財界訪中団「本当はどうだったの?」
2024.02.14
財界団の訪中では3点について「見直すよう要望」 しかし完全に無視された

日本財界訪中団は、2024年1月24日から26日まで中国を訪問し、中国政府の幹部や経済界の代表と意見交換を行いました。訪中団は、日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所、日本貿易会、日中経済協会の4団体から約50人が参加し、経団連会長の中西宏明氏が団長を務めました。訪中団は、中国の経済発展や新型コロナウイルスの対策に評価を示すとともに、日中関係の改善や経済協力の強化を呼びかけました。

訪中団は、中国側に対して、以下の3点について改善を求めました。

中国の改正反スパイ法の運用について、透明性と予測可能性を確保し、日本企業の正常なビジネス活動に影響を与えないようにすること。

日本人のビザなし渡航について、新型コロナウイルスの感染状況に応じて、早期に再開すること。

日本産水産物の輸入禁止措置について、科学的根拠に基づいて、直ちに撤廃すること。

しかし、中国側はこれらの要求に対して、具体的な回答を示しませんでした。中国の国家安全部は、改正反スパイ法は「適時、適切、適度」なものであり、外部勢力による中傷に屈しないとの立場を改めて表明しました。

中国の税関総署は、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出に反発し、日本産水産物の輸入を全面的に停止すると発表しました。日本人のビザなし渡航についても、中国側は感染防止の観点から慎重な姿勢を崩しませんでした。

訪中団の活動は、中国共産党機関紙・人民日報にも大きく取り上げられました。人民日報は、1月27日付の3面に「日本財界訪中団との意見交換会が開催される」という見出しで、約半ページにわたって記事を掲載しました。

記事は、中国側の幹部の発言を中心に紹介し、日中関係の発展や経済協力の重要性を強調しました。日本側の要求については、ほとんど触れられませんでした。

以上のことから、日本財界訪中団は、中国との対話を継続することで、日中関係の改善や経済協力の強化に寄与しようとしたと言えます。しかし、中国側は、反スパイ法や処理水放出などの問題について、日本側の懸念に配慮する姿勢を見せませんでした。日中関係は、依然として多くの課題を抱えたままであり、両国の財界は、政治的な障壁を乗り越えて、経済交流を推進する必要があります。

■改正反スパイ法は「適時、適切、適度」と反論

中国の国家安全部は2月1日、メッセンジャーアプリ「微信」上の公式アカウントで「『反スパイ法』の改正は適時、適切、適度なもの」との文章を発表した。一部の外部勢力が中国の正常な反スパイ活動を歪曲(わいきょく)し中傷しているとして、改正反スパイ法の正当性を述べたもの。同文章は英語版も同時に発表されている。

第1に「改正のきっかけが適時」として、現在のスパイ活動の取り締まりは、活動主体の多元化、目的の複雑化、分野の広範化、手段の隠蔽(いんぺい)などにより難しさを増しており、改正反スパイ法は新たな情勢に適応するものだとした。その上で、(改正後に)米国の中央情報局(CIA)や英国の秘密情報部(MI6)の中国に対するスパイ活動を取り締まったとして、改正反スパイ法は、国家安全を守るための法律上の有力な武器を提供したとした。

第2に「立法という形式が適切」として、立法によりスパイ活動を防ぎ、国家の安全を守ることは国際的に広く行われているとした。その上で、米国、英国、フランス、ロシアなどのスパイ関連法案を挙げ、スパイ行為の予防・取り締まりのために法律を制定し、国家秘密漏洩(ろうえい)を防止し国家安全を守ることは「大国としてのスタンダード」だとした。

第3に「法律による権限の付与が適度」として、改正は中国内の法律を厳格に順守し、手続きも規定に沿ったもので、権限と責任が明らかであり、中国の立法活動の公正・透明さと明確さを体現したものだとした。改正手続きにおいて、一般への意見募集のほか、座談会や討論会、第一線の法執行の現場への調査などを通じて広く意見を求め、審議は「立法法」の規定に厳格に沿って行われたとした。

また、改正によりスパイ行為の定義をより明確にし、反スパイ法の執行と監督責任が強化されたとした。同時に、人権の保障と尊重、個人と組織の合法的な権利を保障することが明確に規定され、国による法執行のルールや審査プロセスがより明確となり、国家安全機関による法執行への監督が強化されたとした。

■日本産水産物の輸入を全面停止

日本の経済界の代表団は、1月25日に中国の李強首相と会談し、日本産水産物の輸入停止措置の撤廃を求めました。 この措置は、東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に反対する中国が、昨年8月に突然発表したものです。 日本側は、処理水の放出は国際基準に従って行われると説明し、客観的で科学的な根拠に基づく貿易を求めました。

また、日本のビジネス界の懸念を伝えるとともに、ビザなし渡航の再開や、改正反スパイ法の運用の透明化も要請しました。 李首相は、日中関係の改善に向けて協力する姿勢を示し、経済交流の促進やビザ発給の簡素化について検討すると応じました。

しかし、処理水の問題については、中国の立場を変えないとの見方が強いです。 中国は、処理水の放出は環境や人の健康に重大な影響を及ぼすと主張し、国際社会にも反対を呼びかけています。 日本産水産物の輸入停止は、中国の国内世論をなだめるための措置とも見られています。 日本の水産物の輸出額は、2022年に前年比25.1%増の2,782億円で、そのうち中国向けは871億円でした。 中国は日本にとって最大の農林水産物・食品の輸出相手国であり、輸入停止は日本の水産業に大きな打撃を与えています。 日本は、中国に対して、科学的な根拠に基づいた貿易の再開を引き続き働きかける方針です。

人民日報での露骨な軽視

■きれいに無視されました

日本国内の報道によると、中国国家発展改革委員会・商務省幹部との会談では、訪中団は「反スパイ法」運用の「改善」を求め、日本人のビザなし渡航の再開も中国側に求めたという。そして李首相との会談では、訪中団が日本産海産物の禁輸解除を求める提言書を提出したと報じられている。

「反スパイ法の運用改善」、「ビザなし渡航の再開」、そして「日本産海産物の禁輸解除」という三点セットが、訪中にあたっての日本側の基本的要求であることが分かる。この経済訪中団は、まさにこの三つの要求を中国政府に聞き入れてくれるために北京を訪れたはずである。

しかし、日本の訪中団からのこの三つの要求に対し、中国政府の示した反応は全くの無反応、つまり「ゼロ回答」であった。訪中団に関する中国側の公式発表と報道では、日本側が前述の諸要求を出した事実に対する言及すら全くない。つまり日本側の要求が完全に無視されて「なかった」ことにされている。

ゼロ回答に「熱意を感じる」?

もちろん日本側の報道を見ても、中国政府が日本側の要求に一切応じていなかったことは分かる。例えば1月25日に配信された共同通信の関連記事は、そのタイトルがズバリ、「経済界訪中団、李強首相に提言書、水産物禁輸解除、明確回答なし」である。

そして1月26日に流されたテレ朝ニュースは、「北京を訪れている経済界の代表団は、李強首相のほか商務相らと会談しました。日本側からは、ビザなし渡航の再開や食品輸入規制の緩和を求めるとともに反スパイ法への懸念などを伝えましたが、具体的な進展はなかった」と伝えている。

つまり日本の経済訪中団は、三つの要求をぶら下げて北京へ乗り込んだのに、中国政府からは「ゼロ回答」を食らっただけで成果を何一つ挙げられなかった。


にもかかわらず経団連の十倉会長は北京で開かれた「総括会見」で、「中国側の日本に対する期待や日中経済関係の一層の緊密化に向けた熱意を感じることができた」と語っている。結局、実体のない「熱意」を勝手に感じたことは、日本の経済訪中団が手に入れた唯一の「成果」だったのである。

その一方、日本の経済団体トップが揃っての訪中に対し、中国政府は全体的に冷ややかな態度であった。それは、25日の李強首相と訪中団会談に対する共産党機関紙の人民日報の取り扱いにははっきりと現れている。

李首相と外国からの賓客との会談記事は普段、人民日報の一面に載せられることは多いが、26日の人民日報は何と、李首相と日本訪中団との会談記事を三面に掲載した。文字通りの「三面記事扱い」である。

実は同じ25日、李首相の部下にあたる丁薛祥筆頭副首相が世界銀行の執行理事らと北京で会談したが、この会談の記事は26日の人民日報で一面掲載、三面掲載の李首相会談記事と大差を付けられている。

慣例と格式から大きく外れたこのような取り扱いは明らかに、日本の経済訪中団に対する中国政府の軽視・軽蔑の現れであろうが、その一方、人民日報の関連記事は文中、李首相との会談における「日本経済三団体責任者」の発言をこう伝えている。「中国は世界経済の発展を牽引する重要な原動力。中国経済は健全にして安定なる発展を保っており、日本の経済界は大変鼓舞されている」と。

ここまで尻尾を振ったのに

今の時点で、「中国経済は健全にして安定なる発展を保っている」云々とは、まさに事実無視の戯言というしかないが、それも結局、訪中団の責任者たちが自国の経済難局を認めたくない中国政府に迎合して無責任なお世辞言葉を発しただけのことであろう。

中国の税関総署は8月24日、「日本水産物の輸入全面停止に関する公告」(税関総署公告2023年第103号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにより、原産地を日本とする水産物(食用水生動物を含む)の輸入を全面的に停止すると発表した。停止は即日有効となる。

輸入停止の理由は、東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水(注)の海洋放出による食品への放射線汚染リスクを防ぎ、中国の消費者の健康と輸入食品の安全を確保するためとしている。

2021年以降、日本にとって中国は世界1位の農林水産物・食品の輸出相手国となっている。農林水産省によれば、2022年の日本から中国への農林水産物・食品の輸出額は前年比25.1%増の2,782億円で、全体の20.8%を占めた。中国向け輸出額のうち水産物は871億円、品目別ではホタテ貝が467億円、なまこ(調製)が79億円、かつお・まぐろ類が40億円となっている。

実は習近平政権は昨年年末から、究極の「経済振興策」として「中国経済光明論を大いに唱えよう」とする宣伝工作を進め始めた。上述の経済訪中団トップたちの発言は、捉えるようによってはまさに北京政府の宣伝工作に加担したものであろうと解釈することもできよう。

言ってみれば日本の経済団体の最高幹部たちは北京へ行って、中国政府に馬鹿にされて要求を一蹴されながらも、習近平政権の幇間役を喜んで務め、媚びの限りを尽くして帰ってきている。まさに馬鹿馬鹿しくて情けない限りである。
2024.02.14 22:24 | 固定リンク | 経済

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