岸田首相が解散総選挙を行わない理由
2023.12.27
岸田政権が解散総選挙を行わない理由

岸田文雄首相は2023年9月に自民党総裁に選出され、同月に内閣を発足させた。しかし、その後の内閣支持率は低迷し、年内の衆議院解散・総選挙を断念した。本稿では、岸田政権が解散総選挙を行わない理由を分析する。その理由として、以下の三点を挙げる。

政権発足後の政策決定や人事における失敗や不手際が支持率低下の要因となった。

政権の最優先課題であるデフレ脱却に向けた経済対策の効果が出るのは2024年6月以降であり、それまで待つ必要があった。

自民党内にポスト岸田の有力候補がいないため、総裁選前に解散すると政権交代のリスクが高まると判断した。

岸田文雄首相は2023年9月に自民党総裁に選出され、同月に内閣を発足させた。岸田首相は、デフレからの完全脱却を政権の最優先課題に掲げ、物価高対策や賃上げ促進、投資拡大などの経済対策を打ち出した。また、女性5人を閣僚に起用するなど、内閣改造や党役員人事でも新風を吹き込もうとした。

しかし、その後の内閣支持率は低迷し、年内の衆議院解散・総選挙を断念した。本稿では、岸田政権が解散総選挙を行わない理由を分析する。

まず、政権発足後の政策決定や人事における失敗や不手際が支持率低下の要因となったと考えられる。例えば、岸田首相が物価高対策として打ち出した所得税と住民税の減税策は、タイミングや効果を巡り批判の的となり、自民党内からも異論が出た。また、マイナンバー制度の拡充に伴うインボイス制度の導入は、混乱や不備が相次ぎ、国民の不信感を招いた。さらに、副大臣・政務官の人事では、女性や若手の登用が少なく、派閥への配慮が目立った。これらの政策や人事は、岸田政権の刷新感やリーダーシップを損なう結果となった。

次に、政権の最優先課題であるデフレ脱却に向けた経済対策の効果が出るのは2024年6月以降であり、それまで待つ必要があったと考えられる。

岸田首相は、所得税と住民税の減税策により、2024年度までの2年で1人あたり4万円、住民税が非課税の世帯には1世帯あたり7万円を還元するとした。しかし、この減税の効果は、実際に税金が引かれる2024年6月以降に出る予定であり、それまでは国民が可処分所得の増加を実感できない可能性が高い。また、岸田首相は、30年ぶりの賃上げ水準となった2023年春に引き続き、企業に春季労使交渉(春闘)での賃上げを要請しているが、物価高の影響で実質賃金の上昇は限定的となる恐れがある。

したがって、岸田首相は、賃金と消費がともに拡大する好循環を生み出すことで支持率を回復させるシナリオを描いていたが、それを実現するには時間がかかると判断したのだろう。

最後に、自民党内にポスト岸田の有力候補がいないため、総裁選前に解散すると政権交代のリスクが高まると判断したと考えられる。岸田首相は、2024年9月に自民党総裁の任期満了を迎えるが、その前に衆院選で勝利すれば総裁再選に弾みがつくと考えていたとされる。しかし、支持率が低いまま解散すれば、自民党の議席が減少し、政権基盤が揺らぐ可能性がある。また、自民党内には、岸田首相に代わるポスト岸田の有力候補がいないという現状がある。

最大派閥の安倍派は集団指導体制で、総理総裁候補はいない。麻生派の麻生太郎副総理兼財務相や二階派の二階俊博幹事長は年齢的な問題がある。茂木敏充幹事長は総理を目指す雰囲気だが、派閥をまとめきれているのか不透明だ。河野太郎デジタル改革相や高市早苗経済安全保障相は岸田首相に取り込まれている。石破茂元幹事長は次の総理にふさわしい人として世論調査で高い支持を得ているが、党内では反石破の勢力が強い。

このように、自民党内には、岸田首相に対抗できる総裁候補が不在であるため、総裁選前に解散すると、政権交代のリスクが高まると判断したのだろう。

「萩生田さんが政調会長でいるかぎり、岸田首相はやりたいことはできないね」

年末年始の内閣改造がささやかれる中、ある自民党幹部はこう語った。

岸田首相が防衛費倍増の財源として増税する方針を示したことで、あぶり出された岸田官邸と安倍派を中心とする自民党保守派との対立。年明けもこの対立が続くのは確実で、岸田首相が人事で何らかの手を打つのかが焦点だった。

しかし、岸田首相は結局、内閣改造・党役員人事には踏み込まず、秋葉賢也復興相と杉田水脈総務大臣政務官の交代にとどめた。これにより岸田政権は内部に火種を抱えたまま、2023年1月下旬の通常国会を迎えることになる。

岸田首相は、安倍派の政治資金パーティー収入の裏金疑惑に対処するために、実行力・調整力・答弁力を備えた即戦力として閣僚を選任したと主張したが、この人事は党内外の支持基盤の弱さと政権運営能力の低下を露呈したものと言える。

安倍派の閣僚や党幹部の交代は、政権の信頼回復には不十分であり、パーティー収入問題は他派閥にも波及する可能性が高い。また、安倍派の切り捨ては、保守層の離反や党内の対立を招くリスクも孕んでいる。世論調査の結果からも、岸田首相の人気は低迷し、早期の退陣を望む声が多数を占めていることがわかる。岸田首相は、重要政策の推進力を失いつつあり、次期衆院選に向けて自民党の勝利を確保するのは困難と見られる。

■内閣支持率低迷、来秋の総裁選前の首相退陣との見方も

岸田内閣の支持率は14日の閣僚交代後に行われた報道各社の世論調査で10-20%台に落ち込み、大半で自民党が政権に復帰した12年12月以降の最低を更新するなど危機的な状況にある。

クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは、内閣支持率の低迷が続けば、来秋の総裁選前に岸田首相が退陣する可能性も否定できないと述べた。ただ、次の春闘で賃上げ効果が得られればデフレ脱却を成果とすることで、総裁選を戦う選択肢もあるとみている。
2023.12.27 18:05 | 固定リンク | 政治

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