南極に血の滝とは「何なんだ?」
2024.02.14
南極大陸のテイラー氷河から流れ出る赤い水「血の滝」がとうとう解明された。氷からしみ出した鉄塩が空気に触れると赤くなるのだ。 2017年の研究で、テイラー氷河がおよそ200万年前に形成され、その下に塩水の湖が閉じ込められたことが明らかになった。

南極大陸の血の滝の謎を解明

南極大陸の東南極にあるヴィクトリアランドには、テイラー氷河という氷河があります。この氷河の先端部からは、鮮やかな赤い色の水が流れ出しており、その様子はまるで血のように見えます。この現象は「血の滝」と呼ばれており、長年にわたって多くの人々の関心を引いてきました。しかし、なぜこの水が赤いのか、なぜ凍らずに流れることができるのかは、これまで謎とされてきました。

最新のレーダー調査によって明らかになった、血の滝の成因とメカニズムについて紹介します。

血の滝の成因

血の滝の水は、鉄分を豊富に含んだ塩水であることが分かっています。この塩水は、氷河の下に存在する古代の海水が、氷河の影響で塩分が濃縮されたものです。この塩水に含まれる鉄分は、2価の鉄イオン(Fe 2+ )であり、これが氷河の中から地上に湧出すると、大気中の酸素と接することで酸化され、酸化第2鉄(Fe 2 O 3 )となります。Fe 2 O 3 は赤い色をしており、水には溶解せずに沈殿するため、氷の表面に赤い沈殿物が付着します。この沈殿物が血の滝の赤い色の原因です。

血の滝のメカニズム

血の滝の水は、なぜ凍らずに流れることができるのでしょうか。これは、塩水の性質と氷河の構造によって説明できます。塩水は純水よりも凝固点が低く、また凍結するときに熱を放出するために周囲の氷を解かします。これによって、塩水は液状に保たれ、氷河の内部やその下の環境で流れることができます。また、テイラー氷河は基盤岩に凍り付いていないという特徴があります。これは、氷河の下に存在する高い塩分濃度の水が、水の凝固点降下を起こしたためです。

この水は、氷河に走る大小さまざまな亀裂を通じて、氷河に流れ込みます。そして、塩水が凍結し始めると、そこで発生する凝固潜熱によって周囲の氷が温められると同時に、亀裂中央の塩水の濃度が上昇します。このようにして、テイラー氷河は流水を維持する仕組みを有しており、また流水を内包する世界で最も冷たい氷河であると言えます。

血の滝の水は、鉄分を豊富に含んだ塩水であり、その鉄分が酸化されて赤い沈殿物を形成することで、血のような色に見えます。また、塩水は凝固点が低く、凍結するときに熱を放出することで、氷河の内部やその下で液状に保たれ、流れることができます。血の滝は、南極の氷河の下に隠された古代の海水や微生物の生態系など、地球の歴史や生命の多様性に関する貴重な情報を提供してくれる珍しい現象です。

「血の滝」とは、南極大陸のテイラー氷河から流れ出る赤い水のことです。この水の色や流れる仕組みは、長年にわたって謎とされてきましたが、最近の研究によってその真相が明らかになりました。

「血の滝」は、1911年にオーストラリアの地質学者トーマス・グリフィス・テイラーによって発見されました1。当時は、水中に生息する紅藻類が水を赤く染めていると考えられていました。

2017年に、アメリカの科学者グループがレーダーを用いて氷河の下の層をスキャンし、血の滝の原因を突き止めました3。彼らは、氷河の下に塩水の湖と河川のネットワークが存在し、その水が氷河の亀裂から流れ出していることを発見しました。

氷河の下の塩水は、約200万年前に氷河が形成されたときに閉じ込められたもので、鉄分を多く含んでいます4。この鉄分が空気に触れると酸化されて赤くなり、水に色を付けています。

塩分

塩水は、塩分の高さと凍結するときに発生する熱(潜熱)によって、液体の状態を保っています4。この熱は周囲の氷を溶かし、水が流れることを可能にしています。テイラー氷河は、水が流れる最も冷たい氷河と言えます。

血の滝の水には、微生物も含まれています。これらの微生物は、氷河の下の暗く寒い環境で、何百万年も生き続けています。彼らは、鉄や硫黄などの無機物を分解してエネルギーを得ています。このような生態系は、地球外の厳しい環境にも存在する可能性があります。

以上が、「血の滝」の謎に関する最新の研究成果です。南極の氷河の下には、まだ知られていない秘密が隠されているかもしれません。血の滝は、地球の驚異的な自然現象の一つと言えるでしょう。

■南極で「血の滝」が発生するメカニズムを科学者が解明

「血の滝」とは、南極大陸のテイラー氷河からにじみ出る鮮やかな赤色の水の滝のことをいう。

その独特の色は、氷からしみ出た鉄塩が酸素に触れて赤くなることによる。

この滝には、光も酸素もない極限状態を生き抜く微生物が生息している。

南極の大きな氷河では、氷からにじみ出るように真っ赤な川ができ、「血の滝」と名付けられている。南極大陸のテイラー氷河からボニー湖へ、なぜ赤みがかった水が流れ出るのか、科学者たちは何十年も頭を悩ませてきた。

この現象は、1911年に地質学者グリフィス・テイラー(Griffith Taylor)によって初めて発見された。当時は、水中に生息する紅藻類がこの鮮やかな赤い色の原因だと考えられていた。

それから100年以上が経ち、科学者たちは血の滝の原因を突き止めた。氷からしみ出した鉄塩が空気に触れると赤くなるのだ。

2017年の研究で、テイラー氷河がおよそ200万年前に形成され、その下に塩水の湖が閉じ込められたことが明らかになった。その後、古代の湖は氷河の端に達し、塩水をしみ出させるようになったのだ。

2015年の研究では、氷透過型レーダーを用い、氷河の割れ目から流れる川のネットワークが発見された。つまり、極寒の氷河の内部に液体の水が存在しうるということだ。

「意外かもしれないが、水は凍る時に熱を放出し、その熱は周囲の冷たい氷を温める」と、アラスカ大学フェアバンクス校の氷河学者で、2017年の研究の共同執筆者であるエリン・ペティット(Erin Pettit)はプレスリリースで述べている。「この熱と、塩分を含んだ水の凝固点が低いことにより、液体のまま流れ出ることが可能になる。テイラー氷河は、現在知られている持続的な水の流れのある氷河の中で、最も冷たい氷河だ」

2009年の研究では、この氷底湖には、光も酸素もない極限状態を生き抜くことができるユニークな微生物群が生息していることが判明した。光も酸素もない極限状態を生き抜くために、鉄と硫酸塩を利用しているのだ。


約200万年前に氷河の下に閉じ込められた湖は、微生物で満ちていたと研究者は考えている。

微生物学者で、2009年の研究の筆頭筆者であるジル・ミクッキ(Jill Mikucki)は、「ここでの大きな疑問は『氷河の下で生態系はどのように機能しているのか』『いかにして数百メートルもの厚さの氷の下の、常に冷たく暗い環境で、長年にわたって(血の滝の場合は200万年以上)生きていけるのだろうか?』ということだ」とプレスリリースで述べている。

科学者たちは、これらの微生物の研究が宇宙生物学も発展させると考えている。同じような凍った水のある別の世界、例えば地球の隣人ともいえる火星などで、生命がどのように生存できるかということに光を当てることができるだろう。

■微生物たちのサバイバルの跡

 南極大陸の氷河からほとばしる血のような色をした水の流れが、先史時代から氷の下に閉じ込められてきた微生物たちのサバイバルの跡であることがわかった。 南極にあるテイラー氷河からは“血の滝”と呼ばれる鉄さび色の水が流れ出しているが、最新の研究によると、この氷河が海に張り出していた150~400万年前に海水とともに閉じ込められた微生物たちが、生きるために数百万年にわたって鉄分を分解してきたという。“血の滝”のショッキングな色合いは、顕微鏡でしか見えないほど小さな微生物の活動の結果であることが明らかになった。

“血の滝”の存在は何十年も前から研究者らの興味を引き付けてきた。というのも、この水の流れはおかしなことに、南極で最も乾燥した「ドライバレー」という地域から流出しているからである。

「ドライバレーは褐色の大地が広がる場所で、白い氷原に青い空という地点もあるが、そこからは真っ赤な滝が流れ出しており、非常に興味深い土地だ」と、研究を率いたダートマス大学のジル・ミクキ氏は語る。

 テイラー氷河から流れ出す水は鉄分を多く含み、非常に塩辛いことから、海水が濃縮したものであると考えられている。研究チームが噴出したばかりの水を少量採取して分析すると、微生物のものと思われるタンパク質が含まれていることがわかった。

 微生物たちは太古の昔に氷の下に閉じ込められて以来、完全に孤立した状態にあったようだ。氷の下400メートルという環境では光合成に必要な太陽の光も届かず、周囲に食料源も存在しない。そのような状況で生き長らえた理由は、微生物に硫黄と鉄分の化学反応でエネルギーを得る能力があったからだと研究では指摘している。

 移動する氷河が鉄分を豊富に含む岩盤を徐々に削り取り、その鉄分を水中の微生物がさらに分解して“血の滝”と呼ぶに相応しい色合いを与えていた。

 採取した水には、硫黄を多く含んだ硫酸塩化合物が混じっていることも明らかになった。これは、この水が海水の一部だったころから含有されていたものであると研究ではまとめられている。

「微生物が獲得したこのようなエネルギーの生成方法は、それ自体は珍しいことではないかもしれない。だが、太古の時代にあった全球凍結(スノーボールアース)という非常に厳しい氷河時代には、このような創造的な方法でエネルギーを得ることが、生存に役立っていたのかもしれない」と、同氏は話す。

 およそ7億年前に起こった全球凍結の時代には、地球全体が周期的に厚い氷の層に覆われ、海中には大量の鉄分が供給されたと推定されている。
2024.02.14 16:09 | 固定リンク | 化学

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