この世は「幽霊のような遠隔作用」
2024.01.05
「幽霊のような遠隔作用」の現象(もつれ)を利用したのが、量子コンピュータor量子情報 アインシュタインが批判したが現実となってしまった

量子力学の概念

宇宙は「もつれ」で出来ているというのは、量子力学における奇妙な現象の一つである。量子もつれとは、相関を持った二つの量子が、どんなに離れていても瞬時に影響し合うということである。この現象は、因果律を破るように見えるため、アインシュタインは「幽霊のような遠隔作用」と呼んで否定した。しかし、その後の実験や理論によって、量子もつれは実在することが確認された。量子もつれは、宇宙の基本的な性質を示すものであり、量子情報や量子コンピュータなどの応用分野にも重要な役割を果たす。本論文では、量子もつれの歴史的な発展と現代的な意義について概説する。

量子もつれの発見と論争

量子もつれの概念は、1935年にアインシュタイン、ポドルスキー、ローゼン(EPR)によって提唱された。EPRは、量子力学が物理現象を完全に記述できないと主張し、隠れた変数という概念を導入した。隠れた変数とは、量子力学では観測できないが、物理的な実在を持つと仮定される変数である。EPRは、隠れた変数を用いて、量子もつれという現象を説明しようとした。

量子もつれとは、例えば、二つの電子が相互作用した後に離れていくとき、それぞれのスピンが反対の向きになるということである。このとき、一方の電子のスピンを測定すれば、もう一方の電子のスピンも分かるということになる。しかし、量子力学では、測定するまではスピンは確定しておらず、確率的に決まるとされる。EPRは、これは不合理であり、測定する前にもスピンは決まっていると考えた。つまり、隠れた変数が存在するとしたのである。EPRは、このようにして、量子力学に対するパラドックスを提示した。

しかし、EPRの主張に対して、物理学者たちは反論した。特に、1948年にボームが提案した実験をもとに、1964年にベルが導いた不等式は、量子もつれの現象を検証するための重要な基準となった。ベルの不等式とは、隠れた変数が存在すると仮定したときに成り立つべき関係式である。

ベルは、この不等式が量子力学の予測と矛盾することを示した。つまり、隠れた変数が存在するとすると、量子もつれの現象は説明できないということである。ベルの不等式は、その後の実験によって、何度も破られた。これは、量子もつれが実在することを示す強力な証拠となった。量子もつれは、隠れた変数ではなく、量子力学の本質的な性質として受け入れられるようになった。

量子もつれの理解と応用

量子もつれの現象は、物理学者たちにとって、挑戦と魅力の対象であった。量子もつれは、因果律や局所性という古典的な原理に反するように見えるが、それは本当にそうなのだろうか?

量子もつれは、どのようにして生じるのだろうか?

量子もつれは、どのようにして検出や操作ができるのだろうか?

量子もつれは、どのようにして宇宙の構造や情報の伝達に影響するのだろうか?

量子もつれは、どのようにして新しい技術や応用につながるのだろうか?

これらの問いに答えるために、物理学者たちは、さまざまな理論や実験を展開してきた。その中で、特に注目されるのが、量子情報や量子コンピュータという分野である。

量子情報とは、量子もつれや量子重ね合わせという現象を利用して、情報の符号化や処理や伝送を行うという分野である。

量子情報では、量子ビットという単位を用いる。量子ビットとは、0と1の状態を重ね合わせた量子状態であり、測定するまでは0と1の確率的な重ね付けで表される。量子ビットは、量子もつれを利用して、他の量子ビットと相関を持つことができる。このようにして、量子情報では、古典的な情報にはない特徴や能力を持つことができる。

例えば、量子暗号という技術では、量子もつれを用いて、通信の安全性や秘匿性を高めることができる。 また、量子テレポーテーションという技術では、量子もつれを用いて、量子状態を別の場所に転送することができる。

量子コンピュータとは、量子情報を用いて、計算を行うという分野である。量子コンピュータでは、量子ビットを用いて、計算の入力や出力や中間過程を表す。量子コンピュータでは、量子もつれや量子重ね合わせを利用して、並列的に計算を行うことができる。このようにして、量子コンピュータでは、古典的なコンピュータにはない特徴や能力を持つことができる。

例えば、ショアのアルゴリズムという技術では、量子コンピュータを用いて、素因数分解という問題を効率的に解くことができる。 また、グローバーのアルゴリズムという技術では、量子コンピュータを用いて、探索という問題を効率的に解くことができる。

■アインシュタインが放った量子力学への疑問…「量子もつれ」の謎を解く物語

量子力学は、物理現象の最小のスケールで起こる法則を記述する理論である。量子力学では、粒子や波動の性質を持つ量子と呼ばれる基本的な存在が、確率的に振る舞うことが知られている。量子力学の予測は、実験によって高い精度で検証されており、現代の科学技術に不可欠な理論である。

しかし、量子力学には、古典的な物理学とは根本的に異なる現象が多く存在する。その中でも、特に注目されるのが、**非局所性**と呼ばれる性質である。非局所性とは、空間的に離れた量子同士が、相互に影響を及ぼすことができるという現象である。非局所性は、アインシュタインやベルなどの物理学者によって、量子力学のパラドックスとして指摘された。非局所性は、因果律や相対性理論と矛盾するように見えるが、実はそうではないことが、理論的にも実験的にも示されている。

本論文では、非局所性の概念と歴史を概説し、その重要性と意味を解説する。また、非局所性を利用した量子情報技術や量子基礎論の最新の研究動向について紹介する。最後に、非局所性の未解決の問題や将来の展望について議論する。本論文の目的は、非局所性が量子力学の本質的な特徴であり、物理学の基礎を揺るがす可能性を持つことを示すことである。

■「隠れた変数」理論とは?

 一人の天才の独創によって誕生した相対論に対し、量子論は、多数の物理学者たちの努力によって構築されてきた。数十年におよぶ精緻化のプロセスで、彼らを最も悩ませた奇妙な現象=「量子もつれ」。

 たとえ100億km離れていても瞬時に情報が伝わる、すなわち、因果律を破るようにみえる謎の量子状態は、どんな論争を経て、理解されてきたのか。EPRパラドックス、隠れた変数、ベルの不等式、局所性と非局所性、そして量子の実在をめぐる議論……。

 当事者たちの論文や書簡、公の場での発言、討論などを渉猟し尽くし、8年超の歳月をかけて気鋭の科学ジャーナリストがリアルに再現した本『宇宙は「もつれ」でできている』。これが物理学史上最大のドラマだ!

■1世紀におよぶ量子力学構築の物語

 『宇宙は「もつれ」でできている』の最大の魅力は、数式をまったく使うことなく、量子力学の構築に携わった物理学者たちがどんな考えやきっかけからどのような着想を得て、そしてどんな議論を通じてこの理論を精緻化していったかを、個々の人物のエピソードをふんだんに交えつつ、巧みに描写している点にある。

 量子力学は、原子や原子核、素粒子から、広大な宇宙にいたるまで、その性質とふるまいを理解するためになくてはならない存在だが、たった一人の独創によって誕生した相対性理論とは対照的に、一夜にして生まれたものではない。

 数多くの物理学者たちが取り組んだ結果、個々の科学者が打ち出した理論がすべて相互に関係していることが判明したのである。この驚くべき科学史上の紆余曲折について、『宇宙は「もつれ」でできている』は丹念に順を追って説明している。

 量子力学の完成は必然的に、彼ら当時の物理学者たちが互いにコミュニケーションを取り合わないかぎり、ありえなかった。

 アインシュタインやボーア、ハイゼンベルク、シュレーディンガー、パウリ、ボーム、ディラックら、錚々(そうそう)たる物理学者たちが直接会って会話をしたり、手紙のやり取り(当時は電子メールなどあろうはずがない! )をしたりすることで侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が闘わされ、世紀の初頭から約30年の歳月をかけて、1930年代に量子力学が完成したのである。

 『宇宙は「もつれ」でできている』の著者であるルイーザ・ギルダーは、長年にわたって彼らが交わしたさまざまな形によるコミュニケーションを、あたかも彼女自身が直接、見聞したかのような鮮やかな“口調”で語っている。

 本書の執筆にあたり、ギルダーは8年半もの歳月をかけて、先人たちが執筆した論文や書簡、公の場での発言や討論の記録などを渉猟したという。

 史実に裏打ちされた再現ドラマは実にヴィヴィッドに描かれており、時に激しく、時に哀感をもって語られる物理学者たちのやりとりに、読者は生々しささえ感じることだろう。

 量子力学誕生の舞台となった当時のヨーロッパは、ナチスドイツの台頭に伴って風雲急を告げる時代でもあった。純粋に科学だけを追究できない難しい時代の空気を追体験することもできる本書からは、理論物理学者である私自身、初めて知るエピソードが多く、大いに興味をそそられた。

 ルイーザ・ギルダーは、2000年にアメリカの名門・ダートマス大学を卒業した若い科学ジャーナリストだが、描写が実に巧妙で、往時の物理学者たちの会話を見事に再現している。

 存命の科学者たちへのインタビューも含め、20世紀初頭からの約1世紀におよぶ量子力学構築の物語を、まるで現場に居合わせているかのような迫力で体感させてくれる。その一端をご紹介しよう。

■大きな論争の火種となった難問

 アルベルト・アインシュタインは「神はサイコロを振らない」と言って、量子力学を受け入れようとしなかったことで有名だ。

 彼は量子力学が「不完全な理論」であると主張したが、ニールス・ボーアは徹頭徹尾、量子力学を支持し、両者は互いに自身の主張を譲ろうとはしなかった。アインシュタインは巧妙な思考実験を思いつき、ある物理学会(ソルヴェイ会議)でボーアにそれを披露している。

 さすがのボーアも「うーん」とうなってしまったが、「もしアインシュタインの主張が正しいなら、物理学はもうおしまいだ」と考えて、なんとしても量子力学を擁護しようと試みた。

 その場ですぐには反論できなかった彼だが、翌日になって(前夜はおそらく、一睡もしなかったことだろう)、論敵の「一般相対性理論」を逆手に取り、こんどはアインシュタインをぎゃふんと言わせてみせたのだった。ギルダーは『宇宙は「もつれ」でできている』で、彼らの“論争”を間近に見ていたような鮮やかな描写で紹介している。

 ギルダーはまた、ドイツでナチスが台頭し、ヒトラーが実権を握るようになって以降の、優秀なユダヤ人物理学者たちが散り散りになっていく姿を哀感を込めて描写している。

 その象徴が、ノーベル賞こそ受賞しなかったものの、当時を代表する優秀なユダヤ人物理学者だったエーレンフェストを襲った悲劇である。障害のある息子とナチスの非道な政策の狭間でついに命を落とす彼の末期について、私は本書で初めて知った。

 ギルダーが描く量子力学の発展史のなかで、とりわけ重要な役割を果たすのが「量子もつれ」という概念である。これもまた、アインシュタインとボーアの間で大きな論争の火種となった難問だ。本書の理解を促すために、ここでかんたんに「量子もつれ」について解説しておこう。

 量子力学が一応の完成を見たとされる1930年からわずか5年後の1935年、「EPR論文」とよばれる有名な論文が発表されている。それは、「量子もつれ」を用いて、量子力学が「不完全な理論」であると指摘するものだった。

 EPRとは、この論文の三人の共同執筆者であるアインシュタイン(Einstein)、ポドルスキー(Podolsky)、ローゼン(Rosen)の頭文字をとったもので、その内容からしばしば「EPRパラドックス」ともよばれている。

 「量子」とは、ときに“波”のごとくふるまったり、ときに“粒子”のごとくふるまったりする物理的な「実体」で、光子や電子が典型的な量子である。一般に、量子は内部構造をもたないが、エネルギーや運動量、スピン(自転)などの物理量を有している。

 二つの量子のあいだでいったん相互作用が生じると、その二つの量子は「相関」をもつと言われる。相関をもった二つの量子がどんなに離れていっても――たとえ互いに100兆km離れても――、その相関性は完全に保たれる。

 二つのうち、一方の量子の物理状態(たとえばスピン)だけを実際に測定器を使って測定し、その値をはっきりと確定してしまうと、その瞬間(同時に、すなわちゼロ秒間で! )、100兆kmのはるか彼方にあるもう一方の量子の物理状態が、いっさい測定することなく自動的に決定してしまうのである。

 このような意味で、二つの量子の間の相関性は「量子のもつれ」とよばれるようになった(名付け親はシュレーディンガー)。

 EPR論文が提起したのは、100兆kmも離れた二つの量子の相関関係は崩れることなく、完全に保たれることに対しての疑問であった。

■幽霊のしわざ!? 

 話を簡素化するために、ここでは二つの量子に「二つの電子」を選ぶ。

 電子にもまた内部構造がなく、粒子としてふるまうときは点のごとくふるまうのだが、スピンしている。電子は2回転して初めて元の状態に戻るような量子であるため、1回転では「半分」まで戻るという意味で「スピン1/2」とよばれている。

 右ネジを右回りに回すと前進し、左回りに回すと後進するように、スピン1/2の電子の「自転軸」には「上向き」と「下向き」の二つの方向がある(前者を「スピン・アップ」、後者を「スピン・ダウン」とよぶことにする)。

 実際に、相関をもっていて100兆km離れた電子Aと電子Bとからなる系に測定器をかけて、それぞれの電子の状態を測定してみるとどうなるだろうか。

 たとえば、測定器を電子Aに向けた結果、電子Aのスピンがアップであると測定されたとする。電子Aがスピン・アップと観測されたその瞬間(そう、まさにその瞬間、ゼロ秒間で! )、100兆km離れた場所にある電子Bのスピンは自動的に(観測することなしに! )スピン・ダウンに決定する。相関をもつ(つまり、もつれた)二つの電子の合計スピンは、必ずゼロにならなければならないからだ。

 では、100兆km離れたところにある電子Bは、いったいどうやって電子Aのスピンが上向き(スピン・アップ)であることを知ったのか?
 
 アインシュタインの特殊相対性理論によれば、信号伝達の最高速度は光の速度=秒速30万kmである。電子Aの測定結果が、光速度で100兆km離れた電子Bに到達するまでに要する時間は3.3億秒(約10年)であり、とても「瞬時」とは言えない。観測によって実際に現れる電子Aのスピンの状態が瞬時に電子Bに到達することは、明らかに特殊相対性理論に違反している。

 それにもかかわらず、電子Aの測定結果が瞬時に(測定することなく)電子Bのスピンの状態を完全に決定してしまうということは、電子Aを測定する以前に(電子Aのスピンの状態いかんにかかわらず)、電子Bのスピンの状態がすでに「下向き」に決まっていたということにはならないか?
 
 逆もまたしかりで、もし電子Aのスピン状態を測定した結果が「下向き(スピン・ダウン)」であったなら、その瞬間、100兆km離れたところにある電子Bのスピン状態は、なんの測定もなしに「上向き(スピン・アップ)」となる。やはり、電子Aに測定操作を施す以前に、電子Bのスピン状態はすでに決まっていたと結論せざるを得ない。

 アインシュタインは、あたかも因果律を破るかのようなこの現象を“幽霊”による遠隔作用であると非難し、こうした不条理な結論をもたらす量子力学を「不完全な理論」であると批判したのである。

 この問題を解決するためにアインシュタインやその他の高名な物理学者たちが持ち出したのが、「隠れた変数」理論だった。

 量子力学は、ハイゼンベルクの「不確定性原理」等によって、実際に測定しても量子の測定値(物理量)をはっきりと決めることができないが、相関している二つの電子(合計スピンがゼロ)の場合には、一方の電子のスピンを正確に測定すると、もう一方の電子のスピン状態が測定なしに正確に決まってしまう。

 「隠れた変数」理論とは、それがどんなものであるかは具体的にわからないものの、「隠れた変数」を用いることで不確定性原理による測定値の「あいまいさ」が消えてしまい、すべては古典物理学のように(測定器による測定誤差を除けば)測定値にはなんのあいまいさも残らず、明瞭に決定できる「決定論」に帰着できるというものだ。

 つまり、「隠れた変数」によって、「EPRパラドックス」はパラドックスではなくなるというのである。この「隠れた変数」理論は、デヴィッド・ボームを虜にした。『宇宙は「もつれ」でできている』でギルダーが詳しく紹介しているように、ボームは1980年代まで、執拗にこの理論に固執することになる。

■すべては「非局所的」に起こる

 一方、物語の転換点が、1964年に訪れる。北アイルランド出身の物理学者、ジョン・ベルは当時、EPR論文にすっかりとりつかれ、夢中になっていた。ベルは当初、ボームの「隠れた変数」理論に大きな関心を寄せていたが、ある日、自ら「思考実験」を思いついたのである。

 彼は、二つの粒子間の「相関性」について深く考え、EPR論文が理論を「局所的」に考えていることに気づいた。局所的とは、「情報が部分から部分へと伝わる」という意味である。

 ベルは、二つの相関している電子が100兆kmも離れているのに、一方の電子の測定結果が瞬時にもう一方の電子の状態に影響を及ぼすということは、二つの電子の相関関係は局所的ではなく、「分離不可能」な一つの系(そう、全体で一つ! )を成していて、その系の中で起こることは部分から部分へと伝わるのではなく、系全体に瞬時に影響を及ぼすと考えたのだ。

 すなわち、すべては系内の全範囲にわたって「非局所的」に起こるのだ、と。

 「EPR論文」が示す二つの相関した電子は、たとえ100兆km離れていても一つの系内に収まっており、測定結果は系全体に非局所的に及ぶ。そこには、信号が伝わるという現象はいっさい起きていない。なぜ信号なしで情報が伝わるのか? それは、系内の粒子(量子)たちが「もつれて」いるから――。

 もつれた粒子たちからなる一つの系は、「部分」に分けることができず、したがって「部分から部分に伝わる」ような局所的な現象は起こらない。「非局所性」と「分離不可能性」が一致しているのである。ジョン・ベルは、もつれた二つの量子の相関性の強さから、ある「不等式」を数学的に導き出し、それはやがて「ベルの不等式」とよばれるようになった。

 その着想のもととなったのが、彼の同僚のラインホルト・ベルトマンの履く、左右で色の異なる靴下だった(このユーモラスなエピソードの顛末も『宇宙は「もつれ」でできている』で詳しく語られている)。

 ベルの不等式が成り立てば「隠れた変数」の必要性が生じ、「非局所性」や「分離不可能性」は現れない。その場合には、系の部分部分を考えねばならず(局所的)、すべては決定論に従うこととなって、量子力学は不完全な理論となってしまう。一方、ベルの不等式が成立しなければ、すべては量子力学が主張するとおりの結果が得られる――。

 1970年代以降、このベルの不等式を実験的に検証する試みが多くなされ、1980年代に入ってようやく、ある決定的な実験事実が発表されることになる。それは、ベルの不等式が成立しない(破れる)ということであった。

 その結果、量子力学が完全に成り立ち、晴れてその正当性が認められることになったのだが、時すでに遅く、あれほど「量子力学は不完全であり、神はサイコロを振らない」と主張していたアインシュタインは、すでに他界していた。草葉の陰で、彼はどう思っていることだろう。

 量子力学の理論としての正当性に難問を投げかけ、やがてその正当性を明確に示すことにつながった「量子もつれ」(Quantum Entanglement)。その奇妙でふしぎな現象は、アインシュタインやボーアをはじめとするあまたの物理学者たちの頭を悩ませ、時に人間関係をももつれさせながら、量子論の精緻化に貢献してきた。ギルダーが見事に解きほぐす「もつれの物語」を、ぜひ堪能していただきたい。

■宇宙は「もつれ」で出来ている

量子力学では、空間的に離れた二つ以上の量子が、互いに関連付けられた状態になることがあります。この現象を「もつれ」と呼びます。もつれた量子は、一方の量子の状態を観測すると、他方の量子の状態も即座に決まるという不思議な性質を持ちます。この性質は、非局所性と呼ばれ、因果律や相対性理論と矛盾しないことが示されています。

もつれは、原子や分子などの微小なスケールで起こる現象と考えられてきましたが、近年の研究では、より大きなスケールでのもつれの存在も示唆されています。例えば、ダイヤモンドの結晶や超伝導体などの物質や、光の粒子であるフォトンや重力波などの場の量子も、もつれることが実験的に確認されています。

では、宇宙の最大のスケールである宇宙全体も、もつれている可能性はあるのでしょうか?この問いに答えるためには、宇宙の始まりと進化について考える必要があります。現在の宇宙論では、宇宙は約138億年前にビッグバンと呼ばれる爆発的な膨張から始まったと考えられています。ビッグバンの直後の宇宙は、非常に高温高密度で、物質やエネルギーが量子的に揺らいでいました。この時期の宇宙は、インフレーションと呼ばれる急激な膨張を経験しました。インフレーションによって、宇宙は指数関数的に大きくなり、その後はよりゆっくりと膨張し続けました。

インフレーションの理論は、宇宙の平坦性や均一性などの観測事実を説明する有力な仮説ですが、同時に、宇宙のもつれに関する興味深い可能性を提供します。インフレーションによって、もともと近接していた量子が、現在では観測可能な宇宙の範囲を超えて離れた場所に存在することになります。しかし、もしもこれらの量子がインフレーションの前にもつれていたとしたら、そのもつれはインフレーションの後も保たれている可能性があります。つまり、宇宙の一部や全体が、もつれた状態にあるということです。

宇宙のもつれに関する仮説は、宇宙の構造や進化に影響を与える可能性があります。例えば、もつれによって、宇宙のエントロピーが低く抑えられ、宇宙の熱的死が遅らせられるという考え方があります。また、もつれによって、宇宙の膨張が加速されるという仮説も提案されています。さらに、もつれによって、宇宙の量子重力理論が構築されるという期待もあります。量子重力理論とは、量子力学と一般相対性理論を統合する理論で、現在の物理学の最大の課題の一つです。

宇宙は「もつれ」で出来ているという仮説は、まだ検証されていないものですが、宇宙の本質を理解するための重要な手がかりになる可能性があります。今後の理論的な研究や実験的な観測によって、宇宙のもつれの存在や性質が明らかになることを期待します。
2024.01.05 20:58 | 固定リンク | 化学
習政権「経済難民・毛沢東時代」へ
2024.01.05
習政権、ドル本位制でお先真っ暗 「経済難民」 国民の不満抑圧 毛沢東時代逆戻り

ドル本位制、米ドルを中心とする国際通貨体制。第2次世界大戦中1944年、世界経済を安定させるため米国のブレトン・ウッズに各国代表が集まり、金1オンスを35米ドルと交換できることを定め、さらに各国通貨と米ドルの交換比率を一定に保つ固定相場制の仕組みを決めました。

これを「ブレトン・ウッズ体制」、または「金・ドル本位制」と呼びます。この体制は1971年にニクソン米大統領がドルと金の交換を停止し、変動相場制に移行したことで崩れました。しかし、現在もなお米ドルは世界の基軸通貨の地位を維持しているため、ドル本位制は続いているともいえます。

中国は世界第二位の経済大国であり、国際社会において重要な役割を果たしている。しかし、中国の経済成長は近年減速し、内外の様々な課題に直面している。特に、習近平政権は、ドル本位制に依存した経済体制や、元の流出による経済難民の発生、毛沢東時代に逆戻りした国民の不満の抑圧など、深刻な問題を抱えている。本論文では、これらの問題の原因と影響、そして解決策について分析する。

■ドル本位制と経済難民の問題

中国の経済は、ドル本位制に基づいて発展してきた。ドル本位制とは、元の為替レートをドルに固定し、ドルを準備通貨として使用することで、国際市場における競争力を高めるとともに、経済の安定化を図るという制度である。ドル本位制により、中国は、低コストの労働力や資源を活用して、輸出産業を拡大し、外貨準備を蓄積することができた。また、ドル本位制は、外国からの投資や資金流入を促進し、経済の発展に寄与した。

しかし、ドル本位制には、以下のような欠点も存在する。

ドル本位制は、ドルの価値の変動に左右される。ドルが高くなれば、元も高くなり、輸出産業の競争力が低下する。ドルが低くなれば、元も低くなり、輸入品の価格が上昇する。これにより、中国の経済は、ドルの需給や金利政策など、アメリカの経済状況に依存することになる。

ドル本位制は、国内の経済調整を困難にする。元の為替レートを固定することで、国内の物価や賃金の調整ができなくなる。これにより、中国は、インフレーションやデフレーション、失業や所得格差など、経済の不均衡や不安定を招くことになる。

ドル本位制は、経済難民の発生を招く。経済難民とは、経済的な理由で、自国を離れて他国に移住する人々のことである。ドル本位制により、中国の富裕層や企業は、元の価値が下落するリスクを回避するために、ドルや他の外貨に換えて、海外に資産を移すことができる。

これにより、中国からは、大量の元が流出し、国内の資金不足や金融危機を引き起こす可能性がある。また、中国の中間層や若者は、国内の経済環境や社会状況に不満を持ち、より高い生活水準や自由度を求めて、欧米などの先進国に移住することができる。

これにより、中国からは、人材や知識が流出し、国内の経済発展やイノベーションを阻害する可能性がある。

■国民の不満の抑圧と毛沢東時代の逆戻り

中国の国民は、ドル本位制や経済難民の問題に加えて、習近平政権の政治的な抑圧にも直面している。習近平政権は、2012年に権力を掌握して以来、中国共産党の一党独裁を強化し、自らの権力を固めるために、以下のような措置をとってきた。

憲法の改正により、国家主席の任期制限を撤廃し、無期限での続投を可能にした。

反腐敗キャンペーンを名目に、政敵や批判者を粛清し、党内の統制を強めた。

国家安全法や香港国家安全維持法などの法律を制定し、香港や台湾などの自治権を制限し、民主化運動や人権活動家を弾圧した。

ウイグル族やチベット族などの少数民族に対して、強制収容所や再教育キャンプなどの人権侵害を行った。

インターネットやメディアなどの情報の統制を強化し、検閲や監視を強化した。

これらの措置は、毛沢東時代における文化大革命や大躍進政策などの過激な政治運動を彷彿とさせるものであり、国民の不満や反発を招いている。しかし、習近平政権は、国民の不満を抑圧することで、自らの権威を維持しようとしている。これは、中国の経済や社会の発展にとって、長期的に見て、非常に有害な影響を及ぼすことになる。

習近平政権は、ドル本位制に依存した経済体制や、元の流出による経済難民の発生、毛沢東時代に逆戻りした国民の不満の抑圧など、深刻な問題を抱えていることが明らかになった。これらの問題を解決するためには、以下のような対策が必要である。

ドル本位制からの脱却と元の自由化を進めることで、国内の経済調整能力を高めるとともに、国際的な金融協調を強化すること。

経済難民の流出を防ぐことにつきる。
2024.01.05 17:42 | 固定リンク | 経済

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