パレスチナのチェ・ゲバラ「ハマスのデイフ最高司令官を追跡」
2023.10.17
「デイフはパレスチナのチェ・ゲバラになるかもしれない」 ハマスのムハンマド・デイフ最高司令官

イスラエル奇襲攻撃の首謀者といわれるハマスのデイフ司令官は何度も暗殺の試みを潜り抜け、今や生きても死んでも厄介な大物テロリストだ。

イスラム武装組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃の報復として、イスラエル国防軍(IDF)がパレスチナ自治区ガザへの攻撃を強化するなか、ハマスの軍事組織の中枢にいる謎に包まれた人物に注目が集まっている。彼は最後の抵抗の準備を始めているのかもしれない。

ハマスのアル・カッサム軍事旅団を率いるムハンマド・デイフ最高司令官は、意図的に身を隠しており、彼についての情報はほとんど知られていない。通称のデイフには「客人」という意味があるが、それは一か所にとどまらず、頻繁に居場所を変えるからだ。

そのおかげでデイフは、命をねらうイスラエルの襲撃から逃れてきた。長い間生き延びてきたデイフだが、イスラエル軍が大規模なガザ侵攻を始めれば、30年以上も続いた血なまぐさい追跡劇は頂点を迎えるかもしれない。そのときデイフはどうするのか。

「デイフは優れた地位と名声、業績がありながら、不屈の精神と殉教の文化にどっぷり浸かっている男だ。イスラエル軍がきたからといって自分の土地や戦場を離れるとは思えない」と、カタールのノースウェスタン大学の教授で、ハマスの内情に関する著書があるハレッド・フルブは本誌に語った。

「地上侵攻が行われ、イスラエル軍の追跡の手が迫ったら、彼は命ある限り戦うだろう」

〇奇襲攻撃の首謀者

ハマスは、イスラエルを跡形もなく破壊し、その上にイスラム主義のパレスチナ国家を築くために戦っている。そのなかで、デイフは極めて重要な役割を担ってきた。特に彼が首謀した10月7日の陸、空、海からのイスラエルの攻撃では、少なくともイスラエル人1300人が死亡した(イスラエルの報復空爆でガザでは2000人近い犠牲者が出た)。

イスラエルは過去に何度もデイフを暗殺しようと試みた。そのせいでデイフはさまざまな怪我を負っており、眼球、腕の一部、脚を失ったと伝えられる。また、2014年にイスラエルがガザに本格的な地上侵攻を行なったときには、空爆で妻と生後7ヶ月の息子、3歳の娘を失ったという。

新たな報告によれば、現在進行中のイスラエル国防軍の攻撃で、デイフの兄と息子を含む、多くの親族が殺害されたという。おそらく、イスラエルは今回こそデイフを完全に排除しようとしているのだろう。

フルブは、デイフの死は短期的にハマスの軍事力に損害を与えるかもしれないとしながらも、支持者に広く敬愛され、敵からは忌み嫌われるデイフのような人物が殉教者としての地位を得ることは、ハマスの地位と威信を高めることにもなりかねないと主張する。

〇伝説を追いかけて

デイフが伝説上の英雄になるのは、イスラエルにとって厄介極まりない難題だ。イスラエル国防軍軍事諜報部門の研究部門の責任者およびイスラエル戦略問題担当省の長官を務めたヨッシ・クーパーワッサーによれば、デイフが他のハマス幹部、たとえばイスマイル・ハニェ政治局長やガザ地区の指導者ヤヒヤ・シンワルヤと違うのは、「彼が誰よりも象徴的な存在であること」だという。

クーパーワッサーは、デイフをイラン革命防衛隊クッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官や、レバノンのヒズボラの軍事部門を率いるイマド・ムグニエ、アルカイダによる9.11テロの立役者ハリド・シェイク・モハメドになぞらえる。「われわれがそう仕向けたわけではないが、彼は伝説的な人物になっている」

多くのイスラエル人にとって、デイフは9.11テロの象徴になったウサマ・ビンラディンのようなものだ。

ソレイマニは米軍による2020年の空爆で死亡し、ビンラディンは米軍の急襲で2011年に死亡した。ムグニエはCIAとモサドの合同作戦で2008年に殺害され、モハメドは米・パキスタン合同囮捜査で2003年に捕まった。しかしイスラエルの最重要指名手配犯であるデイフだけはまだ逃亡を続けている。

〇象徴になった影の男

イスラエル情報機関の元職員でアラブ問題担当上級顧問だったアビ・メラメッドは本誌の取材に対し、イスラエル国防軍にとって今は、デイフの捜索に焦点を当てないほうが得策だと語った。最後には逃げおおせるかもしれない「影の男」としての評判をさらに高める可能性があるからだ。

「イスラエルの目下の戦略目標は、ハマスの軍事・組織能力を破壊することだ。やるべきことはそれしかない」と、メラメッドは言う。「個人を追いかけても話は終わらない。捕らえることができるかもしれないし、決して捕らえることができないかもしれない。永遠にわからないどこかの場所に埋葬されるかもしれない。だが、そんなことはほとんど意味がない」

「これ以上、伝説を膨らませる必要はない。彼は残忍な殺人者であり、非常に危険で世故にたけた人物であり、精神的に異常すれすれの人格だ」

だが、多くのハマス支持者にとっては、影から戦争を仕掛けるデイフの謎めいた能力は、長い間、彼が掲げる大義への支持を煽るのに役立ってきた。

ガザのアル・アズハル大学で政治学を教えるムハイマール・アブサダ教授が本誌に語ったように、「彼の存在はハマスの軍事部門にとって重要だ。彼らはデイフを賞賛し、彼のリーダーシップによって刺激を受けている」。

〇謎に包まれた正体

ガザにある地域研究センターのアイマン・アル・ラファティ理事は、デイフは「パレスチナの抵抗の象徴となっており、パレスチナ人の間で絶大な人気を誇っている」と本誌に語った。デイフは現在「新世代のパレスチナ人に刺激を与える存在と考えられている。その証拠に、パレスチナ人が唱える祈りのなかには常に彼の名前が組み込まれている」。

デイフの顔がわかる写真は2枚しかなく、いずれも数十年前に撮影されたものだ。そのため、今回のハマスの攻撃の開始と同時期に録音された演説と共に、珍しくデイフのシルエットの画像が登場したとき、パレスチナの闘士たちはさらに活気づいた。

デイフは現在、さらに多くの戦士を結集させようとしており、「レバノン、イラン、イエメン、イラク、シリアのイスラム抵抗勢力の兄弟たち」に対イスラエル戦争への参加を呼びかけている。この呼びかけはこの5カ国の全域で活発に議論されている。

メラメッドによれば、文字通り影に隠れたデイフの正体は、1965年頃にガザ南部のハーン・ユニス難民キャンプで生まれたムハンマド・ディアブ・イブラヒム・アルマスリ、またの名をアブ・カレドとも呼ばれる人物だ。

デイフの家族はヘブロン北西の村アル・クバイバに住んでいたが、1948年のイスラエル建国時の戦争が勃発したため、他のパレスチナ人住民同様、逃げ出してガザ南部の難民キャンプハーン・ユニスに移り住んだ。このときの戦争が、その後数十年に渡る中東紛争の幕開けとなった。

ロイターによれば、デイフは「ガザのイスラム大学で物理学、化学、生物学を学び、理学士の学位を取得した。芸術にも親しみ、大学のエンターテインメント委員会を率いて、喜劇の舞台への出演も経験した」。演劇の経験は、彼の演説の劇的効果を与えている、とメラメッドは言う。
2023.10.17 10:24 | 固定リンク | 戦争
中国ハマス擁護「中国人3人殺害認めるも見捨てる」
2023.10.17
■中国、突然パレスチナ側に立つ ハマス擁護 中国人3人殺害認めるも見捨てる

中国が突然「イスラエルバッシング」に出た理由は何か。これを巡り西側メディアは「中国の中東に対する野望と関連がある」という分析を次々と出している。親パレスチナ路線でアラブ諸国とさらに密着し、中東での影響力拡大を狙っているというものだ。また、パレスチナの武装組織ハマスのイスラエル奇襲攻撃の背後といわれて注目を集めているイランを対米国交渉カードとして利用しようとする腹積もりもあるとの観測も出ている。

15日、中国外交部によると、王毅外交部長兼共産党中央政治局委員は前日、サウジアラビアのファイサル外相と電話会談を行い、イスラエルのガザ地区攻撃が「度を越した」と猛非難した。王部長は「中国は民間人を害するあらゆる行為に反対して糾弾する」とし「イスラエルの行為はすでに自衛の範囲を超えている」と話した。このような中国の反応は今回の事態が起きて以来、初めてだ。

戦争勃発以降、中国は表向きは中立的な立場を堅持してきた。だが、この日王部長は決心したように「中国はサウジなどアラブ諸国と共に、パレスチナが民族の権利を回復する正義あふれる事業を引き続き支持する」とあからさまにパレスチナの肩を持った。王部長は同日、イランのアブドラヒアン外交長官と行った電話会談でも、「(独立したパレスチナ建国を通じて)歴史的不公正は早期に終結させなくてはならない」とし、同じ論旨を展開した。

◇「米国のせいで品行が良くなくなった」

中国官営メディアも一斉にイスラエル批判に加勢した。

特に「中国共産党のラッパ吹き」役を自任してきた環球時報元編集者の胡錫進氏は14日、ソーシャルメディア(SNS)にガザ地区空襲を批判して「イスラエルは米国のせいで品行が悪くなった」と書くなど過激な発言を投稿した。胡氏のSNSはフォロワーが2500万人に達するだけにその批評は大衆への影響力が強い。

このような扇動に対する反響も大きかった。「中国オンライン上で反ユダヤ主義感情の掲示物が急増している」(米国NGO「フリーダム・ハウス」)という懸念が出ている。

これに先立ち、在中国イスラエル大使館側はハマスが攻撃を加えた翌日の8日、SNSに中国系イスラエル女性がハマスに拉致される映像を掲載して支持を訴えた。だが、中国内の雰囲気はこのように正反対に流れる様相だ。大使館側が悪質なコメントを除去するためにSNSアカウントをフィルタリングしている状況だ。

◇ネタニヤフ首相を国賓として中国に招待したが…

西側専門家は中国の態度変化の流れを注視している。中国は今回の事態が発生する直前まで、イスラエルとの関係強化に動いていたためだ。今年6月には習近平国家主席がイスラエルのネタニヤフ首相に国賓訪問を要請し、今月末には北京での首脳会談も予定されていた。

だが、中国はイスラエルのガザ地区空襲以降、態度を変えた。対中東戦略上、親パレスチナ路線が有利だという判断のためと分析している。専門家は「パレスチナに対する中国の確かな支持がアラブ世界で中国の地位を高め、地域内での立場を強化することができる」と中国の本音を突いた。米シンクタンク「スティムソン・センター」中国プログラムディレクターのユン・ソン上級研究員はフィナンシャル・タイムズ(FT)に「(イスラエルのガザ地区攻撃で)パレスチナに対するアラブ諸国の支援が増えるだろう」としながら「これは中国とアラブ国家を再び同じ方向に向かせるため、中国の利益と合致する」と説明した。

中国の立場ではイスラエルを全面的に支援する米国の対中東ヘゲモニーに揺さぶりをかけることができる局面でもある。米国は中東全域で事態を拡散させないように、一国の海・空軍全体戦力を凌ぐ2個の空母打撃群をイスラエル周辺海域に急派した状況だ。このために「これまで米国と軍事的に協力してきたが、今回の事態で不満を抱くことになったアラブ諸国に中国製武器の販売を拡大できる機会」(エクセター大学国際関係学のマリア・パパゲオルギウ講師)という観測もある。

◇イランとの関係は対米交渉カード

ハマスの攻撃を支援したといわれているイランとの関係も中国には重要だ。実際に中国は戦争の渦中にもイランとの高官接触を継続している。また、中国官営メディアはイランメディアを引用してイスラエル軍の不法な「白リン弾」使用を批判した。白リン弾は人体に付着する場合、骨や肉が溶けるほど深刻な火傷を負わせる致命的な武器だ。

これに対して中国安保が専門の英国ギングス・カレッジ・ロンドンのAlessandro Arduino准教授はFTとのインタビューで「中国が米国と中東政策で交渉するためにはイランを圧迫できる数少ない行為者の一つということを強調しなければならない」とし「中国の立場で、イランは対米交渉の重要なカードになるだろう」と話した。

■「ハマスに襲われた後に路上に捨てられた」…中国人3人、自国民が亡くなったのに消極的対応

今月7日にパレスチナの武装組織ハマスの無差別攻撃を受けて現地中国人3人が殺害され、2人が行方不明だと中国外交部が12日、確認した。

汪文斌報道官はこの日の定例会見で「現在までのところ3人の中国国民が衝突中に不幸にも亡くなり、2人は行方不明となった。また多数が負傷した」とし「犠牲者に深い哀悼を表し、遺族と負傷者にお見舞いを申し上げる」と話した。

10日(現地時間)、イスラエルに進出した中国企業組織「中華商会」は7日、ハマス攻撃当時に江蘇省出身の35歳の鄒氏と万氏、曹氏がトラックに移動中に武装したハマスに襲われた後、道路に捨てられ、少なくとも中国人2人が死亡したと発表していた。だが、中国当局が関連情報を遮断してSNSで検索できないようにするなど報道を統制したとラジオ・フリー・アジア(RFA)が11日、報じた。

中国時事評論家の胡平氏は「中国のこのような態度はハマスの罪状を軽くしようとする試み」とし「中国人死亡者発生を認めてしまえばハマス非難世論が高まるためだ。中国の従来の方針はできるだけパレスチナに対していかなる非難もしないこと」と指摘した。

◇ 「中国式『ゼロエナミー』政策、試験台にのせられた」

今回のイスラエル・パレスチナ事態でウクライナ戦争など国際紛争で一方的に片方を非難しない中国特有の「ゼロエナミー(中国の敵を作らない外交)」政策が試験台にのせられたという指摘が出ている。英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)のAhmed Aboudouh研究員は「中国外交部のこのような態度はイスラエル・パレスチナの間で危険を管理するヘッジ平衡を維持しようとする試み」とし「ただしイスラエルの反応を見ると北京が中東と一帯一路フレームの下で維持してきた『ゼロエナミー』政策が現実の検証を受けることになった」と独メディア「ドイチェ・ヴェレ(DW)」に語った。

一歩遅れて中国人被害を認めた中国はイスラエルの報復による人命被害を特に印象付けながら伝えた。中国新京報のSNSアカウント「政事児」は12日午前、ガザ地区で活動した国連要員11人がイスラエル軍の爆撃で亡くなったというコメントを爆撃映像と共に掲載したが、中国人死亡者には言及しなかった。

◇中国の中東特使「パレスチナ人道主義危機懸念」

中国はイスラエルの報復による被害を強調しながらパレスチナの被害を防ぐために国際社会が出なければならないと求めた。元フランス大使を歴任した中国の中東問題特使の翟雋氏は10日のエジプトに続き11日にパレスチナ第1外務次官と相次いで電話会談を行い、パレスチナに人道主義的支援を求めたと中国外交部が発表した。翟特使はエジプトのウサマ・パレスチナ担当外務次官補と10日の電話会談で「イスラエル・パレスチナ衝突が悪循環している原因はパレスチナ問題を依然として公正に解決することができないところにある」と指摘した。

翟特使は11日にパレスチナのアマル・ジャドー第1外務次官と話をして「罪のない民間人死傷が発生していることに対して深い遺憾を感じている」とし「パレスチナの安全と人道主義情勢の重大な悪化に深い懸念を表する」と話した。彼は「即時休戦と民間人保護が急務」とし「国際社会は実質的な役割を発揮して共に情勢の安定化を成し遂げ、パレスチナ人民に人道主義的援助を提供しなければならない」と求めた。

■「どうか娘だけは…」映像の中のハマス人質、中国北京生まれだった ハマスロシア人も殺害

イスラエルを攻撃したハマス武装隊員が拉致および殺害した民間人の中にはロシア・中国国籍者などもいることが明らかになった。

10日(現地時間)、ロシアのアナトーリ・ヴィクトロフ・イスラエル大使は自国国営放送とのインタビューで「不幸にもロシア人1人の死亡が確認されたという情報を伝える」とし「死亡した若い男性はロシアとイスラエルの二重国籍者で現地に常駐していたことが把握された」と話した。

ヴィクトロフ大使は7日、ハマスのイスラエル攻撃以降、連絡が途絶えたロシア人が9人になると付け加えた。ヴィクトロフ大使は「連絡が途絶えたロシア人のうち4人はイスラエル側の行方不明者名簿に入っている。彼らの所在を把握するためにイスラエル当局と連絡を取っている」と伝えた。

中国外交部も自国国籍者の行方不明、負傷に関連した事態把握に乗り出した状況だ。

中国外交部の汪文斌報道官は10日の会見を通じて「外交部は関連大使館・領事館に対して、全力を尽くして行方不明者を探して負傷者を助けるように指示をする一方、対外的には有効な措置を取って中国人と機関の安全を保障するように求めた」と明らかにした。

報道官は「けがをしたり拉致されたりした中国公民(国民)に関する新しい情報はあるか」という記者の質問には「現地の安全状況が時々刻々と変化していて関連情報は引き続き検証・把握中」と回答した。香港サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、現在行方不明の中国国籍者は4人、負傷者は3人であることが分かった。

特にハマス隊員にバイクで拉致される様子がソーシャルメディア(SNS)を通じて伝えられた25歳女性のノア・アルガマニさんも中国北京生まれのイスラエル人であることが分かった。アルガマニさんの父親は娘を拉致した人に言いたいことはないかと聞かれると、泣きながら「どうか、どうかこのようにお願いするから娘を傷付けないでくれ」と哀願した。ただしアルガマニさんが中国国籍を有しているかはまだ確認されていないとSCMPは伝えた。

ハマス側もロシア・中国国籍人を抑留中であることを認めた。これに先立ってハマス側報道官のアブ・ウバイダ氏は「イスラエル人捕虜の中に二重国籍者が数十人いて、その中にはロシア人や中国人もいる」と話した。

問題はハマス側が「イスラエルの新しい空襲が加えられるとイスラエル人質から1人が処刑される」としながら人質を盾にしているということだ。ネタニアフ首相は「ハマスは恐ろしいことを経験することになり、これは中東全体を変えることになるだろう」と報復を公言した状態だ。

英国エコノミストは「交渉を通じて人質を連れてくることになればハマスの前例ない侵攻に誤った先例を残すことになるので、救出作戦をしようとしても人質がどこにいるのか分からない状況」と指摘した。

この他にもハマスの攻撃で米国・カナダ・英国・フランス・タイ・ネパール・ドイツ・カンボジア・ブラジル・パラグアイ・メキシコ・アイルランド・タンザニア国籍者らが死亡あるいは行方不明になっていることが分かった。韓国人の場合、まだ届け出られた被害はない。

■中国、ハマスを擁護

パレスチナ武装政派ハマスのイスラエル奇襲攻撃に対し、中国が直接的な批判を拒否して中立の立場を繰り返すと、西側メディアの苦言が続いている。

外交専門誌ディプロマットは10日、「中国は完全な中立を維持しようと努力しているが、結果的にはハマスの肩を持つものとみられる」と指摘した。ディプロマットのシャノン・ティエッジ編集長は、「イスラエル・ハマスの戦争に対する中国の『歯の欠けた(Toothless)』対応」と題したコラムで、中国が各国の自制を求めて中立を表明しているが、ハマスの民間人攻撃に対する批判を拒否するのは事実上、この武装集団を保護しようとする試みに読まれる」と批判した。

シャノン氏は「中国は民間人を残忍に殺害したハマスの初期攻撃に対して糾弾することを完全に回避し、これを『テロ攻撃』に分類することも強く拒否した」と述べた。また、過去に西側諸国がウイグル人の抵抗をテロと呼ぶことを拒否した時、中国が発作的な反応を見せたことを例に挙げ、現在の中国の態度は矛盾していると指摘した。

政治専門誌ポリティコも12日、「中国はハマスをかばうことでいかなる批判を受けるといっても、大きな世界的な影響力を持つ道はパレスチナにあると判断したとみられる」とし、中国の中立的な態度を長期的な戦略の一部と解釈した。すなわち、中国が米国に代わるパートナーを探している中東だけでなく、アフリカやラテンアメリカなどパレスチナ解放運動に同調する国の好意を得ようとしているという分析だ。

外交専門誌フォーリン・ポリシーは、中国国営メディアのニュース報道の偏向性にも言及した。フォーリン・ポリシーは「中国国営メディアは不確実な政治的問題に対しては普段のように『米国のせいにする』ようなアプローチをとっている」と報じた。現在、中国国営メディアは中東地域に対するワシントンの「悪意的な」介入を最も強調している。

中国外務省は8日、イスラエルとパレスチナの双方に「落ち着き」と「自制」を求め、敵対行為の中止を促したが、具体的な批判や糾弾は控えた。中国は9日、外交部の定例ブリーフィングで民間人死傷者について言及したものの、主体を省略したまま原論的な立場だけを繰り返した。同日の声明に関連して、中国が最悪の逆風を避けるためにメッセージのバランスを取ろうと努力したが、結局は中国の仲裁者の地位を浮き彫りにすることにさらに集中しているという評価が出ている。

■イスラエル外交官の家族が中国で襲われる 中国当局一切公表せず

13日午後に北京で発生した中国駐在中のイスラエル外交官の家族の襲われた事件を捜査中の中国警察が逮捕した犯人を外国国籍としか明かしておらず、背後に何かあるのではないかと疑う声が高まっている。

北京警察はこの日、「13日午後2時(現地時間)ごろ、北京朝陽区左家荘のあるスーパーマーケットの前でイスラエル人外交官の家族(男性、50)が外国国籍の男に刃物で刺された」とし「犯罪容疑者はすでに警察に逮捕された。初期捜査の結果、該当の外国容疑者(53)は北京で小売経営に従事している。事件は現在追加調査中」と発表した。具体的な犯行動機や犯人の国籍などは一切公開しなかった。

この日の事件は在北京イスラエル大使館から3.5キロほど離れた比較的治安の安定している外交団地で発生した。事件直後、微博やX(旧ツイッター)に投稿された映像には白い上着を着た白人男性が歩道で被害者と激しくもみ合いながら、凶器で被害者の首の辺りなどを数回切りつける場面が映されている。事件現場が見下ろせる建物で撮影されたと見られる映像には被害者が安全なところに移動すると犯人が逃げる様子も含まれている。路上で撮影された別の映像には通行人や警察補助員(輔警)が被害者を助ける場面も見える。該当の映像には「私はイスラエル大使館から来た」という中国語、「救急車がすぐに来る」という別の英語の声も聞こえる。

在北京イスラエル大使館の報道官によると、この日午後に自国の大使館職員が刃物で攻撃を受けたが、病院で治療を受けて容態は安定しているとブルームバーグ通信が14日、伝えた。

中国官営メディアは警察の発表だけを報じた。これとは違って元「環球時報」編集長の胡錫進氏が13日午後、微博を更新して「最近パレスチナ・イスラエルの重大な衝突によって今回の事件を関連付けて考えることが自然だ」としながら「犯人が誰なのか、攻撃原因が同地域の情勢と関連しているのか、当局の追加詳細情報の提供を待つ」と綴った。だが、胡氏の書き込みはすぐに検閲によって削除された。中国当局は今回の事件に関連したSNS検索語の露出をさせないようにしている状態だ。

中国と違って海外ではパレスチナの武装組織ハマスが聖戦を訴えた当日に北京でテロが発生したことの関連性に注目している。イスラエル住在の論客・張平氏は「ハマスの指導者が金曜日に世界各地にジハード(聖戦)を訴えた後、現在までフランス北部で1件、北京で2件目の事例が発生した」とし「今回攻撃した犯人と背後にいる指示者を厳しく処罰しない場合、今後より多くの攻撃が中国で起きる可能性がある」と懸念した。

◇在中国米国大使館「日程を変更して繁華街では注意を」

在中国米国大使館は自国民に安全注意報を発令した。米国大使館はこの日午後、微博やXに「前職ハマス指導者が『怒りの日(day of rage)』と宣言した日に事件が発生した」とし「周期的な日程をすべて変更して、他人の注目を引くような行動を避け、繁華街を通る時には注意するように」など不測の事態に備えるよう求めた。

一方、北京全域ではものものしい警戒とあわせて検問・検索が始まった。17~18日に140カ国と30カ所余りの国際機構代表が出席する第3回一帯一路(陸・海上新シルクロード)国際協力首脳フォーラムを控えているためだ。15日午前、北京都心国貿CBDでは私服警察十人余りが警察犬を連れて道路で行進している様子が目撃された。幹線道路には10余メートル間隔で哨所が立てられたほか、バス停留所と陸橋にも万一の事態を備えて公安要員が警備に立つ姿が目撃された。大使館が密集する地下鉄亮馬橋駅の出入り口では小銃を所持した警察が通行人の身分証を検問していた。
2023.10.17 08:57 | 固定リンク | 戦争
【速報】特殊部隊が人質250人を救出「ハマス副司令官拘束」
2023.10.15
【速報】イスラエル特殊部隊が人質250人を救出 スーファ、イスラエル、10月13日 (AP) ― イスラエル国防省は10月13日、同国南部パレスチナ自治区ガザ地区の境界線のすぐ外側に位置するスーファで、イスラム武装組織ハマスに一時的に占拠された前哨基地を、海軍特殊部隊が奪回する様子を撮影した映像を公開した。

 同国防省は、ハマスによる奇襲攻撃が行われた当日の7日に実施されたこの作戦で、人質250人が救出され、約60人のハマス戦闘員が死亡、26人が拘束されたことを明らかにした。拘束されたなかにはハマス南部海軍部隊のムハンマド・アブ・アーリ副司令官も含まれていたという。

 「シャイェテット13」は、イスラエル海軍の特殊部隊で、対テロ作戦、破壊工作、情報収集、人質救出などがその主な任務であるといわれている。

イスラエル国防軍は14日、パレスチナ自治区ガザ地区の北部に住む約110万人に対して、住民が通るべきという2つの避難経路を示した。イスラエル空軍は同日、7日のイスラエル侵入作戦を指揮したイスラム組織ハマスの司令官をドローン攻撃で殺害したと明らかにした。他方、ガザ当局によると、イスラエルの空爆によるガザの死傷者は1万人を超えた。

イスラエル軍のアヴィチャイ・アドラエ報道官はソーシャルメディアで、ガザ北部から南部へ移動する経路を2つ示し、現地時間の午前10時~午後4時(日本時間の午後4時~午後10時)の間は、「危害を受けることなく」ここを通行できると、ソーシャルメディア「X(旧ツイッター)」でアラビア語で発表した。

報道官は、ガザ市の住民はハンユニスまで南へ移動するよう指示。沿岸部やザイトゥン地区西の住民にも、特定の道路を使った南への移動が認められるとした。

イスラエル軍の地上部隊によるガザ侵攻が近いとされている。イスラエルは地上攻撃の準備を進めており、ガザ地区との境界付近に兵士や重砲、戦車を集めている。

ガザ市と2つの難民キャンプが位置するガザ北部は、人口密集度の高いガザ地区でも特に人口の多い地域。南へ移動するための幹線道路は1本しかなく、自動車用の燃料はなくなりつつある。

こうした中、米国務省関係者は14日、ガザ地区にいるアメリカ国民は、エジプトへ至るラファ検問所からガザを出られることになったと明らかにした。イスラエルとエジプト両政府の合意を受け、現地時間正午から午後5時(日本時間午後6時~同11時)の間、ラファ経由の退避が認められるという。ただし、ハマスがこれを認めるかは不透明な情勢。

イスラエルとガザの間の通過地点は7日以降、すべて封鎖されてきた。ガザとエジプトを結ぶラファ検問所は、エジプトの管理下にあるものの、イスラエルの空爆が続き、ほとんど閉鎖されているか、通行が厳しく制限されている。

イスラエル政府は12日、ガザ地区のワディ・ガザ(ガザ渓谷)以北の全住民は24時間以内にガザ地区南部に退避すべきだと通告した。退避の対象となるのは、ガザ地区の人口のほぼ半数の約110万人。人口密度が高いガザ市も含まれる。

イスラエルからの通告を受けた国連は声明で、「このような人の移動は、壊滅的な人道的影響なしには不可能だ」とした。

世界保健機関(WHO)は、ガザ地区の保健当局から、危険な状態にある入院患者を病院から避難させるのは不可能だと報告を受けたと明らかにした。

ハマスは、イスラエルによるこの退避勧告は「偽のプロパガンダ」だと主張し、無視するようガザの住民に呼びかけている。しかし、すでに大勢が自宅を離れている。

ただし13日夕方には、ガザ北部から南へ避難する市民の車列が空爆され、多数が死傷したという情報が拡散した。BBCヴェリファイ(検証チーム)が現場映像などを調べたところ、ガザ地区を南北に走るサラ・アラ・ディン通りで13日午後5時半ごろ、車列が攻撃されたのが確認できた。

サラ・アラ・ディン通りは、イスラエル軍が14日の時点で「危害を加えない」避難経路として、ガザ住民に向けて発表したルートのひとつ。

13日午後の現場映像では、少なくとも12人が遺体となってトラックの荷台や路上に倒れているのが確認できる。そのほとんどが女性と子供で、子供は幼児に見える。

パレスチナ保健当局はこれについて、イスラエルの空爆で70人が死亡したとしている。

イスラエル国防軍は、事実関係を調べているとする一方、ガザ住民が北部から避難するのを阻止しようとしているのは、敵の方だと主張した。

■ガザの死傷者1万人超える=ガザ当局

ガザの保健省によると、14日までにイスラエルの空爆で死亡した人は少なくとも2215人に達し、負傷者は8714人に上る。報道官によると、死傷者の6割が女性や子供だという。

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区では、ガザ空爆に抗議するパレスチナ人とイスラエル軍の衝突が続き、パレスチナ人54人が死亡、1100人が負傷している。

国連の人道問題調整事務所(OCHA)は13日、イスラエルによる7日からの空爆でガザ地区では「1300棟」の建物が破壊され多と発表。その中に含まれた「5540軒の住宅」が破壊され、さらに3750棟の民家が居住不可能なまでに破壊されたという。

OCHAは12日、 ガザで33万8000人以上が住む場所を失ったと発表している。

侵入作戦指揮の司令官殺害=イスラエル空軍

イスラエル空軍は14日、7日のイスラエル侵入作戦を指揮したハマスのアリ・カディ司令官をドローン攻撃で殺害したと明らかにした。イスラエル総保安庁(シンベト)とイスラエル参謀本部諜報局が入手した情報をもとに、カディ司令官殺害を成功させたとしている。

イスラエル軍はこれに先立ち13日、パレスチナ自治区ガザ地区内の一部で「テロリストのセル(小集団)とインフラによる脅威を排除」するため、地上部隊による急襲作戦を展開したと明らかにした。

イスラエル国防軍の報道官は13日、地上部隊による作戦行動は「その地域からテロリストと武器を一掃」し、「行方不明となっている人たち」を探すためだと説明した。

ハマスによって最大150人が拉致され、人質に取られたとみられている。

イスラエル軍は、部隊がガザ地区に入ることで、人質の居場所について手がかりになる証拠を集められたと説明した。

ソーシャルメディアに投稿した動画では、「イスラエル攻撃にガザ地区内のハマスのテロリスト拠点と対戦車ミサイルランチャーが使われた直後、イスラエル空軍はこれを引き続き空爆した」としている。

これに対してハマスの軍事部門「アル・カッサム旅団」は、イスラエル南部アシュケロンへのロケット弾発射を続けていると主張している。

発電所が燃料切れに

イスラエルによるガザの完全封鎖は続き、食料や水や燃料が枯渇しつつある。

イスラエルによる完全封鎖を受けて、ガザ唯一の発電所の燃料がなくなり、主要電源が切れた。電力を失い、ガザの上下水道システムも停止する見通し。

ガザの病院や家庭、事業所などは発電機を使っているが、この燃料もなくなりつつある。

ハマスや軍事部門のアル・カッサム旅団は、イスラエルのほかアメリカ、欧州連合(EU)、イギリスなどからテロ組織として認定されている。

他方でイランはハマスを支援し、資金や装備、軍事訓練などを提供している。

イスラエルによると、ハマスの戦闘員は約3万人にのぼり、自動ライフルやロケット推進式の手投げ弾、対戦車ミサイルなどの武器を所持しているという。

ガザ地区は、イスラエル、エジプト、地中海に挟まれた全長41キロ、幅10キロの領土。約230万人が暮らし、世界で最も人口密度が高い地域の一つとなっている。

ガザ地区の上空と海岸線はイスラエルが掌握しており、人と物の行き来もイスラエルが検問所で制限している。同様にエジプトも、ガザ地区との国境で出入りを管理している。

■【解説】 救出か取引か イスラエル史上最悪の人質危機

イスラエルが地上戦をにらみ、正規軍と予備軍の兵士計数十万人をパレスチナ自治区ガザ地区との境界付近に集結させている。だが、何ともしようがないような難しい状況にイスラエルは直面している。

ガザ地区のイスラム組織ハマスは7日にイスラエル南部に侵入した際、少なくとも150人を人質にとった。それらの人質は現在、ガザ地区内の秘密の場所で拘束されている。女性、子ども、高齢者もいる。

もうすぐ始まるとも言われるガザ地区での本格地上侵攻に、イスラエルが実際に踏み切った場合、どれくらいの確率で人質たちは生き残れるのだろうか。

〇妥協ムードは皆無

水面下では、カタール、エジプト、そしておそらく他の国々が、人質の一部解放に向けた交渉の努力をしているとされる。イスラエルの刑務所に収容されている36人のパレスチナ人女性と未成年者と引き換えに、ハマスが女性と子どもを解放するという案も浮上している。

しかし、イスラエルのライヒマン大学政策戦略研究所のシニアアナリスト、マイケル・ミルスティーン氏は、イスラエルが最優先するのは平時なら人質の返還だが、現在は軍事的脅威であるハマスの排除だと話した。

イスラエルとハマスは共に緊張と怒りが頂点に達している。妥協や譲歩の雰囲気はない。

イスラエル国民は、南部で国境がいとも簡単に武装集団に突破され、少なくとも1200人が(多くは冷酷な方法で)殺害されたことに衝撃と憤りを感じている。

一方のパレスチナ人は、ハマス以外の人々も含め、イスラエルによる2000回以上のガザ空爆で1000人超が死亡していることに大きなショックを受けている。ガザ地区では現在、燃料、電気、水、医薬品の供給が断たれている。

ハマスは、イスラエルが警告なしに空爆を実施し、ガザ地区で民間人の死者が出るたび、人質を1人ずつ「処刑する」と脅している。それがこれまでに実行された証拠はない。他方、イスラエルにも自制の兆しはほぼ見られない。意図的にガザ地区の大部分をがれきへと変えている。

ただ、ライヒマン大学のミルスティーン氏は、女性や子ども、高齢者を拘束し続けることには、ハマスはこだわっていないだろうとみている。それらの人々は、拘束すれば国際的に非難されるし、世話が大変だからだ。空爆が続き、人質の居場所をガザ内のイスラエル側スパイに知られないようにしている状況では、面倒をみるのは簡単ではない。

対照的に、拘束した兵士については、ハマスは最大限に利用するだろう。今後、交渉が始まった場合は、最大限の対価を要求するはずだ。

〇困難な選択

こうした状況が、イスラエル政府をジレンマに陥れている。リスクを伴う軍事的な救出作戦を試みるのか。それとも、ハマスが空爆で弱体化して取引に応じる気になるのを待つのか。

後者にもリスクはある。人質は地下トンネルや地下壕(ごう)で拘束されているとみられるが、空爆の影響が及ぶ可能性がある。また、ハマス戦闘員が衝動的な怒りや、救出されてしまうとの見通しに基づいて、人質を殺す恐れは常にある。これは実際、2012年にナイジェリアでジハード(聖戦)主義者に拘束された人質2人の救出作戦で、イギリスとナイジェリアの特殊部隊が失敗した時に起きたことだ。

イスラエルは今回、人質対応の専門部署を素早く設置し、人質一人ひとりの身元と状況の確認を進めている。

イスラエル領内で拘束されていた人々については、イスラエル軍と警察の特殊部隊が救出した。その際、一緒にいたハマス戦闘員らは全員殺害した。しかし、イスラエル軍情報部に20年間在籍していた前出のミルスティーン氏は、「イスラエルがガザのすべての家や通りのデータを握っているわけではない」と警告する。ハマスは地下の部屋やトンネルのネットワークに、自らと人質を隠すことができる。

イスラエルは人質救出の実績をもち、訓練も集中的に実施している。1957年に創設されたイスラエルの秘密部隊「サイェレット・マトカル」は、イギリス軍の特殊空挺部隊(SAS)やアメリカの陸軍特殊部隊(デルタフォース)に似ている。1976年に、ウガンダの空港でハイジャックされた飛行機から人質を救出した「エンテベ空港奇襲作戦」で一躍有名になった。

この部隊の指揮したヨナタン・ネタニヤフ大佐は、イスラエル軍側の唯一の死者となった。現在のイスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏は、その弟だ。交渉による人質解放に望みをかけるのか、それとも武力による救出という強硬手段に出るのか、その決断は彼が下す。

〇「史上最も難しい人質事案」

イスラエルに対しては、アメリカが機密情報と、おそらくは特殊部隊による支援も提供しているとの報道が出ている。米海軍は、地中海東部の沖合に大型空母群を展開させている。

しかしハマスは、戦力が大きく上回る相手と戦えることを、これまでに証明している。イスラエルはテクノロジーと火力で圧倒的優位に立っているが、ハマスはその差を補うことができる。

通信を最小限に抑え、デジタルの痕跡を残さないようにすることで、ハマスは7日のイスラエル奇襲を可能にした。150人超の人質を拘束している戦闘員らは、可能な限りオフラインの状態を保ち、電波を使わないだろう。人質たちからはほぼ間違いなく、すべてのデジタル機器を取り上げているはずだ。

「これは間違いなく、イスラエルにとって史上最も難しい人質事案だ」。前出のミルスティーン氏はそう話す。

■米、2隻目の空母派遣へ 地中海に、中東情勢緊迫で

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11日の記者会見で、米海軍の空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」を中心とする空母打撃群を新たに地中海に派遣すると発表した。

中東情勢が緊迫する中、2隻目の空母を投入し、イスラエルに対する軍事行動の抑止を目指す。

 米軍は既に空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群をイスラエルに近い東地中海に展開している。

 カービー氏は空母派遣について、「イスラエルに敵意を抱く組織、国家などに対し、抑止力を高めるのが狙いだ」と説明した。2隻目の空母は今後大西洋を横断し、地中海に向かう予定だという。

■イギリス、東地中海に海軍艇を派遣へ イスラエル首相に支援伝える

英首相官邸は12日、「イスラエルを支援する」目的で、地中海東部に偵察機と海軍の艦船2隻を派遣すると発表した。リシ・スーナク首相は同日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話協議し、支援を表明した。

発表によると、偵察機は13日にパトロールを開始する。「テロリスト集団への武器の移動など、地域の安定に対する脅威を追跡する」という。

この取り組みには、偵察機のほかヘリコプター、海上哨戒機P8、海軍の一個中隊が関係している。

スーナク首相は声明で、この軍事支援が事態の「さらなる深刻化を防ぐ」だろうとした。

また、「イスラエルおよび地域のパートナーに実質的な支援を提供し、抑止力と保証を与える」ため、英軍は待機しているとした。

今回の計画では、英海軍の機動部隊が来週この地域に移動し、人道支援活動をサポートすることになっている。

スーナク氏は、イスラエルで起きた「恐ろしい光景」が「繰り返されない」よう、政府として「明確な姿勢を示す必要がある」と説明。

「安全を回復し、ハマスのテロリストによる野蛮な攻撃の犠牲となった罪のない何千もの人々に人道支援が届くよう、この地域の私たちの軍事・外交チームは国際的なパートナーを支援していく」とした。

スーナク氏はまた、イスラエルやキプロス、地域に展開している軍部隊に対し、有事計画の支援に備えて態勢強化を求めた。

イスラエル南部では7日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがかつてない規模の攻撃を仕掛けた。少なくとも1300人を殺害、150人近くを人質に取ってガザ地区に連れ去った。

イスラエルはガザ地区に報復の空爆を実施しており、1500人以上が死亡している。

グラント・シャップス英国防相は、今回の軍事支援は「ハマスのテロ作戦を確実に失敗させるというイギリスの決意の紛れもない表明となる」と述べた。

一方、イギリス外務省はイスラエルに取り残された国民のため、航空機の手配を始めた。

最初の飛行機は12日にテルアヴィヴを出発の予定。「安全状況次第で今後数日のうちに」さらなる退避便を予定しているという。

〇イスラエル首相と電話協議

英首相官邸は12日、スーナク氏とイスラエルのネタニヤフ首相が電話で協議したと発表した。

発表によると、スーナク氏は「イギリスはテロとの戦いにおいてイスラエルと共にある」と表明。ハマスがイスラエル国民に二度と残虐行為を実行できなくなることに賛同したという。

スーナク氏はまた、ハマスがガザ地区の市民の中に紛れていると指摘。一般のパレスチナ人の保護と、それらの人々への人道支援の促進に、あらゆる手段を講じることが重要だと伝えたという。

この電話協議に先立ち、スーナク氏はエジプトのアブドゥルファタハ・アル・シーシ大統領と協議。ガザ地区に閉じ込められたイギリス人やその他の人々を脱出させるため、エジプト国境のラファ検問所を開くことの「重要性」について話し合ったという。
2023.10.15 07:54 | 固定リンク | 戦争
爆撃機を消す、ウクライナの「秘密武器」
2023.10.14
■爆撃機を消す、ウクライナの「秘密武器」

960キロ離れたモスクワ狙う、ロシア爆撃機を消すウクライナの「秘密武器」

開戦から10カ月が過ぎたウクライナ戦争で無人機(ドローン)が核心「非対称戦力(相手の対応が難しい武器)」に浮上している。ウクライナはドローンを活用して数百キロ離れたロシアの軍事基地を相次いで打撃し、ロシアの長距離ミサイル空襲を阻止している。ロシアも不足するミサイルの代わりに自爆ドローンでウクライナの民間施設を攻撃している。

今月に入ってウクライナはロシア領土内の軍事基地を狙った長距離攻撃をしている。攻撃手段はドローンだ。26日、ウクライナの国境から約500キロ離れたロシア南部サラトフ州エンゲリス空軍基地には、ウクライナが送ったと推定されるドローンによる攻撃でロシア軍3人が死亡した。5、6日にもエンゲリス基地をはじめ、ロシア西部リャジャン州ディアギレボ空軍基地、ウクライナと隣接したクルスク州ボストーチヌイ飛行場などにウクライナ側のドローンによる空襲で死傷者が発生した。

〇ウクライナのドローン攻撃で減ったロシアのミサイル空襲

こうした攻撃は10月からロシアによるミサイル空襲を阻止する効果を出している。ニューヨークタイムズ(NYT)は26日、「エンゲリス基地など飛行場が攻撃を受けると、ロシアは戦闘機を別のところに移動させなければいけないほか、ここに配備された一部の巡航ミサイルまで失う可能性がある」とし「これら武器でウクライナを空襲しようとしていたロシアの計画にも支障が生じるしかない」と分析した。実際、エンゲリス基地には核爆弾の搭載が可能なロシア戦略爆撃機Tu-95、Tu-160が配備されている。ロシアはこれら爆撃機と長距離巡航ミサイルでウクライナの基盤施設を集中攻撃し、ウクライナ全域をエネルギー不足状態にした。

ドローンは事実上、ウクライナがロシアを直接打撃できる唯一の長距離攻撃手段だ。米国の支援で戦争中のウクライナだが、米国は長距離ミサイルを支援していない。米国の武器でウクライナがロシア本土を攻撃して戦争が拡大することを望まないからだ。

しかし米国はウクライナ軍が自らの武器でロシアを攻撃することには反対していない。オースティン米国防長官は6日、「米国はウクライナがロシア領土を狙える独自の長距離打撃能力を開発することを阻止していない」と述べた。米政治専門メディアのポリティコは「5、6日にロシア本土を攻撃したドローンは旧ソ連製ドローンTu-141をウクライナ軍が改造したものだ」と伝えた。NYタイムズによると、最近ウクライナの国営軍需会社は飛行距離が960キロ以上でロシアの首都モスクワまで打撃できるドローンを開発中という。

〇「ウクライナ戦争は最初のドローン戦争」

ドローンを戦場で活用するのはロシアも同じだ。相次ぐミサイル空襲で発射できるミサイルが減ると、イラン製自爆ドローン「シャヘド136」でウクライナの基盤施設を打撃している。

このためウクライナ戦争が「初の本格的なドローン戦争」(ワシントンポスト)という評価が出ている。ドローンが前面に登場して双方の戦争当事者に実質的な被害を与えたのは今回が初めてだからだ。アフガニスタンと中東で米軍がドローンを活用してきたが、当時は米国の空軍力で相手が完全に制圧された状況での作戦だった。

現代戦でドローンの効用価値が高まるのは何よりも安い費用のためだ。シャヘド136の場合、1機あたりの価格が2万ドル(約260万円)前後で、飛行可能距離も2000キロにのぼる。1発の発射のに数十万ドルから数百万ドルかかる長距離巡航ミサイルと比較すれば非常に安い。味方の人命被害なく敵の後方を攻撃できる。ワシントンポストは「ウクライナ軍が偵察用として使用する中国ドローン企業DJIのMatrice300ドローンの場合、4000ドルにすぎないが、ロシアの軍事施設を探知してウクライナ軍のロケット打撃正確度を大きく高めるのに寄与した」と伝えた。

〇ザワヒリ暗殺・アゼルバイジャン戦争などに使用

ドローンはイスラエルが1970-80代に中東国家の防空網識別のために戦場に初めて投入した。当時は偵察目的で使用された。イスラエルの成功に刺激された米国がコソボ戦争(1999)で偵察用ドローンMQ-1プレデターを試験的に投入して以降、本格的な開発に入り、ドローンは攻撃用に進化した。技術力を高めた米国は2020年にイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官、今年8月にアルカイダのナンバー2、アル・ザワヒリをドローンで暗殺して世界を驚かせた。

米国以外の国もドローンを活用した多様な作戦をしている。イランは2019年、サウジアラビアの原油生産施設をドローンで攻撃して被害を与え、2020年のアゼルバイジャン-アルメニア戦争ではアゼルバイジャン軍がトルコ製無人機でアルメニア機甲戦力を無力化し、戦況を逆転させた。

〇生物化学兵器による大量殺傷も

今回のウクライナ戦争をきっかけにドローンの効率性が確認されたことで、今後、世界各国はドローン戦力拡充を攻撃的に進めると予想される。ロシア軍総司令官を歴任した退役将軍のユーリ・バルイェフスキー氏は先進軍事戦略に関する著書でドローンを「現代戦の象徴」と評価した。ただ、ドローン戦力が強化される中、生物化学兵器による大量殺傷攻撃も懸念される。実際、ウクライナ軍傘下の民兵隊組織のアゾフ連隊は「ロシアの無人機がマリウポリに正体不明の化学物質をまく攻撃をした」と主張した。

■「遺体袋山積み」…プーチンの傭兵、バフムトで大規模戦死

ロシアのプーチン大統領の最側近である民間軍事企業のワグネルグループがウクライナ戦争の最大激戦地であるバフムトで大きな損失を出しているものと把握された。英日刊紙ガーディアンは3日、ワグネルグループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がウクライナ東部戦線を視察する姿を収めた映像を入手してこのように報道した。

公開された映像にはプリゴジン氏がある建物の地下室を視察する様子が含まれている。床のあちこちには戦闘で死亡したワグネルグループの傭兵の遺体収納袋が置かれており、別の一方には足の踏み場もないほど積み上げられた遺体収納袋も見られる。プリゴジン氏が「戦闘で死亡した戦士らは棺に収められて家に帰るだろう」と話す姿とともに、兵士らが遺体収納袋を運ぶ場面も収められた。ガーディアンが公開した別の映像ではプリゴジン氏が「バフムトではすべての家が要塞化されている」と話す。「1棟過ぎれば防衛線、1棟過ぎればまた別の防衛線が出てくる」ということだ。この戦線で彼らが大きな困難に陥っている傍証だと同紙は伝えた。

ウクライナ東部ドネツク州に位置するバハムトは最近戦争の最大の激戦地に浮かび上がったところだ。

ドネツク州の半分を占領し自国領だと主張するロシアは昨年11月に南部ヘルソンから退いてからはこの地域を死守するために全力を挙げている。そのためには主要都市へ向かう要衝地であるバフムトの掌握が重要だ。プーチン大統領はワグネルグループをこの地域の核心戦力として投じ、新たに補充する兵力も次々と送っている。そのため戦闘が塹壕戦に広がり、ロシアとウクライナの双方で1日数百人の死傷者が続出しているとガーディアンは伝えた。

それでもロシアのバフムト戦闘勝利は容易ではなさそうだとの観測が出ている。ニューズウィークは3日、「ウクライナもやはりバフムトで兵力を増強している。ロシアが突破口を見いだす可能性はますます低くなっている」と報道した。

残忍なことで悪名高いワグネルグループはプーチンが手足のように働かせる傭兵集団だ。戦争が激しくなりプリゴジン氏が直接ロシアの刑務所を訪問して釈放を見返りに囚人を募集する場面が公開されたりもした。米国情報機関は先月ワグネルグループが北朝鮮から兵器を購入しウクライナ戦争で使っていると発表している。

■「ロシア、夜中に遺体2500体をひそかに移送…遺体列車の姿に衝撃」

ロシアがウクライナで死亡した自国の軍人の数を隠すため夜間に乗じて戦死者の遺体を少なくとも2500体を本国に移送したという証言がベラルーシから出た。

テレグラフは19日、ラジオ・フリー・ヨーロッパなどの報道を引用し、ロシア軍戦死者の遺体が夜中にウクライナと近いベラルーシ南東部の都市ゴメリを経て本国に移送されたと報道した。

ゴメリの病院のある医師はラジオ・フリー・ヨーロッパに「3月13日まで2500体を超える遺体が(ウクライナから)ゴメリに移送され列車と航空機でロシアに運ばれた」と話した。ゴメリ近郊マジルのある医師も「当初は遺体が救急車で搬送されロシア行きの列車に載せられた。ところがだれかがこの場面を撮影した動画をインターネットに載せたため、後に人々の関心を集めないよう(遺体は)夜に移送され始めた」と語った。

ゴメリとマジルの住民らも遺体安置所がロシア軍の遺体であふれている状況だと伝えた。マジルのある住民は「遺体安置所には信じられないほどの遺体があり、マジル駅の乗客は列車に載せられた遺体の数に衝撃を受けた」と話した。

これら地域の病院は負傷し治療を受けようとするロシア軍人であふれている。病床が不足するほどで入院中だった一部の患者は病床を空けるために退院させられ、外科医師も不足している状態だと外信は伝えた。ある住民は「病院には負傷したロシア人がとても多い。本当にぞっとする」と話した。

ロシアがウクライナでの自国の戦死者数を正確に明らかにしない中で、ベラルーシで起きているこうしたことはロシア軍の死亡者数を推定する端緒になるだろうとテレグラフは伝えた。

メディアによると、ロシア軍を治療中のベラルーシの医療陣は死傷者と関連した情報を口外しないよう指示を受けており、病院に携帯電話を持ち込むことも禁止された。ロシア軍の死傷者と関連して十分な情報がある医療陣は解雇されたり辞めたある人権活動家は伝えた。

テレグラフは、これはロシア当局が自国の軍人の死傷者数をロシア国民に隠すのにどれだけ必死なのかを示すものと伝えた。また、このように情報が強力に統制されており、ベラルーシで発生するロシア軍関連のことを正確に把握するのは難しい状況だと伝えた。

2日にロシア軍は先月24日の開戦後に自国軍の兵士498人が戦死し、1597人が負傷したと明らかにしてから死傷者規模を発表していない。

こうした中、ウクライナ外務省は19日に公式ツイッターアカウントを通じ、ロシアがウクライナを侵攻してからのロシア軍の死亡者が1万4400人に達すると明らかにした。また、ロシア軍は航空機95機、ヘリコプター115機、装甲車1470台、大砲213台などの兵器と装備を失ったと主張した。ただロシアは人命被害と装備損失規模をほとんど公開しておらず、こうした主張は正確には確認されていない。

CNNは米国と北大西洋条約機構(NATO)関係者らの情報によるとロシア軍の死傷者は3000人から1万人の間と推定されると報道した。

これに先立ち17日にニューヨーク・タイムズなどは米情報当局が開戦から約20日間のロシア軍の戦死者を7000人と推定したと伝えた。7000人という数は保守的な集計で、これは20年間にわたりイラクとアフガニスタンで戦死した米軍の数を合わせたものより多いとメディアは指摘した。
2023.10.14 10:12 | 固定リンク | 戦争
ハマス奇襲「成功」の裏側「破壊は中国人民解放軍61398部隊」
2023.10.13
ハマス奇襲「成功」の裏側(暗躍するロシア・中国・イラン)「欧米の本当の敵は中国」 世界最高の防空システム「アイアンドーム」を破った主犯は…中国軍のハッキング部隊

イスラエルの防空システム「アイアンドーム」の技術データが、中国人民解放軍によりハッキングされていた疑いがあると報道されている。

アイアンドームは、指揮ユニット、レーダー、ミサイルランチャーによって構成され、いずれも牽引により移動が可能。1台のレーダーと、各20発のタミルミサイルを装填した3台のランチャーが運用の基本単位。

イスラエルが2011年から運用している防空システム「アイアンドーム」の技術が、中国軍所属のハッカーによって盗まれていた疑いが浮上した。

セキュリティー関連ニュースサイト「KerbsOnSecurity」の報道によれば、米国のCyber Engineering Services(CES)社は、サイバー攻撃にさらされた防衛関連企業を、イスラエルのElisra Group社、Israel Aerospace Industries(IAI)社、Rafael Advanced Defence Systems社の3社と特定している。

CES社によれば、問題のハッキングは、アイアンドームの運用開始から約6カ月後の2011年10月に始まり、12年8月まで続いたという。盗まれたのはアイアンドームに関するデータだが、ハッカーはそのほかに、イスラエルの弾道弾迎撃ミサイル「アロー3」や無人機、弾道ロケットの技術などにも狙いをつけていたようだ。

CES社によれば、犯人はここ2、3年で明るみに出た一連のサイバー攻撃と同じで、元をたどればすべて上海を本拠とする中国人民解放軍61398部隊に行き着くという。

2014年5月、米国のエネルギー関連企業などをハッキングした疑いで訴追された5人の中国軍当局者も、同部隊に所属している。

CES社の設立者ジョセフ・ドリッスルはKerbsOnSecurityに対し、標的となった知的財産のほとんどは、実際にはイスラエルの企業に属するものではないと述べている。つまり、それらはBoeing社など米国の軍需企業から提供されたものであり、イスラエル側企業は米国政府の規制に基づき機密の漏洩を防ぐ義務があったということだ。なお、この件に関して、特定されたイスラエル企業は、重要な情報漏洩はなかったと述べている。

アイアンドームは、世界最高の防空システムのひとつとして高く評価され、複数の国がすでに秘密裏にシステムを入手したか、あるいは取得に向けてイスラエルと交渉中とされている(韓国やインド等が交渉している)。

Rafael Advanced Defense Systems社が開発するアイアンドームの後継システム「アイアンビーム」(Iron Beam)の概要も、徐々に明らかになりつつある。アイアンドームは対象を即座に識別するアルゴリズムを用い、人口集中地域へ飛来するロケット弾を撃ち落とすシステムだが、ミサイルの代わりに高エネルギーレーザー砲を用いるアイアンビームは、射程距離内のすべての発射体を熱探知で追跡してマッピングし、対象には限定されずに反応できるという(文末の動画は、アイアンビームのベースになっていると推定されているNorthrop Grumman社の戦術高エネルギーレーザー(The Tactical High-Energy Laser:THEL)技術を紹介している)。

■最新鋭防衛システムをハマスが突破できた原因

イスラエル軍の最新鋭防衛システムをハマスが突破できた原因が判明、色々な意味で格差が大きすぎた。

パレスチナのガザ地区を支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルに対して過去最大規模の攻撃を仕掛けた。ハマス戦闘員はイスラエル側が境界に設けた防御を突破し、民間人数百人を殺害、多数を人質に取った。この急襲はイスラエル側にとって不意打ちで、旧日本軍による真珠湾攻撃にもなぞらえられている。ハマス側は小型のドローン(無人機)によってイスラエル国防軍の戦車も撃破。小規模で資金力も乏しいハマス軍事部門は、どのようにして世界有数の先進的な軍隊に奇襲をかけたのだろうか。

■ハマス奇襲「成功」の裏側

安物ロケット弾と小型ドローンの合せ技 ハマス奇襲「成功」の裏側

パレスチナのガザ地区を支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルに対して過去最大規模の攻撃を仕掛けた。ハマス戦闘員はイスラエル側が境界に設けた防御を突破し、民間人数百人を殺害、多数を人質に取った。この急襲はイスラエル側にとって不意打ちで、旧日本軍による真珠湾攻撃にもなぞらえられている。ハマス側は小型のドローン(無人機)によってイスラエル国防軍の戦車も撃破。小規模で資金力も乏しいハマス軍事部門は、どのようにして世界有数の先進的な軍隊に奇襲をかけたのだろうか。

〇ロケット数千発でアイアンドーム破る?

ハマス側が攻撃で主に用いてきたのは、「カッサム」と呼ばれるロケット弾である。これは工業用のパイプに、自家製のロケット燃料と市販の爆薬を詰め込んだ安上がりな兵器だ。ロケット燃料は砂糖と硝酸カリウム肥料をこね合わせて作る。要は粗製の兵器であり、それ自体は効果も高くないのだが、戦闘員2人が発射レールで装填して撃ったあと、イスラエル側に狙われる前に姿を消せるほどにはコンパクトなものである。

カッサムはロシア製の122mmM-21グラート多連装ロケット砲など、より大型の軍用ロケット砲で補完される。これらのロケット砲で使われるロケット弾はカッサムよりもサイズが大きいだけでなく、精度も高く破壊力も格段に上だ。半面、はるかに位置を特定されやすくなり、破壊もされやすい。

カッサムによる攻撃は基本的に擾乱射撃(休息の妨害や移動の阻止、士気の低下などを狙った射撃)だと言える。とりたてて目標を定めず撃ち込むから損害をもたらす可能性は低いものの、致命的になる場合もある。そこで、イスラエルがカッサムなどの攻撃を防ぐために設けたのが、有名な防空システム「アイアンドーム」である。レーダーと迎撃ミサイルで構成されるアイアンドームは、飛来してくる数百発のロケット弾を追跡・撃墜でき、2021年の紛争では4500発のロケット弾を90%という高い成功率で撃ち落としたと言われる。

とはいえ、アイアンドームのような先進的な装備にも限界はあり、ハマス側はこれが対処しきれないほど大量のロケット弾を撃ち込んで飽和させようとした。一部の報道によればハマス側は今回、20分で5000発ものロケット弾を浴びせたといい、その結果、多くがアイアンドーム突き抜けた可能性がある。

〇ドローンから爆弾投下で監視の目つぶす

ロケット弾による大規模な弾幕射撃は、地上での急襲の目くらましが主な目的だったのかもしれない。ガザはCCTVカメラの塔や人感センサーなど監視システムを備えた防護フェンスで囲まれており、何者かがイスラエル側に侵入しようとすれば警報が出される仕組みになっている。検問所のカメラは顔認識システムと連携しており、ガザとヨルダン川西岸地区は、世界でもっと厳重なデジタル監視下に置かれている場所と言われる。

ハマス側は主だった監視システムの位置を事前に特定し、襲撃の開始にあたってそれらをつぶすための兵器を用意していたもようだ。監視システムが破壊されると、イスラエル側はどこで何が起きているのかを正確に把握できなくなる。

ドローンの脅威へのソリューションを手がけるオーストラリア企業ドローンセック(Dronesec)は、ハマスのマルチコプター(複数回転翼)型ドローンがイスラエルの警備塔や検問所、通信塔に爆発物を投下する様子を捉えた映像を集めている。こうした映像の数からも、これが周到な連携作戦だったことがうかがえる。この作戦によって、ハマスの数百人規模の戦闘員は、作戦の次の段階である障壁の爆破や突破を監視の目を気にせず実行できた。センサーを失ったイスラエル側は、どこで主攻撃が行われているかつかめず、効果的な対応が取れなかったと考えられる。

〇自爆ドローン数十機も投入

ハマスによれば、自爆ドローン「ザワリ」35機もイスラエル側の攻撃目標に向けて発射したという。

ザワリ(またはズアリ)は、ロシアの自爆ドローン「ランセット」と同じくらいの大きさの携帯可能な固定翼ドローンで、名前は2016年に暗殺されたチュニジアのドローン専門家モハメド・ザワリに由来する。もともとは偵察用だったらしいが、現在は攻撃用に改造されている。

ハマスは2021年、開発した小型攻撃ドローン「シェハブ」について、アイアンドームの迎撃ミサイルを回避できると主張していた。地面近くを飛行できるドローンは、高いアーチ状の弾道軌道を描くロケット弾よりもはるかに見つけにくい。


映像によれば、ザワリも複数機が同時に発射されたとみられ、これもおそらく、イスラエル側の防空能力を圧倒して一部が突破する可能性を高める狙いだったのだろう。この新型ドローンは、最も成功した飛行パターンなど、過去のドローンでアイアンドームを試して得られたほかの教訓も取り入れているかもしれない。

ロシア軍は航続距離40km超、弾頭重量約5kgのランセットを使って、ウクライナ軍の防空や大砲、レーダーに対して一定の成功を収めている。ザワリの誘導システムがどうなっているのかは不明だが、おそらく固定目標のGPS座標をあらかじめ入力するのだろう。今回の攻撃の目標は、反撃を阻むために兵舎や指揮所のような高価値の軍事施設に据えた可能性もあるし、単にできるだけ大きな被害や恐怖を引き起こすために民間施設を狙った可能性もある。

〇戦車攻撃用のドローンや爆弾も配備か

ハマスは民間人を殺害しただけではない。攻撃の映像には、イスラエル国防軍の車両が多数撃破されたり損傷したりした様子も映っており、それにはメルカバMk4主力戦車数両も含まれる。イスラエルで開発されたメルカバは、RPG対戦車擲弾や携帯式ミサイルといった武装勢力が使うようなタイプの武器、あるいはもっと高度な脅威を想定して設計されている。とくに、迫り来る対戦車兵器を撃ち落とす「トロフィー・アクティブ・プロテクション・システム」は世界最先端の装備と考えられている。

ハマス側が撮影したある動画では、マルチコプター型ドローンがメルカバに弾薬を投下している。この弾薬は警備塔に対する攻撃で使われたものより一回り大きいようだ。ドローンセックは、ハマスのアルナセル・サラー・アルディーン旅団が、ウクライナ軍で運用されている重無人爆撃機のような大型のヘクサコプター(回転翼6つ)型攻撃ドローンを誇示したことに注目している。爆薬はメルカバに命中し、爆発したように見える。爆発の影響の評価はできないが、数秒後、戦車の右前部で火災が発生したようだ。

初期段階の未確認情報だが、イスラエルはメルカバ6両と装甲兵員輸送車17両を失ったと報告されている。ハマス側は、鹵獲した戦車のうち少なくとも1両はドローンで行動不能にさせたと主張しているが、それが動画に映っているものなのかははっきりしない。

奇襲攻撃後、守勢に回ったハマス側は、圧倒的に強力なイスラエル国防軍の攻撃によって甚大な損害を被る可能性が高い。ハマス側はおそらくロケット弾や自爆ドローンの在庫を使い果たしていて、長期にわたって作戦を続けていくのは無理だろう。だが、備えができていると言われていたイスラエル国防軍にハマスが大きな損害を与えうるという衝撃は、今後何年もの間、多くの疑問を生んでいくことになるに違いない。
2023.10.13 11:43 | 固定リンク | 戦争

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