マフィア「コーザ・ノストラ」大ボス逮捕
2023.01.17

マフィア“大ボス”ついに逮捕 イタリア首相も祝福 「コーザ・ノストラ」大ボス逮捕

 イタリアで30年間にわたり逃亡を続けていた「最重要指名手配犯」のマフィアの大ボスが逮捕されました。

 ロイター通信などによりますと、イタリアの警察当局は16日、マフィア「コーザ・ノストラ」のボスとされるマテオ・メッシーナ・デナーロ容疑者(60)を逮捕しました。

 デナーロ容疑者は、マフィア撲滅に向け捜査を進めていた判事が爆殺された1992年の事件などで本人不在のまま終身刑が言い渡されていました。

 30年間逃亡を続け、「最重要指名手配犯」となっていましたが、16日にシチリア島パレルモの診療所で特殊作戦部隊などによって身柄を確保されました。

 イタリアのメローニ首相は当局の担当者を訪れて笑顔で握手を交わし、逮捕は「国家にとって偉大な勝利」だと称賛しました。
2023.01.17 05:11 | 固定リンク | 国際
藤本健二氏「北朝鮮で何が?」
2023.01.15

平壌で消えた金正日の料理人・藤本健二氏 秘密を知り過ぎた男に何が起きているのか

 日米韓三国の情報関係者が、北朝鮮で行方不明になった「金正日の料理人」として知られる藤本健二氏死亡の可能性を口にし始めた。金正恩総書記の命運を左右する秘密を、握っていたという。それは何か。

 藤本氏は平壌で日本料理店「日本料理たかはし 」を経営していたが、2019年6月頃から姿を消した。捜査当局の取り調べを受けていた。日米韓三国の情報機関のスパイ疑惑で、拘束されたようだ。彼に関連して拘束された金正恩の秘書室長、金昌善はその後名誉回復したが、藤本氏の姿は消えたままだ。

 コトの始まりは2019年2月の、ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談だった。金正恩がハノイに汽車で向かった2月23日未明に、スペインの北朝鮮大使館が襲われた。犯人グループは、ハノイ到着までは襲撃情報が金正恩に届かないことを知っていた。金正恩は、3日後の26日にハノイに到着し、襲撃事件を知り激怒した。

 この襲撃犯たちは、北朝鮮の秘密情報を知っていたから、金正恩は驚愕した。実は、北朝鮮のヨーロッパでの情報収集本部は、英国のロンドンに置かれていたが、駐英公使が韓国に亡命する事件が起き、北朝鮮は情報本部をスペインの大使館に移転させたばかりだった。犯人グループは、韓国系米国人が中心で、北朝鮮の機密情報を盗んで逃げたのだ。

 この事件は、北朝鮮の工作活動や秘密警察機能を持つ国家保衛省が、責任を問われ幹部が更迭される大問題に発展した。北朝鮮は、米CIA(中央情報局)が仕組んだ事件と判断し、北朝鮮の内外で米国のスパイ狩りが展開された。

 国家保衛省は、名誉回復のために日本や韓国と米国にいる工作員に、スパイ情報の収集を命じた。これが、藤本健二氏拘束のきっかけだった。

金正恩の機密情報とは
 金正恩は、日本にいた大物工作員に藤本氏に関する情報の確認を、直接指示した。この過程で、藤本氏が日本の公安機関や内閣調査室、韓国の情報機関、米CIAの幹部職員と接触していた事実を確認した。この工作員は、藤本氏が接触した人物の名前も確認して、報告書を北朝鮮に送った。

 ところが、この報告書類が送達事故で国家保衛省の手に渡ってしまった。名誉回復に必死の国家保衛省は、この報告書の内容を横取りし、藤本氏の捜査と逮捕に着手した。その過程で藤本氏は、米CIAや日本の情報機関、韓国情報機関との接触と機密漏洩を、明らかにした。

 秘書室長の金昌善は、藤本氏の身元保証人であったため、取り調べを受け解任されたが、スパイ事件や藤本氏の機密漏洩には関わっていない事実が明らかになり、名誉回復した。この捜査で、藤本氏が朝鮮総連の議長派宛に機密の全てを伝えていた事実も、明らかになった。このため、金正恩は反議長派の朴久好副議長を第一副議長に任命し、次期議長であると指示したが、現議長を解任できなかった。議長が、金正恩の機密情報を藤本氏から聞いていたから、と情報 関係者は理解した。どんな機密なのか。

 機密が何であるかについては、アメリカの情報機関関係者も口を閉ざす。その中の一人は、「アメリカは金正恩の血液検査とDNAを入手している」とだけ述べた。これは何を意味するのか、DNAは本人確認に必要なものだが、関係者の間で判断は分かれる。

 情報関係者が改めて注目しているのは、藤本氏の発言だ。2010年の金正日総書記の死去直前に、金正恩がテレビ映像に初めて映し出された 。テレビ局は、藤本氏をスタジオに呼び、本人かどうかの確認を求めた。

衝撃を与えた重村氏の発言
 藤本氏は、1989年から金正日の専属料理人となり、金正恩が7歳の頃から相手をした。2001年に「殺される危険」を 教えられ、日本に脱出した。なのに、また北朝鮮に帰ったのだから、何かがあったと考えないと理解できない。

 北朝鮮からの脅しは、日本に「逃亡」後も続き、北朝鮮から持ち帰った金正日の機密写真数百枚を、親しくなった女性が焼いて逃げた事件も起きた。女性は明らかに、北朝鮮の手先だった。「お前をいつでも殺せる」との脅しが込められていた。

 藤本氏は、12歳までの金正恩を知る唯一の人物だ。金正日は、子供や家族への高官の接触を禁じていたから、藤本氏以外には金正恩を知る人は、ほとんどいなかったので、彼の発言は注目された。藤本氏以外には、金正恩に 身近で接触し話を交わした人物は北朝鮮でもいなかった。

 朝鮮問題の専門家や政府関係者、取材記者らが注目する中で、藤本氏がテレビ局のスタジオで発言した。

「いやー、変われば変わるものだ」

 この発言は、平壌に衝撃を与えた。普通なら、「ご立派になられて、感激だ」と言えばいいのに、なぜ「変われば変わるものだ」と言ったのか。あたかも、自分が知っている金正恩とは違うとの意味に受け取られる表現だ。

 後になって、私は藤本氏に発言の真意を聞いたが「覚えていない」と逃げられた。北朝鮮は、口封じのために、平壌に呼び寄せたのか。情報機関関係者は、「藤本の発言に驚愕した平壌当局が、真実を口外させないために平壌に『永久帰国』させたが、スパイ容疑で消されたのではないか」とも推測する。

 彼はなお生存しているのか、あるいは刑務所か、政治犯収容所にいるのか。藤本氏の行方が分からなくなってから三年半が過ぎた。「金正日の料理人」は、金正恩への疑問とその謎を解くカギだけを残した。
2023.01.15 13:16 | 固定リンク | 国際
中国の三人っ子政策「日本車”追い風”」
2023.01.15

中国の地方における人口の変化

 過剰な人口増加を抑えるため、中国政府は1980年ごろに「独生子女政策(一人っ子政策)」を導入。これにより一組の夫婦が設けることのできる子供の数が「1人」に限定され、違反した夫婦には多額の違反金が課されることになった。しかし労働力として重宝される「男子」に人口が偏るなど弊害が目立ち、若者世代の減少による急速な高齢化も問題視されている。

 こうした問題に対処するため、中国では2016年に「全面二孩政策(全面二人っ子政策)」を導入、さらに2021年には「一組の夫婦に3人までの子供を認める」と発表するなど、高齢化対策を全面的に開始した。

 中国・計画出産関連機構の撤廃、出産自由化か

 2016年に「全面二人っ子政策」を導入した中国。一人っ子政策による少子化の進行に歯止めをかけるのが狙いだったが、増加したのは2016年のみで、翌2017年には出生数が再び減少に転じた。

 これを受けて中国当局は、「計画出産に関連する3機構を撤廃する」と発表。出産自由化へ移行する準備段階に入ったのでは、との臆測を呼んでいる(2018年時点)。

 人口と経済の危うい関係、中国はどうなる

 出生数の低下に伴う若者人口比率の低下は、経済に大きな影響を与えると考えられている。例えば「逆依存人口比率」(1人の被扶養者が何人の働き手に支えられているかという指標)が下り坂に差し掛かると経済活動が鈍化するとされ、日本では実際に「1965年の証券不況」や「1990年のバブル崩壊」が発生した。

 今こうしたリスクに直面しているのが中国だ。近い将来、中国経済が日本のバブル崩壊と同様の経験をすることになるのか、注目が集まっている。

 認知症1000万人、中国の今。中国人民大学教授に聞く

 現在の中国で、少子化と並んで問題視されているのが高齢化だ。すでに65歳以上の人口は1億6700万人に上り(2018年末時点)、2050年までにその数は倍になると考えられている。一方で中国の社会保障は日本ほど整っておらず、都市部と地方の格差も大きい。高齢者が受け取る年金額と医療費のバランスも問題だ。

 社会保障体制の整備と充実、日本や欧米企業によるシニア市場の開拓、定年後のライフスタイルへの意識など、今後の中国にはさまざまな変革が求められている。

 人口増や温暖化…食糧の「偏在」が加速する

 出生数が低下したとはいえ、中国の人口は膨大だ。約14億人の人口を維持するには大量の食料が必要で、中国当局は今後に備えて「貿易戦争の中で食糧が弱点にならないよう」補強を急いでいる。指導部が中国古来の伝統とは真逆の「食べ残すな」という指令を出しているのも、その一環だ。

 結婚できない?しない?「一人っ子」たち。中国の婚活・出産事情

 2015年末まで行われていた一人っ子政策の弊害として指摘されるのが、アンバランスな男女比率だ。伝統的に男児が女児よりも重視されてきた中国では、意図的な産み分けを避けるために出生前の性別診断が禁じられている。だが、それでも男児の出生割合は女児より2割ほど高いという。

 これは中国の若い男性にとって「結婚しにくい(相手が見つからない)」ことを意味する。一方で高学歴の女性の独身比率も高まっており、こうしたマッチングの難しさが、中国のさらなる少子化につながっている。

 中国の「三人っ子政策」がうまくいきそうもない理由

 2021年、ついに中国政府が「一組の夫婦に3人までの子供を認める」と発表した。2016年の全面二人っ子政策でも少子化を食い止め切れなかったことから、さらなる緩和に踏み切った形だ。

 だが30年にわたる一人っ子政策で「中国の社会と経済がすっかり少子化に最適化」され、育児や教育にかかる費用の負担が増大していることなどから、単なる「出産制限の緩和」では出生数の改善は期待薄とみられている。

 中国の三人っ子政策、日本の自動車メーカーの追い風に

 一方で自動車メーカー、特に日系メーカーにとって、三人っ子政策は大きなチャンスとなる。中国人のファミリー構成が変化することで、日本の自動車メーカーが得意とする「3列シートの7人乗りSUV(多目的スポーツ車)」や「中高級MPV(多目的車)」の需要が増大すると考えられるためだ。

 中国の地場ブランドは比較的コンパクトなSUVで人気を集めているものの、こうしたメーカーが大型SUVのノウハウを身に付けるには時間がかかる。日本の自動車メーカーが中国市場でシェアを伸ばすためにも、中国の政策や消費市場の変化をしっかりと把握していくことが必要だ。

 約14億人という圧倒的な人口を誇る中国。一方で人口の過剰な増加を抑えるため、30年以上にわたり一人っ子政策を採用してきたことでも知られている。だが一人っ子政策による出生数の低下は、中国の経済や社会保障への大きなリスクをもたらしている。新たに導入された「出産制限の緩和」政策がどのような効果をもたらしていくか、要注目だ。
2023.01.15 11:32 | 固定リンク | 国際
中国の意図「目論見とは何か?」
2023.01.04
砂漠地帯に大陸間弾道ミサイル(ICBM)用とみられる多数の地下施設

中国、今度は化粧品標的…繰り返される大国の要求と摩擦 [世界秩序の行方]第1部 攻防経済と軍事力

 化粧品を対象とした中国政府の規制強化が波紋を呼んでいる。複数の関係者によると、当局は原料の全成分を今年4月末までに登録するよう企業に求め、完了しなければ中国での販売ができなくなるという。外国メーカーを標的に、組成情報の全面的開示を狙ったものと受けとめられている。

 中国政府は2020年に化粧品を管理する条例を約30年ぶりに改正し、条例に基づく管理規定を施行した。同規定では化粧品メーカーに対し、原料名や比率を明記した調合表の提出を義務づけ、原料メーカーにも成分比率の開示を求めている。今回の規制強化は、この完全実施を求めたものだ。

 化粧品の組成情報はメーカーが長年培ってきた企業秘密だ。開示すれば中国企業に情報が伝わり、同品質の化粧品が安価に生産される可能性が高い。日米仏などの主要メーカーからは、「中国市場の大きさを利用した、体のいい技術移転だ」と反発の声が上がる。

 経済成長に伴い、中国の化粧品市場は急拡大してきた。独立行政法人「製品評価技術基盤機構(NITE)」の資料によると、中国の市場規模は19年に約572億ドル(当時約6兆3000億円)に上り、米国に次ぐ世界2位となった。販路拡大を中国市場に求める外国メーカーは多い。日系化粧品企業幹部は「全成分登録をやりたくはないが、やらなければ市場に参入できない」と語る。

 中国は複合機などのオフィス機器を巡っても、設計や開発を含む全工程を中国国内で行うよう求める規制の導入に乗り出している。日本が高い技術を誇っていた新幹線や太陽光パネルなども中国に技術を奪われた。日本の化粧品業界団体は米欧の経済団体と連携し、中国当局に規制の再考を求める構えだ。

 制裁で生産・消費落ち込むロシア

 中国が、化粧品でも世界市場の席巻をもくろむのは、強い経済力こそが国力の源泉となるからだ。一方、同じ強権国家のロシアは、製造業など経済力の低下が弱点となっている。昨年2月のウクライナ侵略に対し米欧日などが科した経済制裁によって、ロシアは部品やハイテク製品を輸入できなくなり、幅広い生産活動や消費が落ち込んだ。昨年1~10月の乗用車生産台数は、前年同期の3割強の水準に激減した。

 プーチン大統領の故郷、ロシア西端のサンクトペテルブルク。市郊外に、トヨタ自動車がロシアでの部品調達や物流が困難になったことを理由に撤退を決断した工場がある。昨年12月中旬に訪れると、外壁には「TOYOTA」の看板が外された跡が残っていた。

 工場の労働組合によると、完全に閉鎖するまでの施設管理などを担う人員を残し、従業員は11月に解雇された。約15年間勤めたアレクサンドル・ピリペンコさん(38)は「福利厚生も充実し、安定そのものだった。解雇当日まで、撤退の決定が覆らないかと皆考えていた」と語る。

 ソ連崩壊後、ロシアは市場経済化を進めた。自動車産業の誘致はプーチン氏が強い意欲を示したものだ。しかし、ウクライナ侵略を受け日産自動車も、ロシア事業の撤退を余儀なくされた。千葉大の伊藤恵子教授(国際経済学)は「米中関係悪化など国際情勢が不安定になる中でも、多くの日本企業は収益性を優先した対外投資を続けた。こうした姿勢を見直す転機が訪れている」と指摘する。

核戦力増強の動き

米専門家による衛星写真の分析として、中国が内陸部の砂漠地帯で大陸間弾道ミサイル(ICBM)用とみられる多数の地下施設を建設していると伝えた。米国をにらんだ新たな核戦力増強の動きだ。

 分析したのは、米ミドルベリー国際大学院ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイス教授。中国甘粛省玉門付近の衛星写真で、発射装置を備えた地下格納庫とみられる施設が計119か所で建設されているのが判明した。既に確認済みの発射施設と酷似しており、米全土を射程に収める新型ICBM「東風(DF)41」用とみられるとしている。

 中国は米軍から核攻撃を受けても、破壊を免れた核ミサイルで反撃する能力の確保を目指している。実際に配備されるミサイル基数は施設の数を下回る可能性がある。中国は過去にも「おとり施設」を建設したことがあるという。
2023.01.04 19:17 | 固定リンク | 国際
元ソ連首相「フルシチョフのひ孫が吠える!!」
2023.01.03
ニーナ・フルシチョワ「ロシアでも西側でも人々は無能で独裁的な指導者を支持」 フルシチョフのひ孫ニーナ・フルシチョワ

専制主義と独裁の土壌を育てるのは何か。ポピュリストのゆがんだ統治を受け入れた先にあるのは──元ソ連首相フルシチョフのひ孫ニーナ・フルシチョワが綴る戦争と平和と悪しきポピュリズム

今のロシアは、私の曽祖父ニキータ・フルシチョフが首相だった頃(1960年代前半)の全体主義国家ではないはずだ。だが悲しいかな、ロシアのDNAには全体主義が染み付いている。あの国の指導者は今も現実をねじ曲げ、どんなに愚かで、あり得ない話でも国民に無理やり信じ込ませる。

ジョージ・オーウェルの『一九八四年』に登場するオセアニア国では「戦争は平和なり」とされたが、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアでは「特別軍事作戦」が平和構築の一形態とされている。2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻を、ロシアの都会に暮らす一般市民が気にかけることはなかった。ロシア軍の戦車が国境を越えて戦地に赴いても、みんなパーティーに興じていた。まるで、石油と天然ガスの輸出でプーチンのロシアが絶頂期にあった2004年に戻ったかのように。

このシュールな偽りの平和が、ロシア国内では侵攻開始から半年ほど続いた。許し難いことだ。曽祖父が若き日を過ごしたウクライナ、あの美しい大地が爆弾で穴だらけにされ、首都が包囲され、人々が国外へ逃れ、あるいは家族と離れて戦っていたときも、ロシアの人はいつもどおりの生活を送っていた。

大都市にいれば、それなりに経済制裁の影響は感じられた。高級品は店頭から消え、マクドナルドなどは店を閉ざした。それでも娯楽は十分にあった。ソ連崩壊からの30年で、都会の人は素敵なモノや快楽を手に入れていた。戦争はどこか遠くの話(あるいは近すぎて口にできない話)だった。ならばプーチンに任せておけばいい、どうせ彼が全てを仕切っているのだから。みんなそう思っていた。見ざる、聞かざる、言わざるが一番だと。

ただし西側の人にも、優越感に浸る資格はない。国内外に数え切れない紛争の種をまき散らし、罪深い行為に手を染めながら、やはり多くの人は現実から目を背け、快楽の消費に励んできた。そして今は、せっかく民主主義の国々にいながらプーチンと大差ない指導者たちを担ぎ、道徳的に破綻した契約を結んでいる。

恐怖と恥辱と排除の論理へ

ドナルド・トランプ前米大統領が嘘を嘘で塗り固め、人種差別や反ユダヤ主義を口にし、私腹を肥やし、政府機関を腐らせていた4年間、アメリカ人は抵抗しただろうか。もちろん一定の抗議活動はあり、トランプは4年だけでホワイトハウスを追われた。しかし、それでもまだトランプを支持するアメリカ人が大勢いる。とりわけ共和党内ではそうだ。なぜか。彼が最高裁に保守派の判事を3人も送り込み、大企業に有利な規制緩和を進め、富裕層に減税をプレゼントしたからだ。

イギリスの国民も、ボリス・ジョンソン元首相を3年間も野放しにしていた。彼が無能な取り巻きに政府の仕事を回しても、議会や王室を軽視しても、好きなようにさせた。たぶんブレグジット(イギリスのEU離脱)の「功績」ゆえだろう。

ポーランドではヤロスワフ・カチンスキの政権が法廷と国内メディアの大半を脅し、飼い慣らしている。補助金のばらまきで農村部や貧困層に取り入り、盤石の支持基盤を固めているからだ。

こうして政府が国民の一部と取引するのが当たり前になると、専制主義と独裁の土壌が育つ。人は国家(または世界)のためではなく、自分と仲間の利益のために票を投じるようになる。そして指導者は有権者の望みをかなえる代わりに、民主主義と倫理を堂々と踏みにじる。国民の物質的欲望を満たす一方で、異質な少数者に対する恐怖心をあおり、憎悪を政治の武器とする。

プーチンやトランプのようなポピュリストは巧みに支持者の空気を読み、それに合わせて自分の意見や立場を変える。ウクライナ侵攻に対するトランプの反応を見ればいい。当初はプーチンに肩入れしていたが、国内世論の動向を見て、ある時期から侵攻反対に舵を切った。

だがウクライナ人の勇気をたたえてきたアメリカ人の間にも、今は支援疲れが見える。共和党議員の多くは、ウクライナ支援も無条件ではないと言いだしている。トランプ同様、心の底では「アメリカだけがよければいい」と思っているのだろう。

さすがに今は、ロシアの一般市民もウクライナで起きている惨劇の不条理に気付き始めた。ただしウクライナの人々に同情したからではなく、自分の息子や親兄弟が兵隊に取られかねない事態になったからだ。しかし、もしアメリカの共和党議員がウクライナの現実に背を向け、目を閉じてしまうようなら、ロシアの人々もプーチンの戦争に反対する意欲を失うだろう。

社会契約とは、社会の全ての人が共通の利益のために、一定の規則や規範を受け入れるという暗黙の了解を意味する。だがポピュリストは異質な人を排除して、ひたすら身内の利益だけを追求する。まさにプーチンがやってきたことだ。

そうしたアプローチの有効性にプーチンが気付いたのは、ある意味で意外だった。もともと彼は思慮深い男ではない。トランプも同様だ。しかし、そこが一番の問題かもしれない。だから私たちはだまされ、ポピュリストのゆがんだ統治を受け入れてしまった。もう思慮も分別もなく、あるのは恐怖と恥辱、そして排除の論理だけ。そこでは独裁者が栄え、野蛮な戦争が繰り返される。
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※:ニーナ・フルシチョワ(NINA KHRUSHCHEVA)
米ニューヨークにあるニュースクール大学の教授(国際問題)、コラムニスト。元ソ連首相ニキータ・フルシチョフのひ孫。共著書に"In Putin's Footsteps: Searching for the Soul of an Empire Across Russia's Eleven Time Zones "がある。
2023.01.03 13:58 | 固定リンク | 国際

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