ラファ地上作戦、一線を越えていないと米政府
2024.05.30
ラファ地上作戦、一線を越えていないと米政府 イスラエル軍は中心部に到達か

パレスチナ自治区ガザ南部ラファでのイスラエルの軍事行動について、米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は28日、イスラエルが本格侵攻を始めたとはアメリカはみていないと述べた。

ラファをめぐっては、イスラエル軍が中心部まで到達し、エジプトとの境界を見下ろす戦略上重要な丘を占拠したと報じられている。

イスラエル軍の戦車が、重要地点とされるアル・アウダ環状交差点に停車しているとの目撃証言もある。ラファ西部で28日朝にかけて一晩中、激しい砲撃があったと話す住民もいる。

アメリカのジョー・バイデン大統領はこれまで、まだ数十万人の民間人が避難しているとされるラファへの本格侵攻は、一線を越えるものだとしている。今月上旬には、ラファで大規模な地上作戦が行われれば、イスラエルへの武器供給の一部を停止すると述べていた。

そうしたなか、26日にはラファの避難者たちのテントが並ぶキャンプがイスラエル軍に空爆され、火災が発生。少なくとも45人が殺害された。

イスラエルはこの火災について、ハマスが周辺で保管していた武器が爆発して起きた可能性があるとの見方を示している。

「大規模な軍事行動は確認していない」
カービー氏は28日の記者会見で、この空爆で主に女性や子ども、高齢者が犠牲になったことを示す画像について、「悲痛で」「おぞましい」とコメント。「この紛争で罪のない命が失われてはならない」と付け加えた。

一方で、この事案についてはイスラエルが調査中だとし、「話すべき政策の変更はない」と発言。「大規模な地上作戦が確実に実施されるとはまだ思っていない。(中略)現時点でそうした動きは確認していない」とした。

記者団から、現在の作戦が本格侵攻に当たらない理由を聞かれると、カービー氏は、米大統領が「指揮している」わけではないと返答。

「私たちは(イスラエル軍が)ラファに突入するのを見たわけではない」、「大規模な部隊で、多数の兵士らが隊列や編隊を組んで、地上の複数の標的に対してある種の調整された行動をとっているのは確認していない」とも述べた。

別のキャンプでも21人死亡の報道

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、26日のラファ空爆を「悲劇的な誤り」だったとする一方、作戦は継続すると宣言している。

イスラエル軍はこの空爆について、イスラム組織ハマスの幹部2人を狙ったもので、両人とも殺害したと説明している。

ラファでイスラエル軍が地上作戦を開始して3週間となった28日、同軍はラファの「テロの標的」に対する活動は継続中だと発表した。

また、ラファ西部の海岸沿いのアル・マワシ地区にある難民キャンプをイスラエル軍が攻撃し、現地当局の発表で少なくとも21人が殺害されたと報じられていることについて、その内容を否定した。

ただ、ソーシャルメディアに投稿され、BBCヴェリファイ(検証チーム)が検証したこの事案の動画には、重傷を負った人々が映っていた。爆発があった場所やクレーターは明確ではなく、原因は特定できない。周囲の建物から、場所はラファとアル・マワシの間で、イスラエル軍が指定した「人道地域」の南だと分かる。

国連によると、ラファからは戦闘を逃れようと100万人近くが移動したが、まだ数十万人が避難生活を送っている可能性がある。

イスラエル軍は今月6日にラファ東部で「標的を絞った」地上作戦を開始。以来、戦車と兵士らが徐々に中心部などに迫っている。

ラファの難民キャンプで攻撃続く、人々は行くあてもなく

パレスチナ自治区ガザ地区南部のラファで、イスラエル軍による攻撃が続いている。

イスラム組織ハマスが運営するガザ地区の保健省は28日、ラファ郊外の避難地域で爆発があり、少なくとも21人が殺されたと発表した。

ラファでは26日、タル・アル・スルタン地区のキャンプをイスラエル軍が空爆し、多数の死傷者が出ている。ガザ保健当局によると、この攻撃では少なくとも45人が殺害された。さらに数百人が重度のやけどや骨折、爆弾の破片による傷などで手当てを受けたという。

ラファでは、行くあてのない人々が、それでも逃げる場所を求めて荷物をまとめている。

イスラエルがラファの難民キャンプ空爆、多数死傷 「ハマスが望んだ戦争」と政府報道官

パレスチナ自治区ガザ南部ラファの難民キャンプが26日、イスラエル軍による空爆を受けた。イスラム組織ハマスが運営する保健当局によると、少なくとも45人が殺害されたほか、数百人が重度の火傷や骨折、飛散するミサイルの破片などによる裂傷で手当てを受けた。

国際社会からの非難が集中するなか、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、難民キャンプへの空爆を「悲劇的な誤り」と呼んだ。

イスラエル軍は、ハマス幹部2人を標的にしていたのだと説明。政府報道官は「民間人の犠牲は悲痛なことだ」としながら、「これが、ハマスが望んで始めた戦争だ」と述べた。

ラファ空爆で多数死傷したのは「悲劇的な誤り」 ネタニヤフ首相が釈明

マット・マーフィー、BBCニュース

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は27 日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファで多数のパレスチナ避難者らが殺害された前日の攻撃について、「悲劇的な誤り」だったと述べた。この攻撃をめぐっては国際的に非難が高まっている。

イスラム組織ハマスが運営するガザ保健当局によると、この攻撃では少なくとも45人が殺害された。さらに数百人が重度のやけどや骨折、爆弾の破片による傷などで手当てを受けたという。

ネタニヤフ氏はこの日、イスラエル議会で演説。ガザで戦闘に巻き込まれている民間人を守るため、イスラエルが「できる限りの予防措置」を取ることが不可欠だと述べた。

そして、「ラファではすでに約100万人の非戦闘員を避難させた。私たちは非戦闘員に危害を加えないよう最大限の努力をしていたが、不幸にも、悲劇的に誤った事態が起きてしまった」と主張。「現在この事案について調査中で、結論を出す。それが私たちの方針だからだ」と述べた。

ネタニヤフ氏はまた、「全目標の達成前に戦争を終わらせるつもりはない」とも表明。この演説の最中には、家族をハマスの人質にされている人たちがしばしば、声を上げて抗議した。

一部の人質の家族は、人質解放につながる取引に失敗したと、ネタニヤフ氏を強い批判している。

国際社会も非難
今回のラファ空爆に対しては、国際社会からも非難が出ている。

欧州連合(EU)は、国際司法裁判所(ICJ)が先週、ラファ攻撃を停止するよう命じたのを尊重するよう、イスラエルに求めている。EUの外交トップのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は、26日の空爆を「恐ろしいことだ」と非難した。

ICJの命令にもかかわらず、イスラエルはラファ侵攻の継続を宣言している。イスラエル当局はICJの命令について、国際法を順守しながらの攻撃を可能にする余地を残したものだと主張している。

一方、国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は、「イスラエルの戦争手段と方法は、すでにあまりに多くの民間人の死者を出しているが、その戦い方に明確な変化がまったくない」ことを、今回の攻撃は示すものだと述べた。

26日のラファ攻撃は、ハマスが数カ月ぶりにイスラエル主要都市テルアヴィブをミサイル攻撃した数時間後に始まった。

イスラエル軍は、この日のラファ攻撃でハマス幹部2人を殺したとし、民間人の死亡については調査しているとした。

しかし、パレスチナ赤新月社によると、空爆されたのは、ラファ中心部から北西に約2キロ離れたタル・アル・スルタン地区で、国連施設近くに設けられた複数の避難者用テントが標的にされた。

26日夜に同地区で撮影された映像には、大きな爆発と火が激しく燃える様子が映っていた。

また、「クウェート平和キャンプ1」と書かれた横断幕の横で建造物が燃えている様子や、救急隊員や付近の人々が遺体を運んでいる場面も映っていた。

NGO「国境なき医師団(MSF)」は27日、自分たちの現地施設の一つで、女性や子どもを含む少なくとも28人の死者を収容し、負傷者180人を治療したと発表した。

MSFは、今回の攻撃は精密に実施したとするイスラエルの主張を否定。「ラファのいわゆる『安全地帯』にあり、人が大勢密集するキャンプを攻撃したことはつまり、ガザ住民の命をまったく考慮していないと示すものだ」とした。

一方、アメリカは27日夜に出した声明で、映像について「悲痛だ」としながらも、イスラエルには自衛権やハマスを追い詰める権利があると主張。ただ、「イスラエルは民間人保護のため、できる限りの予防措置を取らなくてはならない」とも述べた。

イスラエルに変化はあるか

イスラエル当局は27日、ラファで何を誤ったのかの調査を進めた。軽量化した特殊な兵器による「精密」だったの攻撃でなぜ、多くの死傷者を出す大規模な火災が生じてしまったのかが問われている。

ICJによる攻撃停止命令を受け、自分たちの行動に世界が注目し、その行動については説明が求められていることを、イスラエルは承知している。

しかし、これが作戦の転換点になるかは不透明だ。ネタニヤフ氏はラファでの「完全勝利」を依然として掲げ、考えを変える兆しはない。ラファ市そのものに迫るイスラエル軍の地上部隊は、いくぶん慎重に行動している様子だ。

これまでのところ、地上部隊の攻撃で一度に大勢が死傷する事態にはなっていない。

だが、26日の空爆は、すでに悪化しているイスラエルのイメージを一段と悪化させ、攻撃継続の根拠としてイスラエルが主張する内容を損なうものとなった。

国際司法裁「ラファ軍事侵攻の即時停止」命じる イスラエルは拒絶し空爆続行

国連主要機関の国際司法裁判所(ICJ)は24日、ガザ地区南部ラファでの攻撃をただちに停止するよう、イスラエルに命令した。南アフリカが16日に起こした訴えを受けてのもの。これに対してイスラエル政府は、ICJの命令を拒絶すると声明を発表。判決から間もなく、イスラエルの戦闘機がラファ中心部の難民キャンプを空爆した。

南アフリカはラファ攻撃を防ぐようICJに求める中で、イスラエルがラファを含むガザ各地で「ジェノサイド(集団虐殺)的な」作戦を行っていると非難し、「停止命令が必要だ」と主張していた。

これを受けてICJのナワフ・サラム裁判長は24日、イスラエルはラファ地区において軍事侵攻と、パレスチナ人の「物理的破壊」をもたらし得る「その他のあらゆる行動」を「ただちに停止しなくてはならない」と命令した。ひとつの集団の「物理的破壊」とは、国際法上「ジェノサイド」を意味する。

裁判長は、ICJがガザでの状況改善をイスラエルに命令して以来、状況はさらに悪化したと指摘した。ICJは今年1月、ジェノサイドを防ぐためにあらゆる対策を講じるよう、イスラエルに暫定的に命じていた。

裁判長はさらに、ガザ地区でのジェノサイドの疑いを調査するあらゆる国連機関によるカザ内での活動を、イスラエルは無制限に認めなくてはならないと命じた。

ICJ判決はこのほか、ガザで基本的な公共サービスと人道援助を「妨げなく、大規模」に提供できるようにするよう、あらためてイスラエルに命じた。

「(ガザにおける)人道状況は現在、壊滅的と呼ぶべき」だと判決は指摘した。

イスラエルは拒否
ICJのこの判決をイスラエル政府は拒絶し、ガザ地区での自国の軍事侵攻は国際法にのっとったものだと主張した。

イスラエルのツァヒ・ハネグビ国家安全保障顧問は、外務省との共同声明で、「イスラエルはラファ地区において、パレスチナ民間人について、人口の全体だろうと一部だろうと、その破壊をもたらす生活条件を作り出すような軍事作戦を、これまでも行っていないし、今後も行わない」と主張した。

戦時内閣に参加するベニー・ガンツ前国防相は、イスラエルは「ラファを含めて、必要な時と場所」で軍事作戦を続けると主張した。

イスラエルの野党代表、ヤイル・ラピド氏もICJ判決を批判。ICJがラファ砲撃とイスラム組織ハマスが拘束するイスラエル人人質の解放に結び付けなかったことは、「ひどい道徳的な破綻(はたん)」だと非難した。

他方、ICJに訴えを起こした南アフリカ政府のゼイン・ダンゴール国際関係協力局(DIRCO)局長は、ICJ判決は「画期的」だと歓迎。ガザの一部で軍事行動を停止するよう、ICJがイスラエルに明確に命令したのは初めてだと指摘した。

ハマスもICJ命令を歓迎し、「残虐なシオニストの存在(イスラエルの意味)」がラファにおける「侵略をやめるよう要求するもの」だと評価した。

パレスチナ自治政府のリヤド・マンスール国連大使は、ICJ判決を歓迎し、イスラエルに履行を促した。

「ICJの決定が滞りなく実施されることを期待する」、「これは義務だ。イスラエルは(ICJ規定に)参加している」とマンスール大使は述べた。

ICJは国連の主要な司法機関。すべての国連加盟国は自動的にICJ規程の当事国となる。

ICJ命令には法的拘束力があるものの、ICJに強制的な執行手段はない。

ICJ命令を受けて、欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は、法の支配を深く重視するEUとして、イスラエルを支持する方針と法治主義順守を「併せて維持していくのが、非常に難しくなる」とコメントした。

数分後に空爆も

ICJの判決が読み上げられてから数分後、イスラエル軍機はラファ中心部のシャブーラ難民キャンプに複数回の空爆を繰り返した。

近くのクウェート病院にいた活動家はBBCに対して、空爆が激しすぎて救急隊が現場に入れずにいると話した。

イスラエルは長く予想されていたラファ侵攻を今月から開始。ガザ地区最南部のラファには、ハマスの大隊が残っており、それを掃討することが目的だとしている。ハマスがラファで、イスラエル人の人質を拘束し続けているとも、イスラエルは見ている。

国連によると、この軍事侵攻が始まって以来、80万人以上のパレスチナ人がラファから避難した。昨年10月の戦争開始を受けて、ガザ地区の各地から約150万人が戦闘を逃れようとラファに集まっていた。

ハマスが昨年10月7日にイスラエル南部を奇襲したことで、この戦争は始まった。ハマスはイスラエルの民間人を中心に約1200人を殺害し、252人を人質にしてガザ地区へ連行した。

ハマスが運営するガザの保健省によると、その後のイスラエルの攻撃によって少なくとも3万5800人のパレスチナ人が殺害されている。
2024.05.30 09:25 | 固定リンク | 戦争

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