「我々の銀河は1ピクセル!」
2022.12.29


「我々の銀河は1ピクセル!」......20万個の銀河示す壮大な宇宙の地図が作成された

科学的に極めて正確。同時に、天文学の専門家以外でも宇宙のスケールを体感できるマップを目指した

私たちの太陽系が位置する天の川銀河は、最大4000億個ともいわれる恒星がひしめく途方もない空間だ。銀河1つだけでも広大な空間を占めるが、そんな銀河を20万個マッピングした壮大な「宇宙の地図」が誕生した。

この地図は、地球から観測可能な宇宙の一部を扇形にスライスしたものだ。無数の点の一つひとつが銀河を示しており、広大な宇宙空間に銀河が偏在する様子が視覚的に示されている。

地図の様子は、ジョンズ・ホプキンス大学が公開している動画でも確認することができる。コンピューター上に再現されたインタラクティブな地図となっており、視点や縮尺を変えて任意の位置から観察可能だ。

私たちの銀河(天の川銀河全体)は1ピクセル
地図を製作したのは、ホプキンス大の天文学者たちだ。過去20年以上をかけて蓄積された観測データをもとに、これまでに知られている銀河の位置を視覚化した。

扇形の最下部の頂点が、わたしたちのいる天の川銀河だ。広大なはずの天の川銀河が、わずか1ピクセルで表現されている。ホプキンス大のブライス・メナード教授(物理・天文学)は動画内で、マップの壮大さを次のように表現している。

「地図上で私たちは、一番下に位置します。私たちは小さな点で、わずか1ピクセルです。ここでいう『私たち』とはつまり、私たちの銀河、天の川銀河全体のことです」

宇宙ポータルのスペース.comはまた、地図に示された点の色に注目するよう勧めている。これらは、各銀河の赤方偏移の量を示している。膨張する宇宙の影響を受け、地球に届くまでに長い距離を旅してきた光ほど、波長が長くなり赤寄りに変化する。

すなわち、地図上で赤に近い色で表現されている星ほど、地球から見て遠方に位置することを意味している。一方、もともとの銀河自体の色味が異なることから、色相の変化と距離とは完全には比例しないことも読み取れる。

デザイナーを交え、天文学者以外でも理解できるビジュアルに
宇宙ポータルのスペース.comは、「驚くほど詳細かつ正確」に既知の宇宙をマッピングした地図だと評している。データ自体はこれまでに得られていたものの、科学的に正確かつ一般の人々にもわかりやすい形で銀河の位置関係を表現した地図はこれまで存在しなかったという。

デザイン情報メディアのデザイン・ブームも、本マップを取り上げている。作成にはホプキンス大の天文学者たちに加え、3Dデザイナーのニキータ・シュタルクマン氏が協力した。同サイトもまた、科学的な正確性と一般へのわかりやすさの両立を評価している。専門家向けだったデータを平易な形でビジュアライズした点にプロジェクトの価値があると言えそうだ。

製作に携わったホプキンス大のメナード教授は、マップ作りの動機を次のように説明している。

「幼い頃から私は、星や星雲、銀河といった天文学の写真から、大変な刺激を受けてきました。そしていま、私たち自身が新たなタイプの画を想像し、人々を刺激する番が来たのです」

「世界中の天体物理学者が、何年もかけてこうしたデータを分析しています。数え切れないほどの科学論文や発見につながってきました。しかし、美しく、科学的に正確で、なおかつ科学者でない人でも見られるような地図を作るために時間を投じる人は、これまでありませんでした。私たちの目標は、宇宙の本当の姿をすべての人々に届けることなのです」

既存の観測プロジェクトの成果を活用

観測の元データとして、アメリカを中心に運営され日本の機関も参加している「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)」の成果が活用された。

米ニューメキシコ州の山奥、澄んだ空気を持つアパッチポイント天文台に、SDSS用の観測装置が設けられている。主望遠鏡は広視野専用として設計され、狭い領域の拡大を主目的とする多くの天体望遠鏡と異なり、天空の広い領域を一度に観測することができる。

この主望遠鏡に加え、複数の天体用CCDカメラなどが観測をサポートする。天体画像により天体の位置を把握し、分光観測による赤方偏移量から距離を算出して記録するプロジェクトだ。

天空の一定領域を網羅的に観測する調査をサーベイ観測と呼ぶが、SDSSは天文学史上最も重要なサーベイ・プロジェクトのひとつに数えられている。第1期調査が完了した2005年までに全天の25%以上の領域を観測し、3億個以上の天体を記録した。

天文学の分野ではすでに名が知られているSDSSプロジェクトだが、その貴重なデータは専門家の注目を集めるに留まっていた。ホプキンス大の天文学者と3Dデザイナーという異分野の逸材がタッグを組んだことで、宇宙の神秘を広く一般にアピールするマップが完成したようだ。
2022.12.29 19:00 | 固定リンク | 宇宙

- -