ワグネルとの戦い「まるでゾンビ」
2023.02.02


まるで「ゾンビ映画」、ウクライナ軍兵士が語るワグネルとの戦い

ウクライナ・バフムート近郊(CNN) ウクライナ東部の要衝バフムートの南西区域、ウクライナ軍の兵士2人が蝋燭(ろうそく)の灯る掩蔽壕(えんぺいごう)の中で日々を過ごしている。凍てつく大地を掘って作ったこの場所で彼らが数週間にわたり対峙(たいじ)するのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と契約した数百人の戦闘員たちだ。これらの戦闘員はウクライナの守備隊に向かって、捨て身の攻撃を仕掛けてくる。

兵士の1人、目出し帽で顔を隠したアンドリーさんは、永遠に続くかと思われたある銃撃戦について回想する。ワグネル戦闘員の大規模攻撃にさらされた時のことだ。

「10時間くらい、戦い通しだった。波状攻撃なんてものじゃない。全く途切れることがなかった。敵が際限なく向かってくるように思えた」

撃ちっ放しのライフル銃は熱くなりすぎて、交換しながら使い続けなくてはならなかったという。味方の兵士20人前後で200人は相手にしていたと、アンドリーさんは振り返る。

ワグネルの戦い方では、主に刑務所で直接徴集した新兵からなる第1陣をまず送り込む。彼らは軍事的な戦術についてほとんど知識がなく、装備も貧弱だ。大半は、ただ半年の契約期間を生き延びて釈放されることだけを期待している。

「彼らは10人ほどのグループを組んで、30メートル進むと穴を掘り始める。そこで陣地を確保する」と、アンドリーさんは説明する。続いて別のグループがまた30メートル進む。そうした形で徐々に前進しようとするが、その間に多くの犠牲者が出るという。

第1陣が損耗し切るか進めなくなって初めて、ワグネルはより経験を積んだ戦闘員を送り込む。大抵は側面から、ウクライナ側の陣地の制圧を狙ってくる。

この攻撃は恐ろしいもので、現実と思えない経験だったと、アンドリーさんは振り返る。

「味方の機関銃手は正気を失いかけた。撃ったはずの敵が倒れないと言っていた。しばらくして血を流すか何かした後、ようやく倒れると」

アンドリーさんは戦闘の様子をゾンビ映画のワンシーンになぞらえる。「彼らは味方の死体を乗り越えてやってくる。死体を踏みつけにして」「攻撃の前に、何か薬物でもやっているとしか思えない。そんな感じだ」

CNNはこうした見方が真実かどうか独自に検証できていない。

アンドリーさんたちは敵に包囲され、弾丸も底を突いた。だが幸運にも、ワグネルは最終的に退却したという。ワグネルの攻撃に関するアンドリーさんの説明は、CNNが先週入手したウクライナ情報当局の報告と一致する。

その報告はワグネルの部隊について、陣地の奪取に成功後、火砲の援護によって蛸壺(たこつぼ)を掘り、獲得した陣地を固めるとしている。ただウクライナの傍受によれば、ワグネルとロシア軍の間には調整不足が散見されるという。

アンドリーさんの部隊は、ワグネルの戦闘員1人を捕らえたとしている。尋問記録によると、その戦闘員は技術者だが薬物の販売に手を染めた。自分の犯罪歴を抹消できると信じて、ワグネルへの参加を志願したという。犯罪歴が無くなれば、弁護士になるという娘の夢の実現に向けた問題が軽減すると考えたからだ。

アンドリーさんはこの技術者に向かって、戦場で殺されるのが分かっていても、ロシアで自らの自由のために戦うのは恐ろしいのだろうと告げた。

技術者は「その通りだ。我々はプーチン(大統領)を恐れている」と、答えたという。

CNNは、ワグネルを経営するオリガルヒ(新興財閥)のエフゲニー・プリゴジン氏に今週連絡を取り、ワグネル内部で虐待が横行しているとの疑惑について質問した。

同氏はCNNを「公然たる敵」と呼んだ上で、ワグネルは「模範的な軍事組織であり、現代の戦争に必須なあらゆる法規を順守している」と主張した。

アンドリーさんに取材する間も、掩蔽壕の上の戦場では砲撃の音がほぼ休みなく響いていた。甲高い発射音が鳴った数秒後、鈍い衝撃音が数キロ離れた地点から聞こえてくる。ロシアのドローン(無人機)らしきものを撃ち落とそうと、ウクライナ軍の兵士が銃を発射する音も聞こえる。

南西部の都市オデーサ出身のアンドリーさんは、ロシアによる侵攻の数日後に軍隊に参加した。今後陣地に何人の戦闘員が送り込まれて来ようと、抗戦し続けるつもりだ。

味方の大半は志願兵で、給料のいい仕事に就いていたにもかかわらず母国のために前線で戦っている。そこにロシア側との大きな違いがあると、アンドリーさんは語る。

「これは自由を守るための戦いだ。ウクライナとロシアの戦争ではなく、1つの政権と民主主義との戦争だ」(アンドリーさん)
2023.02.02 14:01 | 固定リンク | 戦争

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