ロシア参謀総長戦後最大のピンチ
2023.01.24
ゲラシモフ参謀総長

「大戦後最大の困難」認める ロシア参謀総長、ウクライナ侵攻

 ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長がロシア紙「論拠と事実」と会見し、ウクライナ侵攻について「現代のロシアがこのレベルの集中的な軍事行動を取ったことはなかった」と述べ、ロシア軍が第2次大戦以降で最大の困難に直面していることを認めた。同紙電子版が24日に伝えた。



2023.01.24 23:04 | 固定リンク | 戦争
露軍「攻撃ヘリ」無効化へ
2023.01.24

ロシア軍大誤算:戦車キラーの攻撃ヘリが全く活躍できない

 年が明けて、今、米欧から大量の戦車・歩兵戦闘車などがウクライナに供与されようとしている。

 第1次世界大戦以降、戦場の主役は戦車だと言われてきた。

 その後、第4次中東戦争(1973年)で対戦車ミサイルの威力が証明され、一時期、戦場の主役から「戦車不要論」が言われるようになった。

 さらに対戦車ミサイルを搭載した攻撃ヘリ(対戦車ヘリ)が、地上戦では「戦車キラー」の一つであり最強であった。

 こういうことから、米軍は攻撃ヘリ「AH-1コブラ」「AH-64アパッチ」を多数保有し、日本の陸上自衛隊も同様の機種を保有しているほどだ。

 自衛隊の戦術教育や図上戦術の際に用いる「相対戦力比較」では、攻撃ヘリ1機は戦車7両に匹敵するとして計算していた。

 筆者が陸自指揮幕僚課程(CGS)学生や幹部高級課程(AGS)の戦略教官であった時も、その見方は変わってはいなかった。

 しかし、露軍のウクライナでのこれまでの戦いでは、その攻撃ヘリの活躍は、侵攻初期を除いてほとんどない。

 露軍は、「戦車キラー」と呼ばれる攻撃ヘリを約400機保有していた。侵攻当初に約30%が撃墜されたが、まだ大量に残っている。

 これまでの戦いでは、「戦車キラー」として活躍していないのだ。

 今後、米欧の戦車等と露軍の攻撃ヘリの戦いは、どのようになるのかについて考察する。

■ 1.攻撃ヘリはなぜ「戦車キラー」なのか

 攻撃ヘリが「戦車キラー」と呼ばれる理由は、攻撃ヘリが地形の起伏を利用して、地上を這うように匍匐(ほふく)飛行して戦車に接近し、対戦車ヘリに搭載する対戦車ミサイルの射程(約3000メートル)内に入り、ミサイルを発射すれば、撃破できるからだ。

 戦車の弱点である上部を狙って射撃ができるのだ。

 戦車は、戦車砲の射程外(約1500メートル以遠)から、対戦車ミサイルを発射されるので、主砲から砲弾を発射することもできないで破壊される。

 攻撃ヘリは、地形に隠れて自由に動き回り、1両を破壊すればすぐに、次の目標を選定して攻撃するなど、次から次へと撃破し破壊していくことができる。

 戦車と攻撃ヘリが交戦すれば、攻撃ヘリ1機で、7両の戦車を撃破できるとされてきた。戦車にとっては、最大の脅威だ。

■ 2.露軍の攻撃ヘリ数量と戦闘能力

 「ミリタリーバランス2021」によると、ウ地上軍の攻撃ヘリ保有数は35機で、露地上軍(海軍のヘリはほとんど参戦していないので除く)は、394機である。

 露軍の機数はウ軍の約10倍以上だ。

 その種類と数量は、「Ka-52」×127機、「Mi-24」×100機、「Mi-28」×103機、「Mi-35」×64機だ。

 また、露軍は、ウ軍のMi-24よりも新型であるKa-52、Mi-28を230機保有している。露軍とウ軍の攻撃ヘリを比較すれば、露軍が圧倒的に有利だ。

 露軍の攻撃ヘリ約400機をすべて展開して、1機で7両の戦車を撃破できるとすれば、2800両の戦車を撃破できる計算になる。

 露軍は、欧州からモスクワまでの大平原では、突進してくるNATO(北大西洋条約機構)の戦車軍団を撃破するには最適の兵器であると考えていたはずだ。

 攻撃ヘリは、広大な平原を素早く飛行して、射撃の位置を変え、ミサイルとロケットを撃ち尽くせば、補給地まで飛行して戻って補充すればよい。

 そして、何度も攻撃に加入できる。

 戦車は砲弾を撃ち尽くし、燃料がなくなれば、砲弾や燃料が来るまでそこで停止せざるを得ない。

 弾もなく停止していれば敵に破壊されてしまう。攻撃ヘリには、この欠点はない。

 そのため、露地上軍のキーウ攻略作戦では、攻撃ヘリが大活躍すると考えていた。

 しかし、実はウ軍のスティンガー携帯地対空ミサイル(携帯SAM)に撃破され、その行動は止められてしまった。

 露軍は、戦車軍団を撃破するために、多額の予算を投入して攻撃ヘリを生産し、保有してきたはずである。

■ 3.露軍攻撃ヘリの対戦車戦闘の現状

 露軍は侵攻当初、戦闘機・攻撃機と攻撃ヘリの両方で、重要都市や軍事拠点(空港や防空兵器)を叩いて、友軍の地上軍の快進撃を掩護するはずであった。

 最初の総攻撃の2週間、第2回目の総攻撃の4週間目には、戦闘機等および攻撃ヘリが地上軍の進撃を支援して、地上軍は、北部・東部・南部で進展できた。

 だが、攻撃ヘリを含むヘリは最初の2週間で約80機、4週間目で約40機、最初の1か月に120機の損失を出した。

 保有数の約15%、投入数の約20%であった。

 露軍のヘリ保有数は823機だ。攻撃ヘリは約400機なので、全数の約50%である。

 攻撃ヘリは前線で攻撃に介入し、1か月で120機の半数の60機あるいはそれ以上が撃破破壊されたと考えられる。

 10か月で、ヘリ総数の267機が撃墜破壊されているので、攻撃ヘリはその半数の約130あるいはこれ以上の数量が撃墜破壊されたであろう。

 たった1か月間でこれだけの損失が出たのは、大きなダメージである。

 そして、ウ軍の防空兵器特に、携帯SAMが至る所に展開しているため、攻撃ヘリによる攻撃では成果は出ないし損害も大きいので、2か月目以降は、積極的にウクライナ領域に侵入して攻撃することができなくなった。

 つまり、地上軍の作戦を緊密に支援できていないのだ。

■ 4.露軍の攻撃ヘリは今も戦車キラーか

 露軍の攻撃ヘリは、ウクライナの戦場で戦い、活躍しているのだろうか。

 今、ウクライナの戦場で活躍しているのは、ウ軍に提供されたHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)や長射程精密誘導砲弾だ。

 そのHIMARSを使用したクライナ地上軍が、これまで散々悩まされてきた露軍の火砲とその弾薬庫を破壊している。

 ウ軍のHIMARSなどを破壊できるのは、露空軍の航空攻撃か攻撃ヘリによる攻撃だ。露軍の火砲ではできない。

 ところが、航空攻撃はウ軍の防空兵器を恐れ、露の領域から出てウクライナに奥深く入り込んでいない。

 ウクライナの平地を超低空飛行して、ウ軍の防空網をかいくぐって、ウ軍の地上部隊特に、HIMARSの位置に飛行して接近して攻撃できる兵器は唯一、攻撃ヘリだけだ。

 攻撃ヘリによるウ軍HIMARS等への攻撃(イメージ)

 ウクライナの戦いでは、攻撃ヘリがHIMARSキラーになってもよいはずなのだが、そうなってはいない。

 攻撃ヘリもウクライナの領域に深く入り込んで、攻撃するということは、極めて少ないようだ。攻撃ヘリが本来の役割を果たしてはいないのだ。

■ 5.ウクライナの戦場で活躍できない攻撃ヘリ

 戦車キラーと言われた露軍攻撃ヘリは、ヘリの損失や映像画面などで判断すると、一部だけが作戦行動しているようだ。

 機甲戦主体である地上戦でなぜ、戦車キラーである攻撃ヘリが活躍していないのか。その理由を考察する。

 その1:平坦なウクライナの地形では、ヘリが空中を飛行すると、直ちに発見される

 攻撃ヘリは地形に沿って飛行する。匍匐飛行して発見されないように近づき、そして、対戦車ミサイルを発射する。

 ウクライナの地形は起伏がなく、地平線まで見える平坦地であるがために、攻撃ヘリの飛行を秘匿することができない。

 攻撃ヘリが捜索レーダーに発見されないように、超低空あるいは地上10メートルくらいを匍匐飛行していても、上空を監視する兵から発見される。

 その2:携帯SAM等の格好の餌食になる

 発見されれば、携帯地対空ミサイルで、さらに地を這うように飛行しても、ジャベリン対戦車ミサイルに狙われる。

 どちらもミサイルは命中する。

 ジャベリンは対戦車ミサイルなのだが、発射されたミサイル自体が、目標物を画像として認識し、それに向かって追随していく。

 攻撃ヘリに対する携帯SAM・ジャベリンの射撃(イメージ)

 元来、攻撃ヘリは敵の戦車、火砲(HIMARS)、防空ミサイル陣地まで接近し、攻撃することができる。つまり、それらの天敵なのだ。

 したがって、露軍の攻撃ヘリは、ウ軍の後方地域に配置されているHIMARSや防空ミサイルを攻撃できる唯一の兵器だ。

 だが、ウ軍のこれらの兵器が、露軍の攻撃兵器で、攻撃を受け破壊されたという情報を見ない。

 前述のように、最初の1か月は、露軍の攻撃ヘリが果敢に攻撃をして、携帯SAMなどから攻撃され、多くの被害を出したが、その後、動きがほとんどない。

 テレビ映像でも見ることはない。ウ軍の末端の部隊まで携帯SAMが配置されていれば、露軍の攻撃ヘリは、手足が出せずお手上げ状態なのだ。

■ 6.米欧供与の戦車キラーにはなれず

 現在、米欧から戦車や歩兵戦闘車が供与される可能性が高まってきた。

 各種報道によると、英国は「チャレンジャー2」戦車14両と装甲車数百両、米国は「ブラッドレー」歩兵戦闘車59両と「ストライカー」兵員輸送車(*実態は戦闘車)90両、フランスは「AMX-10RC」装甲車(実態は戦闘車)数量不明、ドイツは「マルダー」歩兵戦闘車約40両、ポーランドとフィンランドがドイツ製の「レオパルド2」戦車(ドイツの承認待ち)、ドイツ企業は「レオパルド」戦車100両以上供給する用意などがあるという。

 *装甲車の名称ではあるが、実態は「戦闘車」である。陸自も米仏の装甲車と同様の兵器を保有しているが、名称は、「機動戦闘車」としている。

 これらの戦車等の敵は、戦車、対戦車ミサイル、攻撃機だが、最大の天敵は攻撃ヘリだ。

 本来であれば、露軍の約400機に近い攻撃ヘリが大活躍するはずであった。

 ところが、侵攻当初に多くが撃墜されたために、その後、露地上軍の戦闘を支援している様子はない。

 露軍パイロットは、「ウクライナ領内に入って攻撃することを拒否している」という話もある。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が春以降に大規模攻撃に踏み切るというが、米欧から供与された兵器で増強されたウ地上軍の攻撃を露地上軍が阻止できるだろうか。

 戦車キラーと呼ばれた攻撃ヘリの直接支援は期待できない。戦闘機・攻撃機もそうだ。

 露軍にとっては、ウ軍機甲軍団を食い止める天敵はいなくなったも同然だ。

 露軍がウ軍を阻止する手段(兵器)はもうほとんどない。露軍が期待できるのは、都市を攻撃するための軍用機からのミサイル攻撃、短距離弾道ミサイル攻撃、自爆型無人機だけだ。

 これらも、今後供与されるパトリオットミサイルが加われば、ほとんど撃ち落とされる。

 露軍は、東部では国境線まで後退し、南部ではクリミア半島を放棄することになる可能性が高まった。

■ 7.日本では極めて有効な攻撃ヘリ

 最後に、日本の防衛のために付け加えておきたい。

 日本は、地形の起伏があり、その地理的範囲は、北から南まで3000キロもある。予想していない地域に上陸侵攻された場合の対処には、迅速に本土から島嶼などに展開する必要がある。

 それには、攻撃ヘリは最適な兵器で、絶対に必要な兵器である。

 攻撃ヘリが、ウクライナで活躍しないから、高価だからといって、無人機に置き換えるというのは早計過ぎる。
2023.01.24 06:24 | 固定リンク | 戦争

- -