中国人客「来られても困る」
2023.10.01
中国政府は新型コロナウイルスの感染対策として、2020年1月に海外への団体旅行を禁止しましたが、今週になって、日本を含む78か国への団体旅行が再開されたと発表しました。

しかし、中国人観光客が日本に来るにはまだ多くの障害があります。例えば、帰国時の隔離期間やPCR検査の負担、日本政府の原発処理水の海洋放出計画への反発などで訪日客が減少してます。

一方で、中国人観光客の日本への関心は高く、コロナ対策や規制緩和が進めば、再び日本に旅行する人が増える可能性があるという見方もあります。

2019年には3188万人のインバウンド客が日本を訪れていたが、そのうち30%が中国本土からの観光客だった。日本の観光市場にとって「お得意様」だった中国人観光客の消失を、ホテル側はどう思っているのだろうか。

■意外にも、ホテル側の受け止めはいたって冷静だ。

「受け入れ態勢ができていないので、いま中国人団体観光客に来られても困る」と、名門ホテルの幹部は胸をなでおろす。他のホテルも異口同音に「中国人客のキャンセルなどによる影響はほとんどない」と語る。

実際、インバウンドを集客できる都内のホテルの経営状況はコロナから急回復している。藤田観光が運営する1000室以上の大型ホテル「新宿ワシントンホテル」の客室単価・稼働率は現在、コロナ禍前を上回っている。

中国本土からの需要は回復していないものの、家族やグループでの宿泊が多いほかの国からのインバウンド客が増えたことで、宿泊人数が増加し客室単価の上昇につながっているのだ。

■客室清掃や調理の人手不足は深刻

ホテル各社がコロナ禍で推し進めてきたある戦略も「処理水問題」の影響緩和に大きく関係している。

それは、稼働率重視から客室単価重視への転換だ。ホテルはこれまで稼働率を高く保つため、多少単価を安くても客室を販売してきた。しかし、コロナ禍を経てホテル各社は稼働率を落としてでも、客室単価を引き上げる戦略に切り替えている。

背景にあるのは空前の人手不足だ。とくに客室清掃や調理の人手不足は深刻で、コロナ禍前ほどの稼働を維持できなくなっている。

また単価重視の販売は経営の改善にもつながる。客室を多く稼働させる場合はリネンやアメニティの交換、清掃などのコストがかかるが、客室単価を上げればそうした費用は抑えられ収益性が向上する。

ホテル側はコロナ禍後の顧客層の変化にも対応してきた。欧米インバウンド客や国内レジャー客は個人旅行が中心だ。こうした個人客は、ホテルが提示した価格で予約をするため単価が高くなりやすい。

他方、中国人は団体客が多い。団体客は数十名など大規模の予約が事前には入るため稼働が高くなるが、旅行代理店へ客室を安く販売することが多い。

人手不足が顕著ないま、「わざわざ客室稼働を上げ、単価を下げてまで中国人の団体客を取らなくてもいい」というのがホテル側の本音なのだ。

ただ、中国人観光客の復活を切望している状況ではないとはいえ、中国人観光客の復活はホテル各社にとって大きな追い風となることは間違いない。

中国人インバウンド客は宿泊施設の稼働を引き上げる重要な存在だ。市場全体の稼働率が高まれば、安売りされる部屋数が少なくなり、客室単価はさらに上昇していくだろう。

■次の春節シーズンには中国人観光客が回復?

観光庁が毎月発表している「宿泊旅行統計調査」によれば、2023年7月の業界全体の稼働率は57.8%で、2019年7月の63.6%を下回っている。中国人インバウンド客が戻ってきていないことに加えて、将来的なインバウンドの成長を見据えて宿泊施設の新規開業が相次いでいるためだ。

中国インバウンド客の本格復活は、はたしていつになるのか。中国人インバウンドや中国の越境EC関連のプラットフォーム事業を行っているNOVARCA(ノヴァルカ)の濱野智成社長は、「処理水問題を受けて、中国本土からのインバウンド客の回復ペースは少し遅くなっている。春節シーズンである2024年2月の月間訪日客は50万〜80万人程度になるのではないか」と推測する。

2019年2月の訪日客は、月間72万人だった。濱野氏の見立てでは、半年ほどもすれば、中国人観光客は従来のように戻ってくるということだ。宿泊施設はインバウンドの本格復活に備える必要がある。
2023.10.01 17:32 | 固定リンク | 国内

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