渡辺徹さん急逝 「食中毒」
2022.12.07

俳優・渡辺徹さんはわずか8日で急逝 「食中毒」には命を落とすリスクが…他人事ではない!

 グルメな俳優の突然の訃報に驚いた人は少なくないだろう。先月28日に亡くなった俳優渡辺徹さんだ。一般には耳慣れない敗血症で、61年の生涯に幕を閉じたが、その急変ぶりは決して他人事ではないという。

 渡辺さんに異変が生じたのは先月20日。所属した文学座によると、発熱や腹痛などの症状が現れたため、都内の病院で検査を受けたところ、細菌性胃腸炎と診断されて入院。

 その後、敗血症を起こし、入院からわずか8日後に帰らぬ人となってしまった。

 細菌性胃腸炎は、いわゆる食中毒だ。それが敗血症に至るのは、なぜなのか。東京都健康長寿医療センターの元副院長・桑島巌氏が言う。

「体に細菌やウイルスなどの病原体が感染すると、それらから身を守る免疫反応が生じたり、傷口が修復されたりします。その生体メカニズムが適切に制御されていれば問題ありませんが、制御不能となって臓器障害を引き起こした状態が敗血症です。感染経路は、肺炎や尿路感染症が多く、細菌性胃腸炎をはじめとする腸管感染症や、手足の傷口などからの感染もある。年間10万人が亡くなり、重症化因子は糖尿病、肝臓病、がん、高齢者などです」

 厚労省によると、昨年の食中毒発生状況は、全体で717件発生。患者数は1万1080人に上る。

 全国の患者数を月別に表したのが表①だ。梅雨に入る6月が多いのは例年通りだが、昨年は4月が6月を上回っている。昨年4月は、岡山で提供された弁当給食がノロウイルスに汚染されていて2545人が、愛知でも給食のノロ汚染によって158人が食中毒に。これらが例年以上の感染者数の要因だが、食中毒はほかの月も確実に発生している。患者数はともかく、食中毒の件数は例年、6月前後より年末の方が多い傾向だ。

調理済みにも多発、持ち帰り総菜は注意
2021年原因施設別発生状況(左)と原因食品別発生状況(C)日刊ゲンダイ

 どんなものを、どこで口にして、食中毒になることが多いのか。昨年は富山で汚染された牛乳で大きな被害が出たことで乳製品の患者数が多いが、魚介類や肉類、野菜類などは満遍なく被害が発生している。注目は複合調理品で、被害の詳細を見ると、火を通した総菜などが原因食品になっていることが珍しくない。決して生魚や生肉だけではないのだ。

 その点で発生施設を見ると、飲食店がトップ。不衛生な店は論外だが、家庭で多発しているのも事実で、生ものだけでなく、持ち帰った総菜なども注意すべきだろう。

 お腹を下して嘔吐や下痢を繰り返すのは、つらい。感染による高熱も重なると、なおさらだが、それでも感染前に健康な人なら数日で回復するだろう。実際、昨年の感染者数は1万人を超えても、死者数は2人のみ。例年、その程度だ。

 ところが、渡辺さんは食中毒から敗血症を起こし、命を失った。それも61歳の若さで、だ。最悪の転帰をたどったのは、なぜなのか。桑島氏は、「あくまでも報道から推測されることですが」と断った上でこう言う。

「報道によると、渡辺さんは30代で糖尿病を発症されていて、50代からは腎機能の低下によって人工透析を受けていたといいます。糖尿病と腎不全の影響は、とても大きいでしょう。一般に糖尿病の人は免疫力が下がりやすく、感染リスクが高くなります。血糖コントロールが悪い人はなおさらで、そんな人が何かの手術を受けるときは、術中の感染リスクを下げるため血糖値を下げてから行われますから。さらに腎不全で、人工透析を医療機関で受ける場合、月水金など週3回が原則で、透析との間隔が1日か2日空きます。その間、尿は排出できず、体にたまった状態。人工透析は、敗血症が重症化しやすいのです」

 渡辺さんの悲劇が、決して他人事でないのは、まさにここ。生活習慣病の一つである糖尿病がベースにあって、それをこじらせたことが影響していると思われるためだという。

「糖尿病には、末梢神経の感覚がマヒする神経障害、失明のリスクになる網膜症、そして腎不全を起こす糖尿病性腎症が3大合併症。渡辺さんが腎不全で人工透析を余儀なくされたのも、糖尿病の悪化と考えられます」

「国民健康・栄養調査」(2016年)によると、糖尿病の人は予備群を含めて2000万人。

 同じ調査で患者数は4300万人とされる高血圧も、治療をおろそかにすると腎臓に悪影響を及ぼすことが分かっていて、慢性糸球体腎炎が悪化すると人工透析が必要になることが少なくない。

「人工透析の導入要因となる病気はいくつかありますが、2大因子が糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎です。つまり、糖尿病や高血圧がある人は、しっかりと治療を受けて持病を悪化させず、腎臓を守ることが大切。腎不全になる前の段階で治療を受けていれば、人工透析の導入を免れることができますが、腎不全と診断されると、人工透析が避けられませんから」

■「2分の1の法則」が浮き彫りになる現状

 糖尿病と高血圧は、今や国民病。いずれかに当てはまる人は、渡辺さんの死を教訓に病気と向き合って、しっかりと治療を受けるべきだが……。

「企業健診などで糖尿病や高血圧などを指摘されても、自覚症状がないため、治療を受けずに放置する人がとても多いのが現状です。その現状を如実に示すのが、高血圧治療の『2分の1の法則』で、高血圧患者のうち治療しているのは大体全体の半分で、治療しているグループのうち血圧基準を達成しているのがその半分。つまり、治療していても、半分は未達ということ。一方、治療していないグループのうち、およそ半分は高血圧の認識があり、残りの半分は認識がありません」

 なるほど、16年の「国民健康・栄養調査」の結果も、およそ桑島氏の指摘通りの結果だ。まず治療群は全体の56%で、目標達成が27%、未達が29%とほぼ半々。残りの未治療群44%は半々とはいかないが、それでも高血圧の認識アリ11%、認識ナシ33%となっていて、全体で見ると「2分の1の法則」が当てはまるといっていい。

「治療もせず認識もない人は検診を受けて治療すること。治療中で未達の人、未治療でパスしている人は、とにかくなるべく血糖値や血圧などの数値を下げることが大切です。たとえ腎不全にならなくても、心筋梗塞や脳卒中など死に直結する合併症を招く恐れがあります」

 渡辺さんは亡くなる直前まで毎日のようにSNSを更新。グルマンだけにその写真は、おいしいものであふれる。人工透析患者とは思えないほどだが、その更新がストップしたのが先月19日。その翌日に細菌性胃腸炎で入院した。わずか8日後の急逝は家族を苦しめ、妻の郁恵さんは憔悴しているという。今回の訃報に驚いた人は、自分のためにも家族のためにも食事などに気をつけながら受診することだろう。
2022.12.07 12:34 | 固定リンク | 医療

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