中国軍は見掛け倒し=不正横行
2024.06.11
中国軍の動向を長年研究してきたラビ・シャンカル元インド陸軍中将が11日までに時事通信のオンラインインタビューに応じた。習近平政権は同日閉幕の全国人民代表大会(全人代)で前年比7.2%増の今年の国防予算を決めるなど、軍拡を進めている。しかし、シャンカル氏は、中国軍で不正が横行し、兵器の管理もずさんだと指摘。「中国軍は見掛けよりもはるかに弱い」との見方を示した。発言要旨は次の通り。

 ―中国は今年も国防予算が大幅増となった。

2024年国防費は7.2%増の34.9兆円-5年ぶりの大幅な伸び

中国の今年の国防費が前年比で7.2%増と、ここ5年で最大の伸びになることが分かった。内部の腐敗が軍の刷新を阻害している兆候がみられる中でも国防費を大幅に増やした。

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕する5日にブルームバーグが確認した財政省の年次報告によると、2024年の国防費(中央政府分)は1兆6700億元(約34兆9000億円)に増加する見込み。バイデン米大統領が昨年署名した24年度国防権限法(NDAA)案の予算総額は8860億ドル(現在のレートで約133兆3000億円)だった。

中国の習近平国家主席は同国軍が「世界一流の軍隊」になる期限を27年としている。しかし汚職がこの野望の実現を阻んでいるのではないかとの見方が強まっている。

昨年、李尚福国防相のほか、核兵器などを運用するロケット軍の高官2人を理由の説明なく解任。ほかに複数の軍の高官が全人代の代表職を解かれた。中国軍は今年に入って、「汚職との困難な長期戦」を続けると表明した。

2024年の中国の国防予算は前年比で7.2%増加し、約34兆8000億円になると報じられています。これは過去5年間で最大の増加率であり、3年連続で7%を超える増加が続いているとのことです。中国政府は、この予算増加を国家主権や安全、発展の利益を守るため合理的であると説明していますが、一方で内部の腐敗が軍の刷新を阻害しているとの指摘もあります。

2019年と比べると1.4倍の急増だ。米国に匹敵する軍事力の獲得を目指し、宇宙・サイバー・人工知能(AI)など最先端技術の応用に熱心な習国家主席の意向が背景にある。しかし、中国軍の兵器は粗悪だ。不正や怠慢のせいで管理がずさんだからだ。制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席は昨年8月、装備の管理を抜本的に改めるよう指示した。22年8月に台湾周辺で行われた大規模演習で発射したミサイルには誤作動があったもようだ。パキスタンなどに輸出された中国製兵器もうまく作動しないことがあった。

 ―昨夏以降、多数の中国軍高官が失脚した。

 装備品調達を巡る大規模な汚職が原因だ。失脚した高官は核兵器を扱うロケット軍などの重要部署に関わり、経験が豊富だ。後任選びの基準は、能力ではなく習氏に対する忠誠心だ。中国軍は見掛けよりもはるかに弱い。新しい兵器を使いこなすには知識と経験が必要だが、有能な人材が足りない。1979年以来、中国軍は本格的な実戦を経験しておらず、人事も能力重視ではないからだ。



昨年夏以降、中国軍の高官が相次いで失脚しているとの報道があります。特に、中国の国防相であった李尚福氏が公の場で姿を消しており、軍備の調達を巡る調査を受けているとされています1。また、中国軍の核ミサイルを管理する「ロケット軍」の最高幹部2人と、軍事裁判所の裁判官が解任されたことも報じられています。

これらの失脚は、習近平国家主席による軍内部の粛清と見られており、腐敗の根絶を目的とした措置と分析されています。米情報機関の分析によると、腐敗の広がりが軍近代化の取り組みを損ない、戦争する能力に疑問が生じたことが背景にあるとされています。

中国政府は、軍内の腐敗を一掃するための取り組みとして、これらの措置を実施しているとの見方が強いですが、詳細な情報や最新のニュースについては、信頼できるソースを通じてご確認ください。失脚した高官たちが重要な部署に関わっていたことから、これらの動きは中国軍にとって大きな影響を与えている可能性があります。

【解説】 中国で高官が相次ぎ消息不明 習政権に問題が起きているのか

中国でここ数カ月の間に、習近平国家主席から信頼と好意を得ていた高官が、何人か姿を消した。習氏が軍関係者らを対象に、粛清に乗り出したのではないかとの憶測が飛び交っている。

失脚とみられる直近の例が李尚福国防相だ。ここ数週間、公の場で姿が確認されていない。

当初は問題にされていなかったが、米トップレベルの外交官が指摘したことで注目が集中。ロイター通信は、李氏が軍備の調達をめぐって調べを受けていると報じた。李氏はかつて、人民解放軍(PLA)の武器購入を監督する立場だった。

李氏が「消息不明」になる数週間前には、軍で核ミサイルを管理する「ロケット軍」の最高幹部2人と、軍事裁判所の裁判官が解任された。

そして今、軍を統制する中国共産党の中央軍事委員会の幹部数人について調査が進められているとのうわさが流れている。

これらの解任をめぐっては、「健康上の理由」以外の公式説明はほとんどない。情報がない中、憶測が膨らんでいる。

主要な説になっているのが、軍の腐敗を当局が取り締まっているというものだ。

こうした状況で、軍は警戒を強めている。7月には一般国民に対し、過去5年間の汚職について情報提供を求める、異例の呼びかけをした。BBCモニタリングの調査からは、習氏が4月以降、全国各地の軍基地を5回にわたって訪問する新たな査察に乗り出した様子が浮かび上がった。

シンガポールの南洋理工大学で中国共産党と軍の関係を研究しているジェイムズ・チャー研究員は、中国では1970年代に経済の自由化が始まってから特に、軍において長年、汚職が問題になってきたと指摘する。

中国は毎年1兆元(約20兆円)以上を軍に費やす。一部は物資の調達に充てられるが、安全保障上の理由から完全には明らかにされない。この透明性の欠如は、中国の一党独裁の中央集権体制によってさらに悪化している。

他国の軍が公的に監視されているのとは異なり、中国の軍は共産党によってのみチェックされていると、チャー氏は指摘する。

習氏は軍内部の腐敗を減らし、軍の評価を一定程度回復させた。だがチャー氏は、「腐敗の根絶は不可能ではないにせよ非常に困難だ」と説明。「専制国家が嫌う制度変革」が必要になるからだとした。

「中国共産党政府が、適切な法制度を不当だとするのをやめて導入するようになるまでは、こうした粛清は続くだろう」

李尚福国防相はここ数週間、公の場で姿が確認されていないその後解任

一連の人々の消息不明は、中国がアメリカと微妙な関係にある中で、被害妄想を深めていることも一因となっている可能性がある。

中国では7月、拡大されたスパイ防止法が施行され、当局の捜査の権限と範囲が拡大された。その直後、国家安全省は国民に対し、スパイ活動との闘いに協力するよう公に呼びかけた。

李氏の消息不明は、外相だった秦剛氏のケースと似ている。同氏が7月に解任されると、熱を帯びた憶測が生じた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは今週、秦氏が不倫の末にアメリカで子どもをもったという疑惑で調べられていると報じた。

中国アナリストのビル・ビショップ氏は、「不倫はエリート(共産党)の世界では即失格とはならないが、その相手が外国の情報機関とのつながりが疑われている人物で、敵ではないにしろ地政学上重要なライバルである国のパスポートを持つことになる子どもをつくるのは、もはや失格かもしれない」と指摘する。

中国が新型コロナウイルス後の経済減速と若者の失業率の急上昇に苦しむ中で、共産党内では汚職を一掃するべきとの圧力が高まっており、習氏はそれを受けて行動しているとの見方もある。中国の政治制度では、習氏は国家主席であると同時に軍の最高指導者でもある。




 ―台湾統一に意欲的な習氏が侵攻を命令する可能性は。

 台湾への上陸作戦は極めて難しい。事前の動きは衛星やドローンで察知される。ウクライナ侵攻は2年以上続いているが、ロシアは資源が多く持ちこたえている。中国は資源を輸入に頼っている。台湾侵攻が長期化すれば、中国経済への打撃は非常に大きい。経済が停滞している中、戦争を始めれば、共産党体制は崩壊するだろう。習氏が侵攻を決断することはないと思う。

台湾の統一に関しては、中国の習近平国家主席が強い意欲を示していることは広く知られています。中国政府は台湾統一を「新時代の中華民族の偉大な復興の必然的な要求」と位置づけ、これを「中国の夢」の一環としています。また、中国は台湾を自国の一部と見なし、必要であれば武力行使の可能性も排除していません。

しかし、台湾統一に向けた具体的な軍事行動や侵攻を命令する可能性については、公式な発表や確固たる証拠はありません。このような行動は、国際的な緊張を高め、多大な政治的および経済的影響を及ぼす可能性があるため、慎重に検討されるべき事項です。

台湾問題は複雑で、多くの国際的な要因が絡み合っています。中国と台湾の関係、両国の歴史的背景、そして国際社会の立場など、多角的な視点から理解する必要があります。最新の情報や詳細については、信頼できるニュースソースを通じてご確認ください。台湾の未来に関する決定は、最終的には台湾の人々の手に委ねられているというのが、台湾政府の立場です。

2013年3月17日、習近平国家主席就任後初めての演説で、「中国の夢を実現させよう」と何度も国民に呼びかけた。

 2019年1月2日、習近平国家主席は「台湾同胞に告げる書」発表40周年を記念する式典において講話を発表した。

 この講和は「習五点」と呼ばれる。

 同講話は、習近平政権発足後、初めての包括的な台湾政策を述べたもので、

①民族復興と平和統一の実現、
②「一国二制度」、
③「一つの中国」原則の堅持と、武力行使放棄の否定、
④中台間の経済融合、
⑤同胞間の心の交流強化、

の5項目(五点)を柱とするものであった。

「習五点」が、中台統一が必然であることの理由として掲げているものは、第1に、台湾海峡両岸の住民はいずれも「中華民族」「中国人」であり、同胞であるということ。

 第2に、台湾は歴史的に中国の一部であったのであり、中台統一は「祖国の統一」にほかならないということである。

「習五点」が特徴的なのは、このような「中華民族」「民族の復興」など民族的紐帯に訴えかけるロジックが、従来よりもいっそう多用されていることである。

「習五点」では、中台統一は「新時代の中華民族の偉大な復興の必然的な要求」であるとされており、「中華民族の偉大な復興」が「中国の夢」であるという、政権のスローガンの一環として台湾問題を位置づけていることがうかがえる。

 中国共産党の第20回党大会(2022年10月16~22日)は、習近平総書記の3期目続投を決め「習一強体制」をいっそう強固にした。

 習氏は大会初日の党活動報告で次のように述べた。

「台湾問題の解決は中国人自身のことであり中国人自身が決めるべきだ」

「我々は最大の誠意と最大の努力を尽くし、平和的統一の未来を勝ち取るが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す」

「その対象は外部勢力の干渉と、ごく少数の“台独”分裂勢力と分裂活動に向けたものであり、広範な台湾同胞に向けたものでは決してない。祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」

 武力行使を否定しない方針は、2005年成立の「反国家分裂法」が武力行使の条件を規定して以来、ことあるごとに言及してきたもので、決して目新しくはない。

2027年に4期目を目指す習近平氏にとっては、台湾統一という偉業達成が絶対条件となっているという見方がある。

 米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は2023年2月2日、ワシントンでの講演で、米側のインテリジェンスとして、中国の習近平国家主席が「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」との見方を示した(出典:朝日新聞デジタル2023年2月4日)。

 ―習氏が情勢を見誤ることはないか。

 中国軍は台湾、南シナ海、日本、朝鮮半島、インドの各地域で連鎖的に戦争が起きることを恐れている。米国と連携する形で、インドが国境地帯で軍事活動を始めれば、中国はお手上げだ。中国は公表していないが、20年にインドとの国境地帯で起きた衝突で中国側の死者はインド側よりもはるかに多かった。中国軍は戦意が乏しく、訓練も不十分だ。中国軍が近い将来に台湾に侵攻することは不可能だ。習氏も分かっているはずだ。

台湾統一に関して習近平国家主席が情勢を見誤る可能性については、様々な意見や分析が存在します。一部の報道では、習氏が台湾の「再統一」を「不可避」と主張していることが示されています1。また、台湾統一を習氏の個人的野心と見なし、歴代中国主席の考えとは異なるとする意見もあります。

中国政府は台湾を自国の領土と主張し、平和的な「再統一」を目指すと公言していますが、武力行使の可能性も排除していません3。このような状況は、国際的な緊張を高める可能性があり、習氏の判断が国内外の複雑なバランスに影響されることは否定できません。

台湾問題は非常に複雑で、多くの国際的な要因が絡み合っており、習氏が情勢を見誤るかどうかは、これらの要因によって大きく左右されるでしょう。最新の情報や詳細については、信頼できるニュースソースを通じてご確認ください。台湾の未来に関する決定は、最終的には台湾の人々の手に委ねられているというのが、台湾政府の立場です。

台湾は本当に中国のものなのか、台湾の近代史を読み直す

総統に就任早々米下院議員団の表敬訪問を受け、マイケル・マコール下院外交委員長(左)から贈られたカウボーイハットを被る頼清徳総統(5月27日、提供:台湾総統府/AP/アフロ)

台湾の頼清徳新総統が5月20日の就任演説で行った中台関係に関する発言が波紋を呼んでいる。

 頼清徳氏は、蔡英文前総統と同様に「現状を維持する」と述べる一方で、中国が掲げる「一つの中国」原則の完全否定とも受け取れる表現を多用した。

 中国が強く反発している。

 頼清徳氏は就任演説で「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と訴え、台湾と中国の正式名称を用いて双方が対等の関係だと主張した。

 蔡英文氏は2016年の就任演説で、中台を「(台湾海峡の)両岸」と呼び、明確に2国間の関係と位置付けることを避けていた(時事通信2024年05月22日)。

 中国情勢に精通したジャーナリストの福島香織氏は、JBpresss紙上に「台湾・頼清徳の総統就任演説がすごかった! 中国を激怒させた『新二国論』、日本や米国に台湾の民主主義を守る覚悟は」と題する記事を投稿している。福島氏の主張は後述する。

 ところで、中華人民共和国(以下、中国)と中華民国(以下、中華民国または台湾)は、1949年以降、それぞれが正統政府であると主張し、相手の存在を否定してきた。

 中国は、台湾は中国の不可分の領土であり中華民国・国民党政府は不法に支配しているとして、台湾を開放し断固中国の統一を実現するという「台湾解放」を一貫して唱えた。

 台湾側も「大陸反攻」「祖国統一」を主張し、大陸側とは妥協、接触、交渉しないという「三不政策」(1979~1991)を続けた。

 この間1954年と1958年に台湾海峡の沿岸島嶼において2度にわたり軍事衝突が発生した。

 国際社会にあっては1948年以降、中華民国政府(台湾)が国連の代表権を有していたが、1971年に中国側が代表権を獲得してからは立場が逆転した。

 また、これと相前後して米中接近、日中国交回復が進められ、台湾の政治面での国際的孤立は次第に深まった。

 これ以降、台湾は民間関係を主とする経済、文化、技術協力などによる実質外交時代を進めていった。

 中台双方の台湾問題への対応は建国の指導者の逝去等に伴う世代交代によって変化がみられるようになった。

 そして、中台の歴代の指導者は、台湾問題についてそれぞれ自らの考え方を発表してきた。

 中国では、鄧小平の「台湾同胞に告げる書(一国二制度)」と「葉九点」、江沢民の「江八点」、胡錦濤氏の「胡六点」および習近平氏の「習五点」などがそれである。

 一方、台湾では、李登輝の「二国論」、蔡英文氏の「華独」、そして頼清徳氏の「新二国論」などがそれである。

 初めに、頼清徳総統の就任演説の概要について述べる。次に、中国の対台湾政策の変遷について述べる。最後に、台湾の対中国政策の変遷について述べる。

1.頼清徳総統の就任演説の概要

 本項は、福島香織氏の「台湾・頼清徳の総統就任演説がすごかった! 中国を激怒させた『新二国論』、日本や米国に台湾の民主主義を守る覚悟は」(JBpresss5月24日)を参考にしている。

(1)頼清徳氏の略歴

 現在64歳(1959年10月6日生)。台湾北部の現・新北市の貧しい鉱山労働者の家に生まれた元医師の頼清徳氏は、第3次台湾海峡危機(1995-96年)をきっかけに、白衣を脱ぎ、政界に出馬した。

 立法院議員からスタートして、その後大衆の支持を受けて台南市長を2期務めた。行政院長に就任した後、2020年からは蔡英文政権で副総統を務めた。

 頼清徳氏は行政院長(首相)時代に「実務的な台湾独立工作者」と自称し、中国から敵視されてきた。

(2)総統就任演説の概要

 民進党が政権を奪還した2016年5月の蔡英文総統の就任演説では「一つの中国原則」や「92年コンセンサス」への言及を避け、中国側の要求を完全に拒否も容認もしない比較的無難な表現にとどめていた。

 今回の頼清徳総統の就任演説も、中国を刺激しないようにトーンを抑えた表現の就任演説になるのではないかという予測もあったが、そうした慎重論の予測は完全に外れた。

 頼清徳総統就任演説は、「一つの中国原則」「92年コンセンサス」への言及こそなかったが、国家という言葉を35回繰り返し、台湾が中国と互いに隷属しない主権国家であるという「新二国論」ともいうべきロジックを打ち出した。

 頼清徳演説の主旋律は「卑屈でもなく、傲慢でもなく現状維持」。

 この卑屈でも傲慢でもなくという意味は、「台湾を国際社会に尊敬される壮大な国家にする」という頼清徳の志をごまかすことなく表明するということだろう。

 中国におもねり妥協して、「現状維持」を頼むのではなく、対等な国家同士の立場での現状維持こそが双方にとってもっとも利益になるのだという主張だ。

 中国に対しては「中華民国の存在という事実を直視し、台湾人民の選択を尊重せよ」と直截に呼びかけた。

 さらに頼演説の新鮮さは、中華民国や中華民国憲法に対する民進党政権の新たな解釈を示した点にある。

「中華民国憲法によれば、中華民国の主権は国民全体に属し、中華民国の国籍を有する者は中華民国の国民です。このことからも分かるように、中華民国と中華人民共和国はお互いに隷属しないのです」と中華民国と中華人民共和国が別の国家であるとする根拠に中華民国憲法を持ち出した。

 さらに、台湾の始まりを中華民国ができるはるか以前の1624年のオランダの台南上陸にさかのぼって語った。

 これは中華民国や中華民国憲法を民進党が解釈し直して受け入れたともいえる。

 そして中国の脅威を明確に大胆に指摘した。

「私たちは平和を追求するという理想を持っていますが、幻想を抱くことはできません」

「中国はまだ台湾を侵略するための武力行使を放棄していないため、中国の提案を全面的に受け入れ、主権を放棄したとしても、中国による台湾併合の試みはなくならないことを理解すべきでしょう」

「世界の民主主義国と肩を並べて共通の平和共同体を形成し、抑止力による平和と戦争回避を実現しなければなりません」

 こうはっきりと語った。

 ほかにも台湾が第1列島線の地政学的に重要な場所に位置することや、半導体やAI産業のグローバルサプライチェーンにおける圧倒的優位性があることを挙げて、台湾が国際社会に必要とされている国家であることを強調した。

 さらに、台湾企業を世界に進出させ、台湾を経済において「日の沈まぬ国」にするといった目標を打ち出した。

 そうして「民主台湾は世界の光」「民主台湾は世界平和のかじ取り役」「台湾は世界を必要とし、世界は台湾を必要としています」と述べた。

 当然、中国の反応は強烈だ。

 中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は5月21日夜、頼清徳総統の就任演説についてこう述べている。

「徹頭徹尾、台湾独立派の自白だ」

 頼清徳総統のことを「台湾地区の指導者」と匿名呼びし、次のように強烈に批判した。

「敵意と挑発、ウソと欺瞞に満ちている。台湾独立の立場をさらに過激に危険を冒し、主権独立、両岸は互いに隷属しない、台湾住民の自決など支離滅裂の間違いを語り、外部勢力の支援を乞うて、台湾問題の国際化を推進しようと画策し、外国に頼って独立を企んだり、武力で独立を謀ったりし続けている」

「これはいわゆる徹頭徹尾、台湾独立主義の自白だ。党内主流民意に背き、台湾海峡と地域の平和安定の破壊者だ」

 一方、米国務省報道官は5月20日、「中国は(総統の交代を)挑発的、威圧的な行動の口実に用いるべきではない」と述べ、改めて中国に自制を求めた。

 頼清徳氏の就任演説については「台湾海峡の平和と安定、現状維持への約束があった」とし、歓迎すると述べた(出典:朝日デジタル2024年5月22日)。

(3)筆者コメント

 台湾では総統候補として党の公認を受けると、あたかも「面接試験」を受けるように訪米し、米国政府などの要人と意見交換をするのが慣例となっているとされる。

 今回、頼清徳氏が就任演説で掲げた「新二国論」は、米国の「お墨付き」を得た内容であったかどうかである。

 頼清徳氏は、2023年8月12~18日、南米で唯一、中華民国(台湾)と外交関係を持つパラグアイ訪問のため出発した。

 頼清徳氏は、行き帰りには中国が強く反対するなか米国のニューヨークとサンフランシスコを経由したが、米国滞在中の公開の日程は台湾出身者のパーティーへの出席などが主で、現職の米政府高官や有力議員などとの接触は伝えられていなかった。

 また、2023年中に台湾を訪問した米国の要人がいたかどうかも不明である。

 しかし、頼清徳氏が米国との調整なしで「新二国論」を公言することは考えられない。前述したように米国務省報道官のコメントにも驚いた様子は見られない。
2024.06.11 10:19 | 固定リンク | 国際

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