量子「AI」融合で何をもたらすのか?
2024.04.02
量子コンピューターにAI機能を組み込むことで、AIの可能性は大きく広がります。量子コンピューターは、従来のコンピュータとは異なる計算原理を用いており、特に「重ね合わせ」と「量子もつれ」という量子力学の特性を活用することで、膨大な計算を高速に処理する能力を持っています。

AIに量子コンピューターの力を加えることで、機械学習のプロセスが飛躍的に加速され、より複雑な問題を解決できるようになると考えられています。例えば、量子コンピューターを利用したAI(量子AI)は、少ないデータで効率的に機械学習アルゴリズムを作成することが可能になるかもしれません。

また、生成AIにおいても、量子コンピューティング技術は新たなソリューションを提供する可能性があります。これにより、AIが創造するアートや音楽、文学作品などのクオリティが向上し、人間の創造性を補完する形で活用される未来が期待されています。

量子コンピューターとAIの融合は、科学研究、医療、金融、物流など多岐にわたる分野で革新的な変化をもたらすことでしょう。ただし、この技術の発展には倫理的な考慮と適切な規制が必要であり、そのバランスを取ることが今後の課題となります。

量子AIの具体的な応用例

最適化問題

量子コンピューターは、複雑な最適化問題を高速に解くことができるため、物流やスケジューリングなどの分野での応用が期待されています。

創薬と分子シミュレーション

新しい薬剤の発見や分子の挙動をシミュレートすることで、医薬品開発のプロセスを加速することができます。

機械学習の加速

量子コンピューターは、データ分析やパターン認識などの機械学習タスクを高速化し、AIの学習能力を向上させることができます。

金融モデリングとリスク分析

金融市場の予測やリスク管理において、量子コンピューターはより正確なモデリングを提供することができます。

量子暗号による安全な通信

量子コンピューターは、量子暗号を利用して、より安全な通信システムを構築することが可能です。

気候モデリングと環境研究

気候変動の予測や環境問題の解析において、量子コンピューターは新たな洞察を提供することができます。
これらの応用例は、量子コンピューターとAIの融合によって、従来のコンピューターシステムでは困難だった問題を解決する新しい道を開くことを示しています。

ただし、量子AIの実用化にはまだ多くの課題があり、今後の研究開発が期待されています。また、量子コンピューターの技術的進歩とともに、応用範囲がさらに広がることが予想されます。

量子コンピュータの仕組み

量子コンピュータは、量子力学における「量子の重ね合わせ」という特性を活かして計算処理を行うコンピュータです。回転している量子の「0」と「1」どちらでもあるような状態を利用し、古典コンピュータに比べて膨大な量子ビットによる大量な情報処理を高速で実現します。

量子計算に特化した電子回路「量子ゲート」を用いる量子コンピュータは、「量子ゲート方式」と呼ばれ、「Qubit(「0」と「1」のいずれでもある状態)」と量子ゲートによる計算が可能です。

例えば、10ビットの情報を処理する問題の場合、従来の古典コンピュータでは、2進法により10乗分の計算を網羅的に実施するステップが必要となり、計算回数は1,024回と膨大でした。
一方、量子コンピュータでは、量子の重ね合わせによって、各ビットに「0」「1」2通りの組み合わせを同時に持たせることができ、1,024通りすべてを1度の処理で実行します。

量子ゲートにはさまざまな種類があり、より多く組み合わせることで多様かつ複雑な計算に対応することが可能です。

量子コンピュータの2つの計算方法

量子コンピュータでの計算方法にも種類があります。ここでは、「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2つの量子計算モデルについて見ていきましょう。

量子ゲート方式

量子ゲート方式は、古典コンピュータの回路や論理ゲートの代わりに、量子回路や量子ゲートを用いて計算を行う計算モデルです。量子回路において、計算の手順を示した量子アルゴリズム(回路図)へ計算前に落とし込みます。

その後、量子アルゴリズムに基づいて、適切に量子ゲートを組合せ、量子ゲートの羅列(量子回路)を作成。量子ゲート方式では、この量子回路に従って量子ビットの状態を操作、測定して計算結果として読み出します。

万能な量子計算をこなす最もスタンダードなモデルであり、量子コンピュータ研究の初期から用いられているものです。代表的な量子アルゴリズムであるグローバーのアルゴリズムでは、従来は1億回の計算量が必要であった探索を、理論上1万回に減らすことが可能とされています。

量子アニーリング方式

量子アニーリング方式は、制約条件のもとで多数の選択肢から最適な選択を決定する「組み合わせ最適化問題」に特化したモデルです。1998年に、東京工業大学の物理学者の西森秀稔氏を中心とするグループが提唱しました。

物流分野でコストや移動距離が少なくなる最適な経路探索、勤務条件や個人スキルといった条件をもとに適切な人員配置を決める、といったテーマで活用できます。

量子アニーリング方式は「初期化」「量子アニーリング(計算)」「測定」という3段階構成です。量子ビットに電磁波を加えて重ね合わせ状態を作った後、「0」「1」いずれかに振り分けられた状態へと変化させます。最後に状態を測定して結果を算出することが可能です。

量子コンピュータがAIにもたらす影響

量子コンピュータは、AI(人工知能)や機械学習といったシーンで本格的に活用され始めています。最大の影響として考えられるのが、「量子機械学習(Quantum Machine Learning)」を用いた学習能力の向上です。

AIの研究開発の進化とともに、効果的に活用するために高性能なハードウェアの必要性が急速に高まっています。大量のデータと高速情報処理を必要とする機械学習に、量子コンピュータを組み合わせることで、取り扱えるデータ量と学習回数が増え、従来型では解決できなかった問題の解決にもつながるでしょう。

量子コンピュータは確率論的に答えが導き出される点が特徴です。そのため、機械学習など大量のデータをより効率的に処理することが重視される分野では、量子コンピュータの活躍が期待できます。

量子コンピュータで実現できること

現時点で明確化されている量子コンピュータによって実現できることは、主に以下の項目です。

素数の解明

暗号の解読

ビッグバンや宇宙の謎の解明

素数は「1とその数字以外で割り切れない数字のこと」です。一見法則性がないように並ぶ素数ですが、「無限の素数が存在する」と証明した数学者も登場しています。量子コンピュータの高速処理やアルゴリズム開発によって、現在見つかっている最大の素数よりもさらに大きな素数を効率的に発見できる可能性は高いでしょう。

また、素数の謎が解明されることで、世の中で使われている暗号も圧倒的な早さで解読できるようになるという説があります。さらに、謎に満ちているビッグバンなどの宇宙の謎も、量子コンピュータの実用化が始まれば、一歩ずつ解明されていくかもしれません。

量子コンピュータはまだ開発段階にあり、実用性を持つ量子コンピュータの完成は各企業が掲げるゴールでもあります。今後さらなる研究開発によって進化改良を遂げると推測されており、未知なる可能性を秘めているといえるでしょう。

企業の量子コンピュータへの取り組み

世界的な企業がすでに量子コンピュータの実用化に踏み出している、というニュースが公表されています。Googleが開発した「Sycamore」や、IBMが開発した「IBM Q(Quantum)System One」は非万能量子コンピュータで紹介したNISQ(ニスク)の代表例です。

中でも「Sycamore」は、2019年9月に量子超越性(スーパーコンピュータよりも優れているという証明)を達成していると発表されました。また、「IBM Q(Quantum)System One」は東京大学と日本IBMが共同で、2021年7月より稼働を開始しています。

デンソーやリクルートといった企業は、ニスクや量子アニーリング方式といった量子コンピュータを用いたスマートファクトリーの実現や、顧客ニーズ分析の精度の向上などにおける実証実験をスタートしました。

加えて、IntelやAlibabaなど名だたる企業が続々と量子コンピュータの研究開発に乗り出しており、人材競争も激化しつつある状況です。今後より多くの企業が、量子コンピュータの開発、導入に着手していくでしょう。

量子コンピュータの実現が期待される

量子コンピュータは、量子の特性を活かした計算処理とアルゴリズムを用いた新しいコンピュータです。従来型の古典コンピュータとは異なる仕組みを採用しており、実現によってこれまで解けなかった問題の解消や時間短縮、作業効率化といった恩恵をもたらすと期待されています。

万能量子コンピュータはまだ開発途中であり、エラー耐性やスケーラビリティといった課題はあるものの、伸び代が多いと言い換えることも可能です。無限の可能性を秘めている量子コンピュータの進化に、世界中が期待を寄せています。

量子コンピューティング技術で実現する「量子AI」は何をもたらすのか?

機械学習が、量子コンピュータの重要な用途になるかもしれない。研究者や開発者が、量子コンピュータを使った、より「人間的な」AI(人工知能)の実現の鍵を探しているからだ。課題とメリットは何だろうか。

研究者は長年、コンピュータが量子レベルでデータを処理できるアルゴリズムを研究してきた。そして現在、量子コンピュータの物理的な機能が、この理論にようやく追い付き始めている。これを機に、量子コンピュータを利用したAI(人工知能)「量子AI」を使って、少ないデータで機械学習アルゴリズムを作成できるようになる可能性がある。

ただし、それにはまだ時間がかかる。既存の量子コンピュータは、量子データの符号化、誤り訂正、計算時間について、技術的な制限に直面しているからだ。しかし、より人間的なAIエンジンを実現しようとしている研究者は、これらの課題を乗り越える必要がありそうだ。ニューラルネットワークを中心とした人間の知能の根底には、量子学的な現象があることを示唆する研究成果も登場している。

従来型コンピュータ用のAI改良にも役立つ

いずれにしてもAI研究者は当面、量子AIを構築する新たなアプローチを学ぶことになるだろう。

 「量子コンピュータで動作するアルゴリズム(量子アルゴリズム)は、タスクの種類にかかわらず、従来型コンピュータで動作するように設計されたアルゴリズムとはかなり違う」。IBMの調査部門IBM Researchで量子コンピューティング分野のバイスプレジデントを務めるボブ・スーター氏はそう語る。

 スーター氏は、今日の量子コンピューティングシステムの制約下におけるAIアルゴリズム開発について、やるべきことがまだたくさん残っていると認識している。それでも、量子情報の最小単位「量子ビット」5つ分の商用量子コンピュータ「IBM Q Experience」で動作する、人工ニューラルネットワークに関する初期研究事例もある。この研究事例はパビア大学のチームが公開したものだ。

 短期的には、量子アルゴリズムの研究が、従来型コンピュータで動作するAIエンジンの改良のヒントになる可能性もある。

 「科学者が量子アルゴリズムに関する研究成果を活用し、従来型コンピュータでの機械学習における問題を、より効率的に解決する方法を発見した例がある」とスーター氏は言う。例えばワシントン大学の博士課程の学生であるユーイン・タン氏は、量子AIの研究を経て、優れたレコメンデーションシステムを開発した。

 既存の量子コンピュータに関する初期研究が、従来型コンピュータでうまく機能しそうなAIアルゴリズムの発見につながったケースもある。例としてIBMは、2017年にIT分野の研究開発企業Raytheonの研究開発センター、Raytheon BBN Technologiesと共同で研究を実施した。その結果、量子コンピュータに関する研究の結果を応用し、特定の機械学習タスクをより効率良く実行することに成功した。

その他にも、研究者は量子コンピューティングにヒントを得て、機械学習アルゴリズムを改良できるだろう。より少ないデータでモデルを学習させたり、データ構造の検出や分類の精度を高めたりできる可能性もある。量子コンピューティング企業D-Waveは、こうしたアルゴリズムの活用を支援する機械学習事業部門Quadrantを立ち上げた。

 「量子アルゴリズム自体の改良や、それを応用した研究にはさまざまな方向性がある」と、ヘリオット・ワット大学で工学・物理学部フォトニクスおよび量子科学研究所准教授を務めるマーケル・ハートマン氏は語る。例えば、機械学習アルゴリズムの個別の計算ステップを高速化する方法に注目する研究がある。量子アルゴリズムについて、より低い抽象化レベルで動作する仕組みを探る研究もある。
2024.04.02 18:52 | 固定リンク | AI

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