米大統領選トランプ勝利「バイデン62兆円増税チョンボ」
2024.06.06
11月の米大統領選まで約半年、備えは十分か トランプ氏勝利なら台湾有事は「アジアの問題」に…安倍氏の不在は大きな損失

11月の米大統領選まで約半年となった。

政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス(RCP)」によると、5月初めの時点でドナルド・トランプ前大統領の支持率は46・6%、ジョー・バイデン大統領の支持率は45・1%で、トランプ氏がわずかにリードしている。

ただし、米大統領選は各州で選挙人の数を奪う方式なので、全体的な支持率はあまり意味がない。

RCPによると、優勢・先行しているのはトランプ氏が25州の219人、バイデン氏が20州の215人と拮抗(きっこう)し、接戦州がアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ミネソタ、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ネブラスカの9州104人となっている。

現時点で、ミネソタとネブラスカの11人はバイデン氏だが、残り7州の93人はトランプ氏とみられ、それを含めるとトランプ氏312人、バイデン氏226人で、トランプ氏の優勢が予想されている。

なお、接戦州では勝てば選挙人が取れるが負ければ相手に回るので、最後まで予断を許さない。

トランプ氏は、各種の訴訟を抱えている。特に大きいのが前回の大統領選で敗北した後、連邦議会に暴徒が乱入した事件への関与の疑いだ。

日本の倫理観であれば、一般論として事件当事者でなくても、関与しただけで政治家としては厳しいだろう。三権分立の中、立法と行政は議院内閣制で互いに関係していることは理解していても、司法はそれらとは政治的に独立した存在で、裁判沙汰になるだけで政治家の資格を問われかねないというのが日本の実情だからだ。

他方、米国では「司法も政治の一部」という感覚だ。極論かもしれないが、国民から支持される政治家なら、司法で多少の問題があっても許容されるという雰囲気が米国にはあるようだ。

民主党支持者から見れば、トランプ氏の問題ぶりは許容できない。なので、トランプ氏が大統領に再選すれば、民主主義の危機だと強調する。だが、トランプ氏が再選されても民主主義の結果として米国は受け入れるだろう。

トランプ氏が再選した場合、気候変動問題に関する「パリ協定」から再離脱となり、環境政策は一変する。経済では、中国などを警戒し再び高関税政策を実施するかもしれない。安全保障面でも、欧州が応分の負担をしないなら、米国は北大西洋条約機構(NATO)を離脱すると揺さぶりをかけるだろう。7年前にトランプ大統領が就任した際、各国で見られた混乱がまたあるかもしれないが、今回は各国ともにある程度予測して対応できるのではないか。

日本は先日、麻生太郎自民党副総裁がトランプ氏と面談しており、それなりの対応の備えができているはずだ。ただし、トランプ氏は台湾有事に関して、「台湾はアジアの問題」と言い出しかねないのは心配だ。

■バイデン政権が「手続きミス」で自滅…62兆円が「実質増税」で米国経済がピンチに

62兆円の政府負担

先月末、バイデン政権に手痛い米連邦最高裁判決が二つも出た。

一つは、6月29日ハーバード大などの入試で黒人などを優遇する措置について、米連邦最高裁が違憲判断を下した。米大学では学生の多様性を確保するために積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を用いてきたが、これが排除されることになる。

積極的差別是正措置は、米民主党政権が1960年代から導入してきたものだが、米大学に留学経験がある筆者にとって、わかりにくいものだった。
実際の運用を簡単に述べると、黒人系やヒスパニック系は入試点数に上乗せされ、アジア系は逆に減点されるので、入学試験の点数で合否が決まる日本人からみると奇妙なものだ。

米最高裁は、これまで大学側の学問の自由を根拠に大学入試において積極的差別是正措置を長年認めてきた。多様性はやむを得ない利益であり、大学などが行っている積極的差別是正措置は、他の志願者に不要な不利益をもたらさないよう制限されているとの判断を示していた。

しかし、最高裁判事は、トランプ前大統領が保守派判事を3人任命したことで保守派が多数となった。

政策の「手続きミス」
もちろん、これらの一連の最高裁の判断には、最高裁判事についてトランプ前大統領が保守派判事を3人任命したことで保守派が多数となったことがある。

判例が明白な誤りとみられる場合は見直す姿勢を示していたので、それが実行された。その背景には最高裁判事で保守派が増えたことがあるが、社会での価値観が保守派に傾いていることもあるだろう。

人工妊娠中絶の是非は、かなり価値観に属するところだ。積極的差別是正措置の是非については、結果の平等を求めるか、機会の平等を求めるかという問題に帰着し、これも各々の価値観にかなり依存する。ただし、機会の平等に力点を置くのは、競争の重視である。

29日の判決後の政界の反応が好対照だ。バイデン米大統領はホワイトハウスで「裁判所の決定に断固反対する」とし、包摂的で多様な学生構成になるような有効な措置とそれを制限する措置について検証するよう教育省に指示するとした。

一方、トランプ前大統領は「米国にとって素晴らしい日だ」とし「並外れた能力と成功に必要なもの全てを備え、将来わが国に偉大さをもたらす人が、ついに報われる」とした。

バイデン政権による学生ローン返済免除の是非は、価値観の違いもあるが、政治を優先しすぎた政策の「手続きミス」の側面が強い。

というのも、バイデン政権は、2020年の選挙公約で連邦学生ローンの一部の返済を免除することを掲げていた。2022年8月、バイデン大統領は、連邦議会が教育省に与えた権限に基づき、連邦学生ローンの債務1万ドルを免除すると宣言した。

「増税」になるようなもの

アメリカには連邦政府を貸し手とする連邦学生ローンの借り手が4500万人おり、その総額は1.6兆ドル(230兆円)だ(2022年8月時点)。これらの借り手のうち、返済義務のない連邦奨学金(ペルグラントと言う)を受給している者については2万ドルを、非ペルグラント受給者については年収12万5000ドル未満であれば1万ドルまでの返済を免除するというのが、バイデン政権の打ち出した政策であった。

ただし、これはバイデン政権が打ち出した当初から、かなり法的な疑問があった。バイデン大統領のいう「連邦議会が教育省に与えた権限」とは、2003年学生高等教育支援法(The Higher Education Relief Opportunities for Students Act of 2003;HEROES法)で、バイデン政権ではその権限により返済期限の延期も債務免除できると考えていた。

民主党のナンシー・ペロシ下院議長ですら 2021年7月、「一般的に、米国の大統領が債務免除の権限を持っていると考えられているが、そうではない。(債務返済を)延期することはできるが、免除する権限はない。議会の決定が必要」と述べていた。

実際、バイデン大統領と前任の共和党トランプ氏はともにHEROES法により、コロナ下での学生ローン借り手の経済的負担を軽減するため、学生ローンの債務返済を延期した。

しかし、バイデン政権は、HEROES法を拡大解釈し、債務免除を公約にし、それを実施した。そこで、法律問題が発生し、今回の米連邦最高裁の判断に至ったわけだ。2020年のバイデン政権発足直後は、上院も下院も民主党優勢だったのであるから、もう少し丁寧に議会運営すべきだったし、もっと早く公約を実現すべきだった。

6月30日の米連邦最高裁判断に対するホワイト政府の声明は情けない。「裁判所の決定は間違っている」といい、別のアプローチの救済策を打ち出したようだ。

しかし、そうした救済策(最高裁が認めなかった法律とは別の法律を根拠とした救済措置)もうまく行くという保証はない。というか、最高裁判断の抜け穴とみられ、否定される可能性も少なくない。その場合、上述の通り停止命令が出された昨年11月までに2600万人超が申請した4300億ドル(約62兆円)の債務帳消しがパーになると、米国経済への悪影響もある。

最大62兆円のバラマキをしたのに、それが一転「増税」となるようなものだ。

景気が下ぶれする

しかも、バイデン政権では、今年6月、共和党との間で交わされた債務上限引き上げ合意の一環として、学生ローン返済の猶予を9月末をもって終了させる法案に署名している。

そのため、連邦政府の学生ローンは9月1日から再び利息が発生し、借り手は10月から返済を再開する必要がある。それに追い打ちするように、債務返済を免除されていたはずなのに、返済も必要となれば、米国経済に悪影響があるだろう。

米国経済は、バイデン政権の200兆円にも達するコロナ対策で、コロナ収束後、景気過熱でインフレ率が高くなった。FRBが必死もインフレを抑え込んだが、今度は「債務返済」という逆対策で景気が下振れするかもしれない。

これまで、米国の金融引き締めで、円安を進んでいたが、バイデン政権の対策によっては、円安の潮目が変わる可能性がある。
2024.06.06 19:33 | 固定リンク | 国際

- -