クルスク偽情報で「ロシアてんてこまい」
2024.08.18
2024年8月、ウクライナ軍がロシア領クルスク州への侵攻を行った際、ロシアメディアを装って偽情報を流布したことが確認されています。この偽情報作戦にはいくつかの重要な影響がありました。

混乱の創出
 
偽情報により、ロシア国内での情報の信頼性が低下し、一般市民や軍関係者の間で混乱が生じました。

ウクライナ軍はロシアメディアを装い偽非難命令を出したのでした。市民は主要道路へ殺到大渋滞がおきました。また何も知らない国営メディアがベルゴロド方面への避難を促し大渋滞をまねきました。その結果ロシア軍の増援部隊の進行を妨げ、作戦に大きな遅れを生じさせたのでした。

さらにロシア国営メディアはロシアの補給燃料基地などの重要拠点を明かし、そこからのクルクスまでの主要道路の誘導までしていたのでした。ウクライナ軍はロシアメディアが明かした補給及び燃料基地をハイマースで攻撃、命中率90%でほぼ破壊しました。また、増援軍の主要橋脚を100%の割合で破壊、増援軍が到着できない状況の中でクルクスの主要位置全域の占領に成功したのでした。


その中で重要だったのは、ロシア軍の後方指令基地、ここはクルクス全域の地下要塞基地、全長50キロから100キロ、深さ30mにもなるコンクリートで要塞化された、高度なコンピューターシステムを施した指令室、核発射技術システム、核兵器搭載爆撃機指令室、軍事同盟核指令室、この中にはベラルーシ軍事同盟も勿論含まれる。

ベラルーシはそれを知って急遽ウクライナ国境全域から軍を撤退、ロシアとの軍事同盟を破棄すると大統領自ら声明を発表した。


士気の低下

ロシア軍内部での士気が低下し、指揮系統に混乱が生じることがありました。偽情報により、前線での状況が正確に把握できなくなったためです。

またウクライナ軍のクルクス進行でロシアの補給燃料基地など重要拠点を次々ハイマースなどで叩き、ロシア軍の補給に支障をきたした。増援部隊の補給欠乏で作戦に支障をきたし影響を与えることは必至だ。

また、クルスク州内の飛行場つぶしに執着した。クルスク市郊外にあるハリノ航空基地は、ウクライナによる奇襲侵攻の中心地となっている国境の町、スジャから最も近い場所にあるロシアの軍用飛行場だ。

ハリノ航空基地にはロシア空軍の第14親衛戦闘機航空連隊が所在していて、第14連隊に所属する24機のスホーイSu-30SM戦闘機は滑空爆弾を搭載できる。発射後に翼が展開し、衛星誘導で40km以上先の目標に向かって滑空していくこの航空爆弾、ウクライナでの通称「KAB」は、ロシア軍が多用している強力な兵器だ。最も大型のものは重量が3tある。


ウクライナ軍部隊が6日に北部スーミ州から国境を越えてクルスク州に進撃してくると、ロシア空軍は、少なくとも5個の旅団から成る侵攻部隊やスーミ州内のその基地を滑空爆弾で爆撃し始めた。1日の投下数は最大で前線全体の半数に相当する50発ほどに達するらしい。

ウクライナ側はハリノ航空基地の重要性がよくわかっている。だからこそ、侵攻の前の週からこの基地に対する攻撃を激化させていた。

ウクライナとの国境から100kmほどしか離れていないハリノ航空基地は、ウクライナの弾道ミサイルや巡航ミサイル、爆発物を積んだドローン(無人機)など、さまざまな深部打撃兵器の射程内に入る。

攻撃は最近エスカレートした。クルスク州侵攻の6日前の7月31日、ハリノ航空基地の弾薬庫がウクライナの攻撃を受け、一部が焼失した。この攻撃にはウクライナ海軍のネプトゥーン巡航ミサイルが使われたとされ、保管されていた滑空爆弾が破壊された可能性もある。

ウクライナ軍は侵攻地域内からこの基地を攻撃、より短い射程のロケット弾を使うことができる。それには、米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)から発射されるM30/31弾も含まれる。何れにしてもこの基地はウクライナ軍の恰好の的だろう。

戦略的優位性の確保

ウクライナ軍は偽情報を利用してロシア軍の動きを誤誘導し、戦略的な優位性を確保することができました。

8月6日早朝に始まったウクライナ軍のロシア西部クルスク州侵攻はすでに10日以上が経過した。作戦に参加するウクライナ軍の規模は2万人、国境から85キロメートルの深さまで進み、支配地域は1500~2500平方キロメートルと報じられる。

ウクライナ軍の奇襲攻撃に面子を潰されたウラジーミル・プーチン露大統領は8日、クルスク州のアレクセイ・スミルノフ知事代行とのビデオ会議で「苦境にある人々を援助するため、予期せぬ複雑な任務が課せられている」と述べた上で状況報告を求めた。

スミルノフ氏は「8月6日午前5時、ウクライナ軍が歩兵と装甲車で国境を突破し、ロシア連邦の領土であるクルスク州スジャを攻撃した。ウクライナの破壊工作、偵察グループは、住民を避難させているロシアの民間人や救急車に向かって発砲した」と報告した。

装甲車代わりに市民軍に銀行の現金輸送車が80台以上提供され、ガソリンスタンドには電子戦システムと装甲防御を施すという。プーチンは「必要な人に1万ルーブルずつ支給される。クルスクは困難を克服し、状況を好転させるために全力を尽くすだろう」と応じた。

「必要な場合にはクルスク州に軍司令官事務所を設置する」

14日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はクルスクの戦況について会議を開き、ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官から報告を受けた。シルスキー総司令官は「必要な場合にはクルスク州に軍司令官事務所を設置する」と表明した。

ウクライナがロシアのクルスク州への侵攻を正式に認めたことは、戦略的に非常に重要です。以下の点でその重要性が際立っています。

戦略的拠点の確保

クルスク州はロシアの西部に位置し、ウクライナにとって重要な戦略的拠点となります。ここを制圧することで、ロシアの防衛線を突破し、さらなる進軍の足がかりを得ることができます。

ロシア軍の重要な地下司令部要塞をウクライナ軍が獲得、ここを利用したウクライナ軍の地下司令部を設置しました。

地下司令部要塞は、戦闘中の指揮統制を維持するために重要です。これにより、ウクライナ軍は安全かつ効率的に作戦を遂行でき、ロシア軍の攻撃から指揮官を守ることができます。

士気の向上

この侵攻はウクライナ軍の士気を大いに高める効果があります。ロシア領内での成功は、ウクライナ国内および国際社会に対して強いメッセージを送ることができます。

ロシアの防衛力分散

クルスク州への侵攻により、ロシア軍は防衛力を分散せざるを得なくなり、他の前線での防御が手薄になる可能性があります。

このように、クルスク州への侵攻と地下司令部要塞の設置は、ウクライナにとって戦略的に非常に重要な意味を持っています。

ウクライナ軍によるクルスク州への進行は、ロシアの防衛力に大きな影響を与えています。以下のような変化が見られます。

ロシア軍は部隊の再配置をせざるを得ないようでしょう。ロシアはウクライナ東部から一部の部隊をクルスク州に再配置せざるを得なくなりました。これにより、ウクライナ東部でのロシアの攻撃力が一時的に低下します。

さらに防衛線の強化も不可欠になりました。クルスク州内で新たな防衛線が構築されます。特にクルスク原発周辺での防衛が強化されています。

住民の避難もともないます。クルスク州および隣接するベルゴロド州では、多くの住民が避難を余儀なくされています。

ロシア軍の戦力の分散も伴います。ウクライナの攻撃により、ロシアは防衛力を分散させる必要が生じ、他の前線での戦力が薄まる可能性が出てきます。このように、クルスク州への進行はロシアの防衛戦略に大きな影響を与えており、今後の戦況にも影響を及ぼすのは不可分でしょう。

クルスク州はロシアの西部に位置し、いくつかの理由で戦略的に重要です。

クルスク州にはロシア軍の補給路が通っており、特にセイム川に架かる橋は重要な補給ポイントです。この橋が破壊されました。ロシア軍の補給が大きく妨げられます。

ウクライナ軍は8月16日にセイム川に架かる橋をハイマース(高機動ロケット砲システム)で攻撃し、破壊しました。この橋はロシア軍の補給路として重要な役割を果たしており、破壊されたことでロシア軍の補給に大きな影響が出ると考えられます。

この攻撃により、ロシア軍の前線への補給が困難になり、戦況に大きな変化が生じる可能性があります。また、ロシア国内でもこの攻撃に対する反応が注目されています。

クルスク州の地理的な位置はウクライナとの国境に近く、ロシアの防衛ラインの一部を形成しています。この地域を制圧することで、ウクライナはロシアの防衛力を分散させることができます。

士気の向上もウクライナ軍がクルスク州で成功を収めることは、ウクライナ軍の士気を高める効果があります。また、ロシア国内での不安を引き起こす可能性もあり、クルスク州での戦闘は、ロシアとウクライナの交渉において有利な立場を築くための手段としても利用されます。

侵攻地域やその周辺で確認されたウクライナ軍旅団の数は少なくとも5個に増えている。陸軍の4個機械化旅団と空中強襲軍(空挺軍)の1個空中強襲旅団だ。

総兵力は最大で人員2万人、装甲車800両にのぼる可能性がある。このほかに砲兵部隊や防空部隊、ドローン(無人機)部隊、偵察部隊が侵攻部隊の支援できわめて重要な役割を果たしている。

現時点で判明しているクルスク州方面の兵力は、ソーシャルメディアへの投稿や公式メディアの発表などをアナリストが精査し、新たな旅団の参加を確認するにつれて、兵力規模は膨らんできている。

ウクライナ軍はクルスク州の重要拠点をを占領し、ロシア側を捕虜にした。侵攻部隊は長くロシアにとどまるつもりだ。今のところ占領地を拡大するつもりだ。

エストニアの軍人でアナリストのアルトゥール・レヒは「ウクライナが入念に計画を準備していて、この作戦が政治的な効果のあるPR上の大勝利以上のものになることを確信している」とソーシャルメディアに書いている。

ウクライナ軍が6日に始めた越境攻撃に関しては先に、少なくとも3個旅団が直接参加しているか、支援任務に従事していることがわかっていた。陸軍の第22独立機械化旅団と第88独立機械化旅団、空中強襲軍の第80独立空中強襲旅団である。

さらに8日には陸軍の第116独立機械化旅団が、戦車や装甲兵員輸送車でクルスク州に進撃する様子とされる映像を公開した。映像は同旅団のドローンチームであるコーン(Khorne)グループが撮影した。「われわれの車両がロシアの国土をまるでわが祖国であるように走っている」とコーングループはたたえている。

5個旅団以外に、AS-90などの榴弾砲を運用する第49独立砲兵旅団が、クルスク州の戦場から50kmほど離れたウクライナ北部スーミ州スーミ市近郊に布陣している。また、このエリアに第27ロケット砲兵旅団が展開していることもほぼ確実だ。

なぜかと言えば、クルスク州方面に対して米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)が活発に戦闘を行っているらしいからだ。ウクライナ軍でHIMARSを運用している部隊は第27ロケット砲兵旅団しかない。ウクライナ軍のHIMARSはGPS(全地球測位システム)誘導のM30/31ロケット弾を80kmくらい先までの目標に向けて発射できる。

コーングループは9日、クルスク州の戦場に向かうロシア軍の車列がHIMARSで攻撃される様子とみられる映像をウクライナメディアに公開した。車両に乗っていた部隊は、州内で総崩れになりつつある防御線の増援に向かっていたとみられる。

ウクライナの旅団は全体として、旧ソ連から引き継いだ兵器もあれば米欧から供与された兵器もある、多種多様な兵器を運用する混成グループになっている。これらの兵器には、米国から供与されたストライカー装輪装甲車、ポーランド製のPT-91戦車、旧ソ連で開発された2S3自動榴弾砲、英国から供与されたAS-90自走榴弾砲、米国で開発されイタリアで改良されたM-109L自走榴弾砲、チェコから供与されたRM-70自走多連装ロケット砲などが含まれる。
2024.08.18 09:51 | 固定リンク | 戦争
ニュートリノ放射で「核兵器を無力化」できた!
2024.08.13
野村泰紀氏は、日本の著名な物理学者です。

彼は1974年1月21日生まれで、専門は素粒子論と宇宙論です。現在、カリフォルニア大学バークレー校の教授であり、バークレー理論物理学センターの所長も務めています。

野村泰紀氏の研究については、ニュートリノ放射を利用して核兵器を無力化するという非常に興味深い技術が提案されています。この技術は、超高エネルギーのニュートリノビームを核兵器に照射することで、核分裂性物質を無力化することを目指しています。
https://core.ac.uk/download/pdf/345018347.pdf
具体的には、ニュートリノと核分裂性物質の相互作用を利用して、核兵器の内部で不完全核爆発を誘発し、核兵器を実質的に無力化するというものです。この技術が実現すれば、核兵器の脅威を大幅に減少させる可能性があります。

① 核分裂系(遮蔽物質+核兵器)中での超高エネルギーニュートリノの深非弾性散乱現象

② この深非弾性散乱で放出されるハドロンと体系中の原子核との散乱・衝突現象

③ さらに二次的・副次的な核反応で生じた粒子群の体系中での輸送・発熱現象

これらの現象は、①が素粒子物理学、②が原子核物理学、③が中性子物理学でそれぞれ扱われる領域である。巨大ミュー粒子加速器を利用してこれらの現象を人工的に引き起こし、核兵器を無力化する技術が、我々が提唱する核兵器バスターである。

2. 超高エネルギー領域でのニュートリノの相互作用

2.1. クォークレベルでのニュートリノ深非弾性散乱断面積

ニュートリノは弱い相互作用しか行わない素粒子であるため、地球でも容易に通り抜けてしまうと言われている。しかし、素粒子の標準模型では電磁相互作用と弱い相互作用は一つに統一され、低エネルギー領域で弱い相互作用が小さいのは、ウィークボソン(WとZ)の質量が大きい(陽子の約100倍の質量)ためであることが明らかになっている。従って、ウィークボソンの質量Mを上回る高エネルギー領域においては、ニュートリノと物質の相互作用は十分に強くなる。

素粒子反応では、相互作用の大小を表すために断面積(σと表記)と呼ぶ量を使う。

イメージとして、的にボールをぶつけるとき、的が幾何学的に大きければ当たりやすいが、そのように換算して相互作用の強さを表している。

次に、断面積からニュートリノの平均自由行程(Rと表記)が導かれる。Rは、ある密度の物質中をニュートリノが進むとき、物質と反応する平均距離を表す。もしRが地球の大きさよりもはるかに大きいなら、いくらニュートリノ・ビームを照射しても、地球にある核分裂性物質が反応することはまずないが、仮にRが地球直径程度(104km程度)以下であれば、ニュートリノにより核分裂性物質を無力化することが可能となる。

すぐわかるように、Rはσに逆比例する。よって、まず素粒子反応に関する理論から見積もらなければいけないのは、ニュートリノの断面積σであり、それから、地球の物質密度などを考慮して平均自由行程Rを決めることになる。超高エネルギーでσが大きくなることにより、Rを目標値(104km程度)にできることが、この核兵器無力化技術のポイントなのである。

物質は原子からできており、原子は原子核と電子から成る。原子核は陽子(p)と中性子(n)のは核子(p, n の総称) の質量 N結合状態である。実は、後の式でわかるように、断面積は標的の質量に比例する。電子の質量m の1800分の1でしかないため、以下では原子核を標的と考える。

核子はクォーク(一般にqと表記)の結合状態であるので、結局ニュートリノとクォークの断面積を計算すれば良いことになる。さきの小林—益川理論のノーベル賞受賞により一般にも広く知られるようになったが、クォークは6種類ある。

日本でも核兵器を無力化する研究が、密かに進んでいた。

2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏は、愛知県豊橋市生まれの物理学者で、ニュートリノの研究で偉業を成し遂げた。

このニュートリノの研究成果を発展させて、核兵器を無力化する研究が、密かに進んでいる。

素粒子物理学や原子核物理学や中性子物理学などとの協力による、モンテカルロ法によるコンピュータ・シムレーションでは、すでに理論上は実現可能だ。

誤解を怖れず簡潔に言えば、ニュートリノを核兵器に照射することによって、不完全核爆発を起こさせて、核兵器を実質的に無力化する、という技術である。

日本の研究予算では無理だった。

研究者の手弁当だけでは実現できない技術なので、実用化のためには巨額の予算が必要になる。

それは、文部科学省でも、経済産業省でも、防衛省でも、自衛隊でも、あるいは産業界でも、どこの予算であっても構わないが、実現し実装できれば、自国の安全保障に寄与するだけに限らず、全世界の核兵器の廃絶につながる可能性がある。

バークレー理論物理学センターの所長である「野村泰紀氏」

彼の研究は、余剰次元や統一理論、量子重力理論、マルチバース宇宙論など、多岐にわたります。また、理化学研究所や東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構でも研究を行っています。

野村氏は、多くの著書を執筆しており、最新の宇宙論や素粒子論について一般向けに解説しています。例えば、『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』や『多元宇宙(マルチバース)論集中講義』などがあります

我々が住む宇宙以外に、無数の宇宙が存在している——。

SFではない。現代宇宙論と素粒子論が導き出した「マルチバース理論」という考え方だ。

宇宙は正体不明の「ダークマター」と「ダークエナジー」で満たされている。宇宙は加速的に膨張を続けている。我々が住む世界は四次元ではなく十次元だ。真空は「適度に小さなエネルギー」を持つ。にわかには理解することが難しいかもしれない。しかし、これらの問題を一つ一つ丁寧に紐解いていくと「マルチバース理論」に到達するのだ。

僕がやっている素粒子論や宇宙論の分野では、実験をする「実験屋」と理論を考える「理論屋」は、別の仕事をしています。

僕は理論屋ですが、主な仕事は、ディスカッションをしたり、新しい論文を読んだり、学会に行って最新の研究発表を聞いたりすること。実験屋は、どのような実験をするかにもよりますが、それらに加えて計測機器を作る、機器を作るための予算をとる、実際に実験をする人を雇う、などの仕事もします。

若い実験屋は、僕ら理論屋よりも先に新しい発見を目の当たりにすることができるので、ものすごい知的興奮があると思います。ただし、大きな実験のメンバーとして働くので、自由度は理論屋よりも少ないかもしれません。

実験屋の仕事場としては、日本では岐阜県神岡鉱山跡に作られた「カミオカンデ」が有名です。小柴昌俊氏がニュートリノの発見でノーベル物理学賞を受賞したことで、一躍脚光を浴びました。現在はその後継のスーパーカミオカンデが動いていますが、そこで働く人たちは、ヘルメットをかぶって、エレベーターに乗って地下1,000メートルのところまで行って、巨大な計測装置を操作する。僕たち理論屋からすると非日常的な生活をしています。

実験屋と理論屋は、同じ物理屋でもやってることも必要とされる能力も違う。実験屋は、組織の中で働くので、ある程度人とのコミュニケーション能力、統率力が必要です。あとは、予算をとってくる能力。実験にはものすごいお金がかかりますから。それに比べると、理論屋は物理しかできないような変人も結構います。

野村 泰紀(のむら・やすのり)氏

カリフォルニア大学バークレー校教授。バークレー理論物理学センター長。理学博士。

米国フェルミ国立加速器研究所、カリフォルニア大学バークレー校助教授、同准教授などを経て現職。ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員も務める。

謎の物質やエネルギー、いったいどこからが「謎」?

宇宙に存在する謎の物質「ダークマター」や謎のエネルギー「ダークエネルギー」が紹介されています。「ダークマター」「ダークエネルギー」は、どこまで詳細がわかっていて、どこからが「謎」なのでしょうか。

野村:ダークマターは「光では見えない物質」です。「存在する」ということはわかっています。現在の宇宙を構成するエネルギーの中で、僕たちが観測できる電子や陽子などによるエネルギーが占める割合は5%程度。それに対して、ダークマターが持つエネルギーは宇宙の構成エネルギーの約25%を占めることが観測結果からわかっています。ただ、それ以外はわかっていません。

現代宇宙論では、「宇宙は加速的に膨張している」と考えられています。その加速膨張を引き起こしているのが、ダークエネルギーです。ダークエネルギーも、宇宙の構成エネルギーの約70%を占めていることはわかっている。ダークエネルギーの正体の最有力候補は、真空のエネルギーです。

真空のエネルギーというと、不思議な印象を受けるかもしれません。真空にもエネルギーは存在します。「空間自体が持つエネルギー」というイメージ。最有力候補が固まっている、という点では、ダークエネルギーはその存在自体はあまり謎ではないのかもしれませんね。

少しだけゆらいでいる宇宙

「宇宙はビッグバン時代に突入する前に、インフレーションと呼ばれる爆発的な加速膨張の時代を経験した」と書かれていました。インフレーションが起こった証拠として、「Bモード偏光の光子の検出」が重要、とのことですが、Bモード偏光の光子とは、どのようなものなのでしょうか。

初期の宇宙から発せられる「宇宙背景放射」という電波を観測すると、初期の宇宙は、ほぼ一様で均一だったことがわかります。「ほぼ」というのは、宇宙の密度には10万分の1程度のゆらぎがあったからです。この小さなゆらぎが後に成長して、我々が現在みる銀河や銀河団になったのです。

ここで、「なぜ宇宙はほぼ一様だったのか」ということが問題となります。この宇宙の一様性や他の諸問題を説明するために、1980年代に考え出された理論がインフレーション理論です。

しかし、このインフレーション理論は、同時に一様性からの小さなずれも予言するのです。この小さなずれが宇宙背景放射にみられる密度ゆらぎの起源なのですが、インフレーションは密度のゆらぎだけではなく、「原始重力波」という時空のゆらぎをも生じます。この時空のゆらぎは、インフレーション以外では生成するのことがとても難しいものです。

ですから、原始重力波の検出はインフレーションが起こった直接的な証拠となり得ます。そこで、原始重力波に由来する宇宙背景放射の成分を検出しよう、という試みが多数なされています。宇宙背景放射を構成する光子の偏光にはBモードとEモードの2種類があります。原始重力波に由来する偏光は、Bモードです。つまりBモード偏光の光子を宇宙背景放射から検出することで、原始重力波の存在を確認することができるのです。

原始重力波に由来するBモード偏光の光子は、現時点では見つかっていません。一方で、いつ見つかってもおかしくありません。Bモード偏光の光子が検出されれば、インフレーション理論はより強固なものになると思います。

実は、ハーバード大学とカリフォルニア工科大学が中心のBICEP2という研究チームが、Bモード偏光の光子を検出した、と発表したことがあります。2014年のことです。関連する科学者の家にレポーターが駆けつけ、カメラの前でシャンパンを抜く、などしていました。でも後になって、結局それは違う偏光だった、ということがわかりました。

実はインフレーション終了後に、他のモードの光子が変換してBモードになることもあるのです。BICEP2が検出したBモード偏光の光子は原始重力波由来のものではなく、このインフレーション後に生成されたものだった、というオチです。

「超弦理論(超ひも理論)」の重要性

現在、「相対性理論」と「量子力学」を融合させた「超弦理論(超ひも理論)」の研究がさかんにおこなわれています。「相対性理論」と「量子力学」を融合させることの重要性について。

宇宙が量子力学で動いている、ということは確かです。でも、ここで一つ大きな問題があります。重力の理論である相対性理論、より正確には一般相対性理論ですが、それには量子力学の効果が入っていないのです。

一般的に、量子力学は小さいスケールでの方が、その影響が大きくなります。しかし、小さいスケールでは、重力は無視できてしまう。電磁気力に比べると、重力ってめちゃくちゃ弱い力なんです。

でも、大きいスケールでは重力は重要ですよね。僕たちは、地球の重力に引っ張られて、地面に立つことができている。宇宙論で語られる天体現象も、それぞれの天体の重力の効果によって起こるものがほとんどです。これは重力が、他の力とちがって引力としてしか働かないため、大きなものでは単純にその効果が足しあがるという性質を持つためです。

最近まで、量子力学的な考え方と重力が同時に必要になる、というような場面はありませんでした。だから、2つの理論を別々にしておいても問題はなかった。ただ、最近になってブラックホールのように非常に強い重力を持つ天体では、量子力学と相対性理論の両方を入れ込んだ理論がないと、どのようなことが起こるのか計算ができない、わからない、ということがわかってきた。わからないことをわかるようにするために、超弦理論が必要とされるようになりました。

1970年代に超弦理論の元となる弦理論が発表されましたが、その後この理論はあまり注目されませんでした。1980年代になって、マイケル・グリーン氏とジョン・シュワルツ氏が弦理論を見直したとき、重力が含まれている、ということに気づきました。さらに彼らは弦理論をブラッシュアップして、超弦理論を発表しました。

超弦理論を開いたら、無数の宇宙があった!

超弦理論には、素粒子の間に働く「電磁気力」「弱い力」「強い力」「重力」の4つの力がすべて含まれている。

含まれています。というか、実は超弦理論には「いろいろなものが入りすぎて」いるのです。その一つが余剰次元です。超弦理論では、我々が住む世界は、一般的に認識可能な四次元ではなく、十次元になります。また、超弦理論を使うと標準模型以外の力も簡単に出すことができます。

ちょっと余剰次元の形を変えたりすると、僕らが見ている標準模型の世界にそぐわない、たくさんの世界が出てくる。「いろいろな宇宙がある」ということです。それが、マルチバースです。

スティーブン・ワインバーグ氏は1980年代から「マルチバース理論」を予測していました。彼は、どのような過程を経てマルチバース理論にたどり着いたのでしょうか。

ワインバーグは、超弦理論とは別の方法でマルチバース理論に行き着きました。

真空のエネルギー密度の絶対値は、理論的にざっと見積もると10⁹⁰g/cm³というとんでもない値になる。しかし、観測値により、10⁹⁰g/cm³よりも120桁近く小さい値が真空のエネルギー密度の上限値とされていました。120倍ではなく、120桁です。多くの物理学者たちがこの問題に取り組みましたが、理論的に真空のエネルギー密度を小さくすることはできませんでした。

そこでワインバーグが考えたことは「いろいろな真空のエネルギー密度を持つたくさんの宇宙がある」ということでした。10¹²⁰個以上の宇宙があれば、自然な値より120桁小さい真空のエネルギー密度を持った宇宙があっても確率的におかしくありません。

さらにワインバーグは、真空のエネルギー密度が現在の宇宙の物質のエネルギー密度である2.7×10⁻³⁰g/cm³と同程度以下でなければ、宇宙には我々自身を含む、一切の意味ある構造が生じないことを示しました。これは逆に言えば、我々のような高等生命体が宇宙を観測したときには、つねにこのような小さい真空のエネルギー密度を見い出すということを意味します。

ワインバーグは、このような理由で我々の宇宙の真空のエネルギー密度が小さくなっているのならば、それは将来の観測で見つかると予言しました。なぜなら、この考えでは、真空のエネルギー密度は現在の宇宙の物質のエネルギー密度よりはるかに小さい必要はなく、またそうである理由も存在しないからです。

ワインバーグがはじめにマルチバース理論に関する論文を発表したのは、1987年のことでした。当時は真空のエネルギーはゼロであると考える科学者がほとんどでした。しかし、1998年に宇宙の加速膨張が観測的に捉えられました。このようなことは、宇宙に真空のエネルギーが存在するときにのみ起こります。そのとき、物理学者たちはワインバーグの真空のエネルギー密度とマルチバース理論を予測した論文を思い出したのです。

そうやって真剣に考え出すと、宇宙がたくさんあることを説明する理論が必要になります。そこで、そのようなたくさんの宇宙が、自動的に含まれている超弦理論が再び脚光を浴びます。次に、「たくさんの宇宙は実際にどのようにして生まれるのか」という疑問が生じ、インフレーション理論が注目されました。インフレーション理論では、宇宙が無数に作られ続ける現象である「永久インフレーション」が起こるとされていたからです。こうして、1970年代から1980年代にかけて予測されていた3つの理論が、21世紀に入ってどんどん繋がっていきました。これはすごいパワフルな議論でした。

信じるか、疑うか

「疑うこと」と「信じること」のバランスはとても難しいです。大天才と言われたアインシュタインでさえも、自身が書いた一般相対性理論の式を疑ったことがあります。

式を宇宙に当てはめてみると、宇宙は膨張しているか収縮しているかのどちらかだ、ということになってしまう。当時は、「宇宙は常にそこにあるもの」と考えられていました。アインシュタイン自身も、そう考えていました。そこで、一般相対性理論の式をいじって、無理やり「宇宙は膨張も収縮もしていない」という理論にした。ところがその直後に、宇宙は膨張している、という観測結果が出てしまいました。アインシュタインは、相当ショックを受けたそうです。

1960年代に、ワインバーグとアブドゥス・サラム氏によって、2つの力を統一的に扱う「電弱統一理論」が発表されました。ワインバーグも、発表後に電弱統一理論の式に手を加えようとしました。最初に発表した式では、弱い力には、「荷電カレント相互作用」と「中性カレント相互作用」の2種類があるはずでした。でも、実験的に中性カレントが検出されなかったんです。

ワインバーグは、中性カレントが発生しないように電弱統一理論の式を変えようとしました。ところが3年後、中性カレントが発見されました。ワインバーグは、「科学者として一番脂がのっていた3年間を無駄にした」と晩年まで言っていたらしいです。

サイエンスの世界で「信じる」ためには、証拠がなければいけません。でも、理論の全てが実験で調べられて証拠が得られるわけではない。ある程度までの証拠を得た段階で、次のステップに行かなければなりません。段階の見極めには、センスが求められる。どのような研究テーマを選ぶのか、ということも同じです。いい研究テーマの選び方があるのだったら、教えてほしいですね。

結局は、自分のセンスを信じて、研究テーマを選ぶしかないですよね。研究者としてのキャリアを築いていくにあたって、若いうちから一流のところに身を置いて揉まれることで、センスは磨かれていきます。

ノーベル賞を受賞した学者の弟子が、後年になってノーベル賞を受賞する、ということはよくある話です。だから、僕は学生には、できる限りいい研究機関に行って、トップの学者と交わるように言っています。学ぶだけなら教科書を読むだけで十分ですが、研究者としてのセンスを磨くため、高いレベルでディスカッションをしてほしい、と思います。もちろん、最終的にはちょっとした運も必要にはなりますが。
2024.08.13 12:32 | 固定リンク | 化学
植田総裁の政策金利上げで潤うのは金融機関だけ「植田総裁の天下り確保できた」
2024.08.06
植田総裁の政策金利上げで潤うのは金融機関だけ、「植田総裁の天下り確保できた」

最近のニュースによると、世界的な株価が大幅に下落しています。特に東京市場では、日経平均株価が過去最大の下げ幅を記録し、4451円28銭安い3万1458円42銭で取引を終えました。ニューヨーク市場も同様に急落しています。

日本銀行は31日に開いた金融政策決定会合で、追加利上げを決めた。政策金利である短期金利の誘導目標は8月1日付で、0~0・1%程度から0・25%程度へと引き上げる。このような状況は、経済に大きな影響を与える可能性があります。明らかに総裁の決断は間違っている。政策金利を上げれば雇用統計が下がり失業者が増す。国内企業の活動が減速デフレへと逆戻り、さらに「GDP」が下がり最悪な経済へとなり下がります。

日銀の政策金利上げの裏話は金融機関を優遇したもの利上げで潤った額は1兆8000億円、さらに貸出利息も増え住宅ローン、は直ぐに上がりませんが各企業の貸し出し金利は直ぐあがります。

その植田総裁に反発してか、早速日経平均株価が反応!、5日、東京株式市場はかつてない“パニック安”となりました。株価の歴史的な暴落で、証券会社は鳴りやまない電話の対応に追われました。株価下落は日本だけでなく世界各地で起きています。

5日午後8時頃、東京・銀座投資家バー「STOCK PICKERS」では…

大町怜央フィールドキャスター
「投資家が集まる投資家バーではきょう(5日)の株価が表示されていますが、マイナスを示す赤一色になっています」

歴史的な、“大暴落”の日に、話題はやはり…

「日経、下げすぎですよね」

5日の日経平均株価です。

──この下落は歴史的?

「歴史的だと思います。ただ慌てることではないと。日経平均は(いつかは)上がっていくものだと信じているので」

その投資家たちが口にしていたのが、「ブラックマンデー」というカクテル。

大町キャスター

「かなり苦いですね…」


記者(5日午後3時すぎ、東京証券取引所)
「東京株式市場、歴史的暴落の日となりました。日経平均株価の下げ幅は過去最大となりました」

週明けの東京株式市場で、日経平均株価は過去最大の下げ幅となり、先週末に比べ4451円28銭安い3万1458円42銭で取引を終えました。

1987年にアメリカで株価が大暴落したブラックマンデー。その翌日に記録した下げ幅を超え、過去最大の下げ幅を更新しました。

半年前、バブル超えの最高値に沸いた都内の証券会社。5日は売り注文の相談が殺到し、電話が鳴りやまず─

証券会社の担当者(5日午後)

「下げ止まんないから、売りがどんどん絶え間なく出てくるような悪循環」

「パニック安」の引き金となったのは、アメリカの景気後退への懸念と、先週、日銀の利上げなどをうけて進んだ円高です。

年明けから上昇を続け、2月にはバブル超えの最高値を更新した日経平均株価。7月には4万2000円台まで上がりましたが、下旬頃から大幅下落を繰り返し、先週金曜日(2日)は3万5000円台に。

そして5日、4500円近い史上最大の下げ幅となりました。

   ◇

株価下落は、日本のみならず、ヨーロッパの株式市場でも5日、代表的な株価指数が3パーセントを超える下落。ことし2月以来の安値をつけました。

そして日本時間5日午後10時半頃に開いた、週明けのニューヨーク市場。取引開始直後から売りが広がり、ダウ平均株価の下げ幅は、一時1200ドルを超えました。市場では景気後退への懸念が広がっています。

専門家は、今後の“アメリカの景気がカギを握る”と指摘します。

野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏

「アメリカの景気後退という不安が、多少なりとも和らいでいけば、日本株も落ち着いていくと」

逆に、株価下落が続けば、株を買っていない人にも影響が出かねないといいます。

野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏

「円高が進み、株が大幅に下がってくると、企業は先行きの不安が非常に高まるので、賃上げなどを抑えてしまう可能性があります」

長期的には市場の不安定さが増すことも考えられます。金融市場の混乱で株式市場や為替市場が不安定になり、不動産市場にも波及し、価格が大きく変動する可能性があります。
2024.08.06 12:04 | 固定リンク | 経済
日本航空123便自衛隊による誤射で墜落後「隠蔽の為火炎放射器で焼かれた」
2024.08.03
1985年8月12日に御巣鷹山に墜落した日本航空123便について、自衛隊の誤射が原因であるという説が一部で提唱されています。事故の原因は機体の後部圧力隔壁の破損によるものであるといます。

この事故は非常に悲惨なもので、520人が犠牲となり多くの命が失われました。事故当時自衛隊の誤射で尾翼の一部が損傷、事故の真相については公式な報告書が存在し、それに基づいて原因が解明されています。

米軍は事故現場を最初に発見し、救援活動を行う準備が整っていましたが、日本側が米軍の救助を断ったため、実際の救助活動が開始されたのは翌日の日の出後となりました。しかしその際事故の実態隠蔽のため自衛隊は火炎放射器において完全に焼却した。遺体は激しく損壊し、ちゃんとした状態で家族の元に戻った遺体の方が少なかったそうです。

墜落現場では首と胴体が繋がっている遺体の方が少なかったそうで、家族の元に腕や足だけが戻ったケースもあったらしく、まさに阿鼻叫喚の光景だったと思われます。また、怒り狂った遺族が日航職員に詰め寄り、うちの娘と違う! あんなの人間の遺体やない! と叫んでいたそうです。

1985年8月12日18時12分に、大阪に向けて羽田空港を飛び立った日航123便は、同日18時56分に御巣鷹の尾根に墜落した。乗客乗員524人中、520人が死亡するという、一機では、世界最大の航空機事故となった。

事故の原因は、その後の運輸省の調査で、機体後部の圧力隔壁が破損し、そのときの圧力で尾翼の一部が吹き飛んで、油圧装置も破壊され、そのことで機体のコントロールが不可能になったことだとされた。機体は、過去に伊丹空港で尻もち事故を起こしており、そのときに破損した圧力隔壁をボーイング社が修理した際、十分な強度を持たない方法で行ったため、それが破損につながったとされたのだ。いまでも、この公式見解は一切変更されていない。

しかし、この事故原因に関しては、当初から様々な疑念が呈されてきた。例えば、圧力隔壁が破損すれば、急減圧で機内に濃い霧が発生する。それは、過去の機体破損の事故で共通して起きている。しかし、123便では、薄い霧は発生しているものの、機内が見通せなくなるほどの霧は、発生していないのだ。そしてこの事故で最大の疑問は、墜落現場の特定が大幅に遅れたことだ。墜落時間は、8月12日の18時56分だが、地元の消防団員が生存者の落合由美さんを発見したのは、翌日午前10時54分だった。

自衛隊が現場を特定したのも、公式には翌朝になってからということになっている。すぐに救出に向かえば、多くの人命が救えたにもかかわらず、現場の特定が大幅に遅れたのだ。

しかし、内陸部に墜落したのだから、機体は直前まで、確実にレーダーで捉えられていたはずだし、近隣住民も火の手が上がるのを目撃している。当時、地元の自治体からは県や国に通報もなされているのだが、なぜか墜落現場は、現場とは無関係の長野県とされるなど、翌朝まで報道が二転三転し、特定されなかったのだ。

もっと不思議なことは、米軍が墜落直後に横田基地から輸送機を現場に飛ばし、上空から山が炎上するのを確認し、自衛隊に通報するとともに、米軍輸送機の誘導で厚木基地を飛び立った米軍の救難ヘリが現場に到着しているのだ。だが、救援ヘリは、救助開始寸前に作戦中止を命じられ、何もせずに引き返している。つまり米軍は最初から墜落現場を完全に特定していたにもかかわらず、何故か日本政府には伝わっていないことになっているのだ。

なぜこんな話を書いているのかというと、今年7月に青山透子氏が『日本航空123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』(河出書房新社)という本を出版したからだ。青山氏は当時日本航空で働いていた客室乗務員で、事故機には彼女が一緒に仕事をしていた同僚たちが乗り込んでいたこともあって、事故の真相を探ろうと、あらゆる文献を収集整理し、目撃者証言を集めて、いわば人生をかけた調査に取り組んできた。そして、書籍のなかで、重大な事実を指摘したのだ。

予め断っておくと、123便の墜落事故に関しては、これまでもあらゆる陰謀説が唱えられてきた。しかし、青山氏の今回の指摘は、そうした根拠不明の陰謀説とは一線を画すものだ。青山氏は、東京大学の大学院を出て、博士の学位も取っている。東大を出ているから正しいというのではない。博士論文は厳密な審査が行われる。そのため論文には明確な根拠が求められる。憶測で書くことは許されないのだ。その論文作成の姿勢は、この本でも貫徹されている。証拠となる文献、そして実名での証言を集めて、青山氏は厳密な論証を行っているのだ。

この本のなかでまず注目すべきことは、墜落直前の123便を2機の自衛隊のファントム機が追尾していたという複数の目撃証言だ。この証言のなかには、当時の小学生が事故の状況を綴った文集のなかでの証言も含まれている。子どもたちがうそをつくはずがない。しかし、この証言を前提にすれば、日本政府は、当初から墜落現場を完全に把握していたことになる。

それでは、公式に機体を発見したとされる翌朝まで、自衛隊は一体何をしていたのだろうか。本書に掲載された証言によると、現場にはガソリンとタールをまぜたような強い異臭がしていたそうだ。また、現場の遺体は、通常の事故では、あり得ないほど完全に炭化していたという。自衛隊を含む軍隊が使う火炎発射機は、ガソリンとタールを混合したゲル状燃料を使用している。つまり、墜落から翌朝までの間に、何者が証拠隠滅のために強力な燃料で焼き尽くしたのではないかということだ。

消すべき証拠とは何か。青山氏の著書によると、123便から窓の外を撮った写真を解析すると、オレンジ色の物体が飛行機に向かって飛んできているという。それは地上からも目撃されている。

青山氏は、次のような可能性を提示している。自衛隊の訓練用ミサイルなどの飛行体は、オレンジ色で塗られていた。何らかの理由で、その飛行体が123便の尾翼を破壊したため、123便は制御不能に陥ったのだ。

もしこの推測が正しいとすると、日本政府としては、とても受け入れられる事故原因ではなかっただろう。というのも、事故当時、私は経済企画庁総合計画局で働いていたのだが、国会では、防衛費がGNP比1%以内に収まるのかどうかが、連日、議論の的となっていたからだ。総合計画局の産業班は、「防衛班」と呼ばれるほど、1%問題の国会答弁作成に追われていた。

当時は、野党が防衛費の膨張を強く非難し、国民の自衛隊に対する感情も、いまほど理解あるものではなかったのだ。そうした環境のなかで、自衛隊の不祥事は許されない状況だった。

しかし事件から30年以上経過したのだから、政府は国民に真相を明かすべきだ。それは、森友学園や加計学園よりも、はるかに重要な問題だと私は思う。なぜなら、この事件のあと、日本は以前にもまして対米全面服従になったからだ。事故の翌月には、ニューヨークのプラザホテルで「プラザ合意」が結ばれ、協調介入によって極端な円高がもたらされ、日本は円高不況に突入した。日本の安定成長が失われた大きなきっかけとなったのだ。それだけではない。

1993年には宮澤総理とクリントン大統領の間で年次改革要望書の枠組みが決められ、それ以降、日本の経済政策はすべてアメリカの思惑通りに行われるようになった。事故の原因を作ったとされるボーイング社は、もしこれが事件だとすると、罪をかぶった形になったのだが、その後、着々と日本でのシェアを高め、いまや中型機以上では、ほぼ独占状態といってもよい状況を作り上げている。

123便の事故に関しては、これまで、何度も事故原因の再調査が政府に申し入れられたが、日本政府や日本航空はまったく動く気配がない。しかし、2年前、私の心に希望の光が差し込んできた。あるニュースが飛び込んできたからだ。そのときに保存していたニュースを再掲する。

それは新たなニュースで垂直尾翼など吹き飛んだ機体の多くは海に沈み、今も見つかっていません。ANNは情報公開請求で得た資料などから、残骸が沈んでいるとされる相模湾の海底を調査し、123便の部品の可能性がある物体を発見しました。

先月29日、静岡県東伊豆町の沖合約2.5km、123便の推定飛行ルートの真下にあたる水深160mの海底で撮影された映像です。右側のパネル状の部分は四角形に見え、側面にある黒い部分には数字などが書かれています。カメラとの距離などから調査にあたった専門家は、1.5mから2mほどの大きさではないかとしています。当時、事故調査委員会のメンバーとして墜落の原因を調べた斉藤孝一さんは「この映像だけでは分からない」としたうえで、123便の残骸である可能性を指摘しました。

当時の事故調査官・斉藤孝一さん:「仮に航空機の部品だとすると、『APU』のまわりに取り付いている『コントロールボックス』といわれてるようなもの」

APUは機体後部にある補助エンジンで、客室に空気を送ったり電気を付けたりする役割があります。斉藤さんは圧力隔壁の破壊という事故原因は変わらないとしたうえで、残骸が見つかれば事故の状況がより詳細に分かる可能性があるとしています。

123便を巡っては、相模湾上空でのトラブルの際に機体から落ちた垂直尾翼の大半やAPUを含む機体後部の部品が見つからないまま、事故から1年10カ月後に調査が終了しています。国の運輸安全委員会はこの映像を見たうえで、「当委員会としてのコメントは差し控えさせて頂きます」としています。

相模湾の海深く沈んでいると言われてきた翼も、この近辺の浅い海に沈んでいる可能性が高いのだ。尾翼が見つかれば、事故原因がはっきりする。もしも、訓練用のミサイルが尾翼を直撃したのであれば、尾翼の残骸にオレンジ色の塗料が付着していると考えられるからだ。ところが、日本政府や日本航空は残骸の引き上げに動こうとしない。それどころか、これだけ重大なニュースであるにもかかわらず、テレビ朝日も、その他のメディアも一切続報を出さないのだ。

日米関係がいったい何に立脚しているのか。本当のことを追及していかなければならない。それが、私を含めたメディアで働く人間の義務だろう。
2024.08.03 14:31 | 固定リンク | 事件/事故
量子テレポーテーション転写に成功
2024.08.01
横浜国立大学の研究チームが世界初の量子テレポーテーションに成功したと発表しました。この実験では、光子の量子状態をダイヤモンド中の炭素同位体に転写し、長時間保存することに成功しました。この成果は、量子通信の分野で大きな進展をもたらすと期待されています。

量子テレポーテーションは、情報を物理的に移動させるのではなく、量子状態を遠隔地に再現する技術です。これにより、盗聴のリスクを大幅に減らし、より安全な通信が可能になります。

量子テレポーテーション転写に成功

光子の量子状態をダイヤモンドに保存、量子通信に新展開

研究背景

量子通信は、基本的な物理法則である量子力学の性質を利用し、盗聴者の計算能力や技術レベルに依存しない強固な安全性を保証する暗号通信技術です。量子でできた暗号鍵を自動配信(QKD)することで、ネット上の個人情報を安心してやり取りできるようになります。既に光子が届く100km程度の距離では東京 QKD ネットワーク情報通信研究機構(NICT)の主導で首都圏エリアに形成された量子通信網のテストベット。量子中継はまだ導入されておらず、現状では光子が光ファイバー中を伝わる限界の100km程度以内の距離に留まる。現在も運用試験が日夜行われている。

など実用化へ向けた運用試験が進められているものの、数100km以上の都市間ネットワークを構築する決定的な方法が見つかっていませんでした。

例えば、従来の方法で1000kmの量子通信を行おうとすると、一回線でおよそ1000年に1ビットの情報しか送信できません。この理由は、光子が光ファイバー中を伝わる距離がおよそ100kmに制約されているためです。この制約を克服するためには、量子テレポーテーションと呼ぶ原理で光子が一度では届かない遠方に量子状態0や1といった2状態だけでなく、0+1や0-1といった量子的な重ね合わせを許す状態。一般的に光子や電子といった素粒子がもつ状態だが、分子やマクロな系でも量子状態を持ちうる。

を再生する量子中継が不可欠です。このためには、光子が届く数10km毎に配置した量子ノード間に量子もつれを生成し、量子ノード内で量子もつれを検出する必要があります。

従来の中継方式は、直接光子が届く区間毎に量子通信を行い、これを接続する中継ノードではいわゆる古典的な中継を行うものでした。しかしながら、この方式では各区間での絶対安全性は確保できるものの、中継ノードでの絶対安全性を保証することはできないという致命的な問題がありました。

今回の成果

今回、小坂教授らの研究グループが考案した手法は、上に述べた従来の古典的な中継手法とは全く異なる完全に量子的な中継方式です。中継ノードは量子メモリーとなるダイヤモンド中の核子を持ち、光子の量子状態は電子を介して核子に量子テレポーテーション転写されます。このような量子テレポーテーション転写を各区間で行い、古典測定ではなく量子測定を行うことで、盗聴者には絶対に情報漏えいのない量子中継が可能となります。

より正確には、本成果は第三世代量子通信を可能とします(図1)量子通信の現状と本成果の意義 現状の量子通信は100km程度の短距離でしか絶対的安全性は確保できない。本成果により、距離を1000km以上に拡張しても物理法則で絶対安全性が確保された量子通信ネットワークを実用化できる。

第二世代は200km程度と比較的短距離であるため一回だけの量子中継で十分であり、確率的量子中継という量子メモリーを必要としない中継方式で実現できます。これに対し、1000km程度と長距離になると、決定論的量子中継という量子メモリーが必要な方式が要求され、これまでは実現の目途が立っていませんでした。

本成果で示した量子テレポーテーション転写では、転写が決定論的に行われることから、この第三世代量子中継の実現に一歩迫ったと言えます。本方式では、仮に光子送信レートを毎秒1ギガビットとし中継区間を50kmとすると、1000kmの量子通信路一回線で毎秒100メガビットの情報が送信できます。

量子テレポーテーションにはあらかじめ原子内に量子もつれを用意する必要があります。

これには物質に内在する量子もつれを利用します。原子を構成する電子と核子のスピンは超微細相互作用、電子と核子の間に働く量子的な力。弱いながらも電子スピンと核スピンを量子もつれ状態に導くのに十分な効果がある。という量子もつれを導く力でつながっています(図2)ダイヤモンド内の量子もつれを利用した量子テレポーテーションあらかじめ電子と核子を量子もつれ状態とし、その後に衝突した光子が 電子を特定の軌道に励起した際、光子の量子状態は瞬時に核子に転写される。

我々はマイクロ波やラジオ波でこの量子もつれを純粋化することから始めました。次にこの量子もつれを種とし、先の論文(Physical Review Letters、2015 年掲載 小坂ら)で実証した吸収による量子もつれ検出の応用で光子の量子状態を核子に転写することに成功しました。

動作原理と実験内容

量子テレポーテーションの動作原理を図3

量子テレポーテーションの動作概略、あらかじめ量子1と量子2を量子もつれ状態とする。その後、量子3が量子1と衝突する。量子1と量子3の量子もつれ検出が成功した瞬間に量子3の量子状態が量子2に転写される。に示します。あらかじめ量子1と量子2を量子もつれ状態に準備しておきます。本成果ではこれをマイクロ波やラジオ波の照射で実現しています。

その後、量子3を量子1に衝突させます。その際に、量子1と量子3が特定の量子もつれ状態にあることを検出した際に、量子3の量子状態が量子2に転写されます。

次に、今回行った実験の説明を行います。実験にはダイヤモンド中の欠陥の一種である窒素空孔欠陥(NV中心)を用いました。その窒素核子はスピンこまのような自転回転に例えた量子状態。上向き(↑)と下向き(↓)だけでなく、これらの量子的重ね合わせ状態である↑+↓、↑―↓など位相の自由度をもつ。光子の振動の方向を意味する偏光と似た量子的な性質を持つ。と呼ぶ性質をもち、今回示したように10秒間以上も量子状態を保持できると同時に光子の吸収効率も高く、第三世代量子中継に不可欠な量子メモリーとして最適です。

今回開発した量子テレポーテーション転写の量子回路は、図4

に示すように①電子と核子の初期化、②電子と核子の量子もつれ生成、③光子と電子の量子もつれ検出の3つの回路ブロックに分けることができます。

一見不必要に見える電子を介して光子から核子に量子状態を転写することで、従来は確率的であった転写が決定論的となります。これが決定論的中継を必要とする第三世代量子中継の要素技術となります。図5に示した実験データは、入射する光子の偏光位相を変えることで転写の忠実度を調べたものです。本実験により光子から核子への量子テレポーテーション転写の忠実度が90%以上であることを実証しました。

今後の展開

先の説明では量子テレポーテーションの準備として量子もつれが必要でしたが、これにはやはり物質に内在する量子もつれが利用できます。原子を構成する電子と核子のスピンは超微細相互作用電子と核子の間に働く量子的な力。弱いながらも電子スピンと核スピンを量子もつれ状態に導くのに十分な効果がある。という量子もつれを導く力でつながっています(図4)。

今回開発した量子テレポーテーション転写の量子回路 量子回路は、①電子と核子の初期化、②電子と核子の量子もつれ生成、③光子と電子の量子もつれ検出の3つの回路ブロックに分けることができる。電子を介して光子の量子状態を核子に転写することで、従来確率的であった転写が決定論的となる。


この量子もつれを種とし、発光による量子もつれ生成と吸収による量子もつれ検出で量子テレポーテーションを繰り返すことで、量子もつれの距離を延ばすことができます。これにより、物質本来の量子もつれを起源とした量子通信ネットワークの実現を目指して研究を進めます。

総括

今回の成果は、物質に内在する量子もつれの力を引き出すことにより、従来の量子中継である「たまたま繋がる」確率的中継方式から、「確実に繋がる」決定的中継方式に転換するための鍵となります。一旦種となる量子もつれを作っておけば、後はただ待つだけで光子の発光と吸収を繰り返し、光子が届かないような遠距離にも暗号の鍵となる量子状態を再生できるようになります。

情報通信は盗聴だけでなく、さまざまなサイバー攻撃の危機にさらされており社会的問題になっていますが、国家的あるいは世界的な規模の量子通信ネットワークを構築できれば、物理法則によって安全性が保証された安心で健全な情報化社会を継続的に発展させることができます。

図5 今回実証した量子テレポーテーション転写の実験データ 入射する光子の偏光位相を変えることで転写の忠実度を調べたものである。90%以上の忠実度を実証した。


用語解説

注1)光子

電子が電気あるいは電流の基本単位となる粒子であるように、光子は光の基本単位となる粒子である。いずれも典型的な素粒子であり、量子でもある。電子は量子メモリーに適す一方、光子は量子伝送に適す。光子はエネルギーや力を媒介する素粒子として知られるが、ここでは量子状態を媒介する量子として光子を用いる。

注2)量子通信、量子計算

量子通信とは、量子力学の原理を応用し、共通の秘密鍵を離れた 2 者間に安全に配送する技術。この秘密鍵を用いて秘匿通信を行うことができる。量子鍵配送のイニシャルをとり QKD とも呼ばれる。この技術の延長線上には、量子の超並列処理特性を利用した量子計算がある。

注3)量子テレポーテーション

量子中継の基本原理。量子もつれ[注4]にある二つの量子を用意し、この片方と別の量子との間の量子もつれを測定することで、直接は相互作用していない他方
の量子に量子状態を再生するもの(図1参照)。

注4)量子もつれ

2つの量子の間に量子的な相関がある状態。量子的な相関とは、片方を測定したとき、その測定の種類に関わらず他方も同じ測定をしたとき一対一に対応す
る結果を得るもの。

注5)量子中継

光子が届かない遠方に量子を送るための手段。通常の通信で行われる光子数を増やす中継とは本質的に異なり、一光子を多段に用いて量子を次々と転送して
いく。いわゆる量子テレポーテーション[注3]を動作原理とする。

注6)東京 QKD ネットワーク

情報通信研究機構(NICT)の主導で首都圏エリアに形成された量子通信網のテストベット。量子中継はまだ導入されておらず、現状では光子が光ファイバー中を伝わる限界の100km程度以内の距離に留まる。現在も運用試験が日夜行われている。

注7)量子状態

0や1といった2状態だけでなく、0+1や0-1といった量子的な重ね合わせを許す状態。一般的に光子や電子といった素粒子がもつ状態だが、分子やマクロな系でも量子状態を持ちうる。

注8)超微細相互作用

電子と核子の間に働く量子的な力。弱いながらも電子スピンと核スピンを量子もつれ状態に導くのに十分な効果がある。

注9)スピン

こまのような自転回転に例えた量子状態。上向き(↑)と下向き(↓)だけでなく、これらの量子的重ね合わせ状態である↑+↓、↑―↓など位相の自由度をもつ。光子の振動の方向を意味する偏光と似た量子的な性質を持つ。

謝辞

本研究は情報通信研究機構(NICT)高度通信・放送研究開発委託研究、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)ならびに科学研究費補助金基盤研究 A(課題番号 24244044)の支援のもとに行われました。

なお、NICT 委託研究は日本電信電話株式会社(NTT) 物性科学基礎研究所 清水薫主幹研究員、William Munro 主幹研究員、国立情報学研究所(NII) 根本香絵教授、大阪大学 水落憲和教授、東京大学 中村泰信教授との共同研究です。


世界初!量子テレポーテーション転写に成功
~光子の量子状態をダイヤモンドに保存、量子通信に新展開~

横浜国立大学大学院工学研究院の小坂英男教授と Stuttgart 大学(ドイツ)のグループは、量子通信に用いる光子[注1]を量子メモリー[注2]となるダイヤモンド中に量子テレポーテーション[注3]の原理で転写して長時間保存する新原理の実証に、世界で初めて成功しました。

今回の成功は、核子と量子もつれ状態[注4]にある電子に光子を吸収させるだけで、直接作用しない核子に光子の量子状態を転写し、長時間保存可能なことを示す画期的な発見です。

今回得られた結果は、量子中継[注5]の基本原理である量子テレポーテーションを極めて単純な原理で実現し、光子の量子状態を直接は届かない遥か遠方に高速かつ確実に再生かつ長時間保存できることを示唆するもので、物理法則で絶対的な安全性が保証された量子通信網の飛躍的長距離化・高信頼化に道を開くものと期待されます。

本研究成果は、2016年6月6日(英国時間)発行の科学雑誌「Nature Photonics」に掲載されます。なお、本研究は情報通信研究機構(NICT)高度通信・放送研究開発委託研究、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)ならびに科学研究費補助金基盤研究 A(課題番号 24244044)の支援のもとに行われました。

発表雑誌

雑誌名:Nature Photonics

論文題目:High-fidelity transfer and storage of photon states in a single nuclear spin(光子状態の単一核スピンへの高忠実度転写と保存)

著者:Sen Yang, Ya Wang, Thai Hien Tran, S. Ali Momenzadeh, M. Markham, D. J.Twitchen, Rainer Stoehr, Philipp Neumann, Hideo Kosaka(小坂英男), Joerg Wrachtrup

本件に関するお問い合わせ先

横浜国立大学 大学院工学研究院 教授 小坂 英男

Tel/Fax:045-339-4196 Email:kosaka@ynu.ac.jp http://kosaka-lab.ynu.ac.jp


余談ですが量子テレポーテーションは世界中で活発に研究されており、さまざまなアプローチが試みられています。

その中でも例えば、中国の研究チームは、地上から衛星への量子テレポーテーションに成功しました。この実験では、地上から500キロメートル以上離れた軌道を周回する衛星に光子をテレポートすることに成功しています。

また、大阪大学や東京大学の研究チームも、特殊な磁性体中に存在する「マヨラナ粒子」の量子もつれを利用した量子テレポーテーション現象を理論的に解明しています。
2024.08.01 20:29 | 固定リンク | 化学

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