バイデン氏「中国と内通している政治家を排除しろ」
2023.08.14



異例の台湾訪問 麻生副総裁「戦う覚悟」発言の真意 中国の反発も“狙い通り” ワシントン・ポスト「中国と内通している政治家を排除しろ」

「ワシントン・ポストの報道は、米国の岸田首相に対する警告だ。米国と機密情報共有を可能にするサイバー・セキュリティーの強化とともに、『中国への機密情報漏洩を遮断しろ=中国と内通している政治家を排除しろ』という要求だ」

3日間にわたり台湾を訪問した自民党の麻生太郎副総裁。各国の政治家や有識者を相手にした講演にのぞむと、中国を念頭に「戦う覚悟を持つことが抑止力になる」と訴えた。この発言が中国の激しい反発を招くなど波紋を呼んでいる。しかし、こうした反応も“狙い通りだ”と、麻生氏周辺は強調する。
麻生氏はなぜ、このような発言をしたのか。同行した記者が、その真意に迫った。

■異例の訪台の背景 麻生氏のこだわり

自民党の麻生副総裁は、8月7日から台湾を訪問した。自民党によると、党のNO.2である副総裁が訪問するのは、日本が台湾と断交した1972年以降初めてだという。
断交後では、党の最高位となる麻生副総裁の異例の訪台。その背景について、自民党関係者は次のように明かしている。

「麻生氏は、台湾へのこだわりが昔から強い。本当は、もっと早い段階に行きたかったくらいだ」

1972年の日中国交正常化に伴い、日本との国交を断つこととなった台湾。政府間交流には制限があるため、自民党青年局が日台外交の主軸となってきた。青年局長の経験もある麻生氏は、長期的に台湾との人脈を築いてきており、副総裁になってからも訪台を模索していたことが、今回の訪問が実現した背景にある。

もう一つ背景にあるのが、緊迫する東アジアの安全保障環境だ。以前から麻生氏は、軍事的圧力を強める中国を念頭に、台湾海峡での戦争、いわゆる「台湾有事」が始まった場合「日本でも戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と公言してきた。台湾海峡の安全保障環境について憂慮しているのだ。
そして、麻生氏に近い別の関係者は、訪台を前に、こう強調した。

「麻生氏が台湾に行くこと自体が、『抑止力』として中国に対するメッセージとなる」

■抑止力の強化「戦う覚悟」発言の経緯

「今ほど、日本・台湾・アメリカをはじめとした有志の国に、強い抑止力を機能させる覚悟が求められている。こんな時代は無いのではないか。『戦う覚悟』です」(麻生副総裁)

8日、台北市内で開かれた国際フォーラムで講演した麻生氏は、対中国を念頭にこう力強く訴えた。この発言に対して、中国側はすぐさま反発。国内でも、立憲民主党の岡田克也幹事長が同日の記者会見で「台湾有事になったとしてもアメリカははっきりと軍事介入するとは言っていない。非常に軽率だ」と批判するなど、波紋を呼んだ。

なぜ、麻生氏は中国側の反発が予想される中、あのような発言をしたのか。その経緯について、麻生氏の訪台に同行した鈴木馨祐元外務副大臣が、9日、BSフジの番組内で解説した。

「今回、実は麻生太郎衆議院議員個人の発言ということではなくて、自民党副総裁という立場での講演。当然、これは政府の内部も含めて、調整をした結果のことですから。少なくともこのラインというのは『日本政府としてのライン』」(鈴木元外務副大臣)

また、鈴木氏は「岸田総理と極めて密に連携をした。今回もいろいろ訪問前にやっている」とも明らかにしている。

しかし、ある政府関係者は、「戦う覚悟」は政府として公式にすり合わせたラインではないと明言した。さらに、麻生氏の発言を聞いた外務省高官は「『戦う覚悟』といっても、色んな戦い方がある」と火消しに走った。言葉の解釈をうやむやにすることで、事態の鎮静化を図りたい意図が透けて見える。

いずれにせよ、麻生氏は「戦う覚悟」という言葉を使うことを、事前に周辺には伝えていた。「岸田総理の口から言えないからこそ、麻生氏自身の思い入れが強い言葉だった」と、周辺は語っている。

■中国が「台湾有事」で日米壊滅計画 外事警察関係者、米は岸田首相に「中国と内通している政治家を排除しろ」と要求

ジョー・バイデン米大統領が10日、西部ユタ州の選挙イベントで語った「中国は時限爆弾だ」という発言が注目されている。習近平国家主席率いる中国経済への深刻な懸念を伝えたとされる。中国国家外貨管理局も同時期、外国企業による4~6月期の対中直接投資は49億ドル(約7100億円)で、前年同期比87・1%減と過去最大となったと発表した。ただ、岸田文雄政権の動向も含めて、別の見方をする情報当局関係者もいる。ジャーナリスト、加賀孝英氏が最新情報に迫った。

「悪い人たち(=習主席以下、中国共産党幹部)が問題を抱えると、悪いことをする」

バイデン氏は10日の選挙イベントで、冒頭の「時限爆弾」発言に続き、中国をこう激しく批判した。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は翌日、「中国国内のあつれきが世界に及ぼす影響を指摘したものだ」と説明した。だが、バイデン氏の本音はまったく違う。

「バイデン氏は、中国のサイバー攻撃などに、ブチ切れている。米国は、中国による『台湾侵攻極秘作戦計画』の詳細を握っている。第1戦闘作戦がサイバー攻撃だ。次が武力総攻撃だ。米中はすでにサイバー戦闘状態に突入している」

中国のサイバー部隊について、防衛省関係者は「最強だ。総員17万人超。中核は約3万人の攻撃専門部隊だ。さらに、政府が司令塔となる民間サイバー部隊があり、日本への攻撃も行っている。中国は『台湾有事』の際、台湾と日本、米国をサイバー攻撃で壊滅状態にする計画を立てている」と語った。

対立激化は、次の事実で明らかだ。

①7月中旬、中国当局とつながりのあるハッカー集団が、米国の国務、商務両省を含む約25組織のメールアカウントに不正侵入していたことが発覚した。ジーナ・レモンド商務長官や、ニコラス・バーンズ駐中米国大使、ダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)など、対中政策要人が標的とされていた。

②7月29日、米紙ニューヨーク・タイムズが、米領グアムの米軍基地を支える水道、通信など基幹インフラ深部にマルウェアが仕掛けられていたと報じた。米政府は、中国のハッカー集団の仕業と断定し、撤去に乗り出した。「台湾有事」直前に起動し、米軍の出動を妨害する目的とみられる。

③8月初め、米連邦捜査局(FBI)は、中国の情報機関に軍事機密を提供した疑いで、海軍兵士2人(中国系米国人)を逮捕した。漏洩(ろうえい)した情報は、米海軍艦船の設計図や、兵器システム、「台湾有事」を想定した大規模軍事演習の作戦計画、在沖縄米軍基地のレーダーシステムの電気系統図や設計図…などだった。

こうしたなか、米紙ワシントン・ポスト(電子版)が7日、米国が2020年以降、中国軍のハッカーが日本の防衛機密を扱うネットワークに侵入していたことを複数回通報・警告していたと報道した。

米国側は「近年で最も深刻なハッキング」と日本側に指摘したというが、日本側は情報漏洩を否定している。

何が起きていたのか。この連載「スクープ最前線」は次の事件を報告している。

□20年8月、防衛省は「中国軍が海上民兵の乗る漁船1万隻に『(沖縄県)尖閣諸島へ出撃せよ』と命令を出したという極秘情報を入手した。急遽(きゅうきょ)、米国と協議し、周辺海域で日米軍事演習を実施して、尖閣強奪を阻止した。

□21年4月、警視庁公安部は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など約200の団体・組織がサイバー攻撃を受けた事件で、中国人2人を書類送検した。バックに中国軍サイバー部隊「61419部隊」がいた。

□21年12月、共同通信が「台湾有事で(日米)共同作戦計画の原案策定」というスクープ記事を報じた。台湾有事の際、「米軍は南西諸島に臨時拠点を築く」というものだが、米国は「日本の政府関係者が漏らした」とみている。

前出の外事警察関係者は「ワシントン・ポストの報道は、米国の岸田首相に対する警告だ。米国と機密情報共有を可能にするサイバー・セキュリティーの強化とともに、『中国への機密情報漏洩を遮断しろ=中国と内通している政治家を排除しろ』という要求だ」と語った。

さらに、中国軍が暴走する危険がある。

「軍強硬派の一部が、習氏に『台湾侵攻の早期決断』を進言している。自民党の麻生太郎副総裁が8日、台湾の講演で、台湾有事を念頭に『日本、台湾、米国をはじめとした有志国には戦う覚悟が求められている』『いざとなったら台湾防衛のために防衛力を使う』と語り、中国側を激怒させた」

事態は深刻だ。岸田首相の「国家と国民を守る」断固たる決意が求められている。機密情報漏洩の放置は同盟国への裏切りだ。米国は、岸田首相の覚悟、決意を疑っている。




■台湾の次の総統が重要 与党候補に注文も

「戦う覚悟」発言の同日、蔡英文総統と会談した麻生氏は、記者団に次のように話した。

「来年の1月に行われる(台湾総統選の)選挙の結果は、日本にとっても極めて大きな影響が出ますから、そういった意味で『次の人を育ててもらいたい』と蔡英文総統に申し上げました」(麻生副総裁)

会談の出席者によると、麻生氏は「来年5月に迫る蔡英文総統の任期中は、台湾有事が起こる可能性が低い」と見ていて、次の総統が台湾有事を起こさせないためには重要であると訴えたというのだ。

また、来年の総統選に立候補する与党民進党の頼清徳副総統との昼食会の冒頭、麻生氏はこう注文をつけた。

「選挙で選ばれて台湾の総統となる方の、この種(台湾有事)の問題に対する見識、いざとなった時に“台湾政府が持っている力”を台湾の自主防衛のために、きっちり使うという決意・覚悟というものが、我々の最大の関心です。」(麻生副総裁)

その後の昼食会の中で、麻生氏と頼氏は、台湾有事が起きた際の対応について認識をすり合わせた。初対面だった2人は「抑止力」を機能させるための議論を深めた。

■中国「内省干渉」と反発も 麻生氏周辺“中国の反応は狙い通り”

9日、在日中国大使館は「身の程知らずで、でたらめを言っている」と、麻生氏の発言に激しく反発した。加えて、こう牽制している。

「日本の一部の人間が執拗に中国の内政と日本の安全保障を結びつけることは、日本を誤った道に連れ込むことになる」

中国外務省も「台湾海峡の緊迫した状況を誇張し、対立をあおり、中国の内政に乱暴に干渉した」と、同様に批判を強めた。

一方で、“狙い通りの効果が出ている”と麻生氏周辺は強調する。

「中国が反応しているということは『抑止力』になっているということだ。今回の麻生氏の『戦う覚悟』発言で台湾での戦争リスクは下がる」

また、麻生氏自身も講演でこう主張している。

「台湾海峡の安定のために、それ(防衛力)を使うという明確な意思を相手に伝える。それが『抑止力』になる」(麻生副総裁)

「伝える」という意味では、麻生氏の発言は成功したのかもしれない。しかし、中国に一定の刺激を与えたことで「抑止力」に繋がるのかは、いまだ不透明だ。

麻生氏周辺も「2027年の夏までに、台湾有事が起こる可能性がある」と警戒する。

他方、日中両国は、9月上旬のASEAN関連首脳会議に合わせ、岸田総理と中国の李強首相との首脳会談の調整に入った。対話再開に向けた中国側の“シグナル”とも受け取れる。習近平国家主席との会談は予定されていないが、双方の外交当局が模索を続けている最中だ。

「戦う覚悟」発言が、日本・中国・台湾、この3者の関係にどう変化をもたらすのか。揺れ動く台湾をめぐる情勢は、今後も目が離せない。
2023.08.14 10:35 | 固定リンク | 戦争

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