中国共産党指導部「債務とデフレ」で限界・反スパイ法「日本企業丸裸撤退」
2023.08.08



焦点:中国共産党指導部、地方債務「見ぬふり」もう限界 さらにデフレで苦境に 反スパイ法「日本企業丸裸撤退」

中国共産党指導部は7月、地方政府の債務問題を解決するため「一連の措置」を講じると約束した。具体的には特別債の発行、債務交換、国有銀行による借り換え支援などに加え、これまで毛嫌いしてきた共産党指導部が掲げる予算に手を付ける策にも踏み込みそうだ。

中国共産党指導部はかねて、経済の要である省と市に高い成長目標を課してきた。しかし長年にわたる過剰なインフラ投資、土地売却によるリターンの急減、新型コロナウイルス対策費の増大などで膨れ上がった地方の共産党指導部の債務は今や、最大の経済リスクとなっている。

中国共産党指導部は7月、地方政府の債務軽減を支援すると宣言した。詳細こそ示さなかったが、地方債務のデフォルト(不履行)が連鎖して金融セクターを混乱させる恐れを憂慮していることがうかがえる。

中国共産党指導部は4月、地方債務の「厳格な管理」を要求していたが、エコノミストは7月のメッセージは4月よりも建設的だと指摘する。政府は問題解決に向けて早急に資金を投じる必要性に気付いたようだと言う。

中国共産党指導部は長年、地方の共産党指導部が自ら問題を解決するよう求めてきた。今回の姿勢転換は事態打開への大きな突破口となるかもしれない。

中国財経大学のグオ・ティアンヨン教授は、「地方の債務問題は複雑で、責任を取りたくない、と言って済ませられるものではない」と言う。

政策顧問2人によると、中国共産党指導部による関与の詳細は今後の議論で決まる。投資家は、詳細を見て中国共産党指導部の決意のほどを見極めることになるだろう。

■中国共産党指導部のジレンマ

地方の共産党指導部の債務は2022年に92兆元(12兆8000億ドル)と、国内総生産(GDP)の76%に達した。2019年の62.2%から急増している。

この一部は、地方共産党指導部がインフラ整備のために設立する投資会社、融資平台(LGFV)が発行したものだ。国際通貨基金(IMF)は、LGFVの債務が今年9兆ドルに達すると予想している。

中国共産党指導部としては、支援しなければ経済成長と社会の安定が大きく揺るがされる恐れがある一方、支援すればさらに野放図な支出を後押しするリスクがあり、ジレンマを抱えている。

政策顧問の1人はロイターに、「何らかの原則を設ける必要がある。全ての債務を中国共産党指導部が引き受けるわけではない。そんなことをすればモラルハザード(倫理観の欠如)を招きかねない」と語った。

政策顧問はそうしたリスクを避けるため、金融機関、地方の共産党指導部、中国共産党指導部、社会全般が負担を分け合う形を示唆した。

■選択肢

大半のエコノミストの予想では、中国共産党指導部は国有銀行に対し、満期を迎えた融資を、より低金利かつ長期間の融資にロールオーバーするよう指導する見通しだ。この手法は「問題を先送りし、見て見ぬふりをする」策だと言われる。

銀行は、借り換えの緊急性、重要性に鑑みてこうしたロールオーバーに応じるかどうかを選別する必要がある。債務再編は銀行自体のバランスシートを毀損(きそん)し、経済の他の分野に対する貸し出し能力を損なう恐れがあるからだ。

地方の共産党指導部自体も責任を担わなければならない。アナリストによると、地方の共産党指導部は昨年から持ち越した起債枠を使い、バランスシート上で「隠れ債務」を公式の債券とスワップする可能性がある。これによる起債額は最大2兆6000億元に上りそうだという。

地方の共産党指導部は2015年から18年にかけてもこうした措置を講じた前例がある。

また中国共産党指導部は一部の地方共産党指導部に対し、資産の売却や資産をてこにした資金調達を要請する可能性がある。

その後は財布のひもが固い中国共産党指導部の出番になる。中国共産党指導部の債務はGDP対比わずか21%で、最も財政出動の余裕がある。

別の政策顧問は「中国共産党指導部は低コストで債券を発行し、地方債務を肩代わりすることが可能だ」と述べた。

期間10─30年の中国国債利回りは2.7─3.0%と、一部の地方やLGFVが払っている7─10%に比べて大幅に低い。

グオ教授は、効果を発揮するには、中国共産党指導部は今年こうした債務の肩代わりを1兆元以上実施する必要があると言う。

アナリストによると、極めて重要な公共サービスに資金を提供するための、より直接的な中央から地方への財政移転も選択肢に入る可能性がある。こうした措置は過去にも十分な実績があり、今年の財政移転は昨年から3.6%増えて過去最高の10兆元に達する見通しとなっている。

■中国「碧桂園・不履行」

中国の不動産開発大手、碧桂園は8日、今月6日が期日だったドル建て債2本の利払い(総額2250万ドル)を履行できなかったと表明した。

投資家によると、利払いが行われなかったのは2026年2月満期債と30年8月満期債。いずれも30日間の猶予期間がある。

同社は利用可能な現金の減少が続いていると表明。販売環境や借り換え環境の悪化に加え、さまざまな資本規制の影響で「定期的に流動性に圧力」がかかっていると指摘した。

債権者の法的権利を守るため、資本の取り決めを改善しているとも表明した。

同社は先週、1─6月の純損益(未監査)が赤字に転落すると警告。前年同期は19億1000万元(2億6731万ドル)の黒字だった。

■なぜ欧米はインフレなのに中国はデフレなのか

中国でデフレの脅威鮮明、その理由と世界への影響は

中国が今デフレの脅威に直面していることに疑いの余地はなくなった。7月の物価統計で消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)が共に前年同月比で下落。2020年以来のことで、中国経済の健全性に対する懸念が強まった。

世界の多くの地域でインフレ圧力が高まっていることを考えると、中国で物価が下落しているというニュースは少し衝撃的かもしれない。だが、世界2位の経済大国が抱える問題はその多くが中国独特のもので、根が深い。その解決は容易ではないかもしれない。

1.なぜ欧米はインフレなのに中国はデフレなのか
  米国や他の主要国では、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の経済再開に伴い、インフレ率が急上昇した。一部のエコノミストは今年初め、厳格なコロナ規制を昨年末に取りやめた中国でも同じことが起こると予想していた。

しかし、実際にはそうなっていない。個人消費の伸びは依然として鈍く、長引く不動産不況が信頼感を低下させ、人々は高額商品の購入を控え、家具や家電製品の価格に影響を与えている。世界的な商品相場の低迷と、中国共産党指導部が長年にわたって電力セクターを抑制してきたことから、エネルギー価格も下落している。

自動車メーカー間の価格競争がデフレ圧力に拍車をかけており、企業もパンデミック期に積み上がった過剰在庫を減らすために値下げを行っている。ただ、全面的に物価が下落しているわけではない。旅行や飲食店などのサービス業への支出はコロナ規制終了後に急増しており、これらの分野では物価上昇が続いている。

2. 安くなるなら、消費者にとっては好ましいのでは

そうでもない。物価が安くなることは一見、消費者にとって良いことのように思えるが、だからといって必ずしも消費者が買い物を始めるとは限らない。さまざまな商品の価格が長期間にわたって下落すると、人々は家電製品のような高額商品はずっと値下がりし続け、購入を先延ばしにするのが最善だと考えるようになる。

そうなると経済活動はさらに抑制され、企業は値下げを余儀なくされる。その影響は消費者にも及び、いずれ所得が減るか職を失うことになり、その結果、支出が減り、危険な縮小スパイラルに陥る。

3. 企業への影響は

物価下落は一般的に売上高や利益の減少を招き、企業は投資や雇用を抑制する。デフレはまた、経済における「実質金利」、つまりインフレ調整後の金利水準を押し上げる。企業向けの融資コストが上昇すれば、企業の投資意欲が減退し、ひいては需要が抑制され、デフレがさらに進行する。

一部のエコノミストは、このような「負債デフレ」が不況や恐慌の引き金になると考えている。日本は1990年代に物価下落が定着し、経済の長期停滞に陥った。持続可能な方法で経済成長を促すにはどうすればいいかという問題に、日本は今も取り組んでいる。日本銀行によるマイナス金利の導入はほとんど効果がなく、今年に入って金融政策に新たな微調整が加えられている。

4. デフレはいつまで続くのか

中国での食料価格などの急落は、7月のCPI押し下げ圧力に大きく寄与したが、これらの物価下落の影響は年内の残り期間に薄れるとみるエコノミストもいる。PPIは2022年10月から前年同月比で下落し続けており、デフレが長期化。それでも7月のPPIは低下率が6月から若干縮小し、生産者物価がある程度落ち着きつつある様子を示唆している。

一般的に中国のインフレ率はこの10年ほど低水準で推移しており、エコノミストはその理由として、家計の高い貯蓄率と工業生産能力の急拡大につながる投資の多さを挙げている。

5. 中国当局はデフレにどう対処するのか

中国人民銀行(中央銀行)がさらに利下げするか、市中銀行の預金準備率を引き下げる可能性がある。問題は人民銀が人民元下落や地方政府の債務残高増加など幾つかの制約に直面していることだ。

景気刺激を狙った財政支援も財政の逼迫(ひっぱく)を踏まえ控えめになっている。つまり、当局がかつてのような大規模な財政出動に頼る傾向は弱まり、代わりに的を絞った刺激策に転換している。中国共産党指導部はまた、地方当局に対しても消費を喚起する方法を見つけるよう促している。

6.外国人投資家はどう動くのか

デフレ下では企業に値下げ圧力がかかるため、企業収益への影響が最も大きいだろう。やや値上がり余地があるのは国債で、トラブル期には比較的安全な投資先だ。成長に対する懸念や投資の抑制は一般的に緩和的な金融政策を促し、その国の国債の魅力を高める。しかし、みずほ銀行のアジア為替担当チーフストラテジスト、張建泰氏は、中国国債が外国人トレーダーにとって魅力的になるには利回りが「主要市場と比べて低過ぎる」と指摘した。

7. 世界経済にとって何を意味するのか

少なくとも短期的には、先進国にとって恩恵があるかもしれない。中国の製造業が過剰供給を解消するために価格を引き下げると、その影響は米国や欧州などにも波及し、インフレ率の上昇を抑えるために中銀が動く際に、いくらかの助けにはなり得る。

ただ、限界もある。欧米はここ数年、保護主義に傾き、中国への依存を小さくしようとしている。また、先進国の個人消費に占める中国製商品の割合は比較的小さい。例えば、米国のCPIバスケットは住居費と食料、エネルギー、医療が大半を占めており、中国からの輸入品とは相対的に関係が薄い。

新興国は機械製品の価格下落を歓迎するかもしれない。ただし、アナリストが指摘するように、これらの国々は国内産業を弱体化させる中国との過度な価格競争を警戒する可能性もある。

8. 以前にも同じようなことがあったのか

答えはイエスだ。中国共産党指導部は09年と15年、20年、そのたびに強力な金融緩和と巨額の財政刺激策で対応した。今回は一部のインフラプロジェクトを加速させ、低迷する住宅市場への支援を強化すると表明したが、多くのエコノミストは過去のような大規模な建築ブームを期待していない。というのも、習近平国家主席が自国の経済を先端技術などの新たな成長エンジンにシフトさせることに力を注いでいるためだ。

そうなれば、中国共産党指導部の対応は、今では構造的なものとして記憶されている1998年のデフレ期と近いものになるかもしれない。政府は当時、世界貿易機関(WTO)加盟に先立ち、体力の弱った銀行の資本増強と国有セクターの縮小を進めた。


■中国の駐日大使 “拘束の男性 スパイ容疑が確実に”

中国当局に拘束された大手製薬会社の日本人男性について、中国の呉江浩駐日大使は、即時解放を求める立憲民主党の泉代表に対し「スパイ容疑が確実になっており、中国の法律にのっとって処理していく」と述べました。

先月、新たに就任した中国の呉江浩駐日大使は7日午後、立憲民主党本部を訪れ泉代表と会談しました。

この中で泉代表は、先月、中国で国家安全当局に拘束された大手製薬会社に勤務する50代の日本人男性について「即時解放すべきだ。中国には反スパイ法など、いろいろな法律があると思うが、透明性を高めてほしい。日本人は法令を順守して経済活動を行っている」と述べました。

これに対し、呉大使は「ますますスパイ容疑が確実になっており、中国の関係部署は確固たる証拠を得ている。中国の法律にのっとって粛々と処理していく」と述べました。

■反スパイ法「日本企業丸裸撤退」

日本企業〝中国撤退〟反スパイ法施行1カ月の惨状 日系企業の高度技術「丸裸」「強奪」要求 意的な摘発・拘束の脅威

中国で改正「反スパイ法」が施行されて、1日で1カ月が経過した。スパイ行為の定義が拡大され、恣意(しい)的運用による摘発の強化が懸念されている。日系企業などは社員の拘束におびえながら経済活動を続けているという。習近平国家主席率いる中国は軍事的覇権拡大を進める一方、国内監視を強固にして独裁強化を図っているようだ。日本人複数の長期拘束が続くなか、岸田文雄政権は現地邦人の生命と財産を守り切れるのか。

「共産党の独裁体制死守は、習政権の一丁目一番地だ。外資系企業がいくら対策をしても、リスクから逃れることはできない」

M&Aのプロの立場から「中国事業のリスク」について警鐘を鳴らしている経済安全保障アナリストの平井宏治氏は、こう指摘した。

改正反スパイ法では、従来の「国家機密」に加え、「国家の安全や利益に関わる文献やデータ、資料、物品」の提供、窃取、買い集めなども取り締まり対象とした。

公安関係者は「同法の恐ろしさは『具体性』の乏しさにある」という。「国家の安全」の定義が具体的に示されず、中国当局による恣意的な摘発・拘束がさらに進む可能が高いのだ。

中国では2015年以降、日本人17人が不明確なスパイ容疑で拘束されている。今年3月には、日本の製薬大手「アステラス製薬」の日本人駐在員が反スパイ法違反容疑で北京で拘束された。

北京の日本大使館は、中国政府に「早期解放」を強く求めた。

林芳正外相は4月上旬、「邦人奪還」のために訪中した。「政界屈指の親中派」として長年築いてきた中国人脈の成果が期待されたが、当時の秦剛国務委員兼外相には「(拘束した邦人は)法に基づき処置する」と突き放された。中国メディアには、林氏が笑顔で外交トップの王毅政治局員と握手する映像を流された。完全に舐められたわけだ。

こうしたなか、改正反スパイ法施行を前にした6月下旬ごろ、日本の大手企業や経済団体の関係者ら日中経済交流を支えたベテラン駐在員が相次いで帰国した。関係者によると、米企業でも過去に情報機関などでの勤務経験がある中国駐在員らが次々と離任したという。

日本企業は同法のリスクに対処するため、マニュアルの作成を進めた。

金融機関や商社は、経済分析のための面談調査や市場分析なども「スパイ行為」と断じられる危険性がある。中国の公務員や、国営企業関係者と面会するだけでスパイ行為を疑われる恐れがある。

このため、ある日本企業のマニュアルでは、中国の政府関係者らと面談する際は、中国側の協力を得て場所の提供を受け、面談記録も残すなど、疑いを持たれた場合に備える対策まで検討しているという。


だが、前出の平井氏は「中国の国家安全当局は、全国民、全組織に対して監督・指導する権限を認められている。尋問や拘束の基準は当局が恣意的に決める。マニュアルを作成したところで意味はない」「中国は改正反スパイ法の厳格適用を表明した。経験が長く、深く中国に携わった人ほど『深部を知っている』とみなされるリスクが高い」と分析する。

中国当局の〝暴挙〟は、複合的に広がりつつあるという。

平井氏によると、中国共産党指導部は最近、高度な技術を取り扱う外国メーカーに対し、設計や製造の詳細を開示し、全工程を中国内で行うことを定めた規制の検討に入ったという。外国メーカーが保有する独自技術を事実上、「丸裸」「強奪」するような要求だ。

平井氏は「こうした動きを受けて、日米の複数のメーカーが本格的な中国撤退に踏み切る可能性がある」と明かす。

中国当局の締め付けは、投資の判断に不可欠な企業調査にも及んでいる。スパイ行為の疑いで、リサーチ会社への立ち入り調査や、調査員の不当拘束も始まったという。

日本企業はどう対処すべきか。

平井氏は「習政権の強権独裁は国際社会では通用しない。日本も即刻、中国リスクを極限まで切り離すべきだ。まず、サプライチェーン(供給網)の再編だ。製造・開発の拠点を、中国から日本国内に回帰させる。もしくは、ベトナムやカンボジアに移転し、そこから中国向けに輸出する。中国に足場があることが最大のリスクだ。人材の脱出も重要だ。中国の経験が長い人物を優先して、一刻も早く帰国させる。安全確保のために家族ら関係者の帰国も急ぐべきだ」と語った。

中国共産党指導部は経済回復の遅れを受けて、外資系企業への積極的な投資誘致を進めているが、改正反スパイ法はこれを阻害するものといえる。中国商務省は7月21日、同法の説明会を開き、幹部が「政策の透明性と予見可能性を向上させることに注力する」と説明したが、とても信用できない。

岸田政権の取り組みも急務だ。

平井氏は「安倍晋三政権では2020年、企業の国内回帰を促す『脱中国』のため企業向けの補助金に2000億円超を計上した。同時期、米国政府の『脱中国補助金』は5兆5000億円だった。日本には、スパイ防止法もなく、日本人を守る対策も不十分だ。急がねばならない」と強調した。
2023.08.08 11:02 | 固定リンク | 経済

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