ガス水素混合は爆発の恐れも
2024.01.22
水素混合LPガスにも課題が 水素自体のCO2排出量が大きくなる また水素は引火性も強く爆発の恐れも 消防庁と検討の必要性も

岩谷産業は22日、LPガス(プロパンガス)に水素を混合する形で住宅向けに供給する国内初の実証に乗り出すと発表した。2025年1月までに福島県南相馬市内の集合住宅で供給を始める予定。脱炭素に向けた家庭でのエネルギー転換を段階的に進めていく狙いがある。

LPガスは液化石油ガスの略で、プロパンやブタンなどの炭化水素からなるガスです。LPガスは燃料として広く利用されていますが、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出します。水素は燃料としても利用できますが、燃焼時には水蒸気しか出ません。そのため、水素をLPガスに混合することで、CO2の排出量を減らすことができます。

水素混合LPガスに関する実証事業や研究が国内外で行われています。例えば、

岩谷産業は、相馬ガスホールディングスや相馬ガスと共同で、福島県南相馬市の集合住宅80戸に水素混合LPガスを導管で供給する実証事業を2025年1月までに開始する予定です。この事業は、NEDOの助成を受けており、水素混合率は20%程度を目指しています。

東京海洋大学などの産学チームは、LPガスに水素と酸素からなるガスを約50%混ぜて走行させることに成功しました。この混合燃料は、LPガスのみの場合に比べて、CO2の排出量を約半減できると報告しています。

三菱重工業は、高砂水素パーク内に立地するガスタービン・コンバインドサイクル発電設備で、都市ガスに水素を30%混ぜた混合燃料による実証運転に成功しました。この混合燃料は、タービン入口温度1,650℃級の最新鋭JAC形ガスタービンを使っています。

水素混合LPガスには、CO2排出削減のメリットのほかに、既存のLPガスインフラやガス機器の活用、水素の安全な輸送や貯蔵の可能性などの利点があります。しかし、水素混合LPガスにも課題があります。例えば、水素の製造方法や供給源によっては、水素自体のCO2排出量が大きくなる可能性があります。CO2フリー水素の確保が重要です。

■爆発の危険性も

水素は引火性や爆発性が高く、漏洩や火災のリスクがあります。水素混合率や導管の材質、ガス機器の性能や安全性などについて、十分な検証や規制が必要です。

水素混合LPガスの普及には、消費者や事業者の理解や受け入れが不可欠です。水素の特性やメリット、コストなどについて、正しい情報の提供や啓発が必要です。

また、水素は引火性が高く、漏れや爆発の危険性もあります。そのため、LPガスに水素を混ぜる場合は、安全性の確保が重要です。消防庁は、LPガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律等の一部を改正する法律案について、以下のような意見を示しています。

LPガスに水素を混ぜる場合は、水素の含有率や品質を明示すること。

LPガスに水素を混ぜる場合は、水素の影響を考慮した設備や器具を使用すること。

LPガスに水素を混ぜる場合は、水素の特性に応じた保安管理を行うこと。

LPガスに水素を混ぜる場合は、消防庁長官の指導や監督を受けること。

現在、岩谷産業は、福島県でLPガスに水素を20%ほど混ぜて家庭に供給する実験を開始しています。この実験では、家庭用ガスコンロやガス警報器などの安全性を確認しながら、水素の混合技術やCO2削減効果の検証を行っています。

以上が、LPガスに水素を混合することで課題もありますが、とにかく安全に使用できるよう進めて欲しいものですね。

■次世代エネルギー「水素」

燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代エネルギーとして期待が高まる水素。発電のエネルギー源として、あるいは自動車など輸送の動力源として、さらに製鉄や化学部門の脱炭素化など、さまざまな分野での活用が想定されている。日本は2017年、世界に先駆け水素基本戦略を策定し、2050年に今の10万倍となる2,000万トンの導入量と液化天然ガス(LNG)と遜色のない価格まで引き下げることを目標に掲げ、取り組みを加速させている。日本企業は水素時代の実現に向けて、どのような取り組みを展開しているのか。最新動向を紹介する。

あらゆるところで生産できる水素 大量輸送できれば経済成長も

水素はあらゆるところで生産できるため、大量に輸送できるようになれば脱炭素とともに、経済成長が見込める分野だ。日本では水素を第2のLNGに位置づける動きもある。経産省も、液化水素などの世界的なサプライチェーンの構築などに向け、最大3,000億円をグリーンイノベーション基金で予算化した。日本企業が持つ技術で世界をリードしたい考えだ。

日本の再エネは欧州などに比べまだ高い。そのため国内におけるグリーン水素製造は厳しいのが現状だ。だが、液化水素運搬船のような日本の優位性を生かしきれば、海外から安い水素を調達するだけでなく、280兆円以上とされる世界の水素市場を取り込むことができるかもしれない。

日本の水素事業が続々進展! 三菱重工、川崎重工、岩谷産業、ENEOS、日揮・旭化成、JERA、関西電力など一挙紹介

脱炭素時代の大きな潮流は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーや、車で言えばEVを含む電動化だが、そこで脱炭素が進むと、見えてくるのが、水素の利活用だ。

再エネは、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が6月に発表したように、最も安価な石炭火力よりもコストが低下している。脱炭素文脈における水素は、CO2フリーの水素であり、メインは再エネ由来のグリーン水素だ。つまり、脱炭素が進展し、再エネのコスト低減と十分なボリュームが見えてきた先に、水素時代は見えてくる。

■世界をリードする日本の水素技術

水素時代を見据えて、各国も動き出している。特に進んでいるのが欧州だ。

欧州にはガスパイプラインが張り巡らされており、既存のパイプラインに水素を流し込むことで流通網を確立できるからだ。そうした特性もある欧州は2020年7月に水素戦略を発表。2050年までにグリーン水素への投資額の累計は1,800億ユーロ~4,700億ユーロ、日本円にして約20兆円から50兆円の投資額が見込まれている。

また、欧州各国も取組みを加速。イギリスは8月17日、2030年までに40億ポンド(約6,000億円)の投資を含む水素経済計画を発表した。ドイツも2020年6月10日に「国家水素戦略」を発表し、今後、水を電気分解して水素を製造する施設(電解施設)の建設、技術開発、外国からの輸入体制の構築などに合計90億ユーロ(1兆1,700億円・1ユーロ=130円換算)の予算を投入する予定だ。

そのドイツでは、すでに大手電力会社を中心に68の企業、団体、自治体が参加して水素プロジェクトを具体的に進めており、洋上風力発電所と水の電気分解施設を建設し、グリーン水素を国内で流通させる方針だ。

とはいえ、元々、水素についてはトヨタがかなり注力をしていたこともあり、日本がその取組みを国際的に進めてきた。2018年の世界経済フォーラムでは当時の安倍首相が水素戦略を世界にアピールしたほどだ。

実際、燃料電池など関連技術の特許出願数は世界1位である。

水素は、まだまだ価格が高いため、非現実的、水素は来ないなどの批判がある。しかし、再エネも、批判された時代があった。仮に電力目的で水素が来なくても、エネルギーは何も電力だけではない。熱もある。また、製鉄では、還元作用をもたらす工程でコークスを代替する水素還元が今後の手法として考えられている。

このままの勢いで脱炭素化が世界で進展したら、グリーン水素という文脈は必ず出てくるだろう。つまり、次の次の手、という位置づけに水素はあるわけだ。もちろん、脱炭素の進展の中で、水素よりも効率の良いものが出てくるかもしれない。しかし、いずれにしても、競争はすでにスタートしている。

日本企業が世界の水素市場を席巻できるかどうか、その開発動向に注目が集まっている。

現状、技術においては日本の水素産業が世界をリードしており、2兆円のグリーンイノベーション基金を活用し、その動きがさらに加速している。

そこで、日本の水素産業について、以下の4つの取り組みを紹介したい。

三菱重工と東邦ガスによる都市ガス・水素混焼の運転

川崎重工、岩谷産業、ENEOSなどによる液化水素サプライチェーンの商用化

日揮・旭化成による大規模水素製造システムを活用したグリーンケミカルプラント

JERA、関西電力それぞれによる水素発電

どの技術が花開くのか、見ていこう。

水素混焼比率35%に成功した三菱重工・東邦ガス

まずは、三菱重工と東邦ガスによる都市ガス・水素混焼の運転から見ていきたい。

水素に関しては、実証系が多い中、2社の取り組みは具体的な達成事項となる。

具体的には三菱重工と東邦ガスが、コージェネレーションシステム用のガスエンジン商品機を用いた都市ガス・水素混焼実証に共同で取り組み、定格発電出力で水素混焼率35%での試験運転に国内で初めて成功したというもの。コージェネレーションシステムとは、燃料を使って発電をするときに、出てくる熱などの副産物を、冷暖房や給湯などに使う一石二鳥の仕組みだ。

試験運転で用いたガスエンジン 三菱重工

すでにこのガスエンジンは顧客に納品されており、実績を持つ。脱炭素時代においては、実績があるものをうまく活用した方が、効果的だ。その道を三菱重工と東邦ガスは模索してきた。つまり、すでに設置済みのコジェネシステムに対し大幅な改造を加えることなく、都市ガス・水素混焼運転の実現を目指してきたというわけだ。

ただ、都市ガス・水素混焼においてはいくつか乗り越えなければいけない課題がある。

一つはバックファイアと呼ばれる、エンジンの吸気側に火が逆流する現象だ。水素は都市ガスと比べ最小着火エネルギーが小さく、また、燃焼速度が速いため、都市ガス専焼に比べバックファイアが発生しやすい。

2つ目の課題がノッキングと呼ばれる気体が自ら着火して燃焼室内の圧力が急激に上昇する現象だ。水素は都市ガスと比べ燃焼性が高く、シリンダ内圧・温度が上がりやすいことから、都市ガス専焼に比べノッキングが発生しやすい。

3つ目としてプレイグニッションと呼ばれる通常の点火の前に、気体が自着火してしまうという問題もある。これらの問題を三菱重工と東邦ガスはクリアし、安定した燃焼状態での運転を確認した。しかも、発電効率などを下げずに、35%の水素混焼率での定格運転成功は国内初だ。

今回の成功によって、需要家は、自らが有するコジェネシステムでの水素の利活用が見えてきた。

水素の大量消費見据えて、国際的なサプライチェーン構築へ

次が川崎重工、岩谷産業、ENEOSによる液化水素サプライチェーンの商用化だ。

川崎重工 100%子会社の日本水素、岩谷産業、ENEOS3社が、水素の大量消費社会を見据えて、CO2フリーの水素サプライチェーンの本格的な社会実装に備えるべく、年間数万トン規模の大規模な水素の液化・輸送技術を世界に先駆けて確立し、水素製造・液化・出荷・海上輸送・受入までの一貫した国際間の液化水素サプライチェーン実証を行うというものだ。

この3社の組み合わせが非常に興味深い。いずれも水素に早くから注目をしてきた企業であり、それぞれ違った強みを持つため、サプライチェーンに関しては、補完しあえる関係にあるからだ。

日本で水素といえば岩谷産業だろう。日本の誰よりも早く、1941年に水素販売を開始。そこから水素の製造、サプライチェーンの構築、利用開発を進め、日本の水素利用の拡大を支え続けてきた、日本の水素の老舗だ。圧縮水素及び液化水素のシェアは国内トップ、特に、今回サプライチェーン形成の対象となる液化水素については高い製造能力とハンドリング技術を活かして、日本唯一のメーカーとして100%のシェアを有している。

ただし、サプライチェーンというだけあって、うまく運べなければ使えない。そこで強みを発揮するのが川崎重工。世界中で作られた水素を運ぶためには容量を減らすべく液化するわけだが、マイナス253℃に冷却し、体積が気体の800分の1となった液化水素を安全かつ大量に長距離海上輸送する必要が、サプライチェーン構築にあたっては欠かせない。それに取り組んできたのが川崎重工だ。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を開発し、まさにこの実証事業でその船を活用していくという。

持ってきた水素は、今度は国内で流通させなければいけない。そのサプライチェーン構築は、ENEOSの流通網を活用していく。全国の製油所やガソリンスタンドのネットワークなど、ENEOSが保有する既存インフラを活用して、水素供給サプライチェーンの構築を進めていくというのが彼らの計画である。

これら3社の強みを一体にして今回の液化水素サプライチェーンの事業は実施されていく。

具体的には、16万m3クラスの液化水素タンクを搭載する液化水素運搬船や5万m3クラスの陸用液化水素タンクなどの商用化の実現に向け、大型設備を川崎重工が供給しつつ、2030年30 円/Nm3の水素供給コストの実現を目指していく。


化学業界の脱炭素に向け、日揮と旭化成、グリーンアンモニアを製造

3つ目が、日揮・旭化成による大規模水素製造システムを活用したグリーンケミカルプラントだ。

この実証、端的にいうと、再エネ由来のグリーン水素を活用したグリーンアンモニアの事業になる。

実は、旭化成は2020年から福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドにて、最大10MWクラスの電気を使う、世界最大規模のアルカリ水電解システムを運用しており、グリーン水素を生成してきた実績を持つ。

一方、日揮は、CO2フリー水素を活用したアンモニア製造技術に取り組んできた。

今回、事業を大幅にスケールアップさせ、100MW級を見通した大規模アルカリ水電解システム及び、グリーン水素を原料としたグリーンアンモニアなどの化学品の合成プラントを実証する。

実は、CO2の排出に関しては、電力セクターや製鉄業もさることながら、原材料に原油などを使用する化学業界も多くを排出している。この原油を、グリーン水素に置き換えて、グリーンケミカルを作ろうというのが、今回の実証だ。

その全体像は、再エネで発電した電気を、旭化成が担当する水電解システムで水素にする、そして旭化成・日揮がともにその水素を使ってグリーンケミカルを作るというもの。そのままグリーン水素の供給という選択もできるし、アンモニアをはじめとする化学品の需要家にはそれらを届けることもできる。

ただし、再エネ由来のため、水素製造は、再エネの発電が不安定であることから変動する。この変動も織り込み、全体プロセスを監督するべく、旭化成と日揮は共同で、水素供給量を制御し、運転最適化を実現する統合システムの開発を目指している。

これも、脱炭素が進展して、再エネが安くなることを想定して、水素を作るところから、それをさらに原料に、化学品を作る、という図式だ。


JERA、関電、相次ぎ水素発電の実証をスタート
最後の事例が、より直接的なエネルギー供給の論点。JERA、関電それぞれによる水素発電についてだ。

JERAといえば火力発電だが、この脱炭素化の時代に、水素やアンモニアを利用しながら、化石燃料比率を低減していき、最終的には発電時にCO2を排出しないゼロ・エミッション火力の開発を目指している。

そんなJERAが水素発電の実証で採択をされた。

内容は、JERAの有するLNG火力発電所において水素供給設備等の関連設備を建設するとともに、水素とLNGを混合燃焼できる燃焼器をガスタービンに設置し、2025年度に体積比で約30%のLNGを水素に転換して発電することを目指すというものだ。なお、体積比30%は熱量に換算すると10%に相当する。


前述した三菱重工・東邦ガスは需要家企業がもっているガスエンジンの水素転換の話だ。

一方、JERAのように大規模な商用LNG火力発電所において、大量の水素を燃料に利用するのは、実は国内初であり、画期的な一歩と言えるだろう。

また、水素の受入・貯蔵からガス化、発電まで一連にわたる水素発電の運転・保守・安全対策など、水素発電に関する運用技術の確立を目指す、のが関電だ。

JERAだけでなく、関電まで水素実証に動いたという点は、やはり昨今の水素に向けた国内の動きを象徴している。

冒頭で述べたとおり、水素は次の次の手になるが、来るべきときに花開けば、日本の脱炭素並びに経済成長を支えることになるだろう。
2024.01.22 21:09 | 固定リンク | 経済

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