について今、明らかになってきたことが多い。

地方政府の財源難が、顕著になっていた結果だ。住民10万人を超える北京のある区画の指導者は、ロイターの取材に対して、「昨年後半に入るころ、PCR検査会社や住民の外出を規制する警備会社に支払う資金が底を突いていた。地方政府レベルでは、単純にもうゼロコロナ政策を執行できなくなっていた」と述べている。

要するに、北京ですら財政的に困窮していたわけで、他の地方政府になれば、言わずもがなの事態に突入していたであろう。地方政府の有力財源である土地売却収入は、不動産バブル崩壊で減り続けている。こうした事態では、もはやゼロコロナを打ち切らざるを得なかったのだ。ゼロコロナを打ち切った後に、各地で公務員の給料遅配に対する抗議デモが起こっている。ここまで、財政危機が進んでいたと言える。

中でも衝撃的だったのは、税務署職員による給料未払いを訴えたデモである。税務署と言えば、最も資金の豊富な部署と見られている。そこが、「現金不足の事態」に陥ったことに、一般市民までが財政危機の深刻さを認識させられたほどである。

こうした環境下だけに、ゼロコロナ打ち切り後の経済が、直ぐに活発化するとは予想し難い。1~2月のPMI(購買担当者景気予測指数)は、好不況分岐点の50を大きく上回っているが、比較するベースが余りにも低かったので、表面的に高い水準になったと見るべきだろう。つまり、「見せかけ」の好況感に過ぎないのだ。

中国が、23年のGDP成長率目標を発表したが、「5%前後」と22年の「5.5%前後」を下回る控え目な数字となった。事前予測では、「5%台」という強気目標が報じられていた。それが、5%前後に後退した理由は、1~2月の実績が芳しくなかった結果である。

内需からみれば、産業構造の牽引役は住宅と自動車である。この2業種が、力強い回復力を見せなければ、中国経済に明るさは戻らないのだ。住宅は、不動産バブル崩壊の渦中にある。住宅を購入しても、新居に住めない人たちが180万人もいる状況だ。この状況が改善されない限り、安心して購入契約を結べるはずがない。それほど、不動産開発企業への信頼感が失われているのである。

自動車(EVなど新エネルギー車)は、昨年一杯で取得税(10%)半減策が、すでに終了している。だが、1~2月の新車販売不振であったので、再度の取得税半減が議論されていると報じられた。優遇策がなければ、今年の販売台数は伸び率ゼロが予測されているほどだ。自動車優遇の裏には、半導体産業テコ入れも絡んでいる。中国半導体は、米国からの厳しい輸出規制によって苦しむトップ企業に対し、政府支援が行われている。こうして、EV(電気自動車)の生産増が、半導体支援になるという期待感が滲み出ている。

■消えた世界的輸出増

中国が内需振興へ力を入れている裏に、輸出不振という大きなプレッシャーが存在する。1~2月の輸出(ドルベース)は、前年同月比で6.8%減になった。輸入(同)は、輸出減を反映して10.2%減とさらに落ち込んでいる。

この輸出入の不振には、世界的なサプライチェーンの供給圧力が減り正常化したことが大きく影響している。その意味で、「パンデミック特需」は終了したのだ。

米ニューヨーク連銀は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)宣言から約3年を経て、グローバルサプライチェーンが通常に戻ったと分析した。NY連銀のグローバルサプライチェーン圧力指数は、2月の数字がマイナス0.26となり、2019年8月以降で初めてゼロを下回り、全世界の供給圧力が標準値未満に低下したのである。『ブルームバーグ』(3月7日付)が報じた。

これは、重大なシグナルである。中国のサプライチェーンにかかっていた超過需要圧力が解消されたことを示すのだ。中国輸出が、減少している背景がこれである。

習氏が、前述のように「国際市場に頼り、われわれを救うことはできない」という意味は、輸出で稼ぎ食糧などを輸入するというこれまでのパターンを警戒しているのであろう。中国のサプライチェーンが、世界へ与える影響度はすでにピークを過ぎたのだ。米中対立によるデカップリング(分断)が、これをプッシュしていると見るべきだろう。

■アップルの「脱中国」はもう止まらない

中国外への生産移管は、観測筋の多くが見込むよりもはるかに速く進む公算が大きい。米中の緊張悪化で被る影響を未然に防ぐ狙いだと、アップルの大手サプライヤーの一社が明らかにした。

これによると、ワイヤレスイヤホン「エアポッド」を製造する中国の電子部品メーカー、ゴアテック(歌爾)は、中国外の生産拠点を模索している1社だ。歌爾のようなメーカーに対し、米国のテクノロジー企業が強く代替の生産拠点を探すよう働き掛けているという。企業は、「2月からほぼ毎日のように、多くの顧客企業の訪問を受けている」と述べ、決まって話題になるのは「いつ生産を移管できるのか」だと明らかにした。

アップルは、中国で生産システムを作り上げ、全体で数百万人を雇用している。その舞台裏では、アップルの最も重要なサプライヤー10社のうち9社が、インドなどに大規模な生産移管準備をしている可能性がある。中国側が知ったら仰天するであろう。

■西側が中ロを警戒へ

米中対立激化の背景には、ロシアのウクライナ侵攻がある。米国を中心とする西側諸国は、ロシアに対して不退転の決意で臨んでいる。ウクライナ侵攻がロシアの勝利に終われば、高い確率で中国の台湾侵攻が現実化することを危惧しているからだ。

2月に開催された「ミュンヘン安全保障会議」で、米国はこれまでの最大級となる代表団を送った。副大統領、国務長官、中央情報局(CIA)長官のほかに、約50人の連邦議員も加わった。米国が発信したメッセージは2つとされる。第1に、ロシアが敗北するまで、決してウクライナへの軍事支援を緩めない。第2に、民主、共和両党とも、この政策では一枚岩であるというのだ。

このミュンヘン安全保障会議で、米国は侵略を許さないという強い姿勢を見せた。これは同時に、中国に対しても台湾侵攻を排除するというメッセージである。これに対して中国は、米国へ強い対抗心を見せている。

中国の秦剛外相は3月7日、米中間の緊張を高めているのは米国だと非難した。米国が進路を変えなければ、「衝突と対立」が起こると警告したのである。また「米国が自国を再び偉大な国にしたいという野心を持つなら、他国の発展にも広い視野を持つべきだ」と指摘した。『ロイター』(3月7日付)が報じた。

この秦氏の発言からも分かるように、中国は経済的にかなり米国から追い込まれていることを示している。

中国は、台湾を自国領であるとしている。台湾には、独自の主権を保持してきたという厳然たる事実が存在する。中国は、この台湾主権を戦争によって奪おうとしているのだ。国際社会が、それを受け入れられるはずもない。

まさに、中国の知恵が問われている。同じ中華民族である以上、「共存共栄」という道を選べなければ、中国が西側諸国から包囲されるのも致し方ないであろう。包囲は、中国の衰退を意味する。

既述の通り、アップルのサプライヤーは、大挙してインドへ移転する圧力を受けている。数百万人の雇用が、インドへ移る危険性が高まっているのだ。中国の産業空洞化は確実に進むであろう。世界的ハイテク企業の生産部門を失うことは、関連産業の発展を阻止するのだ。

■サッカー弱体が示唆

習近平氏は、自らの手で台湾を統一すると力説している。歴史に名前を刻みたい。そういう個人的な欲望が、中国国内を一糸乱れぬ統一下に組み入れさせている。これが、成功する確率は極めて低いのだ。その好例として、中国サッカーがなぜ弱いかという例を取り上げたい。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月6日付)が報じた。

習氏は、無二のサッカーファンとされる。中国を「サッカー強国」にしたいと号令を発したのだ。だが、未だにその夢は実現しないどころか、国内で八百長ゲームが横行するという腐敗ぶりである。中国の男子代表チームは、2002年に一度だけサッカーワールドカップ(W杯)に出場したが、グループステージでまったく得点できずに3戦全敗に終わった。その後は、W杯出場とは無縁な存在だ。

この原因について、習氏が細かく指示を出し過ぎているという指摘がある。習氏は、50項目からなる計画を立て、2025年までに中国各地に約5万校のサッカースクールを開設。男子代表チームをまずアジアの強豪へ、次に世界の強豪へと育てる高い目標が設定されたのだ。問題は、官僚がこの計画を金儲けに利用して汚職の温床にしたことだ。これでは、結果が出なくて当然であろう。

このサッカー狂騒曲は、サッカーの発展に必要な自発性やイノベーションを阻害していると指摘されている。日本サッカーは、地方でサッカーファンを増やしながら、チームを強化する道を辿って成功した。これに対して、中国は上からの指示である。自発性もイノベーションも育つはずがない。

中国サッカー問題は、習氏の中央集権的統治スタイルの弱点を知る手がかりとなろう。産業育成でも大量の補助金を出して、汚職を蔓延させている。半導体もその例から洩れない。

習氏は、今回の全人代において「治安・金融・ハイテク」を共産党指揮下に組み入れる。これによって、中国の弱点部門を習氏の直轄下に入れて監督しようというものだ。サッカーの二の舞いになろう。
2023.06.06 17:43 | 固定リンク | 経済
ウ軍・東部バフムートで反転攻撃
2023.06.06



ウクライナ軍、東部バフムートの前線で前進=ウクライナ政府

ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は5日、東部バフムート周辺でウクライナ軍の部隊が前進したと明らかにした。次官はバフムートが現在、戦闘の中心地になっているとも話した。これに対してロシア軍は、5日のこの攻勢は押し返したと反論している。どちらの主張についても、客観的な検証はされていない。

マリャル国防次官はソーシャルメディアで、「位置を維持しようとする敵軍の強硬な抵抗に遭いつつ、我が軍の部隊は戦闘中に複数方面に前進した」と書いた。バフムートから数キロに位置する4つの村で、ウクライナの部隊が100メートルから1600メートル前進したという。

ウクライナ政府は、この日の攻撃がかねて注目されてきた反転攻勢の開始かどうかは、言明しなかった。

これに先立ちウクライナ軍の消息筋はBBCに対して、装甲車部隊による小規模な攻勢が始まっていると明らかにしていた。

5日深夜のビデオ演説で、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はウクライナの兵士をたたえ、バフムート方面で「期待している知らせ」をもたらしてくれたと感謝した。

ロシアの雇い兵集団「ワグネル」は、5月末にバフムートを攻略したと主張していた。

このところ軍事アナリストの間では、ウクライナ軍がバフムートを包囲してロシア兵を捕虜にしようとしている可能性を指摘する声が出ていた。


ウクライナによる本格的な反転攻勢の開始がかねて注目されているものの、ウクライナ政府はこれまでに、開始を事前通知したりしないと述べている。

ウクライナ軍の活動は顕著に活発化しており、前線の随所でわずかながら前進しているとウクライナは主張している。バフムート周辺で前進したという5日の発表も、反攻開始の一端なのではないかとみられている。

ウクライナ軍が公表した動画。バフムート近郊クリシュチイウカの近くで、ロシア軍の位置を攻撃する様子

ロシア国防省は5日、ドネツク州におけるウクライナ軍の新規攻撃を押し返したと述べた。ウクライナ側に大損害を与え、ドイツ製「レオパルト」を含む戦車28両を破壊したという。

ロシアは前日の4日には、ドネツクでウクライナの「大規模攻勢」が始まったものの、失敗に終わったと述べていた。ウクライナ軍は、そのような攻撃があったという情報は得ていないと否定していた。

ドネツクでの戦闘の様子だとロシアが主張する動画には、野原で激しく砲撃される軍用車両が映っていた。ロシアは、その先頭で兵300人を死亡させ、戦車16両を主張した。これについてウクライナ軍報道官はロイター通信に、「そのような情報は得ていないし、偽情報についてコメントもしない」と答えていた。

ウクライナは反転攻勢について数カ月前から準備してきたが、西側諸国から武器を入手し、兵を訓練するための時間を必要としていた。

ロイター通信によると、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は反攻に必要な武器はすでに集まったとしつつ、反攻がすでに始まったのかについてはコメントしなかった。

ウクライナ防衛省は4日、「計画は沈黙を好む。開始の発表はしない」とする動画を公表。重装備の兵士たちが、立てた人差し指を口にあてて沈黙を促す姿が映っている。

ゼレンスキー大統領はキーウで5日、イギリスのジェイムズ・クレヴァリー外相と会談した。ゼレンスキー氏によると、リトアニア・ヴィルニウスで7月に予定される北大西洋条約機構(NATO)首脳会談や、ウクライナによる和平案などを協議したという。
2023.06.06 12:45 | 固定リンク | 戦争

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