クリミア橋攻撃「敗走の露軍そこにクラスター弾・ほぼ全滅」
2023.08.20


クリミアのケルチ橋に複数のミサイル攻撃 敗走のロシア軍そこにクラスター弾ほぼ全滅 ウ軍のへりキラー「Ka52」撃墜

ロシア国防省は12日、ロシアがウクライナから併合したクリミアと、ロシア本土を結ぶ主要交通路のケルチ大橋が、ウクライナのミサイル2発に攻撃されたと発表した。

ロシア国防省は、ウクライナが同日午後1時ごろ、S-200ミサイル2機をケルチ橋へ向けて発射したものの、どちらも迎撃したため、橋に損傷はなかったとしている。S-200は冷戦時代にソヴィエト連邦で開発された誘導型長距離高高度防空ミサイルシステムで、ウクライナが地上戦用に改良したものとみられる。

ソーシャルメディアに投稿された動画では、ケルチ橋の近くで煙が上っている様子が見える。

ウクライナはこの件についてコメントしていない。

ロシア外務省は、「このような野蛮な行為には必ず対応する」と述べた。

ロシアがクリミア知事に任命したセルゲイ・アクショノフ氏は、ケルチ海峡で3発目のミサイルが撃墜されたと述べた。

アクショノフ知事の顧問は、橋の通行は一時停止されたと明らかにした。立ち上った煙は、軍による意図的な「煙幕」だと話した。

これに先立ちロシアは同日、クリミア近くでウクライナのドローン(無人機)20機を撃墜したとしていた。

ウクライナは今回のケルチ橋攻撃や使用兵器について認めていないが、ウクライナが奪還を目指すクリミアをはじめウクライナ南部と、ロシア本土を結ぶ重要な輸送路なだけに、昨年から繰り返しケルチ橋を攻撃している。

ウクライナのニュースサイト「ユーロマイダン・プレス」は7月、改良型S-200ミサイルがケルチ橋のほか、ロシアのロストフ州とブリヤンスク州の軍事拠点を攻撃するために使用されたと伝えた。

7月12日には橋で起きた爆発で2人が死亡し、1人が負傷した。

ウクライナは当時、攻撃したことを認めなかったが、BBCロシア語が取材したウクライナ治安当局の関係者は、攻撃は自分たちによるもので、水上ドローン(無人機)を使ったと話した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月21日、ケルチ大橋は正当な軍事標的だと主張した。ゼレンスキー氏は米コロラド州アスペンで開かれた安全保障関連会議でオンライン演説し、「この戦争の弾薬を届けるのに毎日使われる」大橋を「無効」にする必要があると述べ、ウクライナ政府は大橋を「敵の施設」とみなしていると話していた。

昨年10月に起きた橋の爆発については、当事者はまだ判明していない。当時の監視カメラ映像には、上向きに傾斜する橋の路面を複数の車両が通行する間に、その後ろの片側で巨大な火の玉が発生する様子が映っていた。この爆発の影響でケルチ橋は部分的に閉鎖され、今年2月に全面通行が再開した。

ウクライナ軍は、ロシアが2014年に併合したクリミアをはじめ、2022年2月からの侵攻で制圧した東部や南部の地域を奪還しようと、春から反転攻勢を続けている。夏に入り、ケルチ橋周辺での軍事行動が歴然として頻度を増した。

ゼレンスキー大統領は6月下旬の時点で、反攻の進展が「望んだより遅い」とBBCに対して認めていた。ロシア軍が20万平方キロメートルのウクライナ領土に地雷を仕掛けて守りを固めているため、進軍は容易ではないと、ゼレンスキー氏は話していた。

ロシア政府は、首都モスクワのクレムリン(大統領府)や政府省庁の入る高層ビル群への相次ぐドローン攻撃も、ウクライナによるものと非難している。

モスクワへのドローン攻撃についてウクライナは自分たちによるものと認めていないものの、最初の高層ビル攻撃をロシアが発表すると、ゼレンスキー大統領は「戦争は徐々にロシア領に戻りつつある。ロシアにとって象徴的な中心地や軍の基地へ。これは不可避で自然で、まったく公平なプロセスだ」と発言している。

他方、ロシアはウクライナの民間施設への攻撃を続けている。ウクライナによると、今月5日には北東部ハルキウ州の輸血センターを破壊。南部ザポリッジャでも民間インフラの攻撃が続いているという。

■ウ軍スウェーデン製ミサイルで「露軍Ka52へり」撃墜

ウクライナ軍の旅団が6月4日夜にウクライナ南部と東部で待望の反攻作戦を開始したとき、ロシア空軍のヘリコプターが待ち構えていた。

ウクライナ軍は首都キーウなど主要都市周辺に防空網を集中させていたため、前線の旅団は上空からの攻撃にさらされることになった。ロシア軍はウクライナの計画の弱点を突いた。

それから10週間後、ウクライナ軍は反抗を率いる旅団の上空へと防空範囲を拡大したようだ。ウクライナ軍は8月17日、ロシア軍の攻撃ヘリ2機を撃墜した。

この撃墜はウクライナ軍第47独立機械化旅団にとっては特に喜びだった。同旅団は南部ザポリージャ州マラトクマチカの南方で6月8日夜に攻勢をかけた際、ロシア軍ヘリからの攻撃で大損害を受けた。

同旅団と、ともに戦っている第33独立機械化旅団は地雷や大砲に見舞われ、空からも攻撃を受けた。その夜、レオパルト2A6戦車やレオパルト2R地雷除去車、M2ブラッドレー歩兵戦闘車など優れた戦闘車両を少なくとも20両超失った。

ウクライナ軍は最終的にマラトクマチカに広がる地雷原を回避する方法を見つけ、6月8日に放棄した車両の多くを回収。これらの車両は修理されたと思われる。第47旅団と第33旅団の戦隊は数キロ南下し、最終的にロボティネに到達した。ロボティネは約72km南のメリトポリにのびるルート上に位置し、ロシア軍の拠点が置かれている。

第47旅団がロシア軍の攻撃ヘリKa52に報復したのは、ロボティネのロシア軍陣地のすぐ北の場所だった。Ka52の多くはロシアが占領している港湾都市ベルジャンスクを拠点としている。

第47旅団はスウェーデン製のサーブRBS70レーザー誘導ミサイルを発射してKa52を撃墜。ヘリの乗員2人のうち1人が死亡したと報じられた。同日、別の部隊も東部バフムート周辺でKa-52を撃墜した。

この2機の撃墜で、ロシアが18カ月におよぶウクライナとの戦争で失ったKa52の数は少なくとも計41機になった。ロシアの航空機メーカー、カモフがロシア空軍向けに製造したKa52のおよそ3分の1にあたる。

■ロシア軍が前線上空の制空権を失う可能性

Ka52は過酷な戦争を経験してきた。高度なVikhr(ヴィーフリ)対戦車ミサイルを使用するために、Ka52の乗員は数秒間、地上から数百百メートル弱ほどのところでホバリングしなければならない。攻撃を受けやすくなるその数秒間、Ka52の乗員は搭載の通信妨害装置で身を守る。

Ka52はレーザーや赤外線で誘導されるミサイルには対抗できるが、レーダー誘導ミサイルには対抗できない。そのためKa52は、レーダーを妨害する装置を搭載しているより重量のあるミルMi28と編隊を組んで飛ぶことが多い。

だが、この策が常に機能するとは限らない。特にRBS70に対してはそうだ。重量約86キロの2人で操作するこの防空システムは、超音速ミサイルを最大約9キロ先まで飛ばす。Vikhrの射程距離とほぼ同じだ。

RBS70は主にレーザーで誘導されるが、レーザーが偽装されても機能する。「地上のオペレーターは発射後いつでも手動で操作することができ、それにより目標地点を変更することができる」と開発元のサーブは説明している。

ロシア軍は41機のKa52に加えて少なくとも60機のヘリと74機超の固定翼機を失ってなお、前線上空をほぼ支配している。

ウクライナ軍の反攻に少しでも貢献し、生き残るためには、同軍のヘリはとんでもなく低空飛行しなければならない。一方、同軍の戦闘機は遠くから攻撃を仕かけ、西側製のさまざまな精密ミサイルや滑空爆弾を発射している。

最も激しい地上戦の真上に攻撃ヘリや戦闘爆撃機を自在に配備できるのはロシア空軍だけだ。

だがそれは今のところは、だ。ウクライナ軍のすべての旅団が、第47旅団のようにミサイル部隊を前方に配置することができれば、ロシア軍は最終的に前線上空の制空権を失う可能性がある。

■ウクライナ軍のM-55S戦車、想定外の激戦で奮闘

ウクライナ軍はロシアの占領軍に対する反転攻勢の準備を進めていた時期に、西側の支援国から寄付された重装備の大半を、新たに編制した旅団に配備した。

なかでも、陸軍の第47機械化旅団は多数の戦闘車両を与えられた。米国製M2歩兵戦闘車(IFV)90両のほか、フィンランドから供与されたレオパルト2R重地雷処理車全6両、スロベニアから供与されたM-55S戦車全28両などである。

第47機械化旅団はこの春、これら新しい車両の訓練に多くの時間を費やしていた。だが不可解なことに、ウクライナ軍が待望の反攻を6月上旬に始める少し前、第47機械化旅団が南部のザポリージャ州に展開したときには、M-55Sは同伴していなかった。

ただ今では、M-55Sの配備先ははっきりしている。それは、ロシア軍の占領下にある東部ルハンスク州西部の都市クレミンナのすぐ西側。運用しているのは、ウクライナ陸軍の別の新たな旅団、第67機械化旅団だ。

M-55Sはこの旅団に属する比較的規模の小さい大隊に配備され、同じ旅団の通常規模の戦車大隊に配備されているT-72戦車とともに戦っている。

証拠は徐々に積み上がっていた。7月12日、第67機械化旅団の医療要員として従軍しているアリーナ・ミハイロワは、クレミンナの西にある樹林帯の中に停められたM-55Sの写真を撮っている。数日後、M-55S1両がロシア軍の砲弾を食らい、イスラエル製の光学機器を破壊されている。クレミンナ郊外の所在地を監視で特定されたうえでの攻撃だった。

さらに7月22日ごろ、やはりクレミンナ郊外で別のM-55にロシア軍の砲弾が直撃し、大破している。

第47機械化旅団が、保有する唯一の戦車だったM-55Sを第67機械化旅団に譲った理由はよくわからない。M-55Sは旧ソ連のT-55戦車を大幅に改修し、英国製105mm砲などを搭載したものだが、ウクライナ軍参謀本部は、第47機械化旅団が南部トクマクの攻勢軸で持ちこたえてきたような戦闘に投入するには脆弱すぎると懸念したのかもしれない。

重量36トン、乗員4名のM-55Sは、たしかに爆発反応装甲(ERA)を何重にも備えてはいる。しかし、その下の鋼鉄は最も厚いところでもせいぜい数百mmしかない。現在の水準から見れば非常に心もとない防護だ。

ある意味、ウクライナ軍指導部の判断は正しかった。第47機械化旅団は南部の戦線で、ポルトガルとドイツから供与されたレオパルト2A6戦車21両をすべて運用する第33機械化旅団と組んでいる。重量69トンのレオパルト2A6は、場所によってはなんと1400mmの鋼鉄に匹敵する防御力を持つ。にもかかわらず、運用する大隊はすでにレオパルト2A6を少なくとも2両失っており、さらに9両が損傷を受けている。

もっとも、軍指導部がM-55Sを最も激しい戦闘にはさらしたくないと考えたのだとすれば、結果として大きな誤算になった。というのも、ロシア軍がウクライナ軍の反攻に対する反攻のために、使用できる最良の戦力を集中させることにしたのは、ほかならぬクレミンナの西方だったからだ。ロシア軍がここでの反・反攻によって、ウクライナ軍がはるか南で進める反攻作戦を頓挫させようという目論見なのは明らかだ。

ロシア軍はこれまでに、クレミンナの西へ数km前進している。それでも、M-55Sを擁する第67機械化旅団やスウェーデン製の最新鋭車両を装備する第21機械化旅団はロシア軍の大きな前進を食い止めている。反攻頓挫の試みを頓挫させているのだ。

ウクライナ軍は、M-55Sの戦車大隊がロシア軍の最良の部隊と直接衝突するのを避けようとしたのかもしれない。もしそうだったとすれば皮肉だが、結果としてこの大隊はロシア軍の最良の部隊と相まみえることになった。

■ロシア兵がウロジャイネから敗走、そこにクラスター弾

ウクライナ東部ドネツク州南部の集落、ウロジャイネを防衛するロシア軍守備隊の敗北はほぼ必至だった。南北に並行して走る3本の道路沿いに数百の建物が並ぶこの集落に対し、6月上旬以来、ウクライナ海兵隊の全4個旅団を含む強力な師団規模のウクライナ軍は波状的な強襲をかけながら前進し、側面から攻撃を加えてきたからだ。

ウロジャイネからずっと南下していくと、黒海に面しロシア軍の占領下にある港湾都市マリウポリに出る。ウロジャイネは、このライン上に数珠状に連なるロシア軍の重要な拠点の1つだ。ウクライナ軍はウロジャイネの東側と西側から前進し、第37自動車化狙撃旅団を含むロシア軍守備隊をじりじりと追い詰めてきた。そして、ロシア軍守備隊に残されたウロジャイネからの退路はとうとう1本だけになった。南側に隣接するサビトネ・バジャンニャ、スタロムリニウカ両集落に抜けるT0518という道路だ。

「ウロジャイネの奪還は時間の問題だった」と独立した調査組織コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)は書いている。消耗したロシア軍守備隊は12日か13日、全面撤退もしくは部分撤退を余儀なくされることになった。ロシア兵らはT0518道路とそれに隣接する草地を白昼堂々、徒歩で退却した。

ウクライナ軍のドローンはその様子を上空から監視していた。そして砲兵部隊が照準を合わせた。あたりは血の海になった。

ウクライナ国防省が13日に公開した2本のドローン映像には、ロシア兵数十人が道路を走る様子が映っている。1本目の動画では榴弾(りゅうだん)が炸裂し、兵士らが地面に吹き飛ばされる。2本目の動画では、対人・対装甲用クラスター弾DPICM(二重用途改良型通常弾)が撃ち込まれ、退却するロシア兵の上に子弾がばらまかれる。

ロシア軍は、2022年2月にウクライナに全面侵攻した当初からクラスター弾を使用してきた。ウクライナ軍は2022年末にトルコ製クラスター弾を入手し、先ごろ北大西洋条約機構(NATO)式の155ミリ榴弾砲用に米国製M483A1型DPICMも手に入れた。

重量約47キログラムのM483A1は空中で破裂して子弾が放出される。子弾が撒かれる範囲は破裂時の高度で変わってくるが、フットボール場より広くなることもある。米陸軍の野戦教範(フィールドマニュアル)によれば、各子弾は「2.5インチ(約6.3センチメートル)超の均質圧延装甲を貫通し、(あるいは)人員を無力化できる」

つまり米国製DPICMは装甲車両にとっても危険なものであり、無防備な歩兵にとっては致死的なものになる。ウロジャイネやそこからの脱出路で何人のロシア兵が死亡したかは不明だ。数十人かもしれないし、数百人にのぼるかもしれない。いずれにせよ、ウロジャイネに現在、生存しているロシア兵がいるとすれば、それはウクライナ側の捕虜になった者だけである可能性が高い。

これには異論もある。ウクライナ側、ロシア側どちらのウォッチャーの中にもウクライナ軍がウロジャイネを解放したとみる向きがある一方、米首都ワシントンにあるシンクタンク、戦争研究所(ISW)は13日の戦況分析でこう注意を促している。「ISWはロシア軍がウロジャイネから完全に撤退したという確証を得ていない。ロシア軍は現在、少なくともこの集落の南部に陣地を保持している可能性が高い」

とはいえ、ウロジャイネ南部の陣地になお少数のロシア兵が残っていようがいまいが、この集落をめぐる戦いが近々どういう結果になるかについては争いの余地がない。ロシア側ではすでに責任の所在探しが始まっている。「ロシアの情報スペースではウロジャイネでのウクライナの前進を機に、この区域でのロシア側の士気の低さや指揮上の課題が強調されている」とISWは指摘している。

ロシアのある軍事ブロガーは、歩兵を支援する戦車を送らなかったとして第37自動車化狙撃旅団をやり玉に挙げ、旅団の部隊は酔っ払っていたとも主張している。別の軍事ブロガーは、ウクライナ南部に展開しているロシア軍の旅団や連隊の多くを統括する第58諸兵科連合軍の司令官を解任したのはロシア政府の失策だったと難じている。

ウロジャイネやその周辺で死亡したロシア兵にとっては誰に責任があろうがもはや関係ない。第58諸兵科連合軍や第37自動車化狙撃旅団、ロシア政府にはほどなくして、防御陣地を保持できると証明する新たな機会が与えられるだろう。ウクライナ軍がウロジャイネを解放すれば(まだ解放していないとしての話だが)、次に狙うのは必然的にサビトネ・バジャンニャとスタロムリニウカになる。マリウポリへの途上にあるロシア軍の次の拠点だ。
2023.08.20 19:00 | 固定リンク | 戦争

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